進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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53話 茶番劇

ケニー・アッカーマンは困惑していた。

自分を暗殺する人間に共闘を持ちかけて、ましてや背後を見せるなんて。

そんな馬鹿などこの世には居ない。

 

 

「いや、居たな」

 

 

ケニーは、暴力が全てだと価値観を持っており、憲兵を100名以上殺害してきた。

そんな【切り裂きケニー】の人生を変えたのは、同じく暗殺しようとした男である。

ウーリ・レイス、奴は殺しに来た下賤の自分に頭を垂らして土下座までした。

奴には代々受け継がれてきた【力】があった。

その力は、自身の思考を歪めて、殺しに来た男まで友人になれるほどの洗脳がある。

 

 

「羨ましいな全く…!」

 

 

うなじを削がれた巨人は機能を停止させ巨大樹の幹に激突し、蒸気を噴き出し黒ずんで消滅する。

人間をいとも容易く握り潰せる圧倒的な巨人の力。

それでも死ぬときは死ぬし、殺されたらあっけなく死ぬ。

 

この世は弱肉強食だ。

弱い者は虐げられ、強者は強者でなければ逆に殺される世界。

強者はいずれ敗れ去り死んでいく過酷で残酷なこの世界。

だからこそ、暴力だけが全てだと思っていたケニーは、あの女にウーリの面影を重ねてしまった。

 

 

「アッカーマン隊長!」

 

 

トラウテ・カーウェンは、申し訳なさそうに上官に頭を下げた。

散弾を撃ち尽くした挙句、ガス切れで戦えなくなったからだ。

もちろん、暗殺術や体術で殺人はできるが、相手は巨人!

勝てるわけも無く必死に逃げるので精一杯だった。

スキンヘッドでゴーグルがチャームポイントのグランツも同じだった。

 

 

「情けねぇな…暗殺しようとした奴に助けられるなんて殺し屋廃業だぞ」

「「隊長…」」

「とりあえず生き残るのが先だ!お前らは貴重な戦力なんだからよぉ!」

 

 

またもう1体の巨人がうなじを削がれたようでケニーたちの近くに倒れ込んだ。

巨体が倒れ込んだ衝撃で、吹っ飛ばされそうになるのを足を踏ん張ってなんとか堪えた3人。

 

 

「予備の銃身を1本ずつ貸してやる!これで牽制くらいはできるはずだ」

「隊長…何をなされるつもりですか?」

「何って!巨人を討伐するんだよぉ!やられっぱなしは癪に障るし、巨人戦に慣れたいからよ!」

 

 

カーウェンの質問に簡潔に返答したケニー。

王政が次に出す目標は、巨人化能力者である。

ならば、ここで巨人を慣らしておくのが良いと判断した。

散弾2発が装填されている銃身を部下2名に渡した彼は、一目散に巨人に向かって駆け出した!

 

 

「なんだ、まだ嬢ちゃん死んでねぇのか」

「じゃあ死ぬので代わりに戦ってくれませんか?」

「オイオイ、こんな老いぼれたおっさんに全てを押し付けるなよ」

「リヴァイ兵士長並みの戦闘能力を有しているのに、よくそんな弱音を吐けますね」

 

 

暗殺対象者のフローラ・エリクシアから出た『リヴァイ』という名。

相変わらず元気にやってそうでケニーは思わず微笑んでしまった。

それを見て、リヴァイ兵士長と知り合いだとフローラは見抜くことができた。

 

 

「リヴァイか、懐かしい名だ。未だに元気でやっているって風の噂で聞くけどよぉ!」

「兵士長に見つからない様に活動していた所を見ると、何かあったようですわね?」

「無駄口を叩いている場合か?」

「ですよねー」

 

 

既に巨人を6体討伐したフローラであったが、巨人の増援が来てしまい不利になってしまった。

合計13体の巨人相手にガスの残量が半分なのは心許ない。

刃であるブリッツメッサーIIは2本消費しただけで、まだ8本あるのでそこは余裕があった。

 

 

「じゃあ、ちょっくら着替えてくるからそれまでの陽動を頼むぞ」

「それができると思いますか?」

「このクッソたれ!!こっちに来るんじゃねぇ!!」

 

 

巨人3体がケニーに向かって進撃してきた!

涎を垂らす巨人、女の子走りで来る巨人、目が異様に飛び出して馬面になっている4m級の巨人!

個性豊かな巨人に追いかけられているケニーは必死に逃げた!

人類最強の男に匹敵する身体能力とアッカーマン特有の戦闘能力を覚醒している彼であっても!

3体同時に巨人を相手にするのは無理であった。

 

 

「3体の巨人に勝てるわけねぇ!!」

「言い出しっぺの自分から陽動するとは物好きの殿方ですわね」

「共闘するって言うのは嘘なのかああああ?」

 

 

無視するわけにもいかず、樹の枝から飛び出して巨人のうなじにアンカーを突き刺したフローラ!

ワイヤーを高速で巻き取って、ガスを噴出させいっきに巨体のうなじを削いだ!

そのまま飛び出していって。別の巨人の首にアンカーを突き刺して同じようにうなじを削いだ!

瞬く間に2体の巨人を討伐した彼女は、最後の一体を討伐しようとした。

 

 

「やばっ!」

 

 

フローラは最後の一体になった巨人の討伐を諦めた。

別にその巨人自体は倒せるし、ガスの残量も大丈夫であった。

前方から、特定部位を損傷させないと、うなじを削げない【変異種】が強襲してきたからだ。

凄まじい勢いの変異種の頭突きが、通常種の巨人の頭を首の根元ごと吹っ飛ばした!

 

 

「なんだありゃ!?」

 

 

ケニーはその頭突きをしてきた巨人を見て驚いた!

その巨人は、異様に首が長く、最低でも首だけで6mはありそうな四足歩行の巨人であった。

禁じられた書物に描かれていた【ろくろ首】という人間の化け物にそっくりである。

首長の巨人が首を更に長くして鞭のようにケニーに居た場所に叩きつけた!

 

 

「巨人って人間のでかい版だけじゃねぇのかよお!?」

「褐色の肌の巨人は、通常の巨人より遥かに強力な個体で厄介な能力持ちです!」

「…なんでそんなに元気そうに言うんだ?」

「では、今度は悲観的に解説しましょうか?」

「勘弁してくれよぉ!!」

 

 

なんとか変異種の攻撃を回避したケニーは、巨大樹の幹に身を隠した!

それを見たフローラは彼の傍に寄って生き生きとして変異種の説明をした!

 

調査兵団の第四分隊隊長、ハンジ・ゾエは、【人類の奇行種】と揶揄させる事がある。

その上官に見出されて直属の部下になった女が変態じゃないわけがなかった。

 

 

「両肘にある白色の器官がありますよね?」

「ああ、あるな」

「あそこを潰さないと、うなじを攻撃しても変異種を討伐する事はできません」

「はぁ?」

「カラネス区の壁内に強襲してきた6m級の巨人と同格の化け物だと思ってください」

「チッ、年貢の納め時か…」

 

 

第57回壁外調査は、調査兵団が半壊して半日も経たずに終わった出来事である。

その日、6m級の巨人5体が50mの壁を乗り越えて強襲してきた。

 

()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が…。

駐屯兵団の死者は150名以上であり、更に100名以上が恐怖のあまり退役してしまった。

その恐怖の元凶と同格の存在が目の前に居るというのだ。

ケニーは笑うしかなかった。

 

 

「その散弾で巨人の両肘にある白色の器官を潰してきてください」

「それをする事で俺のメリットは何だ?」

「壁内に五体満足で部下達と共に生還できる以外何かありますか?」

「器官を潰したら?」

「わたくしが討伐します」

 

 

刻々とタイムリミットが迫っている。

部下が巨人に捕食されるまでの時間でもあるが、なにより薬草採集班に勘付かれる。

決心したケニーは、巨大樹の幹から飛び出した!

 

 

「なんだこの糞みてぇな状況は…」

 

 

飛び出した瞬間、4体の巨人とエンカウントしたケニー。

巨人の掴み攻撃をスライディングで回避し、右肩にアンカーを撃ち出してその勢いで飛び出した。

彼を喰い損なった巨人は追おうとして振り返った瞬間、フローラにうなじを削がれて倒れ込んだ!

14m級の巨体は、複数の巨人を巻き添えにして倒れ込んで一瞬だけ身動きを封じた。

 

 

「オラァ!憲兵様のお通りだぜ!!」

 

 

アンカーを外して落下したケニーは変異種の左肩に散弾を撃ち込んだ!

ガスを節約する為に身体を捻って、近くの巨大樹の幹にアンカーを突き刺した。

対人立体機動装置の仕様上、片手撃ちしかできないがそれでも左肘を粉砕した。

それでも痛覚が無い巨人を足止めする事はできない!

変異種は、ケニーを発見して伸縮可能な長い首で折り曲げて彼を捕食しようとした!

 

 

「俺様を喰うなんて100年早い!!」

 

 

馬鹿正直に近づいて来た綺麗な巨人の顔に散弾を撃ち込んだ!

巨人討伐には役に立たない代物だが、視界を潰して足止めをすることはできた。

 

 

「ぎゃはははは!綺麗な顔を吹っ飛ばしてやったぜぇ!!」

「そら!もういっちょ!!」

 

 

散弾を撃った衝撃の慣性力を利用して後ろに飛んでいく。

そして空中で空の薬莢を思いっきり勢いよく地面に投げ捨てた。

その音に反応して変異種は頭を叩きつけた。

しかし人間ではなく巨大樹の幹に頭を激突させ脳震盪が発生したのか動きが鈍くなった。

 

 

「後は頼むぜ!」

「おりゃあああ!!」

 

 

右肘を撃ち抜いたのを確認したフローラは変異種のうなじを削いで離脱した!

ケニーも彼女の後を追って駆け出していく。

 

 

「助かったぜ…あやうく巨人の糞になるところだった」

「巨人に排泄機能なんてありませんけど…」

「全く冗談が通じねぇ嬢ちゃんだな」

「次、下ネタを発言したら巨人の餌にしますわよ」

「あーおっかねぇな!カーウェンより怖ぇえ!」

 

 

ライナー・ブラウンのデリカシーの無さにはうんざりしているフローラ。

どんな悪口や叱られてもすぐに忘れる彼女でも下ネタ系の軽口は苦手であった。

そんな事を呑気に考えている彼女を撃ち殺す事が可能だったケニー。

だが、話しかけている内にただの馬鹿じゃねぇと気付いた。

 

 

「…何でこっちを向いた?」

「殺意を感じましたので」

 

 

少しでも殺そうとすると、反応して様子を伺ってくるやべぇ女。

巨人なんぞ殺意すらないはずなのに、負の感情を的確に感じ取れる能力に彼は戦慄した。

さては、過去に何かあったなと推測するしかできない。

 

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 

壁外では、少しの油断が命取りになる。

たった今、1人の憲兵が巨人に鷲掴みされた。

ジェル・サネスは様々な悪行に加担してきたがたった今、その罪を死で償おうとしている。

いや、強制的に死によって償わされようとしていた。

 

 

「た、助け…てくれぇええ!!」

 

 

彼は自分が助からない事を自覚していた。

まず、味方である同僚が全滅して、この場に居るのは敵だからだ。

暗殺目標の調査兵はともかく対人立体機動部隊3名も自分の命を狙う敵だった。

王政に忠誠を誓い、様々な汚れ仕事をしてきた彼からすれば悲惨な末路になるところである。

 

 

「ぐあああっ…あっ!?」

 

 

ここでサネスが巨人の掴む力が弱まっていると気付いた。

さきほどまでは握りつぶそうとした巨人が何故か蒸気を噴き出して黒ずんでいた。

 

 

「ああああああ!!」

 

 

何が起こったか分からないが生還のチャンスが目の前に舞い降りた。

地獄に命綱が降ろされて必死に掴んで地上へと登ろうとしていた。

実際は、上空から落下して地面に衝突していったが些細な問題である。

 

 

「い、生きてる!?」

「ギリギリ間に合ったみたいですね」

「お前は…」

 

 

ここで自分を助けたのは殺そうとした調査兵の女だと気付いた。

 

 

「助かった…ありがとう」

 

 

とりあえず助かったので素直に感謝したサネス。

それを聴いたフローラは嬉しそうな顔をしてケニーを見る。

何か自分に言う事があるだろう的な視線を送ったが本人は見なかった事にした。

 

 

「なんでこいつを助けたんだ?」

「その方が都合が良いからです」

「ヘイトを全部こいつに押し付ける気か?」

「いえ、死体を運ぶには人手が居るからです」

 

 

フローラは、自身の暗殺計画があまりにも計画性の無さから本気で抹消する気はないと判断した。

まず、虎の子の対人立体機動装置を装着している3名の内、2名が素人であった。

何度もガス欠の経験があるフローラは、できるだけガスの消費を抑えるようにしている。

それが壁外であったら尚更である。

 

 

「意味が分からん」

「おそらく王政は、あなた方の忠誠心を試す意図があったのでしょう」

「何故、そんな事が言えるんだ?」

「だって凄腕の刺客なら【殺害】を優先する為、どんな手を使っても確実に仕留めますよね?」

「そりゃあそうだ」

「事故死、冤罪など壁内でわたくしを殺す機会などいくらでもあったはずです」

「何が言いたいんだ?」

 

 

フローラは、ケニーの反応から彼も抹殺対象に入っているとは気付いていないと判断した。

王政の本命は、憲兵団の権威挽回と薬草だった。

彼らからすれば、勝手に潰し合ってくれという絶妙な匙加減で投入されていた。

 

 

「壁内で暗躍するプロフェッショナルが壁外で暗殺だなんて死ねって言っているもんよ!」

「あくまで憶測だろう?」

 

 

ケニーもサネスも、フローラの背後の幹に隠れていた2名の憲兵ですら戯言だと思っていた。

彼女がジャケットの懐のポケットから折り畳まれた羊皮紙を取り出すまでは…。

 

 

「これは?」

「わたくし宛に届いた【フローラ・エリクシア暗殺計画の承認書】ですわ!!」

 

 

巨大樹の幹に隠れていたカーウェンとグランツが血相を変えて思わず飛び出す情報だった。

新型の立体機動装置の開発をしている以上、王政に目を付けられていたフローラ。

同期や先輩たちを巻き込みたくなかったので必死に王政と取引していた。

 

特にアウリール伯爵とは文通しており、辛うじて首の皮一枚繋がっている生活を送っていた。

ところが今朝、憲兵に渡された指令書にこの手紙が入っていた。

 

 

「はぁ!?」

 

 

これを見たフローラは思わず声を漏らしてしまったほどである。

嫌がらせかと思いきや、内容を読んでいると更に頭が痛くなってくる文面が記されていた。

 

 

『調査兵団、第四分隊所属のフローラ・エリクシア君』

『本日、君の暗殺計画が壁外で行われる』

『我々は【君が生き残れる】と分かっているにも関わらず、わざと刺客を仕向けた』

『何故だと思う?』

『答えを見出してかつ、生還したら我々の元へ刺客と共に出頭せよ』

 

 

承認書の空きスペースに書かれていたアウリール伯爵の筆跡と印鑑が本物だと示す証拠だった。

それどころか王政の主要4人とフリッツ王の筆跡と印鑑が捺されていた。

フローラ暗殺計画の参加者で、本人に気付かれていないと思っていたのは刺客だけであった。

 

 

「嘘だろおい!!」

 

 

ケニーもカーウェンもグランツもサネスも暗殺されるフローラも!

誰もが頭を抱えたくなる事であった。

当然である。

王政の為に尽くしてきた彼らが王政にドッキリ計画を仕掛けられていたのだ。

ガバガバな暗殺計画に沿って任務を遂行していた彼らにとっては、忠誠心が揺らぐものであった。

一方、死刑宣告を喰らったのに生還して顔を見せろという指示に混乱したフローラ。

誰もが傲慢な王政の重臣たちに振り回されていた。

 

 

「で、この【答え】は壁外調査で戦死した刺客の死体を拝見したいと分かりました」

 

 

フローラが憲兵4名を引き連れていた時、本命の3名が襲撃してくると予想していた。

ところが暗殺計画が思いっきりバレているのにそれを知らない刺客たちに困惑した。

【答え】を探している内に憲兵の死がピースだと分かった。

何故なら効率が良い殺し方など壁内でいくらでもあるからだ。

わざわざ壁外で暗殺しろなんて刺客も死ねと言っているものである。

 

 

呆然と暗殺計画の承認書を手に取って文面を眺める4人。

フローラはその隙に寄ってきた巨人の掃討を行なった。

 

 

「アッカーマン隊長…」

「アホらしい!!こんな糞みたいな書類なんかぁこうだ!こうだ!!」

 

 

激怒したケニーは、羊皮紙の端を掴んで勢いよくビリビリに破いた!

更に折り畳んで破いて紙屑になってもなお破いてみせた。

それでも気が済まない彼は、地面に紙屑をばら撒いて踏みつけた!

人類の中で5名ほど居る痛みを嬉しがるM男が、一瞬で肉塊になる勢いで念入りに踏みつけた!

 

 

「気が済みましたか?」

「ああ」

「でもよぉ…巨人が…」

「向かって来る巨人は全て殲滅しましたわ!早く遺体を回収してください」

「えっ…」

 

 

未だに10体以上の巨人に懸念していたケニーであったが問題は解決した。

10体の巨人から徒歩で逃走するにはどうすれば良いか?

 

フローラの答えは、巨人を1匹残らず駆逐して全滅させて安全に帰還すればいい。

 

確かに巨人が全滅すれば、巨人に喰われる心配は無くなって安全になる。

それが実現できるのは、リヴァイ兵士長か頭エレン娘だけである問題を除けば!

 

 

「もしかして、お前が本気を出していたら…私たち死んでいた?」

 

 

ケニーの部下であるカーウェンの呟きに誰一人答える事はできなかった。

カラネス区壁外で単独で討伐戦績14体を出したフローラ。

 

一同、それは知っていたが本当にここで再現するとは思っていなかった。

補給さえあれば、何体でも巨人を討伐できるとピクシス司令に判断された頭エレン娘。

実際に目撃すれば、王政の重臣たちが暗殺に失敗すると予想してもおかしくなかった。

 

 

「いつまで…突っ立っているおつもりですか?」

「お前ら!早く遺体を回収しねぇと俺達が死体の仲間入りになるぞ!」

 

 

フローラは不機嫌そうに彼らを見つめていた。

さきほどの巨人を殲滅する狩人のモードから戻っておらず悪魔の様な顔で微笑みながら告げた。

それが自分たちの惨殺宣言の予告だと勘違いして、慌てて死体回収に行く4人。

ケニーの本音が3人の行動を機敏にさせるのに充分であった。

そして、自分を暗殺しに来た人物たちに殺されると言われたフローラは落ち込んだ。

 

 

-----

 

 

「ま、まだ来ないの…」

 

 

クリスタ・レンズは、フローラの哨戒任務が長引いているのが気になった。

それにさっきから胸騒ぎがしていた。

彼女が率いていた憲兵は、その辺の憲兵とは訳が違った。

顔は良く見えなかったが、母親の首を短剣で掻き切って自分を殺そうとした男にそっくりだった。

あの時は夜で顔が分かり辛かったが、あの目は忘れることはできなかった。

 

 

「大丈夫だ!あいつの事だからどっかで寝てるんだろう」

「ユミル!!ここでその冗談はやめて!!」

「済まん、悪かったって!」

 

 

震えるクリスタの双肩に両手を乗せて脅かすような口ぶりで離したら激怒されてビビったユミル。

彼女を宥めようと必死に頭を優しく撫でて落ち着かせようとした。

 

 

「ところであの憲兵団って新兵とは違ったな」

「確か王都から来た連中だろう?」

 

 

調査兵団の第三分隊のクラースとディルクも異変に気付いていた。

哨戒任務とはいえ、そこまで薬草採集班から離れるわけがない。

なのに、付近で巨人と戦闘が行われた形跡がないのに一度も帰還してこなかった。

 

 

「まさかあいつら…」

「馬車を調べてみるか?」

「そうしよう!」

 

 

同じく怪しんだマレーネが見張っている憲兵団の荷馬車に向かって行こうとした。

その時、彼らは信じられない事が起こった!

 

 

「みんな!逃げてえええええ!!」

 

 

血塗れになったフローラが大声で叫んでいた。

なにかしらの要因でそうなったのは誰でも理解できた。

ところが彼女の状況は現実離れしており、脳が視界に映る情報を遮断する光景だった。

必死に走る彼女の後ろに前転を続けて転がってくる3体の巨人が迫って来ていた。

 

 

「ああああ!!巨人が前転しないでよおおお!!ボールじゃないのにいいいいい!!」

 

 

まるで砲弾が転がるようにフローラを圧し潰そうと迫ってくる巨人達。

地味にこの状態だと接近戦を行なう調査兵には成す術がない状況である。

巨人にアンカーを撃てないし、突っ込んだら巻き添えを喰らって死ぬからだ。

 

 

「お前えええ!!心配かけた挙句!余計な事に巻き込みやがって!!」

「なんでいつも騒動の渦中に居るんだお前はああああ!!」

 

 

 

さきほどまで心配していたクラースとディルクは、問題事を持ち込んだフローラに怒った!

散々迷惑かけてトラブルを持ち込む【兵団一の問題児】に!!

マレーネも呆れて荷馬車から離れてボール型の巨人の対応に向かった。

それを見届けた憲兵たちは、注意を惹いてくれた彼女に感謝しつつ荷馬車の中で着替えた。

 

 

-----

 

 

「さて、嬢ちゃん!俺達が乗ってきた馬車に見張りが居るんだがどうすればいい?」

「わたくしに良い考えがあります!!」

 

 

さっそく遺体を回収した4名の憲兵とフローラであったが問題にぶつかった。

第三分隊のマレーネが中央第一憲兵団が乗ってきた荷馬車を見張っていたのだ。

「殺すか」と呟いたカーウェンを制止するように目の前に立ったフローラ。

あまりにも自信満々の姿に誰もが彼女の発言を邪魔しなかった。

 

 

「わたくしが調査兵団に巨人をぶつけるのでその隙に馬車に向かってください」

「おいおい!そう都合良く巨人がうろついているのかよ?」

「調査兵団の兵士の知識と経験を信じないのですか?それとも信じさせても良いのですか?」

 

 

ケニーが真っ先に疑問を投げかけたが、逆に利用されてしまった。

ここで案を承諾しなければ碌な事が起こらないと分かった4名はフローラの指示に従った。

 

 

「この幹で待機しててくださいね」

「お前を信じるからな」

「では、また合流しましょう!」

「無視かよ…やべぇ嬢ちゃんだ…」

 

 

サネスから弾丸とライフリングが施された連発可能なマスケット銃を受け取ったフローラ。

未知なる武器に興奮したのか、銃を撫でながらスキップしながら森の奥へと消えていった。

そして数分が経過して、複数の銃声の音が辛うじてケニーの耳に届いた。

 

そのまま待機していると、何故かボールの様に転がる3体の巨人に追われているフローラの姿が!

どうせなら、そのまま潰されたらラッキー程度に考えてケニー御一行様は、馬車に帰還できた。

 

 

「どうですか?」

「少なくとも内装を見られた形跡もねぇな、小細工もそのまま残ってるし大丈夫だろう」

 

 

荷馬車の中身を見られていないと判明してマレーネ暗殺の危機は去った。

代わりにフローラが呼び込んだ巨人3体に殺される危険性が出たが!

 

 

「おいサネス!お前は入り口で見張ってろ」

「言われなくたって…」

 

 

なんとなく付いて来てしまったサネスを叩き出して、対人立体機動部隊は着替えた。

 

 

-----

 

 

「絶対!神様はああああ!!わたくしに恨みがあるわあああああ!!」

 

 

高速で転がってくる巨人から逃げるフローラ。

付近が平地の為、アンカーを突き刺して大空に羽ばたくことはできない。

そもそも撃ち込んでも、逃げる前に潰されるだけであるが…。

 

 

「フローラあああああ!!」

 

 

そしてクリスタが馬に乗って前方から駆け付けてきた!

それを見たフローラは、無言で専用銃に予め装填された音響弾を取り出した。

 

 

「もおおおお!!」

 

 

牛の鳴き声を真似したかのように鳴くフローラ!

彼女から放たれた音響弾は、その声すら打ち消した!

 

 

「ガスが限界なのにいいいい!!」

 

 

音響弾の衝撃が全身に伝わって混乱した巨人たちを強襲した!

手始めにアンカーを撃ち込んだ一番前に居た巨人のうなじを削いだ!

その衝撃で双剣の刃が折れたが気にすることは無くロックを解除して刃を巨人に投げつけた!

目を狙ったつもりが口内に消えていったが、咽たので結果オーライって奴だ!

 

 

「次!うっ…ここでぇ!?」

 

 

2体目の巨人のうなじを削いで最後の巨人に向かおうとした時に重要な事実に気付いた。

ガス切れでアンカーが撃ち込めなくなっていた。

それどころかガスボンベを交換しない限り、立体機動ができなくなった。

 

 

「もうどうにもなれー!」

 

 

鞘であるブリッツシャイダーⅡを手早く外したフローラは生身で巨人に飛び込んだ。

痙攣している巨人のうなじに乗って何度もブリッツメッサーⅡで滅多切りにした!!

普通の刃では斬る事はできない皮膚であるが、巨人を両断するというコンセプトで作られた刃。

巨人のうなじを削ぐために、しなやかで折れやすいスナップブレードとは違い!刃が通用した。

こうして第三分隊の3名が到着した時には、巨人と人間の血で汚されたフローラが佇んでいた。

 

 

「フローラ、巨大樹の森の奥で何をやってたの?」

「巨人を15体以上討伐してました!」

 

 

元気よく返答した彼女に額を手で抑えて座り込んでしまったマレーネ。

呆れて声も出せない調査兵団の同僚達。

クリスタ、ユミルも合流して先輩の3名に事実を告げたフローラは叱られてしまった。

薬草が山ほど積まれた荷馬車を護衛するマルロとヒッチは、その様子を呆れたように見守った。

 

 

「薬草を摘んだことだし、早くカラネス区に帰還しましょう!」

「自分勝手な奴のせいで、帰れなかったんだけど?」

「マレーネさん!お説教は後日でお願いします!」

 

 

こうしてフローラ率いる薬草採集班と護衛班は、無事にカラネス区に帰還した。

その道中で屯していた巨人4体をさくっと討伐した記録は無かった事になった。

何故なら報告する前に中央第一憲兵団と共に王政の重臣が居る建物に向かっていたからだ。

 

 

「悪魔の居城へ、ようこそお戻りになりました」

「それは皮肉ですか?」

「俺が保証するよ!あんたは悪魔だ!」

「嬉しくありませんわ!」

 

 

ケニーの軽口に反撃する余裕があるフローラ。

中央第一憲兵団は、暗殺任務失敗で落ち込んでいたが、暗殺対象は一番元気であった。

もはや死刑執行される囚人と女看守のように建物に入る一行。

 

 

「どうする?」

「やべぇ…入りたくねぇ」

「サネス、お前が行けよ」

「嫌だ!せめて王政に尽くして戦死したいんだ…」

 

 

アウリール大臣とゲラルド大総統が居る部屋の扉を誰1人開くことはできなかった。

中央第一憲兵団の兵士たちは、立場が弱いサネスに全てを押し付けようとした!

 

 

「第58回壁外調査から帰還したフローラ・エリクシアです!密約に基づいてここに参りました!」

「「入室を許可する!」」

 

 

そんな事知るか馬鹿!と言わんばかりにノックを3回してから自己紹介と要件を伝えた彼女。

魔王の2人も、そうしてくるかと予測していたかのように穏やかな声で入室を許可した。

自身を暗殺しようとしてきた魔王の居城の『謁見の間』に臆さず堂々と入るアホ女。

それを唖然として見つめていたが、思い出したかのように4人は死体を担いで入室した。

 

 

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