進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
「フローラ!ミカサがガス切れで落ちた!!」
「わたくしより強いミカサがあの程度で死なないわよ!今はただ、コニーとアルミンを信じましょう!」
本当はフローラが真っ先に救援に行きたかったが同期たちを導いてるので身動きが取れなかった
とりあえず、コニーとアルミンに任せないといけない歯痒さに唇を噛み締めた。
「二本のボンベを渡しに行っていい?」
「いえ、わたくしが使うわ、ミーナ最後まで離さずに居てありがとうね」
「でもミカサが…」
「分かってるわよ。でもこっちもガスの残量がまずいの。二人同時に落ちるわけにはいかないわ」
泣きそうなミーナに微笑みながら受け取った最後のガスボンベの装填をした。
これで最後、ブレード4本も彼女に元から装填していたものを使っている。
あとは同期たちが兵団本部の建物に飛び込んでなんとかしてもらうしかない。
「ジャン、囮にして見捨てた時の怒りを鎮める方法を思いついたわ!」
「なんだよフローラ、まだ細かい事を気にしてるのか」
「貴方が先陣を切って窓ガラスから飛び込みなさい」
「おい!何を言ってるんだ!!あの大群に突っ込めっていうのか!?」
真顔でとんでもない事を言い出したフローラにジャンは驚愕した。
周りに居る同期たちも顔が真っ青だ。
目と鼻の先に兵団本部の建物が見えるが巨人だらけでとても突破できそうにない。
「当然でしょ?こういうのは立体起動が一番得意な人物がお手本を見せるべきよ!」
「つまりおまえは、大っ嫌いな俺に自殺しろって事か?」
「そう思ってたら、無言でやってるわよ!ささっと行きなさい!」
巨人の大群か、自分に殺意を向けている巨人のキルスコアが二桁の化け物女。
どっちが怖いか明白だ。
「分かった!やればいいだろう!やれば!!」
「ようやく男らしくなったわね!ダズ、ミーナはジャンの背中に続いて!合図はわたくしが出す!」
「お前、本当に悪魔だな」
「良心なんてとっくの昔に巨人に喰わせたわよ!みんな準備は良い!?」
この作戦で、大勢死ぬだろう。
だが、背後から巨人の群れが迫ってきている以上、腹を括るしかなかった。
ここにいる全員は、犠牲など覚悟の上だ。
できない奴は、既に置いてきたのだから。
遥か遠くから突入する予定だったが、フローラの奮闘で立体起動であれば3分足らずに到達できるまで来た。
だからこそ、彼女の作戦にみんなが命を賭けたのだ。
「信煙弾!撃て!!」
あらかじめ同期に掻き集めさせた駐屯兵団の兵士の死体から拝借した信煙弾。
フローラは、地上と建物の高所に登っている巨人に向けて撃つように命令した。
勝負は一瞬、煙幕で一時的に視界を奪って建物に突入する作戦。
これは、自分たちの視界をも奪う諸刃の剣である。
「総員突入!生きて中で逢いましょう!!」
「「「「うおおおおお!!」」」」
比較的、すぐに煙で隠れないであろう5、6階の窓に突入する為に全員飛び込んでいった。
「うおっ!」
巨人の隙間を合間縫って建物へと向かっていく。
決死作戦の指揮を執るフローラは、直後に一体の巨人を討伐したが、いかんせん数が多すぎる。
巨人にビビってコントロールを誤って民家に激突した同期も出た。
それでも生き残るために訓練兵たちは無我夢中で窓に向かっていく。
「うっ!このっ!」
ジャンは左脚を巨人に掴まれたが指を斬り落とすことでなんとか脱出した。
しかし、目の前に大口を開けて待ち構えた10m級巨人が待ち構えていた。
そんな巨人を、フローラは大量のガスとブレード二本を犠牲に首を吹っ飛ばした。
「行きなさい!」
「ああ!」
ジャンの目の前には、最後の難関である窓ガラスが待ち構えていた。
----
メルダ・プリントは、訓練兵 11班に所属している。
いわゆる補給班であり、彼女は実働部隊にガスや武器の補給を担当していた。
ところが、上官である駐屯兵団の兵士たちが全員戦死を遂げて、補給所に4m級の巨人の侵入を許してしまった。
偉大な先輩たちの壮絶な死に様で全員が戦意喪失をしてテーブルをバリケードにして立て籠っている。
「ごふっ!!」
「きゃああああ!!」
銃声と共に悲鳴が上がった。
これで3件目である。
どうせ苦しんで喰われるくらいなら覚悟を決めて自決した方が楽に死ねる空気が漂っていた。
「ねえどうしよう!?撤退の鐘が鳴ったのに逃げられないよ!!」
「知るか!とにかくここで籠城して、救援に来るのを待つだけだ!」
「待つって!?いつまで待てばいいの!?」
「うるせえ!無駄口叩く暇があったらバリケードを補強しろ!!」
メルダが必死に人に頼るが誰もがまともに対応してくれなかった。
出撃していない分、50mの壁を登れるが包囲している巨人を突破できないのだ。
既にいくつか石壁を巨人に穴を空けられ、手を入れて探るようにしている。
もはや、壁が崩壊するのも時間の問題であった。
「誰か【救援の信煙弾】を打ち上げたか!?」
「もうこんな状況でできると思ってるのか!」
「窓を見ろ!なんか煙が上がっているぞ!?」
「ホントだ!救援部隊が近いかもしれない」
これで助かった。
補給班全員、救援部隊がいつ来ても良いように待機した。
「よーし、いつでもこい」
「これであたしたち助かるのね!」
「ああ!早まって死んだアイツらには悪いがオレたちは旨い飯を喰わせてもらうぞ」
メルダ・プリントは既に頼もしい救援部隊の隊員たちに助けられる光景を想像していた。
しかし、現実はいつでも非情である。
-----
最後の難関である窓ガラスを蹴破って転がり込むジャン・キルシュタイン。
すぐあとにミーナ・カロライナも突入に成功した。
それをきっかけに次々と窓ガラスを破って突入してくる訓練兵たち。
中には、ガラスを破れずに巨人に掴まって喰われた不運な新兵。
破片が片目に刺さって悲鳴をあげて転げ回っている奴も居た。
「くっ!…何人辿り着いたんだ!?」
「はぁはぁ…予想以上に多いよ。キース教官の教育の賜物だね…」
ミーナの言う通りジャンが見渡せば、成績上位陣はほぼ全員揃っていた。
更にクリスタ、ユミル、マルコなど比較的、立体起動が苦手の連中も突入に成功したのを確認した。
フローラの決死作戦で何名か犠牲者や負傷者が出たが、巨人一人に30人は死ぬらしいので大成功といえる。
「うおおおお!やったぞ!ようやく帰れるんだ!」
「あああ!良く来てくれました!!」
「きゃああ!勇者様!!」
突入してきた兵士たちに歓喜する無責任な補給班の腰抜けたち。
一方、困惑する肩で息をしている実働部隊の残存兵たち。
「はあっ!?」
「えっ!?」
命ガラガラで突入してきたのに、籠城してた奴らは楽観的で歓迎会を開くテンションである。
いつも悪態をつくアニとユミルですら何が起こったか判断できずにフリーズしてしまうほどであった。
「おまえら補給班だよな!?」
「…ああ!そうだ!」
ジャンは思わず返答した腰抜け野郎を殴り倒した。
マルコが慌てて羽交い絞めをするが彼の怒りが全然収まらない!
「おまえらが任務を放棄したせいで何人死んだと思ってんだ!!」
「しょうがないでしょ!補給所に巨人が侵入してきたんですもの!」
「お前らだって兵士だろうが!なんで戦わなかったんだ!!」
「先輩たちですら勝てないのにあたしたちにどうしろって言うのよ!!」
メルダが反論するがその声を打ち消すほどのジャンの怒声で泣いた。
更に彼の怒りを補給班にぶつけようとした瞬間。
大きな衝撃と共に壁に穴が開き巨人二体が訓練兵たちを覗いていた。
「中に入れ!早く!!」
「急げ!!」
誰もが安全地帯を目指して中に進んでいく。
「ああああああああああ!!!」
ただ一人、メルダは別の壁の穴に向かっていった。
とにかくこの場の居たくなかったのだ。
こんな所に居られるか!あたしは壁の上を登る!
そう決意したのも空しく偶然、巨人が穴に手を突っ込んだせいで鷲掴みにされてしまった。
「助けてええええ!助けてえええ!」
穴から引き摺り出された彼女は、絶望した。
しかし視線を下ろすと窓枠の付近でワイヤーが複雑に絡まった間抜け野郎を助けようとしているフローラが居た。
「フローラあああ!あたしよ!メルダ!!!とにかく助けて!!」
地獄に垂らされた蜘蛛の糸を掴むように恐怖を振り払って大声で彼女に助けを求めた。
しかし、彼女はこちらを軽く見た後、ワイヤーを取り外す作業を続行した。
「なんで助けてくれないの!ダズなんて屑ほっとけばいいじゃないい!!」
憤怒に満ちた彼女の頭は14m級の巨人が美味しく頂いた。
誰にも貢献しなかった彼女であったが、最後は巨人の食事として貢献できて幸せであろう。
「おい、名指しされていたぞ。いいのか?」
「クリスタを守るために身体を張ったダズと比べればどうでもいいわ」
「とにかく早く助けてくれぇ!!」
「もう面倒だからワイヤーを切ってもいいかしら?」
「やめてくれえええ!!」
「冗談よ!ほら外れたわ」
生きたままワイヤーをありったけ身体に巻き付けて宙ぶらりんになっているダズを見たフローラ。
同じようにワイヤーで絡まって悲惨に死んだデント・アクアに比較しても酷い有様だった。
別の意味で彼には才能があるんじゃないかなと感じていたほどだ。
少なくともクリスタに襲い掛かった巨人のうなじを斬った彼を見殺しにはできなかった。
「来世は、ブランコになるなら先に仰ってくれればいいのに…」
「痛たたたぁ…もう少しうまく救出して欲しかったぞぉ」
「だからワイヤーを切れば良い話じゃないですの」
「そしたら壁上に登れんだろうがぁ!」
「はいはい、生き残っただけ奇跡なんだから生の実感でも噛み締めて…なんかあったの?」
突入組では、最後になった彼女たちが窓から入ると呆然とした同期たちが居た。
「巨人を襲撃する奇行種が出現したんだ!アルミンの作戦でここに誘導して巨人共にぶつけてやったんだ」
「とにかくあいつを利用すれば、ここから逃げられるぞ!!」
「良く分からないけど、みんなが生還できるなら何でも利用するべきね」
ミカサ達の姿を見た瞬間、安心して眠くなってきてしまった。
立体起動で身体を酷使し過ぎたのだろう。
巨人を襲撃する奇行種が気になったがフローラからすれば、休息が重要だった。
「わたくしは、少し休ませてもらいますわ。脱出する時に起こしてくださいね?」
「ああ!良く頑張った!ゆっくり休め!」
とりあえず、フローラは補給班が震えている場所にあったソファーに腰掛けてそのまま瞼を閉じた。
「あいつ、戦場で寝るとか良い度胸してるな!」
「僕には真似できないよ…」
「私らが見てないところで頑張ったみたいだし、ああなるわ。というか私も眠い!」
「アニ!お前は駄目だ!次の作戦の重要な戦力だからな!」
「チッ!」
同じ班員であるライナーたちは寝息を立ててる彼女に毛布をかけてあげた。
「ちょっと待て!!あの女と俺たちと扱いが全然違うじゃないか!!」
「「「「「ああん?」」」」」
「申し訳ございませんでしたー」
補給班の1人が扱いに異論を唱えると、クリスタとマルコを除いた成績上位7人を筆頭する突入組が指を鳴らした。
死線を越えてきた彼らからすれば、おまえらだったら100回は死んでる激務だったあいつと一緒にするなと!
もちろん、立て籠っていた補給班には知る由もなかった。
ただ、突入してきた他の訓練兵と違って青年男性を背負って歩いていた時点で気付くべきであった。
とはいえ、彼らも貴重な戦力であり、突入組は威嚇だけで終わらせた。
「本当に鉄砲でいいのか?」
「うん、目くらましになればなんでもいいよ」
アルミンたちは補給室に入り込んだ巨人を掃討する気である。
もちろん、ここで失敗すれば完全に水の泡であるが彼らは何も恐れてなかった。
先ほどの作戦は、マルコが巨人に目くらましで妨害するのを提案したのがきっかけだった。
それを聴いてアルミンは、主戦場だったので信煙弾がいくらでも転がっているのを見つけて作戦を立案した。
その話を聴いたフローラがアルミンの案に乗って責任者を名乗っていたに過ぎない。
無謀な作戦だったが、自信満々の彼女の巧みな話術で皆の意志を結束させていたからできたのだ。
「でも、僕たちの作戦にみんなが乗ってくれるのかな?」
「これで行くしかないよ!それにこの案以上に思い浮かべないしね」
ただ、今回は皆をまとめあげるリーダーが居ない。
ライナーかジャンかミカサが適任であったが、彼らはリーダーになるのを嫌がった。
さっきの作戦と違って、ぶっ飛んだ奴が指揮官じゃなくてもアルミンたちだけで皆を説得できると。
「もう一回説明するよ!このリフトで囮部隊が補給室まで降りて行って巨人たちを充分引き寄せてから発砲するんだ!」
「四方八方発砲した事で一時的に視覚を奪った巨人を天井に待機していた討伐班が急所を狙って一撃で倒す!」
「たった1回のチャンスで全員の命を賭けることになるから気を引き締めてね!」
囮部隊は、荷物運搬に使うリフトに乗って、囮かつ目潰し要員でありアルミンたちが乗る事になっている。
討伐班は、立体起動装置を付けずに落下して、囮で近づいてきた巨人のうなじを斬ることになる。
もちろん、運動神経が良い人を選んだが全員が一撃で仕留めないと作戦が失敗に終わるのだ。
「もし、失敗したら?」
「たくさんの犠牲を払ってフローラを叩き起こす」
「それだとフローラが俺たちの敵にみたいに聴こえるな」
ライナーの軽口に突入組が大笑いをした。
みんな彼女の話題になると笑顔になる。
それだけ彼女の影響力は凄く、この地獄の中で精神的に支えになってくれる。
だからこそ、兵士である自分たちだけでやる必要があるのだ。
「いいよ!降ろして!」
リフトはゆっくりと地獄の釜へと降下していく。
幸いにも偵察した時と同じ数であった。
「ひいい…」
「まだだよ…まだ撃たないで!」
「もう少し…もっとだ」
「よーし!今だ!撃て!!」
充分巨人を惹きつけたと判断しリフトから散弾が巨人の顔に破裂した。
「今だ!!」
ライナーたち討伐班が天井から降下して巨人共のうなじを斬った。
だが、戦闘経験が少ないサシャがうなじを斬り損なった。
「ごめんなさいいいいい!」
一撃で全ての巨人を討伐する作戦は失敗した。
しかし、ミカサとアニのフォローが間に合って最後の巨人を討伐できた。
「ごめんなさい!!」
「謝るならあとにしろ!今はガスを補給するんだ」
サシャが罪悪感で胃が痛くなっているが、結果よければ全てよし!
誰もサシャのことなど責めようとしなかった。
その光景を上階から見下ろして勝利を確認したミーナはフローラを起こしに行った。
「起きてフローラ、ガスの奪還作戦は成功したよ」
「うーん、寝た気がしないんだけど…もう少しだけ寝ても良いかしら?」
「ダメ!」
優しく起こされたフローラは手鏡で最低限の手入れをしてすぐに皆の様子を見に行った。
そこには、両腕を捥がれた奇行種に群がっている巨人の光景を見ている同期たちが居た。
「よくもまあ、20体以上巨人を葬ったものね」
「お前も似たような事してるんだが?」
「わたくしが同時に相手にできる巨人は三体までよ?」
「やっぱこいつ、頭エレン娘だ。常人じゃ複数人で一体が限界だっつの!」
コニーの呆れた視線を無視をし、フローラは巨人を嚙み殺す奇行種を眺める。
エレンだったら、あの巨人はどうするのか。
こいつも駆逐するのか。
それとも利用するだけ利用して最後に駆逐するのか。
そう考えているうちに奇行種が限界だったのか倒れ込んだ。
うなじから何かが見えた。
死んだはずのエレンの上半身が奇行種のうなじから生えていたのだ。
「ちょ!ちょっとミカサ!?」
奇行種の肉体はうなじが斬られたように蒸発していって五体満足のエレンがそこにいた。
フローラの制止を振り切って、ミカサは彼に駆け寄って抱き寄せて泣いた。
その光景を駐屯兵団の兵士が目撃した。
明らかに異常な信煙弾の撃ち方で、慌てた上層部が増援部隊を送り込んだのだ。