進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
フローラ・エリクシアは機嫌が悪かった!
巨大樹の森で彷徨っていたアニを救出した結果、ストヘス区が半壊し住民が大勢死んだ!
正体に薄々気付きながらもドーナツを楽しんでいるアニを見てしまい、それを心の奥に留めた。
あまりにも嬉しそうだったので、後日にドーナツを4人で食べる約束が白紙化した!
精神的に追い詰められている親友のミーナに致命的な精神ダメージを与える現実!
午前4時に起床して寝不足!そしてなによりお腹が空いた!
「さすがに1人じゃきついわね…ライリーも居るとはいえ…」
エルミハ区から出発して既に3体の巨人を討伐したフローラだったが怒りが収まらなかった!
怒声をあげるのではなく静かに怒るタイプの為、人や物に当たる方ではなかった。
そのせいで数分前にようやく自称主人が激怒している事に気付いたライリー。
一瞬、自分の名前を呼ばれたが恐怖を我慢して走り続けた!
「止まって!」
フローラは手綱を引いた!
基本的に馬を止める時は手綱を引かない。
故にライリーは緊急事態と判断して素直に止まった。
『ミケ分隊長と…誰?』
フローラは、負の感情を聴ける“声”で2人の人間と4体の巨人の呻き声を感知した。
問題なのは、ミケ分隊長ではない男の“声”である。
立体機動装置に慄いているようで、何度も妙な単語を口にしていた。
ここでフローラは、そいつが巨人化能力者だと気付いた!
それと同時に腸が煮え返ってその巨人を徹底的に痛めつけてから惨殺するつもりである。
何故なら立体機動装置どころか兵士の姿すら知らない者など敵に違いないのだから!
「あいつのせいで…!」
ニャンコとワンコを汚いおっさんで人体錬成して合体したような獣の巨人から発せられていた。
巨人化能力者が居る巨人は、呻き声ではなく人間の声がはっきり聞こえる。
そもそも巨人の口で人語で話しかけているのをみると、明らかに知性のある人間である。
ミケ分隊長は、得体が知れない化け物だと判断してパニックになっているようだ。
だからこそ、わざとらしく話しかける獣の巨人を討伐したくなった!
歯を噛み締めて殺意剥き出しで睨めつけるフローラを見てライリーは萎縮した。
〈待てって言ってるだろうが!〉
獣の巨人が巨人の頭を握りつぶした。
別にそこは問題ではない。
問題なのは、両目を潰されている巨人はともかく、2体の巨人が指示に従って待機していた点だ。
人間を見つければ捕食行動に移る巨人らしくない行為。
つまり、巨人を統制しており、壁内に巨人が出現したのは獣巨人のせいだと分かる。
巨人の王様なのかはフローラは分からないが、この騒動の発端は大体こいつのせいだろう!
〈今度こそもらうか〉
女型の巨人と接点がないのか、興味深そうに立体機動装置を掴んでいた。
理由は不明だが、アニとはそこまで関わりが無い様に見える。
むしろ、ドーナツを頬張る彼女の姿を思い出すと、こいつのせいで狂ったと感じるフローラ。
威力偵察に来たのか、アニを回収しにきたのか彼女は分からなかった。
ただ言える事は、アニが壊れた元凶をそのまま帰すつもりはなかった!
〈あっ、もう動いて食べて良いよ〉
目標の物を入手した獣の巨人は、あっさりミケを巨人の餌にしようとした!
震えながら刃を向けてくるミケの覚悟などどうでもいいと言わんばかりに無情に切り捨てた。
本命は、良く分からない兵器(後に立体機動装置と判明する)であり、兵士はどうでもよかった。
我慢できなくなりつあった2体の巨人と、顔面が崩れた3m級の巨人はその命令を受けた瞬間!
意気揚々とミケを捕食しようと3体の巨人が飛び掛かった!
「やだぁあああああ!!やめてぇええぇぇえええ!!」
戦う術がないミケは脱糞して泣き叫んだ!
決して後ろを振り返る気が無いジークは、その悲鳴を聴いて満足そうに去っていこうとした。
その声を聴いたフローラは手投げ式の音響弾の安全ピンを抜いて巨人の群れに突っ込んだ!
「邪魔!」
3m級の巨人のうなじを削いだ瞬間、背後に捨ててきた音響弾が破裂して爆音を辺りに響かせる!
巨人は全身の皮膚が感覚器官と揶揄される。
そのせいなのか、音がした場所に巨人の注意を惹いた隙に邪魔だった巨人の首を両断!
ミケを抱えて、ありったけのガスを噴出して屋根に置いた後、残りの巨人を潰した!
聴覚が優れる彼女は、耳鳴りが残るダメージを負ったが救出失敗に比べれば些細な損害である。
続けざまに死んだ巨人の亡骸から噴出する蒸気のおかげで、彼らは姿を隠す事が出来た!
〈何事だ!?〉
予想してなかった爆音で怯んだ獣の巨人は、音が止んだのをしっかりと認識した後、振り返った!
何故か民家が見えないほどの蒸気があり、さきほど飛び掛かった巨人が全滅した様に感じられた。
「おっほっほっほっ!…よくもミケさんをやってくれましたわね!」
フローラはライリーに騎乗して双剣を構えて蒸気から飛び出した!
ライリーが悲鳴をあげるほど胴体を締め付ける両脚からは怒りしか感じられない!
そうとは知らず、わざわざ姿を見せてきた女に困惑するジーク・イェーガー。
多分、馬鹿なんだろうな…と他人事である。
〈所詮、さっきと似たような奴だろう〉
さきほどの兵士らしき男が大した事なかったので、こいつも同じだろうと判断しても仕方が無い。
むしろ、派遣した4名の戦士が何でこの程度の奴らに手古摺っているのか疑問だった。
工業化どころか、原始的な戦い方をする住民がエルディアの悪魔だとは思えないほど滑稽だった。
そんなジーク・イェーガーの常識は、この日を境に崩れ去った!
〈とりあえず女の子らしい悲鳴を聴かせてくれ〉
ジークは、地面を右手で掻きむしって土を投げつけようとした!
子供が砂遊びをするように純粋な気持ちで地面を掘り返して右手にある土を握りしめた!
視線を戻して、いざ投げつけようとしたら赤い馬しかいなかった。
〈あれ?どこ行った!?〉
17mという巨体が見下ろしているから分からないはずはない。
さっきの男も空を飛び回っていたから上にいるのかと大空を見上げた。
特に何も変わった様子はない。
耳障りな異音を除いて。
そこで、その異音が何なのか確認しようとした瞬間、右目の視力を失った!
〈ほえ!?〉
人間は想定外の事態に陥る時、思考を停止させ動きが止まってしまう。
さきほどのミケ分隊長から見た得体のしれない存在であるジークも同じ状況に陥った!
『壁外から来たのね…』
彼が操作している獣の巨人の右目にはスナップブレードが突き刺さっていた!
もちろん、フローラが死角から飛び出してブレードを眼球に突き刺したからである。
それでも呑気に立っているのを見て壁内の人間でない事を理解した。
『それなら好都合よ!アニじゃできなかった事で全てを吐かせてやるわ!!』
ならば、人権など守らなくていいだろう。
ミケ分隊長を尊厳破壊した獣の巨人を同じように尊厳破壊をしてから尋問するつもりだった!
『こいつのせいでアニが狂ったんだわ!こいつのせいで!!』
ハンジ分隊長やエルヴィン団長だったらジークを生け捕りにするだろう。
フローラはこいつを生かして帰すつもりは毛頭ない!
アニが狂った原因がこいつであるならば、人権を踏みにじられて絶望して死んでもらいたかった!
本能が『こいつを痛めつけろ』と囁いてくるほど残虐な行為を容赦なくできる環境になっていた。
『毛が邪魔!!』
ジークは、部下であるアニと違って立体機動の知識がないせいでうなじが無防備である!
フローラは、うなじにを斬ろうとするが、毛深いせいで毛を刈るだけで終わってしまった!
しかし、彼女は思った。
『なんて燃えやすい毛なのだろうか』…と。
〈一体何が…〉
ようやく落ち着いたジークは右目に何かが突き刺さっているのが分かった。
なので巨体の眼球付近を抉り取って、肉体再生を目指した。
その隙にフローラは地面に着地してライリーに向かって駆け出した!
そして、馬に取り付けたバックアップから3本の火炎瓶を取り出して微笑みながら駆け出した!
この火炎瓶は、先輩であるニファ・ヴューラーから製造方法を教えてもらい自作したものだ。
『乾いた毛、それなりのそよ風…燃やすにはちょうどいいわね!』
やたらと毛むくじゃらで、腹が突き出たおっさん顔の獣の巨人。
うなじを斬るには体毛を除去しないと思ったフローラは、こんがり焼いて終わらせる気だった!
うなじにいる能力者も焼き殺せるならそれが良いが、さすがにそこまでいかないと思っている。
〈そこか!!〉
しかし、フローラが再度攻撃に移る前に獣の巨人に気付かれた!
馬を乗りこなす騎兵を見つけてジークは拳で叩き潰すつもりだった!
だが、彼は誤算があった。
「行くわよ!」
調査兵団という存在をジークは知らない。
そしてその兵団が利用している馬は専用に調教されているのも知らない。
ジークや一般的な庶民から見れば、調査兵団の馬は普通にしか見えないだろう。
巨人を見ても恐れずに温厚で誰とも友好的で順応で、本気で走れば巨人の速度より速い馬である。
ところがフローラが乗っているライリーは、その調査兵団の馬と対極的な存在だった。
〈はや!?自動車より速っ!?なんだこいつ!?〉
ライリーは巨人を恐れており、好戦的で相棒すら認めず、本気で走らなくても巨人より速かった。
駆け回るのが大好きなこの馬は、大地を我が物のように歩き回る巨人を敵視している!
自分の走行を阻害し、自由を制限されているのは巨人のせいだと分かっているからだ。
だからこそ、フローラが巨人を討伐するのを見るのがカタルシスであり興奮する光景であった。
よって、彼女が立体機動に移った瞬間、加速して巨人のアキレス腱を思いっきり蹴り飛ばした!
少しでも早く巨人を討伐してもらい、再び自由に走り回りたいからだ!
〈うおおおおおっ!?〉
いくら17m級の巨人でも馬の全力の前蹴りの衝撃でフローラへの攻撃が逸れた!
ライリーもただじゃ済まないはずではあるが、普通に何事もなく離脱している。
〈人がワイヤーで飛んでいるのか!?〉
移動を停止して立ち直したジークは今までの常識が崩壊するようであった。
まさか巨人を討伐するのにワイヤーアクションをしながら、うなじを斬り付けるなんて…。
ここに来て実際に目撃するまで想定してなかった!
馬から飛び出して何かを突き刺してワイヤーを巻き取りながら双剣を構えて突っ込んでくる光景。
重力は!?耐Gは!?空間認識能力は!?そもそも生身で巨人に挑むのか!?
ワイヤーを利用し、ターザンごっこでアーア⤴︎ア⤵︎しながら巨人を討伐するなんてありえない。
しかし、握りこぶしサイズの人間が飛び回るのを目撃しており、彼は混乱に陥った!
だからこそ、彼女の笑みを見逃してしまった。
「臆病者が敵に隙を見せるなんて喧嘩売ってるの?」
ニファは、フローラに火炎瓶の作り方を教えたが、使用する油を指定していなかった。
なのでフローラは、【燃える液体】から精製された『揮発油』を使用した。
訓練兵時代に好奇心でその油に着火して死にかけた経験で使用していたに過ぎない。
…後世で『ガソリン』と呼ばれる油は、少なくとも彼女は最適だと信じていた。
火炎瓶を教えた第四分隊のニファが知ったら卒倒する話である。
「おっほっほっほっ!まるで業火で悪魔を焼き尽くすみたいね」
獣の巨人の毛は燃えやすかった!
それは巨人の皮膚を直接焼くより手っ取り早く!
割れた瓶から飛び出した燃料がばら撒かれて毛に付着し、微かな火種で爆発するように発火した!
〈ぎゃああああああ!?〉
砲撃される事があってもガソリンで焼かれるのは想定外であった。
獣の巨人は、無駄に体毛があるせいで皮膚だったら表面だけを焼くだけで済んだのに悪化した。
剛毛は斬撃はおろか、砲弾の衝撃や熱すら護る盾であったが、ガソリンの前には無力だった。
両手で掻きむしって燃える毛を皮膚ごと抉り取って投げ捨てた!
17mから飛び降りるのは危険過ぎるし、既に本体の方まで熱が届いたので鎮火するしかなかった。
「もう1発!」
思った以上に燃える獣の巨人に驚きながらフローラは、追加の火炎瓶を投げつけた!
さすがに自分も巻き添えになると思い、投げた瞬間、地面に落下するように逃げ出した!
蓋が緩んだ火炎瓶は、必死に鎮火する巨人の人差し指に激突して割れた。
その瞬間、爆発した!
「火炎瓶も案外、こういう巨人に役に立つのね…」
巨人には立体機動による肉薄攻撃でうなじを削ぐのが有効とされている。
砲撃では巨人の動きに翻弄されるうえに、うなじ付近に直撃しないと有効打にならないからだ。
更に燃やしても巨人に理性がないせいで、そのまま突っ込んでくる為、牽制にはならない。
せいぜい火炎瓶は合図に使うか、巨人に喰われそうな同僚を救出する時に使うものである。
逆に言えば、知性のある巨人には火炎瓶が有効だとも取れるが、今回の件ではっきりした!
巨人化能力者には、火炎瓶が有効であると…!
『やべぇ…エルディアの悪魔怖っ!?』
ジークは、火炎瓶を投げつけられたとようやく認識できた。
ワイヤーアクションで空を飛び回り、火炎瓶を投げながら双剣で巨人のうなじを削ぐ戦法。
おそらくこの島にある地下資源を贅沢に使用する途方もないコストがかかる兵士。
硬質化で高熱を防いだジークは、咆哮で巨人を呼び寄せて、いっきにケリをつけるつもりだった。
それが彼の大失態に繋がった。
「ムカつく声を黙らせてあげるわ!」
フローラは獣の巨人の声帯を潰して発音させないつもりだった。
一方、獣の巨人は咆哮しようと空気を取り入れて吐き出そうとした!
そのせいでフローラが斬り付けた衝撃で、反射的に首を縮めた瞬間、圧縮された空気が暴発した!
あまりの衝撃で巨人の頭が取れて地面に向かって落下していった。
「あれ?」
ジークは視界が再び元に戻った。
さきほどまで不快感があった右目の視力は元に戻っており再び大地を見下ろせた。
何故かさっきより景色が遠のいているな…と他人事である。
しかし、戦士長である彼が異変に気付くのはそう掛からなかった。
皮膚を削いでまでして引火した毛を投げ捨てて、爆発の衝撃で致命的なダメージを負っている。
「巨人の…頭が!?」
そこに圧縮された空気がフローラが付けた喉元の傷から爆発するように抜け出した!
その結果、顎から後頭部に向かって応力が発生。
更にうなじ付近を支える筋肉が無くなっていた為、その応力を筋肉に受け流す事ができなかった。
哀れな獣の巨人の頭部は首の根元の結合部を引っぺがし、切れて落下して地面に転がった。
気が付くと、獣の巨人の首のうなじ付近にジークの頭がだけが飛び出している歪な状態になった。
身体は巨人、鎖骨から上は、人間の頭という状況がジークを更に混乱させた。
「ふーん」
爆発の衝撃で吹っ飛ばされたフローラは立ち直して立体機動に移り、首元に到着していた。
ジークとフローラが顔を見合わせてお互いの顔を見た。
彼からすれば、同族であるのは知っているので本当に人間なんだなという感想しか思いつかなかった。
「てい!」
フローラは躊躇いもなく左手の親指をジークの右目に突き刺した!
これはアニから習った格闘技の反則技“サミング”という物だ。
なんでこんな物が格闘技の一種なのか疑問に思ったがこういう時に使うのだろう。
「ぎゃあああああああ!!?」
向かい合って見つめていたら問答無用で右目を潰されたジークはたまらず悲鳴をあげた!
目の前に居るのは、まさしく【エルディアの悪魔】である!
「うぴょおおおおお!?」
あまりの恐怖で小便をちびらせた彼は巨体を走らせて女兵士を振り落す為に逃亡した!
彼は一度、部下と合流して対策を練るつもりだった!
「待て待てー!」
「ぎゃあああああああああああっ!?」
声がした所を見ると、さきほどの女が馬に乗って追いかけて来た!
全速力で巨人が逃走しているのに時速100kmで走ってるのかと思うほど追い付かれそうだった!
「おっ!良い所に!お前ら!こいつを喰え!!」
3体の無垢の巨人を見つけた彼は、女兵士が居る所に指差して全力で逃げた!
ジークの脊髄液で巨人になった悪魔たちは、命令通りフローラを捕食しようと襲い掛かった!
見事に無垢の巨人に面倒事を押し付ける事に成功したジークは、額の汗を右腕で拭こうとした。
「ああ、そうだった…頭だけ人間だったな…」
巨人の腕が見えた瞬間、潰されない様に慌てて立ち止まって衝突を防いだ。
過呼吸で吐き気がしており一呼吸をついた。
先ほどの出来事が悪夢に見えたが、右手に握っている兵器で妄想ではないと実感したジーク。
さすが悪魔と揶揄される事があるなと他人事だった。
「さて、あいつは…!?」
さすがに巨人3体ぶつければ死ぬだろうと思ったジークは驚愕した!
1分足らずでその巨人たちが地面に倒れ込んで蒸気を噴出して黒ずんでいた!
「どこを見てるの?」
女が耳元で優しく声をかけてきた。
だが、ジークは知っている。
その声の正体は巨人3体を瞬殺した【エルディアの悪魔】だということを!
恐る恐る首を動かすと微笑む女が居た。
ただし、真昼間なのに瞳孔を最大限開いている化け物を見てしまった。
その瞬間、激痛と共に視界が真っ暗になった。
残った左目をフローラの親指に中途半端で潰されたせいで完全に失明した!
「うわあああああああああああああっ!?」
ジークは奇声をあげて逃げ出した!
痛みを!恐怖を!自分の無力さを誤魔化す為に必死に正気を保つ為に大声で叫んだ!
この日、ジーク・イェーガーは思い出した!
自分が相手にしているのは、誇張ではない本物の【エルディアの悪魔】だという事に!
「ぎゃあああああああああ!!」
「待て待てー!」
頭部を失った毛むくじゃらの巨人が騎兵1名に追撃されている。
民家の屋根の上に座り込んだ調査兵団の第一分隊長ミケ・ザカリアスは呆然とそれを眺めていた。
さきほどまで得体のしれない化け物が悲鳴を出しながらフローラから逃げていた。
それだけでメンタルが回復するのに時間が掛からなかった。
「来るなああああ!俺の傍に近寄るなあああああーっ!!」
「おっほっほっほっ!…まだ逃げられると思ってるの!?あんたは無残に死ぬのよ!!」
「嫌だ!嫌だああああああ!!」
例えるなら、旧支配者の1人であるクトゥルフが下級な存在に介入して絶望を振り撒いていた。
そんな化け物もお腹を空かせたフローラには『ただの食材』にしか見えないのだろう。
見るだけでSAN値が削られるクトゥルフも、恐怖の感情が無いフローラは食欲が勝った!
化け物の視界を奪い、触手や翼を両断して焼き殺そうと、逃げる食材を彼女が追いかけた!
「ああ、フローラらしいな…」
【食材】は悲鳴をあげて逃走してるが、食い意地がある彼女から逃げきれるはずもなかった。
こうしてみればクトゥルフが大した事がないように感じるだろう。
目の前で繰り広げられている衝撃的な光景も、そう考えると納得できる。
ミケもそんな感じでフローラのおかげで精神を癒すことができた。
「追いかけっこは…もう終わりよ!!」
1分足らずで巨人の全力疾走に追いついたフローラはアキレス腱にアンカーを撃ち込んだ!
双剣を構えてワイヤーを巻き取って見事に腱を削いだ!
アキレス腱が削がれた事に気付かない獣の巨人は躓いて、地面にうつ伏せで倒れ込んだ!
「まだ死ねないんだ!!」
ジーク・イェーガーは右目の再生が完了したと同時に巨人化を解除!
巨人の首元から蛇が脱皮するように滑らかに粘液を溢しながら巨体から脱出した!
両手を地面に付き、背を仰け反って必死に立ち上がろうとした!
両膝を地面に付き、左足を地面に付きしゃがんでいる状態に持ち直したがそれでも足りない!
「うおおおおおおおおっ!」
ジークは雄叫びをあげて生暖かい濡れたズボンの感触も気にせずに立ち上がった!
地面に落ちていた眼鏡を拾って平原を走り出した!
『諦めない限り負けていない』というミケの信念はジークにもあったのだ。
「ぐぎゃあああ!?」
最後まで諦めずに走ったジークを汗血馬のライリーが蹴っ飛ばした!
無駄な努力ご苦労様と言わんばかりにフローラは本日で最高の笑みを作った。
人権が存在しない人間など人権を守る必要が無いので、痙攣しているジークを見て満足した。
「どこに行く気ですか?あなたが行くのは裏切り者を憎んで地獄行きを決意した亡者の元ですよ」
フローラの指示でライリーは彼を蹴っ飛ばした!
ライリーがライナー・ブラウンを蹴っ飛ばそうとする度にフローラは必死に止めた!
蹴るなら鎧の巨人であって、ライナーではないと何度も止めていた!
もちろん、人間を蹴っ飛ばすのは自分だけで良いとフローラは思っている。
ただし、獣の巨人の能力者は人権が存在しない為、除外した結果、馬に蹴られた!
本当に蹴っ飛ばして良いのかライリーは困ったが、とりあえず全力で蹴っ飛ばした!
「ごぼぼっぼぼっ!?」
悶絶するジークに更なる不幸が到来した。
ライリーが彼に向かって小便をしたのだ。
「ぶぼぼぼーぼ!ぼーぼぼ!?ごほおっほほ!!?」
マニアックな男性は、女性の小便を浴びたり飲んだりして興奮するそうである。
あらゆる変態の中でも特に異端の存在であるが、そんな彼らもドン引きするだろう。
2歳児の少女の小便をジークは口で受け止めて飲み込んでいた。
それだけならともかく牝馬の小便を飲む変態プレイなど、彼らもしたくない。
こうして人類の中でも変態だったジークは更に変態になるという尊厳破壊をされた!
「駄目じゃないの!存在する価値すらない産業廃棄物未満の汚物に小便をかけちゃ!」
フローラは産業廃棄物未満の存在に小便をかけるライリーを叱責した!
馬の小便が更に劣る汚物になる事に彼女は耐え切れなかった!
産業廃棄物ですら、そうなる前は誰かの役に立っているからジークはそれ未満の価値となった。
かつて、女型の巨人を足止めしようと提言したジャンに馬の小便で頭を冷やせと言った彼女。
実際に馬の小便を浴びてアへ顔を晒す男を見て『これが恐怖…』という嫌悪感を抱かせた。
「他愛もないわね…妄想の世界に逃げられるとでも思ってるの?」
フローラは、ライリーを安全な場所に避難させた後、悪魔の形相になって男に近寄った。
入浴時でもないのに何故か半裸のジークを一瞥し、軽く蹴って気絶しているの確認した。
「いつまで寝てる気なの!起きなさい!!」
「ぐふぉっ!?」
そしてその無防備な腹に『二式刀身』というスナップブレードを突き刺した!
それだけでは物足りずに何度も捻り!内臓を搔き回した!
口から吐血して悶絶し痙攣するが、ジークはこの程度では死ねなかった。
悪魔ですらジークを哀れんで泣きつくほどの惨状ですらフローラは無表情で眉1つ動かさない。
「ぐほっ!?ああたっつ!?ああああ!?」
「何だ、まだ声が出るのね…ああ!腹が立つ声ねえ!!」
「…っ!?」
余裕がありそうなジークの悲鳴を聴いたフローラは、もう一本の刃で股間を何度も斬り付けた!
初撃はズボン越しに股間に付いている玉袋を軽く切り裂いた!
第二撃目は、タマタマがタマ/タマになった!
第三撃目は、汚い棒を切断し、尿道を潰した!
第四撃目には、股間にある器官が肉塊どころか微塵斬りになってしまった。
ジークの粗末の物が更に粗末の物になった。
それでもこいつのせいで、アニを失ったと思い込むフローラの怒りは収まらなかった!
「ねぇ裏切り者!『王様ごっこ』は愉しかったの?」
「!?」
「とぼけないでよ!両親さえ裏切ったあなたが天国に行けると思ってるの?」
フローラは、ジークの内情を知らない。
だから彼が両親を裏切った過去など知らないし、適当に言ってみただけだ。
しかし、ジークは両親を密告し、裏切った過去がある。
それは彼にトラウマを残しており、激痛のせいで声が良く聞こえたせいで更に絶望した。
「あら、両親を失望させた癖に裏切って見捨てたのね…ああなんてお気の毒な方々なのでしょう」
負の感情を“声”として聴けるフローラは、ジークにピンポイントで急所を抉ったと理解した。
彼女は、同期はおろか先輩や上官、中央第一憲兵団の対人立体機動部隊すら仲良くできる。
そんな彼女は、メンタルケアの達人として同期から一目置かれている。
しかし、それはコミュ力でメンタルを容易に破壊できる実力者でもあるのだ。
「せっかくあなたの才能を見出して真心込めて育てたのに、この汚物は両親の想いを踏み躙った…ああ、なんて生きている価値がない下衆野郎なんでしょう!血が特別だっただけの凡人が裏切って勝ち取った未来…ねえ、飯が旨かったの?ご両親を裏切って、恩人のおかげで立ち直れたつもりでいる糞野郎さん」
スラスラと適当な事を発言したつもりで、ジークの地雷を的確に踏み抜くフローラ。
当の本人は苦痛で動けず、巨人化するのも忘れて…ただ聞くしかできなかった。
むしろ、痛みのせいで鮮明に聴こえて心を抉っていった。
【驚異の子】と畏怖されて恐れられたジークも、本物の悪魔には勝てなかった。
「数少ない特技で他者より秀でているからって自分が特別な存在だと思い込んで、ちやほやされて食べる飯は旨かったの?美味しかったんでしょうね、さきほどまで楽しそうに兵士をいたぶってる所を見ると、他者を裏切っても平然として生きていたんでしょう?この図々しさだけは見習いたいものですわね」
ジーク・イェーガーは、目の前に居るのが【エルディアの悪魔】だと分かった。
自分達が世界から差別される理由が分かった。
何故、自分たちが悲惨な目に遭って世界から弾圧されてきたのかが分かった。
ここにこんな悪魔が山ほど住んでいるなら、人類の敵になるのは当然である。
「おっ…お…」
ジークは、とにかく目の前の悪魔だけでも何として殺さないといけないと思った。
肉体的にも精神的にもボロボロにされたが誇りはまだ残っている。
名誉マーレ人として最後に残った誇りで巨人化して悪魔を…殺そうとした。
「てい!」
「ごおっ!?」
巨人化になろうとしたジークの感情に気付かないわけもなくフローラは股間にブレードを刺した!
無情にもズタボロになった生殖器官を破って大腸を破壊し小腸まで刃が到達した!
さすがにフローラもここまで刃が到達したのは分からなかったがどうでも良い事だった。
「さて、下準備は整えたし、これから本番に移りましょうか」
「なんで怯えるの!?…まさか、
この瞬間、ジークの心は砕け散った!
フローラからすれば、料理を調理する為に包丁や鍋をキッチンに並べた感覚である。
まだ始まってすらいなかった。
さきほどまでの行為は、アニを失った悲しみで無意識でやっていた行為であった。
これからは意識して情報を訊き出そうとしたフローラは、既に怯える男に困惑した。
超大型巨人や鎧の巨人の情報を訊き出す必要があるが最悪殺しても身柄を回収すればいいだけだ。
責められたら抵抗して巨人化しようとしたので殺害したと…言い訳するつもりだった。
「初めての拷問をするけど覚悟は良い?合計7個やる予定だけど失敗したらごめんなさい」
フローラは優しい口調で、
まず気力を全て潰して巨人化させないようにしたので、ようやく尋問できる事に喜んでいる。
巨人化する際に発生する爆風で2回も酷い目に遭ったフローラは、それだけ警戒していた。
壁外でエレンが巨人化した時、ストヘス区でアニが巨人化した時の爆風の経験が活きていた。
そんな事を知らないジークは、ただ死刑台のギロチンが振り下ろされる死刑囚の気分だった。
「まずは、【戦士】というのは…!?」
ここでフローラは、ミケ分隊長の悲鳴で彼を置いてきてしまったのを思い出した。
現在、彼は民家の屋根に集まった複数の巨人に狙われている。
ゆっくりとジークを尋問するつもりだったが、上官を失う訳にもいかず諦めた。
「せっかくいい機会に巡られたのに…残念ですわ」
彼女は対人立体機動部隊のケニー隊長から教わった【7つの拷問術】を試すつもりだった。
例え1発目で全ての情報を吐いても、良い経験だからと全部の拷問を試すつもりだった。
もし、この現場をケニーが目撃すれば必死に制止したことだろう。
加減を知らない頭進撃娘は、人権が存在しないジークに容赦なかった。
「さようなら、髭もじゃさん!来世は真っ当な人間になれると良いわね」
溜息をついたフローラは、残っていた火炎瓶をジークに向かって投げつけた。
情報を訊き出す暇すらないなら、彼は用済みである。
着火した火炎瓶は、罪人を裁く業火のように彼を焼き殺そうと襲い掛かった!
「…っ!!」
声にならない叫びを出してジークは必死に火を消そうと転がり回った。
しかし投げつけられたのはガソリンである。
そう簡単に火を消せれたら扱いに苦労しない。
気化したガソリンが引火して更なる爆発で彼の体表を破壊した!
「ライリー?どうしたの?」
ライリーは、今までのフローラの行為を目撃しておりドン引きした。
そして何事もなく気持ちを瞬時に切り替えていつも通りに話しかけてきたのに戸惑うしかない。
彼女からすれば、いつまでも感情に引き摺られるつもりはないのでそうしただけだ。
アニ・レオンハートの仇も晴らせたので、いつもより楽しそうに話しかけた。
これでアニへの気持ちに一区切りついて普段の頭進撃モードに戻っただけである。
「妙に大人しくなったわね…嬉しい事だけど…」
ライリーは必死に走った。
目指すは、ミケ分隊長が居る民家!
ミケの救出を急いだフローラは、ジークが死ぬのを目撃しなかったのを後悔する事となる。
そして復讐チェックリストに獣の巨人が追加されたのは言うまでもない。
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「い、生きてる…」
ジーク・イェーガーは奇跡的に生還できた。
気が付けば夕方になりそうである。
どれだけ寝ていたか分からないが股間と腹に刺さった刃が地面に落ちていた。
ここで、内臓と股間が集中的に焼かれていたと分かってしまった。
「ひ、ひい…」
近くに男の兵士から回収した『変な装置』が落ちていた。
彼は立ち上がってそれを回収した後、必死に走って逃げた!
この地に送り出した戦士4名が何故、5年経過しても一度も帰還しなかったのか理解できた。
嫌ほど肉体的にも精神的にもエルディアの悪魔に分からされた!
ここは人間が来て良い場所ではなかったのだ!
「おうち帰るぅううう!!」
ジークは、夜の帳が降りそうな頃に部下達が待つ集合場所に辿り着いた。
部下の1人であるピーク・フィンガーは異変に気付いた。
ジークの脊髄液を含んだガスをばら撒いていた特殊部隊の班員たちも異変に気付いた。
彼が全裸で両手に良く分からない物体を持って帰還してきたからだ。
「ピークちゃああああああん!!」
「ちょ!何事…いやああああああ!?」
全裸で焦げ臭いジークは、ピークの顔を見た瞬間、泣きながら彼女を押し倒した!
まさかの乱心に止めに入るマーレ兵たち!
ピークは戦士長に押し倒されて抵抗するのを忘れてしまったくらい恐怖であった。
「この地は…!やべぇ悪魔が住んでる!!早く逃げないと皆殺しにされるぞおおお!!」
「は、はあ!?何言ってるんですか!?」
「マジで殺されかけた!!早くこの地から脱出しないと殺されるうううう!!」
ジークはフローラの微笑んだ顔を思い出して脱糞した。
巨人化能力者は欠損した身体は、勝手に再生する。
しかし例外があり、排泄物だけは再生しない。
残っていた大便と下痢状の液体が恐怖でガバガバになったジークの菊門から排出された。
その生暖かくて生み立てほやほやの臭い大便がピークの脚を汚した!
「戦士長が乱心したぞ!?」
「おい、引き離せ!!」
「くせぇ!マジ臭い!だからエルディア人は糞なんだよ!!」
「げぇ!大便どころか小便まで漏らしているぞ!!」
「触りたくねぇ…」
必死にピークの胴体にしがみ付くジークを引き離そうとするマーレ兵4名。
再び悪魔の地に戻されると悟った彼は、更に小便を漏らしてピークの胴体を濡らした!
脚を大便に、胴体を小便で汚された挙句、全裸で抱かれたピークは泣くしかできなかった。
「あいつら『ユミルの民』じゃない!冗談抜きで人の皮を被った悪魔だ!!」
「戦士長!離れて!!いやああああ!これじゃあ…お嫁さんに行けない!!」
「戦士長!お気を確かに!」
「俺は正常だあああああああ!!」
こうしてピーク・フィンガーは誰かのお嫁さんになる事ができず、人生を終える事となる。
彼女がその未来を予知したのは分からないが、少なくとも余命は短いのは確かである。
マーレ兵がジーク戦士長をピークから引き離せたのは、その30分後であった。
「ピークちゃん…まだ怒ってる?」
「【うんこ漏らし】の戦士長、任務以外で話しかけないでください」
着替えたピークは、ジーク戦士長に失望して、彼を【うんこ漏らし】と呼ぶ事にした。
公式の場でも、上官から咎められても、彼を英雄している民衆の前でもそれ以外で呼ばなかった!
彼女は死ぬまでジークの名前をそのあだ名で呼ぶことは言うまでもないだろう。