進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

69 / 179
6章 全てを偽っても過去は変わる事無く自身や裏切った者を苦しめると分かってしまった時代
69話 壁外から来たと察した者達


「妙だな、穴に近づいているはずなのに未だに巨人と遭遇しないとは…」

「ハンネス隊長、やはり例の【穴掘り巨人】の仕業だったのでは?」

「フィル、伝令から聞いたのだが、掘り返された場所から巨人は出現していないそうだ」

「厄介ですね…」

「ああ…」

 

 

壁の破壊箇所を特定する任務を遂行してるハンネス・ルドマン隊長。

副長のフィルとの会話で分かった事がある。

巨人は想像以上に少ないという事だ。

もちろん、油断はできないがシガンシナ区といいトロスト区と比べると巨人が少なすぎた。

東防衛線で大半の巨人を駆逐したと言わんばかりに壁付近では巨人と遭遇しなかった。

 

 

「思ったより事態は深刻ではないのでしょうか…」

「分からん。奴らは穴を空ける時に大量に集まって来るからな…いつ来てもおかしくないぞ」

 

 

ハンネスができるのはこのまま進軍して壁の穴を見つける事だ。

トロスト区からカラネス区、つまり北東部の地域では巨人が発見されていない。

なので破壊された箇所は、トロスト区からクロルバ区の間だと推測できる。

なのに巨人の姿が見えないということは、穴はまだ遠くにあるという事だ。

 

 

「願わくば、このまま穏やかのままであって欲しいが無理そうだな」

 

 

ハンネスはできれば、巨人と遭遇しないまま穴を発見できる事を祈った。

彼は5年前にエレンから「駐屯兵団から壁工事団に改名しろ」と言われた事がある。

あの時は悪くないと思った。

真面目に壁の補修工事を取り組んだ晩に飲む酒は格別といったもんだ。

もしあの堕落した日々を取り戻せるなら彼は何でもする気だった。

 

 

「壁の穴を放置するなんて【壁工事団】として失格だからな…」

「隊長?」

「何でもない…忘れてくれ」

 

 

部隊長として兵の命を預かる立場になったハンネス。

それでも全てが終わったら堕落した生活を送りたいと願う中年のおじさんだった。

これ以上の日常を奪われない為にも彼は壁の破壊箇所を目指して進撃した!

 

 

-----

 

 

ミケ分隊長の命により東西南北の4つの班に分かれた調査兵団第一分隊及び104期兵。

そのうちの南班は、壁の破壊箇所特定できないまま壁に沿って進んでいた。

 

 

「ハァハァ…まだ見つからんのか」

 

 

ゲルガーは真っ暗を松明で明かりを灯して馬を進めているが、本音は帰還したかった。

いつ巨人と遭遇してもおかしくない真っ暗で道なき道を進んで行くなど正気の沙汰ではなかった。

 

 

「点呼でもする?」

「フローラみたいな事を言うんじゃねぇよ!」

「あらやだ、私はあの子に憧れを抱かれている女だというのに…!」

「大人の女性の肉体として憧れを抱いているだけで、お前自身には憧れてないと思うぞ」

「言ったなリーゼント野郎!それを松明で火を灯すともっと明るくなると思うんだけど?」

「勘弁してくれよ…」

 

 

同僚のリーネは、震えた声でゲルガーと軽口を叩き合った。

新兵3名を率いている以上、弱さを見せるわけにはいかなかったからだ。

穴に近づけば、必然的に巨人と遭遇する。

その時点で、探索を打ち切って新兵たちを安全地帯に逃がす必要がある。

誰か1人でも生き延びれば、情報は伝わるからだ。

それでも誰も死にたくないのは同じで馬の速度を落として一同は進軍していた。

頭フローラの様に明かりを付けずに真っ暗の中で全速力で馬を駆けるほど馬鹿ではないのだ。

 

 

「うっ!」

 

 

ゲルガーは空中を彷徨う4つの鬼火を見つけた。

人魂は迷信と言う者がいるが調査兵団には縁があるものである。

土葬した死体から発せられるガスと発光する物質が反応して鬼火が発生するのだ。

ここに墓地などあるわけないから、もしかしたら巨人に喰われた死体だと思った。

それでも先輩として勇気を振り絞って馬を進めた。

 

 

「なんだよナナバかよ…」

 

 

期待して損したわけじゃないが…そもそも期待してはいけないものだがゲルガーは拍子抜けした。

西班であるナナバが出現するとは思わず、悪口の一言でも告げてやろうかという気持ちになった。

 

 

「お前らも壁に沿って来たのか?」

「ああ、それで穴はどこに?」

「はぁ…?」

「かなり西沿いからここまで来たが異常は無かった。だからそっちに異常があるはずだ」

 

 

西班を率いるナナバは、南班のゲルガーの反応から異常が無かったと分かった。

考えたくもないがどちらかが見逃したか。

それともトロスト区のすぐそばで穴があるのか。

ただ言える事は、双方とも壁を沿って移動したのに壁の異変を発見できなかったという事だ。

 

 

「いや、こちらも穴を見てない」

「見落とした可能性は?」

「巨人の大群が通れる穴だぞ…あり得ない」

「まさか…カラネス区の変異種のように50mの壁でも登ってきたか?」

 

 

南班と西班は予想外の出来事に戸惑うしかなかった。

複数の巨人が悠々と通れるほどの穴を見つけられなかった。

つまり、巨人は壁から登ってきた可能性が浮上した。

第57回壁外調査が実施された日、巨人が5体も壁を登ってきたのであり得ない話ではない。

 

 

「どうする?」

「もう一度探索と言いたい所だが、馬も我々も限界だ」

 

 

ゲルガーの問いに対してナナバが返答をした。

全員が長時間に渡る捜索で限界に達していたので一度休息をとる必要がある。

とはいえ、こんな真っ暗な平原で野営をするわけにもいかなかった。

 

 

「せめて月明かりがあればな…」

 

 

ゲルガーの願いは神に届いたのか、雲から満月が顔を出して月光で辺りを照らした。

本を読むほど明るくは無かったが、少なくとも遠くに居る巨人を発見できそうなほど明るかった。

そして月明りのおかげで近くにある古城を発見した。

要塞になりそうな場所を見つけて歓喜した彼らは、城を目指して馬を走らせた。

幸いにも巨人と遭遇する事がなく辿り着いた一同。

そこで彼らを待ち受けていた物とは…!

 

 

「ライリー!扉を蹄で叩かないで!扉が壊れちゃうわ!」

「まだ乗って欲しいんじゃない?」

「いやいや、もう無理よ!ずっと戦い続けて身体がボロボロよ!」

 

 

この世で一番自由な奴である牝馬のライリーが塔の中へ進撃しようとしていた。

さすがに扉を破壊されるのは困るフローラは立体機動で降りてきて制止している。

塔の窓から顔を出して他人事で述べるミーナは嬉しそうに漫才を見下ろしていた。

 

 

「なんかフローラが居るぞ」

「まーた何かやらかしたのか」

「フローラだから仕方がないよ…」

 

 

南班の104期調査兵の野郎共は、またフローラがやらかしてると思ってため息を吐いた。

トラブルメーカーの彼女は、いつも騒動の渦中に居る。

トロスト区で覚醒しなかったら…いつも死にかけるやべぇ奴としか言いようがない。

 

 

「良かったなクリスタ、これで巨人に囲まれても安心だな」

「うーん、何か変だけど…確かに安心だね」

 

 

ユミルはクリスタを守り切れる自信がなかったからフローラが居て安心した。

クリスタの本性を見抜いている同期の中で友好的なのがこいつしか居ないのもあった。

さきほどまで震えていたクリスタは、彼女と馬のコントを見て笑みを溢すまで精神が回復した。

 

 

「ビビッて損した…フローラと分かっていたなら震えずに済んだのに…」

「人類最強の女か。ひとまず両手で数えられる巨人なら対応できる」

「一応、新兵なのにその扱いは可哀そうじゃない?」

「じゃあ、リーネが代わりになってやれよ」

「ゲルガーがリーゼントを剃ったら考えてあげるよ」

「どんだけリーゼントに恨みがあるんだ…」

 

 

第一分隊の面々は、人類最強の女を見て安心した。

104期の同期達以上にフローラの実力を知ってるからこそ安堵していた。

もし、フローラが同行していたら怯えながら暗闇の中で進軍しなかった。

むしろ、驚異的な聴覚で巨人を見つけ出して巨人を掃討する彼女を観戦するくらいだった。

104期訓練兵出身の同期がフローラに癒される様に彼らも戦闘では安堵する存在だった。

女としては…男衆と雑魚寝するくらいならフローラの横で寝る方がマシな程度な扱いだ。

とりあえずフローラを女性と認めるのは、全国の乙女に失礼である。

 

 

「とりあえずフローラは放置して城内に入ろうじゃないか」

 

 

緊張がほぐれたナナバは、馬とコントを繰り広げているフローラを無視して城内に侵入した。

疲れ切った一同は、無言で肯定し、腕を馬に噛まれて暴れる女を無視してそのまま付いていった。

兵団一の問題児の扱いは慣れたものである。

ちなみにライリー以外の馬は全員、大人しく馬小屋で休んだ。

フローラが人類で変異した存在であるようにライリーも馬の中で変異種であった。

 

 

-----

 

 

「出発は日の出の4時間前だ。我々が交代するから新兵は良く休んでおけよ」

 

 

ゲルガーの一言を聴いてフローラは嬉しそうに笑った。

104期調査兵のフローラは、新兵であるので堂々と眠ることができる。

考えれば今日は、女型の巨人からずっと戦いっぱなしであった。

誰だよ、こんなハードなスケジュールを組んだの…と怒鳴り散らしたいくらいきつい1日だった。

頼れる先輩に見張りを任せてフローラは早朝まで眠るつもりだ。

 

 

「あっ、フローラは別だからな!ちゃんと交代してもらうからな」

「なんで!?わたくし新兵ですわ!!」

「巨人討伐数が三桁超える新兵が居てたまるか!」

「ライナーやクリスタと同期なんですから新兵扱いでしょ!?」

 

 

先輩であるナナバの一言を聴いたフローラ・エリクシアは納得できなかった。

おそらくこの場に居る人の中で一番身体を酷使したはずである。

なのに見張り任務までさせられるなんてたまったものじゃない!

必死に反論されるが本気にされず涙目になってしまった。

 

 

「あの…もし壁が破壊されてないなら巨人はどこから侵入してきたのでしょうか?」

「それは明日、考えればいい。新兵はゆっくり休んで疲れを取ってくれ」

「わたくしも疲れを取りたいので交代任務は偉大な先輩たちに任せたいですわ!」

 

 

午前4時に起床したフローラにとって睡眠時間は死活問題である。

クリスタとの会話を聞く限り、彼らは巨人の戦闘をそこまでやっていないと分かる。

だからこそ、自分は優先的に睡眠をとる権利があると思っている!

 

 

「できると思うの?」

「ふええ…」

「無垢でか弱い乙女を演じても、フローラの悪評は調査兵団に知れ渡ってるからな」

「分かりましたわ!でも3時間は先に眠らせてください!」

「ああ、いいだろう」

 

 

現実は非情である。

せめて睡眠時間を確保する為に先手を打った。

妥協し過ぎて損している事に気付かないフローラは先輩の許可でなんとか機嫌を持ち直した。

 

 

「おい、ところでフローラの方はどうだったんだ?色々走り回ったようだが…」

「色々ありましたが…お腹が減って死にそうですわ」

 

 

ライナーの質問に対してお腹を鳴らしながら返答したフローラ。

あまりの間抜けな状況に彼女を除く全員が笑ってしまった。

 

 

「奇遇だな、私もだ……この城の中に何か腹の足しになるものがあるといいんだが…」

 

 

顔を真っ赤にして珍しく乙女らしい仕草をしているフローラにユミルは助け舟を出した。

単純に食事の話題を出してくれた女に感謝しただけの事だ。

 

 

「休む前に情報交換をしよう。特にフローラは色々見てきたようだし、状況を聴かせてくれ」

「分かりました」

 

 

ナナバの意見に賛同したフローラは、アニの正体と女型の巨人と戦闘を行なった事を伏せた。

精神的に辛くなっている同期、特にミーナには聴かせる状況ではないと判断したからだ。

 

エレンを護送している時に馬車のトラブルが発生し、王都召集の件が遅れた事を伝達しに来た。

ところがエルミハ区を出て巨人と遭遇して討伐しながら突き進んだ。

そしてローゼの北部でミケ分隊長とサシャと再会。

彼らは安全地帯に行ったのを確認して東防衛線に参加して巨人を一匹残らず掃討した。

ついでに拝借した地図を持ってこの城に向かう道中で東班のミーナと合流してここに来た。

疲れているので簡潔に伝えたが、全員が聴き入っており、建前上は情報伝達が成功した。

 

 

「…そうか、ミケ分隊長が負傷したか」

「北班と合流して住民と避難したと聞いて安心したぞ」

「さすがに2桁の巨人じゃきつかったか」

「直属の上官が四肢が健在で生還しただけで嬉しいよ」

 

 

第一分隊の面々は、ミケ分隊長の情報を入手して久しぶりに明るい話題で精神的に安定した。

実際は、機密情報をフローラが抱えていると分かっているが、ここでは口に出さなかった。

さきほどの【交代のやり取り】は、預かった伝言を監視している新兵に聴かせない為であった。

しかし、予想外に疲れているようでフローラが反抗してきたのですぐに聴くのを諦めた。

 

 

「ところでコニー……お前の村はどうだった?」

「壊滅した…巨人に……踏みつぶされた後だった」

「そっか…そりゃあ……」

 

 

ユミルとコニーは犬猿の仲である。

いつも口の悪いユミルが仕掛けてコニーと喧嘩していた。

だが、さすがに生意気な坊主頭のドチビの心中を察して彼女は言葉が続かなかった。

喧嘩するほど仲が良いというが、こういう時になんて声をかけるべきか迷った。

 

 

「でも皆、うまく逃げたみたいで、それだけは良かったんだ」

「お前は小柄ですばしっこいからな、親御さんもそりゃあ速いだろうな…」

「ただ気になってるのは、俺の家に居た巨人だ」

 

 

ユミルとライナーとフローラは、コニーの表情から何か悩んでいるのに気付いた。

コニーは自分の顔が歪んでいるのに気付かずにそのまま話をつづけた。

 

 

「自力で動けねぇ身体で、何故か俺の家で寝てやがった…それに何だか母ちゃんに似てるんだ」

「コニー……まだ言ってるのかお前はー」

 

 

ライナーはコニーの戯言を止めようとした。

このままでは、コニーの故郷の住民が巨人になって辺りを蹂躙したと発言しそうだったからだ。

 

 

「ダハハハハ!お前の母ちゃん、巨人だったのか!じゃあなんでお前はチビなんだよ」

「…うるせぇな……馬鹿らしくなってきた」

「馬鹿が馬鹿だと自覚してないとか…」

「うるせえぇぇぇぇぇ!!クソ女もう寝ろ!!」

 

 

ユミルに慎重で弄られたコニーは大声で彼女を牽制した!

次、変な事を発言したら殴るつもりだった!

 

 

「そろそろわたくしたちも休みましょう」

「うん、そうだね。ゲルガーさんの仰った通り今は身体を休めなくちゃ」

「「さすがクリスタ!!」」

「「ああん!?」」

 

 

フローラの発言を肯定したクリスタの女神っぷりに感動したライナーとユミル。

そして互いに向き合ってそのままいがみ合う2人。

クリスタと結婚したい2人は、彼女と結婚する前に血痕になりそうな雰囲気になった。

 

 

「さて、おしゃべりはここまでにして君たちは休んでくれ」

「じゃあ、わたくしは寝ます!おやすみなさい」

 

 

上官であるナナバからの正式な休憩の許可が下りた瞬間、フローラはそのまま床の上で寝た。

トロスト区防衛戦の兵団本部でもそうだったが、巨人が襲撃してくるリスクがあるのに眠る女。

あまりにも、滑稽な姿であり図太くて精神的に最強な存在である。

あっという間に寝息を立てる彼女に呆れる一同。

フローラのおかげで精神的に落ち着いたナナバは、ゲルガーを連れて上階に登っていった。

 

 

-----

 

 

自由時間を得たユミルは、城内にある木箱を漁っていた。

何か腹の足しになる物を探していたが、情報を探る意図もあった。

壁内で使われている文字ではなく、壁外の代物だったからだ。

 

 

「…たく!この壁内で何をしてたんだか…」

 

 

ゲルガー先輩が酒瓶を見つけたがラベルの文字が読めなかったのに違和感があった。

そして調べてもらうと壁外の文字で書かれているのを確証した。

ついさきほどまで【壁外人類】が滞在した痕跡があった。

【悪魔の島】と呼ばれているパラディ島の奥地まで潜入するなど碌な奴じゃないだろう。

情報収集も兼ねて彼女は、残された物を物色していた。

 

 

「ユミル、何をしているんだ?」

「なんだよライナー…夜這いに来たのか?女の方に興味があるとは思わなかったが…」

「あぁ…お前も男の方に気があるとは思えないけどな」

「ふん、クリスタを巡るライバル同士、ここだけでも停戦といこうじゃねぇか」

 

 

ユミルは、背後に居るライナーを気にしながら引き続き木箱の中を物色した。

ちょうど、この箱は当たりのようで色々役に立ちそうな物がある。

 

 

「私はこうやって腹の足しそうな物を探してるのさ、手が空いてるなら手伝ってくれよ」

「ああ、そうだな」

「これが最後の晩餐になるかもな、クリスタの分を確保したら山分けして食べようぜ」

 

 

ライナーは、ユミルが壁内人類じゃない疑惑があって見に来ていた。

コニーは、巨人が母親そっくりと言っただけで巨人になったとは言っていない。

それにも拘らず、彼女は全力で巨人化を否定した。

まるでこの壁内人類が巨人になれると知っているかのように。

 

 

「コニーの村の件だが、わざとはぐらかしたよな?」

「そりゃあそうさ、コニーが狂っちまったらこっちまで調子が狂うからな」

「できれば、その調子で続けて欲しい。あいつが家族の事で余計な心配をしないように…」

「何言ってんだ…私はただ…おっ!」

 

 

ライナーの話を適当に聞き流したユミルは包装を解くと缶詰を見つけた。

まだ開封されておらず、コニーから短剣を借りれば食べられそうだった。

 

 

「こりゃあいい(にしん)だ!…味は好みじゃねぇが贅沢は言えんか……!」

 

 

ここでユミルは自分が失言したのに気付いた。

もちろん、同期たちだったら問題ないがライナーのさきほどの発言を聴いて違和感があった。

まるで奴が巨人に関しての秘密を隠そうとしているのではないかと…。

 

 

「他にもあるのか?見せてくれよ」

「…ほらよ」

「こりゃあ、缶詰か。良いのを拾ったな……!」

 

 

ユミルの失言に気付けなかったライナーは缶詰を見て喜んだ。

しかし、よく見ると【マーレ文字】で(にしん)と書かれていたのを見て気付いてしまった。

 

 

「……何だ、この文字は?俺には読めない…『にしん』って書いてあるのか?」

「よくこんな文字を読めたな…」

 

 

壁内人類が読める文字ではない事に!

ユミルも壁内に存在しないはずの缶詰を理解したばかりか名前を知ってるライナーに警戒した。

つまり、ここにいるのはパラディ島の外から来た存在であるという事だ。

ユミルとライナーは向き合って得体のしれない存在を警戒していた。

 

 

「全員起きろ!!屋上に来てくれ!!」

 

 

リーネ・ハウスドルフの尋常じゃない叫び声に内心で不安だった全員に緊張が走った。

最悪の事態が起こったのは間違いないだろう。

ユミルとライナーは警戒しつつも彼女の言葉を聴いて屋上へ目指した。

 

 

「全員すぐにだ!!」

 

 

声で起こされた104期生やナナバとゲルガーも階段を駆け上った。

そんな緊急事態に1人だけ熟睡している奴が居る。

本日、過労死しそうなほど酷使されたフローラ・エリクシアである。

『起こさないで!死ぬほど疲れているの!』と言わんばかりの熟睡している。

 

 

「起きて!フローラ!」

 

 

温もりを求めてフローラの横で寝ていたミーナは必死に親友を起こす為に身体を揺すっていた。

それでも起きる気がしないので、どうにか起こそうとした。

 

 

『どうしよう!?このままじゃ…』

 

 

下手に蹴ったり殴ったりすると怒ってしまう。

親友を嫌われるのは嫌だけどこのまま寝かしておくわけにはいかない。

訓練兵団の中で45位の成績だった女は必死に状況を打開できる行動を考えた。

そして昔読んだ本に『王子様が寝ているヒロインにキスすると目覚めた』童話を思い出した。

 

 

『緊急事態だからいいよね…』

 

 

割り切ったミーナはフローラの唇に接吻した。

そしてすぐに唇を放した瞬間、フローラは目覚めた!

寝ていたら何かされそうな感じがしたが眠かったので無視をした。

しかし、負の感情が聴こえてきたので慌てて目覚めた!

 

 

「ミーナ、何かしたの?」

「フローラを起こそうと思って色々やったの」

「まあ、特にひどい事をされていないみたいだし、気にしないわ」

「ありがとう」

 

 

地味にファーストキスを親友にしてしまった。

それどころか親友のファーストキスを奪ってしまった。

その事実に気付いた時、ミーナはもっと良いタイミングでやるべきだと後悔する事となる。

人生で最初で最後のファーストキスがあっさりやってしまったのに後悔するしかなかった。

意中の人に接吻するなら甘いムードでやりたいというのが乙女心である!

それは置いておいて目的であるフローラを起こす事に成功して満足したミーナ。

 

 

「リーネさんが全員、屋上に来るように言ってたの!」

「あ、ああ…うん…そうね、こんなに巨人に囲まれているもの…しょうがないわ」

「…本当なの?」

「入口付近に3体、この城を囲むように13体、少し離れた場所に18体…ね」

 

 

フローラはそこら中から聴こえる呻き声から巨人に囲まれたのを察した。

数は30体ほど、遠くに別の巨人の群れがおり、寝不足だとか抵抗する状況じゃなかった。

 

 

「何で数が分かるの?」

「それはまた今度ね、早く屋上に行くわよ!」

 

 

フローラは速やかに鞘と立体機動装置を装備して屋上に向かって階段を駆け上った。

ミーナは、頼れる親友がどんどん遠い場所に行くような気がして呆然としていた。

それでも置いて行かれない様にすぐに彼女を追いかけた。

 

 

-----

 

 

「月明かりが出てきて気が付いたら…」

「最悪だね…」

 

 

リーネの説明を聴いたナナバは浮かない顔で地面を見下ろした。

そこには巨人がこちらを包囲するように集合してきた。

屋上の焚火に反応したのかは分からないが、疑問が1つあった。

 

 

「何でだよ!日没からかなり時間が経ってるのに…何で動いてるんだ!?」

 

 

ゲルガーの言葉に第一分隊とフローラはその疑問を抱いていた。

新兵である同期は、まだ知らないが巨人は夜間になると活動が鈍くなる。

全く動かないという事は無く、過去では夜間に罪人を置き去りにしたら喰われるくらいだった。

だからこそ、真っ暗な夜道を怯えながら西班と南班は移動していた。

しかし、ここまで活発的に巨人が動く事なんてありえなかった。

 

 

「おい…待て待て!!ふざけんな!!塔を登って来るんじゃねええ!!」

 

 

ゲルガーが見下ろすと、巨人が塔を登ろうとしている様子を目撃してしまった。

厄介な事に巨大樹の幹と比べると登り易いようで、塔に登る事に成功していた。

もちろん、それを見て彼は激高するしかできなかった。

 

 

「新兵は下がっているんだよ!」

 

 

ナナバは怯えている新兵たちを中央部に集めた。

最優先で護らないといけない存在を確認した。

新兵たちは無防備であり全ての責任は監視していた自分達にある。

だからこそ未来の調査兵団を担う者たちを死んでも守るつもりだった。

 

 

「けど、フローラには戦ってもらおう…ここからは立体機動装置の出番だ」

 

 

しかし、新兵の癖に人類最強の女であるフローラを遊ばせるわけにはいかなかった。

むしろ、戦ってもらわないといけないからこそ名指しで指名した。

 

フローラはただ頷く事しかできなかった。

拒否するには異常事態過ぎてどうしようもなかった。

ストヘス区の女型の巨人戦から1日すら経過していないのに連戦である。

もし公式記録として記されても信じる者が居ないほど激務だった。

 

 

『誰よ…こんなに肉体と精神を酷使する筋書きを書いた神様は…』

 

 

第一分隊の4名は鞘からブレードを取り出して構えた。

涙目になったフローラも鞘からブレードを構えて全員を見た。

武装した兵士5名は頷いて、先に先輩4名がお手本を見せる様に塔の屋上から飛び下りた!

 

 

「フローラ!行きます!!」

 

 

フローラも遅れて唖然とする同期に見送られながら塔から飛び降りた。

この時、老け顔で有名なダズ・ウィズリーは睡魔に負けて寝た。

直前まで『フローラは寝ている』という予想は当たっていた。

しかし、さすがに夜間に彼女が巨人と戦闘するなど思いつくはずもなかった。

 

 

「知ってたわ…」

 

 

フローラが塔から飛び降りると、さっそく先輩たちが巨人と交戦していた。

それを見て彼女は覚悟を決めて立体機動で舞って掴み掛かろうとした巨人のうなじを削いだ。

こうして本日、壁内人類史上初の夜間防衛戦が始まろうとしていた…!

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。