進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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50話 第58回壁外調査 開幕

「ハァハァ…!ついに来ちゃった…私の最後が…」

 

 

ストヘス区支部に所属している104期憲兵のヒッチ・ドリスは、手綱を持つ手が震えていた。

彼女だけではない。

同期のマルロ・フロイデンベルクとボリス・フォイルナーも真っ青である。

いくら立体機動が旨くて上位10位内に入れても、巨人と交戦できるかというとそんなことは無い。

ベテランの調査兵ですら油断すれば3m級の巨人に殺されるほど、人類は弱い。

ましてや、鞍上から立体機動に移る訓練すらしていない素人集団。

28名の憲兵と王都の憲兵7名は、調査兵団の精鋭に自分の心臓を託すしかないのだ。

 

 

「おい!お前ら、カラネス区の憲兵だろう!?」

「お前らのせいで!俺達が駆り出されたんぞ!!」

「そうだそうだ!お前らが敵前逃亡しなければ、こうならなかったんだ!!」

 

 

今回、憲兵団が巨人討伐に駆り出された原因。

カラネス区に巨人が侵入してきた時に敵前逃亡した現地の憲兵のせいである。

王政は、失墜した憲兵団の名誉挽回の為に巨人掃討作戦に憲兵を派兵した。

憲兵には、各城壁都市ごとに色分けした腕章を付けるのを義務付けられている。

そのせいで、カラネス区の憲兵3名は申し訳なさそうに必死に頭を下げていた。

 

 

「憲兵が何名生き延びるか賭けをしないか?」

「私は13名に30枚の金貨を賭けよう」

「ならば、18名に40枚の金貨を賭けようじゃないか」

「どうせ全滅するだろう?全滅に5枚の金貨を賭けよう」

 

 

壁上に居る貴族たちは、憲兵団の兵士が何名生き残るか賭けをしていた。

彼らからすれば、憲兵など勝手に生えてくる消耗品としか思っていない。

当事者はたまったものではないが、文面に置き換えれば彼らも納得するだろう。

例えば、第55回壁外調査における調査兵団の死者21名、負傷者5名

などと文面で示されても、『それだけ死んだのか』としか思わない。

様々なドラマがあった当事者の兵士とは違って、民間人も貴族も他人事だった。

ただ分かるのは、調査兵団が無能のせいで、税金と人命をドブに捨てたという事実だけだ。

 

 

「死にたくない…死にたくない」

 

 

ヒッチもその1人だった。

実際に壁外調査に行く事となって初めて調査兵団の勇敢さが理解できた。

50mの壁上で、大総統や内務大臣を筆頭に、記者や地元の有力者が傍観している。

決して逃げることはできない。

巨人を前にして敵前逃亡した憲兵の名誉挽回の作戦である以上!

再び敵前逃亡したら死罪なのは嫌でも分かってしまった。

 

 

「大丈夫だヒッチ!俺達が居るぞ!」

 

 

そんなヒッチを勇気づける為にマルロが声をかけた!

ボリスも頷いているが、2人とも顔は青ざめており、頼りなかった。

 

 

「ハァ…」

 

 

憂鬱な彼女は、香水の入った筒の蓋を開けて香りを堪能した。

アニの友人のフローラからもらった香水で気を紛らわせてるのは何度目か。

覚えていないが、パニック状態にならないのはこれのおかげである。

 

 

「いいか!これから壁外に出る!調査兵の指示に従って行動せよ!!」

「生き残りたかったら!最後まで足掻け!戦え!これは掃討作戦である!!」

「巨人を殲滅しない限り、壁内に帰還できないと思え!!」

 

 

調査兵団の第一分隊長のミケ・ザカリアスが鼓舞させる為に大声で叫んだ!

顔を強張らせていた憲兵たちが必死に彼の言葉を聴いていた。

全員がただ生き残るだけを考えている!

 

 

「…合図が出たな」

 

 

正門の壁上に居る調査兵4名が旗を振り出した!

出撃許可が出た合図である!

腹を括ったミケ分隊長は、それを確認して深呼吸した!

 

 

「只今より第58回壁外調査を開始する!!覚悟は良いか!?」

「「「「はい!」」」」

「声が小さい!!大声で復唱しろ!!」

「「「「はい!!!」」」」

「進めーっ!!」

 

 

号令と共に先陣をきるミケ分隊長!

参戦兵力の兵士は分隊長の後を続いて壁外に出る門へと進撃していく!

 

 

-----

 

 

「行くわよライリー!!」

 

 

汗血馬に跨ったフローラ・エリクシアは、すぐにミケ分隊長を抜いて交戦準備に入った!

すぐに左から11m級、その背後に6m級の巨人を発見した!

どんな時でもやる事は変わらない。

彼女は、舌鼓を2回打ってから愛馬のライリーの首の左側を軽く3回叩いた。

これは、【左に居る複数の巨人を殲滅する】という意味である!

主人の意志を感じたライリーは、巨人に向かって進撃した!!

 

 

「死になさい」

 

 

鞍上から飛び出したフローラは、6m級の首にアンカーを撃ち込んでワイヤーを巻き取った!

彼女が装備しているブリッツハーケンⅡは、通常装備の2倍速度でワイヤーを巻き取れる。

凄まじい加速力によりグレイアウトするのを必死に耐えて、アンカーを外した。

勢いのまま回転斬りでうなじを削いで、そのまま巨体から飛び出していく!

 

 

「そこ!!」

 

 

フローラは後転し、両膝が視界の真ん中に映った瞬間、両脚を左手前に倒した!

さっきまで背後に居た11m級の巨人の姿を視界に捉えた時、即座に右アンカーを撃ち込んだ!

ワイヤーを巻き取りながら左のガスを一瞬だけ噴出した勢いで11m級のうなじを首ごと両断した!

更に討伐した巨人の後頭部にあった毛髪を掴む為にアンカーを撃ち込んだ!

うなじを斬られ力尽き全身を黒く染めながら倒れ込む巨人。

 

 

「わたくしの敵ではなくてよ!とぅ!」

 

 

巨体が地面に激突する場所を見つけて、フローラは毛髪から飛び出した!

そして両足で着地してドヤァ顔をした!

馬のライリーは、さっさと乗れと言わんばかりに彼女に向かって突っ込んできた!

 

 

「待って!ちょ、っと!!」

 

 

手綱と鞍を掴んでもなお、放り出されそうになる勢いを堪えてなんとか乗馬できた。

ブリッツメッサーⅡの刃が誤って、相棒を斬りそうになって冷や汗を搔いた彼女。

更なる訓練が必要だと思った。

 

 

「なにあれ…」

 

 

ヒッチ・ドリスは、調査兵が瞬く間に巨人2体討伐したのを見て今までの常識が崩れ去った。

だって、調査兵団は壁外に出て無駄に損害を出す無能集団だと思っていたからだ。

こんなに強いなら何故、巨人を全滅させずに壊滅してくるのか、全く分からなかった。

 

 

「あっ!ヒッチ!!」

「ええっ!?」

 

 

さきほどの調査兵が憲兵の集団に合流した時、ようやくフローラだと判明して彼女は驚いた!

仲良く4人で買い物したり雑談していた女が、巨人を殲滅と豪語していたのが事実だと発覚した。

フローラからすれば、ヒッチの声がしたので近づいただけで大した意味は無い。

だが、ヒッチからすれば地獄から生還するできるアリアドネの糸にしか見えなかった。

 

 

「あんた、私の傍に居て!ああいう巨人から私を護ってよ!」

「別に良いですけど、巨人を殲滅したらお別れですわね」

「どういう事?」

「巨人掃討後、そのまま北東の森に向かって薬草を採集する予定ですわ!」

「えぇ…」

 

 

憲兵どころか調査兵ですら巨人に殺されないように動くのが精一杯である。

そんな中、巨人を掃討した以降の事を考えている女。

価値感どころか人間であることすら疑わしい。

エレンと同じ【頭進撃】だからという裏事情などヒッチに分かるわけなかったが!

 

 

「ヒッチ!!逃げろおおおお!!」

「えっ?」

 

 

ヒッチはマルロの大声がした方を見た。

そこには、四足歩行に追いかけられているマルロとボリスがこっちに向かって逃げてきていた!!

 

 

「この馬鹿ッ面!!こっちに来ないでよ!!」

「戦わないんですの?」

「巨人と戦う為に憲兵になったわけじゃないんですけど…!」

「そうでしたわね…行くわよライリー!!」

 

 

フローラは四足歩行で向かって来る巨人の真正面に向かって突撃していった!

 

 

「ダメだ!追い付かれる!!」

「正面から味方が来る!ボリスもっと頑張れ!!」

 

 

必死に逃げるマルロとボリス!

何故か憲兵団の兵士が騎乗しているのは、民間でも使われている馬であった。

よって、巨人の移動速度に完敗している上に、巨人を恐れて錯乱して本領を発揮できていない。

特にボリスの馬が顕著であったが、マルロは必死に励ましながら逃げていた!

いくら立体機動がうまい彼らでも、平原で立体機動などできるわけがなく他に手がなかった。

 

 

「うおっ!?」

「ひいいいい!」

 

 

調査兵団の女兵士は、わざわざ正面衝突しそうなほどギリギリで自分達とすれ違った!!

激突するかと思った2人は一瞬、目を閉じてしまったくらいだった!

そして10秒も満たないに内に大きな衝撃がして、馬が混乱し走行を止めてしまった!!

 

 

「おい嘘だろう!?動いてくれ!!」

「だから嫌だったのにいいいいい!!」

 

 

彼らは必死に馬を宥めようと叫ぶなり叩くなりして復帰できるように奮闘していた。

 

 

「なーにやってんの」

「ヒッチ!何で逃げないんだ!!」

「だって、もう討伐されちゃったし…」

「「ええっ!?」」

 

 

呑気に話しかけてきたヒッチを彼らは叱責したが、衝撃的な発言を受けて振り返った。

さきほど追いかけてきた巨人は黒ずんで蒸気を出して消滅しつつあった。

 

 

「何が起こった!?」

「だから!うなじを削がれて巨人は死んだんだって」

「あの一瞬でか?」

「その反応は正しいし、私だって理解しきれないってば!」

 

 

全員、驚くしかなかった。

障害物がなければ立体機動に移る事はできない。

ここは平原でアンカーを撃ち込める障害物などない。

なのに立体機動で巨人を討伐したという事実は、彼らを混乱させるのに充分だった!

 

 

「…良く見れば調査兵の連中、巨人にアンカーを撃ち込んで立体機動に移っていやがる」

「ボリス…俺達が学んだ事ってなんだったんだろう」

「そりゃあ、立体機動を頑張れば、憲兵になれる手段って事じゃないのか?」

「だよな…」

 

 

見渡せば、ミケ分隊長や第一分隊の精鋭はコンビネーションで巨人を討伐している。

巨人にアンカーを撃ち込んで立体機動に移る姿は、まさに人外である。

試験では、動かない障害物や壁を利用してどれだけ正確に立体機動に移れるかという物である。

巨人討伐も動かない模型であり、実戦では役に立たない立体機動術しか教えられてなかった。

 

 

「ヒッチ!いつまでお友達と雑談しているの?」

「ああ、ちょうど良かった!あんた、こいつらも守ってくれない?」

「わたくしは巨人を掃討する係なので、守るどころか危険ですけどね…!」

 

 

マルロとボリスは、さきほどの女兵士とヒッチが仲良く会話していて驚いた。

ヒッチの性格上、調査兵と関わる事などないと思っていたからだ。

 

 

「おいヒッチ!知り合いなのか!?」

「アニの友達のフローラですって!あいつ、良い友達をもってて嫉妬するわ」

「アニに…友達がいたのか…」

 

 

ウォール・マリア陥落で、ウォール・ローゼに4つの訓練兵団が存在する。

アニの出身は、文字通り人類の最前線であるトロスト区付近に存在する【南方訓練兵団】。

 

そこは、巨人の恐怖を味わった唯一の訓練兵団である。

卒業生218名のうち、トロスト区防衛戦で100人以上戦死したほどの過酷な環境であった。

更に防衛戦どころか、奪還作戦にも投入されたせいで生き残ったのは、強者だけしかいなかった。

決断力が無い臆病者ほど真っ先に死に、生き残れたのは本当の強者だけなのだろう。

3人は、とりあえず納得するしかなかった。

 

 

-----

 

 

ストヘス区にあるベルク新聞社の記者、ロイとピュレは目の前の出来事が信じられなかった。

 

 

「本当に信じられませんよ」

「だろうな、私だってこんな作戦が成功するとは思わなかったぞ」

 

 

第58回壁外調査が巨人掃討作戦だと聴いた時、耳を疑ったものだ。

4年前のウォール・マリア奪還作戦で1割の人類を失った。

それを1個小隊にも満たない兵力で壁付近に居る巨人を殲滅するというのだ。

 

 

「さあ、新聞屋さん方!号外だよ!憲兵団と合同作戦が成功してるぞぉ!!」

 

 

調査兵団の第四分隊長ハンジ・ゾエは、半ば奇声すら思える声で発言していた。

巨人の恐怖を打ち消すには、それ以上の物をぶつけるしかない。

リヴァイ兵士長から【人類の奇行種】と称されるハンジにはぴったりだった。

 

 

「あの…分隊長さん…憲兵団の兵士が活躍しているように見えないですが…」

「何を言っているんだい!討伐補佐も立派な活躍だよ!彼らの雄姿を文面で表現してくれ!」

「おっ!ほらぁ!あの赤色の煙がある場所を見てごらん!!巨人の首の皮が飛んだでしょ!?」

「うなじを斬ってないから討伐できなかったと思うでしょ!?」

「違うんだなぁ!!実は巨人の…」

 

 

50mの壁上で飛び跳ねて奇声を上げてバク転しながら記者たちに状況を説明していくハンジ。

記者たちはその姿に圧倒されながらも、情報を元に兵士の活躍をメモしていく。

いや、調査兵団の兵士の活躍を憲兵の物にする為に必死に頭脳を働かせていた。

 

 

「おい…誰かあいつを止めろ」

「兵長…無理です」

「モブリット、お前が止めなきゃ誰が止められるんだ」

 

 

リヴァイ兵士長は、【人類最強】としてこの場に居た。

もし、再び変異種が壁上を乗り越えようとした場合の対応をする為だ。

…が、壁上で曲芸師のような事をやっている糞ゴーグルに腹が立ってきた!

ハンジなりに考えているのは理解しているが、同僚の邪魔をしているのは明白だった。

 

 

「兵長!巨人の討伐は順調に進んでおります!」

「残りは?」

「18体であります!」

 

 

彼は観測手の話を聴き、ハンジとかいう奇行種から巨人に目を向けた。

 

 

「…オイ!フローラが憲兵を率いてるじゃねぇか!」

「何故かよく分かりませんがストヘス区の憲兵を率いてますね」

「それは第三分隊の連中の仕事だろうが!早く止めさせろ!!」

「無理です!あそこまで遠いと…」

「クソ!」

 

 

リヴァイ兵士長は、フローラの実力を良く知っていた。

だからこそ、ほぼ戦力にならない憲兵を率いるのは、彼女の強みを殺していた。

憲兵は壁外に必須な基礎訓練を修了してないどころか、馬すらまともじゃなかった。

既に憲兵が5名戦死しており、このまま憲兵を戦わせれば更に死者が増加する。

だからこそ、フローラに殲滅してもらいたかったが、頭進撃はそんな事まで気にしてなかった。

 

 

「また憲兵が死んだか」

「そんなもんだろう」

 

 

アウリール大臣とゲラルド大総統は、高みの見物をしており惨状を見て嗤っていた。

憲兵が死ぬほど、憲兵団の名誉挽回できると同時に調査兵団に責任を問う事ができる。

そもそも調査兵団の参戦兵力が少ないのは、彼らが妨害したからである。

とはいえ、全滅されても壁内人類を絶望させてしまい内乱を引き起こす可能性があった。

だからこそ、最低限の兵力は壁上に確保したし、作戦自体は成功すると踏んでいる。

 

 

「しかし、あそこの部隊は強いな」

「巨人討伐8体か、多分あいつだな」

「なるほど、あれがフローラか」

「そうだ、奴は強い。だからこそ脅威なのだ」

 

 

ゲラルド大総統は、フローラの実力をその目で確認した。

もはや調査兵団どころか、王政でも問題児だと認識されていた。

ただし結果は出しているし、調査すればするほど伝説が発掘されるので…。

 

 

「貴様、ふざけてるのか?」

「い、いえ報告書の記述は全て正しいです…」

 

 

調査した部下から提出された報告書があまりにも現実離れしているせいで…。

大総統は報告した部下20名を処罰したくらいだった。

 

 

「まーた、同じ情報だ…何やってんだこいつ…」

 

 

訓練兵時代に106回も医務室送りにされた

憲兵団、駐屯兵団、調査兵団のトップと親交がある

ザックレー総統と芸術について語り合う友人関係である

見物人や同僚から報告された彼女の巨人討伐数は150体以上

壁外で固定ベルト破断、立体機動装置の破損からの生還

アウリール大臣と文通している

フリッツ王を殴ったことがある

 

 

特に最後は、信じられず本人と侍女に確認を取った所、事実だと発覚した。

当の本人どころか侍女ですら笑い話にしており、本気で困惑した。

実際、ここで見下ろすと全て事実なんだろうな…と思うほどだ。

 

 

「どうだ?民衆にあいつの存在を隠し通すのは不可能に近いだろう?」

「むしろ、今までどうやって隠し通してきたんだ…」

「当の本人が積極的に公言しないからな…おかげで知る人ぞ知る断片的な情報になっている」

 

 

他人事のように肩を竦めて発言するアウリール卿に腹が立ったゲラルド。

お前が無能のせいでこうなっただろうと告げたかったが我慢した。

既に手を打っている以上、ここで自分達ができるのは、事実を確認するくらいである。

 

 

-----

 

 

「クリスタ!大丈夫か!?」

「大丈夫!戦えるよ!!」

「いや、荷馬車の御者が交戦しちゃ駄目だろう!?」

 

 

クリスタは、補給物資を載せた荷馬車の御者担当に配属された。

ユミルは荷台に乗って兵士に物資を譲渡、後方の見張りを担当していた。

この場に参戦している調査兵は精鋭でも指折りの兵士達である。

自分たちは、戦えないからこそサポートを頑張るつもりだった。

 

 

 

「でも…この戦いは前哨戦なの!約束を絶対に…」

「クリスタ!巨人だ!!荷馬車から見て右方向からこっちに来る!!」

 

 

友人の警告を受けてクリスタは馬を走らせた!

ユミルは上空に向かって赤色の信煙弾を撃ちあげたが、すぐに援軍が来るかは分からない。

 

 

「やっぱ、平原で戦う事自体が間違ってるな!」

「どうしよう!振り切れないよ!!」

「仕方ねぇ…最後の手段だ!」

 

 

ユミルは、荷台から飛び出して向かって来る巨人と対峙した。

 

 

「待って…ユミル!!だめぇえええええ!!」

 

 

クリスタの悲鳴を聴いて心地良い気分になったが彼女はそのまま巨人が来るのを待った。

9m級の巨人は、目の前に居る人間を見つけてすかさず飛び込んできた!

 

 

「やれやれ、誰かの為に犠牲になるなんて前世で充分なのにな…っと!」

 

 

ユミルは、落ち着いて巨人の動きを見極めて攻撃を回避した。

助走をつけて飛び込んできたので方向転換ができなかったおかげで助かった。

顔面を地面に激突して動きが鈍くなった巨人。

 

 

「くたばれ!!」

 

 

巨人のうなじにアンカーを突き刺してワイヤーを巻き取ってガスをありったけ噴出させた!

その勢いでうなじを削いでアンカーを外し倒れる巨人に巻き添えにならないように着地した。

 

 

「はっ、こんなもんか」

 

 

初めて巨人を討伐したユミルであったが浮かぬ顔であった。

何故なら自分が同じ立場になっていたと自覚しているからだ。

悪夢を見て彷徨う彼ら、自分だけが悪夢から覚めて来世で暮らしている後ろめたさ。

 

 

「巨人のおやつになるわけにはいかないだろう…クリスタを放置して死ねない…!」

「ユミルぅううううううう!」

「この馬鹿!なんで戻ってきた!?」

 

 

何故か踵を返してこちらに戻ってきたクリスタを見て呆れた。

それと同時に嬉しかった。

ようやく自分をお嫁さんとして受け入れてくれた…わけじゃないが心配してくれたことに。

 

 

「早く荷台に乗って!」

「ああ、私の為に戻って来てくれたのか」

「当然でしょ!!」

「さすが私のお嫁さん、愛してるぜ」

「早くして!」

 

 

ユミルが荷台に乗ろうとした時、新手の巨人を発見した!

 

 

「よし乗ったぞ!早く出発させてくれ!!」

「ユミル…」

「おい…どうしたんだ!?」

「手綱が切れちゃった…」

「ああん!?」

 

 

クリスタは手綱を握り締めた時、違和感を覚えた。

そして確認していたら手綱が切れている事に気付いた。

  

 

「早く結べよおおおお!!」

「分かってるけど中々結べないの!!」

「貸してくれ!私が結ぶ!!」

 

 

クリスタが結ぶのに手古摺っているのを見たユミルは急いで手綱を結んだ。

しかし、その間に巨人の魔の手が2人に迫った!

 

 

「おりゃあああああ!!」

 

 

聴き慣れた叫び声と共に巨人のうなじは削がれ、その巨体は活動を停止させて転倒した。

何事かと彼女達が振り返ると、巨体の死骸の上に頼もしい兵士が居た。

 

 

「「フローラ!!」」

「なんで貴女達が前線に出てきてるのよ!護衛はどうしたの!?」

「憲兵の護衛なんて役に立つわけないだろう!!」

「それもそうね」

 

 

平原での戦闘は、調査兵団の兵士ですらできる者は一握りしかいない。

平原で戦えないのは無能ではなく、そもそも戦うべきではないのだ。

 

 

「や…やっと追いついた…」

「ぜぇぜぇ…きつい…」

 

 

ヒッチとドリスもフローラとクリスタの荷馬車に合流した。

巨人と交戦できない以上、交戦できる兵士の傍に居る方が安全だと思ったからだ。

その結果、自由気ままな進撃娘に振り回されていた。

 

 

「ボリスは…死んだか?」

「あそこに追いかけられているのがボリスじゃないの?」

 

 

クリスタとユミルが無傷で安心したフローラは冷静に巨人に追われている彼を指差した。

 

 

「分かってるなら助けてくれよ!」

「こっちが優先だったのよ!行くわよライリー!」

 

 

繁盛している料理店で、てんてこ舞いのウェイターのように駆り出されるフローラ。

勝利の余韻を味わう暇もなくブリッツメッサーⅡを構えて突撃していった!

 

 

「私たちはどうするの?」

「とりあえず、この荷馬車を護衛するんだ」

「意外ね!巨人を討伐すれば昇進に近づくって言うと思ったのに?」

「俺らは、巨人戦闘の初心者だぞ?プロに任せておいて俺達はできる仕事だけやる」

 

 

マルロもヒッチも平原で巨人と交戦できない以上、どうしようもなかった。

とはいえ、そのまま逃げまわっていれば評価に響く。

ただ危機的状況を利用すれば、出世は間違いなし、なにより実績ができる。

 

 

「私、ヒッチ!こいつはマルロ!今から貴女たちの護衛をしたいけど良いよね~?」

「戦力は1人でも欲しいからな…護衛してくれるならありがたい」

 

 

ヒッチの提案にユミルは受け入れた。

さすがに1人ではクリスタを守り切れないと分かっているからだ。

憲兵団の兵士であるが新兵なので、まだ腐敗していない分、囮には役に立つという算段もある。

 

 

「おっ、もう終わったみたいだな」

 

 

フローラが巨人を討伐して、憲兵を1名救ったのをユミルは確認した。

これであらかた巨人を片付けたと思い、安心して手綱の切れ端を確認してみた。

そして彼女は凍り付いた。

 

 

「これは…」

「どうしたのユミル?」

「いや何でもない…」

 

 

手綱の切れ端は、途中まで綺麗に切断されていた。

つまり、誰かが意図的に切り口を作って任務中に切断できるようにしていた。

自分たちは急遽参戦する事となった為、手綱を切れる連中など限られた。

調査兵団の兵士がそんな事をするわけないのでやったとすれば…。

 

 

「チッ!厄介だな」

 

 

よく分からないが、クリスタを亡き者にしたい勢力が居る。

それだけでユミルは死ねなくなった。

拝まれた女神様が転落人生を味わうのは自分だけで充分だ!

絶対にクリスタを護って見せると改めてユミルは心の中で誓うのであった。

 

 

「なんとか生き残れそうで良かった…死ぬ時を考えると震えちまうな」

「そうね、今まで培った物が役に立たないって分かると気が楽になるなー」

「俺は小賢しい男だ…どうやったら生き残れるか、さっきからずっと考えてる」

 

 

マルロは悩んでいた。

腐敗した憲兵団を変える為に憲兵になった。

だが、こうやって巨人の脅威を目の当たりにして、大した問題ではない感じがした。

自分のアイデンティティが現実に否定されて目標を見失いかけていた。

所詮、個人では何も変えるどころか、死んでも王政も憲兵団も機能していくと分かってしまった。

では、自分の価値は何なのか…いくら思考を巡らせても答えは出なかった。

 

 

「ヒッチ…俺が死んだら憲兵団はどうなると思う?」

「何も変わんないわね!少なくともここに居る憲兵が全滅しても機能すると思うよ」

「そうか…」

「ただ、あんたみたいな見てて面白い馬鹿が死んだら…あたしの兵団生活つまんなくなるね」

 

 

ヒッチの一言でマルロは彼女を見た。

いつもとは違い真剣な眼差しで自分を見ていて驚いた。

 

 

「だから生き残りましょう?何かを変えたいならまず生還しなきゃ駄目じゃん?」

「もちろんだとも…!」

 

 

マルロは、両手を握りしめて絶対に生き残って見せると決意した!

もはや、巨人を見て逃げ惑う兵士ではなくなった。

フローラに率いられた涙目のボリス・フォイルナーが合流し、更にその想いは強くなった。

 

 

「あら?マルロさん!さきほどと違って覚悟を決めた表情ですわね」

「ああ、俺はもう迷わん!」

「そうですか…では、背後から迫ってくる巨人を討伐してみませんか?」

 

 

フローラの一言で全員が後方を見た。

第一分隊が取り残してしまった巨人がこっちに向かって来るのが良く見えた。

 

 

「もちろんだ!俺は憲兵団を変える男だ!経験を積み組織を知り!できる範囲から変えていく!」

 

 

マルロは、新型装備であるシュツルムメッサーを構えた!

それを見たフローラは、かつての装備品は量産品になったと実感し微笑んだ。

新型装備が新兵でも役に立つか知りたい彼女は見届けるつもりだ!

 

 

「えっマジで?馬鹿って言っても死に急ぎ野郎ほどじゃないと思ってたのに!」

 

 

ヒッチは口では否定していたが男らしくなったマルロに喜んでいた。

いつか、自分を護れるほどの男に成長して欲しい反面、危険な事はしないで欲しい気持ちがある。

それでも、馬鹿だった奴が男らしい馬鹿になって乙女心をくすぐるものがあった。

 

 

「フローラ!援護してくれ!」

「もちろんですわ!」

 

 

マルロは自分から巨人に向かって馬を走らせた!

必死に頑張って鍛え上げた立体機動術で巨人を討伐する為に!

フローラは、勇敢になった兵士を見て絶対に死なせないと誓うのであった!

 

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