進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
城壁都市であるトロスト区とエルミハ区を繋ぐ街道。
それを死守するのは、駐屯兵団第一師団である。
構成員は1万の規模で駐屯兵団で最大規模の師団であり、【人類の盾】でもある。
「精鋭班が到着するまで足止めしろ!!」
「大隊長殿!第三波攻勢部隊が全滅しました!戦力の逐次投入は犠牲者を増やすだけです!」
「ここを奪われるわけにはいかん!第四波攻勢部隊による突撃を開始せよ!!」
「もう無理です!既に戦力2割を損失しました!」
「ここが陥落すればトロスト区はおろかウォール・ローゼが陥落するのだぞ!!やれ!!」
士官の命令で突撃して無力に散っていく駐屯兵たち。
巨人の戦闘を継承している調査兵団ですら逃げに徹するのだから勝てるわけがなかった。
ましてや立体機動ができない平地での戦闘となれば猶更である。
「工兵!さっさと土嚢を敷き詰めろ!!」
「やってるが、こんなもの巨人の足止めになるわけねぇだろう!!」
「いいからやれ!!」
駐屯兵団第一師団南方区第6工兵班フェーダーは上官の無理難題に怒り心頭だった!
立体機動装置を身に着ける暇もなく戦線に投入されて塹壕やら土嚢の壁を作らされた。
仮想敵が人間であったのなら効果的なのかもしれないが、巨人には無意味だった。
「突撃命令が出たぞ!第8分隊とつ…ごはっ!?」
「犬死なんてまっぴらだ!死にやがれ!!」
「部隊長が名誉の戦死を遂げたぞ!指揮系統は私が継ぐ!我々はトロスト区守備任務に戻る!!」
「「「「了解しました!」」」」
上官を殺害して武器やガスボンベを捨てて敵前逃亡する1個分隊。
あれだけ必死に訓練したのに巨人の餌になる勇敢だった兵士。
恐怖で逃げ回って馬ごと土嚢に激突して動かなくなる兵士。
30を超える巨人を見て泣き叫んで縮こまる兵士。
既に半数以上が兵士として使い物にならなくなっていた。
「おい工兵!」
「うるせぇ!!」
「ごがっ!?」
フェーダーは偉そうに叫んでいた三下の兵士をシャベルで殴打し殺害した!!
度肝を抜いて同僚が自分を見たが彼は特に気にしていなかった。
殺害した兵士から固定ベルト、立体機動装置、ガスボンベを剥ぎ取って着用した!
「よし!撤退するぞ!!」
「フェーダー!正気か!?」
「俺は正気だ!こんな肥溜めで死ぬ気はねぇ!俺に続く者は武器を取り…」
フェーダーはそこまで発言して眉間を撃ち抜かれて脳髄と血が勢いよく傷口から飛び出した。
同胞殺しをした彼は、皮肉にも同胞から撃ち抜かれる末路を辿った。
「全く、嫌になるね…」
「「「リ、リコ班長!!」」」
駐屯兵団第一師団精鋭班のリコ・ブレツェンスカは同期を悲痛な思いで撃ち抜いた。
先行した友軍は士気が低下し過ぎて規律は崩壊しており敵前逃亡する者が相次いでいた。
それどころか部隊単位で逃亡しており、戦線維持どころか兵団として機能していなかった。
「よく持ち堪えてくれた!後は我々精鋭班に任せてくれ!」
「リコ班長!巨人が30体以上居ます!いくら精鋭班でも…」
「だからどうした!ここで逃げても喰われるだけだ!!私は最後まで諦めない!!」
トロスト区防衛作戦と奪還作戦で大勢の兵士が戦死した。
トロスト区の住民も3割死ぬという大惨事の中で何とか人類史上始まって以来の勝利を手にした。
それが2ヵ月も経たない内に戦況をひっくり返されてしまった。
ここで街道を守れなければ、彼らの死は全て無駄になる。
だからこそリコ班長は最後まで戦うつもりだった。
「リコ、先行し過ぎだ」
「すまない、同期が暴走していたからつい…」
「じゃあ暴走しそうな女班長を止めるのは俺たちの仕事ってわけかい」
「イアン、ミタビ…」
トロスト区奪還作戦で生き残ったイアンとミタビは絶望的な状況でも笑ってみせた。
リコが死地に向かうのを察して彼女を留めようとする為の笑みだった。
彼女は同僚の班長の思考を読んだからこそ、顔を歪めてしまった。
「おっと!珍しく乙女らしさをみせてくれるのか?」
「ミタビ!!」
「悪い悪い!それどころじゃなかったな!!」
付近の兵士を喰らい尽くした1体の巨人が彼女たちに向かって突っ込んできた!
ミタビとイアンは目配せで巨人に向かって突撃した!
彼らもトロスト区奪還作戦で無力を感じて平原でも交戦できるように訓練していた!
「ミタビ班長!イアン班長!無茶です!!」
「無茶ではないぞ!」
「キッツ隊長…」
精鋭部隊隊長であるキッツ・ヴェールマンは、断言した。
以前のように精鋭という勲章のぬるま湯に浸かって満足していた自分たちではないと!
巨人の脅威を再認識してこの日に備えて全員が訓練し直した!
脚は震えているがそれでも巨人から人類を護る盾として彼はこの戦場から逃げる気が無かった!
「貴様!無駄口を叩く暇があるなら、さっさと持ち場に戻らんかい!」
「申し訳ありません!お前らも為すべき任務をこなせ!!」
「「「はい!!」」」
工兵部隊は慌てて持ち場に戻り塹壕の構築や土嚢づくりに勤しんだ!
これが人類の勝利になると信じて!
「イアン班長!ミタビ班長!さすがです!」
「たった1体討伐しただけだ!!まだ来るぞ!!」
走れば時速60km以上の速度で突っ込んでくる巨人という化け物。
アンカーを突き刺したところで動きに振り回されるのがオチであった。
どっかの誰かは、巨人を利用して立体機動していたが精鋭班ではその技量も勇気もなかった。
「どうする?」
「死ぬまで戦うまでだ!」
3体の巨人を目撃したミタビは思わずイアンに質問した。
彼は質問の意図を察して、ただ思った事を口にした。
もはや勝機などないし正気じゃないかもしれない。
それでも生きている限りは最後まで足掻くつもりだ!
「ん?」
「なんだ!?」
ミタビとイアンに向かってきた巨人の内の1体が倒れた。
更に傍にいたもう1体の巨人が転倒した。
黒ずんで蒸気を噴出しており誰かが討伐した様である。
「赤い馬だ…」
彼らの眼前で赤い体毛の馬が駆け抜けていった。
他の馬より一回り大きくて頼もしそうな馬であった。
それと同時に残っていた巨人が倒れ込んで蒸気を噴出して消滅しつつあった。
何が起こったのか分からないが、巨人より遥かに強い存在が居るのが確かである。
生半可な馬より速い巨人が瞬く間に3体が討伐されたのに精鋭班は驚きを隠せない。
「ライリー!!戻ってきて!!」
懐かしい女の声がしたと思うと、指笛が鳴った!
すると、さきほど駆け抜けていった馬が血相を変えたように戻ってきた。
「おいイアン!あいつは…」
「どうやら勝利の女神は我々を見放さなかったようだな」
ミタビとイアンは、トロスト区奪還作戦でお世話になった女兵士と再会した。
フローラ・エリクシア、104期訓練兵でありながら精鋭班全員より強かった女。
奪還作戦から2ヵ月も経過していないのに更に腕を上げたようで彼らは悔しそうに彼女を見た。
「キッツ隊長!あの女兵士が巨人を3体も討伐しました!!」
「あいつは…ちょうどいい!」
猫の手を借りたいどころか槍を手にした農民すら欲しかったキッツ。
平地で巨人と戦闘ができる兵士が精鋭班を援護した女兵士だと気付いた。
ただちに彼は、彼女を戦力に加える為に駆け出した!
「あんた…確かトロスト区奪還作戦の時に居た…助かった、心強いよ」
リコも駆けつけて確認すると懐かしい顔を見た。
あの時に居た女訓練兵の片割れ、フローラ。
イアンが前例がない逸材と認めたミカサ・アッカーマンと互角の実力者である。
フローラは平地で巨人を利用して立体機動ができる実力者だ。
トロスト区奪還作戦では、精鋭班は彼女に巨人を狩ってもらう事で生還した。
その戦力がこの街道に来ているのは頼もしい。
「援軍を申請していたけど、フローラが来るとは思わなかったよ」
「避難を援護していた部隊から援軍を頼まれまして参りました」
「ちょうど良かった!私達に協力してくれ!」
「はい、大丈夫です!」
「頼もしいね……期待させてもらうよ」
リコは、彼女の元気そうな返答に一安心した。
何故かはわからないが、根拠が無いのに彼女を見ると安心してしまった。
「調査兵団でも憲兵でも農民でも何でもいい!戦えるならすぐに出撃してもらうぞ!」
浮かれたリコを見てキッツは喝を入れた。
戦況は悪化しており、ここから巨人を掃討し防衛線を再構築しなければならないからだ。
彼は油断はせず、巨人の全滅が確認されても100日経過しないと一切信じる気は一切ない!
「貴様らも配置につけ!グズグズしている暇などないぞ!」
「「「ハッ!」」」
援軍として最前線に到着した精鋭部隊もキッツの号令で慌ただしく交戦の準備に入った。
もはや先行した部隊は壊滅しており、防衛線が巨人に突破される寸前だった。
戦意を喪失した兵に代わって人類の勝利を歴史に記すまで彼らは戦い続けるだろう。
「巨人はなんとしてもここで食い止めないと…死んでいった者に顔向けできないからね」
「行くぞ…力を貸してくれ」
「良いですけど、まずブレードを頂きたいです!」
「…そこの死体の鞘にあるブレードを持って行ってくれ」
リコはさきほど殺害した同期だった男に指を指した。
彼の装備は、別の兵士のものであったがこのままでは双方とも浮かばれない。
せめてフローラに使い潰してもらって彼らの犠牲を無駄にしたくなかった。
フローラも事情を察して無言でブレードとガスボンベを頂戴して交換した。
「さあ行くよ!1匹たりとも通しはしないよ!巨人共!!」
リコ班長率いる3名の精鋭兵と共にフローラは戦場に戻った!
辺りはすっかり夕焼けであり、その日光は人類の未来を揶揄させるような不気味でありながら幻想的だった。
「付近の巨人を駆逐し、防衛戦の完成まで時間を稼ぐんだ!…みんな死ぬんじゃないぞ!」
「「「「ハッ!!」」」」
既に防衛線は崩壊しており、中央部である本拠地付近すら巨人に侵入されていた。
幸いにも巨人は少なく、数体の巨人を討伐すれば奪還できる。
ただし、近くに木や民家が少なく、後方に辛うじて塹壕と土嚢の壁があるくらいだ。
短時間で重砲など持ってこれるわけもなく、牽制程度にしかならない野砲くらいしかない。
それでもないよりマシだった。
『もう倒したのか…前より動きが鋭くなってるな…』
頭進撃は、精鋭班が苦戦している2体の巨人を一瞬で討伐してみせた。
リコも含む精鋭班は驚くしかできなかったがフローラからすれば、あまりにも巨人が弱すぎた。
硬質化した爪を瞬時に伸ばしたり胃液を飛ばしたり、転がったりする変異種に比べれば弱かった。
後に【異形の巨人】と呼ばれる巨人たちと交戦して生還した甲斐がある。
「フローラ、トロスト区の時より更に腕を上げたようだな」
「壁外任務を何度もしてきましたし、単純に巨人戦との経験の差だと思います」
「いやいや、新兵なのに壁外任務を何度もやったのか…?」
「巨人を駆逐する為なら何でもやりますわ!!」
調査兵団は基本的に巨人との戦闘を避ける。
調査兵団の歴史上、巨人に挑んで碌な目に遭わなかったのは100年以上の歴史が示している。
中には突撃戦法で何度も生還して五体満足で団長を辞退した例外を除いて巨人に積極的に挑む兵士は居ない。
キース団長の再来とも噂されるフローラは、王政ですら看過できない存在になっていた。
「防衛線の展開を急げ!!巨人の侵攻をこの地で止めるのだ!」
「ここを失えば今度こそ人類は滅亡する!!」
「ここに居る勇敢な兵士が全滅するまで、いや!刺し違えてでも巨人を喰らえ!討伐せよ!」
「我々の努力が、人類の未来に掛かっている!自分の使命を全うせよ!正義の名の元に!!」
キッツは啖呵を切って必死に兵士としての責務を説いた!
もはや根性論でしかないが、そうするしかなかった。
規律が崩壊して敗残兵のように逃亡する兵士を追及する余裕などなかった。
1人でも演説を聴いて踏み留まってくれるだけでいいと彼は思いつつ演説をしていた。
「緑色の信煙弾を複数確認!救援要請です!」
「まずは近い方から向かうぞ!!」
リコ班長の指示に従って馬を走らせる一同。
戦況は最悪だが、幸いにも精鋭部隊が参戦して巨人の侵攻速度が鈍っていた。
「イアン!無事か!?」
「ああ、リコ良い所に来てくれた!!そこのでか物をやってくれ!!」
15m級の巨人に追われているイアン班を発見した。
異様に巨人のスタミナが多いようで振り切れずに必死に逃げ回っている様である。
「わたくしがうなじを狙います!リコ班長は左脚を削いで動きを止めてください!」
「従うよ!」
リコは側面から侵入して馬上から立体機動に移って巨人の左脚を削いだ!
その勢いで巨人が転んだ瞬間、フローラはうなじを削いで離脱した!
バディアクションをやるのは初めてだったが意外と息の合ったコンビネーションだった。
「さすが…馬に乗るのが早いな…」
「これは相性やタイミングに寄りますから…」
フローラはライリーを呼び寄せて素早く騎乗できたがリコは馬に乗るまで4分掛かった。
調査兵団の兵士の死因の3割が馬に見捨てられたとされている。
なので調査兵団の兵士は馬を相棒と認識して大事に扱っている。
駐屯兵団の馬は、馬上で立体機動に移る訓練はしてないので、リコの馬は混乱してしまった。
それでも瞬時に落ち着かせて騎乗できるのは精鋭の証というべきか。
「イアン班はミタビ班と合流してくれ!」
「お前達だけで大丈夫なのか?」
「こっちにはフローラが居る」
「おいずるいぞ!こっちによこせ!!」
イアンはトロスト区奪還作戦でフローラに巨人を押し付けた。
あの時は巨人にアンカーを突き刺して立体機動に移れる技量が無かった。
そのせいで唯一平地で戦える彼女に巨人を押し付けるしかできなかった。
その反省を活かして訓練して平地でも巨人に交戦できるようになった!
それでも不安な要素があり、巨人に関してはベテランの彼女の動きを参考にするつもりだった。
「また後でな!」
「仕方ないな…これからミタビ班と合流をする!巨人をこの世から叩き出す!異論は無いな?」
「「「ハッ!」」」
駐屯兵団第一師団精鋭部隊の活躍により、少しずつ巨人が減っていた。
始めは30体以上に攻め込まれて絶望的だったが半数未満になった。
戦況が有利になるにつれて敵前逃亡をしていた兵士や班が帰還していた。
トロスト区やエルミハ区からの砲兵の部隊と先遣班が到着して戦力が整いつつあったのもある。
「キッツ隊長!砲兵部隊の展開が終わりました!更に4個分隊の援軍が到着しました!」
「よし!拠点の準備が整ったな!これで防衛線の展開は完了だ!」
一時はどうなるかと思ったが、防衛線を維持できるほどの戦力が整った。
更に巨人の戦力が半壊しており、このまま防戦すれば勝てるだろう!
否、キッツは油断しなかった!
戦況には鮮度というのがある。
一旦有利になっても腕っ節だけで状況をひっくり返せれるのが巨人である。
「攻勢の準備を各班に伝達せよ!」
「隊長!平原に進軍させるのは無茶です!」
「防戦一方では必ず突破される!我々はうって出て巨人を駆逐し侵入場所を特定するのだ!!」
圧倒的に巨人の方が強い。
誰もがこの戦場で思っているはずである。
壁に穴が開いてそこから巨人が侵入してきた以上、いくらでも巨人が補充されると…。
トロスト区の門に空いた穴の様に塞がない限り永遠に巨人が補充されると!
「陽動班は予め定めている2個班で行なえ!!巨人を誘導するのだ!」
まず巨人の特性として人間が近くに居れば捕食する為に襲撃してくる。
動きが読めない奇行種もいるが基本的に行動原理はそれである。
そこで巨人をわざと餌を見せつけて誘導し、有利な状況に連れて行く事ができる。
つまり壁上固定砲がある場所まで誘導して一斉砲撃で蹴りを付ける算段である。
「ハンネス!陽動班を利用して巨人を避けて壁に沿って穴を捜索せよ!」
「ハッ!」
5年前までは勤務中で酒を飲んでいたハンネスも立派な隊長である。
トロスト区の守備隊長である彼は、部下のフィル達と共に壁にできた穴の捜索を担当する。
「陽動班が出撃しました!」
「よし!砲兵は陽動班を援護せよ!残りは進軍する準備を!」
キッツは予想以上に作戦がうまくいったのに困惑していた。
当初は巨人が30体近く居たのに既に3割程度まで減らされているのもあった。
「おっほっほっほっ!」
「よし!やっちゃえフローラ!」
「なんで他人事なのですの!?」
頭進撃がデザートは別腹でいくらでも食べられるように巨人を狩りまくっていた。
彼女は巨人討伐数をまともに報告せず、同僚や先輩の討伐数や討伐補佐数を盛って報告する。
そのせいでフローラの討伐数150体以上は、同期や先輩などがそれを目撃した数で加算された。
つまり、彼女はその2倍くらい巨人を討伐している疑惑がある。
「まるで巨人にとって悪魔だな」
「シガンシナ区で死んでいった亡霊たちが力を貸してたりしてな」
「【鎧の巨人が生み出した悪魔】だ。面構えが違う」
また1体の巨人が討伐されて歓声をあげる精鋭班たち。
もはやフローラの巨人討伐ショーを観戦する観客のようである。
「ホークマンさん!ブレードを頂きたいです!」
「いくらでも持っていけ!俺のガスボンベと交換してもいいぞ!」
「ありがとうございます」
トロスト区の穴を塞ぐ岩を【転がす】というヒントを作ったホークマン。
彼もまたフローラの活躍に魅了された1人である。
いくら彼女が強くてもブレードとガスを喪失すれば瞬く間に巨人に捕食される。
それを防ぐ為に補給物資や食料を提供して戦い続ける様に努力した。
「報告!陽動班が巨人を壁に惹きつける作戦が発令しました!」
「よし、これで防衛線を突破されるという悪夢はなくなったな」
伝令の話を聴いてリコ班長は、戦況が有利と分かりようやく笑う事が出来た。
到着した時は逃亡兵や上官殺しが発生しており、もはや兵団として機能していない絶望的状況。
それが今では、兵士が一丸となって巨人を掃討し、巨人の侵攻を押し返そうとしている。
たった1人加入しただけであるが、ここまで有利になるとは思わなかった。
「残りは壁上固定砲に片付けてもらうと考えていいのか」
「おそらく…それとハンネス隊長の部隊が壁の穴を捜索します」
巨人がウォール・ローゼに出現した以上、壁のどこかに穴が空いていると考えるのが普通だ。
巨人が穴を掘ってそこから出てきたとは、知性がない巨人ができるわけがないと考えていた。
せいぜい、巨人を信奉する狂信者か、人類と敵対する巨人化能力者が誘導した点くらいか。
とにかく、ここまで巨人の数が居るなら必ず大規模な穴があるのは疑う余地は無い。
ハンネス・ルドマンは最も危険な任務に挑もうとしていた。
「フェル!準備は良いか!?」
「もちろんです!お前らも良いよな?」
「「「はい!」」」
副長のフェルの確認に返事をする班員たち。
誰もが緊張しながらも、危険過ぎる任務に挑む気満々である。
「今から『壁の破壊箇所の特定任務』を開始する!誰1人死ぬんじゃねぇぞ!!」
「「「「ハッ!」」」」
「出撃!!」
ハンネス班は、壁の破壊箇所の特定の為、壁に沿って進軍していく。
例え巨人に喰われようとも破壊箇所を特定して報告するのが使命である。
幸い、巨人は壁を登れるのは【例外】を除いて居ないので最悪壁を登って逃げればいい。
「フローラ、お前が何故ここに…?まあいい、巨人が邪魔で進めねぇんだ!」
「巨人を駆逐すればいいのですね!」
「…まあ、そういう事だ!壁の破壊箇所特定任務をするので手伝ってくれ!」
意気揚々と出撃したハンネス班であったが、複数の巨人に発見されて作戦が頓挫した。
やむを得ず、信煙弾を撃ったところ、リコ班が到着し、フローラとハンネスが再会した。
フローラは落とした調査日誌を彼に拾って仲良くなった経緯があり、偉大な先輩である。
ミカサの昔話でも良く名前を耳にして、腐敗した軍人から立派な隊長になる話を聴いていた。
エレン、ミカサ、アルミンは彼を慕っているが、フローラも彼を慕っている。
「フェル!全速力で逃げろ!」
ハンネスの副長が巨人に狙われており、馬を全力疾走させて振り切ろうとしていた。
フローラはその姿を見てライリーを走らせて巨人の背後についた。
時速65km以上で走る巨人に易々と追い付いてアンカーを撃ち込んでうなじを削いだ!
その勢いで飛び出て倒れる巨人を回避するために地面にアンカーを撃ってワイヤーを巻き取った!
片方ずつのアンカーを交互に撃ち込む事によって身体の負担と引き換えに動きが鋭い彼女。
ワイヤーを巻き取りガス噴出で離脱してアンカーを外し、近くの木にアンカーを撃った。
頑丈そうな枝に振り子のような動きで衝撃と速度を落とした後、地面に着地した。
「ほんとぉ、見ていて危なっかしいな」
「巨人と戦う時点でそういうものですよ」
「そうだな」
巨人との戦闘できついのが討伐した後の着地である。
たった2mでも両脚で着地しようとすると骨折するリスクがある。
転がって衝撃を殺そうとすると、立体機動装置が壊れるリスクもある。
リヴァイ兵長も着地まで考えて巨人に攻撃を行なっているが誰もがそうできるわけじゃない。
むしろ、それができれば英雄になれるほどその技量を持つ者は居ない。
訓練兵時代に何度も事故った経験でフローラは着地に慣れることができた。
普通なら身体で覚える前に事故死するが106回も医務室送りされた彼女は気にしなかった。
「これで俺らの方は何とかなりそうだが、このまま素通りできないな」
「何かくれるんですか?」
「音響弾や閃光弾とか持っていくか?」
「音響弾を2個頂きます」
従来通り銃口に取り付けるタイプの音響弾をもらったフローラ。
手投げ式も1個あるが、それだけだと不十分だと感じていたので新たにもらった。
閃光弾は、とりあえず手投げ式があるので充分である。
あまり装備をするとライリーに負担が掛かるのでここまでにした。
フローラは装備を受け取って、作戦を続行するハンネス班の健闘を祈った。
「これから攻勢に出る!まず前線を押し上げるのだ!」
「大隊長!貴様が先陣を切れ!」
「了解しました…」
さきほどまで無謀な突撃作戦で兵を死なせ続けた大隊長にも指令が下った。
わざわざ名指しにしたのは理由があり、それは全員が理解している。
要するに先鋒で突撃して死ねという事である。
今まで部下の命を湯水のごとく消費した彼もまた、消費される人生である。
「攻勢部隊は突撃せよ!人類の領域を奪還せよ!!」
「「「「ハッ!!」」」」
キッツ隊長は、人類の領域を取り返すように部隊を進めた。
さきほどまでは防衛戦であったが、これからは奪還戦である。
全員が一丸となってウォール・ローゼの領土を奪還する為に攻勢を開始した。
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「どうしたんだ?」
「ミタビ班長!新手の巨人が複数来ました!」
フローラはミタビ班と合流して軽い休息をしていた。
攻勢作戦が開始されて、一度様子見をして不利な場所に迅速に援軍に向かうつもりだった。
そして、新手の巨人を感知した。
「妙ね…」
「何がだ?」
「いえ、なんでもありません」
戦場に出現したのは褐色の肌で凶悪な顔をした複数の【変異種】である。
駐屯兵団どこか調査兵団ですらも中々交戦する機会がない凶悪な強さの巨人。
そんな巨人達の視線を一瞬だけ一斉にフローラに向けられていた。
まるで出現した巨人の捕食目的が彼女のように視線を向けていた。
すぐに近くに居た兵士を襲撃したがフローラは怪訝な顔をして巨人の動きを観察していた。
『タイミング良く出現して、一斉にわたくしに視線を向けた…まるで』
『世界一美味しいお肉』と自称した事がある彼女。
確かに女の子だし、筋肉質で臭い男より美味しそうなのは自覚している。
そんな事を考えてしまうほど、
巨人を効率よく掃討できたのもフローラを視認すると優先的に襲ってくるおかげであった。
それはともかく、さきほど狙っていた兵士を無視してまでフローラを襲って来ていた状況。
巨人の注目を集めただけなら分かるが、遠くに居るはずなのに巨人の視線を集めるのはおかしい。
『まさかね…』
フローラは
変異種の出現するタイミング、やたらと巨人の関心を向けてしまう体質。
今まで交戦してきた巨人が実は自分を抹殺したい誰かが操作をしたと思うと納得してしまう。
『まあ、わたくしの道に立ち塞がるなら粉砕するだけよ!』
頭進撃にはそういった障害ですら乗り越えてみせる。
例え誰かが自分を憎んでいようが、全力で進撃する!
それが行動であり、性格であり、彼女の人生だからだ!
「いきますわよ!!」
フローラは新たに出現した複数の変異種に向かってライリーを走らせた!
ただ、目の前の巨人を駆逐してゆっくり就寝する為に!
明日に向かって進撃する為に双剣を構えながら進撃した!
「単独で先行するな!!」
ミタビ班も遅れて彼女についていった。
人類の希望を喪失させないように!