進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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64話 サシャと少女の出会い

ミケ・ザカリアスは、困惑していた。

かつて調査兵団でリヴァイ兵士長に次ぐ実力者と揶揄されていた。

しかし、本物の化け物を見てしまうと、自分は凡人なのだな…と思ってしまった。

リヴァイ兵士長の実力に感嘆としていたが、訓練兵時代から壁外で任務を遂行していたフローラ。

そんな彼女が男物の下着とズボンを持ってきたのを見て何とも言えない気持ちになった。

 

 

「どこからそれを持ってきたんだ?」

「下にある民家から持ってきました」

 

 

堂々と窃盗を告白するフローラ。

彼女は、ミケに襲い掛かろうとする2体の巨人のうなじを削いだ後、民家に侵入した!

巨人が倒れて破壊された場所から入れば良いのに堂々とドアを蹴破って窃盗犯罪を行なった!

当然の様にタンスから男の下着とズボンを盗んできてミケに渡そうとしていた。

まるで兵士なら多少の略奪行為を黙認してくれるだろうという感情で動いていたようだ。

 

 

「元の場所に返してきなさい」

「…了解しました」

 

 

即刻却下されてしまい、しぶしぶ返却しに行くフローラを見送ったミケ。

行動力はあるが何かズレている彼女、だからこそ誰とも仲良くなれるのかもしれない。

彼は獣の巨人のせいで尊厳破壊されてしまい、大便を漏らした事を彼女に知られてしまった。

彼女からすれば、死体や内臓、排泄物などいくらでも見てきたので気にしなかった。

ただ、男としてのプライドがそれを許さないし、調査兵団の尊厳にも関わってくる。

だからこそ、フローラは下着とズボンを渡そうとしたが無理だったので代案を考えていた。

 

 

「とにかくライリーが分隊長を乗せられるようにしないと…」

 

 

近くに馬が居ない以上、ミケ分隊長をライリーに乗せる必要がある。

しかし“彼女”は人見知りで認めた人しか騎乗させないタイプのせいで困っていた。

最初、ミケをライリーにコンタクトさせたところ、かなり嫌そうな顔をした。

『こんな奴を乗せるの!?』と馬の感情など分かるわけないのにそんな感じに見えてしまった。

 

 

「この民家の避難ルートは…ここね」

 

 

ウォール・マリアが陥落した教訓で、ローゼの壁内は避難訓練がされていた。

この地図を見ると、一度近くの村に集合して馬を借りてエルミハ区に避難する手筈になっていた。

幸いにもライリーならすぐに辿り着ける場所だった。

借りようとした物を返却した後、速やかに屋根の上に戻ったフローラは事情を説明!

むりやりライリーに自分とミケ分隊長を乗せて近隣の村に向かって走らせた!

彼の下着は捨てたし、尻とズボンの汚れは拭いてあるし、香水をかけたので大丈夫だと判断した!

 

 

「いいのか?」

「はい、なんでしょうか」

「漏らした俺を乗せて…」

「ああ、大丈夫です。さっき獣の巨人とかいう汚物を焼いてきてスカッとしましたので…」

 

 

ミケ分隊長は会話が成り立っていないとは分かったが乗せてもらっているので指摘できなかった。

ただし、自信満々に返答した彼女の事だから、本当に獣の巨人を焼いて来たのだろう。

唯一拝借してきた地図を覗いている彼女に対して、何て答えればいいか迷ってしまった。

 

 

「あの毛むくじゃらは何だったのだろうか…」

「エレンと同じ巨人化能力者ですよ…巨人の王様みたいな態度でしたけどね」

「ああ、そうか…」

「ミケ分隊長以上に尊厳破壊して股間と両目を潰して焼き殺してきたので安心してください」

 

 

最後の一言でミケは冷や汗を掻いた。

エレンと同じ巨人化能力者か…と頷いていたら背筋が凍るほどの冷徹な一言に聴こえた。

ここで本当にヤバいのはこの女ではないか…と思ってしまった。

頼もしそうな背中は、本当は恐ろしいものではないかと錯覚してしまうほどに…。

 

 

『それもしかたないのか…』

 

 

ただ、シガンシナ区出身なので巨人を憎んでいるからと思うしかなかった。

骨折した自分に慣れた手つきで包帯を巻いて副木を固定した彼女。

「骨折には慣れてますので…」と優しく微笑んだ彼女を記憶喪失まで追い込んだ鎧の巨人。

それは、彼女の両親の仇であり、数少ない記憶であった。

彼女が兵士になったのもその影響があるので巨人に過剰に攻撃的なのは仕方ないのかもしれない。

しかし、ミケは迷った。

フローラの同期で巨人化能力者の可能性があると発言するべきかと。

 

 

「見えてきました!」

 

 

フローラは、目標の村に到着した!

まだ避難が終わっていないらしく住民たちが集まっていた。

つまり、まだ馬は出発しておらず、兵士だから優先的に馬に乗れるだろう。

 

 

「ミケ分隊長!?ご無事でしたか!」

「ダイムラーさん!ミケ分隊長が腕を骨折!馬もやられました!予備の馬を借りたいです!」

「ああ、分かった!すぐに手配しよう!」

 

 

調査兵団の第一分隊所属の兵士が居た。

これでミケ分隊長の馬を手配すると同時に彼を押し付けることができた。

もちろん、彼の巨人を感知する嗅覚を失うのは痛手である。

それでも、さきほどからライリーの機嫌が悪いので同行してもらうのは諦めた。

 

 

「フローラはどうするんだ?」

「近くに同期の故郷があります!一度そちらに寄ってからエルミハ区に帰還する予定ですわ!」

「分かった…気を付けてな」

「はい!行ってきます!」

 

 

フローラの同期であるサシャ・ブラウスはダウパー村出身である。

ミケ分隊長の出会った場所から北上して村に辿り着いたが、更に北西に彼女の故郷があった。

上官らしさを取り戻した彼の気遣いにフローラは感謝して、ライリーを走らせようとした!

実際は、これ以上やらかすなよ…という意味合いがあったが彼女が気付くことは無かった。

 

 

「おいフローラ!サシャという新兵が奥の森に向かったぞ!」

「いつ頃ですか!?」

「20分ほど前だ!俺達と別れて更に馬を走らせていった!」

「ありがとうございます!」

 

 

20分ならすぐにサシャに追いつける。

ライリーのスペックは桁違いの上に巨人と交戦できるので最短距離を通過できるのが大きい。

全速力で進撃する彼女を見てミケ達は、巨人を全滅させるまで帰ってこないだろうと感じた。

負傷したミケからスナップブレードを補充し、兵士からガスの残量が半分のボンベを交換した。

つまり、フローラはまだ交戦する気満々だった。

頭進撃娘を見送った後、避難してきた住民をエルミハ区に護送するべく彼らは動いた。

人生で最も働く日はまだ始まったばかりなのだから。

 

 

-----

 

 

サシャ・ブラウスは、故郷であるダウパー村に帰還するのは3年ぶりである。

第57回壁外調査の前に調査兵は故郷に帰還して両親や世話になった人に挨拶した。

もしくは、リヴァイ班のペトラ・ラルのように最低でも手紙を出している。

サシャは、特にそういう事はやらずに食堂で食事を愉しんで適当に特訓していた。

狩人で一人前になるまで認められないという風習もあったが、父に顔を合わす気がなかった。

兵士になって巨人と交戦するどころか、トロスト区で逃げ回るしかできない臆病者。

かつて父に臆病と見抜かれた以上、立派になるまで帰ってくる気は無かった。

 

 

「そんな…」

 

 

サシャは道中で、巨人の足跡を発見した。

獣の足跡は歩幅で大体の全長を予測できるが巨人は経験がない為、何とも言えなかった。

一応、座学で人間の歩幅は、身長の半分未満というのは習った気がするがよく覚えていない。

経験で覚えるタイプのサシャは座学が苦手であった。

ただその足跡が複数で3m級から10m級の巨人が多数居るというのは分かる。

 

 

「ここまで巨人が…奇行種?それとも…」

 

 

この付近はウォール・シーナの西部の城壁都市ヤルケル区に近い場所だ。

巨人は近くの人間を襲うので、ここまで来るのは必然的に奇行種になる。

こんな内地に近い場所まで巨人が侵攻している事を足跡が示しており、おそらく故郷も…。

 

 

「どげーしょうもねぇやっちゃ…まだ見てもしんというのに…」

 

 

サシャは勝手に悲観的になった絶望している自分を奮い立たせた!

思わず『なまり』が出てしまったのは故郷に近いせいか。

ただ言えるのは、以前の自分とは違うというところか。

 

 

『あれは新しい村?』

 

 

既にここは人が暮らしていける環境ではない。

察しの良い父はみんなを連れて逃げ出していると思うが、他は違う。

もしかしたら逃げ遅れた住民が居るかもしれない。

サシャは、生存者を確認する為に知らない村へ向かって馬を走らせた。

 

 

-----

 

 

カヤは村に取り残された。

巨人が出現したと狩りで遠征していた猟師の話で瞬く間に村に混乱が発生した。

彼女は母親を連れてもらう為に懇願したが、村の住民は彼女たちを見捨てて逃げ出した。

足の不自由な母親と少女を連れて行く暇がなかったし、なにより馬が足りなかったからだ。

誰だって自分の命が惜しいし、足手まといを連れて追い付かれて全滅するよりはマシだった。

 

 

「に、逃げて…」

 

 

カヤは俯いて家に帰ると母親は既に巨人に喰われていた。

先に内臓を喰われて右脚も噛み付かれて生きたまま咀嚼されている。

ショックのあまり少女は、その隣に座り込んで呆然としていた。

必死に逃げる様に娘に小声で話しかけているが、もともと病弱のせいで声が全く聞こえない。

 

 

『誰も助けてくれないならそのまま死んだ方が良いかも…』

 

 

父親は5年前に死んでおり、母親は病気で動くことができず村の住民がお情けで助けてもらった。

それも今日で終わり、生きていく気力はなくなっただろうか。

すぐそこで巨人に母親が喰われているのに少女は動くことはなかった。

3m級の巨人も少女の存在に気付いており、何度も見ているが獲物を食べるのが先のようである。

こうして、また1人犠牲者が増えようとしていた。

 

 

「…?」

 

 

近くで物音がしたと思ったら、何か声が聴こえてきた。

既に近隣の住民は見捨てて逃げ出したのに居るわけがない。

そう思っていたのに誰かが助けてくれるのを祈っている少女。

そんな彼女の願いは天に届いたのか。

 

 

「うぁああああああ!!」

 

 

サシャは切り株にあった斧を手に取って中年女性を食べている巨人を強襲した!

必死に何度もうなじに斧を叩き込んだ!

叩き斬って巨人を討伐しようとするが、全く効果が無い様に感じられた。

サシャ自身、訓練された兵士であり女性陣ではミカサに次ぐポテンシャルがあった。

それでも、うなじを斬る事ができなかった。

スナップブレードは巨人のうなじを削ぐのに特化するまで多くの血が流されてきた。

そう簡単にうなじを斬れたら巨人は脅威ではないのだ。

 

 

「ああっ!」

 

 

手を滑らせて斧があらぬ方向に刺さってしまった。

取りに行こうとすれば背後を巨人に見せてしまう。

サシャは近くにいる少女の手を取って立たせて家から脱出した。

既に母親とみられる中年女性の腹から腸が飛び出しており助からないと分かったからだ。

必死にサシャは少女の手を取って、柵に留めている馬に向かって逃げ出した。

少女の母親はそれを見届けて力尽きた。

 

 

「あなたの名前は?」

 

 

サシャが少女の名前を問うが返答は無かった。

さきほどまで母親が喰われていてショックを受けているかもしれない。

そもそも中年女性の様子がおかしいから逃げなかったのか。

少女が話してくれるまで分かるわけが無かった。

 

 

「もう…大丈夫ですよ」

「何が?」

「え、えっ!?」

 

 

安心させようと根拠が無いのに「大丈夫」と告げると少女からツッコミが入った。

さすがにサシャは予想できず手に取った手綱を思わず放してしまった。

すると馬は走り出してしまった。

 

 

「そ、そんな!待って!嘘でしょ!?待ってくださいよ!!」

 

 

必死にサシャが指笛を鳴らすが、馬は逃げ出したまま帰ってくることはなかった。

残されたのは私服を着たサシャと、母親が今さっき死んだカヤだけである。

 

 

「なんでそんな喋り方なの?」

「えっ?」

 

 

少女が他人事のように告げてくるのを聴いてサシャは判断に困った。

本当に彼女を助けるべきだっただろうか。

見捨てて故郷を周った方が良かったのではないか。

サシャは分からなかった。

だが、2人だけしかいないと思っていたが、もう1体居た。

 

 

「ああっ…」

 

 

獲物が死んだのを感じた3m級の巨人は、新たな獲物を探しに家から這い出てきた。

狙うのはロングスカートを履いたサシャか、薄着の寝巻のような物を着ているカヤか。

それは分からないが、このままでは逃げ切れないのは2人は理解した。

 

 

「もう…調査委兵団の馬なんですから、あんな3m級にビビらないでくださいよ…」

 

 

巨人を前にして震えながらもサシャは必死に武器になりそうな物を探した。

すると都合よく弓と弓矢の束を発見して頂戴した。

こんな物が役に立つわけないが視覚を潰せば足止めはできる。

 

 

「さぁ走ってください!」

「何で?みんな逃げちゃった…お母さん足が悪いの知ってたのに見捨てて逃げたの」

「私は貴女を見捨てません!絶対に巨人から逃げきってみせます!」

 

 

サシャが思い出したのは訓練兵時代のやり取りである。

ユミルとクリスタに自分の丁寧語を指摘されて苦笑いしていたあの頃。

まだ希望があり、楽観視していたわけじゃないが充実した3年間。

巨人に喰われるかもしれないというのに楽しかった訓練兵時代の記憶があふれてきた。

まるで走馬灯のように感じられた。

 

 

『なんで…ここでこんな時に…いつもの日常ばかり思い出すのかな』

 

 

必死に走って逃げても3m級の巨人から逃げられそうもなかった。

だからといってそのまま喰われるほどサシャは諦めてなかった。

 

 

「聞いてください。この道を走ってください。決して後ろを振り返らず走り続けてください」

 

 

サシャは巨人を討伐した事が無い。

ガスの補給をする為に兵団本部で巨人と交戦した時は、巨人のうなじを削ぎきれなかった。

確かアニとミカサに加勢してもらって討伐してもらった。

狩人と失格であるが、それでも彼女は少女を護りたかった。

 

 

「貴女を助けてくれる人が必ず居る。すぐに逢えないと思うけど、それでも逢えるまで走って!」

 

 

カヤは、頑張って作り笑いをするサシャが印象的に見えた。

自棄になった自分を助けてくれて今から巨人と戦う女性が記憶に残った。

もしかしたら彼女が巨人を倒してくれると思い、踏み留まりたくなるほどに安心してしまった。

 

 

「さあ、行って!」

 

 

サシャは名も知らない少女の手を放した。

彼女が見据えるのは、口を開けて手を伸ばして追って来る3m級の巨人である。

久しぶりである弓を構えて巨人に向かって狙いを定めた!

 

 

「走らんかい!!」

 

 

サシャの怒声でカヤは必死に走った。

辺りを見れば巨人がうろついており、もし助けてくれた人が巨人を倒しても新手が来る。

それでもあの人が合流してくると信じてカヤは走り続けた。

 

 

「あっ…っぅう!」

 

 

石に躓いて転んでしまったがそれでも必死に立ち上がって走った。

自分を助けてくれる人に逢えると信じて走り出した。

何分経ったのだろうか。

代わり映えがしない景色、相変わらずの曇り空、更に増える巨人。

カヤは、分かっていた。

自分を助けてくれるのは、あの女性しか居なかった事を…。

 

 

「ライリー!ダウパー村はまだ先よ!」

 

 

諦めかけたカヤの前方から騎兵が1名出現した。

さっき逃げ出した馬より一回り大きい赤い馬と双剣を構えている緑のフードを被った兵士。

これが自分を助けてくれる人なのかは分からないが、少なくとも人には逢えた。

 

 

「向こうに…」

 

 

必死に少女は腕を振って、さっきの女の人が向こうに居るのを告げた。

声にならずにジェスチャーするだけで精一杯だったがなんとか伝わったようだ。

 

 

「…そう、まだ生存者がいるのね」

 

 

フローラは生存者に遭遇するのは想定外だったが、遭遇した以上、見捨てられなかった。

幼い少女が5年前の自分の姿を彷彿させて他人事じゃなかったのもある。

“声”を聴くと少女の悲痛な叫びと、サシャの必死な覚悟が聴こえてきた。

 

 

「貴女も一緒に来なさい」

 

 

フローラはライリーに少女を乗せた。

ライリーからすれば重みが増えた上に赤の他人が乗るのは苦痛だった。

ただ、ジークを嬲り殺しにしようとしたフローラの姿をはっきり見届けたので黙って走り出した。

動物には人間と違って感情が分かりにくいが、絶望と怒りは理解できる。

少なくともフローラが激怒していたので振り落とすと碌な事にならないのは理解していた。

 

 

「良い?手綱を絶対に離しちゃ駄目よ?分かった?」

「うん」

「それならいいわ」

 

 

少なくともライリーという馬は巨人より遥かに速い。

逃げに徹すれば追い付かれることは無いだろう。

 

 

-----

 

 

「ハァハァ…返り血のおかげで助かった…」

 

 

巨人の片目を潰したサシャであったが、それで油断してしまい巨人に抱擁された。

とてつもない力で潰されそうになったが、さきほどの斧で傷つけた傷から垂れた血で助かった。

巨人の熱い血が潤滑油代わりになって何とか抜け出す事に成功した。

 

 

「あの子は…!?」

 

 

ここでサシャは巨人が1体だけじゃないのを知った。

道中で複数の巨人が居るのは足跡で分かっていたはずだ。

それでも前しか見ていなかったせいで周りを見るのを忘れていた。

 

 

「ははっ…これじゃあ逃げられないじゃないですか…」

 

 

軽く見渡しただけでも8体の巨人がうろついているのに気付いてしまい笑うしかなかった。

少女を逃したつもりで死地に送り込んでしまった。

これなら適当な民家に隠れて居る方がマシだった。

 

 

「何をしてるの?」

「逃げようと思ったんですが、どうやって逃げて良いか分からないんですよ」

「走って逃げれば良いじゃない」

「簡単に言ってくれますね…フローラ!?」

 

 

他人事のように話しかけてくるフローラ。

確かに巨人の戦闘経験がある彼女ならたった数体の巨人に怯えるのは可笑しく感じるだろう。

ただし、巨人を瞬殺できる彼女はともかく自分は未だに巨人を討伐した事が無い。

さっきの巨人も左目を射抜いて、残った右目を矢で突き刺して逃亡してきた。

だからこそ、走って逃げればいいという答えにサシャは反論しようとした。

そこで、フローラがこの場に居るのに気付いた。

 

 

 

「フローラ!何故ここに!?…それより子供を見てませんか?」

「あの子ならわたくしの馬に乗せたわ」

「えっ…あの暴れ馬に乗せたんですか…?」

()()()今日は大人しくてね…ほら、あそこでじっとしてるわ」

 

 

一瞬フローラから殺意を向けられたと思ったサシャ。

だが、どちらかというと逃げ出そうとした馬を睨んで牽制したような感じがした。

もしかしたら気のせいかもしれないし、巨人を睨んでいたのかもしれない。

とにかく巨人を倒せる実力者が居るという安心感がサシャの精神を回復させた!

 

 

「私が巨人の注意を惹きます!その間に奴を倒して…しまったのですね…」

 

 

サシャは子供を護るために積極的に囮になろうとしたら、既に巨人が蒸気を出して倒れていた。

頭進撃が巨人を見逃して会話を黙って聴くわけがなかった。

勇気を振り絞って発言した彼女は拍子抜けしたが、フローラがいるだけで空気が変わった。

これには必死に手綱を握っているカヤも驚くしかない。

あれほど得体のしれない化け物があっさり人間に負けたからだ。

 

 

「助かりました!ありがとうございます!」

「じゃあ早く逃げましょう」

「巨人を殲滅しないんですか?」

「ブレードとガスの補充ができないならどうしようもないわ」

 

 

助太刀を感謝していたサシャは、てっきりフローラは巨人を殲滅するかと思った。

ガス切れを経験しているフローラは、そこまでやる気は無かった。

いくら巨人を討伐してきてもガスと刃がなければ戦えない。

もちろん、補給し放題だったらいくらでも狩る気ではいたが!

 

 

「逃げ遅れた人が居ないか探さないんですか?」

「少なくともこの村には居ないわ」

 

 

実は村の北部にある丘で数十名が居るのをフローラは知っている。

しかし、そこに行くのは馬が必要であり、必然的にサシャたちを見捨ててしまう事になる。

既に巨人の群れに追われていて“声”が少しずつ減っていた。

だったら、見捨ててサシャたちだけでも安全地帯に誘導したかった。

 

 

「どこに逃げるんですか!?」

「この村の東部にある橋を渡って林道に向かうわ」

「なんかあるんですか?」

「大群の馬を連れた集団がそこに向かっていたから合流しようと思うの」

 

 

とにかく足が欲しいので彼らと合流するのが最優先である。

馬さえあれば何とか逃げ切る事ができる。

村の住民と思われる集団は切り捨ててフローラは逃げに徹した。

 

 

「なんかフローラらしくないですね…いつもなら巨人を駆逐するって言うと思うんですが…」

「個人じゃ出来る事なんて限られるわ…早く行きましょう」

 

 

フローラは助ける命より見捨てた命が多かった。

トロスト区の4人家族や100人以上の同期。

カラネス区にあと一歩で落馬して巨人に喰われた先輩。

ストヘス区では、急いで止血すれば助かった少女。

個人ができる事など限られているのを嫌でも実感していた。

 

 

「そんな…巨人が集まり始めてます!…囲まれる前に討伐して逃げ道を確保しましょう!」

「簡単に言ってくれるわね…」

 

 

フローラはとにかくこの場所から逃げ出したかった。

巨人が自分達の存在に気付いて集まって来ている。

そう、さっきから相手にしてるのは奇行種ではなく通常種だった。

通常種なら壁付近の集落を狙うはずだし、こんな所まで短期間で来れるわけがない。

彼女が危惧していたのは、()()()()()()()()()()()()という点だ!

もし、それが事実であれば逃げきれなければ全滅するだけである。

 

 

「強行突破よ!サシャはライリーの手綱を握って移動して!討伐したら橋まで走るわよ!」

「分かりました!」

 

 

サシャが手綱を握ったのを確認したフローラは双剣を構えて巨人に突撃した!

幸いにも【変異種】ではないので初手でうなじを攻撃して討伐できる相手だった。

 

 

「行くわよ!」

 

 

フローラの存在に気付いて手を伸ばして駆け出した巨人の左アキレス腱を斬って離脱!

もう1体の7m級の巨人のうなじを削いだ後、倒れ込んだ巨人のうなじを削いで終わらせた。

 

 

「これで何とかこの場を切り抜けられそうですね」

「…そうね」

 

 

巨人が討伐された事でサシャやカヤの歓喜と対称的にフローラの気持ちは暗かった。

さきほどの攻撃でスナップブレードが4本使い物にならなくなった。

専用装備のブリッツメッサーと違って、うなじを削ぐのに特化している刃。

アキレス腱を斬るだけで2本折れてしまった。

更に2体目を討伐した瞬間、刃が欠けてしまい捨てるしかできなかった。

 

 

「残り8本か…きついわね」

 

 

フローラが積極的に巨人を殲滅する気がない原因がこれだった。

『二式刀身』という比較的、質が良いブレードを使用しているが折れやすかった。

特に根本が折れたらどうしようもないので何度も捨てていた。

 

 

「橋の周りに巨人が!?」

「この忙しい時にいいいい!」

 

 

サシャは目の前の橋に出現した巨人の群れに慄いていたがフローラはそれどころじゃなかった。

後方からも巨人が来ていた。

付近には住宅どころか樹木すらなく柵しかなかった。

さすがに守り切れないのでサシャをライリーに乗せて子供と共に逃げてもらうつもりだった。

しかし、更に事態が悪化した。

 

 

「右方面から兵士の一団が見えます!!」

「1個班…5名ね」

 

 

別方向から味方部隊が出現した。

それだけならありがたいが、どう見ても巨人の群れに追われていた。

既に1名吹っ飛ばされて生存者が4名となっている味方部隊。

巨人10体を同時に相手にしなければならない残酷な状況である。

 

 

「ライリー!走って!!」

 

 

フローラの号令で子供が乗ったライリーを走らせた!

 

 

「あのー私はどうすれば…」

「とりあえず巨人の動きに注意して逃げてくれればいいわ」

 

 

サシャを乗せる暇がなかったが、仕方が無かった。

逃亡を諦めたフローラは、巨人をまとめて相手にするつもりだった。

 

 

「かかってきなさい!相手になってあげるわ!!」

 

 

まず、少しでも味方が欲しいので、フローラは巨人に追われている部隊の救出に向かった!

幸いにも向こうから巨人と共にやってくるので馬は必要なかったのもある。

 

 

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