進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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48話 ベルトルト・フーバーの憂鬱

「フローラ!僕と…付き合ってくれないか?」

 

 

ベルトルトの一言で、あれだけ騒がしかった調査兵団の第一分隊の面々は黙り込んだ。

 

 

「ぶふっぅうううう!!」

 

 

発言の意味を理解したゲルガーは、思わずフローラの顔に向けて酒を噴き出してしまった!

彼の唾液を含んだアルコールが彼女の顔と上着の兵服を濡らした。

 

 

「冷たっ!?!!」

「ぶはっ!?」

 

 

ゲルガーの横では、リーネが喉にドーナツが引っ掛かり、咽ていた。

ヘニングは、聞かなかった事にして黙々と激辛のソテーを口にしていく!

ナナバは、ちゃっかりフローラを盾にしてアルコール攻撃から身を護ってみせた!

 

 

「ゲルガーさん!ちょっと酷過ぎませんか!!」

「だってよぉ!大胆な告白をされてたら誰だって驚くだろう!?」

「せめて地面に噴き出してくださいませんか!?」

 

 

-----

 

 

第58回壁外調査に参加する第一分隊の精鋭4名とフローラは、露店で昼食を取っていた。

厳密に言うとゲルガー主導で、昼間から酒盛りパーティを開いて情報交換しつつ食事をしていた。

 

 

「なるほど、マレーネさんは調査兵団一の酒豪なんですね」

「女だからって油断するなよ…あいつは一樽のアルコールを飲めるような奴だ」

「ゲルガーさんは、飲みくらべされたのですか?」

「そうだ、そしてあいつに完敗した」

 

 

フローラは第一分隊の面々を奢りながら、接点の無い第三分隊の話を聴いていた。

彼らとの接点は、壁外調査で旧市街地で共闘したくらいのものであった。

巨大樹の森に侵入してリヴァイ班を追いかけて来た【女型の巨人】を追撃した部隊でもある。

彼女は、奢る約束を果たすついでに情報収集を勤しんでいた。

 

 

「おい、誰か見てるぞ?」

「ああ、わたくしの同期ですわね…ベルトルト!何か用なの?」

 

 

そこにひょっこり現れたベルトルトが、話しかけ辛そうに無言で彼らを見ていた。

彼は意志が弱く、積極的に話しかけられないと自他が認めている。

兵士として自我が強くないこと自体は良い事だが、行き過ぎればそれも欠点だ。

そんな彼が自分に用があると思い、フローラは自発的に話しかけた!

その結果が、彼女がゲルガー先輩にアルコール塗れにされる惨状を引き起こした!

 

 

-----

 

 

「ち、違うんです!!」

「あー良いって良いって!そういう時期もあるだろう」

「違うんです!」

 

 

大胆な告白すら酒のつまみにしたナナバは、必死に否定するベルトルトをあしらった。

もちろん、誰もが言葉足らずでこうなったのは理解している。

 

 

「大胆な告白は若さの特権だもんねぇ!」

「こっち見んな!」

 

 

そして彼女は、青春から遠ざかって浮いた話が一切無いヘニングを見つめて笑った。

見つめられた彼は、まだ自分が若いと証明しようとしたが…何も思いつかなかった。

 

 

「で?ベルトルト、何か用?」

「発声練習を頑張ってきたんだけど確認して欲しいんだ」

「さっきのを聴く限り、ばっちりだと思うけどね」

 

 

ベルトルトは、自分に自信を持てず、訓練兵時代からフローラに相談していた。

自分の意志をはっきり持っていて、我が道に向かって進撃していく彼女。

それは、昔から同期に振り回されてきた彼にとっては尊敬する存在である。

もっとも、好意を抱いているアニと仲が良いので、アドバイスをもらうつもりでもあったが。

 

 

「ん?滑舌が悪いのか?」

「いえ、彼は自発的に行動するのが苦手で、それを克服する為に努力をしています」

「なるほど、告白は自発的に行動するのにぴったりだね!」

「ナナバ、おちょくるのも、それまでにしておきなさいよ…」

 

 

あまりにもベルトルトを弄り過ぎているナナバにリーネが牽制した。

乙女の勘が、これ以上弄るのは危険だと警告していたからだ。

 

 

「でも…僕は…」

「分かったわよ!訓練を手伝うわ!!」

「そこは、『わたしも付き合う』で良いんじゃない?」

「ナナバさん…」

「あーゴメンゴメン悪かったって…!だから睨むのは止めて!!」

 

 

あまりにもしつこい先輩を牽制する為にフローラは睨めつけた!

さすがに巨人の討伐数が三桁の女を怒らせたくないナナバは、これ以上弄るのは止めた。

 

 

「それではお会計しますがよろしいですか?」

「まだ食べたいんだがな…」

「じゃあヘニングが払ってやれよ」

 

 

そう言って、リーネは会計伝票をヘニングに手渡した。

彼の注文した激辛料理が料金の半分以上を占めており、途方もない値段になっていた。

下手すれば肉よりも香辛料は貴重であり、このような値段になった。

これを見たヘニングは更なる注文を諦めた。

 

 

「しかし、後輩に奢ってもらうのは違和感があるな…ここは先輩として奮発し…」

「会計伝票を受け取れ」

「オイオイ、こんなもん払ったら死ぬわ俺」

「払うんじゃないのか?」

「リーネが俺を養ってくれるなら…」

「嫌だよ…アルコール臭いヒモ男を乙女の部屋に入れるなんて…」

 

 

ゲルガーは、ヘニングから渡された伝票を見ると、自身の年収の10倍以上の値段であった。

フローラは、ヘニングの要請で激辛料理店を探した所、この高級料理店しか取り扱ってなかった。

思い切ってここにした結果、とんでもない額になった。

 

 

「って事は、ゲルガーが禁酒すれば、リーネの部屋でヒモ生活して良いって事だよね?」

「…ナナバ、そんなに頭と上半身を分けて欲しいなら、させてあげてもいいよ?」

「もういいでしょ!ベルトルトが待ってるのでお会計してきます!」

 

 

無駄話をする先輩たちから会計伝票を受け取り、露店の店主に渡した。

 

 

「すみません!お会計お願いします!」

「…ホントに払えるのか?こんなに鋼貨を持っている様に見えないが…」

「もちろん、小切手でお願いします!」

 

 

店主は半信半疑で女兵士から受け取った小切手を小道具で確認して本物だと分かった。

そして付属された書類の支払いの履歴からお人好しなのか、無駄に金払いが良いのが分かる。

 

 

「…次回のご予約はいつ頃になされます?」

「第58回壁外調査から生還したら検討させて頂きます」

「最後になるかもしれないじゃないですか?もう一回味わってみてはいかがでしょう?」

「不謹慎な事を本音で述べないでくださらない?友人を待たしてるので会計をお願いします」

 

 

フローラは、しつこい店主を牽制して会計を済ませた。

 

 

「毎度あり!次回のご予約は…」

「壁外調査が終わってから予約させて頂きますわ」

「それと…お騒がせしたお詫びに…置いておきますわ」

「またお越しください!なんなら今からでも…」

「お邪魔しました!!」

 

 

あまりにもしつこいので、さきほどの騒動の迷惑料を兼ねた鋼貨を支払ってフローラは逃走した。

領収書と一緒にクーポン券まで渡してくる執念深さに二度とここに来ないと誓うのであった。

 

 

「ベルトルト!お待たせ!」

「うん、なんかゴメン…君に迷惑かけちゃって…」

「そう?ベルトルトのおかげでお会計が早くできて助かったわ」

 

 

香辛料をふんだんに使用された料理が予想以上に高額で小切手で払えきれるか心配だった彼女。

食事中に第三分隊の話題を振ったのは、食事から会話に夢中にさせて食欲を誤魔化し…。

これ以上、注文されない様にする為でもあった。

 

 

「しかし、あいつら人生をエンジョイしてるな…」

「まあ、いつ死んでもおかしくないんだから愉しんだもん勝ちだろう」

 

 

ヘニングとゲルガーは仲が良い2人を見て素直に関心していた。

 

 

「それで?あの2人の関係はどんな感じに見える?」

「残念ながら恋人の関係じゃなさそうだね」

 

 

異性どころか同性とも恋愛経験があるナナバは、新兵達のやりとりを見てそう思った。

初々しいカップルというより、我が道を行く彼女に彼が必死についていっている感じ。

おちょくったのは、更に恋愛を意識させる作戦であったが残念ながら成功しなかった。

もし、成功すれば恋愛のアドバイスをする気満々であったが…。

それでもベストカップルの様に見えて名残惜しいように彼らの姿を見送るしかできなかった。

 

 

-----

 

 

「ねえフローラ?」

「どうしたの?」

「臭いよ」

「せめてアルコール臭いって言って欲しいわね…」

「ゴメン…」

 

 

ベルトルトが自発的に呼びかけて来たのに感心していたが、すぐに撤回したフローラ。

空気は読めるが、どこか抜けており、共感を得たいアニとの相性が悪いのも頷ける。

 

 

「やっぱり僕は、このまま他人に流されるまま終わるのかな…」

「でもさっきから積極的に発言できるようになったし、だいぶ成長したんじゃない?」

「そうだね…君と居ると何か言葉が浮かんでくるんだ…」

 

 

言葉足らずであったり、どこか配慮がない彼ではあるが以前と比べると成長していた。

今まではライナーの腰巾着野郎と皆から揶揄される事すら忘れられるほどの存在感。

そんなベルトルトであるが、フローラは異性の中で一番仲が良い。

自身の悩みを打ち明けることがあっても、それを克服する為に相談したのは彼女だけだった。

 

 

「君みたいに意志の強い人を見習っていけば、もっと自信が持てるかもしれない」

「じゃあ、練習しましょう!」

「何の練習?」

「相手の顔を見て発言する…それだけよ」

 

 

ベルトルト・フーバーは、主体性に欠けており周りに振り回されて損をする性格である。

逆に言えば、任務に私情を挟まずに冷静に行動できるという利点があったが…。

彼はそのままではいけないと思っている。

 

 

「それだけ?」

「結構、難しいのよ?人の瞳とか見ながら発言するのって…」

「やってみるか」

「その意気よ!」

 

 

こうして、ベルトルトはフローラの顔を見ながら何かを発言する事にした。

…が、何を発言すれば良いか全く分からなくて声に出せなかった。

 

 

「どうしたの?」

「何を話せばいいのか分からない…」

「そんなの…ベルトルトが思ってる事をそのまま口にすればいいじゃない!」

 

 

彼は、自分を覗き込むように笑って見せたフローラを見た。

そのままの意味で発言すればいい。

では何を発言するべきか。

10秒ほど迷った彼が導き出した答え…それは!

 

 

「フローラ!アルコール臭いから顔を洗いに行った方が良いんじゃない?」

「はいはい、ありがとうベルトルト!相当臭いみたいね!」

「怒ってる?」

「本来ならね!ようやく自分の意見を言えた人を罵倒するほど器が小さい女じゃないわ!」

「そうだね…どの男よりも男らしい意志を持った人だと思うよ!」

「…せめて乙女心に気を遣って欲しいわ」

 

 

ミーナから女子力がないと言われたフローラ・エリクシア。

一応、寝起きには10分ほど梳かした髪を結んで三つ編みのおさげにする努力ならしている。

体臭も気にして、香水を服用し足が蒸れるブーツに対策したりしていた。

逆に言えば、それくらいしか乙女らしい事をしてないので同期からは…。

性別フローラとか、頭エレン娘とか、頭のやべぇ奴とかいろんな異名をつけられた。

特に酷かったのは、【医務室で誕生してすぐに還る女】くらいか。

 

 

「やっぱり迷惑をかけちゃった?」

「アニに向かって発言していたら、蹴りで股間を潰されたくらいに酷いと思うわよ」

「こういう時ってどうすればいい?」

「ただひたすら、自分の非を詫びて納得してもらうまで謝るしかないわ」

 

 

ベルトルトがフローラに自分が積極的に行動できるように訓練してもらっている理由。

それは、昔から好意を抱いているアニと仲良くなりたいからだ。

自分から絡んでも、何も伝えることができずに気持ちが空振りになっていた。

そこで、アニと仲が良いフローラに相談に乗ってもらってから1年以上経つ。

 

 

「えーっとごめんなさい」

「えーっと…が付くだけで好感度がただ下がりになるから止めた方が良いわよ」

「どうすればいいかな…?」

「『アニ、ゴメン!ハンカチを渡そうと考えたら頭に横切った事が口に出ちゃった…』」

「『今すぐ兵舎に戻って、風呂を沸かしてくるから待ってて』…くらい言えば良いんじゃない?」

 

 

優秀な彼は、すぐに伝えるべき答えを見つけ出すことはできる。

ただ、それを口に出せず黙ったまま他者がきっかけを作るまで発言できないのだ。

悪く言えば、指示待ち人間でありそれを自嘲してしまうほど自覚しているものだった。

 

 

「難しいな…」

「でも気持ちを伝えるのって大事よ?察して欲しいなんてやってたらすぐに見限られちゃうもの」

「確かにアニは僕の意見を肯定してくれた時がほとんどなかった」

「あくまで他人事だと思っているのよ…貴方は努力すればできる男なんだから頑張らなきゃ!」

 

 

ベルトルトは、アニに「好きだ」と伝えたくて必死に努力している。

自分たちがするべき仕事を彼女1人に押し付けて、訓練兵時代を送っていた。

だからこそ、別の事で彼女の力になりたかったのだが、全て断られた。

今思えば、相当苛つかせていたな…と自嘲してしまうほどにしつこかっただろう。

思わず過去の出来事を振り返ってしまうほどに…。

 

 

-----

 

 

「何か手伝おうか?」

「別に困ってない」

 

 

疲れているアニに何かを手伝うか聴いても淡泊な人の反応しかしなかった。

 

 

「一緒に居て良い?」

「お願いだから1人にしてくれない?」

 

 

ある時は、寂しそうにしていた彼女に寄り添おうとしたら断られた。

 

 

「一緒に訓練して良い?」

「もう邪魔!あっち行って!ライナーと仲良くやってろ!」

 

 

ついには一緒に訓練する事すらアニは嫌がるようになった。

嫌われているとは分かっていたが、どんどん悪化している関係にお手上げ状態だった。

そこで、なんか同期と仲良くやっているフローラに相談した。

アニとの仲を改善するにはどうすればいいのかと。

 

 

「アニの中ではベルトルトという存在すら認識したくないみたいね」

「ど、どぉ、どうしよう!?どうすればいいんだ!?」

「まず兵舎の掃除を自発的に取り組む…それだけをやっていれば良いんじゃない?」

「でもアニは…」

「彼女からの印象を変えたいなら、自分から変わらないと!ほら実践あるのみよ!」

 

 

こうしてベルトルトは、フローラの提言を受けて自発的に兵舎を掃除した。

最初は、ジャンやコニーが馬鹿にしてきて、ライナーが呆れていたが我慢した。

そして3週間以上続けていると、自然とみんなから評価され始めた。

 

 

「お前…変わったな!」

「ありがとうライナー!」

「教官の中で、お前で話題になってるぞ!なんか変わったって!」

 

 

最初はライナーと教官達から評価された。

 

 

「ベルトルト!私も掃除を手伝っていい?」

 

 

次はクリスタが掃除を手伝い始めた。

彼女は、黙々と掃除して評価を上げている彼の話を聴いてその手があったか!

と言わんばかりに健気な女神っぷりで男共の心を捉えた。

そして彼女が目立ってしまい、再びベルトルトの存在感が薄れた。

 

 

「クリスタが掃除するなら私も手伝う…良いよな?」

「別に構わないよ!ただみんなが使う所を綺麗にしたいだけだから」

 

 

クリスタが居る所にユミルの姿ありという冗談が作られるほど仲が良い2人。

そのユミルが、彼の返答に違和感を覚えた。

明らかに彼が短時間で返答できる台詞ではなかったからだ。

 

 

「ベルトルさんよ…誰の入れ知恵だ?」

「…フローラだよ…返答する台詞も考えてくれた」

「だと思ったよ…」

 

 

呆れたユミルもクリスタと一緒に居る為に掃除を手伝い始めた。

 

 

「ベルトルト…あんた、頭を強打してたりしない?」

「酷いよアニ…」

「あんたがここまで清掃活動を頑張る男だと思わなかったよ」

「みんなと…一緒にやってるおかげでなんとか続いてるんだ」

「…どうやら、私はあんたの事を過小評価してたみたいだ」

 

 

フローラに唆されて、始めた兵舎掃除は104期生の習慣となり、教官たちも感心していた頃。

ベルトルトは、ウォール・ローゼに避難した頃くらいのアニとの関係を取り戻した。

アニからすれば、当初は「何やってるんだこの馬鹿」と思っていた。

 

 

「すごい…新聞紙で、窓の汚れを簡単に落とせるなんて…」

「この裏技、サンドラから聞いたんだけどね…」

「サンドラから新聞をもらってこようかな…」

「アニなら喜んで譲ってくれると思う」

 

 

ところが、様々な清掃をしている内に、誰よりも清掃に詳しくなっていた。

汚れを見て、的確な行動ができるようになったベルトルトは皆から頼られるようになった。

これには、アニも素直に感心するしかできなかった。

フローラの指示で動いてるのは察したが、知恵や技量は彼が必死になった覚えたものである。

掃除に関しては、彼に相談しにいくほどアニの信頼を取り戻しつつあった。

 

 

「フローラ!アニと話せた!アニが自発的に話しかけてきたよ!」

「よかったじゃない!イライラする男から清掃人にランクアップしたわね」

 

 

ベルトルトは、久しぶりにアニと会話できて嬉しかった!

そこから好意を伝える為にフローラに相談して自分磨きをしてきた。

何故か、クリスタが自分の真似をして目立ってしまったが特に気にしなかった。

 

 

-----

 

 

こうして、ここまで来た。

我が道を行くエレンと、過保護のミカサの論争も仲介して騒ぎを収めるほど成長した彼。

本来の目的であるアニに自分の好意を伝えるという目標自体は先送りになってしまった。

憲兵になったアニは、ストヘス区に配備されてしまい、行く機会が無かったせいである。

 

 

「努力してもアニに逢いに行けないよ…」

「第58回壁外調査が終わるまで正式な通行許可は難しそうね」

「どうすればいい?」

「だからこそ今のうちに伝える練習をするのよ」

 

 

できるだけフローラの顔や首元に視線を移して発言している。

それでも、アニと面を向かい合った時に話せるのか。

そもそもここ最近、彼女の精神状態が良くないみたいで、ベルトルトは心配になってきた。

 

 

「ねえフローラ!ストヘス区に書簡を届けに行ったよね?」

「そこで偶然、アニに逢ったわよ」

「どんな感じだった!?なんか僕やライナーの事を言ってた?」

「体調はあまり優れない感じだったわね…2人の事は何も言ってなかったわ」

 

 

フローラからすれば急に大声をあげたベルトルトに驚いたが、アニの心配をしてるのだろう。

とりあえず、明るい話題を出して落ち着いてもらう事にした。

 

 

「そうか…」

「でもね!アニの好物が分かったの!」

「え?」

「甘い物が大好きみたいでね!ドーナツを見て目を輝かせていたのよ」

 

 

無愛想なアニのイメージしかないベルトルトからすれば衝撃的な情報だった!

アニは甘党!

たったそれだけであるが、ウォール・ローゼに来る前からずっと一緒だったのに気付けなかった。

改めて自分の不甲斐なさに悲観的になると共に希望が湧いてきた!

 

 

「ドーナツか…今度、逢いに行くとき、買いに行こうかな…」

「良いわね!お詫びの品を持参するのもいいかもしれないわ」

 

 

フローラやキース教官、ライナー、同期達に自分はやればできる男と評されている。

特に相談役になってくれて後押しをしてくれる彼女には、感謝してもしきれない。

頭がおかしくなったライナーの介護と監視、同期達を偽り続けた自分。

自分まで頭が可笑しくなりそうな環境で、彼女と一緒に特訓してもらうのは良い気分転換になる。

 

 

「ところで、アニは、精神を分裂した糞野郎を恨んでいるみたいよ」

「そ、そうなの!?」

「直接は言ってないけど、自分だけ責務を押し付けて逃げた奴に殺意すら抱いていたわ」

 

 

ベルトルトは、一瞬でその人物を特定した。

というか、それのせいで、いつ爆発しても可笑しくない時限爆弾に悩まされている。

ストレスでどんどん寝相が悪くなり、第57回壁外調査の晩は、3階の窓から転落した。

 

 

「おいおい…ベルトルト!お前、自殺でもしたいのか?夢の中ですら巨人に追われてるのか?」

 

 

夢遊病が悪化してしまい、元凶であるライナーから心配される始末…。

 

 

「確かにトロスト区の悲劇とかあったから…精神が壊れてもしょうがないよ」

「そういえば、渡した寝具は使ってる?」

「もちろん使ってるよ!あれのおかげで久しぶりにベッドから動かなかったし…ね」

 

 

ストヘス区から戻て来たフローラがお土産を親しい人たちに渡していた。

アルミンはチェスセットで喜んでいたし、ジャンはオムライスを美味しそうに食べて見せた。

サシャに至っては、霜降り肉を見て号泣し、生で食べようとしたくらいである。

そして、ベルトルトがもらったのは、職人が作った高級寝具。

その寝具は、寝る為ではなく身体をリラックスさせるものだと価値観を変えるほどであった。

そして翌日、目が覚めた時に布団に居たのは、感動したくらいだった。

 

 

「ベルトルトは、過度のストレスで寝相が悪くなってると思うの」

「多分、アニと同じ理由だと思う」

 

 

ベルトルトもアニも悩ましている精神分裂した兵士こと、ライナー・ブラウン。

発言が、兵士なのか戦士なのか一目じゃ分からない上に切り替えのタイミングが掴めない。

そのせいで、彼が発言する度にフォロー入れるなどしないと全てが破綻するくらいだった。

 

 

「ねえフローラ、多重人格をもった人を治療するには、どうすればいい?」

「どうしようもないわ!」

「そうか…」

「ただ、元の人格を繋いでいるワードをしっかりと伝えてあげればいいじゃない?」

「例えば、どんな感じにすればいいかな…?」

 

 

相棒として仲間として戦士として、共に認め合ったライナー。

マルセルのような兄貴分になろうとして、良く分からない人格を作り出してしまった。

自然に切り替わるせいで、兵士なのか戦士の人格なのか全然分からなかった。

アニが未だに恨んでいる以上、ライナーはどうしようもない

 

 

「ベルトルトで例えるなら『故郷に帰還する』って感じはどう?」

「故郷か…まだ帰れないけどいつか帰りたいな…」

「とにかく、元の人格が強く認識している単語を何度も告げれば良いんじゃない?」

「そうだね…これから故郷を念を押していくよ」

 

 

故郷、それはウォール・マリアの南東に位置する山奥の村。

そこが自分たちの故郷とされている場所だ!

正確な場所は混乱のせいで確認できていないが、きっとそこにあるはずである。

おそらくそこを伝えれば、【兵士のライナー】として活動するだろう。

 

 

 

「はぁ…難しそうだけどね…」

「じゃあ、誰かに手伝ってもらえば良いんじゃない」

「手伝うって…君が!?」

「もちろんよ!」

 

 

何故か手伝う気が満々のフローラ!

確かに手伝ってもらえれば元通りになりそうだけど、色々と危険過ぎる!

そう思っていたベルトルトであるが、彼女の目から離せられなかった。

ここで特訓の成果が活かされていると分かり、驚愕すると同時に色々諦めた。

 

 

「ベルトルトは優秀だけど、1人じゃ何もできない時があるわ!」

「無理やり部隊長にさせられたりとか、巨人に掴まれて喰われそうになった時とか…」

「前者はともかく、後者は絶対に無いと思うけど…なんか嫌だね」

 

 

大袈裟に両手を動かしているフローラを見て思わずベルトルトは吹き出してしまった。

それを見て、彼女は顔をしかめっ面にして冗談ではないと抗議していた

 

 

「結果は誰にも分からないわ!でも…もし、ベルトルトが巨人に喰われそうになったら…」

「わたくしの名を呼んで!その場に居たら絶対にベルトルトを助けるから!」

「本当に?」

「えぇ!約束するわ!絶対に貴方を巨人に喰わせたりしないわ!!」

 

 

何故そこまで言い切れるか疑問に思うほど、自信満々で約束してくれた。

もっともベルトルトには、そうならない自信があったもののあまりの堂々たるその姿に。

 

 

「じゃあ、お願いしても良いかな?」

「もちろん!」

 

 

フローラに約束してもらった。

だからといって何かが変わる事ではない。

胸を張って力強く頷いた彼女の姿を見届けて、この経験がアニに生かせるかどうか考えていた。

特に、この約束自体は大して気にしてなかった。

 

後にベルトルトが巨人に喰われそうになるまでは…。

 

 

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