進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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56話 サウナ調査兵団

「で?浮いた話は無いのか?」

「それは自分ですか?それとも同期ですか?」

「どっちもだ」

「今の所、同期で恋愛に発展しているカップルは……ないですね」

 

 

ユミルとクリスタと答えようとしたフローラは、喉に出掛かったまま呑み込んだ。

時代や環境のせいで【同性愛】という恋愛が評価されるどころか精神病扱いされる。

巨人の恐怖で屈した兵士を臆病者と叫ぶ者は居ても、メンタルケアする要員が居ないと同じだ。

軍事心理学が発展途中のように恋愛もそうなので、レズカップルは指を指されて笑われるだけだ。

第三分隊のディルクは、フローラのネットワークですら存在しない恋愛情報に心底残念に思った。

 

 

「ところでミケさん」

「どうした?」

「首元の匂いを嗅ぐのは止めて頂けませんか?」

「す、すまん」

 

 

大男が女兵士の首元の匂いを執拗に嗅いでいる。

普通なら変質者扱いされるのだが、誰もが慣れている光景なので気にしなかった。

カラネス区の住民ですら気にせずに素通りしている時点で何かがおかしかった。

香水を纏っているので匂いを嗅がれても多少は我慢できるフローラだったが限界だった。

この調子だと股間の匂いまで念入りに嗅がれる感じがしたのもある。

 

 

「リラックスハーブでも、いかがですか?」

「こ、これは……!礼を言うぞ、フローラ!」

 

 

フローラは、香水の元であるリラックスハーブをミケ分隊長に渡した。

彼は、ハーブを受け取って匂いを嗅いでいたが、すぐに嗅ぐのをやめてしまった。

 

 

「このハーブも良いがやはりフローラの匂いが好きだ」

 

 

リラックスハーブは白色の花を咲かせるハーブで爽やかな匂いがする。

名前の通りリラックスできる甘い匂いを発するが強すぎる匂いである。

常時纏っているフローラは、その匂いを調整しており、微かに香りが漂う程度に調整してある。

ミケ分隊長は、リラックスハーブの匂いが好きだが、匂いがきつくて香水の方が好みだった。

 

 

「その匂いを調整したのが香水ですわ!」

「つまりなんだ?そのカバンに入っているのは全部香水なのか?」

「クラースさん、仰る通りです」

 

 

フローラはカバンから自分が付けている香水が入った筒をいくつか取り出した。

 

 

「それじゃあ私ももらうわ!」

「遠慮なく!」

 

 

マレーネとリーネは、すかさず香水が入った筒を持っていった。

女性である以上、長期間の任務では風呂に入れず身体も拭けないせいで体臭が気になっていた。

調査兵団の兵士は他の兵団よりも臭い。

その気になればその日に入浴できる壁内と違って、調査兵は川の付近以外では風呂に入れない。

香水で誤魔化すくらいしかできないが、その香水がぼったくりの価格である。

ペトラもリーネもマレーネも調査兵団に所属する女は、体臭を気にするほど死活問題だった。

フローラは香水のおかげで注目されて上官全員と仲良くなれたと言っても過言ではない。

 

 

「あれ?ナナバは、もらわないの?」

「実家から届く果物の香りで充分さ」

 

 

ナナバはミケ分隊長からフルーティーな匂いと評された。

その評価通り、果物の匂いで体臭を誤魔化している。

以前、サシャが香りに釣られてナナバの元に来たが悔しそうな顔をして帰ったのが印象的だった。

 

 

「そういえば、第58回壁外調査に参加していたクリスタって子も良い香りがしてたな」

「おっと、ヘニング!あの子が気になるか?」

「ナナバ…恋愛で弄るのはやめてくれ」

 

 

ヘニングは恋愛話になると人格が変わるナナバに飽き飽きとしていた。

調査兵団の兵士である以上、いつ死んでもおかしくない。

現に恋人がいるリヴァイ班のエルド・ジンは両腕を失う重傷で退役することとなった。

だからこそ、恋愛から身を置こうとして居るのに、わざと煽ってくるナナバに腹が立っていた。

 

 

「クリスタもわたくしが作った香水の1つを付けてますね」

 

 

クリスタは、フローラの人気が香水のせいだと気付いた。

誰かの印象に残りたい彼女は、良い香りがする女を問い詰めた。

自分にも香水の作り方を教えないと就寝からトイレの個室まで同行すると!

当初、フローラは無視をしたが、本当にトイレの個室まで入ってきたせいで即折れた。

 

 

『作り方は簡略化したわ』

『これが私の匂い!』

『ねぇ、聞いてるの?』

『この香水さえあれば、皆から注目される…!』

 

 

こうして【女神】クリスタは甘い香りを纏って男性陣やユミルを惹き付ける事になる。

フローラの香りが安心できる匂いなら、クリスタはいつまでも嗅いでおける優しい香りだ。

クリスタは訓練兵団に入団した時は、そこまで注目されるほどモテなかった。

しかし香水で男の鼻を魅了し、優しくて健気で気配りができる様に演じた結果、大人気になった。

ついでにレシピも彼女に教えたので、フローラが戦死しても問題はない。

 

 

「話が変わりますが、『サウナ』ってご存じですか?」

「知らんな」

「食べ物か?」

「香水じゃないの?」

「宝石とか?」

 

 

調査兵団に『サウナ』とは何かと問いかけたフローラであったが、誰も分からないようだ。

質問した自分ですら分かっていないのだから当然である。

なんでも王都で流行っている『サウナ』は蒸気で身体をリフレッシュするものらしい。

 

 

「サウナとは個室に高熱の蒸気を満たして身体と心を清める物らしいですよ」

「蒸気か…」

「俺達には蒸気は縁があるが碌なもんじゃねぇな」

 

 

ただし、調査兵団に蒸気は不審な単語に聴こえた。

うなじを損傷した巨人が蒸気を出すせいで、そちらの印象が強かった。

巨人の蒸気で身体と心を清める儀式。

かつてシガンシナ区で流行っていった巨人信奉者が行なっていそうな儀式である。

知られていないが巨人信奉者のせいで、約70年前に巨人がシガンシナ区に侵入していた。

緘口令が敷かれ歴史の闇に消えたが、調査兵団と憲兵団は悲劇を繰り返さない様に継承してきた。

 

 

「まさか、俺達を誘いに来たのか?」

「えぇ、ちょうどここに8人分の招待状があります」

 

 

フローラは、カバンから8枚の招待状をテーブルに広げた。

王都で流行っているらしいサウナの施設がこのカラネス区に開店するそうだ。

だが馴染みがない上に一般市民では高額の為、儲かるわけが無かった。

 

 

-----

 

 

「フローラ・エリクシア君、サウナってご存じか?」

「いえ、存じておりません」

 

 

ちょうど、イノセンシオ商会の会長と取引していた時に話題が出た。

エリクシア家は、シガンシナ区でも有力な商人だったようで、何かと商人と縁がある彼女。

 

 

「個室に蒸気を満たして入浴する新感覚の健康法だ」

「蒸気?蒸気ならいくらでも浴びてきましたが…良い物ではないですよ」

「…相変わらず勲章を売り捌いているようだな?」

「部屋に置く場所はありませんし、金になるならさっさと売り払って投資した方が有意義ですわ」

 

 

初めて巨人を立体機動装置で討伐したキュクロ・イノセンシオの子孫である会長。

彼は第57回壁外調査の有力なスポンサーであり、貴族では珍しく代々平民と婚約する血筋である。

そんな彼には、フローラも頭が上がらない存在だ。

 

 

「そんな君にプレゼントをあげよう」

「…これは?」

「カラネス区に開店するサウナ店の貸し切りできる招待状だ!」

 

 

彼から渡されたのは9人分の招待状と入店を知らせる記入用紙であった。

献上品にしては、あまり嬉しくないものである。

 

 

「イノセンシオ会長!さすがに9人分の招待状を渡されても困りますわ!」

「君は、調査をしないのか?」

「えっ?」

「巨人と蒸気は切っても切れない関係だろう?ならば調査兵らしく調査に向かったらどうだ?」

 

 

調査兵団は未知の領域に踏み出していく兵団である。

調査兵団に所属しているフローラも立派な調査兵!

蒸気風呂という未知なる領域を調査したらどうだと言われて反論できなくなった。

 

 

「調査兵団の存続に関わる時期だからこそ、愉しんでみたらいいのではないか?」

「仰る通りです」

 

 

なんか面倒だったから押し付けられた感じがするがフローラは素直に招待状を受け取った。

すぐさま記入して、自分と8名の兵士が入店すると用紙に記入して伝達した。

だからこそ第58回壁外調査の参加者である8名を誘ってみたが…。

 

 

-----

 

 

「すまんがこれから用があってな」

「まずどんな感じか下見をしてきてよ!飲酒できるか訊いてきてね」

「マレーネ、お前…まさか飲む気か?」

「ゲルガーもどう?」

「勘弁してくれよ…」

 

 

先輩たちは忙しいようで振られてしまった。

ミケ分隊長に至っては、香水とリラックスハーブを嗅ぐのに夢中で気が付いていなかった。

 

 

「それではお会計をしてきますので…」

「ほれ、今回は9人居る分、たけぇぞ」

「…半分以上、酒代なんですけど…」

 

 

貴婦人に販売した香水の利益が今回の飲み会で消え去った。

マレーネとゲルガーという酒豪が居るのに酒場を選んだフローラが悪い。

上機嫌になったマレーネは、クラースに腕を引っ張られて兵舎に戻っていった。

 

 

「次回はいつ来る予定でしょうか?」

「ウォール・マリアの奪還の目途が立った時にしておきますわ」

「お1人でも歓迎しますよ」

「スクランブル出撃ができなくなるので遠慮しておきます」

 

 

代金を支払ってしつこい店主を宥めてフローラは店を後にした。

8名分のキャンセル代を支払っても良いが、【サウナ調査兵団】という響きに憧れがある。

単独では【団】にならない為、最低でも、もう1人欲しい所である。

 

 

「こうなったら最後の手段よ!」

 

 

フローラには秘策があった!

まず兵舎に戻って、同期たちに誘いに行った!

『蒸気』という単語を聴いたベルトルトとライナーが同行してくれた。

更に暇であったジャンとコニー、読書をしていたアルミンも参加してもらった。

これで5人揃った!

何故か女性陣は、嫌がってしまって誘う事は出来なかった。

ミーナも誘おうとしたが、今日に限って熱を出して寝込んでおり諦めた。

 

 

「サウナか!楽しみだな!」

「蒸し風呂なんて考えたことがなかったな」

「おっ!アルミン!興味があるのか!」

「うん、伝聞だけじゃなくて、こうやって実際に経験しておくのも重要だと思うんだ」

 

 

幸いにも【サウナ調査兵団】の構成員たちはサウナとやらを楽しみにしている。

ライナーとベルトルトも故郷では聞いたことがない単語であり、興味本位で参加している。

 

 

「おい、あそこに居るのはエレンじゃないか?」

「本当ね!ついでに誘ってみましょう!」

 

 

エレン・イェーガーは第57回壁外調査で、巨人化で酷使した影響か、意識が朦朧としていた。

第58回壁外調査の2日前に体調が戻り、ようやく本日、久しぶりに外出していた。

 

 

「気分はどうだ?」

「問題ありません…」

 

 

リヴァイ兵士長は、エレンに気を遣って外出の許可を出したが上手く行かなかった。

エレンが人類にとって有意義だと証明できなかったせいで再び振り出しに戻った。

つまり、また糾弾されるのは目に見えている以上、気分が好転するわけがなかった。

なんとかして鼓舞してあげたいが自分ではどうしようもなかった。

エレンの心の拠り所であろう、104期調査兵とも遭遇せず、なんて声をかけるべきか迷った。

 

 

「エレン!」

「…お前ら!元気そうでよかった!」

「それはこっちの台詞よ!」

 

 

そしたらフローラと愉快な仲間達が居た。

ずっと、塞ぎ込んでいたエレンの目に光が戻ったのを確認したリヴァイは、こっそり微笑んだ。

 

 

「これから『サウナ』に向かうんだけど、エレンも参加しない?」

「サウナ?」

「ええ、サウナ調査兵団が王都で流行っているサウナを調査するのよ!」

「…兵長、オレも参加していいですか?」

「別に構わんが、俺も参加させてもらうぞ」

 

 

監視の為とはいえ、まさかリヴァイ兵士長も参加すると判明し、驚く一同。

それはそうとして、フローラ一行はサウナ店を目指しながら雑談しつつ歩いていた。

 

 

「サウナって何だ?」

「蒸気風呂で身体の健康を整えるものらしい」

「蒸気って巨人から出る奴か?」

「ああ、違和感があるだろう死に急ぎ野郎!だからこれから調査するって事だ!」

「ジャン、なんでオレの顔を見て発言したんだ?」

「親切に無知野郎に教えてやったのになんだその態度は?」

 

 

エレンはサウナについてフローラに問いかけたのにジャンが返答した。

それはいいが、馬鹿にした言い方で腹が立った。

 

 

「ああん?」

「やるのかコラァ!」

 

 

エレンとジャンは胸ぐらを掴み合って睨めつけ始めた。

リヴァイはしょうがなく2人に膝蹴りをしようと近寄った。

 

 

「ほげっ!」

「ぐほっ!」

 

 

2人に軽く平手打ちをしたフローラはそのまま進んでいった。

頬の痛みで思わず女の子座りをして両手で頬を抑えているエレンとジャン。

 

 

「フローラ!何をするんだ!!」

「喧嘩を邪魔するんじゃねえ!!」

「オイオイお前ら、喧嘩するのは結構だが、人類最強の男に膝蹴りをされても知らんぞ」

「そうだよ…みんな仲良くしないと…」

 

 

ライナーの一言でエレンとジャンはリヴァイ兵長を見る。

腕を組んで不機嫌そうに睨めつけてくる兵長に恐怖してすぐに仲直りをした。

リヴァイはその様子を見て、自分の顔のせいで仲直りしたと分かりショックを受けた。

 

 

「ねえ…あそこに居るのエルヴィン団長じゃない?」

「お1人で行動するのは珍しいわね」

 

 

アルミンの一言で全員がエルヴィン団長を見た。

なにやら考え事をしているようで、深刻な顔をして歩いていた。

 

 

「お忙しそうだから無視をしましょう」

「そうするか」

 

 

こうしてフローラ一行は、エルヴィン団長に頭を下げてそのまま素通りしようとした。

 

 

「ちょっと待ってくれ!調査兵団の団長を無視してどこに行く気だ?」

「王都で流行している蒸気風呂を調査する為に【サウナ調査兵団】はお店に向かっています!」

「蒸気とは、あの湯気の事なのか?」

「はい、蒸気にトラウマがあります!だからこそサウナとやらを有志で結成して調査に行きます」

「私も参加しよう」

 

 

こうしてエルヴィン団長も【サウナ調査兵団】に入団してサウナ店に向かっていった。

団長が何を考えているのか分からないが、心なしか少年の様にワクワクしているようであった。

勇敢な先輩方は、戦死したか引退したせいで調査兵団のトップとして組織を引率するエルヴィン。

そんな彼は、新兵時代の様に誰かに引率されて調査に向かうのは刺激的だったのだろう。

少なくとも純粋な笑みを見たリヴァイはそう思った。

 

 

「ここがあのサウナ店ね」

 

 

フローラは立ち止まり『サイヤマのサウナ店カラネス区支部』と書かれた看板の店舗を確認した。

向き合った全員が頷いて、サウナ店に入店した。

 

 

「いらっしゃいませ!」

「本日、15時に団体9名で予約したフローラ・エリクシアと申します!」

「お待ちしておりました!靴を履き替えて頂いて左の通路をお進みください」

 

 

膝まであるブーツを脱ぎ捨てて靴を履き替えた一同。

思ったより普通の民家のようで困惑していた。

ここで蒸気風呂とやらに入浴できるか疑問だった。

 

 

「サウナ利用料金は入湯料金に含まれていますか?」

「いいえ、別料金となっております」

「そうですか…」

「今回は招待状という事でドリンクを除いて無料になっております」

 

 

案内していく店員の話を聴いてフローラは安心…しなかった。

発汗する以上、水分補給は大事のはずだ。

だからこそ、ドリンクのみ有料に敏感に反応した。

 

 

「ここで一度、水分補給をしてもらいます」

「それは有料なのですか?」

「水は無料、他はメニュー表から注文して頂ければ販売いたします」

 

 

待機所にあったテーブルにあるメニューを渡されてフローラはそれを開いて確認した。

 

 

紅茶、オレンジジュース、粉ミルク、アップルティなどいろいろあって無駄に充実していた。

どれも鋼貨4枚というぼったくり価格である事を除けば良い事だろう。

 

 

「よし、俺は紅茶にしよう」

 

 

同じくメニュー表を拝見していたリヴァイは呟いた。

 

 

「では、アップルティにしてみようか」

 

 

エルヴィン団長は楽しそうにアップルティを選んだ。

奢る必要もなく奢られる立場に久しぶりに純粋な笑顔で注文できた。

 

 

「じゃあ俺はオレンジジュースで!」

「僕は粉ミルクを…!」

「アルミンは何をするんだ?」

「エルヴィン団長と同じアップルティにしようかな」

 

 

その様子を見て同期たちは、好き勝手に注文して頭が痛くなったフローラ。

結局、72枚の鋼貨を支払うことになったが重量のせいで持ち歩いている訳がなく…。

仕方なく小切手で前払いをした。

一日に4人家族が消費する小麦の72日分である。

さきほど調査兵8名を奢ったのもあり、一日の出費では上位である日に心の中で泣いた。

 

 

「今後ともごひいきに」

「他に別料金とか取られませんか?」

「備品を壊さない限り、大丈夫です」

 

 

念を押して確認したフローラは、未知なるサウナに興奮している8名を見て作り笑いをした。

サウナ調査兵団の団長として、険しい顔をするわけにはいかないからだ。

 

 

「皆さま、次は入浴して身体の汚れを落としにいきますがよろしいですか?」

「問題ないぞ」

「さすがにこのまま入るのは無理だったか」

 

 

フローラは初心者用のサウナガイドブックに目を通して8名を案内していく。

サウナ自体は混浴だが、水風呂は男女別のようであった。

城塞都市に流れている川から水を引いているようで水自体はただのような物である。

 

 

「よし、身体をキレイにするぞ!」

「どっちがキレイになるか勝負だジャン!」

「おっ!言いやがったな!!」

 

 

何故か身体を洗う事に対抗心が出たジャンとエレン。

 

 

「リヴァイ、背中を洗ってあげようか?」

「冗談を言ってる場合か?」

「では、私の背中をゴシゴシと強く洗ってくれ」

「皮膚ごと汚れを削り落として奇麗にしても良いならやってやるが?」

「頼む」

 

 

エルヴィンは、背中をリヴァイに洗ってもらおうと備え付けられた石鹸とタオルを渡した。

さすがに困惑した彼であったが潔癖症である以上、異様に汚れているエルヴィンが許せなかった!

 

 

「リヴァイ!これ以上は結構だ!!」

「黙って洗われてろ!こんなに垢塗れでよく暮らせてきたな!」

 

 

リヴァイは団長の汚さにキレて背中を洗い始めた!

あまりにも念入りに洗われてエルヴィンが悲鳴をあげたが無視をした。

 

 

「団長と人類最強の男と入浴だなんて…一生忘れないよ」

「ベルトルト、お前!ここに何しに来たか忘れたのか?」

 

 

他人事のようにベルトルトは、リヴァイとエルヴィンペアを見て感想を述べた。

…が、ライナーの一言で目覚めた!

 

 

「そうだった…僕たちは【座標】を奪還して故郷に…」

「何言ってんだこいつ」

「えっ…」

「俺達、サウナを調査する為にここにきたんじゃねぇか!ここで満足するわけにはいかねぇぞ!」

「ええっ!?」

 

 

戦士モードになったベルトルトであるが、兵士モードのライナーの一言で意気消沈した。

自分達には戦士としての心得を何度も注意してくる癖に自分は兵士になり切っている男。

アニもベルトルトも、ライナーに呆れているが、リーダーが彼のせいで黙って従っている。

本来の隊長であるマルセルが変なタイミングでカミングアウトした挙句戦死したせいであるが…。

 

 

「おっ!アルミンの股間は身体に似合わずご立派だな!」

「ライナー!やめてよ!!」

 

 

ライナーは隣にいたアルミンの股間を見て素直な感想を述べた。

アルミンは顔を真っ赤にして両手で股間を抑えて怒った!

 

 

「やっぱ、あの野郎!『そっち側』だったか」

「巨人のケツにぶちこむとか言ってたし、やっぱそうじゃねーの?」

 

 

ジャンとコニーは、ライナーが男好きだと勘違いしていた。

確かにがっしりとして立派な体格である兄貴分だが、女より男が好きそうな感じがしていた。

デリカシーの無さも、そう考えると納得できる。

 

 

『楽しそうでズルいわ!』

 

 

フローラは独りぼっちで身体を洗っていた。

傷塗れのせいで一歩間違えると出血してしまうせいで、上手く身体が洗えなかった。

誰もフローラに関して言及が無いのは、女として見られていない証拠だった。

もしクリスタやミカサであったら何かしら言及されているのはフローラ自身が分かっていた。

 

 

-----

 

 

「次はサウナに行きますわ!」

「待ってたぜ!!」

 

 

腰にタオルを巻いている半裸の男のイラスト通り、全員が半裸で腰にタオルを巻いていた。

 

 

「あれ?」

 

 

ベルトルトは違和感を覚えたがフローラに伝えられなかった。

 

 

「おいドアが開かねぇぞ!」

「リヴァイ、ここは私に任せてくれ!」

「……まだか?」

「なんだこのドアは…」

 

 

自信満々にドアを開けようとしたエルヴィンであったがドアが開かなかった。

蒸気を使うので特殊な構造になっているのだろう。

フローラは、サウナキーを鍵穴に刺して引っ掛けて引くとドアが開いた。

 

 

「「「「暑っ!?」」」」

「…なんか想像以上に狭い空間だな」

「そりゃあ、お前!蒸気を満たすんだからこんなもんだろう」

「えーっとガイドブックでは、上段に座るほど熱くなるそうよ」

「温かい空気が上に行くからな。その関係だろう」

「そういえばそうだな…」

「さすがです!」

 

 

入室した瞬間、高熱の蒸気に驚いた一同であったが、新鮮な気持ちになれた。

フローラの説明の疑問に、エルヴィンの一言で全員が感心していた。

団長ではなく、一個人として尊敬されたエルヴィンは嬉しそうに微笑んだ。

さきほどの失態を無かった事にしようとしていたのかもしれない。

 

 

「10分ほど入浴したら水風呂に向かう予定です」

「本当にここで10分も耐えないといけないのか?」

「ん?ジャンはすぐに出て行っても良いんだが!」

「なんだと!お前こそ蒸気に蒸し焼きにされる前に出ろよ!」

 

 

エレンとジャンは再び喧嘩した。

 

 

「どっちがサウナに長く入浴できるか勝負だ!」

「望むところだ!死に急ぐんじゃねえぞ!」

 

 

彼らは高熱の蒸気にどこまで耐えられるか我慢勝負になった。

フローラは呆れながら高熱になった石に水をかけた。

凄まじい勢いで蒸気が噴き出して部屋中が更に暑くなった。

そして全員が腰掛けて高熱に耐えながら待機していた。

 

 

「…ねえライナー」

「どうしたんだベルトルト?」

「みんな半裸だよね?」

「そうだが?」

 

 

ベルトルトはずっと気になっていた事を相棒に打ち明けた。

ライナーは、何故彼が当たり前の事を問いかけるのか分からなかった。

 

 

「なんで女の子のフローラも乳首丸出しで居るの?」

「ん?ベルトルト、初めて見たのか?」

 

 

リヴァイやエルヴィンですら気にしていなかったがフローラも半裸であった。

フローラからすれば、乳首丸出しで平気な男衆に囲まれているせいか、疑問に思っていなかった。

ミーナに女子力が無いとまで言われた【性別フローラ】の異名を持つ女は格が違った。

当然、全員が気にするはずだが、まあフローラだしと気にせずに蒸気に耐えていた。

 

 

「こんなのおかしいよ」

「ベルトルト君」

「エルヴィン団長…!」

 

 

ベルトルトはエルヴィン団長がフローラを叱ってくれるのを期待していた。

 

 

「考え過ぎだよ。まずサウナを存分に味わおうじゃないか」

「団長!?」

「おいベルトルト静かにしろよ!」

「そうだぞ煩いぞ!!」

「ええっ!?」

 

 

当然の指摘をしたはずなのに何故か怒られたベルトルトはショックを受けた。

もしかして自分が頭がおかしいのかと思ったが、アニならこんな事はしないだろう。

 

 

「暇だし、フローラの背中の傷でも数えないか?」

「エレンにしては良い案だ!」

「一緒に数えて間違えないようにするぞ」

「ああ、そうしよう」

 

 

暑さに耐え切れなくなったエレンとジャンは誤魔化すようにフローラの傷を数え始めた。

フローラからすれば、腹が立つことであるが、エレンが訓練兵時代のように戻ったので我慢した。

 

 

「2人とも、大声で数えると煩いから静かに数えてよ」

 

 

アルミンまでツッコミを放棄しているのに戦慄したベルトルトは頭を抱えた。

 

 

「チッ!うるせぇな」

「そういえば、こうやって一緒に入浴するのは初めてだったな」

「ああそうだな」

「どうだ、調査兵団に入団して私を恨んだか?」

「最初はな…ただ巨人を絶対、俺の代で一匹残らず駆逐する気持ちの方が大きくなったな」

 

 

リヴァイは、地下街でエルヴィンと出会ったことを思い出していた。

今思えば、荒れていた時期であったが、それも悪くない気がした。

 

 

「「101、102、123」」

「おい、数を間違えてるぞ!」

「なんでオレに言うんだよ!お前だって間違えただろう!」

 

 

同時に数字を間違えてしまい口論した2人、これでまた数え直しである。

喋るせいで更に暑苦しくて疲弊していく彼ら。

 

 

『アニの…乳首』

 

 

ベルトルトは、フローラという半裸にアニの頭を変えて想像していた。

すると、顔が真っ赤になり鼻血を垂らした。

 

 

「おいベルトルト、鼻血が垂れているぞ」

「ああっ!?うん、えーっと!そうだね!!」

「あらーベルトルト、わたくしの身体に欲情してくれるなんて嬉しいわ」

「とにかく乳首を隠してよおおおお!!」

 

 

ようやく女として認めてくれたベルトルトに嬉しがるフローラ。

大体、こいつのせいで振り回されているベルトルトは必死に女らしくするように提言した。

だが、それを受け入れれば【性別フローラ】など言われない。

 

 

「さすがに限界ね!もう出ましょう!」

 

 

アウフグースという熱風を送り込もうとしたがベルトルトが限界そうなのでフローラは諦めた。

誰のせいでこうなったと分からない彼女は恨めしそうに自分だけ熱風を送って堪能した。

エルヴィン、リヴァイ、コニー、ベルトルト、ライナー。

そしてアルミンが退室したが、まだ残ろうとしていた人物が居る。

我慢大会をしているエレンとジャンである。

 

 

『おい早く出ろよ…!』

『なんで出ないんだよ…』

『言い出しっぺのオレが残るべきだろう』

『お前に負けたくねぇ…』

『やべぇ…死ぬ』

『ここで死んだらミカサが…』

 

 

さすがに限界だった2人。

それでも負けたくない一心でその場に残っていた。

このままだと死ぬだろう。

 

 

「「ぎゃああああああ!!」

 

 

フローラはそんな2人に呆れて思う存分、熱風を送り付けた。

アウフグースされた2人は、たまらず悲鳴をあげた!

 

 

「ほら早く出なさい!」

「「でも…!」」

「良いからささっと行くわよ」

 

 

フローラはエレンとジャンの腕を握り、強制的に立たせて同時に部屋の外に放り出した。

 

 

「クソ…」

「まだ…」

 

 

ジャンとエレンは未だに我慢大会をしていた。

 

 

「サウナ我慢大会の勝者はわたくしよ!敗者は黙って指示に従いなさい」

「「…はい」」

 

 

腰に巻いているタオルに両手を当ててドヤァ顔しているフローラの言葉に折れたエレンたち。

彼らが競いあっているのは良い事だが、無駄な意地の張り合いに対してはどうでもよかった。

闘争心で争う彼らを問答無用で双方とも叩き潰す事に定評あるフローラ。

実際、死にかけていてお相子に持ち込んでくれた彼女に感謝しつつ水風呂に向かっていった。

 

 

-----

 

 

「よし、俺様が一番乗りをするぞ!!」

 

 

コニーはサウナから出て汗を流さずに一目散に水が入った浴槽に突撃した!

 

 

「俺様一番乗り!!ぎゃあああああああああああああ!!」

 

 

あまりの冷たさにカラスの行水よりも早く浴槽から飛び出してきたコニー。

 

 

「コニー!汗を流さずに浴槽に入るのはマナー違反よ!」

「フローラ!マジで冷たいんだって!」

「だから汗を流すのよ」

 

 

フローラは話を聴かずに水風呂にダイブしたコニーを叱りながら必死に説明した。

 

 

「あのーフローラ。ここ男湯なんだけど…」

「お湯じゃなくて水風呂って言ってるでしょ!」

「違うよ!」

「違わないわよ!ほら!さっさと汗を流してきなさい!」

 

 

フローラに勢いで誤魔化されたベルトルトは桶を手に取って、頭から水を被った。

 

 

「冷たああああああ!!」

 

 

思わず巨人化しそうになるほど彼には衝撃的だった。

それでも必死に汗を水で流していった。

 

 

「全員、汗を流したわね?」

「ああ!」

「じゃあ1分だけ水風呂に浸かるわよ!」

 

 

一斉に水風呂に浸かって冷たいのを我慢している一同。

何が楽しいのかさっぱり分からないが、口にすると負けた気がして必死に我慢した。

 

 

「次は外気浴よ!しっかり身体を拭いて水分を除去して休憩するわ」

 

 

全員が更衣室でタオルを使って念入りに身体を拭いた。

フローラもようやく胸を隠すようにタオルを巻いた。

最初からしてよ!っと突っ込みたかったが論破されるだけなのでベルトルトは諦めた。

 

 

「本当にここで休むだけで良いの?もう一度サウナに行かないの?」

「ここで足を伸ばして目を閉じて休むであってるわ」

 

 

アルミンの素朴な疑問に対してフローラも自信なさげに返答した。

全員、指示通りに備え付けられたベッドで足を伸ばして寝た。

未だにサウナに関して全然良さが分からないサウナ調査兵団の一同。

そんな彼らであったが、水風呂で冷えた身体が温まってくると恍惚感に溢れた。

身体中が痙攣して解放感に溢れる不思議な感覚。

口に出せないがこれがガイドブックに書いてあった『ととのう』って奴だろう。

 

 

「これが…サウナか」

「なんか思っていたのと違ったな」

「じゃあエレンは1人で帰宅すればいいんじゃねーか」

「はぁ?もう一回やるに決まってるだろう!」

 

 

エレンとジャンは、もう一度サウナで我慢大会するつもりだった。

コニーもアルミンはおろか、エルヴィンやリヴァイもチャレンジするつもりだ。

 

 

「うーん、なんか変な感じ…」

 

 

傷だらけのフローラには、サウナとは相性が悪かった。

それでも、何故か再チャレンジしたくなっていた。

サウナ調査兵団の団長として部下に責務を押し付ける事に恥じていたのもあったが…。

自分の意志というより更に【上位の存在】に導かれている感じがした。

 

 

「もう一回チャレンジするぞ!」

 

 

エレンの一言で全員が水分補給をして再度サウナにチャレンジをした!

サウナで蒸されて水風呂に浸かって身体を拭いて、ととのえるを繰り返して快感を覚えていった。

そして、あっという間に幸福感溢れるサウナ初体験は終わり満足した一同。

 

 

「これはお礼です」

 

 

フローラは番頭らしき店員にチップとして鋼貨7枚を手渡して店を出た。

 

 

「中々良い経験だったな」

「そうだね」

 

 

ライナーの感想を肯定したアルミン。

彼は一同の中でだらしない体格であったが、サウナで身体が立派になった感じがした。

 

 

「うーん、もう一回入りたいな」

「俺様も同感だぜ」

「次回はどうする?」

「まだ考えていないけど、また9人で入浴したいわね」

 

 

全員がサウナの感想を述べて、もう一度、サウナに入浴する約束をした。

エレン、アルミン、ジャン、コニー、ライナー、ベルトルト、フローラ、リヴァイ、エルヴィン。

サウナ調査兵団の9名は、無事にサウナを調査したがまだ調べ切れていない事がいくらでもある。

 

 

「これでサウナを探求しきれたとは言えないわ!」

「そうだな、プランにあったお香を焚くのも良いかもしれない」

「では、またの機会にサウナ調査兵団を結成しましょう」

 

 

再び調査を決意したフローラ。

調査兵団のエルヴィン団長に肯定されて【第二回サウナ調査】を行うつもりだった。

同期たちは約束して、それぞれ帰路に向かっていった。

落ち込んでいたエレンも元気になっており、リヴァイも内心では微笑んでいる。

 

だが、二度とサウナ調査兵団は結成させる事はなかった。

それを許してくれるほど、優しくない世界。

この残酷な世界は、彼らの仲を引き裂くどころか殺し合いすることとなる。

 

 

「次回はいつにしようかしらね…」

 

 

フローラはその未来を知らずに、ただひたすらに第二回サウナ調査について考えていた。

 

 

 

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