進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

55 / 179
55話 ダリス・ザックレー総統と芸術

事実上、王政府に宣戦布告してきたフローラ。

そもそも王政の地雷原でタップダンスした彼女が悪いのだが、やっちゃったものは仕方がない。

脅迫されたので逆に【鎧の巨人】に向ける殺意をぶつけて逆に脅迫して有耶無耶にした。

さきほどは、なんとか切り抜けられたが次は無い。

 

 

「デレトフ閣下にこれ以上借りを作りたくないわね…」

 

 

【中央商会連盟】の会長にして王政の重臣であるメテオール・二コラ・デレトフ。

アウリール大臣やゲラルド大総統と同格の存在である。

全ての兵団を顎で使える大総統や、貴族に対して発言力がある貴族院の長と比べれば目立たない。

だが、平時における王政では、金融と財政政策を担当し、物資の供給を担当している組織の長。

総統局も貴族院も金と兵糧がなければ動けない以上、王政の裏のトップといっても過言ではない。

 

 

「関わりたくないわ…」

 

 

商人の血を引いているせいか、彼を尊敬すると同時に恐ろしい強敵である。

利点がある内は泳がしてくれるが、少しでも隙を見せれば人生の終着点まで追い詰めてくる。

そんな性格の彼とは知り合いどころか取引先である。

第58回壁外調査の副産物として、入手した大量の薬草。

それは、中央商会連盟隷下の王立薬剤師会という組織に納品されるのだ。

 

 

「とりあえず連絡しないと…」

 

 

あくどいやり方で政敵を左遷するなり暗殺してそれぞれの組織の頂点に君臨している2人。

しかし、少しでも陰りがあれば、その座を狙う後任者や政敵がその座を強奪しに来る。

調査兵団や同期、自分に危害を加えてくるのを防ぐには、権力闘争させるしかない。

それをするには、彼の協力が不可欠である。

 

 

「まず壁外調査の報告書、薬草の報告書、戦闘記録の報告、壁外調査の出費報告…あとはー」

 

 

ただでさえ書く書類が多い上に、王政の重臣2名を牽制する為に政敵に情報を流す必要がある。

それと同時に離間工作もしなければならない。

カラネス区長に提出する書類もあれば、エルヴィン団長に提出する書類もある。

 

 

「やる事が多いわ…」

 

 

その前に兵服を着替えて風呂に入浴してないといけない。

そして機嫌が悪いライリーに騎乗し走り回ってストレスを解消させる。

更にデレトフ侯爵に提出する書類があるのだ。

やる事が…やる事が多すぎる!

 

 

「とりあえずお風呂!!」

 

 

壁外調査による重労働で発生した汚れと汗、そしてなにより血痕が付いた兵服を着替えたかった。

血塗れのジャケットを脱いでおり、できるだけ路地を通ってフローラは兵舎に帰還した。

 

 

「あっ!フローラ!」

 

 

兵舎の扉の前にクリスタとユミルが屯しており、なんだか話が弾んでいるようである。

そしてフローラに気付いたクリスタは嬉しそうに話しかけた。

 

 

「あの後、病院に薬草を届けてきたんだ。これであの子のお父さんを治せるかもしれないって!」

「薬草はあくまでおまけみたいなものよ。大事なのは彼の身体次第だから…」

「そ、そうだよね…」

 

 

詳しい情報は聴いていないが全身が痙攣するタイプの破傷風の致死率は高い。

ましてや、不衛生な巨人に噛まれたとなれば更に酷くなるだろう。

そしてなによりその症状が出て数日が経過していた。

もし、それを乗り越えても兵士として復帰するのは不可能であろう。

 

 

「大丈夫よ、死にかけた経験者目線で見ると、症状は末期じゃないし峠を越えれば回復するわ」

「106回医務室に行ったフローラのお墨付きだぞ!」

「そうだよね!絶対に治るよね!!」

「おい、聞いてくれよ!さっきまで『これでダメだったらどうしよう』ってクリスタが泣きつ…」

「あ!!あの時、フローラが上層部を説得してこなかったら!きっと上手くはいかなかったよぉ!!」

 

 

ユミルに内心を晒される前に大声で誤魔化したクリスタ!

彼女が一番、助かるか分からずに経験豊富なフローラの意見を聴きたいほど追い詰められていた。

【こういう事】に慣れていて経験豊富な彼女の言葉は、なによりも安心できるものである。

 

 

「任務中にたくさん助けてもらったし、本当にありがとう!」

「ユミルの方にも同じように言ってあげたら?」

「一緒に寝る時に伝える予定で…」

「おっとそれは愛の告白か?」

「あああもう!はぐらかさないでよ!!」

 

 

エルヴィン団長ですら赤子扱いにする大臣と大総統を説得して薬草採取任務を加えた彼女。

誰かの為に犠牲になるくらいしかできない自分には、憧れと嫉妬がある。

誰にも愛されなかったから愛されるように偽るクリスタは、素で愛される人に嫉妬していた。

 

 

「説得ね…」

 

 

言えない…。言えるわけがない。

さきほど、王政の大臣と大総統を【恐怖という暴力】で脅迫してきたなんて…。

これで報復が来る事が確定していてフローラはうんざりしている。

幸いにも貴婦人に香水や化粧品を献上して、取引しているおかげで貴族と顔が利くようになった。

貴婦人たちが築き上げた交流関係は、中央第一憲兵団ですら介入する事ができない暗部である。

大総統が話の1つを聴いて口から泡を吹いて卒倒した情報もそこから入手したものだ。

 

 

「どうしたの?なんか気分が良くなさそうだけど?」

「そりゃあこいつ。兵士の死体を運んでいたからな、気分が良いわけねぇよな」

「とりあえず着替えて風呂に入って寝るわ」

 

 

ここでポイントなのは「食事をする」とは言わない事。

これで食い意地がある奴も疲労で寝込んでいると思わせられる。

商人モードが兵士モードに切り替えられていないのでやけに頭が回っている。

むしろ、そうじゃないと80枚以上の書類に書けないのでわざとやっているが!

 

 

「また明日ね!」

「えぇ!」

 

 

まずは、自室に生息する親友を摘まみ出す事から始める!

皆は部屋を転々と移動してるのに荷物が多すぎて引っ越しできない。

故にセキュリティなどあるものではなく、王政の刺客がいつ送り込まれてきてもおかしくない!

自分ならやむを得ず対応するが、ミーナに手を汚させるつもりはなかった!

 

 

「ミーナ!これから着替えるから退室してくれない?」

「えー!私が見てないと適当に脱ぎ捨てるんでしょ?」

「むしろ血痕だらけの兵服のジャケットを折り畳む方が可笑しいでしょ!」

「まーた血塗れにしたの?」

「良いから早く!!」

 

 

血塗れになった事自体は、フローラの過去のせいでそこまで気にしないミーナ。

そんな彼女を部屋の外に押し出したフローラは扉を閉めて急いで予備の兵服に着替えた。

そして浴室で頭と身体を洗って湯船に漬かる事もなく、部屋に閉じ籠り書類を執筆していた。

 

 

「よし!よし!よし!よし!あとはデレトフ会長宛の書類のみね!」

 

 

チャックリストを見て記入した書類の項目に印をつけて文章の内容を再確認!

配達先よし!

数量よし!

名前と日付よし!

指差し確認よし!

デレトフ会長宛の書類を残すのみとなった。

 

 

「書きたくない…」

 

 

アウリール大臣とゲラルド大総統と同格のデレトフ会長。

前者の2人に離間の計をするつもりなら避けては通れない存在。

王政を運営する4つの組織の長は仲が悪いが、それでも表向きは団結している事になっている。

その中でも交渉や取引のベテランであるデレトフ会長。

一歩間違えれば大きな貸しとなってしまい、返済しきれず調査兵団生活が破産する可能性もある。

この世の摂理が等価交換の法則に基づいているなら、それ以上の代価を支払わなければならない。

 

 

「というか、なんで10代のわたくしが王政のトップと取引してるのよ!!」

 

 

技術発展を妨げている王政府、それでも立体機動装置を改良する為、無視はできない。

ましてや新型の立体機動装置について憲兵の新装備として配備することとなった。

もちろん、嫌がらせなので実戦データが不足している上に役に立つのか疑問だった。

第58回壁外調査では、その実戦テストも兼ねておりヒッチの活躍を見る限り、概ね成功である。

問題なのは、それを王政に報告する語彙力と知識と経験が圧倒的に不足していた。

…じゃなくてたかが15歳程度の小娘が王政府のトップと交渉している時点でおかしい!

 

 

「師匠が欲しい…ザックレー総統の知恵をお借りしましょう!」

 

 

王政について同僚や上官に伝えることはできない。

もしアドバイスをもらうなら王政と部下に板挟みされているザックレー総統くらいだ。

そう思ったフローラの行動は早かった。

日が暮れて晩飯を我慢してまでトロスト区に向かおうとした!

もちろん、ミーナへのフォローを忘れずに事情をでっち上げて手紙を渡しておいた。

その後、専用装備を着用して書類一式と通行許可書、美術品を持ってライリーの元に向かった。

 

 

-----

 

 

汗血馬のライリーは不満だった!

【壁外調査】と聞いていて思う存分、平原を駆け巡れると思っていた。

ところが、ほとんど走行を制限された挙句、お留守番させられた。

拗ねて昼寝をしていたが、走り足りなくてイライラしていた。

 

 

「ライリー!」

 

 

自称主人面している女に耳を伏せて威嚇をした!

それでも好物の野菜をもってご機嫌を取ろうとしているのは理解している。

蹴ったり噛み付こうとするのは後回しにして、野菜に噛みついた!

 

 

「ライリー!これからトロスト区に向かうわよ!」

 

 

それを聴いて“彼女”は伏せていた耳を立てた!

【トロスト区】、【カラネス区】、【ストヘス区】の単語が出てくると長距離で走れるのだ!

外は暗いがそんな事よりとにかく自由に成りたかった!

この街に帰って来てから路地裏しか走らされなかったが、これでストレスが解消される。

 

 

「待って!まだ乗れてない…」

 

 

主人が袴る前に出発をしたライリー!

振り落されそうなフローラを乗せてウォール・ローゼとカラネス区を繋ぐ門に進撃していった!

 

 

「あっ!調査兵団本部に寄っていくわよ!…ねえなんで勝手に進んで行くの!?」

 

 

手綱を操作したり舌鼓を鳴らしても独走する相棒に困惑するフローラ。

頭進撃娘すら出し抜く馬は、歩行者に衝突しないようにゆっくりと走っている。

言う事を聞かなくなった相棒に溜息をつきながら仕方なく門に向かっていった。

 

 

「おい、この時間に外に出るのか?」

「トロスト区を視察されているザックレー総統に用がありましてね」

「総統局のトップと知り合いとか…どんな裏技を使った?」

「巨人をニ桁討伐すれば自然と注目されますよ」

「そりゃあそうだ!」

 

 

門衛から正式に通行許可をもらってライリーとおまけは、トロスト区に進撃した!

珍しく夜空は晴れており、もうすぐ満月なのが分かった。

明かりが無くても目視で障害物が分かる程度に月光で照らされたおかげで楽だった。

これなら夜間に巨人が侵入してきても戦えそうだった。

不謹慎な事を考えつつトロスト区の門を突破したフローラは兵団本部に向かっていった。

 

 

「ライリー、満足した?」

「…そう、また走りましょう」

 

 

伝令の早馬を繋いでおく馬小屋にライリーを預けてフローラは兵団本部に突撃しようとした。

 

 

「ん?フローラ君じゃないか!」

「ザックレー総統!お久しぶりです!」

 

 

偶然にも兵団本部から出てきたザックレー総統に話しかけられてフローラは敬礼をした。

別に畏まらなくても良いと両手を下げるジェスチャーで合図をしたザックレー。

総統命令を受けて彼女は敬礼をやめた。

 

 

「…なんかあったようだな?」

「第58回壁外調査で壁外で巨人を掃討していましたので…」

「そうだったな」

「閣下はこれからどちらへ向かわれる予定でしょうか?」

「気分転換に視察するつもりだったが急用を思い出してな、外気で整えたら執務室に戻る予定だ」

 

 

ザックレー総統は、フローラの目を見て自分に用があると分かった。

抱えている書類を見ると面白そうな情報がありそうである。

 

 

「では、後日出直して参ります」

「待たんか、私に用があるのだろう?」

「ハッ!仰る通りです!」

「一緒に執務室で話をしようではないか」

 

 

ザックレーは、兵団一の問題児が何をやらかしてきたのか気になった。

自分を頼る案件は、前例がない問題事を持ってくる彼女。

今回もやらかしたのだと分かり、裏口から秘密の通路を経由して執務室に戻った。

 

 

-----

 

 

「ダハハハハッ!内務大臣と大総統を脅迫してきたとは、やりおったな!!」

「閣下…お静かに…お願いします」

「大丈夫だ!この部屋は防音仕様になっておる!いくらでも叫んでも隣室には聴こえんぞ!」

 

 

ザックレー総統は歓喜した!

目の前の女が王政の主要4名の内、2名を脅迫してきて念書を書かせてきたというのだ。

人生の生涯を捧げて忠実な狗を演じてきて、なんとかこの地位に上り詰めた。

 

ただ、それ以上の事はできなかった。

総統局の総統という名の中間管理職に縛られて身動きが取れなくなってしまった。

ところが、この女は調査兵団の新兵にも拘わらず自分を乗り越えてしまった。

この快挙を聴いて笑わないわけがない。

 

 

「中央商会連盟のデレトフ会長は確かに強敵だな!」

「ハッ!今回は壁外で採取した薬草の大半を彼らが所有する事となっております」

「では、そこを攻めるべきではないのか?」

「えっ?」

「薬草を精製して薬品にして独占するつもりらしいが、それ以上はできないだろう?」

「仰る通りです」

 

 

ザックレーですら関わりたくない中央商会連盟のデレトフ。

奴は、他の幹部と違って異様に悪知恵があるせいで油断できない強敵である。

 

 

「ウォール・マリアには様々な薬草、鉱物、動物、工業都市、農地が存在する」

「5年前に喪失した影響で、他にも奪取する為、調査兵団を動かしてくるだろう」

「だが、王政は調査兵団の廃止を検討しておる」

 

 

第57回壁外調査で大損害を被った調査兵団。

それを意気揚々と王政は喜んでおり、調査兵団は幹部を招集、エレンを引き渡される予定だった。

まさか巨人が50mの壁を乗り越えて、兵士100名以上殺害してくる事態になるとは思わなかった。

よりによって、王政の狗である憲兵がパニックを広げてせいで…。

盤石だったはずの王政が内部から崩壊しようとしていた。

本日に実施された第58回壁外調査は、それを防ぐ為に行なわれたようなものだ。

 

 

「では、壁外に出撃する部隊が無くなったら、その薬草はどうやって採取すると思う?」

「旧調査兵団の人員で結成…いえ、民間から徴兵された部隊ですか?」

「その通りだ!意地でも調査兵団を裁きたい奴らは、絶対に頼ることは無いだろう!」

 

 

壁外で任務を行なうのは調査兵団の結成理由でもあり任務としても適任である。

わざわざ廃止して王政の狗として再編成するなど士気も忠誠もあるわけがない。

調査兵団の頭をすげ替えて王政の息が掛かった駒を幹部にするくらいか。

ただ無駄死にするのは確定しているので王政の貴重な駒を喪失するだけである。

ならば以前あったウォール・マリア奪還作戦の様に民間人を使うのが手っ取り早い。

 

 

「ところがそれに困るのは中央商会連盟だ!」

「壁外の物資が安定して商会連盟に供給されないからですね」

「その通りだ!奴らは安定した収入を欲しておる!ならばやるべき事は分かるな?」

 

 

フローラは、ザックレーの真意をいまいち見抜けなかった。

王政の狗である彼は、王政の幹部を快く思ってない。

それどころか1人残らず排除しようとしていた。

しかし、排除が目的ではなく、むしろ排除してからが本番のような気がした。

 

 

 

「壁外においては、調査兵団が中央商会連盟の期待に応えられると宣伝すればいいのですね」

「ああそうだ、それにー」

 

 

長らく王政の中枢で狗として働いて来たザックレー総統。

彼には夢があった。

その為に半生を費やしてきたものだ。

 

 

「王政の中枢部は、良くも悪くも君を気に入っておる」

「わたくしがですか?」

「ああそうだ、奇跡的なバランスで保たれているが、もし君が死ねば全て崩壊するだろう」

 

 

調査兵団の新兵ながら王政に携わっている貴族層を取り込み始めているフローラ。

公式に記録されていないだけで、有名人になりつつある彼女は王政でも良く知られていた。

未だに彼女がピンピンしてるのは壁内で暗殺すると政敵にバレる可能性があったからだ。

王政は一枚岩ではなく、むしろ巨人の脅威が無かったら内戦の火種すら抱えていた。

 

 

「閣下、自分を過大評価し過ぎです。たかが個人が影響を与える範囲など限られています」

「中央第一憲兵団ですら評価された君なら、クーデタで王政を転覆させるのも可能だと思うぞ」

「君はどう思う?」

 

 

ザックレー総統から【お誘い】された。

ここでフローラが首を縦に振れば、もしかしたら本当に王政を転覆できるかもしれない。

 

 

「閣下、自分は巨人を1匹残らず駆逐したいのであって、王政を変えるつもりはありません」

「やはりそうか!ますます君を気に入ったぞ!」

「ここで軽率に首を縦に振る奴ほど面白くない奴は居ないからな」

「はぁ…?」

 

 

フローラは彼の負の感情の“声”を聴いて王政の重臣たちに尊厳破壊したいのは分かった。

さきほどのお誘いも嘘ではなかったが、その提案を断った。

同期や自分が王政に狙われる危険性は無くなるが、重臣になってしまい行動が縛られるからだ。

なによりザックレー総統を信用していなかった。

手段の為に目的すら変えている男の提案に乗れるはずもなかった。

やむを得ず断ったら、更に楽しそうに話しかけてくる男に困惑した。

 

 

「少なくとも民が王政を支持している以上、暴力で政権を奪取しても民の信頼は得られないだろう」

「はい、少なくとも100年は壁内人類を存続してきた実績がありますからね」

「そこで君に提案したいことがある」

 

 

さきほどまで笑っていたザックレーが真面目な顔になった。

それはエレンの処遇を問う特別兵法会議の議長であった顔であった。

王政トップの2人の尊厳破壊を詳しく訊いてきて笑っていた時とは別人の様である。

 

 

「君が行なった王政との密約や交渉の記録を、こっちにも秘密裏に情報をまわしてくれないか?」

「もちろん閣下が望むなら、いくらでも…」

「感謝する!中間管理職のせいで情報の入手手段が限られていてな…」

 

 

味方は兵団の上層部が多いほどメリットがあるフローラ。

自分の夢を叶える為に信頼できる非公式な情報を欲しているザックレー。

彼女達の利害は一致し、本日からフローラは総統のスパイとなった。

 

 

「ところで3日後に調査兵団の幹部が王都に招集されるのは聴いているか?」

「はい、第57壁外調査の失敗でエレンの引き渡しが行われる予定だと聞いています」

「当初の予定から変更されて、もう一度特別兵法会議が行われることとなった」

 

 

そもそも第57回壁外調査は、エレンが人類に有意義だと証明される為に行なわれた。

結果は惨敗、巨人がカラネス区に侵入してこなければ、すぐにもエレンは引き渡されていた。

ようやくカラネス区の駐屯兵団の戦力再編が終わり、巨人掃討作戦が終了した以上!

調査兵団がこの街を守備する必要性が薄れたので、王都に収集された。

 

 

「調査兵団の勝率はどう思う?」

「絶対に勝ち目がありませんね」

「再び君が証人として証言すれば時間を稼げるかもしれんぞ?」

「さすがに前回の会議で啖呵を切った以上、どうしようもありません」

 

 

フローラもザックレーも調査兵団のエルヴィン団長が大人しくしてるとは思っていなかった。

むしろ、この窮地を利用して死に物狂いで何かを仕掛けてくる男である。

すでに策を張り巡らせているのだろう。

 

 

「調査兵団の幹部が招集される影響か、104期兵はローゼの南方の地で合同訓練するそうです」

「君には必要ないと思うが?」

「はい、自分と片手で数えられる人員だけは除外されているようです」

「なるほど、また何かやらかす気だな」

 

 

壁外調査の損害を受けて、急遽に104期調査兵に合同訓練が行われる事になった。

しかし、今まで訓練すら命令されていなかった以上、何か意図があるのは間違いない。

調査兵団のベテランの兵士が、同期たちと距離を取って監視しているような感じがした。

スパイと疑われていてフローラは不愉快だったが、女型の巨人の動きを見ると仕方ない気がした。

とにかくエルヴィン団長が何か企んでいるのは間違いない。

 

 

「既に心臓を捧げている我々は、エルヴィン団長の指示に従うまでです!」

「…そうか、早死にするのではないぞ!【芸術】を語り合う友人を失いたくないのでな!」

「ハッ!生き残ってみせます」

 

 

記憶喪失した影響か、同期の顔を忘れたくなくて絵を描いているフローラ。

ザックレー総統とは定期的に芸術について語っていた友人関係である。

2人とも兵士モードなので上下関係がはっきりしているが、普段は友人のノリで話し合う。

フローラが持ち込んだ『怪しげなオブジェ』は彼が目標としている芸術品に近い物である。

 

 

「そろそろお時間が近づいてきたので…」

「ああ、そうだな」

 

 

ハンジ分隊長が巨人を熱く語るのと同じで、ザックレー総統も芸術について熱く語ってくれる。

前者と違うのは、他者の意見を積極的に取り入れて芸術品を作るという心意気か。

別にいい事ではあるが、さすがに第58回壁外調査で疲弊していたフローラ。

思った以上に早く相談できたので、さっさとカラネス区に帰還して就寝したかった。

 

 

「失礼しました」

 

 

適当に話を切り上げて、隠し通路に向かって歩いて行った。

本棚が回転して、秘密の入り口を隠れたのを確認したザックレーは溜息を吐いた。

 

 

「割と本気で勧誘したのだがな…まあいい!機会を待つか」

 

 

偉くも無いのに名家の血筋だけで偉くなる奴が大っ嫌いのザックレー総統。

だからこそ、王政に命を狙われても壁内人類の為に堪えた彼女を素直に尊敬した。

それはそうとして、芸術をどうやって作っていくか、彼は必死に考えていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。