進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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5章 平穏な日常が崩れ去っても、いずれ以前の様な日常生活に戻れると思っていた時代
57話 破滅への足音


「どうしよう…」

 

 

ミカサ・アッカーマンは悩んでいた。

大切なエレン・イェーガーが再び特別兵法会議に出席しろと招集されてしまった。

前回とは違ってミカサは証人として呼ばれていない。

つまり、このままだとエレンと離れ離れになってしまう事を意味する。

 

 

「アルミン、どうすればいい?」

「難しい所だよ…このまま会議に行ったらエレンが憲兵団の管轄になっちゃうよ…」

 

 

エレンの幼馴染であり親友であるアルミン・アルレルトも明確な答えを見つけられなかった。

第57回壁外調査でエレンの存在意義を示そうとしたが、失敗に終わり今に至る。

カラネス区に侵入した巨人騒動のせいで、有耶無耶になったが事態が落ち着いたので招集された。

下手すればエレンどころか調査兵団は解体されて、駐屯兵団の一部隊になるかもしれない。

 

 

「確かに、あの野郎が憲兵団に大人しく管理されるタマじゃねえよな…」

「ジャン、君も心配なのか?」

「ふん、いつも喧嘩してきたが…いざ居なくなると寂しくなるっていうもんだ」

 

 

ジャン・キルシュタインもなんとかエレンを取り戻そうと考えていた。

だが、調査兵団の幹部が招集されて、同期たちは南方にある施設に移動してしまった。

何故、今頃になって集団で訓練させられるのか理解できなかったが命令だからしょうがなかった。

 

 

「こうなったらエレンの身柄を確保して逃げるしかない」

 

 

ミカサは既に王政に見切りをつけてエレンを連れて、ウォール・マリアで暮らそうとしていた。

そこであれば憲兵団の追跡も免れて巨人に気を遣えば平和に暮らしていける。

トロスト区の水門で駐屯兵団に追い詰められた時に思い浮かべていた案を実行しようとしていた。

 

 

「でも、僕たちはガスボンベや立体機動装置を許可なく持ち出す事はできない…」

「そうだな…」

「エレン…」

 

 

アルミンの言う通り、ガスボンベや立体機動装置は徹底的に管理されている。

もし、許可なく持ち出せば疑われるのは間違いないだろう。

それでもミカサの案にジャンもアルミンも反対しないのは、そこまで彼らは追い詰められていた。

具体的な案が思いつかず、全員が人数分のガスボンベと立体機動装置を確保するのを諦めていた。

 

 

「ちょっと待って!居るじゃないか!全員のガスボンベや刃を持ってこれる人物が!」

「はあ?新兵の俺たちの為に行動してくれるわけないじゃないか…」

「居るよ!僕たちの同期に全員分の装備を用意できる人が!」

 

 

アルミンは、同期の中で全員分の装備を用意できる人物を思い出した。

同じく南方訓練兵団104期生のフローラ・エリクシア。

彼女は、ピクシス司令の許可で、最優先で装備を補給できる権限がある。

少なくとも壁内では、彼女はいくらでも装備を補給できた。

何度も壁外で任務をする時、必要以上に物資を持ち込んでいるのをアルミンたちも知っていた。

管理している兵士も呆れて、フローラに許可を出すだけのお仕事になっているほどだ。

 

 

「つまりなんだ、フローラにお願いして装備を持ち出してもらうのか?」

「そうするしかエレンを救う方法はないよ」

「早くフローラを探さないと…」

 

 

善は急げ!ミカサはすぐにフローラを探しに行こうとした。

しかし、訓練兵団を卒業してからいろんな場所に居るせいでどこに居るか見当も付かなかった。

昨日、一緒にサウナに行ったアルミンもジャンも、フローラの居場所が分からない。

 

 

「とりあえず、サシャに次ぐ食い意地がある奴だからどっかで食事してるんじゃねえかな…」

「よし、飲食街に向かってみよう!」

 

 

3人は頷いて、フローラが居そうな飲食街に足を運んだ。

 

 

-----

 

 

ウォール教の南部支部の主任司祭、ニック・ボーデヴィヒはお茶を飲んでいた。

いや飲まされていた。

目の前に居る兵士に助けてもらってなんとか一息ついた所である。

 

 

「おかげで助かった…」

「よりによって、このカラネス区に壁教を布教するなんて命知らずですわね…」

「仕方がないんだ、我々ができるのは宗教という希望に縋るしかないのだから…」

 

 

ニック司祭は上層部に命じられて壁教の信仰が揺らいでいるカラネス区に派遣された。

そして糾弾された。

50mの壁が巨人から守ってくるのは昔の話。

今では、蔑んでいた調査兵団が救世主で今まで信仰していた宗教を邪教として糾弾された。

偶然、通り掛かったフローラに助けてもらわなかったら投石で死んでいただろう。

 

 

「巨人の恐怖が薄まるまで布教は諦めた方が良いですわよ?」

「それはできない、私にはこのカラネス区の住民を追い詰められた心を救う使命があるのだ…」

「祈っても巨人は消えませんし、恐怖は時間だけが解決してくれるものです」

 

 

ニック司祭はそれでも布教を諦めなかった。

壁教は、確かに人を救う力があると実感している。

 

 

「私はかつて酒に溺れて家族を失い、縋るように壁教に入信した」

「信仰は、私のような人間をも救ってくれた。私は確かに救いを得たのだ」

「別に宗教自体は否定していませんわ…」

「では、どうして邪魔をするのだ?」

「この地区の住民は、すぐに掌を返します。信仰してたのに今では邪教として逆恨みするほどに」

 

 

フローラは、自分の意志を曲げて掌を返す輩が大っ嫌いである。

特に自分の都合の良い事だけ述べて、己はリスクを冒さない癖に他者には強要する輩が嫌いだ。

安全地帯で罵倒し、いざ自分の身に危険が迫ると泣きついてくるのが民衆である。

知識も知恵も経験もない癖に一丁前に口だけ回る愚民共は良く知っている。

トロスト区の極貧層もそうであった。

 

 

「食事がまずい!」

「我々は被害者だ!」

「街を護れなかった兵団に謝罪と賠償を請求する!」

「俺は鬱なんだよ!だからもっと金をよこせ!」

「調査兵団の兵士如きが指図するな!!あと脱いでやらせろ!!」

「人権侵害だ!我々は王政から手厚く保護される権利があるはずだ!」

 

 

せっかく食事と住宅を保障して仕事も斡旋したのに、付け上がって全てを台無しにした貧乏人達。

何もできず飢えた癖に、アインリッヒ大学を卒業した王政の幹部候補生以上の待遇を求めてきた。

もちろん、使えそうな奴はリーブス商会やフローラが救ってあげた。

それ以外は、おが屑のように産業廃棄物である。

なるべくしてスラム街の住民になった輩に宗教が役に立つわけがない。

カラネス区の住民はマシであるが、子供を使ってニック司祭に投石させた住民が居た。

少なくとも、布教できる環境ではなかった。

 

 

「それでも信仰が誰かの助けになるなら私は死んでもやり遂げてみせる」

「確かに信仰は、精神を落ち着かせて彷徨う子羊を導いてくれる道なのかもしれません」

「ですが、タイミングというのがあります。様子を見てから布教しても悪くないですわよ」

 

 

ちょうど憲兵がニック司祭の部下を殺害した住民4名を連行していく様子が見えた。

カラネス区に所属していた憲兵団の兵士は左遷か、不名誉除隊され、質の良い憲兵が配属された。

さっそくその仕事っぷりを存分にフローラとニック、そしてカラネス区の住民に見せつけていた。

 

 

「確かにそうだな…」

「貴方は壁教のおかげで改心できた数少ない人間です。だからこそ命を粗末にしてはいけません」

 

 

ニックはフローラの事を知っていた。

特別兵法会議に出席して証言を目撃したし、集まった住民が彼女の名を呼んでいたからだ。

なんとか窮地を脱出できたのもフローラの人望と実績のおかげだと理解している。

 

 

「フローラ、お前の活躍は聞き及んでいる。かなり腕が立つし人望があるようだな」

「必死に築き上げてきたものですから…」

「……お前の様な強い人間は、私の様なろくでなしには眩し過ぎる」

「過去の行いを反省し、自分の使命を認識して他者を救済するニック司祭も凄いと思いますよ」

 

 

ニックは思わず壁の秘密を話したくなってしまった。

でも、個人ではどうする事もできないし、人類を想うなら秘密のままにしなければならない。

 

 

「別に我々、調査兵団は壁をどうこうしようと考えておりませんわ」

「それなら良いが…」

「例えニック司祭が壁の重要な情報を握っているとしてもわたくしは問い詰めません」

「…良いのか?」

「少なくとも、新兵にどうこうする権限も無ければ、情報を聞き出すつもりもありません」

 

 

フローラは再びお茶を口にして存分に味わった。

ニックも喋り過ぎたのを実感して心を落ち着かせる為にお茶を飲んだ。

 

 

「旨いな…」

「食べ歩きや飲み歩きして印象に残った店をチョイスしてますから」

「一度、ストヘス区に帰還して信者たちに残酷な世界でも希望があることを諭す事にしたよ」

「待ってくれる方々が居るなら、まずそちらを優先した方が良いですわね」

「ご馳走になった!ありがとう」

「どういたしまして」

 

 

ニック司祭はフローラに感謝してストヘス区に帰還する準備の為、走った。

命令違反ではあるが、壁教の神父を殺害されたので上層部も現状を把握してくれるだろう。

彼はまだ死ぬわけにはいかなかった。

どうしようもない自分を待ってくれている50名ほどの信者が居るのを思い出したからだ。

 

 

「嬢ちゃんじゃないか!」

「技術4班の方々がカラネス区に来るとは珍しいですわね」

「まあ色々あってな…」

 

 

とりあえずグリズリー班長が率いていた技術4班とお茶会をしたフローラ。

新型の立体機動装置開発は、順調ではないようで改良が進んでいなかった。

ただ、新たな携行アイテムが開発されていた。

 

 

「手投げ式?」

「閃光弾や音響弾って専用の銃に取り付ける銃身だっただろう?」

「ええ、いちいち取り付けるのが大変な物ですわ」

「そこで開発したのは、ピンを抜いて投げるだけで済むアイテムだ!」

 

 

従来の装備を改良した手投げ式の閃光弾と音響弾を班長は力説した。

従来の物は、巨人に向けて専用銃で撃つものである。

ただ、信煙弾を撃ち上げる専用銃と兼任しており、同時に撃つことができない欠点があった。

 

 

「つまり、すぐに使用できるアイテムって事ですか」

「その通りだ!」

 

 

例えば、巨人を発見して赤色の信煙弾を撃って、閃光弾を撃とうとするとかなりの手間が掛かる。

まず赤色の印がある銃身を外して、音響弾の銃身を専用銃に取り付けて発砲する暇などない。

そこで開発されたのが、携行できる手投げ式の音響弾と閃光弾である。

安全ピンを抜いて5秒後に発動する様になったおかげで信煙弾と同時に投擲できるようになった。

 

 

「それでエルヴィン団長に試験採用のお願いをしたのだが…即座に却下されてな…」

 

 

調査兵団のエルヴィン団長は、すぐさま技術4班の新装備の試験採用を却下した。

何故なら基本的に班で行動するので、わざわざ高価な新装備を採用する必要が無かった。

巨人に襲撃された時、1人が信煙弾を、もう1人が閃光弾を撃てば良いという事である。

そもそも手投げ式にしたせいで閃光弾が巨人の視覚を妨害する効果が薄いのも原因であるが…。

 

 

「そんなわけだ、無様にトロスト区に帰還するところだ」

「着目点は良いと思います。少なくともわたくしは欲しいですわ」

「…いくらで買い取ってくれるんだ?」

「開発費の半分と製造コストくらいが限度です」

「全くお人好しだな」

 

 

グリズリー班長は、それぞれ3個ずつの音響弾と閃光弾をフローラに渡した。

金貨10枚を支払って受け取った彼女はさっそく手に取ってみた。

思った以上に軽いが試作品なので性能に関しては、そこまで期待していない。

 

 

「作った本人が言うのだが、本当に使えるのか?」

「巨人の口の中に放り込んでみるのもいいかもしれません」

「マジっすか?」

「マジですわよ」

 

 

フローラは技術4班の面々と会話して、この試作品を更に改良する事、少数生産をする事にした。

どちらかというと兵士よりも城塞都市の住民の護身用品としての需要があると踏んだフローラ。

安全ピンを抜いて投擲するのは子供でもできるだろう。

ましてやトロスト区やカラネス区は巨人の脅威に晒されている。

この様な道具でも気休めになるだろう。

 

 

「よし、これからはガラクタも嬢ちゃんに買い取ってもらうことにしよう」

「グリグリさん!今とんでもない事を仰いましたね!?」

「おっと口が滑っちまった!」

 

 

逃げ出すように走り去っていくグリズリー班長と技術4班。

フローラは会計してチップを支払ってもなお、班長の言葉にショックを受けていた。

廃品をどんどん回収すれば、部屋がどんどん汚くなるのでミーナに叱られるからだ!

また廃品を持ち込まれると確信した瞬間、すぐに逃げる様に駆け出した。

 

 

-----

 

 

アルミン、ジャン、ミカサはフローラを探しに飲食店が並ぶ通りに来ていた。

 

 

「クソ!こんなに人が多いと探しにくいな…」

「フローラはどこに居るの…」

 

 

この時間帯は混んでおり、探している女が見つからなかった。

もしかしたら訓練所に居るかもしれないし、壁外任務をやっているかもしれない。

同期の中で唯一、訓練兵時代から調査兵団の任務を手伝っているので居場所に見当が付かない。

 

 

「僕に良い考えがあるよ!」

 

 

しかしアルミンには秘策があった。

珍しく下衆な顔をしている彼。

頭が良い分、悪知恵を思いつくことがあり、口角を釣り上げた『ゲスミン』の顔をしていた。

それを見てドン引きしたジャンとミカサを気にせずに彼は行動した。

 

 

「うわあああああ!あんな所に【鎧の巨人】が!」

 

 

アルミンは適当な場所を指差してフローラの両親の仇の名を怯えた様に叫んだ。

他人に話しかける程度の声量であり、他の住民が出す音に打ち消されたと思ったミカサとジャン。

発言したアルミンも声が小さかったと反省したくらいだ。

 

 

「なんですってえええええええ!!?」

 

 

異様に聴覚が良いフローラ。

特に【鎧の巨人】の単語には地獄耳であり、アルミンの声を聴いて駆けつけてきた!

 

 

「本当に来やがった…」

「すごい…アルミン!」

「ええっ…結構遠くに居たのに聴こえたの…?」

 

 

アルミンの策が成功し、フローラと遭遇した【エレン奪還班】の3名。

2人に純粋に感謝されたアルミンであるが凄まじい剣幕で向かって来る彼女に怯えていた。

 

 

-----

 

 

「むぐぐぐぐ!鎧の巨人を!わたくしを呼ぶために!わざと!?ですって!?」

「フローラ、お願い!協力して!」

「…確かに3人分の装備は確保できるけど、本当にやる気なの?」

 

 

フローラは、アルミンたちの話を聴いていて不機嫌だった。

両親の仇の名を自身をおびき寄せる為だけに使われていたの事に!

それでも我慢して話を聴くと、本気でエレンを奪還してウォール・マリアに行く3名に驚いた。

 

 

「ああ、あの死に急ぎ野郎が実験体として憲兵団に解体されるのは嫌だからな…」

「私、エレンさえ居れば、人類を敵にしてもいい」

「さすがにウォール・マリアまで憲兵団が追跡しないと思うんだ」

 

 

行き当たりばったりの作戦に眉をひそめたフローラ。

壁外任務を何度もやっているからこそ、現実的な作戦ではないと分かっている。

 

 

「そんな事、不可能よ!壁外に人が居るだけで勝手に巨人が引き寄せられるのよ!」

「じゃあ、他にどうすればいいの!?」

 

 

相棒が他人事のようにしているのを見てミカサは代案を求めた!

 

 

「そういえばエルヴィン団長が貴方達3人を招集していたわよ」

「そうなの?」

「公式に知らせて無いとすると…もしかしたらエレンを救出する作戦かもね」

 

 

3人はエルヴィン団長がエレンを重視していたのを思い出した。

彼が策も無しにエレンを特別兵法会議に参加させる男ではないと分かっている。

調査兵団の大半に【巨人化能力者の捕獲作戦】を知らせていなかったほど慎重だった。

もしかしたら、エレンを助け出す方法を教えてくれるかもしれない。

 

 

「いつ行けばいい?」

「翌日の午前5時に兵舎近くの食堂よ」

「それって…エレンが憲兵に引き渡す1時間前じゃないか!」

 

 

集合時刻がエレンを憲兵団に引き渡す1時間前。

彼の身柄が憲兵団に渡されると、ほぼ外野からはどうすることもできない。

 

 

「それでも団長を信じましょう!」

 

 

フローラの一言で3人はしぶしぶ納得して、その場を後にした。

そして翌日、寝不足なミカサ、頭が痛いアルミン、泣いていたせいで目が真っ赤なジャン。

彼女達は、食堂の入り口前に集合していた。

 

 

「待たせたな」

「「「団長…」」」

 

 

エルヴィン・スミスは、フローラを携えて食堂に到着した。

ミカサたちは、何かを口にしようとしたが何もできなかった。

そんな彼女達を見て彼は深呼吸した。

 

 

「大丈夫だ、絶対にエレンを王政に管理させるつもりはない」

 

 

エルヴィンは、エレンと仲が良い3人を安心させるように告げた。

 

 

-----

 

 

「遅ぇな…エルヴィンの野郎…待たせやがって…クソが出なくて困ってるんだろうな」

「ハハハ…兵長、今日は良く喋りますね…」

「バカ言え、俺は元々、良く喋る……」

「申し訳ありません…」

「謝るな、結果など誰にも分からんと」

 

 

エレンとリヴァイは食堂に一足先に着いており向かい合って座っていた。

リヴァイは必死にエレンを励まそうとするが自分が怖いせいか、進展しなかった。

 

 

「団長!…お前らも…」

 

 

会話をしていくうちに扉が開く音がして振り返るとエルヴィン団長が居た。

その隣には、ミカサ、アルミン、ジャン、フローラも居た。

同期達の深刻な顔を見てエレンは、思った以上にとんでもない事だと分かった。

 

 

「君達はエレンの近くに座りたまえ」

「「「「ハッ!」」」」

 

 

団長の指示で全員がエレンの周りに座っていく。

そして全員が座ったのを確認したエルヴィンは口を開いた。

 

 

「女型の巨人と思わしき人物を見つけた…今度こそ確実に捕える」

「作戦は我々が王都に招集される途中で通過するストヘス区で決行される」

「そこが最初で最後のチャンスになるだろう」

 

 

王都に招集されているエレンと調査兵団の幹部たち。

彼らは、人類活動領域の最東端から壁内の中央に向かって進軍していく。

カラネス区から西に向かうと、ウォール・シーナの最東端であるストヘス区に着く。

フローラは、ストヘス区に何度も行っており、馴染みがある城塞都市である。

リヴァイが好物な紅茶もそこで購入したり、同期達のお土産もそこで買っている。

その街より西方が王都ミットラスがあり、エレンが裁かれるのはその街だ。

 

 

「これに失敗すれば、次は無い。だからこそ全てをここに賭けるしかないだろう」

「間違いないのか?」

「ああ、それを割り出したのはアルミンだ。この作戦を立案したのも彼だ」

 

 

それを聴いてエレンはアルミンを尊敬した。

女型の巨人の正体を特定して作戦を立案した彼に!

ここで自分を囮にして壁を壊す巨人化能力者を捕縛すれば一発で除供養が好転するだろう!

彼は、親友の顔を見た。

 

 

「…アルミン?」

「うん…」

 

 

何故かアルミンは浮かない顔であった。

まるで…。

 

 

「女型は、捕獲した巨人2体を殺した犯人であり君達、104期訓練兵…同期の可能性がある」

「えっ…」

 

 

一瞬、エレンの頭が真っ白になった。

女型の巨人が自分と3年間過ごしてきた同期の誰かだというのだ。

聞き間違いだと信じたかった。

 

 

「その女型の巨人と思わしき女性の名はー」

「まさか、アニ・レオンハートと仰るつもりじゃないですよね!?」

 

 

不機嫌になったフローラがエルヴィン団長を牽制した。

エレンはもちろん、その場にいた全員が彼女の顔を見た。

複雑の表情をしており、何か事情を知っているようであった。

 

 

「緘口令を敷いて、この場で正体を知ってるのは私とアルミンだけだ。何故分かったんだ?」

 

 

エルヴィンは、フローラを問い詰めた。

彼女の活躍や素性で壁内を襲撃する巨人化能力者及び加担している人物ではないと分かっている。

むしろ、中央憲兵や王政トップと何度も接触されている問題児だと分かっていた。

そんな彼女が何故、女型の巨人の正体がアニと思ったのか気になった。

 

 

「第57回壁外調査における撤退作戦中にアニと思わしき人物が居ました」

「本隊から逸れた残存兵力を率いていたのは君だったな…その時か?」

「はい…」

 

 

フローラは、アニが女型の巨人の正体だと薄々気付いていた。

巨人化したエレンにぶっ飛ばされた後、撤退する為に生存者を掻き集めていた。

だが、リヴァイ班のグンタを殺害した【敵】は調査兵団の格好をしていた。

だから、自分が助けた兵士の中に女型の巨人が紛れている可能性があると分かっていた。

 

 

「本隊から逸れた兵士を掻き集めた時に、所属していないはずの女兵士が居ました」

「顔を包帯で巻いており、フードを深く被っており、まるで正体を隠しているようでした」

「声も体格も瞳もアニと同じでしたが、憲兵の彼女が居るわけないので別人物だと思って…」

 

 

フローラは負の感情を“声”として聴ける特殊能力がある。

あの時、兵士の声がアニとそっくりだった。

そしてストヘス区で彼女と再会した時、その兵士と声が同じであった。

 

 

「わたくしは必死にそれを否定する証拠を集めていました」

「ストヘス区で再開した時に、壁外調査の当日、アニは休暇を取っており不在と知りました」

「そこで、アニが女型の巨人だと裏付けてしまいました…ただ信じたくなかっただけです…」

 

 

知り合ったヒッチから、アニが当日、休暇で職務に着いていないのを知った。

そこで、必死に否定していたフローラはアニが女型の巨人だと皮肉にも裏付けてしまった。

ただ信じたくなかった。

美味しそうにドーナツを頬張って楽しそうに説明してくれる彼女を…。

ヒッチやミーナと楽しく雑談して本心を少し明かした彼女を…。

少しだけ楽しそうに自分やエレンに格闘技を教えてくれた彼女を…。

 

 

「そうか…」

 

 

エルヴィン団長は、フローラが必死に否定する証拠を探していたのに気付いた。

皮肉にも調べるほど疑いが確証になってしまった彼女に同情した。

 

 

「フローラ…お前、知っててアニと再会してドーナツとやらを一緒に食べていたのか?」

「何よエレン…あくまで【間接証拠】であって【直接証拠】じゃないのよ!」

「誰もアニが女型の巨人になる瞬間を目撃してないし、裏付ける証拠は…アルミンが…!」

 

 

ここでフローラは気付いた。

それこそアルミンがアニが女型の巨人と割り出しているはずだ。

決定的な証拠がなければ、団長を説得できるはずもない。

 

 

「女型の巨人は、エレンの顔を知っているどころか、あだ名すら知ってました」

「同期しか知らないはずの『死に急ぎ野郎』で反応しました」

「確かにそうだな…」

 

 

アルミンの話を聴いてジャンは思い出した。

ライナーと4人で女型の巨人の足止めをした時、確かに反応していた。

そもそもエレンを死に急ぎ野郎とあだ名を付けたのはジャンである。

もしアルミンの一言で動きが止まらなかったら、殺されていたと彼が一番自覚している。

 

 

「何より捕獲した巨人2体を殺害したと思われるのはアニだからだ…」

「あの2体の殺害には使い慣れた自分の立体機動装置を使用して…」

「検査時にはマルコの物を提示して追及を逃れたんだ」

 

 

マルコの立体機動装置と聞いてエレンは疑問に思った。

何でそこでマルコが?

そして何より、なんでアルミンがマルコの物だと判断できたのかを…。

しかし、その話を聴いて青ざめた男が居る。

マルコの死で、覚醒したジャン・キルシュタインである。

 

 

「おいフローラ!マルコの死体に立体機動装置が無かったよな!?」

「…そうね、戦死した他の兵士は身に着けていたのに何故かなかったわね…」

「アニがマルコの立体機動装置を強奪したとしたら…アルミンの話が裏付けられるな!」

 

 

フローラとジャンは、顔を齧られて死んだマルコに立体機動装置が無かったのを目撃した。

あの時は、フローラは優しい彼が誰かに貸したと発言して有耶無耶にした。

もし、それが貸したのではなくアニに強奪されたとしたら…!

 

 

「点と点が繋がったな」

 

 

どんどんアニが女型の巨人という証拠が出てくるのを聴いてエルヴィン団長は頷いた。

 

 

「作戦を伝達する!」

「アニをストヘス区の地下通路へと誘導する!例え巨人化しても動きを封じて捕縛する!」

「だが、万が一その前に巨人化した場合…エレン、君に頼むことになる」

「オレが…!」

 

 

エレンは、あの時の事を思い出した。

意識を失う瞬間、女型の巨人がアニと同じ構えをしたことをー。

そのせいで一瞬、隙を作ってしまいやられてしまったことを。

 

 

「アニとの接触は、エレン、ミカサ、アルミンの3人で行ない、他は市民に紛れて周囲に潜伏」

「彼女を取り押さえるが、万一に備えて一部の兵士は武装して待機」

「彼女の監視をしてもらう、フローラはそちらの班に所属するように」

「…了解しました」

 

 

フローラは友人に刃を向ける。

自分の顔を見ていつも安心してくれたアニ。

香水を渡す度に顔は変えないが、すぐに香水を使用してくれた彼女。

女型の巨人の可能性が高い以上、やるしかなかった。

 

 

「奴は何をしてくるかわからねぇからな。ちゃんと見張っておけ」

「ハッ!承知しました!」

 

 

リヴァイはフローラに念を押した。

同期だからって油断するんじゃねーぞ…と!

 

 

「オレがアニを…」

「信じたくねぇが…あの反応はな…くそっ!」

「オイ!エルヴィン!さっきから女型だと思うと言ってるが、実際に確認したのか?」

「…リヴァイ、何が言いたいんだ?」

 

 

リヴァイは、まだ希望を捨ててなかった。

アニという女は知らないが、104期調査兵たちの反応から大切な同期だと分かった。

アニがマルコとやらの立体機動装置を所持しており、捕獲した巨人2体を討伐したのは分かる。

ただ、実際に彼女が女型の巨人になったと断言できる証拠がない。

 

 

「つまりだ!【女型の巨人の能力者】にアニとやらが脅迫されている可能性もある」

「えっ…」

「誰もアニが女型の巨人になった瞬間を目撃していない以上、無実の可能性は否定できんぞ」

 

 

リヴァイ兵長の話を聴いてエレンはもう一度、同期や団長を見た。

誰もが兵長の意見に反論できる証拠がないと分かった。

 

 

「じゃあ、どうするんだよ…アニが女型の巨人じゃなかったら!」

「アニじゃなかったら…アニの疑いが晴れるだけ」

 

 

エレンの問いに対して、淡々と返答したミカサ。

むしろ、そうであって欲しいと彼女も思っている。

 

 

「女型の巨人がアニじゃなかったら、真犯人はわざとアニを疑わせていると裏付けられるわね」

「…どういうことだ?」

「調査兵団にアニを殺害してもらって、【女型の巨人は存在しない】と見せかけるのよ」

「そして、油断したわたくしたちを奇襲してくるかもね」

 

 

フローラの発言で、アニを生け捕りする大切さが分かる。

ここで死なせれば、真相が解明できないどころか、第57回壁外調査の犠牲者が無駄になる。

エルヴィンもリヴァイもアルミンもジャンもフローラもミカサも今までの苦労が水の泡になる。

 

 

「少なくともアニ・レオンハートが女型の巨人と接点がある以上、作戦をやる価値はある」

「団長…」

「そうだよエレン、僕たちが行動しないと、みんなの犠牲が無駄になっちゃうよ」

 

 

アルミンは、ネス班長の事を思い浮かべていた。

自分、いや同期を守るために奇行種を平原で討伐してみせた。

そんな彼は女型の巨人に殺害されてしまった。

それは許される事ではない。

ここで踏み込まないと、第57回壁外調査の犠牲者が全て無駄死になってしまう。

 

 

「とにかく君達、3人はアニを地下道に誘導するだけでいい」

「そこで真相が分かるだろう」

 

 

エルヴィン団長の言葉が深く圧し掛かる。

この機会を逃せば、全てが終わる。

エレンの為にも!

廃止されそうな調査兵団の為にも!

壁内人類の未来の為にも!

そしてなによりアニの疑いを晴らす為にもやらなければならなかった!

 

 

「分かりました!必ず遂行してみせます」

「良い返事だ」

 

 

エレンの返答に満足したエルヴィン。

この場に居る全員が必ず任務を成功してみせると誓った。

 

 

『アニ…』

 

 

大切な同期が壁内人類を滅ぼそうとしている勢力ではないと、信じたかったフローラ。

だが彼女の両親を殺害した仇である【鎧の巨人】も同期に潜んでいるとは知らなかった。

両親の仇と仲良くやっていると思いたくない彼女は、最後までアニを信じていた。

 

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