進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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67話 駐屯兵団第一師団精鋭部隊 VS 穴掘りの変異種

ある暑い日の夜、1人の抗夫が地下からウォール・シーナに侵入しようと試みた。

内地であれば、奴隷の様に扱われる事もなく優雅な暮らしができると思ったからだ。

彼は20年以上も休むことは無く穴を掘り続けており絶対な自信を持っていた。

 

「穴掘りの名人」と自慢する事はあり、人気が無い森で穴を掘り進めて順調に坑道を造り上げた。

誰にも見つかる事もなく抗夫は穴を掘り、麻袋に土砂を詰めて外に捨てる一日を繰り返した。

抗夫としての経験と知恵と技術、そしてなにより内地への想いで掘り進んでいた。

 

ところが彼は壁にぶつかった。

文字通り、壁の基礎部にシャベルが衝突し、侵入を防ぐ様に地中深くまで根を下ろしている。

彼は必死に基礎を潜り抜けようと必死に穴を掘った。

何度も硬い基礎に阻まれても掘れる場所がある限り手を動かし続けた。

もはや内地の生活など彼の頭に無く、壁を征服したい一心でシャベルで穴を掘り進めた。

 

そして、8mほど下に掘った時に硬い岩盤が出現した。

それは壁の基礎と同じ材質でできているようで、どうやっても破壊する事はできなかった。

 

彼は、壁教を信仰していなかったが実際ここまで頑丈なら入信しても良いと思ってしまった。

その話を友人に酒場で打ち明けた翌日に抗夫は行方不明になった。

友人や兵団の捜索隊は必死に捜索したが見つかることは無く、その友人も忽然と消息を絶った。

 

 

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駐屯兵団第一師団精鋭部隊のキッツ・ヴェールマン隊長は戦況を楽観視していなかった。

さきほどと打って変わって巨人に攻勢をかけているが、いつ逆転してもおかしくなかった。

 

 

「報告します!大型の巨人が複数体、出現しました!こちらに向かってきます!」

「ここに来るという事は奇行種か…」

 

 

奇行種は、巨人の中で動きが予想できない存在である。

遠くに居る人間を狙うか、その場で踊っているか、巨人とじゃれ合うのか一切分からない。

少なくとも遠くにある本拠地に向かっているという事は奇行種で間違いないだろう!

現に変異種の3体は奇行種のようで捕食より移動を優先している感じである。

 

 

「くっ……今更押し返されてたまるもんか!総員、突撃!私も出るぞ!」

「えっ、隊長自ら…?」

 

 

副官は彼の言動に驚いた。

キッツ隊長は、ピクシス司令から『図体がでかい割りに小鹿のように繊細な男』と称された。

それは的確であるが人によって判断が分かれるものである。

ある人は、身体がでかい癖に子犬の様に臆病な性格でいちいち反応する男と称する。

ある人は、恐れながらも常識に囚われず繊細な疑問を逃さずに的確に指摘できる男と称した。

双方の意見でも臆病ではあるが何かしらの行動をする男と評価できる。

そんな臆病な彼が部下達を鼓舞する為に最前線に突入するというのだ。

副官は、隊長の成長を目撃して意見を却下させる事ができなかった。

 

 

「防衛線の指揮は貴公に執ってもらう。異論はないな?」

「必ず生還すると約束してくれるなら異論はないです」

「うっ…もちろん生き残ってみせる!!」

「ご武運を!」

 

 

恐怖を必死に抑えるキッツは専用馬に騎乗して護衛兵を引き連れて最前線に向かっていく。

それを見て戦闘を躊躇っていた兵士たちも次々と参戦した!

 

 

「精鋭部隊の隊長自ら交戦なされるぞ!我々は全力で援護するぞ!!」

「第三輸送班も来い!野砲でも無いよりはマシだ!」

「ここには人類最高の戦力が揃っている!この機会に全ての巨人を駆逐せよ!」

「第12分隊突撃ー!!」

 

 

冷静に考えれば蛮勇しか見えないキッツ隊長の行動。

だがこの戦場の最高指揮官が巨人に突撃して鼓舞されないわけがなかった!

 

 

「道を切り開け!人類の領域を奪還するのだ!!」

 

 

内心で怯えながらも大声で恐怖を誤魔化して突撃するキッツ。

左右後方には50名を超える騎兵が追随しており決戦を予見させる戦力である。

 

 

「前方から四足歩行の大型巨人!奇行種かと!」

「私が相手をする!その隙に後方へ回り込め!!散開せよ!!」

 

 

褐色の肌であり白色の刺青のような筋が全体に施されている凶暴そうな巨人。

キッツは、目の前の巨人が【変異種】だと分かった。

彼は超大型巨人によるトロスト区襲撃を受けて、巨人について徹底的に分析をした。

トロスト区奪還作戦における死者は、奇行種の行動で振り回されたせいだと分析で判明した。

そこで褐色の肌をした強力な巨人の存在が発覚し、調査兵団から情報を得て対策を行なった

弱点部位を潰さなければ、うなじを削ぐことができない化け物。

故に精鋭部隊は今日まで変異種を仮想敵として訓練してきており実戦の機会が訪れた。

 

 

「隊長!?何を…」

「ひっ…う、うおおおおお!うおおおおおおお!!」

 

 

彼は、自ら囮になって巨人に向かって単騎で突っ込んでいく。

狙うのは、喉元にある白色の器官である。

それをさえ潰せば、刃がうなじに通るのを知っているからこそ雄叫びをあげて突撃した!

 

 

「お前の相手は私だ!!」

 

 

キッツは馬上から飛び出してアンカーを巨人の喉元に射出して立体機動に移った。

臆病な老兵には似合わない筋骨隆々とした体躯の彼は双剣を巨人の喉に突き刺した!

 

 

「今だ!!うなじを狙え!!」

 

 

隊長の指示を聞くまでもなく選りすぐりの護衛兵たちが巨人にアンカーを突き刺して立体機動に移った。

しかし、変異種は横に転がって狩人たちを地面に激突させてそのまま潰すように転がった。

 

 

「ぐおっ!!」

 

 

キッツは必死に振り落されない様に柄を握りしめて放す気はなかった。

意識が何度も飛びそうになるが、気力と責務で耐え続けた!!

 

 

「怯るな!!かかれ!!」

「たかが1体の巨人に後れを取るな!!」

「キッツ隊長を死なせるな!総員突撃!!」

 

 

変異種が転がったせいで2名の人命を失った40名以上の兵士がまだ居る!

ただひたすらに彼らは巨人のうなじを狙って突撃をした!

 

 

「ぎゃあああああ!?」

 

 

変異種は右腕を薙ぎ払い馬ごと兵士達を吹っ飛ばして、その内の1人に飛び掛かって貪り食った。

103期に配属された若い新兵は何度も咀嚼されて痙攣するだけの肉塊となった。

アンカーを突き刺した感触をしたら転がって兵士を動けなくして食べる。

それでも避けるようであれば四肢で薙ぎ払って吹っ飛ばして咀嚼して食べる。

そんなルーチンで動いているように同じことを繰り返していた。

 

 

「やったぞ!!」

 

 

そんな好き放題していた変異種も年貢の納め時が訪れた。

巨人が近くに居た兵士に気を取られている内に荷馬車にあった軽砲を設置した工兵部隊。

動きが鈍った所に顔面に砲撃してこめかみ付近の肉を吹っ飛ばした!

その程度では巨人を倒せるどころか牽制にすらならない。

だが、一瞬の隙が命取りだった。

 

 

「人類の怒りを…思い知れぇ!!」

 

 

砲撃のせいでアンカーを撃ち込まれたのに気付かなかった巨人は、うなじを削がれて倒れ込んだ。

ここでようやくキッツは巨人の揺れから開放された。

 

 

「キッツ隊長!ご無事ですか!?」

「ごほっ!ごほ!…あーーっくそ!無事だ!」

 

 

駆け寄った兵士に情けない面を見せながらもキッツは五体満足で生還した

小鹿のようと評された彼ではあるが1人の兵士として任務を全うした。

もし彼が耐え切れずに刃を器官から抜けば、うなじは硬質化された皮膚に守られていただろう。

 

 

「点呼終了しました!」

「な、なん…何名やられた?」

「死者7名、重傷者2名、軽傷者4名であります!!」

「くそ!こんなに戦力が居ても犠牲者が大勢出るのか…!」

 

 

たった1体の巨人を殺すだけで死者7名、両脚欠損2名、軽傷者4名を叩き出した。

調査兵団は壁外調査の度に兵員を大きく減らすが実際に1体を交戦するだけでこれである。

補給も援護も受けられない壁外の環境など考えたくもない。

 

 

「隊長!新手の巨人がこちらに向かってきます!!」

「巨人って…変異種じゃないか!散開しろ!これじゃあ餌になるだけだ!」

 

 

同格の変異種が40名近くの兵士に向かって突撃してきた。

このペースで兵員を喪失されるにもいかず、キッツは事実上の撤退命令を下した。

これは撤退ではない!転進であると言いたかったが、現場を混乱させるだけなので黙っていた。

 

 

「隊長が出るほどではありません!」

「我々だけで充分です!!」

「馬鹿!よせ!!」

 

 

キッツの制止を振り切って駐屯兵団の期待のルーキーたちが変異種に向かっていった。

四足歩行の巨人は元気そうな獲物を発見し、一度踏ん張ってから勢いよく跳び出した!

馬と巨人の速度が噛み合った結果、騎兵から見た巨人の相対速度が100km/hを余裕で超えた。

 

 

「まず…」

「逃げ…」

「うげ…」

 

 

1秒間で約28m以上で突っ込んでくる全長15mの物体など騎兵が回避できるわけがなかった。

回避行動をしようとした瞬間、巨体と激突して肉片が辺りに散らばった。

それでも勢いが止まらない巨人は、バウンドしてあらぬ方向へ跳んでいった。

最初の巨人の着地点から300mほど離れた騎兵に15秒足らずで激突してようやく巨人は止まった。

 

 

「ひい…」

 

 

誰かが悲鳴を漏らした。

無理もないだろう。

巨人が跳んで30秒も経たないうちに騎兵が4名戦死した。

当の巨人は何事もなかったように姿勢を元に戻して獲物を虎視眈々と狙っている。

ここでようやく足元に人間の死骸を発見して両手で掴んで潰れた上半身を噛み千切った。

 

 

「散開しろ!散開!!」

「うわああああああああ!!」

「退避!退避!!」

 

 

キッツの再度の散開命令を受けて40名未満になった護衛兵達は散開した。

桁違いな身長と重量とパワーがこの残酷な世界で生き残る秘訣である。

そのどれも手に入れていない人類など巨人に蹂躙される程度の餌でしかなかった。

 

 

「いい加減にしろ」

 

 

イアン・ディートリッヒは静かに怒りを燃やして変異種の露出した器官を削いだ。

巨人は突然、目の前に飛び込んできた人間に驚いたようだったがすぐに捕食しようとした!

 

 

「頭が高くてよ!」

「人類の恐ろしさ!思い知れ!!」

 

 

調査兵のフローラとリコ・ブレツェンスカ班長は、バディアクションで変異種の両脚を削いだ。

その衝撃で勢い良く倒れることは無かったがこれで跳んでくる事は無くなった。

 

 

「ここだ!!」

 

 

思うように動けなくなった巨人のうなじを削いだのは、ミタビ・ヤルナッハである。

強面で坊主頭でありぶっきらぼうな口調なので威圧感は精鋭部隊一である。

人を思いやる気持ちも精鋭部隊一であり亡き同胞たちの仇を取った!

 

 

「この巨人とは二度と逢いたくないな…」

「イアン!美味しい台詞をもっていくなよ!」

「巨人を全滅させて最後に総括の一言を告げる役割があるじゃないか」

「それはキッツ隊長の役目だろうが!」

 

 

軽口を叩き合うイアンとミタビであるが相棒であるからこそこういった関係である。

リコは呆れながら彼らのやり取りを見ているがフローラは新鮮だった。

相棒はライリーが居るが、こうやって戦友同士が励まし合う事に憧れを抱いてしまった。

 

 

「…うん、そうよね。うまくいくわけないよね」

 

 

フローラは駆け寄ったライリーに視線を向けた。

ここで馬と兵士の感動的な物語が始まる事もなく彼女は蹴られそうに終わった。

彼女の脳内では抱き寄せてナデナデして友情を育む事をイメージしていた。

現実は跳び出してきた女を避けたのに追従したので蹴り飛ばそうかとライリーは考えていた。

馬に牽制されて涙目になる女兵士という何とも締まらない展開で終わった。

 

 

「これで大体は片付いたか?」

「“呻き声”はほとんど聞こえないのでこの辺りは大体片付いたみたいですね」

「呻き声?」

 

 

ここでフローラは失言をしてしまったのに気付いた。

フローラは、負の感情を“声”として聴ける能力の副産物に巨人の居場所が分かるようになった。

実際、副産物なのかは知らないが、同時に才能を開花させたのでそうなのだろうと考えた。

もちろん、巨人の呻き声が聞こえるので居場所が分かります。

…なんて発言すれば、檻がある病院に入院させられるのは間違いないだろう。

 

 

「いえ、巨人と戦闘をしていると呻き声が印象に残ってまして…」

「まあ、そういう事もあるだろう」

「マジかよ、そこまで巨人と戦闘したくないな…そうなる前に逃げるか」

「おっとイアン、それは問題発言だぞ」

「ミタビが居るから大丈夫だろう?」

「勘弁してくれよ…」

 

 

イアンとミタビは相変わらず漫才を続けていた。

一体何の役に立つと問われれば、これが彼ら流のコミュニケーションなのだろう。

部下の命を預かっている班長として同格に気軽に話せる環境を意識しているのかもしれない。

しかし、リコ班長の様子からただ軽口を言いたいだけなのだろうとフローラは分析した。

 

 

「あれ?」

 

 

フローラは“呻き声”がする方向を見たがどこにも巨人が居なかった。

出現した変異種は3体。

1体はキッツ隊長の部隊が討伐し、さきほど2体目を討伐した。

では、残りの変異種はどこに行ったのか。

 

 

 

『近くにいるわ』

 

 

まさかの透明にできるような特殊能力だったのか。

フローラはそう思ったが振動を誤魔化せるわけがない。

現に揺れていて…酔ってきそうな…か、ん、じ、が…。

 

 

『…まずい!!』

 

 

最初は巨人が近くに歩いているせいで地面が揺れているのだと思った。

しかし、揺れが大きくなり地中深くから地鳴りが聴こえてきた。

このままでは雑談しているミタビ班長とイアン班長が喰われると察したフローラ。

無言でライリーに騎乗して銃口に音響弾をセットして走らせた。

 

 

 

「ライリー!撃つわよ!」

 

 

ライリーに騎乗したまま音響弾を撃ちたくなかったが仕方がない。

フローラは『緊急事態の合図』を相棒に伝えて音響弾を撃ち込んだ!

その瞬間、地面が大きく盛り上がって土砂が吹っ飛んだ!

 

 

「穴掘りの巨人なんて聴いたことが無いわよ!!」

 

 

残りの変異種は地面を掘り進んでいた。

音がする方向に向かって地下に潜んでいたが精鋭班の騒がしい会話で動き出していた。

もし接近に気付いたとしても声を出せば足元から狙って来るという嫌らしさが厄介である。

ライリーは耳元で音響弾を撃たれたのに怒り心頭だったが巨人を見て過剰反応を諦めた。

 

 

 

「巨人だあああああ!?」

「どっから現れた!?」

「地下から出てきました!まさか地下に潜んでいたのか!?」

 

 

フローラが何もない所で音響弾を撃ったのに不審に思った一同。

しかし、不審だなと感じる暇すらなく地下から巨人が跳び出してきた。

それを見て精鋭部隊は再び態勢が崩れて混乱に陥った。

 

 

「なんで真っ暗なのに動けるのよ!?」

 

 

フローラが真っ先に思ったのは【巨人は完全な暗闇では動けない】という常識だ。

今でこそ常識であるが、この情報を得るまで調査兵が1000名以上死んでいる。

なお、その事実は以前フローラがトロスト区で参加した巨人捕獲作戦で実験済みである。

4m級のソニーは内向的で日光の遮断の一時間後で動きが鈍くなった。

7m級のビーンは日光を遮断しても3時間は動けたそうなので個人差はあるだろう。

とにかく調査兵団の第四分隊に所属していれば嫌でも上官に聞かされる情報である。

 

 

「こっちに来ないでよ!!」

 

 

何故暗闇であるはずの地下に潜んでいるにも関わらず動けるのか疑問だった。

ただ、さきほどは地上に出ていたのである程度日光を浴びれば多少は活動できるかもしれない。

そんなことなど知るわけがないし、変異種なのでそう考えるしかない。

少なくとも捕獲は不可能なのでここで討伐するしかない。

 

 

「あの巨人を逃がすな!!」

「こいつが壁外から巨人を連れて来た元凶だ!」

「第9分隊は穴を見張れ!新手の巨人に備えよ!!」

「「「「了解しました!」」」」

 

 

暗闇なのに巨人が動けるロジックなど解明している暇ではないのは駐屯兵でも分かる。

下手すれば奴の来た穴から壁外からの巨人が侵入したと憶測を建てた。

こうなった以上、穴掘りの変異種を討伐しない限り、彼らはこの戦場から離れる事はできない。

 

 

『あと、掘った土砂をどうしたのよこいつ!?』

 

 

この場に居た全員が巨人が地下にもぐっているのに動けるのに疑問に思っていた。

フローラも思っていたが、更なる疑問点を見つけた。

穴を掘って地下を移動していたならその分の土砂はどこに行ったのかさっぱり分からなかった。

 

 

「地盤が…きゃあああああああああ!!」

「アデーレが落ちた!?」

「退け!巻き込まれるぞ!!」

 

 

駐屯兵のアデーレは震えながらも地下から飛び出してきた巨人を追跡していた。

そしてある地点で馬で通過しようと瞬間、足場が崩れて地下に馬と共に落下した。

同僚達はなんとか穴を避ける事ができたが彼女は生き埋めになってしまった。

10m以上の底に落下し土砂に埋もれて彼女の転落人生はすぐに終焉を迎えた。

 

 

「まさか…!?」

 

 

ここでフローラは転落事故を起こすほどの失った土砂は巨人の体内にあると予測を立てた。

すぐに口から吐かれても極力回避できるように蛇行で馬を走らせている。

彼女の不安は的中して、変異種から大きな土団子を撃ち込まれた。

 

 

「ライリー!ここじゃ良い的よ!巨人に沿って周るわ!」

 

 

地中で動く関係か、顔には眼球がなく異常に大きな口しかなかった。

裂けた口しかないのっぺらぼうの巨人は今までの巨人と一線を画す化け物に見える。

幸いにも外部に露出している弱点の部位は損傷しており、うなじを削ぐことができる。

フローラは、隙を見て討伐するつもりだった。

 

 

「なんてね」

 

 

ライリーの足跡を音で感知している穴掘り巨人に背後から襲撃する精鋭兵たち。

そもそもまともに巨人と戦うのが間違っていて奇襲上等!勝てばいい!

精鋭兵の2名は無言でうなじにアンカーを突き刺してガスを噴出して突撃した。

『勝った!』と誰もが思った。

フローラですら動きに対応できず討伐されるものだと思っていた。

 

 

「ぐぎゃああああ!?」

「がっああ!?」

 

 

変異種は肌に敏感らしくアンカーを突き刺すとカウンター攻撃を行なう。

キッツ隊長が挑んだ変異種は、転がって兵士を地面に叩きつけるタイプである。

穴掘りの変異種は背中から高熱の蒸気を拭き出すタイプだった。

 

 

「ごほっ…」

「あ…」

 

 

問題なのは、蒸気の中に体内にある砂利を大量に含んでいた。

凄まじい勢いの蒸気は兵士達の表皮を抉り取り肉体が赤く溶けるように消滅させた。

アンカーを取り外す暇すらなく10秒も経たないうちにボロ雑巾と化した。

「エレンとジャンのサウナ我慢大会で蒸気には慣れている」なんて言ってる場合じゃない。

蒸気を浴びた瞬間、即死するカウンター攻撃だとフローラは感じた。

 

 

「撃て撃て!」

 

 

キッツ隊長に号令で、砲兵部隊が野砲を!工兵部隊が迫撃砲で変異種を砲撃した!

風を切った複数の砲弾が巨体に直撃して爆炎で巨人を吹っ飛ばした!

それでも兵士たちは油断せずに何度も砲撃を繰り返して爆炎を広げていく!

榴弾ではないので効果が薄いがそれでも集中砲火すれば巨人を討伐できる威力がある。

黒煙が夕日に染まる天を貫き、動員できる砲では最大火力である以上、これに賭けるしかない。

 

 

「合計30発以上の砲撃だ…これで効いてると良いが…」

 

 

キッツは油断せずに更なる砲撃を加えるつもりである。

やるなら徹底的に念入りに巨人が消滅する瞬間まで彼は巨人を甘く見ない。

ピクシス司令に評された小鹿は、過小評価しない性格で精鋭部隊の隊長に成り上がった。

ただし、集中砲火のせいで彼は1つ重要な事を見逃した。

 

 

「黒煙が晴れるぞ!」

「構えろ!!」

 

 

総員、臨戦状態で砂埃と黒煙が晴れるのを待っていた。

そして晴れた瞬間、蟻すら見逃さないように地面を耕すほどの砲撃跡が見えた。

そこには巨人の姿は無かった。

「どこ行った?」と1人の兵士が呟きそうになった瞬間!

 

 

「ぎゃああああああ!?」

「そこだ!!」

 

 

砲兵部隊の居る地面の真下から変異種が飛び出してきた!!

上空を飛ぶ砲兵や野砲、砲弾の数々が地面に落下した。

 

 

「舐めやがって!!」

 

 

同僚を殺された兵士は、怒りに身を任せて巨人にアンカーを突き刺して突撃した。

それを嘲笑うように変異種は高熱の蒸気を噴出させた!

散らかった弾薬が高熱で引火し、突撃した兵士どころか砲兵部隊の陣地を丸ごと吹っ飛ばした!!

高熱の爆風があらゆる物を巻き上げて兵士を見るも無残な肉片を散らかした。

 

 

「ぐおっ!?」

 

 

伊達に歳を重ねてないキッツは地面に伏せて両手で頭を守った。

巨人が地面から飛び出した瞬間、唖然とする部下を見捨てて距離を取った。

自分の生存に最善を尽くす小鹿の異名も伊達ではない。

 

 

「こっちよ!!」

 

 

頭進撃のフローラは、この程度で怯えるわけが無かった。

ライリーを安全地帯に送った後、すぐさま音響弾を撃ち込んで専用銃を投げつけた。

音に機敏だと判断したので音響弾なら怯ませられると思ったからだ。

アンカーを突き刺してワイヤーを巻き取らなかった。

 

 

「うっ!?」

 

 

音が止んだ瞬間、彼女はアンカーを取り外して全力で逃走した。

アンカーを外してから3秒ほどで殺意のある蒸気を噴出した。

 

 

「音響弾が破裂してる間だけ効果があるのね…」

 

 

さすがに即死サウナを受けるわけにもいかず、フローラは様子見をしていた。

巨人は、近くに落ちた銃に反応せず、音響弾の撃った場所に反応していた。

つまり大音量なら人間でなくても襲撃するようである。

 

 

「音響弾を撃って!早く!!早くしなさい!!死にたいの!?」

 

 

フローラは呆気に取られている兵士に必死に呼びかけた。

とてもではないが1人で倒せる敵ではなかった。

音響弾を装備している兵士に援護してもらい、怯まし続けるしか勝利する術が無い。

 

 

変異種はフローラの叫び声に反応して駆け抜けていく。

彼女も分かっていて大声で居場所を知らせた。

一か八かである。

彼女は観念したかのように立ち止まった。

 

 

『やっぱり…』

 

 

変異種はフローラを乗り越えて彼女を求めて音のした方へ突撃した。

そして獲物の音がしなくなると付近の音を頼りに徘徊し始めた。

 

 

『呼吸程度では反応しないのね』

 

 

穴を掘るせいで視力を退化させて聴覚を発達した存在。

銃の薬莢が落ちた音すら反応しないなら呼吸程度では発見されないと踏んだ。

賭けは成功したが馬が居ないので再度発見されたら逃げきれない。

 

 

「続けざまに音響弾を撃て!!」

 

 

キッツの大声に反応して変異種が穴を掘り始めた。

地上より地下が音が感知しやすいと思ったのか、巨人にしか分からない事だ。

少なくとも無駄な動作の隙を突かれて音響弾が放たれた!

空気が振動が感じられるほどの爆音が巨人の動きを鈍らせた。

 

 

「うっ…つぃぎいい!!」

 

 

第二波、第三波の騒音が耳を貫き視界を歪め、動きが鈍る。

それは巨人も同じ事である。

フローラは変異種のうなじを削ごうと駆け出した!

ここで重要な事に気付いた!

 

 

「弱点部位が再生してる!?」

 

 

時間をかけすぎたせいで肉体の再生が終わっていた。

白色の器官は腹にあり、地下に潜る都合上、負傷する部位なので気にしてなかった。

しかし、地上に出た時間が長すぎて再生しきっていた。

これではうなじを削ぐことはできない。

 

 

「あああ!!」

 

 

フローラは、がむしゃらに巨人の腹にアンカーを撃ち込んで突撃して部位を削いだ。

音響弾の音は止んでおり、蒸気が噴き出すのは時間の問題であった。

 

 

「うおおおおおおお!!」

 

 

フローラと同時に駆け出したキッツは変異種のうなじを削いだ!

奇しくも彼女が器官を削いだ瞬間に彼の放った斬撃が巨人の皮膚に届いた。

もし、彼が臆病のせいで一瞬だけ攻撃を躊躇わなかったら、時間差で刃が届かず失敗していた。

それほど奇跡的なタイミングで変異種を討伐できた。

 

 

『えっ?』

 

 

歓声をあげる兵士達に取り残されたようにフローラは呆然と消滅する巨人の死骸を見つめた。

キッツも着地に失敗して地面を転がって悶絶していたが、そのまま胴上げされて涙目になった。

もちろん、嬉しくないわけではないが、タイミングが悪かった。

 

 

「た、隊長があのような勇猛さを示すなんて…」

 

 

未知なる変異種で動けなかったリコ班長は、上官の行動に感嘆としていた。

規律を重んじて時には冷酷な行動を取る臆病な隊長。

そんな彼が精鋭班の班長を差し置いて単独で巨人を討伐した。

これが最後の1体だったようで巨人はこれ以上出現してこなかった。

多大な損害を払ったが東防衛線付近の巨人はこの世から駆逐したようだ。

 

 

『なんとか巨人の侵攻を喰い止めたな…これで終わるとは思えんが……』

 

 

水を差すように新手に警戒するキッツは胴上げされながらも必死に次の一手を考えていた。

彼の用心深さと臆病の性格が噛み合って精鋭部隊は、駐屯兵団で最強の部隊となっている。

 

 

-----

 

 

「よし、よくやった!貴様の手柄は記録しておくぞ!」

「そこまで大げさに記録されても困りますわ…」

「いずれ駐屯兵団精鋭班に推薦するつもりなんだが、実績が必要でな!」

 

 

戦後、キッツ隊長に褒められているフローラは自分の実績が公式記録に残るのを嫌がった。

まず王政に目を付けられて、排除する為に対人立体機動部隊を差し向けられた実績がある。

なんやかんや大総統と大臣を脅迫して事なきを得たが、そもそも問題が解決していなかった。

同格であり2人と敵対しているメテオール・二コラ・デレトフ会長に庇ってもらっている状態だ。

そんな時にこんな目立つ真似などしたら、更に厄介になる事は嫌でも自覚していた。

兵団一の問題児でも、壁内人類に自身の存在が知れ渡るのを恥ずかしがったのもある。

 

 

「私は規律を守る人間と、自身の実力で戦績を重ねる者が大好きだ」

「あ、ありがとうございます」

 

 

とりあえず調査兵団の新兵が桁違いな戦績を一度に報告すると信憑性に欠けることになる。

だからこそ、巨人騒動が落ち着いて検証になった頃に小出しに情報を出す事にした。

結局、情報は公開されてしまうが、多少の時間稼ぎにはなったはずである。

 

 

「いけますよリコ班長!この調子なら防衛線が維持できそうですよ!」

「いや、巨人の恐ろしさは数の力だ。更に巨人が増えたらここは突破されるだろう」

 

 

斜陽の光を反射する眼鏡が印象的なリコ班長は、部下の楽観を素直に受け入れる事はできなかった。

さきほどの変異種が2体居たら絶対に勝ち目が無かったと分かっているからだ。

1体ならなんとかなるが、巨人の群れに来られたら突破されるのが目に見えている。

しかし、おかしな点がある。

 

 

「フローラはどう思う?この状況……」

「もしかして壁は破壊されていない…とか?」

「ああ、地下で移動する巨人が居たんだ。地下から出てきたのもあり得る…だが妙だ」

「何かあったんですか?」

「…巨人の死骸から人が喰われた痕跡が無いんだ。ここまで内地に攻め込まれているのに…」

 

 

巨人は基本的に近くに居る人間を捕食する。

それはトロスト区防衛線や奪還作戦で嫌ほど実感している。

しかし、精鋭部隊や一般兵が討伐した巨人の死体からは異様に人の死体が少なかった。

巨人は討伐されれば消滅するが、人の死体は消えることが無くそのまま残る。

巨人には消化器官が無い以上、一定の肉塊が残るにもかかわらず死体が少なすぎた。

それで、リコは恐ろしい仮説を考えた。

ここに来た巨人は【壁内で自然発生した】のではないかという恐ろしい仮説を考えた。

 

 

『巨人の行動は人類の理解を越える』とキッツ隊長は口癖のように発言していた。

実際、穴掘りの巨人が出現したので、間違っていない。

では、花が咲くように巨人は自然発生するのだろうか。

それを否定する材料がないからこそ、リコは部下を諫めるしかできなかった。

 

 

「調査兵、ご苦労であった。ここは我々に任せて今のうちに調査兵団に合流しておけ!」

「ハッ!」

 

 

ぶっきらぼうに命令をするキッツ隊長に向けてフローラは敬礼をした。

一見すると横暴な態度だが、『この後も街道の死守をするがお前は離脱しろ』と言っていた。

巨人が再度出現したら、調査兵団に合流するどころか身動きが取れなくなる可能性があった。

フローラという兵士を重要視しているからこそ、彼女を最優先してくれる気遣いが感じられる。

 

 

「ライリー!…もう居るのね」

 

 

ライリーは呼び戻すまでもなくフローラの近くに居た。

今日は散々な目に遭ったせいで機嫌が悪いが、なんかフローラが怖いので大人しく戻ってきた。

 

 

「おっ?もう行くのか?」

「勝利の女神様が去っちまうと白けた場所になるな」

「イアンさん!ミタビさん!後ろ!」

「…おっと、リコ班長」

「ミタビ、あとは任せた」

「おい逃げるな!戻ってこいイアン!あの野郎…見捨てやがった!」

 

 

フローラを見送りにベテランの風格を漂わせるイアンとミタビも駆けつけた。

相変わらず軽口を叩き合う面々を見てその場に居た者達は少しの間、安らぎを得た。

フローラはお別れの抱擁をしたかったが、時間が無いので諦めて騎乗した。

 

 

「どこに行く気だ?」

「同期が未だにローゼの壁付近に展開してるので合流する予定ですわ!」

「まだ戦う気か…恐れ入ったな」

「ミタビ班長、一緒にいかがですか?」

「リコに叱られる役目があるからまた今度な」

 

 

ミタビに振られたフローラは手を振って駐屯兵団第一師団精鋭部隊と別れた。

地図によると、南方に拠点になりそうな古城が示されていた。

もし、南班が一度休息をとるならここだと思い、フローラはその場所に向かって進撃した。

それが更なる地獄になる場所と知らずに…。

 

 

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