進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
キッツ隊長率いる駐屯兵団が巨人と激戦を繰り広げている頃。
南班に所属するコニー、ベルトルト、ライナーは南部にある村に向かっていた。
そこは、コニー・スプリンガーの故郷であるラガコ村である。
「落ち着けコニー!どこに巨人が居るか分からんぞ!一旦下がれ!」
必死のライナーの呼びかけにコニーは応じなかった。
分かっていた。そんな事などとっくに分かっていた!
それでも奇跡的に村に巨人が来てない事を祈って彼は馬を走らせた!
見慣れた看板を通り過ぎて村の門を越えて彼は故郷に帰ってきた!
「俺だ!コニーだ!立派な兵士になった俺が帰ってきたぞ!」
しかし現実は非情だった。
民家の至る所が破壊されており、地面には複数の巨人の足跡が残っていた。
風に揺れる木材や金属が擦れる音だけが廃墟を賑わらせていた。
黄昏で染められたラガコ村は人類の終わりを比喩しているかのように静かだった。
暗闇がこの村を染めようとしているようにコニーの心も絶望に染め上げていく。
「俺の家…母ちゃん、父ちゃん…マーティン、サニー」
きっと、みんな逃げて無事なはずだ。
いや、民家に隠れているかもしれない。
下手に逃げれば巨人に追い回されるのできっと隠れているはずだ。
家に帰れば家族が震えながら隠れており、自分の声で安心して出てくるはずだ。
そして家族全員、合流して安全地帯に帰るんだ!
「大丈夫だ…俺より頭が良い奴が馬鹿みたいに死ぬわけがない…」
コニーは脳裏に横切る『全滅』という単語をなんとか振り払おうとしていた。
『認めれば楽になるぞ』という悪魔の囁きに耐えて実家に向かって馬を走らせた。
天才の自分の血が流れるみんなが死ぬわけないと何度も思いながら。
だが、コニーの実家は巨人に潰されていた。
いや、巨人に潰されている。
「あ、あっ…」
コニーは思わず馬を止めた。
自分の家に仰向けで押し潰している巨人。
頭だけが壁から飛び出しており、その視線が彼と合った。
この瞬間、時が止まり全身が冷却して汗が揮発した感じがした。
「おい下がれ!!」
なんとか追い付いたライナーはコニーの馬の手綱を握って移動を促した。
ベルトルトも追い付いて辺りを警戒している。
「下がれ!周囲を警戒しろ!」
「何か異常な物を見つけたら大声で叫んでくれ!」
調査兵団第一分隊のリーネとゲルガーはスナップブレードを構えて慎重に接近した。
無防備の彼らは固唾を呑んでその様子を見るしかできなかった。
「なんだ?来ないのか!?」
「ゲルガー、こいつの手足を見てみろ!」
「ん!?」
リーネの一言で巨人の手足を一瞥すると衝撃的事実が発覚した。
その巨人の手足は異様に細く、餓死寸前のように骨に薄皮が張られた程度に感じられた。
おそらく胴体を支えることができずに民家に転倒してしまって動けなくなったのだろう。
しかし、ここで新たな疑問が発生した。
「じゃあ、どうやってここまで来たんだこいつ…」
ゲルガーの疑問に答えられる者は居なかった。
ただ分かるのは、コニーの故郷は壊滅して巨人が1体取り残されている事だけだった。
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「思ったより巨人が少ないな…」
「おそらく駐屯兵団が迎撃した影響でそちらに向かったのでしょう」
「ヘニング、この先に集落はあるのか?」
「…いえ、壁に近いので人が住んでいる領域ではないはずです」
「そうか、思ったより早く終わりそうだね」
西班のナナバはヘニングの返答で近隣住民の避難の呼びかけが終わったのを知る。
それを喜んだのはユミルである。
これでやっと安全な場所に帰還できる。
「よし、このまま南下してして破壊された壁の位置を特定するぞ」
「ナナバ、さすがにこの手勢じゃきつくないか?」
「想像より巨人が少ない気がしてね。西側から壁に沿って移動してみようじゃないか」
無防備な104期女調査兵たちを率いるナナバは、壁の破壊場所を特定したかった。
巨人が通れるほどの穴があるなら付近に巨人が集っているはずだ。
つまり壁付近で巨人の群れを見つけるだけで大体場所を推測できると分かる。
クロルバ区から壁を沿って南に向かい、トロスト区に向かう。
どこかに穴がある以上、必ずトロスト区に着く前に巨人と遭遇するだろうと踏んだ。
「待ってください!私たちは戦闘装備がありません!前線から一旦引かせてください!」
「連絡要員を確保しておきたいんだ…諦めてくれ」
「君たちは兵士だ!初期対応に掛かっている以上、頑張ってくれ」
ユミルの提案は上官であるナナバとヘニングに却下された。
わずか4名の中で戦闘ができるのは2名のみ。
圧倒的に戦力が足りておらず、巨人を早期発見できなければ一瞬で巨人の餌になりかねなかった。
自己犠牲精神の塊である彼女は、確実に囮になってしまうからだ。
「ねえユミル?私は調査兵団に志願したから良いけど、ユミルは違うでしょ?」
「クリスタ…何が言いたいんだ?」
「貴女が調査兵団に志願したのは私が…」
「私が!?はっ!私の為って言いたいのか!?」
「じゃあ、何でここに居るのよ…理由が無いなら逃げてよ」
クリスタは、お節介のユミルが自分を心配して調査兵団に入団したと察した。
頭皮を嗅いできたり「お嫁さん」とか発言する気持ち悪さはあるがライナーほどではない。
いや、ライナー・ブラウン如きと比較するのは親友に失礼かもしれない。
それにユミルが自分に成績上位10位を譲ってくれたと分かっている。
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「クリスタ、貴女…どんな手で10位になったの?」
「メルダ…私だって分からないよ」
104期訓練兵団を卒業したその日の晩、メルダ・プリントはクリスタを問い詰めた。
普段の実技ではクリスタを上回って教官の評価が高い彼女は、成績12位だった。
さすがにサシャレベルじゃないのは自覚しているが華奢なクリスタ如きが10位になるわけがない。
憲兵を目指していたメルダからすれば彼女が不正をしているしか思えなかった。
「おいメルダ!『私のクリスタ』に何をしている!!」
「あら、成績11位のユミルさん、順調にいけば10位に入れたのに何かヘマしたの?」
「何が言いたい…!」
メルダは、ユミルが普段の実技でクリスタより点数を稼いでいるのを知っている。
だからこそ卒業試験で手を抜いたのは明らかである。
「貴女の愛するクリスタに10位を譲ってあげたんじゃないの?」
「お前…!!」
「だって、こんな華奢の子が同期の女で2番目に身長が高い貴女に勝てるわけがないじゃない」
「立体機動に体格は関係しないんだが?」
「確かにコニーはそうだけど、戦闘能力が低いクリスタがユミルに勝つわけがないもの」
意訳するとクリスタは成績上位10位に入れるわけがなく、ユミルが譲ったと言っている。
教官や男子の前では良い子ぶって裏ではあくどい事をしてきたメルダは、彼女も同じだと思った。
クリスタは何故、自分が10位なのか表彰されても分からなかったがようやく納得できた。
本来10位だったユミルが自分に譲って憲兵になって欲しいという気遣いと分かってしまった。
「そういうお前こそ、フローラを蹴落として12位になったんじゃないのか?」
「あの子は色々やらかしてるからね。実技成績が高くても10位にはなれないよ」
「私も口が悪くてな!印象が悪いせいで…もしかしたら11位にされたかもな!」
「あたし見たんだ…ユミルが相手を妨害してクリスタを10位にゴールさせた事を…」
「こいつ…!!」
メルダは不正で12位になっているのでユミルの発言に肩を竦めて誤魔化した。
それと同時に図星を指されて苛立ったので、メルダはあえて煽った。
その一言を聴いたユミルは、クリスタにちょっかい出してくる女に殺意を向けた!
この女のせいで自分のお嫁さんになるはずのクリスタが気弱で怯える性格になってしまった!
ここで糞女を殴り倒せればどんなに楽なのか…!
むしろ、メルダはそうするように促しており乗って殴れば、被害者面してユミルの成績は剥奪。
罪悪感があるクリスタを利用して、今からでも10位になる魂胆があると察したからこそ動けない。
「何をしてるの?」
「成績13位、フローラ・エリクシアさん。何か用ですか?」
「晩御飯ができたので報告にしに来ただけですわ」
「…ですってユミルさん、ひとまず食事をしませんか?」
「ああ、良いだろう!」
成績10位から13位の女が勢揃いしてしまい修羅場になる…事はなかった。
同期の女の中で最も長身で成績13位のフローラを見てメルダは適当な建前を述べて逃走した。
さすがに【コミュ力の化け物】を巻き込むと、自分が不利なのは明確だったからだ。
クリスタとそこまで仲良くないフローラだが、論争していればボロが出てしまうと分かっていた。
ユミルはフローラに感謝しつつ、自分の嫁を愚弄する女狐を不快ながら見送るしかできない。
メルダは退き際が良いので、あくどい事をしても証拠が掴まれず、今まで暗躍してきた。
一時は、『クリスタと双璧の人気』と男子から揶揄される事もあったほどの実力者。
そんな彼女から『自分は10位を譲られた』と知らされてクリスタはずっと引き摺る事になった。
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「誰に訊いたって成績10位は貴女だと答えるはず…なんでそこまでお膳立てしたの?」
「クリスタ、考え過ぎだ!」
「憲兵団に促すばかりかその権利すら私に渡そうとした…私の生まれた家と関係がある?」
「ああ、ある!」
ユミルの返答にクリスタは前を見ることができなかった。
母親から自分の存在を否定されたどころか恨まれた過去がある。
それほど自身に流れている血は【特殊】であり公になる事ができない。
それをユミルが知っているというのだ。
もしかしたら彼女は王政の…。
「安心してくれよ!私がここに居るのは全て自分の為なんだ!」
「そうなの?」
「ああ、第二の人生は自分の為に生きると決めた!誰にも私の意志は束縛できないさ!」
「そっか…よかった」
クリスタの苦し紛れの笑みを見てしまいユミルは自分が疑われたのを知った。
確かに内地の教会で金品を漁っていた時、クリスタの噂を聴いて気になっていた。
まるで自分の前世のような感じがしてじっとしていられず彼女と接触した。
そしてずっと仲良くやってきて気付いた。
クリスタは女神で運命の相手だと!
「でもクリスタと結婚して束縛されるのは良いけどな!」
「もう!こんな時に!!」
結婚という言葉を聴いて頬を赤くして狼狽えるクリスタを見てユミルは笑った。
自分を良い子として演じるクリスタではなく本来の彼女の姿が見えたからだ。
ナナバとヘニングは後方のやりとりを聴いて何とも言えない気持ちで馬を走らせた。
同性愛は重度の精神病として壁内では常識であるが、そんな事など気にする余裕すらなかった。
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南班に所属してコニーの故郷に来たベルトルト・フーバーは焦っていた。
明らかにライナーの様子がおかしくて、何て声をかければいいのか分からなかった。
ここで何が起こったのか…少なくとも外側に飛び出した瓦礫を見れば分かるはずだ。
それなのにさっきから落ち込んでいるコニーを気にしており、同情しているようだ。
「コニー!生存者は居たか!?」
「いねぇよ…もう…ない…おしまいだ…故郷は…俺の故郷はもうどこにもなくなっちまった…」
松明を抱えながら泣いているコニーを見たライナーは頼れる兄貴分として動いている。
心中を察するように目を閉じてコニーの左肩に右手を置いて元気づけた。
申し訳ないという意思表示なのは間違いないが、複数の意味に取れた。
『すまない、失言をした。辛いのは俺も同じだ』という失言を謝罪して勇気づけようとした。
『すまない、お前の村の住民は巨人化されたようだ…俺達のせいだ』という感情かもしれない。
『すまない、マルセルを喰われたのに作戦を続行した俺のせいだ』というカミングアウトか。
『すまない、悪魔の末裔だから犠牲になるのは辛い事だが我慢してくれ』という思考か。
『こうやって同情したフリをすればクリスタに評価される材料になる』という下心か。
『寝ぼけたベルトルトが超大型巨人になって壁内に巨人を入れた』という頭マーレか。
ベルトルトにはライナーの思考が読めなかった。
兵士と戦士の切り替えがシームレスで行なわれており、精神分裂した爆弾になっている。
下手に突くと爆発してエルディア人に味方するのか、自分に味方をするのか分からない。
ここに居るコニーたちを皆殺しにして発狂するか。
壁を破られたと推測した瞬間、こっちを見てきたので敵対するかもしれない。
内心を読んでいる素振りがあるフローラに訊かないと分からないくらいライナーの頭がおかしい。
自発的に動けない彼は、2人のやり取りを黙って見ている事しかできなかった。
「妙だな…ここまで破壊された跡があるのに血痕は無いな」
「さっき村の馬小屋を見てきたら馬が繋がれていた…避難した形跡が無い」
「まるで住民が蒸発したようだな」
「コニーの故郷じゃなかったら廃村にしか見えないくらい不自然だよ…」
ゲルガーとリーネはお互いが得た情報を小声で交換し合った。
民家の破壊具合から巨人が人を察知して破壊したと思われた。
ところが捕食した様子はなく血痕が1滴も垂れていなかった。
その時点で不自然であるが、馬小屋に馬が繋がれており逃げた形跡が無い。
家の中に料理が残されているなど、さきほどまで人が居た痕跡が所々残っている。
なにより巨人が民家を徹底的に破壊しているので、実際に人が居たはずである。
巨人は人にしか興味を示さないし、それ以外には攻撃する素振りすらしないからだ。
「少なくとも…あの馬小屋はコニーに見せるわけにはいかないね…」
「見つかったらどうする?」
「巨人騒動の裏で盗賊団に村人が攫われたと、ごり押しするしかない」
リーネは盗賊団に村人が拉致された後、巨人が人間を探して村を破壊したと推測した。
そんな事あり得ないが、少なくともこのオカルト現象を説明しようとしたらこうなった。
数年前まで人身売買が行われた地域があり人攫いは、数年前まで存在していた。
ウォール・マリア陥落から人減らしの一環で戸籍が徹底的に管理されたので自然と消滅した。
それでも東洋人など珍しい人種は未だ人攫いに狙われている。
少なくともお茶会でフローラが同期のミカサの過去を述べてくれたので作れた説である。
「コニー、ライナー!ベルトルト!死体を見なかったか?」
「見てません…」
「いいえ」
「…なかったです」
彼らの様子から死体を目撃しておらず、村の馬を発見できていないようだ。
死体どころか血痕の1滴すら無いなら僅かではあるが希望はある。
「さっき村の馬小屋を見てきたんだけど…馬は1頭も居なかったよ!」
「ほ、ホントですか…!?」
「ああそうだよ!家族も村の皆も誰も喰われていないよ!巨人の発見が早かったんだ!」
「そうか、そうですよね!」
コニーはポニーテイルの髪型が印象的なリーネ先輩の話を聴いて希望が湧いて来た。
元気づける為の嘘かもしれないが、それが本当であると願って信じる事しかできなかった。
「馬小屋には色んな荷物が散らばっていた!慌てて逃げた証拠だ!」
「聞いてくれよ!こんな非常事態なのにゲルガーは酒代の為に火事場泥棒しようと…」
「リーネ!変な事を言うんじゃねえええ!!」
嘘も方便という事もあり、リーネは嘘をできるだけ信じ込ませる為に更なる嘘を付いた。
ゲルガーからすれば新兵から悪人に見られてしまうので、たまったものじゃなかったが!
彼の慌て具合からコニーは本当の事だと思ったので、涙を服の袖で拭いた。
「これより!壁の破壊箇所を特定しに行くぞ!松明をもって出発するぞ!」
「ほらほら、私たちの任務はこれからだよ!早く騎乗して出発だ!」
「……はい」
上官たちに乗馬を促されたコニーは松明を抱えて自分の馬に向かって走り出した。
家族が避難した以上、ここに長居するつもりはなかった。
安心した彼は鞍にしがみ付いて跳んで鐙に足を乗せて、もう反対側の鐙にも足を乗せようとした。
〈オ…アエリ……〉
自分の後方から誰かの声がした。
南班は目の前に居て自分が一番後ろのはずだ。
それより後ろは誰も…いや、1体居る。
コニーはゆっくりと振り返ると仰向けに倒れている巨人と目が合った。
その巨人は良く見ると自分の母親にそっくりな感じがした。
「お、おい今…」
コニーの鼓動が高まっていく。
信じたくないが今の声、発言した単語、そこから導き出せるのは…。
座学など知識や馬鹿と呼ばれるほどに頭脳運動が苦手だったが頭の回転自体は速い方だった。
「コニー!急ぐぞ!先輩たちに置いて行かれるぞ!!」
「ライナー!聞いたかあいつが…」
「ああん!?俺には何も聴こえてないぞ!そんな事より任務に集中しろ!!」
「なんか…あり得ないけどさ…あの巨人…母ちゃんに……」
ライナー・ブラウンは、コニーが事実に気付き始めたのを勘付いた。
だからといってどうする事もできない。
彼ができるのは1つだけだった。
「コニー!お前は今どんな状況か分かってるのか!!」
「でも…」
「今の俺達の働きが数十万の命に直接影響するんだぞ!!それともなんだ!あり得ない妄想の方が大勢の人命より大事な事なのか!?お前が考えるのは避難した家族の事だろうが!!守りたい物を考えるならやるべきことは決まってる!兵士なら最善を尽くせ!!」
作文力で【戦士】になったと言っても過言ではないライナー・ブラウン。
相手に大声でまくし立てて思考させる暇すら与えず、自分の意見を承諾させる技能があった。
アニ・レオンハートの苦難は大体、こいつのせいだと過言でなく何度も殺意を向けられた。
その癖、兵士ごっこを存分に楽しんでおり、心身共に疲弊したアニはミーナに癒しを求めた。
子猫の様に守ってあげたくなる小柄な少女との会話だけが彼女の癒しであった。
そして鎧の巨人討伐を掲げるフローラを心底応援していたほどライナーが大っ嫌いだった!
「……ああ、そうだ!その通りだ!!」
コニーは、さきほどリーネ先輩から住民が避難したと聞いた。
だからさっきのは幻聴だと思い、先輩たちに付いていくように馬を走らせた!
ライナーの作文力の高さは切羽詰まった状況下ほど口八丁で誤魔化せる技術となった。
それでも油断せず彼は、『巨人化』について気が付いたコニーを監視していた。
そのライナーを見てベルトルトは余計に相棒の真意が掴めずに混乱した。
コニーを見張るライナーを見張るベルトルトを見送る仰向けの巨人という不思議な構図になった。
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夜の帳が下りた頃、1人の少女が暗闇の中で馬を走らせていた。
104期調査兵のミーナ・カロライナは暗闇で迷子になっていた。
東班に所属していたが巨人の群れと遭遇して班員と離散して未だに誰も遭遇できなかった。
「ああ…嫌…」
激戦を繰り広げていた東防衛線が近かったのが彼女の運の尽きであり逃げ回っていた。
しかし、最低限な装備すら持てずに伝令役になってしまったのが運の尽き。
地図も松明も巨人と交戦する装備がないまま、馬と共に暗闇を彷徨っていた。
「やだやだ…」
馬と違って夜目が利かない少女は夜に怯えていた。
近くに巨人が居ても感知できないのもあるが、死後の世界だと思ってしまったからだ。
トロスト区防衛戦で、見つめてきた巨人に頭を齧られそうになった事がある。
その時は親友が助けてくれたので事なきを得た。
しかし、あまりにも助かった気がせず、実は自分は死んでいるのではないかと思っていた。
自分だけ転生できず悪夢の中を彷徨っているのではないかと…。
それを考えるだけで過呼吸で苦しくなり自分の存在が分からなくなった!!
「ああああっ!!!あああああああああああああ!!!」
大声を叫んで必死に恐怖から逃れようとするが心が更に追い詰められた。
両手で髪の毛を掻いて何本か毛を毟ったがそれでも落ち着く事はできなかった。
馬は何事かと思い、停止したので更にミーナはパニックに陥った。
「ミーナ、こんな所で何をしてるの?」
「見て分からないの!?東班から逸れて彷徨ってるのよ!!」
他人事のように訪ねて来た女の声に反論したミーナ。
すぐに暗闇の中で誰かが居るのは分かった。
「偶然ね!わたくしも暗闇で彷徨っているわ」
「フローラ!?」
「ミーナの声が聴こえてね…何かあったと思って駆けつけてきたの」
フローラは夜になってから照明道具を持ってくるのを忘れたのに気付いた。
だからといって死ぬわけじゃないので「まあいいか」と気にせずにそのまま進撃していた。
トロスト区やカラネス区の外に暗闇の中でライリーで駆けまわった頭進撃に隙は無かった。
「どうしよう!?」
「少なくともこの近くで人の“声”がするから合流しましょう」
「何も聞こえないけど…そんなに聴覚が良かったの?」
「トロスト区奪還作戦の時に転がった鋼貨の音で枚数を聞き分けるくらい良いわよ」
フローラは聴覚が優れており、微かな音すら聴き取れた。
だからこそ東防衛線で音響弾の連発は耳に堪えたのだが生還できたので特に気にしなかった。
更に負の感情を“声”として聴ける能力のおかげで、人の特定などお茶の子さいさいである。
「でも前が暗くて見えないよ…」
「じゃあ、わたくしが手綱を引っ張って誘導するわ」
「…馬を捨ててライリーに騎乗して良い?」
「駄目に決まってるでしょう!!」
とにかく温もりが欲しかったミーナはフローラに甘えた。
アニに甘えた様に親友にも甘えたかった。
そんな彼女の願いは意外な事で砕かれた。
「雲が晴れた…」
「今日は満月ね…月光のおかげである程度見えるわ」
「合流するの?」
「そこに古城が見えるわ…一旦そこに避難しましょう」
フローラは暗闇が晴れたので一度古城に向かう事にした。
最初の目的は、このウトガルド城であったので場所が分かった以上そこに向かう事にした。
さきほどと意見が変わっているがミーナは疑う事もなく城に向かった。
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「巨人は…居ないけど何かおかしい!」
「ねえフローラ、人が居た痕跡があるんだけど…」
フローラとミーナは、観光名所だったウトガルド城に辿り着いた。
予想以上に荒廃しており二本の塔とそれを繋ぐ回廊だけが辛うじて残っている。
長居すると崩壊しそうな感じがしたが、少なくとも平原で野営するよりマシである。
ただ、部品や道具が転がっており数日前まで何者かが拠点にしたような痕跡が残っていた。
「馬小屋に…馬は居ないわね」
「ここにライリーを繋いだら?」
「良い提案ね!さっそく実行しましょう!」
親友の一言でフローラは相棒のライリーを馬小屋に待機させようとした!
しかし、ライリーは束縛を拒絶するように大暴れして抵抗した。
「ライリー!!…落ち着くまで馬小屋に入れられないわね」
「どうするの?」
「一旦、自由を謳歌してもらって帰って来てもらうしかないわ」
人見知りのライリーに様々な人を乗せてしまい苛立っていると思ったフローラ。
牝馬なので、ミーナが乗ってきた雄馬が隣で繋がれているのが気に食わないかもしれない。
そんな事など分かるわけも無いので、仕方なく合図を送って一旦解散の指示を伝えた。
定期的に指示を聞かないのでフローラは、ライリーの興奮が収まるまで自由にさせた。
人見知りでありながら寂しがり屋なので、いつか落ち着いて戻ってくるのを知っていた。
「さあ、ミーナ。この城を探検しましょうか」
「えっ?」
「わたくしたち、調査兵団でしょ?未知なるこの城を探索しましょうか」
月明かりに照らされた親友は、好奇心旺盛の少女に見えた。
巨人がいつ襲撃してくるか分からないのに一切恐れを抱いていない。
ミーナはそれが羨ましかったが、何のことは無い。
「うん、一緒に行こうね!」
別に弱くても良いんだ。
親友と一緒ならどこまでも行ける。
月明かりが独特な雰囲気を漂わせており、はっきり顔が見えないから表情を想像する事ができる。
きっと純真で無垢な笑みをしていると信じてミーナはフローラの後についていった。
調査兵団らしくこの古城を調査する為に!