進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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61話 人類最悪の日は、いつも唐突に

「お母様…どこ?」

 

 

真っ青な顔をした少女は、瓦礫の山を避ける様に歩いていた。

茶色のドレスと豪華な装飾が施された上着は返り血で汚していた。

スカートは瓦礫に引っ掛けたせいで破れており、魅力的な脚を露出している。

 

 

「わたくし、マリアンヌはここに…」

 

 

不自由なく両親から愛された子爵の令嬢である少女は、既に母親を失っていた。

それどころか子爵も姉妹も従者もみんな死んだ。

劇場で演劇を見た後、自宅に帰る途中で馬車に結晶の欠片が直撃して少女以外全滅してしまった。

 

 

「ああ…」

 

 

白魚の様な肌の手は傷まみれで、脚を優しく引き締める白色のストッキングは少し破れていた。

少女は穴という穴から液体を溢していたが、彼女自身はそれどころではなかった。

ただ、安全な場所に母親が避難していると思い、痛みを我慢して脚を引き摺りながら歩いていた。

 

 

「お母様…ああっ!」

 

 

少女は石床にあった血溜まりで足を滑らせて尻もちをついた。

そこには、さきほどまで人間だった者が至る所に転がっていた。

腹部を瓦礫に圧迫されて尻から排泄物と大腸を飛び出している死体。

子供を護ろうと庇った母親に瓦礫が直撃し、子供と一体化してしまって絶望な表情で死んでいた。

まだ原型を留めているのがマシの有様で、血と肉と排泄物しかない物体が大半である。

 

 

「お母様ああああああああ!!」

 

 

フローラみたいな、なんちゃってお嬢様ではなく、本物の令嬢には、この惨状はきつかった。

巨人に喰われれば最低でも肉塊は残るが、ここは肉の塊すら残っているのが珍しいくらいである。

この惨状でも平気でいるのは、狂人だけで経験豊富なリヴァイですら顔をしかめる惨状だった。

 

 

「生存者が居たぞ!」

「大丈夫!?」

 

 

マルロ・フロイデンベルクと、ヒッチ・ドリスは少女の泣き声でようやく生存者を発見できた。

彼らは40人以上逢ったが、ようやく生存者を見つけられた有様だった。

 

 

「これを嗅いで!」

 

 

ヒッチは、フローラからもらった香水が入った筒の蓋を開いて少女に嗅がせた。

リラックス・ハーブの成分で落ち着かせるのもあったが、何より安心できる匂いだったからだ。

嗚咽していた少女であったが、少しずつ落ち着いていったのを見てヒッチは一息ついた。

 

 

「よし、この子を連れて行くよ!」

「お前、意外と優しいんだな…」

「はぁ!?冗談言ってる場合じゃないでしょ!早く医者に診せないと!」

「そうだったな…」

 

 

マルロは、ヒッチという女を再評価した。

享楽的で不真面目で何事も茶化して行動する女だと思っていたがいざとなると頼りになった。

彼は、少女が泣いているのを見て何もできなかったのと対照的であった。

ヒッチに優しく手を掴まれて一緒に歩く少女を見ながらマルロは護衛するように歩いて行った。

 

 

-----

 

 

「ここは…?」

「エレン!目覚めたんだね!」

「アルミン…?」

 

 

エレン・イェーガーは目覚めた。

アルミンに抱き寄せられており、寝ぼけながらも、また負けたのを実感した。

 

 

「女型の巨人は…?」

「調査兵団に倒されたよ…でも…」

「でも?」

 

 

ストヘス区を半壊させた女型の巨人は討伐された。

だが目的だったアニの捕縛は、硬質化した結晶のせいで阻まれた。

最低でも民間人が二千人以上死んだのに得られたのは結晶になったアニだけ…。

結局、事実は彼女の口から話される事は無く、振り出しに戻ってしまった。

 

 

「この卑怯者がぁ!!出て来い!!この落とし前をつけろ!!」

「おいケイジ!」

「止めるな!こいつのせいで同僚が!住民が死んだんだぞ!!」

 

 

第四分隊所属のケイジ・ランドルフは必死に結晶を割ろうとブレード突き立てていた!

同僚がこいつのせいで戦死した怒りもあったが街の惨状を見てすぐさま叩き起こしたかった。

 

 

「やめなさいケイジ!いつ目を覚ますか分からないこの子を地下に運ぶ事だけを考えなさい!」

「了解…」

 

 

ケイジはハンジの説得で折れたブレードを操作装置から外してワイヤーで結晶体を縛り始めた。

ハンジもまた、アニに対する怒りがあったがケイジが全てやってくれたおかげで冷静になれた。

誰もが分かっていた。

このままアニから情報を訊き出せなければ何も残らない。

民間人や兵士の人生を闇雲に地獄へ投げ捨てただけで終わってしまう。

 

 

「急いで天幕を張れ!民間人に現場を見せるな!!」

「手の開いている者は、負傷者の手当てを急げ!!」

「中央通りで負傷者多数!衛生兵を向かわせろ!!」

「馬を連れて来い!こいつを運ぶぞ!!」

 

 

優秀な調査兵団の兵士たちは自分の役割を理解しており、迅速に行動していた。

ジャンとミカサは瓦礫に埋もれた民間人の救助を行なっている。

アルミンは、気絶したエレンを介護しており、今先ほど彼が目覚めて安心している。

フローラは、その様子を見ながら水筒で水分補給をしていた。

 

 

「答えてください!あの2体の巨人は何だったんですか!?」

「今は説明している時間が無い!一旦、救助活動に戻ってくれ」

 

 

ゴーグルが似合うアーベル・オッペンハイマーは、新兵である憲兵の質問に答える気は無かった。

一方、救助活動を一度終えて、休憩しているマルロとヒッチは納得できなかった!

 

 

「住民に甚大な被害が出た!何故巨人は居て戦闘が行われたのか!責任は誰が負うんです!?」

「お前ら新兵じゃ話にならん!上官を呼んで来い!酔っ払って寝ていて潰れていなかったらな!」

「調査兵団は説明する義務があるわよ!このストヘス区を半壊させてまで何をしたかったの!?」

「我々は極秘で任務を遂行している!まずは我々に任せて救助活動に当たってくれ!」

 

 

ただ話は平行線で終わった。

真相を知りたい憲兵や住民に対して調査兵団は口を噤んで事情を説明してくれなかった。

本来なら引き下がる所だが、マルロたちは調査兵の後ろで佇んでいる顔見知りの女を見つけた。

 

 

「あっ!フローラ!!」

「フローラ!そこで何やってんの!?」

 

 

まさかの呼び出しに口から水を溢したフローラ。

袖で唇を拭いて知り合いに向けて歩き出した。

 

 

「フローラ!教えてくれ!一体何が起こったんだ!?」

「詳しくは言えないけど、この街に巨人のスパイが居てさっきまで交戦していたの」

「はぁ!?巨人のスパイ!?」

「調査兵団は極秘に巨人化できるスパイを捕らえようとしたけど…この結果になってしまったわ」

 

 

フローラは肩を竦めて刃が欠けたブレードをマルロたちに見せつけた。

巨人の血は消滅していたが、肉を削ぐ時に割れた刃を見せて巨人と交戦していた証拠を提示した。

マルロたちは戸惑ってしまったが、これ以上の情報が得られないと思い踵を返した。

 

 

「クソ!調査兵団め!巨人に関する情報を秘匿し過ぎだ!」

「後日、こっそりフローラに尋ねないと分からないね」

「そういえばアニ、どこに行きやがった!?」

「ホント、肝心な時に居ないんだから!どっかで救助活動してるといいけど…」

 

 

マルロとヒッチは知らない。

一匹狼のアニ・レオンハートがこのストヘス区を半壊させた元凶だと!

それは彼女の本心では無いが、調査兵団の兵士を殺害し続けた悪魔だと分かるはずもなかった。

今はただ、ストヘス区で救助活動を頑張るしかなかった。

 

 

「おいフローラ、情報を漏らし過ぎじゃないのか?」

「彼らは知り合いですので、公式発表まで情報を漏らさないと踏んで発言しましたわ」

「お前、ホント知り合いが多いな…」

 

 

アーベルは部下のフローラに呆れていた。

腕っ節と資金力と友人の数は、調査兵団の第四分隊で一番と揶揄される彼女。

新兵である以上、情報を漏らした事に叱責するべきではあるがフローラだからと半ば諦めていた。

彼は巨人に捕食されそうになった時、彼女に救われており、命の恩人を叱れなかったのもあった。

 

 

「お願いだから奥で待機しててくれ」

「救助を手伝わなくていいんですか?」

「お前がやると…街が全壊するからやめてくれ」

 

 

巨人の戦闘と資金力とコネを頼りにされているフローラは不満に思ったが口に出さなかった。

彼女は兵団一の問題児であり、いつも騒動の渦中に居るせいで、何かやらかすと思われていた。

アーベルが思い浮かんだのは、フローラがエレンを巨人化させて瓦礫を取り除こうとする光景だ。

 

 

「せっかく巨人化したエレンが人類の役に立つ絶好な機会だったのに…」

「はぁ…やっぱり本気でやる気だったか」

「ダメですか?」

「ダメだ!エルヴィン団長と会話して巨人化能力者を監視する案でも訊いて来てくれ」

 

 

巨人のせいで街が半壊したのに、瓦礫を退かすのに巨人を利用するなど狂気の沙汰だ。

巨人になったエレンが瓦礫を退かして【ストヘス区の英雄】にする案は即座に却下されてしまった。

そのせいで不機嫌なフローラは、しぶしぶエルヴィン団長の居る場所へ向かっていった。

 

 

「ああ来たか。実は、君に頼みたいことがある」

 

 

エルヴィンの一言で嫌な予感がした。

何故なら新兵の自分に直接指示を下すという事は、自分にしかできない事であるからだ。

 

 

「ストヘス区が受けた損害は大きく、我々はもう少しだけ、ここに留まらばなければならない」

「そこで君には、ウォール・ローゼ南区の隔離施設に居るミケ達に、今回の事を伝達して欲しい」

 

 

同期である104期調査兵の大半は、ミケ分隊長の率いる第一分隊に監視されている。

アニ・レオンハートが巨人化能力者だった為、仲間も104期に居る可能性がある。

ジャンやミカサ、フローラがここに居るのは、作戦を立案したアルミンが除外してくれたからだ。

 

 

「早馬を飛ばして104期を監視している連中に事の顛末を伝えろって事だ…異論はねぇよな?」

「リヴァイ兵士長、確か旧調査兵団本部の掃除の予定がありますけど…」

「チッ……今回ばかりは特別に掃除を免除してやる」

「ありがとうございます」

 

 

ストヘス区の女型の巨人捕獲作戦を終了した後に、旧調査兵団本部の掃除の約束をしていた。

リヴァイは王政から招集を受けたせいで、古城がもぬけの殻になる。

エレンを護衛する為にリヴァイ班も同行するので誰も居なくなってしまうからだ。

つまり、リヴァイ兵士長が帰ってくるまで、フローラは古城でお留守番をする予定だった。

しかし、急用なのでやむを得ず彼に頭を下げて断りを入れた。

 

 

「この任務を終えたらそのまま104期の兵士たちと合流してもらう」

「念の為、装備を整えて準備が整い次第、出発してくれ…以上だ」

「ハッ!」

 

 

フローラは承諾したものの内心では馬鹿らしく思った。

何故ならストヘス区から隔離施設まで早馬を飛ばしても半日以上掛かるほど遠い。

最短ルートは、内地の王都ミットラスを経由して南のエルミハ区に出て北西に向かう必要がある。

ウォール・シーナの外円部に沿って移動してもいいが悪路なので利用したくなかった。

 

 

「おっ?出かけるのか?」

「はい、ミケ分隊長に伝達事項があるので伝令に行ってきます」

「気を付けて行けよ!」

「ありがとうございます」

 

 

顔馴染みの調査兵に挨拶をして愛馬のライリーの場所に向かったフローラ。

そこで彼女が目撃したものとは…!

 

 

「すごく怒ってる…」

 

 

両耳を伏せて睨めつけているライリー。

当初は、置いてきぼりにしたせいなのかと思ったが違うようである。

 

 

「おいフローラ!この馬、すごく機嫌が悪いぞ!?」

「その子は、人見知りで…下手に近寄ろうとすると蹴られますわよ?」

「今さっき、本気で蹴り殺されそうになったところだ」

「申し訳ございません…」

 

 

馬医者がライリーに診察しようと手を伸ばした瞬間、蹴りが目の前に飛んできた!

顔見知りの癖に寂しがり屋のせいで、やたらと他者に攻撃的である“彼女”。

クリスタとミーナは、ある程度認めているが、それ以外は敵意しかなかった。

相棒と認めたフローラに至っては、愛情表現で噛み付いたり蹴っ飛ばしたりするほどである。

敵には牽制をする為に蹴っ飛ばす癖に、相棒には本気で蹴っ飛ばすような馬だった。

 

 

「ライリー!ライリー!痛い!!」

 

 

調査兵団の馬に向いていない汗血馬は、自称主人を待っていたように睨んでいた。

フローラは差し出した左手を甘噛みされてしまったが、それでも我慢して身体を撫で続けた。

彼女の覚悟を見たライリーは、彼女の手を口から放して早く乗れと急かしている。

 

 

「はぁ…ライリーも結婚すれば少しは大人しく…なるわけないわね」

 

 

種馬なんて紹介したら、その馬で馬肉パーティができるほどの肉塊にされるのは想像できた。

時折、巨人の足に全力で蹴りを入れるほど、ライリーは好戦的である。

フローラは鞍に跨り手綱を握って相棒に指示を出した。

 

 

「行くわよライリー!」

 

 

涎塗れになった左手をどうするか悩みながらフローラは、ストヘス区から出る門に向かっていった。

道中ではストヘス区が無残な姿になっており、完全に復興するには20年は掛かりそうであった。

失った人員、崩壊した建物、日常生活、たった1時間もしない内に根こそぎ失われた。

それでも、人間は前に進んでいける…前に進むしかない。

遠回りになるが、住宅が無事である壁に沿ってフローラはライリーを走らせた。

どんな惨状になろうとも、変わらない太陽はまだ登りつつあった。

 

 

-----

 

 

「暇だ…いっそ、故郷に帰りたいぜ…ここから近いんだぜ俺様の故郷は…」

 

 

104期の調査兵であるコニー・スプリンガーは愚痴った。

巨人戦闘の特訓と称して合宿のように隔離された建物に居た。

だが、何故か訓練も装備の着用も許されずここに軟禁させられた。

まるで監視されているが、忠誠心を見るテストなのかと馬鹿なりに考えていた。

それでも暇なので、近くにあるラガコ村に帰ろうか見当していた。

 

 

「私の故郷も近いですねー」

 

 

サシャ・ブラウンも故郷のダウパー村に帰りたかった。

あそこならお肉が喰えるからだ。

くだらない理由になるが、肉が喰えない以上、帰りたかった。

誰もが軟禁状態にされていて苦痛を感じながら待機していた。

 

 

「なんでローゼの南区まで来たのに帰っちゃダメなんだよ…やる事もないし」

「そんなに帰りたいですか?私はまともになるまで帰ってくるなって言われたんですけど」

「安心しろ、親御さんはお前に期待していないと思うぞ」

「言ってくれますね!コニーも座学の成績、散々だったじゃないですか!」

 

 

サシャは馬鹿にされてコニーの座学の点数を指摘した!

コニーは座学では追試を受けても赤点だったが、立体機動が旨かったおかげで成績上位になった。

座学ができなくても成績10位内に入れるという、明らかに歪な構造ではあるが…。

逆に言えば、忠誠心と立体機動の技能さえあれば兵士になれるって事だ。

さすがに憲兵になったら、座学の技能も必要なのでボロが出るとサシャは思っている。

 

 

「しかし、俺様は天才だ!成績10位内になったんだ!故郷に凱旋して見返してやりたいな…」

「でも壁外調査の前に帰ったじゃないですか」

「ああ、でも生還したのは知らせてない」

「そういえば、ジャンの母親の手紙はどうなったんでしょうか!」

「気になるが…何故かあいつは、ここに居ないんだよな…」

 

 

馬面の本人が居れば「余計なお世話だ!」と反論すると思われるが、彼らはとにかく暇だった。

何の為にここに来たのかも忘れて、本を読んだりスクワットしたり雑談していた。

 

 

「いっそ、夜に抜け出してやろうかな」

「…コニー、お前が本気なら協力するぞ」

「えっ?」

 

 

コニーは、冗談で脱走を企てたら、本気で乗る気になったライナーに困惑した。

もちろん、脱走は重罪であり、下手すれば牢屋に入れられる行為だと彼は自覚している。

なのに真面目なライナーが真剣な顔をして意見に賛同してしまい、驚いてしまった。

 

 

「何で?」

「おかしいと思わねぇか?何で私服のまま待機で、訓練しちゃいけないんだ?」

「そりゃあ、忠誠心を見る為だろう?ここで逃げ出せばクビだと思うぜ」

「そして上官たちは、完全に武装しているぞ!ここは壁の内側だぜ?」

「フローラだっていつも武装してるじゃん」

「確かに何か知らんが武装しているが…」

 

 

訓練兵を卒業してから正式に調査兵団に入団する前から調査兵の手伝いをしていたフローラ。

同期たちは、何をやっていたのか疑問に思っていたが、特に口にすることは無かった。

むしろ酔い潰れて食堂に帰還した時は、貞操を奪われたとパニックになったくらいだ。

その時まで、精神的に辛かったが、怒りに燃えて全員が精神的に復帰したのは良い思い出だ。

 

 

「この付近に熊が出るせいじゃないですか?」

「熊なら銃で充分だろう…とにかくみんな分からなくて困惑している!」

「いっそ、皆で抜け出せば何も怖くないってか?」

「むしろ、上官の反応を確かめてみたいくらいだ」

 

 

立派な兵士になろうとしているライナーの意見を聴いて悩む同期たち。

確かに要注意人物として監禁されているのは嫌であるが、抜け出す気は無かった。

調査兵団に入団して、壁外調査から生還してもなお、留まっている彼ら。

誰もが兵士を辞めてまで、故郷に帰るつもりはなかった。

 

 

 

「ん?」

 

 

サシャは異音に気付いた。

最初は気のせいだと思ったが、もう一度昼寝をしようとしていた。

だが、彼女は複数の異音が近づいていると感じた。

机に耳を当ててもう一度、しっかり聞き逃さないようにした。

リズムよく、定期的に地鳴りの音がしていた。

 

 

「ええっ!?」

「どうした芋女?兵舎に芋でも忘れたか?」

「足音みたいな地鳴りが聴こえます!!」

「「「はぁっ!?」」」

 

 

サシャが放った一言は104期調査兵の全員を困惑させた。

足音のような地鳴りができる連中は限られる。

それどころか心当たりは1つしかない。

 

 

「何言ってんだ?巨人がここに居るって事は、壁を破られたか乗り越えて来たって事だぞ!?」

 

 

ライナー・ブラウンは、カラネス区の壁を乗り越えてきた変異種を思い出していた。

【顎の巨人】にそっくりな巨人たちは、壁を乗り越えて兵士を虐殺した。

もし再びそれが起こったとなれば、今度こそ人類は滅びるだろう。

しかもサシャの反応からしてかなりの数の巨人が壁内に侵入してきたとも取れた。

 

 

-----

 

 

調査兵団の第一分隊の分隊長、ミケ・ザカリアスは104期調査兵の監視をしていた。

部下達も半信半疑ながらも女型の巨人の共謀者が居ると思われる新兵を監視している。

 

 

「あの子達の中に、アニ・レオンハートの共謀者が…?」

「分からん、だが無視できる確率じゃない」

 

 

ナナバの疑問に対して淡々と返答をした。

彼だって、本当は信じたくなかった。

巨人能力者の匂いやスパイの匂いは、さすがに分からなかった。

 

 

「少し鼻を休めるか」

「また香水を嗅ぐのですか?」

「鼻が敏感過ぎてな、定期的にリラックスさせないといけないんだ」

 

 

ミケはフローラからもらったリラックス・ハーブをカバンから取り出そうとした。

ところが、彼の鼻はできれば嗅ぎたくない匂いを感知した!

 

 

「トーマ!」

「ハッ!どうなされたのですか?」

「早馬に乗って報告しろ!104期調査兵団に巨人は居なかった!南から巨人多数襲来!」

「了解しました!」

 

 

トーマ・カリウスはすぐさま早馬の準備をした!

50mの壁を登り壁内に巨人が侵入してくるのは過去に目撃していたからだ。

 

 

「ミケ!ウォール・ローゼが突破されたのか?」

「分からん!だが壁を破られないと、こんな数にはならんだろう!」

「…何体居るんだ?」

 

 

ヘニングの問いに対してミケは発言を躊躇った。

それを見たゲルガーは両手で数えられる規模ではないと悟った。

 

 

「…20体は居るな!」

「クソ!新兵たちの装備は、ここに無いぞ!?」

「やむを得ん!我々がなんとかするしかない!」

 

 

巨人との戦闘経験が豊富とはいえ、二桁の巨人など誰も相手にしたくない。

カラネス区壁外で二桁の巨人を単独で討伐した命知らずのアホ女ではないのだ。

 

 

「ナナバは、新兵に伝達!身支度を整えて広場に待機させろ!」

「分かった!」

「クソ!いつも人類最悪の日は唐突だな…」

 

 

ナナバは上官の命令で新兵たちが待機している施設に向かって立体機動で飛んだ!

ゲルガーは、それを見て近くに落ちていたゴミを蹴った。

そんな事をしてもどうしようもないが、ストレスを貯めたまま巨人と交戦するよりマシだった。

 

 

「おっ?ヤケクソになって酒を飲まないのか…成長したな」

「リーネ、冗談を言っている場合か?」

「こんな時だからこそだ…死ぬんじゃないよ?」

「ふん、まだ死ぬ気はねぇよ!馬小屋に行くぞ!」

 

 

リーネとの軽口でメンタルを回復させたゲルガーは、リーネと共に馬の準備に向かった。

決して楽観視できる状況ではない。

それでも最後まで希望を捨てるつもりはない。

生きている限り、再起が図れるのだ!

例え、今日が人類最悪の日であっても、命がある限り最後まで使命を全うするつもりだった。

 

 

「ミケさん、トーマが出発しました」

「最速で着くとしても…当分時間が掛かるだろう」

「いかがなさいますか?」

「まずは近隣の村に危険を知らせて避難させるしかない」

 

 

ミケは必死に住民の避難を考えていた。

覚悟を決めた自分達は巨人に殺されても仕方が無いが、民間人を喰わせる気はなかった。

軍人である以上、民間人を護るのが最優先事項だった。

ハンジ・ゾエに次いで調査兵団の頭脳でもある彼は、必死に作戦を立案していた。

幸いにも、全員分の馬があるので、新兵でも近隣の住民に情報を知らせにいける。

 

 

「よし、作戦を立案し終えた!ヘニング!」

「ハッ!」

「この付近の地図を…できる限り確保して広場に集合してくれ」

「了解!」

 

 

ヘニングの後ろ姿を見送って、ミケは巨人が来る方角を見た。

今は薄っすらしか見えないが、確かに動いており少しずつ近づいていた。

ここが正念場であるのは間違いない。

全員がそれを理解しているからこそ迅速に動けた。

巨人は待ってはくれないのだから。

 

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