進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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51話 王政の地雷原でタップダンスした女の末路

「マルロ!止めをお願い!」

「おう!」

「やっちゃえマルロ!」

 

 

フローラの掛け声で、マルロはシュツルムメッサーを両手で構えて突撃した!

高速でワイヤーが巻き取れ、刃を構えてうなじへと向かっていく!

事前にフローラが鎖骨付近の首元を斬っているおかげで巨人は振り返る事はできない。

ヒッチの応援が彼に力を貸した!

 

 

「ふんぅうう!!!」

 

 

鼓舞された彼の振りかぶった双剣が綺麗にうなじを削ぎ巨人は活動停止、死んだのだ。

 

 

「マジ?信じられない!私たち、本当に巨人を討伐したのねぇ!」

「なんとか仕留めたぞ!訓練を真面目にやってきたおかげだな」

「…いや、みんなのおかげか、ありがとう」

 

 

マルロは、初めて巨人を討伐して実績を得て昇進に近づくとは思わなかった。

まずは、自分を指導してくれた教官、そして両足の踵を削いだ2名の同僚。

そしてアニの友人である精鋭の調査兵に感謝した。

 

 

「これで全員、巨人を討伐しましたわね」

「あー最悪だったよ!巨人の血ってホント、高熱なんだね…髪を痛めてなければいいけど…」

「フローラさんを見る限り、髪を痛めている感じはしないから大丈夫じゃないかな」

「ボリス、私の髪は繊細なんだよ!どれだけ手入れをしてると思ってんの!!」

 

 

ヒッチはボリスの気遣いに感謝しつつ素直になれずに反抗した。

これがいわゆる、ツンデレという奴なのかフローラは思った。

ツンデレといえば、ユミルであるが彼女はどちらかというとわざと嫌われるようにしている。

 

 

「俺たち3人、それぞれ巨人討伐1体、巨人討伐補佐4体か!ストヘス区に帰ったら皆が驚くな」

「大丈夫か?信用されなくて虚報をしたと思われないか?」

「証人は、壁上に居る!だから堂々と言えば良いんだよボリス」

「…たく、すっかり英雄だなマルロ!」

 

 

3人は巨人を討伐して自信を持てたようだ。

これなら、もう1体巨人が来ても武器を捨てて逃げ出すことは無いだろう。

僅かな期間で成長した彼らを見てフローラは羨ましく感じた。

トロスト区で戦死した同期たちも、こうやって成長させたかった想いがあったからだ。

 

 

「黄色の信煙弾が上がったぞ!?」

「どうやら第58回壁外調査は、これで終わったみたいね!お疲れ様!」

 

 

フローラは辺りの“声”を聴くと、負の感情しか聞こえなかった。

巨人であるならば、呻き声が聞こえるので付近の巨人は掃討できたといえる。

もっとも、フローラやクリスタはここからが本番であるのだが…。

 

 

-----

 

 

調査兵団の第一分隊長、ミケ・ザカリアスは嗅覚に秀でている。

それは、巨人の匂いを感知して居場所すら把握できるほどであった。

 

 

「スンスン、これで最後か…」

「ミケさん!巨人はまだ居ますか?」

「カラネス区壁外付近の巨人は全て掃討したようだ」

「では、黄色の信煙弾を撃ち上げても…」

「ナナバ、やってくれ」

「了解!」

 

 

ナナバは、上官のミケ分隊長の許可を得て黄色の信煙弾を撃ち上げた!

それを見た第三分隊の面々も黄色の信煙弾を次々と撃ち上げていく!

 

 

「作戦終了!帰投するぞ!!」

「「「ハッ!」」」

 

 

調査兵団の第三分隊所属のディルクの一言により、引率されていた憲兵たちの顔色が戻った。

誰もがこんな地獄に二度と来るかといわんばかりに正門に向かって馬を走らせた。

 

 

第三分隊の3名は、細心の注意をしていたがそれでも死者が出た。

馬の鞍上から立体機動に移れないどころか、そもそも馬が壁外調査用ではなかったせいだ。

調査兵団が利用する馬は高額だがその分、移動速度が速く、なにより命令に順応である。

巨人を見て逃亡したり移動が困難になる馬を与えた王政を恨むほどだ。

 

 

「やっと帰れる…」

「怖かった…」

「憲兵なのに…」

「生きてる…生きてるよな?俺、生きてるよな?」

 

 

何故か壁外で必須な訓練をせず投入された憲兵たち。

落馬した兵士から巨人に喰われていた。

死ねば死ぬほど調査兵団の名声が地に落ちていく一方で憲兵団の名声が上がる。

これが王政の仕組んだ策略なのだろう。

第三分隊の面々は、ただ自分の無力さを噛み締めるしかなかった。

 

 

「ミケさん!大半の兵士が壁内に帰還しました!」

「リーネ!憲兵の死傷者は?」

「現時点で死者7名、軽傷者6名!あとはフローラの所の3名の憲兵を収容すれば作戦終了です!」

「まだだ、我々には追加任務があったはずだ!」

「いえ、それが…我々第一分隊は壁内に待機しろとの命令です…」

 

 

部下のリーネの報告を聴いてミケは眉をひそめた。

第三分隊3名と104期調査兵2名、フローラの合計6名のみで北東の森にある薬草を採集する。

明らかに戦力が少なすぎる上にそもそも新兵が2人も追加されているのは気に食わなかった。

 

 

「その命令はエルヴィンの指示か?」

「いえ、ザックレー総統閣下より上の勅令です…」

「チッ、嫌がらせか!!」

 

 

安全な内地でぬくぬくとぬるま湯に浸かっている高官に卓上で駒を動かされる感覚。

兵士である以上、命令は絶対であるが、それでも納得できないものがあった。

 

 

「すみませんね!うちの親分は調査兵を嫌っているもんで…」

「あんたは…?」

「見りゃ分かるだろう?憲兵様だよ!」

 

 

鋭い目つきだけで、彼が歴戦の猛者と見抜いたミケ。

それどころか、何か危険な匂いがして距離を取りたいくらいだった。

この感じは、やんちゃな頃のリヴァイ兵士長と同じ感覚である。

この憲兵は肌に染みつくほど血生臭いので更に危険かもしれない。

 

 

「大総統様は、どうも調査兵を信用しきれてなくてね…我々が代わりに参加するってわけだ」

「長年、壁外で活動している調査兵団を信じられないと?」

「だからこそよ!壁外で何やってんのか調べるのが我々の仕事さ」

 

 

リーダー格の憲兵は、短剣を指で回して遊びながら発言していた。

ただし、一見すると遊んでいるようでいつでも斬り掛かれるようにしている感じすらある。

さきほど参加していた憲兵の大半が新兵であった。

腐敗している憲兵団は、新兵に仕事を押し付けてきていた。

ただ、彼を筆頭とする7名は、ベテラン兵のようで風格を感じられる。

 

 

「了解した…ただし、何かあったら信煙弾を撃ち上げてくれ」

「分かってるって!優秀な俺達に任せておきなさいって!」

 

 

ミケの肩を叩いて再び壁外に向かっていく異様な雰囲気を漂わせるベテランの憲兵。

彼らを見た第一分隊の兵士達に警戒感を出させるには充分であった。

 

 

-----

 

 

「俺も薬草を採集しに行く!!」

「はぁ!?何言ってんの!?」

 

 

マルロは、薬草を採集する任務があると知って参加を志願した。

ボリスもヒッチも寝耳に水であり、同僚が狂ってしまったかと思ってしまった。

 

 

「その薬草を集めれば、大勢の命が救えるのだろう?」

「えぇ、10個の感染症に特効薬としての効果があるけど…」

「だから行くんだ…今回も負傷した奴らが居るしな」

 

 

フローラですら困惑させるほどマルロは真面目だった。

憲兵団が腐敗していると知って彼は、それを正す為に必死に訓練し入団した!

ところが憲兵団で生活している内に正すのは【人】ではなく【仕組み】だと感じ始めた。

巨人戦で役に立つ【立体機動】が旨いほど、内地に行って巨人と遭遇しない矛盾。

今回は例外的に巨人と交戦したが、よく考えれば可笑しなことだと気付いた!

 

 

「クラースさん、どうしますか?」

「次の作戦の責任者はお前だろう?【人類最強の女】、フローラ・エリクシア?」

「クラークさんまで頭オルオさんになってしまったのね…」

「おい、どういう意味だ…」

 

 

第三分隊出身のオルオは、よくクラークと口論する仲である。

性格は合わない2人だが、何かと接点があり暇さえあれば雑談するほど仲が良い。

退院して間もないオルオがクラーク先輩に異名を伝えたのは間違いないだろう。

どんどん乙女らしくなくなる異名にフローラは頭を悩ましていた。

 

 

「で?どうするんだい?」

「どうせ、王都から来た憲兵御一行様がご参加されますし、彼の遺志を尊重しますわ」

「じょ、冗談でしょ!?マルロ、正気なの!?」

「ヒッチ、俺は決めたんだ!何かを変えるなら自分から変えないといけないってな…!」

 

 

ヒッチは、マルロの決心した顔を見て溜息をついた。

馬鹿だと思っていたがここまで馬鹿だとは思わなかった。

だからこそ、放置したくないのであった。

 

 

「じゃあ、私も行くわ」

「お前こそ正気か?」

「どっかの誰かさんが調査兵団に感化して死なない様にお目付け役は必要でしょ…」

 

 

本当は行きたくは無かったが、ここで見送ればマルロが死ぬ感じがしたのだ。

何故かは分からない。

調査兵に志願したマルロを、ヒッチは必死に宥めようとして失敗し、見送るのが精一杯。

そして案の定、戦死して「最後は後悔して死んだだろう」と調査兵に告げられる悪夢。

デジャブなのか、並行世界の記憶なのか、未来の出来事かは分からない。

 

 

「なによりさ!私の見えない所で死んで欲しくないのよ」

「じゃあ、お前の前で死ねってか?」

「はぁーホント、乙女心を理解できない奴ね」

「…意味が分からん」

 

 

愛を向けられる当事者以外の全員がヒッチがマルロを気にしていると察した。

なのに当の本人は、まったく気づかないどころか嫌われていると思っている。

このままでは、カップルが成立することは無く平行線を辿るだろう。

本人たちの問題であり、誰も介入する気はないがそれでも何かしたくなる関係である。

 

 

「俺は遠慮するぞ!また地獄に行くなんてまっぴらだ!」

「ボリスさん、貴方の意見が正しいですわ」

 

 

同じくストヘス区支部の憲兵であるボリス・フォイルナーは拒絶した!

それが正しい反応だと第三分隊の隊員達とヒッチは何度も頷く。

 

 

「そういうことで調査兵団の馬を手配しましょう」

「馬?馬なんて同じじゃないのか?」

「普通の馬だったら巨人に遭遇した時点で逃げ出しちゃうわ!」

「だから調査兵団の予備の馬を手配しますわ!」

 

 

意外にも専用馬を所有している調査兵団の兵士は少ない。

新兵に至っては、コロコロ馬が変わるほどである。

何故なら調査兵団の兵士は戦死する可能性が高い為、相棒になる前に終わってしまうからだ。

兵舎で唯一、私室が兵士に割り振られるほど兵力の消耗率が高い調査兵団。

だからこそ、基本的に人見知りをしない優秀な走りを見せる調査兵団の馬は高額なのである。

 

 

「でも良いのか?作戦と違った行動をするなんて…」

「マレーネさん!先に破ってきたのは王政側ですわ!」

「それもそうね」

 

 

一度壁内に帰還したフローラたちは作戦の変更を書類で知らされた。

調査兵団の第一師団5名は壁内に待機。

代わりに王都から来た7名の兵士が派兵されるという事だった。

さすがに新兵ではなかったが、フローラを含む調査兵は良い顔をするわけなかった。

ベテラン兵とミケの嗅覚レーダーが使えない以上、巨人戦で圧倒的に不利になるからだ。

王政の命令なので、やむを得ず従うが彼らは不信感を募らせている。

 

 

「よぉ!フローラ・エリクシアだな?」

「はい、そうです!」

「短い間だがお世話になるぜ」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 

フローラは中々のナイスガイの憲兵と握手をしようと左手を差し伸べた。

 

 

「済まん…握手をする文化は苦手でね」

「そうですか…」

 

 

王都から来た憲兵の誰もが握手をせず、何か違和感が覚えた。

リーダー格の彼ですら消極的な関係で、作戦に従事する感じだ。

そして、憲兵たちも荷馬車を連れてきており何やら補給物資を積んでいる様である。

 

 

「こいつも壁外に同行しても良いよな?」

「問題ありませんが…壁外調査専用の馬でしょうか?」

「もちろんだとも!さっきも投入したが使うことは無かったがな!」

「備えあれば患いなしとも言いますし、良いですね!」

 

 

何を積んでいるのかは、リストを見せてくれたので確認したが特に問題はなさそうだった。

ただ、荷台は布製のテントのような物に覆われており、中身を拝見する事はできなかった。

悪路で物資が荷台から飛び出すことがあるとはいえ、やりすぎではないか。

巨人が襲撃してきた時、荷台の中から状況を確認する事ができない。

そう思ったが、そもそも壁外に出撃する機会が無いので仕方ないだろう。

フローラは指摘する事はせず憲兵の要請に従うしかなかった。

 

 

「出撃しますわ!」

 

 

第58回壁外調査は終了し、今度は薬草収集の任務が開始された。

場所は、カラネス区から北東にある巨大樹の森。

第57回壁外調査で利用した巨大樹の森より小規模で、以前から手入れがされていない場所である。

そんな場所なので人の手が入っていない分、更に暗くて視界が悪いのが想定された。

 

 

「絶対に薬草を持ち帰ってみせるんだから!」

 

 

手綱を新品に交換した荷馬車でクリスタは馬を走らせ、森へと向かっていく。

時刻による太陽の位置、地図による建物や山の位置。

それだけを頼りに進んで行く。

 

 

調査兵団の兵士は6名。

カラネス区の憲兵は2名。

王政の命令で王都から来た7名の憲兵達が巨大樹の森と向かっていった。

 

 

「巨人だ!!」

「この距離なら追い付けないだろう!無視だ!」

 

 

小規模な長距離索敵陣形を展開して、巨人を無視して行く『薬草収集部隊』。

兵士の間隔が狭く、信煙弾では回避が間に合わないので【閃光弾】を常備している。

閃光弾は、音響弾や信煙弾を装填する専用の銃で撃ち込む代物である。

調査兵団が所有している半数を持ち込むほど、巨人と交戦する気は無かった。

 

 

「おいクリスタ、こっちであってるのか?」

「問題ない…と思う」

「貸してみろ!断言してくれないとこっちまで心配になる!」

 

 

行き先が心配になったユミルは、クリスタから地図を受け取って辺りの風景と交互に確認した。

右翼側には、3つの風車が連なっており地図に記載された通りである。

 

 

「よし、問題はないな」

「前方で閃光弾が…」

「遠回りで行くか!」

 

ユミルの指示で「うん」と頷いたクリスタは馬に進路変更をした。

前回の壁外調査と同じように、なるべく巨人を避けて進軍した。

 

 

「マレーネ!大丈夫か?」

「巨人のアキレス腱を斬ってきた所だ!問題ない!」

「いや、俺はお前の心配をしていたんだが?」

「同情や心配をするなら酒を奢ってくれれば良いよ?」

「破産させるなら団長にしてくれ…」

 

 

合計、4体の巨人と遭遇したが討伐する事もなく何とか逃げ切る事が出来た。

先ほどとは違い、巨人の掃討作戦でない以上、交戦を避けるのが賢明だった。

一見すると、巨人を放置する事で包囲される可能性があったが…。

 

 

「ここで損害を出すわけにはいかないわ」

 

 

調査兵団の歴史は、巨人に挑んで屍を積み重ねていくだけのものであった。

ようやくエルヴィン団長の時代で見直されたほど、惨敗の歴史である。

ディータ・ネス班長が教鞭を取っている時、そんな話を散々にされた。

フローラは良く居眠りしていて時間外に補習講義を何度も受けていたので覚えている。

 

 

「はい終わり!」

 

 

部隊が遭遇した巨人とは別で、進路に居て邪魔だった10m級と15mの巨人を討伐したフローラ。

巨人と遭遇する機会が一番多いから調査兵団に所属している女にそんな事は通用しなかった。

先代の調査兵団の団長も同じように目の前に出現した巨人を討伐してきた。

…が先代の団長とフローラには決定的な差があった。

 

 

「クリスタ!ユミル!巨人の脅威は去ったわよ!」

「だってよ?」

「うん、すぐに行く!」

「ついでにガスの補充をするわ!」

 

 

フローラは退き際が良く最悪の事態になるのを回避できる事である。

努力すればいつかは報われると信じている歴代の調査兵団の団長。

努力しても報われないなら、すぐに打ち切って他を目指す彼女。

死地から何度も生還した経験と、大勢の知り合いから得た情報を活用できるのが強みだった。

 

 

-----

 

 

あれから特に問題が発生する事もなく、一行は目標である巨大樹の森に着いた。

女型の巨人を誘い込んだ森とは違うので、以前取り残された調査兵は存在しない。

もしかしたらと思い、フローラは“声”を聴いてみたが無反応で静かであった。

残念ではあるが、巨人は森の奥におり、短時間であれば交戦しないだろう。

 

 

「クリスタ!どれが目的の薬草か分かる?」

「うん、葉は扇形で根元が赤色だよ!」

 

 

巨大樹の森に目的の薬草は存在する。

巨大樹の原始林である以上、日光が当たりにくく背丈が小さい植物は生えにくい。

逆に言えば、そこを克服すれば植物界の生存競争に打ち勝つことができる。

日光が少なくとも繁殖できるように進化した植物であったが故にそれらは、叢生(そうせい)していた。

 

 

「なんかあっさり目的地に辿り着いたな…」

「ディルクさんよぉ!そんなにスリリングな経験がしたいならソロで帰れよ」

「クラース、もしかして俺の事が嫌いなのか?」

「嫌いだったらこんな事を言わねぇよ!」

「だよなー」

 

 

ディルク班長は、最悪の事態を想定したが、あっさり目的地に辿り着いて肩透かしを食らった。

ミケ分隊長の【嗅覚】で巨人を事前に把握できないほど怖いものはなかった。

巨大樹の影から、いつ巨人が飛び出してきても可笑しくはない。

クラースの辛辣の言葉がありがたく感じるほど気を抜いてしまいそうな感覚である。

 

 

「クラース先輩とディルク先輩は、引き続き退路の警戒をお願いします」

「おいおいフローラ、入団して二か月もしない内に偉くなったものだな」

「では、新兵に相応しくない索敵任務を変わって頂けませんか?」

「「死にたくないから嫌だ!」」

 

 

フローラをおちょくったら痛恨の一撃を喰らった2人は、即座に提案を拒絶した。

ミケ分隊長からフローラは、自分と同格の巨人察知能力があると告げられていた。

進軍ルートで巨人とほとんど遭遇しなかったのは彼女のおかげだと理解している。

だからこそ巨大樹の森で索敵なんてしたくなかった。

 

 

「ところでどれだけ薬草を摘むつもりだ?」

「少なくとも持ち込んだ荷台に載せられるだけ積む予定です」

「この辺りの薬草を絶滅させる気か?」

「人類が全滅するよりマシでしょ?」

 

 

ガスを補充したフローラは上機嫌だった。

前から開発されてきた専用の小型ボンベがついに補給物資になって荷台にあった。

シュツルムシリーズやブリッツシリーズの装備は、通常のガスボンベだと不便だった。

装置が小型というものあるが、立体起動中にボンベが地面や壁に衝突する可能性があったせいだ。

そういった事情もあり彼女は、いつもより返答にキレが出た。

 

 

「こっちは準備ができたぞ」

「はい、分かりました!すぐに行きます」

 

 

王都から来た憲兵の報告で、フローラは不機嫌になっていった。

ツーマンセルでお互いの班が見えるように薬草を捜索している。

フローラはマレーネ先輩と共に索敵、遊撃要員として活動する予定だった。

ところが憲兵たちが、索敵の手伝いをすると志願してきてしまった。

断り切れず自分と全く知らない憲兵7名が辺りを警戒することとなった。

 

 

「サネスさん、3名の姿が見えませんが…」

「奴らなら我々の反対方向に向かっていったぞ」

「そうですか、もう一度作戦を確認しておきたかったのですが…」

 

 

無表情な女とスキンヘッドのゴーグル男、そして経験が豊富そうなおじさん。

城塞都市から派遣された憲兵は新兵だけだったのに、今回は癖が強い人たち。

もっとも憲兵に参加してもらっている立場なので特に抗議をするつもりは無かった。

ただ、どこに行ったのかフローラは確認したかっただけである。

 

 

「皆さま、これから巨大樹の森の奥に行きますが、問題はありませんか?」

「「「「ない」」」」

 

 

ちなみに馬のライリーは荷台の近くにある巨大樹の幹に待機させている。

本人は、【壁外調査】というのが自由に外を駆け回れるイベントだと思っていた。

だからこそ、待機させられているのに憤っていたが野菜を食べたら特に気にしなくなった。

それはともかく、フローラは馬を連れて来る気はなかった。

 

 

「では、行きましょうか!」

 

 

フローラの指示に従って憲兵4名が追随し立体機動で巨大樹の森を駆けた!

 

 

-----

 

 

『薬草収集班』から離れて何分が経ったのだろうか。

少なくとも巨人が出現しても収集班に気付かれない距離であることは確かだ。

風で樹木は揺れて葉は音を立てて不思議な空間を醸し出ている。

ここが巨人と遭遇する壁外でなければ気分転換には良いかもしれない。

 

 

「やっぱり、なんかおかしいのよね…」

 

 

後方の憲兵に聞こえない程度で愚痴ったフローラ。

背後にはスナップブレードを構えた兵士2名。

マスケット銃を構えた兵士2名が続いていた。

一見すると()()()()()()()()()()()()()()話だが、それ以上に気になった点があった。

 

 

「だからみんなと引き離したんだけど」

 

 

振り返って特に変わった様子がない憲兵たちを見て彼女は気付かれない様に嗤った。

既に負の感情を“声”として聴ける彼女は、彼らの魂胆を見抜いていた。

だから、わざわざ自分一人だけで巨大樹の森の深部まで連れて来た。

そう、自分だけで戦えるように!

彼らと【戦闘】になってもいいように!

王都から来た【中央第一憲兵団】!

アルミンの両親を射殺した彼らなどフローラは最初から信じてはいなかった!

 

 

「久しぶりの感覚ね」

 

 

後方から4人の殺意!前方の右側から2名、そして左から強烈な殺意を感じ取ったフローラ!

地面に両方のアンカーを撃ち込んだと同時に!

前方にある巨大樹の幹から1人の大男が未知なる装備を身に付けて出現した。

彼女は慌ててワイヤーを巻き取った瞬間!

発砲音が2発、鳴り響いた!

 

 

「バン!バン!ってな!」

「くぅっ!!」

 

 

さきほどまでフローラが待機していた巨大樹の枝がボロボロになっていた。

1秒でも判断が遅ければ、ワイヤーを巻き取る速度が通常の立体機動装置の2倍でなければ!

彼女は、散弾で肉塊が辺りに飛び散り、ミンチ状態になっていた。

 

 

「これを躱せるとは、さすがだな嬢ちゃん!!」

「悪運だけは強いですので!」

「じゃあ、その悪運は今日で終わりだな!!」

 

 

中央第一憲兵団のジェル・サネスを含む正規兵4名!

中央第一憲兵団の対人立体機動部隊の隊長、ケニー・アッカーマンとその部下2名!

合計7名の憲兵が!

女調査兵を追撃する!

恒久的な文化の持続を揺るがす技術発展と、本気で巨人を掃討しようとする思考。

調査兵団、駐屯兵団、憲兵団のトップ、そしてザックレー総統との人脈と信頼。

そしてなにより、王政を本気にさせたフローラ・エリクシアを抹消する為に処刑を開始した!

 

 

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