進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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59話 残酷な世界

訓練兵団に入団して2年目、ミカサ・アッカーマンは調理場に向かっていた。

道中ではエレンとジャンが夕飯を巡って喧嘩しており、キース教官に発見されて飯抜きになった。

大切なエレンが飯抜きになったのは重要だが、それより用があった。

 

 

「何をしているの?」

 

 

ミカサは調理場で芋の皮剥きをしている女に質問した。

 

 

「……何って?」

 

 

アニ・レオンハートは、深刻な顔をしたミカサの顔を見て何か勘付かれたと分かった。

だが、何を気付かれたか分からないので、しらばっくれるしかできなかった。

こういう時に下手に発言すると余計にボロが出るからだ。

 

 

「見ての通り、調理当番だから芋の皮剥きをしているけど…ミカサこそ当番じゃないだろう?」

 

 

ミカサは黙って調理場の扉を閉めた。

一見するとアニの発言や行動、表情には問題なさそうだった。

ただ夜な夜な兵舎から抜け出しており、何かやっているのは分かっていた。

 

 

「訓練所に落ちていた…対人格闘訓練の時に貴女が落としたものだと思う」

「…確かに私のだね。どうも…」

 

 

アニは、落とし物を拾ってくれたミカサに感謝して指輪をもらおうとした。

ミカサが細工されたレバーを引いて指輪から棘を出すまでは。

 

 

()()は何?」

「…護身用の仕掛け」

 

 

半分嘘で、半分本当である。

武器になる時点で護身用には間違いないが、その程度の棘では役に立たない。

あくまで気休め程度…と見せかけて巨人化する為の道具である。

アニは、調理場にある包丁の柄から手を放して無防備状態にして会話に参加した。

 

 

「護身用?対人格闘に長けている貴女が?こんな棘を出す指輪を?」

「格闘術だけでは対応できない事態があるからね」

「貴女の格闘術で対応できない事態にこの指輪は役に立つわけない」

「…何が言いたいの?」

 

 

指輪をミカサは追及したい様で、明確な答えが出るまで逃がしてくれそうもなかった。

アニは、嘘を交えてその指輪に関して話をする事にした。

ここで人間の血など流したくないのだから…。

 

 

「貴女が何故、何の為にこんな物騒な物を持ち歩いているのか質問したいだけ」

「父親がくれたよ。いくら強くても少女じゃ親なら誰だって心配するものだろう?」

「そうね」

 

 

アニはミカサの視線が気になった。

そして気付いた。

調理場にある包丁の柄を震えるほど強く握り締めていることに…。

 

 

「私の父は酷く心配性でね、送り出す直前になって泣いてしまうほど心配していた」

「あの時、格闘術を教え込む鬼ではなく、娘を心配してくれる父だとね」

「あんたの両親だって、同じ事を考えたはず…」

「両親は居ない!殺された!!」

 

 

ミカサの両親は人攫いの3人組に殺害された。

ウォール・マリア陥落に続いて2回も日常を破壊された彼女は油断しなかった。

エレンを失わない様に細心の注意を払って敵を排除する…それだけだった。

 

 

「フローラと同じシガンシナ区出身だったね…悪いね、変な事を言って…」

 

 

度々問題を起こしているフローラ・エリクシア。

彼女はウォール・マリアを繋ぐ扉を【鎧の巨人】が破った時に飛んだ瓦礫で両親が潰された。

その時のショックで、大半の記憶が喪失し、鎧の巨人を討伐する事を夢見る女である。

是非とも、絶望した鎧の巨人を討ち取って首を自分に見せて欲しい物だ。

 

 

「こちらこそごめん、指輪を返す」

「ありがとう」

 

 

ミカサは指輪のレバーを触り、棘を収納したのを確認して持ち主に返却した。

これ以上追及してもはぐらかされると思ったし、事情が分かったので無理やり納得した。

 

 

「私はただ、そんな物騒な指輪を嵌めてエレンと対人格闘して欲しくないだけ」

「訓練中に何かの弾みで棘が飛び出したらエレンが怪我をする」

「ああ、なるほどね。安心しな、これはお守りみたいな物で滅多に身に付けないから…」

「…そう、邪魔して悪かった」

 

 

一番言いたい事を告げたミカサは調理場から出る扉に向かっていく。

その後ろ姿をアニは見る事しかできなかった。

 

 

「…アニは何で兵士になろうと思ったの?」

「憲兵になって安全で快適な暮らしをする為さ、他の連中と同じだよ」

「あんたといい、シガンシナ区出身の連中は違うようだけどね」

 

 

南方訓練兵団におけるシガンシナ出身の訓練兵は意外と少ない。

誰もが家族を失っており、指を指されて笑われるより開拓地に行き生産者になるのを望んでいる。

だからこそ、巨人の恐怖を乗り越えた者は、誰も憲兵になる事を望んでいないようである。

主席で卒業しそうなミカサも、調査兵団に所属するエレンについていくのは誰もが分かっていた。

 

 

「アニが憲兵団に行きたいのは分かる。でも他の連中と理由が違うと思う」

「内地に行きたい、贅沢をしたい、王様に身を捧げたいマルコも居たけど、あんたは違う」

「『憲兵にならないといけない』から努力しているように見える」

 

 

アニは憲兵になって王政について探るつもりだった。

何度も偵察に行ったが相応の身分がなければ疑われて追跡されるからだ。

殺人経験が豊富そうな帽子を被ったおじさんに追われて、泣く泣く下水道に逃げ込むのは御免だ。

それに憲兵になれば【座標】に関しての情報が触れられる機会があるかもしれない。

他の戦士も憲兵を目指しているが、真面目に偵察する気が無い以上、自分が頑張るつもりだ。

 

 

「誰だって何かを抱えているだろう?そいつらの抱えている物と大して変わらないよ」

「この指輪は何も役に立たないかもしれないけど、何かしらの役割の為に作られたものだから…」

 

 

アニは【戦士】になりたくてなったわけじゃない。

時代や環境が許さなかったから戦士になっただけだ。

ただの駒として扱われて、役割があるからそれを全うするだけである。

104期訓練兵も時代や環境が許さないから【兵士】になろうとしている。

 

 

「そういう物に対して冷酷になれないんだ」

「例えどれだけ細やかで誰にも顧みられない物としてもね…」

「多分、それが私の抱え込んでいる問題だよ」

 

 

ただ他者と違うのは、自分には【任期】がある。

使用期限のある道具である以上、効率良く行動しなければならない。

例え【座標】を指示通り奪還し帰還して、お役御免で使い捨てられる駒だと分かっていても…。

それでもアニは使命を果たすつもりだ。

父との約束を守るだけで…良かった。

 

 

「…()()()()()()()()()()()()()()()()()()…そんな事が起きない事を祈る」

 

 

ミカサは、アニの表情から嘘は言っていないと分かった。

誰かを危害に加える為に指輪を持っていないとようやく納得して調理場から出ていった。

 

 

-----

 

 

アルミンが専用銃の発砲音の合図で物陰で潜んでいた兵士たちがアニに襲い掛かった。

ウォール・ローゼの通行許可証を偽装した事があるからこそ本物を見て、油断していた彼女。

成す術もなく兵士に腕や脚を掴まれ、舌を噛まれない様に布を嚙まされた。

この瞬間の為に、訓練してきた兵士たちに抵抗できるはずもなかった。

 

 

「やった…これで」

 

 

アルミンもエレンもアニ・レオンハートの無力化し捕縛が成功したと実感した。

だが、ミカサは見逃さなかった。

アニの右手の人差し指に仕込み指輪があるのを!

 

 

「くっ!一歩…遅かった」

 

 

ミカサは油断した2人を掴んで無理やり強く引っ張った。

指輪から棘が飛び出したのを見て確信に変えた彼女は全速力で奥に向かっていく。

それを見届けたアニは、棘による自傷をトリガーにして巨人化した!

ただでさえ中隊規模すらない調査兵団の兵士を一度に20名以上、巨人化による爆風で殺害した!

 

 

「えっ…」

 

 

エレンはミカサに引っ張られるまま通路の曲がり角に居た。

さきほどまで居た場所に民間人に扮した兵士達の無残な骸があり、壁を血と内臓で汚していた。

 

 

「2人とも怪我はない!?立てるなら走って!」

 

 

ミカサは、再び彼らを掴んで無理やり引っ張りながら走った。

巨人の手がこちらに迫って来ていたので逃げるしかなかった。

 

 

「どうやって巨人化したの!?舌を噛む暇すらなかったはず…」

「指輪に刃物があった、それで指を切って巨人化した」

「そんな…僕の嘘は気付かれていたのか。もっといいやり方があったはず…くそぉ…!」

 

 

ミカサは、格闘術で対処できない事態に役立つ指輪を彼女に返したのを後悔した。

アルミンは、ミカサの返答で自分の想定の甘さで死なせた兵士を想い、悔やんだ。

エレンは何もできなかった自分を恨んだ。

 

 

「反省は後!これからどうすればいい!?」

「まず奥に居る3班と合流して地上に脱出して二次作戦の通りに女型の巨人と戦う!」

 

 

異音と衝撃で気付いた3班がこちらに向かって来ていたのをエレン達は目撃した。

ここから巨人化してアニの捕獲作戦に協力する。

本当にできるのかエレンは心配した。

 

 

「おーい!捕獲作戦は…ごがああああっ!!?」

 

 

駆けつけた3班は、アルミンに話しかけようとした瞬間、天井が崩れて瓦礫の下敷きになった。

女型の巨人によって地下道を踏み抜いたせいである。

 

 

「助けないと!」

「エレン下がって!」

 

 

瓦礫の下敷きになった兵士たちを助けようとしたエレンをミカサが制止した。

更に天井が崩れる危険性があったし、助からないと分かっていたからだ。

 

 

「あいつは…エレンを殺す気なの!?」

「さっきの爆発といい、エレンが死なない事を賭けて攻撃してきたんだ!」

「アニは死に物狂いでエレンを奪取するつもりだ!退路を塞がれた以上、どうしようもない!」

 

 

地下道から出るには入り口か、さきほど空けられた穴から出るしかない。

ただ、アニが待ち構えており、圧倒的に不利である。

近くに待機していた武装した兵士も、さきほどの爆発で吹っ飛ばされて役に立たないだろう。

 

 

「オレが…オレがなんとかする!巨人化してお前らを守る!その隙に脱出してくれ!」

 

 

以前、トロスト区の水門で榴弾からミカサたちを守った時みたいに巨人化しようと右手を噛んだ。

だが、巨人化する事もなくただ痛みと血で地面を汚す結果で終わった。

 

 

「またかよ…こんな時に…!」

「目的が無いと巨人化できないんだっけ?もう一度、強くイメージしよう」

「やってる!でもできないんだ!なんでだ!?」

 

 

エレンは必死に巨人化しようとした!

ミカサやアルミンを守る気持ちは、砲撃された時と同じである。

でも何故か、ここでは巨人化しなかった。

 

 

「まだアニと戦う事を躊躇してるんじゃないの?」

 

 

ミカサの一言でエレンは固まった。

 

 

「まさかこの期に及んで…アニが女型の巨人じゃないと思ってるんじゃないの?」

 

 

ミカサは、エレンの足りない物に気付いた。

女型の巨人ではなくアニを殺そうとする覚悟である。

自分は巨人の本能に支配されて暴走するからアニもそうであって欲しいという甘さ。

この残酷な世界では不要な感情である。

 

 

「あなたの班員を殺したのは、あの女でしょ?まだ違うと言い切れるの?」

 

 

エレンはミカサに覗き込まれて目を逸らした。

 

 

「分かってる!そんなこと!」

「じゃあ、なんで目を逸らしたの?」

 

 

ミカサは確信した!

エレンは、アニに対する特別な感情を抱いており、それのせいで巨人化を妨げていると!

アルミンもミカサの一言で事情を察した。

 

 

「作戦を考えたよ、僕とミカサがそれぞれの入り口に出るんだ」

「それって…」

「うん、女型の巨人はどちらかに対応すると思う」

 

 

さすがに同時に出てくれば、どちらかに対応するしかない。

立体機動で飛び回れる以上、片方に集中しないとどちらにも逃げられるからだ。

 

 

「待てよ!それだとお前らのどっちかが死んじゃうじゃないか!」

「ここに居ても3人死ぬだけだよ」

「アルミン、位置に着いて!」

「うん、分かった!」

 

 

アルミンは、エレンが戦闘可能な心理状態だと思ったから安全地帯に行ってもらう事にした。

不測な事態である以上、彼を酷使するより安全地帯に待機してもらう方が良い。

何故なら、アニの狙いはエレンである以上、再び攫われるのだけは避けなければならない。

 

 

「な、なんで…お前らは…戦えるんだよ!」

 

 

エレンは信じられなかった。

相手は格上の知性がある巨人だ!

まともにやりあって勝ち目がないのは誰もが分かっているはずだ。

それなのにミカサもアルミンも躊躇いなく行動で来ていたのに衝撃を受けた。

ミカサもまた、何で歩み続けれるのか分からなかったが、ただ一つ言えることがあった。

 

 

「仕方ないでしょ?世界は残酷なんだから」

 

 

ミカサはエレンを諭すように振り返って発言した。

世界が残酷である以上、戦い続けるしかない。

突き進む道が地獄であると知っていても戦うしかできない。

そこで立ち止まれば今までの犠牲が全て無駄になる。

ならば、進撃し続けるしかない。

 

 

「そうか…そうだよな」

 

 

ミカサとアルミンが合図を出し合って外に飛び出したのを見て俯いたエレンは覚悟を決めた!

 

 

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『エルヴィンめ…何を企んでいる』

 

 

憲兵団の師団長であるナイル・ドークは、大人しいエルヴィンに疑問に思っていた。

彼なら王都に招集されて特別兵法会議を開かれれば絶対に勝ち目が無いのは知っているはずだ。

同期だったからこそ、何かを企んでいるのは理解している。

だが決定的な証拠がない以上、彼らを指摘できなかった。

 

 

「ドーク師団長!報告します!」

「どうした?」

「何故か調査兵団が民衆を避難誘導しております!」

「…はぁ?」

 

 

ドークは部下からの報告が信じられなかった。

避難誘導?この内地であるストヘス区で?

人間は想像以上の事を目の当たりにすると思考が停止する。

彼もまた、一瞬、調査兵団が何をやっているのか分からなくなった。

 

 

「…っておい!エルヴィン!何で避難誘導を…」

 

 

彼は、同期だった男に叱り付けようとした瞬間、遠くで迸る光が見えて言葉をつまらせた。

少し遅れて爆風で辺り一面を吹っ飛ばしたのか瓦礫が空中で飛んでいき爆音が辺りに響いた。

音が止んだ瞬間、馬車から黒髪の男が飛び出してきた。

護送対象のエレン・イェーガーである。

 

 

「待て、動くなエレン・イェーガー!」

 

 

近くを警護していた憲兵は、彼の双肩を掴んで止めようとした!

 

 

「変装ごっこはもう終わりだ!!」

「なっ!?」

「二度とその名を呼ぶんじゃねーぞ!馬鹿野郎!」

 

 

アニの捕縛作戦が失敗したと直感で分かったジャン・キルシュタイン!

彼は鬱陶しい黒髪のカツラを外して、憲兵の腕を振り払って駆け出した。

一目散に団長の元へ駆け出した見知らぬ男を制止するのを忘れた憲兵は思考を停止させた。

 

 

「団長!俺も行きます!」

「装備は第4班から受け取れ」

「ハッ!」

 

 

団長の指示を受けてジャンは駆け出した。

その様子を傍観していたドーク師団長は、ようやく護送していたエレンが偽物と気付いた。

 

 

「エルヴィン…あれは何だ!?どういう事だ説明し…」

「団長!装備を!」

「ご苦労!」

「おい待て待て!何をしているんだ!?」

 

 

エルヴィン団長は部下から装備を受け取って素早く着用した。

壁外に進撃する調査兵団の長として恐れどころか眉1つ動かさずに着替えてみせた。

立場が上であるはずなのに無視されたのあるが、説明せずに物事を進めていく同期に困惑した。

 

 

「護衛班!ここは良い!状況を確認してこい!」

「「「「ハッ!」」」」

 

 

とにかく異変が起こったのは確かだ。

ドークは速やかに護衛班に指示を下した。

マルロを筆頭とする護衛班は、団長の指示に従って行動した。

 

 

「ナイル、速やかに全兵を派兵しろ…!巨人が出現したと考えるべきだ」

「何を言っている!ここはウォール・シーナだぞ!巨人が…」

 

 

ここでドークは気付いた。

 

 

「エルヴィン、お前…一体、何をしているんだ…」

 

 

これがエルヴィンの策。

追い詰められた調査兵団の長が下した状況をひっくり返す切り札。

例えストヘス区に居住する罪が無い王政民を犠牲にしてでも、目標を達成する覚悟。

馴染みであった同期の顔は、悪魔の顔に見えてドークは戦慄した。

負傷して治療中のリヴァイは、ただ事の顛末を見守る事しかできなかった。

 

 

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『やはりか…』

 

 

女型の巨人もとい、アニ・レオンハートは敵の動きを待っていた。

同時に穴から飛び出してきた兵士。

まずは動きが鋭い兵士を捕捉して右手で掴もうとした。

ミカサはその指を回転斬りで両断して後方に離脱した。

 

 

『あれはミカサ、じゃあもう1人はアルミンか』

 

 

アニは、まだエレンが地下道に居ると瞬時に理解した。

巨人化して不意打ちするか、逃げるかどちらか分からないがどうでもいい事だった。

まず一度、襲撃してくる調査兵の追手をなぎ倒して撤退するつもりだ。

嵌められた以上、明らかにここに留まるのは不利であった。

 

 

「女型の巨人を逃がすな!」

「足止めするだけでいい!」

 

 

爆風を免れた調査兵団の兵士たちは女型の巨人に双剣を構えて突っ込んできた。

“彼女”は高速で飛び回る兵士のワイヤーをチョップして地面に叩きつけた。

その衝撃で、民家の屋根に頭から激突した兵士は二度と動かなくなった。

 

 

「この…!」

 

 

一度離脱しようとした兵士のワイヤーを掴み、地面に叩きつけた!

彼は死ぬ前に息子の顔を思い出してそのまま、意識は二度と現世に戻ることは無かった。

フローラと違って弱点のワイヤーを見せている蠅など敵ではなかった。

 

 

「ダメだ…立体機動に熟知されていて近寄れん…」

 

 

兵士の1人が怖気づいてしまって身動きが取れなくなった。

だが女型の巨人は、戦意喪失したのに全く動く気配のない兵士に注目していた。

 

 

『…囮!』

 

 

殺意を感じて女型の巨人は振り返って右手で薙ぎ払った。

伏兵は、身体を捻って巨人の腕を勢い良く切り裂いた!

 

 

「エレンは…渡さない!」

 

 

ガスを何度も噴出して着地地点を調整し、再び駆け出したミカサ。

女型の巨人は近くの民家の屋根を薙ぎ払い、瓦礫を飛ばした!

直撃しそうな瓦礫のみをスナップブレードで受け流して屋根に着地した!

それを予測して回し蹴りで屋根を吹っ飛ばされたせいでミカサは身動きが取れなくなった。

 

 

「アニ!今度こそ僕を殺さないと『賭けたのはここからだ』なんて負け惜しみ言えなくなるよ!」

 

 

アルミンは女型の巨人のうなじに居るアニに届くほどの大声で叫んだ。

それを見たアニは、異様にテンションが冷めてしまった。

どうせこれも囮だと分かっているからだ。

 

 

硬質化した右手でうなじをガードして死角からの兵士の斬撃を弾いた!

 

 

「チッ!アルミンこっちだ!」

「了解!」

 

 

ジャンの指示に従って立体機動で逃亡したアルミン。

それを追って女型の巨人は走り出した。

策士のアルミンを殺さなかったせいで、巨人化しなければならないほど追い詰められた。

二度と同じ失態を繰り返さない様に終わりにするつもりだった。

 

 

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「ふふふ…来るよ…!」

 

 

振動がどんどん近づいてくるのを身体で実感してハンジ分隊長は笑っていた。

 

 

「あのー分隊長…目が泳ぎ過ぎです」

 

 

副官のモブリットは、上官が正気である事を確認する為に発言した。

だが、ハンジは女型の巨人で頭が一杯のようで返答は無かった。

煙突や民家の影に隠れている第四分隊は、虎視眈々と待ち構えている。

 

 

「アルミン急げ!」

「分かってる!」

 

 

先にジャンが視界に映り、次にアルミンが飛び出してきた。

そして女型の巨人が目の前を横断しようとした…その瞬間!

 

 

「撃てぇ!!」

 

 

号令によって『対特定目標拘束兵器』から多くの矢じりが飛び出して巨人の身体を貫いた。

巨大樹の森で使用した兵器の軽量化して少数量産したものである。

主に脚を貫いたワイヤーを立体機動装置で巻き取るように高速で引き寄せた。

いくら巨体とはいえ、ひとたまりもなく女型の巨人は仰向けに倒された!

 

 

「よし!やったぜ!」

「いや、まだだ!僕は…最後の賭けをする!」

 

 

第四分隊が矢じりのついた網を被せて、てきぱきと仕事をこなしていた。

それを見たジャンは、勝利を確信したがアルミンは油断してなかった。

これで終わるわけがないと思い、最後の希望を探しに地下道の入り口に戻っていく。

 

 

「おいアルミン…まちやがれ!」

 

 

ジャンも慌ててアルミンを追いかけた。

 

 

「よし!三次作戦まで出番が無いと思ったけどとんでもない」

「さすがはエルヴィン団長…さてと!」

 

 

ハンジ・ゾエは喜びながら立体機動で屋根から降りて女型の巨人の頭に向かっていった。

それは傍から見れば子供がはしゃいでいる様に見えるが本人は真面目にやっている。

 

 

「よし、大人しくするんだぁ!ここだとの時みたいにお前を喰う巨人は呼べないよぉ?」

 

 

ハンジは殺意を隠しながら女型の巨人の瞳にスナップブレードを突き刺した!

視界に異物があるなんてさぞかし苦痛であろう。

その辺の巨人とは違って怯えた様子を見て歓喜した!

 

 

「でも大丈夫、代わりに私が喰ってやる!お前から穿り出した情報をね!」

 

 

能力者を脅す為に睨めつけたハンジは、情報を訊き出すのを『喰う』と表現した。

アニからすれば、冗談抜きでシャレにならない事であった。

こんな糞見たいな作戦に従事したのは、後釜になる『戦士候補生』に喰われたくなかったからだ。

ハンジは知らずに特大の地雷を踏み抜いてしまった。

 

 

『この!知らないくせに!父に逢うまで喰われてたまるかあああ!』

 

 

“彼女”は、唯一動けた右脚で樽状の拘束兵器を薙ぎ払った!

予想してなかった攻撃に混乱した第四分隊の隙を突いて再び女型の巨人は逃げ出した!

 

 

「チッ!さすがに罠の数が足りなかったか!」

「分隊長、このままだと壁に登られます!」

「お前たち!逃がすんじゃないよ!逃がしたら人類滅亡だと思え!」

 

 

ハンジは、部下たちに激を飛ばし、徹底的に追い詰めるつもりだった。

ところが、別の場所で閃光と爆風が起こった!

 

 

「何だ!?」

「新手か!?」

「いや、違う!巨人化したエレンだ!」

 

 

エレンは、女型の巨人の継承者であるアニを殺してでも止める覚悟をした!

14m級の女型の巨人は遠くからでも良く見える。

彼はアニを殺す為に全速力で駆け抜けた!

 

 

「まずい!憲兵に間違って攻撃されるぞ!」

「ニファ、グンタ、アーベルは私の援護を!他は憲兵からエレンを守れ!」

「「「「了解しました!」」」」

 

 

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「皆さん、祈りましょう。大地の揺れでも壁は不変であります」

 

 

ニック司祭は地震でパニックになった信者を宥めて再び祈りを続行させた。

2回も揺れて爆発した音したが、この礼拝堂は兵団支部の次に頑丈である。

扉を施錠すれば、鉄壁のシェルターになるようにそう、50mの壁の強固さを表すように。

 

 

「とにかく信じるのです!神を信じる無垢の心こそが巨人から守る術であり…」

 

 

人類を巨人から護る3つの壁に扮するように、三重の円陣を信者に組ませている。

100年以上人類を守護してきた壁と一体感になる事で意識が別次元に昇華されるのだ。

誰もが心を一つにして団結する時、人類は何者にも負けない頑固な存在と昇華する。

 

 

「唯一、巨人を退けられる力…」

 

 

だが、地面の揺れは収まるどころか、どんどん揺れが大きく、近くなっている感覚がした。

誰もがそう思ったが、これも神の試練だと思い、誰も逃げ出す事もなく祈りを捧げていた。

そんな信者の想いを文字通り踏み躙って、殴り倒された女型の巨人が彼らを来世に送り出した。

 

 

「きょ、巨人!?何故ここに…!?」

 

 

奇跡的にニックは無事だったが、恐れている事がある。

 

 

「やめろぉ!壁に近づくな!」

 

 

ニックは女型の巨人に人類を護る50mの壁を破壊されるのを危惧していた!

一方、アニは自分のせいで数十人単位の人命を奪ったと身をもって実感した。

だが、悔いている暇などなかった。

とにかく平地に誘導しないと圧倒的に不利であったからすぐに立ち上がって逃げ出した。

 

 

「どうして巨人が!?」

「良いから早く着替えろ!」

 

 

デニス・アイブリンガーは同僚達と共に必死に立体機動装置を身に着けていた。

訓練兵団では優秀だった彼らであるが腐敗したせいで装着に手古摺っていた。

式典などの公式な行事以外では立体機動装置を付ける機会が無いせいで付け方を忘れていた。

 

 

「来るぞ!?逃げろおおおお!」

「うわあああああ!」

「嫌だあああああ!」

 

 

巨人2人組が妨げる物を蹴散らして向かって来るのを見た憲兵達は逃げ出した。

その内の一体が自分の部下であるとは夢にも思わないデニスは辛うじて踏まれずに済んだ。

 

 

「ハァハァ…なんとがああああっ!?」

 

 

しかし、後続で走っていた巨人化したエレンに踏み潰されて彼は虫の息になった。

 

 

「だぁ、だぁでぇかぁ…ああっ…」

 

 

同僚に助けを求めようとしたが、隣で肉塊どころか血だまりになっており生存者は他に居ない。

新兵に経験を積ませるという名目で仕事を押し付けてきた末路は、経験不足のせいで死ぬ。

もっとも経験が必要だったのは自分だと分かってしまい、その瞬間、力尽きてしまった。

 

 

『アニ、いつも周りをつまらんそうに見ていたお前が生き生きとしている時があったな…!』

『父親から強いられて無理やり教わった格闘技を披露する時だ』

 

 

巨人化したエレンは、広場で立ち止まった女型の巨人を冷静に眺めていた。

“彼女”は肩幅に構えて肘を脇腹に付けて顔面をガードするように拳を見せつけた。

これはアニの格闘技の構えであり、巨大樹の森で最後に見た女型の巨人と同じポーズである。

 

 

『なあ、アニ!何の為に戦っているんだ!』

 

 

エレンは全力で右の拳でストレートパンチを放った。

それを予測した女型の巨人は下段蹴りで、巨人の片足を吹っ飛ばした!

その衝撃波は凄まじい物であり、近くにあった屋台を根こそぎ吹っ飛ばす威力があった。

 

 

『お前はどんな大義があって…人を殺せた!』

 

 

それでもエレンは女型の巨人の顔面に拳を殴りつける事が成功した。

振動で双方とも意識が飛びそうだったが、四面楚歌であるアニの方が不利であった。

調査兵が次々と出現しており、その内、リヴァイ兵長が出現する以上、逃走するしかなかった。

 

 

『このままじゃ…』

 

 

アニ・レオンハートは悩んだ。

このまま格闘術で相手にするのは、疲労が大きすぎる。

壁の向こうにも調査兵団の部隊が展開しているのは分かっており、無駄な消耗を避けたかった。

しかし、考えている間にも執拗なエレンの追撃を受けて逃げきれなくなった。

 

 

『よし!行ける!』

 

 

エレンは更に追撃しようとした。

 

 

『あれ?』

 

 

ところが、何故か視界の上に地面が見えて、さきほど地面だった場所に眩しい太陽が見えた。

それどころか、身体の自由が利かず回転による遠心力に振り回されて地面に激突した。

その衝撃でエレンは意識を失った。

 

 

『こんなもんか』

 

 

女型の巨人は、両手の親指の爪を硬質化したまま伸ばして鋭利な刃物にした。

巨人の右肩から左の脇腹を切り裂いたおかげでエレンは何もできずにノックダウンした。

爪を硬質化させて武器にするなど“彼女”は考えた事もなかった。

 

 

『変異種のおかげで助かった…』

 

 

カラネス区の壁を乗り越えてきた6m級の変異種をアニは目撃していた。

【顎の巨人】にそっくりな変異種を見て絶望してしまったが、利点もあった。

変異種は、【爪】を硬質化させたばかりか、刃の様に爪を伸ばして駐屯兵を蹂躙していた。

女型の巨人は、強化の為に『脊髄液』を飲んでいたが武器に転用できると知った。

一か八かの賭けに、女型の巨人は見事に勝利したのだ。

 

 

「エレンがやられた!?」

「まさかここまで実力差があったとは…」

 

 

焦ったのが調査兵団である。

広場に逃げられたせいでアンカーを撃ち込めずに立体機動に移れない。

更に馬が居ないせいで、追いかけることも攻撃を仕掛ける事もできなかった。

まさか両手の親指から1秒足らずで【爪】を20mも伸ばしてエレンを両断するとは思わなかった。

 

 

「まずい!エレンが奪取される!」

「よせ!命を粗末にするな!」

「殺されるわけじゃない!様子を見ようよ!」

 

 

女型の巨人は巨人化したエレンの首を爪で捌いた。

長くは硬質化できないのか、爪を構成していた結晶体がボロボロと崩れ去った。

気絶して血塗れになったエレンを掴もうとした女型の巨人には好都合である。

焦ったミカサは、駆け出したが第四分隊の面々に制止されて動けなくなった。

 

 

『長くは硬質化できないのか…でもこれでようやく故郷に帰れる』

 

 

アニ・レオンハートは、ようやく友人たちの会話以外で純粋に笑う事が出来た。

巨人化できる悪魔の末裔を拿捕できた以上、ようやく祖国に帰還できるからだ。

【座標】ではなく【もう1つの巨人】の可能性もあったが…どうでもいい。

エレンが【顎の巨人】でない以上、持ち帰っても戦士候補生に自分が喰われるわけないだろう。

 

 

『あいつらは…見捨てる』

 

 

精神分裂した挙句、兵士ごっこを愉しむ糞野郎と腰巾着のストーカー野郎は即座に見捨てた。

代わりに友人達を拉致して、お持ち帰りしたいくらいだった。

役立たずのゴミより、自分を慰めてくれた存在の方が大事だったからだ。

 

 

『発砲音!?』

 

 

気絶したエレンを優しく掴もうとしたが、発砲音がしたので振り返った。

そこでは、女兵士が黒色の信煙弾を撃ち上げていた。

女型の巨人は、その兵士に見覚えがあった。

 

 

「お久しぶりね、女型の巨人!!…いえ、アニ・レオンハートって言えば良いのかしら?」

 

 

アニは、できれば再会したくなかった女を見て一瞬だけ頭を垂れた。

残酷な世界である以上、戦闘が避けられないと思っていたが、きついものがある。

心が折れそうになった時、力になった女が自分の名を呼んで刃を向けている。

巨人の中の居ても彼女が作った香水の香りで満ちているからこそ、悲しみがあった。

 

 

「調査兵団の第四分隊、遊撃戦闘員、フローラ・エリクシアがお相手しますわ!」

 

 

壁内の人類最強の女が、かつて親友だった者に刃を向けていた。

その顔は、トロスト区で巨人を討伐していた狩人と同じものであった。

 

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