進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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62話 未知なる物を見て慄く者達

850年の現在、人類を巨人から護る壁は2つある。

人類の最前線である『ウォール・ローゼ』。

その内円を描くように存在する『ウォール・シーナ』である。

ウォール・シーナの突出した城壁都市に【女型の巨人】が出現し、街を半壊させた。

その事実だけでも盤石な王政を揺るがす事件であった。

しかし、畳みかけるように、その日にウォール・ローゼ内で300体以上の巨人が出現した!

 

 

「大丈夫だ…まだ壁が破られてから経っていないはずだ…」

 

 

ナナバは、まだ数体の巨人しか壁内に侵入していないと信じていた。

ウォール・マリアが陥落したのはシガンシナ区の前門に空いた1つの穴のせいである。

そこから巨人が侵入し、鎧の巨人によってマリアの扉を破壊され放置せざるを得なくなった。

もし、今回もそうであれば、壁内に侵入してきた時点で手の打ちようがない。

 

 

「全員居るか?」

「ナナバさん!?」

「なんだよびっくりさせんなよ…」

 

 

ナナバは頑張って顔を崩さない様に報告した。

上官である自分がパニックになっていては新兵に示しがつかないからだ。

 

 

「いいか落ち着いて聞いてくれ…南方から巨人の大群がこっちに向かって来ている」

「なんだと!?」

 

 

椅子から立ち上がったライナー・ブラウンは、同郷のベルトルトを見た。

ベルトルトからすれば何でこっち見るんだよ…と発言したかったが何とか黙り通せた。

 

 

「壁が…壊されたって事なのか!?」

 

 

相変わらずライナーはベルトルトの方を見る。

というか、確認してきた。

「超大型巨人ですら門の扉を破壊するのに精一杯だから無理だよ!」と言わせたいのか。

彼には判断できなかったが、少なくとも相棒が『兵士』なのは分かった。

 

 

「南方から…?」

 

 

コニー・スプリンガーは『南方』の単語を聴いて脱力して座り込んだ。

何故ならそこにコニーの故郷であるラガコ村があるからだ。

もしここに巨人が来るのであれば、真っ先に巨人が辿り着くのは…。

 

 

「さあ!動いて!ぼけっとしてられるのも生きている間だよ!総員、広場に集合してくれ!」

「わ、分かりました!」

「おいコニー!しっかりしろ!!」

「大丈夫だ…ライナー…」

 

 

何名か顔色が悪くなっていくのを見て、おそらく故郷が近いのだろうと悟ったナナバ。

だが、嘆くなんて悠長な事をしている暇ではない。

まずやるべきことは近隣の住民に危険を知らせて避難させる事だ!

104期兵が戦闘服も着ずに慌ただしく部屋から出ていく。

それを確認したナナバは、入ってきた窓から脱出し屋根に登った。

 

 

「ミケ、巨人の位置は?」

「前方だ鼻で分かる限りは、南方から来てるな…最低でも20体は居るぞ」

「ハハハ、再び壁が破壊されたって…捉えるべきかな」

 

 

ウォール・ローゼは東西南北の4カ所に突出した城壁都市がある。

巨人が人間のみ興味を持ち捕食するので、人口をまとめる事で守りを固めると同時に囮でもある。

大惨事の舞台になったトロスト区やカラネス区も同じ理由で作られた突出する城壁都市である。

逆に言えば、人類は壁全体を警備する手段も兵力も持ち合わせていない事を示している。

ナナバは、壁のどこかが破壊されて巨人が侵入してきたと思い込んだ。

 

 

「トロスト区やクロルバ区がやられたら報告があるはず…もし扉部以外の壁を破壊されたら…」

「手の施しようがないな。最悪ウォール・ローゼまで捨てなければならないだろう」

「つまり、考えうる限りで最悪の事態が起こっているという事だ…」

「事実上ウォール・ローゼは突破された…!」

 

 

まだ数体だけであったら、カラネス区に侵入してきた巨人の様に登ってきたと思えた。

ただミケ分隊長の鼻で20体以上の巨人が居ると告げられた以上、その可能性はない。

あの時の巨人は、【変異種】と分類される特殊の巨人であったからこそ、否定できた。

もしあれが超大型巨人の尖兵であったとしたら…。

 

 

「私達は巨人化能力者の正体も、あらゆる敵対勢力を見つけられず、この日を迎えてしまった」

「私達…人類は負けてしまった…」

 

 

ナナバはただ座り込むしかできなかった。

フローラがこの場に居たら、侵入してきた巨人を1匹残らず駆逐すれば良いと言うだろう。

だが、空いた穴を早急な塞ぐ技術など存在しない。

そもそも20体も巨人が侵入してきている時点で穴は塞ぎようがないほど致命的なのは間違いない。

つまり、自分たちの出来る事は、近隣の住民に避難を呼びかけるだけである。

 

 

「いや、まだだ!」

 

 

それでもミケは諦めなかった。

生きている限り、何度でも人は立ち上がることができる。

屋根から104期の調査兵を見下ろすと、彼らは自分なりに頑張っていた。

荷物を運ぶ者、護身用なのか斧を持つ者、信煙弾を装填した銃を持つ者。

誰もがバラバラで心許ないものではあるが、監視している兵士よりも希望に溢れている。

彼らが経験不足のせいと言われればそれまでだが、彼はその雄姿に感嘆としていた。

 

 

「人は戦う事を止めた時、初めて敗北する。戦い続ける限り、まだ負けていない」

 

 

結局、人は死ぬ。

いつか訪れる末路であり、この世が諸行無常である以上、仕方がない事である。

では、自分達が今まで行なってきた事が全て無駄だったのか?

答えは否だ!

人は死んでも意志は引き継がれるし、逆に遺志を捻じ曲げる事すらできる。

要するに誰かが生きていれば、何とでもなる。

生きるという事は希望である。

 

 

「急ぐぞ!巨人は待ってくれないからな!」

「…おいサシャ!それ芋じゃねぇーか!」

「食堂から取ってきたんです。昼飯は無理そうなのでせめて間食しようかと…」

「お前!この忙しい時に何してんだ!」

「何言ってるんですか!食事は重要ですよ!立体機動装置で例えればガスみたいなもんです!」

 

 

鞍を抱えているコニーは、芋を大量に持ち歩くサシャを見て注意したが開き直られて困惑した。

サシャからすれば、一食でも抜けば生きていけなくなる自信があるので反論しただけだ。

ライナーはコニーを気遣い、当の本人は強がっている。

ユミルはクリスタを喰われない様に最後まで奮闘する気満々である。

ベルトルトとライナーは、壁内に巨人が侵入した事実に驚きながらも使命を全うする気である。

 

 

「私は…最後まで生きる…トーマスの為に…フローラの為に…」

 

 

巨人に頭から齧られそうになった事があるミーナ・カロライナは、精神がボロボロであった。

隙あれば声を出して発狂したいくらいだった。

それでも彼女を辛うじて正気でいるのは、亡き親友と親友のおかげである。

トーマスの兵服にあったワッペンが彼女の左胸のポケットに入っている。

それが彼女の【心臓】であり決意であり、そしてなにより呪いだった。

絶対に生き残って、トロスト区の門で行なった『肉の誓い』を達成するまで死ぬ気などなかった!

そしてベルトルトはいつも通り地味で空気である。

 

 

「見ろ、新兵たちは希望を捨ててない。ならば尚更、我々が無様な真似をするわけにはいかない」

「ああ、確かに情けない所は見せられないな」

 

 

ナナバは新兵たちの姿と上官の言葉で立ち直った。

自分たちができる事を全うする、それが兵士というものだ。

 

 

-----

 

作戦は決まった。

まずは早馬を走らせてトロスト区、エルミハ区、ヤルケル区、クロルバ区に巨人襲来を知らせる。

既に各城壁都市に向けて早馬を送り出しており、情報伝達には問題は無いだろう。

 

 

「あの巨人が林まで到達したら一斉に離散する!それまでに4つの班に分けるぞ!」

 

 

無防備な104期調査兵と武装兵を東西南北に向かう4つの班に分けた。

それぞれの班は離散して、近隣の住民に避難を呼びかける役割である。

特に南班は、壁の穴を特定する任務がある為、人手が必要であるのでミケが班長になっていた。

 

 

「誰かここの地形に詳しい者は居るか!?」

「はい!サシャ・ブラウスです!北の森に故郷があります!そこの地形は詳しいです!」

「コニー・スプリンガーです…南に俺の村があります…巨人が来た方向に…」

「…そうか、サシャは北班に、コニーは南班に来てもらうぞ」

「…はい」

 

 

コニー・スプリンガーは最悪の事態を思い浮かべていた。

というより内心では諦めていた。

巨人は奇行種でない限り、近くに居る人間を襲う。

トロスト区防衛戦や奪還作戦で巨人の習性を間近で目撃し、経験していた。

だからこそ、巨人が来た方向にある自分の村がただでは済まないのは馬鹿な彼でも分かる。

 

 

「コニー!俺も行くぞ!」

「ライナー!?南は一番危険だぞ!巨人がわんさか居る…」

「何言ってんだ!俺達は仲間だし…さっき、抜け出しに加担すると言っただろう?」

「済まない…」

「…らしくないな!避難訓練すらしてない5年前と違っておそらくお前の家族は無事だと思うぞ」

「ははは…そう言ってくれるとありがたいぜ…」

 

 

それはライナーの本心だった。

壁を過信して昼間から酒を飲む駐屯兵がうろつく環境ではなく、むしろ罰せられる時代。

もし、何者かが壁を破壊したとなれば、それは人間の手では手に負えないだろう。

壁を10m以上の穴を空ける為に爆破する爆薬の所持すら王政に定められた者しか扱えない。

では、普通の巨人が壁に穴を空ける事はできるのか?そんな事はあり得ない。

超大型巨人ですら壁を破壊できるわけがない。

せいぜい何度も繰り返して攻撃しないと破壊できないだろう。

 

 

「お前はどうする?ベルトルト…強いているわけじゃないが頭数が必要だ」

 

 

ベルトルトは判断に困った。

一見すると、コニーを心配したライナーが自分も加えて一緒に彼の故郷に向かうつもりである。

しかし深読みすると話が変わってくる。

彼の目を見ると【戦士】の目をしていた。

つまり、いざとなったら巨人化しろと無言で示している。

超大型の巨人を凌駕する巨人など、人間が相手にできるかも疑問であるし、なにより…。

人数が足りないのは、どこも同じであり、わざわざ口に出す事じゃない。

 

 

「分かった、僕も行くよ」

 

 

下手すれば、コニーに同情して超大型巨人でも壁が壊せなかったと告白しカミングアウト。

そこからの裏切り者!証拠隠滅!精神が更に壊れるコンボをしてくるかもしれないライナー。

ベルトルト・フーバーは、その危険性を踏まえて彼と同行するつもりだ。

まさか「ベルトルトが超大型巨人だ!」なんてカミングアウトされても困るからだ。

 

 

「分かっていると思うが今日は、人類最悪の日が更新された日だ!」

「そして人類史上、最も忙しく働く時が…今だ!!」

 

 

ナナバは必死に認識させる!

今日は人類最悪の日だと!

自分達が動かないと被害は甚大になると!

誰もが分かっているのに誰も発言しようとはしない。

もし、口にすればそれが現実になりそうだったから。

それでも、現実を理解し、絶望に潰されそうな兵士を鼓舞する為にナナバはあえて発言した!

例え何が起こっても自分たちの働きで、犠牲者を最低限に抑えたと認識させる為だ!

 

 

「くそ!巨人が走り出したぞ!?」

「全速力で駆け抜けろ!急げ!!」

 

 

巨人が走り出したのを見て大慌てで馬を走らせる兵士たち。

基本的に馬の方が早いが、それでも巨人が走るという事は、それだけ近隣の住民が襲われる可能性が高い。

ミケは、最低でも半分は自分に誘導する気である。

 

 

「ゲルガー!南班はお前に任せた!」

「ミケ分隊長!?単独で2桁の巨人は無茶です!」

「分かってる!それでもやらねばならん時がある!」

「了解…しました!」

 

 

巨人を単独で2桁討伐した事があるフローラですら巨人は3体同時に相手にするのが限界である。

それだけ動きが速く、無駄に機敏で、巨大な質量を武器にしている巨人は脅威だ。

リヴァイ兵士長や頭エレン娘のせいで巨人の実力が過小評価されやすい。

駐屯兵団の精鋭数名でようやく巨人1体を討伐できるほどだ。

それでもすごく、本来なら30名近くの兵士を犠牲にして巨人を1体討伐できるのだ。

なので単独で複数の巨人が相手にできるのは、それだけで勲章がもらえるくらいである。

 

 

「ミケ分隊長が囮になったのか」

「無茶だ!俺も…」

「ダメだ!人数はこれ以上減らせん!ミケさんを信じろ!」

 

 

数か月前までリヴァイ兵士長に次ぐ実力者である第一分隊長のミケ・ザカリアス。

ここ最近、全身頭フローラ100%の女が居るせいで霞んでいるが屈指の実力者だ!

巨人の匂いを感知して向きと数を調べられる嗅覚とその巨体は頼りになる!

だからこそ、調査兵団の第一分隊は、彼を信じるしかなかった。

 

 

-----

 

 

「これでいいですよね?」

「ああ、問題ない!通行を許可する!」

 

 

さきほどフローラ・エリクシアは、エルミハ区からウォール・ローゼの通行許可が下りた。

エルミハ区は、人類最前線の城壁都市、トロスト区の北にある内地の最南端の城壁都市である。

街は基本的にトロスト区と同じであるが、貴族の屋敷があるので内地である事を実感できる。

そんな彼女は、104期の調査兵が事実上軟禁されている建物に向かっていった。

 

 

「ライリー!行くわよ!!」

 

 

通行許可証と命令書を兵士から受け取った彼女は馬に乗って門から飛び出していった!

それを見た兵士は呟く。

 

 

「おいあの馬、血を流してなかったか?」

「確かに体毛は赤かったが…そうだったか?」

「いや、ここに赤い液体が垂れているぞ」

「本当だ…なんだったんだあいつ」

 

 

ライリーは突然変異種の馬であり汗血馬である。

そもそも調査兵団の馬は巨人から逃げられる唯一の移動手段である。

その巡航速度は35km/h、トップスピードは75km/hを凌駕するのがフローラの愛馬である。

人間の肉体が突然変異したのがリヴァイ兵士長であるなら、その馬バージョンがライリーである。

汗血馬は1日に500kmと言われているが内地の半径は約250kmほどである。

それを半日も掛けずにストヘス区からエルミハ区に到着していた。

 

 

「ライリー!まだ走るわよ!」

 

 

ライリーは自由になった!

自称主人がいくらでも走っても許してくれた。

だから全速力で駆け抜けた!

その一時、96km/h、巡航速度が60km/hという…とんでもない速度で駆け抜けてきた。

じゃじゃ馬のライリーの血筋は両親共に最高級であるが、とんでもない馬である。

本来なら誰も信じないが、リヴァイ兵士長の馬バージョンと告げると何故か信じてくれた。

 

 

「ええっ!?」

 

 

エルミハ区を後にした騎兵は同期が軟禁されている砦に向かっていた。

興奮すると古傷が開いて血だらけになるフローラ。

汗を掻くと血を流す汗血馬のライリー。

意外と似た者同士である。

そんな彼女たちを待ち受けていたのは1体の巨人であった。

僅か30分、ライリーの足が速すぎてワープしたのかと錯覚してしまうほどあり得ない光景だ。

ここは人類の領土、ウォール・ローゼ内であるはずだから巨人など居るわけがない。

 

 

「とりあえず討伐するわよ!」

 

 

ここで逃げて戦闘を回避しないのが頭進撃である。

フローラというお肉を見つけて駆け出した巨人の左足にアンカーを撃ち込んで突撃!

ワイヤーを巻き取った勢いで両断し、巨人の後方に飛び出してガスを噴出し、空中で宙返りした!

身体を捻り倒して倒れ込む巨人の首にアンカーを突き刺してガスを噴出し、うなじを削いだ!

さくっと30秒クッキング、できたのは巨人の死骸である。

蒸気を噴出して汚物に見える黒ずむ巨体は、そのまま消滅していく。

それを見て食用のお肉には向いていないと思うフローラであった。

また、巨人を討伐してから疑問が1つ発生した。

 

 

「なんで巨人が居るのよ…」

 

 

さくっと討伐したが本来ならここに居るはずもない巨人。

トロスト区の門はエレンが塞いだ岩で塞がっており、巨人が侵入するわけなかった。

とりあえず巨人を見つけたので専用銃に信煙弾を装填、空に向かって撃ち込んだ!

赤色の信煙弾が空中に向かって煙を出して空中を暫く駆け抜けた後、重力に基づいて落下した。

エルミハ区の正門の警備兵は、その赤色の煙を見て大騒ぎしたのは間違いないだろう。

フローラみたいに出会いがしらに巨人を瞬殺できるほど人類は強くないのだから…。

 

 

-----

 

 

ジーク・イェーガーは、疑問に思っていた。

送り込んだ戦士たちが5年経っても帰って来なかった。

さすがに痺れを切らした上層部によってここに送り込まれてきた。

そこで目にしたものは…。

 

 

「なんだあれ?何で人間が空中を飛んで無垢の巨人を討伐してるんだ?」

 

 

巨人を倒すには専用の重砲か、それか知性の巨人か。

少なくとも真正面で無垢の巨人を撃破したいのなら、それ以外の選択肢はない。

だが、視界に入るのは人間が双剣を持って空中を飛び回っている所だ。

また、巨人が討伐されて5体目になる。

戦士長としてそれを確認しないわけがなかった。

屋根に飛び乗った兵士と思われる男に向かって歩き出す。

 

 

「ここまでやれば充分だろう…」

 

 

ミケ分隊長は、5体の巨人を討伐して刃を半分消費していた。

複数の巨人と戦闘になるとは思わず駐屯兵団が使用しているブレードを装備していた。

その為、『強化鞘・2型』にあった替刃をセットで3つ消費していた。

あと2回替刃を装填できるが、これ以上の戦闘は避けて撤退するつもりだ。

指笛を吹いて馬を呼び戻していたミケであったが1点気になったのがある。

 

 

『なんだあの奇行種は…』

 

 

さきほどから自分を見ており、攻撃してくる気配が無い。

壁外調査でもごくまれにそういった巨人を目撃していたが、その巨人は異常だった。

約17mの巨体であり、何故か全身が毛だらけで巨人と呼べなかった。

どちらかというと獣を巨人化したものとでもいうのだろうか。

全身が体毛で覆われた巨人など見た事も無いし、聞いたことも無かった。

 

 

『まあいい、馬が戻ってきたしここに留まる必要はない』

 

 

指笛で戻って来た馬を見て安心した。

これで一旦、エルミハ区かトロスト区に帰還して態勢を整える。

できれば駐屯兵団第一師団の精鋭班を援軍として呼びたいが、エルミハ区の方が近い。

とにかく単独で巨人を相手にしたくない彼は、速やかに戦線離脱したかった!

 

 

「なん…だと!?」

 

 

自分が乗る予定だった馬が体毛に覆われた巨人に掴まれた。

巨人は人間のみを感知して攻撃する。

その概念は、実際にいくらでも経験しており常識として身についていた。

だからこそ、【獣の巨人】が行なった行為に思考を停止させた。

そしてなにより…!

 

 

「馬を狙った!?そんな馬鹿な!?」

 

 

ここで彼は失念していた。

もしあの巨人がエレンと同じ巨人化能力者であったら馬を狙うという考え。

さきほどまで普通の巨人を相手にしており、まだ残っているせいでそこまで考えられなかった。

動揺する彼を見た獣の巨人は、人間の様に馬を投げつけた。

 

 

 

「うおっ!?」

 

 

急いで屋根から飛び出して馬の直撃を回避したミケ。

その落下先には4m級の顔が崩れた巨人が居た!!

 

 

「クソが!!」

 

 

巨人に掴まれる瞬間、彼は双剣を叩きつけて目を潰してその勢いで地面に激突した!。

左目を損傷し、右目もダメージを受けた巨人は、目標を失い、その場を去っていった。

 

 

「ぐっ…」

 

 

一度、巨人で衝撃を和らげたとはいえ全身を叩きつけてしまい、満身創痍である。

近くには、さっきの巨人も含めて4体の巨人が居る。

馬という移動手段の喪失、ダメージで身体が動けないというコンボを喰らってしまった。

ここで彼は人生が詰んだのを嫌ほど実感した。

 

 

〈その武器はなんて言うのですか?〉

「!?」

〈その腰に付けて飛び回る奴〉

 

 

ミケは獣の巨人が人間の言葉を使ってきたのを聴いて戦慄した。

巨人化能力者だと判断できていない彼は恐怖で怯えた。

人は未知なる物を見てしまうと思考を停止して恐怖で怯えてしまう。

トロスト区防衛戦における訓練兵と同じことがミケの心境で起こっている。

その彼が居る後方に、巨人が恥ずかしそうに建物から顔と両手を出して覗いている。

 

 

〈おかしいな…言葉は通用するはずなんだけどな…怯えてそれどころじゃないのか?〉

〈剣とか使ってるし、やっぱうなじに居るって知ってるんだな〉

 

 

獣の巨人の正体であるジーク・イェーガーも未知なる物に怯えていた。

双剣を構えて空中を飛び回って巨人のうなじを削いで討伐する。

それを上層部に口頭説明すれば、精神病院に入院されるほど現実的ではなかった。

100年の間に独自の進化を遂げた悪魔の末裔に怯えている。

ただ、恐怖より好奇心が勝っているのは恩人の影響があるな…と彼は思った。

 

 

〈まあいいや持って帰れば……おい!待てよ!〉

「ぐああああああっ!」

 

 

そう思って未知なる装備を入手しようとするジークであったが誤算が発生した!

建物の影に隠れていた巨人がミケに襲い掛かったのだ。

抱き抱えられて内臓を圧迫されて悲鳴をあげる男を見たジークは、無垢の巨人を制止させた。

 

 

〈待てって言ってるだろうが!〉

 

 

命令しても捕食行動を止めない巨人に激怒したジークは、その巨人の頭を握り潰した。

うっかり怒りで巨人を潰してしまったが代替えなどいくらでもあると割り切った。

 

 

〈今度こそもらうか〉

 

 

そう思って未知なる装備を壊さない様に優しく掴もうとした。

それを見たミケは両手を頭に抱えて丸まった!

ミケの脳内では、巨人の王様であり人類を滅ぼす気だと思っていた。

そのおかげで何も抵抗もなく、ジークはあっさり『立体機動装置』を入手した。

そもそも立体機動装置の存在すら知らない彼が名前を知っているわけがなかったが…。

戦利品として記念に持ち帰る事で頭が一杯であり、震えている小物には興味が無かった。

 

 

『人は戦う事を止めた時、初めて敗北する。戦い続ける限り、まだ負けていない』

 

 

さきほど自分で発言した言葉を思い出したミケ・ザカリアス。

震えながらも柄を握りしめて双剣を構えた!

戦う限り、撒けることは無いのだ。

彼は呑気に後ろを向けた獣の巨人を攻撃しようとしていた。

 

 

〈あっ、もう動いて食べて良いよ〉

 

 

獣の巨人は、無垢の巨人の行動制限を解除した。

残りの3体の巨人は命令に従ってミケに近寄り襲い掛かった!

 

 

「やだぁあああああ!!やめてぇええぇぇえええ!!」

 

 

ミケの覚悟は速攻で消えた。

絶望したのを気力で立ち直らせた分、更に心が折れたので絶望して子供の様に泣き叫んだ!

立体機動もなく満身創痍でただ巨人に踊り食いされる末路に絶望して脱糞した!

その悲鳴を聴きながら、獣の巨人は歩いていく。

 

 

〈やっぱ喋れるじゃん…まあしっかし、面白いことを考えるなー〉

 

 

ジークからすれば、あの怯えた兵士などどうでもよかった。

それよりこの装置を分析する必要がある。

壁内人類が外界から遮断されて100年以上経過してどんな進化を遂げたのか調べたくなった。

その時、爆発音と共にとてつもない異音がした!

 

 

〈何事だ!?〉

 

 

慌てて振り返ると、さきほどまで兵士らしき男が喰われていた場所で濃厚な蒸気が出ていた。

さきほど1体の無垢の巨人を潰したが、ここまで蒸気が出ることは無かった。

そして、濃厚な蒸気の中から騎兵が1名飛び出してきた!

 

 

「おっほっほっほっ!…よくもミケさんをやってくれましたわね!」

 

 

フローラ・エリクシアは、獣の巨人に向けて双剣を構えながら発言した。

過去最大級に苛立っている彼女ではあるが、獣の巨人が巨人化能力者である事に気付いている。

だからこそ、怒りや鬱憤をこいつで晴らそうとした。

ちなみにミケは屋根の上で座り込んで放心している。

 

 

〈なんだこいつ!?〉

 

 

この日、ジーク・イェーガーは思い出した。

自分が相手にしているのは、エルディアの悪魔だという事を!

この後、惨敗して命からがら50mの壁に帰還して部下の前で泣き叫んだ!

思い出しただけで脱糞して泣き叫ぶ戦士長に部下達を困惑させることとなる!

 

 

〈所詮、さっきと似たような奴だろう〉

 

 

そして彼は知らなかった。

自分が相手をしたのは、エルディアの悪魔で最強ではないことを!

彼女すら凌駕するリヴァイ兵士長に苦しめられることを知る由もない。

ただ、変な女が話しかけてきたのでジークは適当に相手にするつもりであった。

過去最大級の尊厳破壊をさせられると知らずに…。

 

 

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