進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
巨人発見から12時間後、伝令のトーマはエルヴィン団長と合流、状況説明をした。
「ウォール・ローゼに複数の巨人が出現した」という衝撃的な情報は一同を驚愕させた。
「エルヴィン、どうする?」
「そうだな、まず戦力を掻き集めないといけないな」
「それは良いが、巨人は待ってくれんぞ?」
「第四分隊だけでもエルミハ区に送るとするか」
リヴァイ兵長と意見を交わしたエルヴィン団長は、ストヘス区に居る部隊を2つに分けた。
ハンジ分隊長が率いる第四分隊と自身が率いる部隊だ。
まず第四分隊はウォール・シーナ南部にあるエルミハ区に向けて出撃させた。
それと同時刻、エルヴィンは伝令を走らせて駐屯兵や憲兵を掻き集めさせた。
時間が無い以上、王政や総統局を無視をして独断にローゼ奪還用の戦力を用意するつもりだ。
「一体、どうすればいいのでしょうか。いきなりウォール・ローゼを突破されるなんて…」
「起きてしまった以上、仕方がねぇ…問題はこれからどうするのかだ…!」
荷台に居るアルミンはウォール・ローゼに巨人が出現したという一報を聴いて俯いて発言した。
無理もないだろう。
トロスト区奪還作戦で命を落とした兵士たちの犠牲が水の泡になってしまったからだ。
リヴァイ兵士長は、新兵たちが落ち込んだ様子を見て何とも言えなかった。
「大丈夫よアルミン!私達が居るわ!」
「そうだとも!この俺様が居れば兵長が動く必要もなく巨人を駆逐できっ!?」
「いい加減、馬に乗ってる時は舌を噛まない様に黙ってなさいよ」
「うふぁいへほはぁ!」
勇気づけようとペトラに続いてオルオが発言するが、馬の振動で舌を噛んだ。
オルオの舌は、巨人の部位と噂されるほど再生能力が高いとされる。
それだけ噛み続ければ毎日のノルマになりそうだが、実力は本物なので馬鹿にされなかった。
「エレン、大丈夫?」
「大丈夫だミカサ!ようやく痺れが収まってきた所だ」
「まだ巨人化の後遺症が残ってる…もう少し大人しくしてて」
「分かった…」
ミカサに心配されたエレンは手足を動かして元気になったのをアピールした。
しかし、彼女はまだ大切な人が絶好調じゃないと分かっているので軽く抱き締めて座らせた。
ここにフローラが居たら『ミカサの胸が柔らかい』という彼の負の感情を感じ取った事だろう。
思春期のエレンは幼馴染の胸と香りを堪能しながら必死に感情を爆発させないように耐えていた。
「ところでハンジ、お前がただの石ころで遊ぶ暗い趣味なんてあったか?」
「あぁ、そうだよこれはただの石じゃない」
「ほう?」
暗い話題で落ち込む空間を打開するべくリヴァイは石を弄るハンジに話を振った。
もちろん、巨人関係なのは知っているが部外者が説明するわけにもいかず、ハンジに頼った。
「これは女型の巨人が生み出した硬い皮膚の破片だ」
「…えっ!?消えてないんですか!?」
「そうだよアルミン!能力者が巨人化を解いてもこの通り蒸発してないんだ!」
ハンジが注目していたのは、女型の巨人が生み出した硬質化の爪の元になっていた物質だ。
本人の意図では無かったが結合が解除されて散弾となってストヘス区の街を破壊した結晶体。
たった2回、欠片を街に飛ばしただけで街が半壊して犠牲者が2800名以上発生した原因である。
まるで水晶のような物質が大勢の命を奪ってしまった。
それはともかくハンジは、巨人から切り離されても存在する結晶に目を付けた。
「結晶が残るのは知ってました」
「ミカサ!?」
「カラネス区を襲撃してきた変異種が伸ばした爪も同様に残ってました」
「でも私たちが現場検証した時には何も無かったよ!?」
「王都から来た駐屯兵団の部隊が全て回収しました」
ミカサ・アッカーマンは、女型の巨人より厄介な変異種の事を思い出していた。
知性がない巨人なのに両手の爪を巨体より伸ばして大暴れしていた。
討伐されてもなお、その爪は残されており、王都から来た駐屯兵団が回収していった。
ハンジは、住民の安否確認に気を取られたせいでここでようやく事実に気付いた。
「つまり王都の連中が何か隠そうとしているわけか」
「ああもう!何で先に言っちゃうんだよ!?」
美味しい所をリヴァイに奪われたハンジは大げさに驚いて彼の双肩を揺さぶった。
鬱陶しそうに突き出した兵長には勝てず、しょげた顔でハンジは何かを呟いていた。
「話はそれで終わりか?」
「違うよ!この結晶を利用して…」
「穴を塞ぐとか?」
アルミンは、巨人が生み出した結晶で壁の穴を塞ぐ事を思いついた。
また美味しい所を彼に奪われてしまってハンジは油まみれの頭を掻くしかできなかった。
「もしエレンがこの結晶で穴を塞げれば人類の未来は明るいですよ!」
「オレが!?」
「お前しか巨人化できる人間が居ないじゃねぇか」
「兵長、そうでした…」
エレンは女型の巨人が使用した硬質化の物質で穴を塞ぐイメージをした。
最近まで巨人化できなかった…いや、今日もすぐに巨人化できなかった。
なのに、自分が今すぐにでも穴を塞ぐ為にこの結晶を生み出す事ができるのか。
彼は必死に考えたが答えは出なかった。
「エレン、迷ってるだろう?本当にできるかと…」
「兵長、さすがです…」
「できそうかどうかじゃねぇだろう…やれ!やるしかないだろう!」
「やってみます!」
「違う!必ず成功させるんだ!こんな状況だからこそ文字通り必死にやれ!」
「はい!!オレが必ず穴を塞ぎます!!」
兵長に檄を飛ばされてエレンは力強く頷いた。
時代は変化しつつある。
今までだったら巨人から逃げ惑うしかできなかった人類は反撃できるようになった。
今度は、自分たちが巨人から全てを奪う番だ!
失われたウォール・マリアはおろか、外の世界も全て取り戻すと誓った!
「分隊長!もうじきエルミハ区に着きます!」
「モブリットありがとう!そこに着いたら30分ほど休憩してウォール・ローゼに行くぞ」
調査兵団第四分隊は、ストヘス区から出発してエルミハ区に辿り着いた。
そのまま南下したい所だが…さすがに休憩しないと集中力が持たなかった。
そこでハンジはエルミハ区で休息を取って気力を回復させる事にした。
「兵長は引き続き同行なされるのですか?」
「いや、俺はこの街に待機する。…ここを陥落させるわけにはいかねぇしな」
「そうですか…」
リヴァイ兵士長にペトラ先輩、オルオ先輩がメンバーから抜けると知ってエレンは落ち込んだ。
104期の同期たちと同じくらいに安心できる班だったからこそ、彼は悲しい顔をした。
「おい小僧!しけた面してるんじゃねぇ!穴を塞いで笑顔で凱旋するまで入らせないからな!」
「オルオ、自分ができない事を他人に押し付けないでよ!」
「ふん、甘いなペトラ!エレンはこうやって背中を押してあげないと成長しないタイプだぞ!」
オルオは、エレンが誰にも束縛されない意志があるが思考は凡人の為、迷うと知っていた。
その点フローラは、頭進撃でありどんなハードルも潜り抜けるか乗り越えていく!
かつてエレンを含めたリヴァイ班が単独のフローラをライバル視していた。
それは、驚異的に成長し続ける頭進撃に対抗するにはチームワークが重要だったからだ。
だから迷っている新兵に道を示して背中を押して、達成したら素直に褒めるつもりである。
「俺からのアドバイスだ…ミカサ、自分を抑制しろ!もうしくじるなよ!」
「はい、もちろんです!」
リヴァイ兵士長はオルオに感化されて、ミカサに忠告を告げた。
ミカサは巨大樹の森で女型の巨人を追跡した時に感情を剥き出しにて飛び掛かった。
その時に兵長が庇ってくれなかったら大怪我をしていただろう。
彼の足の怪我はだいぶ治ったようではあるが、自分の責任である以上、彼女は忠告を受け入れた。
兵長が居ない分、自分がエレンを守り人類の未来に導くために!
一方、ミカサとリヴァイ兵長の会話に疎外感を覚えるエレンは、聞き耳を立てて情報収集をした。
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ミーナ・カロライナは塔の上で震えているしかできなかった。
彼女だけではなくフローラ以外の104期調査兵はただ巨人が全滅するのを祈るしかない。
「ゆ、ユミル!私たちにできる事って何かありそう?」
「そうだな、巨人の居場所を教えてあげればいいんじゃねぇの」
「そうだよね…」
戦闘を開始して僅か3分で8体の巨人が討伐された。
蒸気を噴出した巨人の死骸が転がっており月光で照らされている事もあり幻想的な光景だった。
「この世界は残酷だ」というミカサの口癖を具現化するような地獄絵図。
満月の光は遠くまで見通せる明るさを提供しているが本を読める明るさではない。
それにも拘わらず調査兵の5名は巨人の屍を次々に増やしていく。
「すごいな…」
「どうしたコニー?」
「だってよライナー、あれだけ逃げ惑うしかできなかった巨人が瞬殺されていくんだぞ…」
「そうだな、俺たちも兵士としていつかあの領域に達するといいんだが…」
「生き残れば、いくらでも強くなるさ!破壊されたラガコ村の分まで強くなってみせる!」
コニーは城壁に身を隠しながらも定期的に下を見下ろしていた。
時折、巨人が体当たりしてくる以外は特に不安になる要素はない。
あえて言えば先輩たちやフローラの刃やガスが持つかくらいか。
ライナーはこの光景を見て思った。
絶対に立派な兵士になってみせると!
それをベルトルトが知ったら、兵士じゃなくて戦士でしょ…とツッコミを入れるはずだ。
しかし内心を読んで気遣いができるならアニに失望されるわけがなかった。
冷静に見えるベルトルトも混乱しており、巨人と視線を合ってしまって右手を噛もうとしていた。
「何やってんだベルトルト!?」
「え、ええっ!?ああ、噛んで痛みで正気を保とうと思って…」
「良く分からねぇよ。ホント、しっかりしてくれよな…」
コニーのツッコミで自分が無意識に馬鹿な事をやらかそうとして居るのに気付いたベルトルト。
このままだと自分以外を吹っ飛ばすところだった。
むしろ、そうすれば胃痛の種は無くなって平和になるかもしれない。
一瞬でもそう思った彼は、さすがに正気の沙汰ではないと冷静になった。
「さすがは調査兵団!他の兵士とはわけが違うってか」
「あれは……!!ユミル!後ろから巨人の群れが近づいてきたよ!?」
「チッ!おいフローラ…は行っちゃったな…」
惚れ惚れする戦いっぷりに世界でここが一番安全ではないかと錯覚するほど巨人が討伐される。
ユミルは感嘆と眺めていたが、愛するクリスタの叫び声に危険が迫っているのが分かった。
近くに居るフローラに呼び掛けようとしたが、既に新手が出現した場所に向かってしまった。
「ああ!!多すぎるわよ!?何でここまで集まって来てるの!?」
フローラは愚痴をぶつけるように回転斬りで巨人のうなじを削いだ!
たまたま近くに他の巨人も居たので同時にうなじを削いでしまい、2体同時討伐に成功した。
それでも油断せず倒れ込む死骸にアンカーを突き刺して滑空し5m級の巨人を狙った。
しかし、当の巨人に見つかってしまい跳んできたのでアンカーを外して落下し、攻撃を回避。
身体を捻って倒れ込んだ巨人のうなじにアンカーを撃ち込んで巻き取ってうなじを削いだ!
『まだ60体以上居るの…!?』
戦闘を開始した時点でフローラが身に着けている『強化刀身・2型』は12本。
ナナバやゲルガーと同じ『強化鞘・2型』を身に着けているのでそこまで刃が収納されている。
更に東防衛線から補給担当に頭を下げて余分に刃6本とガスボンベを2本持ってきていた。
それでも圧倒的に装備が足りなかった。
巨人は20体以上討伐されてフローラが半数近く討伐しても新手が増えていく。
同僚4人の装備を全てもらっても倒しきれないほどの数だった。
「フローラ!頑張って!」
ミーナの応援を受けて唇を噛んで新手の巨人の掴み攻撃を回避して首にアンカーを突き刺した。
死角から飛んできたので巨人はフローラを発見する事ができず、首を抉られて倒れ込んだ。
この際、2本のブレードの根元が折れてしまった。
これで残りの刃は6本、ガスボンベは半分ほどの残量しか残ってなかった。
それでもフローラは絶望することは無く塔に登ろうとした巨人に向かってアンカーを突き刺した。
「クソッ!休む暇もねぇってのか!」
ゲルガーは力強く巨人のうなじを削ぐ癖があるせいで悉く刃を消費にした。
フローラと違って旧式の刃である『強化刀身・1型』のせいで折れやすかったのもある。
「捕まるかよ!!この野郎!!」
ゲルガーを掴み掛かろうとした巨人の指を切断した。
そして巨人が残った片手で掴もうとした瞬間、死角に居たナナバにうなじを削がれた。
機能を停止された巨体が小さめの巨人を複数巻き添えにして倒れ込んだ。
「ゲルガー、今のは危なかったろ…」
「これが俺のやり方だ!ちゃんと討伐補佐にカウントしておけよ」
「たくましいね…覚えておきたいが何体討伐したか忘れたよ…」
「俺達5名で何体、巨人を狩ったんだろうな」
ナナバはゲルガーを援護したが、もはや疲労で身体をうまく動かせなかった。
いくら訓練された兵士とはいえ、巨人と交戦し続けるのは想定外だ。
リヴァイ兵士長やフローラ以外は、そこまで長期間に渡って巨人を討伐することは無い。
「てい!!」
倒れ込んだ巨人の下敷きになった巨人のうなじを削いだリーネ。
これで安心したと思いきや、絶望的な光景を目撃してしまった。
「クソ、遅かった!扉が壊された!」
「どうする!?…ああ、分かった!ここは任せておけ!」
リーネはヘニングに目配せして入り口を警戒してもらい、塔のアンカーを突き刺して登った。
塔の屋上に登ると半ば他人事になっている新兵たちが居た。
どう発言すればいいか、迷ったが彼女はストレートに巨人の脅威を伝えた。
「巨人が塔に入って来てる!急いで中でバリケードを作って防いで!」
「嘘だろう!?」
「まずい…!」
「もし防げなかったら屋上に戻ってきて!それでも助けられるか分からないけど…」
リーネは付近に居る巨人の個数を把握していない。
むしろ、ミケ分隊長とフローラ以外で、見えてない巨人の分まで数を把握できるはずがない。
そしてフローラは巨人がまだ50体以上居るという絶望的な状況を黙っていた。
嘘も方便とラガコ村の事実を隠蔽したリーネは、フローラから半ば騙されている形となった。
「生きている内に最善を尽くして!」
「了解!行くぞお前ら!!」
ライナーは松明を持って、真っ先に階段を降って行ってドアの施錠に向かった。
遅れてコニーとベルトルトが、そして女子3名も向かった。
「巨人がどこまで来てるか!見てくる!お前らは棒でも板でも掻き集めてきてくれ!」
「ライナー待てよ!単独行動は危険だぞ!」
素早いライナーに置いてかれるコニー。
女子たちは既に追いかけるのを諦めて徒歩で歩き始めた。
「待てよ!ライナー!待つんだ!」
彼の単独行動で一番焦ったのはベルトルトである。
真っ先に巨人に喰われたら全てが無駄になる。
というか、兵士モードになっており、自分達が課せられた任務を忘れている様だった。
最悪、自分たちは生き残れる最後の手段がある以上、生身で真っ先に危険を冒す必要は無かった。
「訓練でも本番でも変わんねぇな…いつも真っ先に一番危険な役割を引き受けやがって…」
「ああ、悪い癖だ…僕がしっかりしていれば…」
ベルトルトは、遠回しに自分の不甲斐なさを嘆くコニーの意見を肯定した。
もし、自分がしっかりしていれば、もう少しライナーはまともになっていたはずだ。
いつか、精神状態が良くなると思って放置した結果、更に症状が悪化した。
会話していて戦士じゃない時があるせいで余計に指摘しづらかった!
おかげさまでアニをサポートする事ができず、メンタルケアはフローラに全振りしてしまった。
「これがいいか!」
壁に掛かっていた農業用フォークを手に持ってベルトルトは階段を駆け下りた。
そこには木製の扉に背もたれている相棒が居た。
「ここだ!何でも良いから持ってきてくれ!」
巨人に発見されたようで扉を閉めて施錠したものの脆いせいで破壊されそうだった。
余計な事をしやがって…と叫ぶ余裕は無かったがやるべき事は決まっている。
「ライナー!!」
彼は扉から飛び出した巨人の顔に向けて農業用のフォークを突き刺す為に走り出した。
『やべぇ…このままじゃ死ぬ!?』
一方その頃、ライナー・ブラウンは走馬灯を振り返っていた。
マルセルが6m級の巨人に捕食されそうになった時、ライナーは立ち上がって走り出した。
迂闊に巨人化できないベルトルトは退避していたのに自分を見捨てたと勘違い!
泣き叫びながら彼を抜いてドベだったライナーは全速力で逃げた。
『どうするの!?どっちが巨人化…!?』
アニは振り返ると、ベルトルトを抜いて敵前逃亡したライナーを見てしまった。
ここでパニックになってしまい、彼女は正常な思考で判断できず釣られて泣いて逃げ出した。
自分のせいで作戦が失敗しそうになった事を知らないライナーは…ここで死ぬ…。
『『絶対帰るんだ!故郷に帰るんだ!』』
ライナーとベルトルトが心を1つにした瞬間、フォークが巨人の顔面に突き刺さった!
「ライナー!ここで死ぬんじゃない!一緒に故郷に帰るんだ!」
「ああ、そうだ!故郷に帰るんだ!」
自発性がなくて頼りないベルトルトに助けられたライナーは故郷に帰還する想いを強めた。
2人が巨人を抑えている内にコニーたちは大砲を発見!
これを転がして扉に居る巨人にぶつける気だった!
「ライナー!ベルトルト!そこを退け!」
「大砲ごとくれてやる!さっさと退避しやがれ!」
大砲を見て2人が横に逃げた瞬間、階段に落とされた大砲は転がって扉に激突した。
扉から顔と腕を出した中途半端な巨人は大砲に押し潰されて身動きが取れなくなった。
「よし!動かなくなったな!」
「あいつの体格じゃ動かせねぇ…奇跡的にうまくいったな」
階段を降りて来たコニーは短剣を取り出して巨人のうなじを斬ろうとした。
うなじを削がない限り、復活するので止めを刺す気だった。
「おいやめておけ!掴まれただけで重傷だぞ」
「みんな!今のうちに避難して!上の階の扉を閉めるだけで違うわ!」
ミーナの呼びかけによって下階に降りた男子たちは階段を昇って行った。
コニーは名残惜しそうに扉からゆっくり離れた。
しかし、その扉からは新手の2m級の巨人が出現した。
「コニー!!」
死角から喰おうとした巨人の頬をライナーは両手で押して噛み付かないようにした。
しかし、巨人の方が身体のスペックが上で抑える事ができず噛み付かれそうになった!
「ぐっ!」
「なっ!?」
ベルトルトは右腕を噛ませたライナーに驚愕するしかなかった。
簡潔に言えば、一歩間違えれば喰われるのになにやってんだ…と発言したかった。
仮ではあるが、リーダーが彼である以上、戦死されるとまずいし、なにより喰われるのは…。
ベルトルトの疑いが確信に変わり、ライナーは護身術で巨人を担ぎ上げて慎重に移動した。
彼は窓に向かっており、自己犠牲で飛び下りる気満々だった。
「ら…ライナー!?窓から飛び折る気か!?」
「そうするしかねぇだろう!!」
ベルトルトの問いに対して当然の様に返答したライナー。
腕を噛まれて放されない以上、取るべき行動は制限された。
つまり、ライナーは自己犠牲によって窓から落下して兵士として死ぬつもりだった。
しかし、悪魔が「もっと良い死に場所があるだろう?」と言わんばかりに助け舟が来た。
「オラぁ!」
「落ちろ!!」
コニーが巨人の顎の筋肉を斬ってライナーの腕を解放させた。
そしてユミルが全力で蹴っ飛ばして2m級の巨人を窓から落とした!
なんとかライナーの右腕一本、犠牲になっただけで済んだ。
全員、上の階に避難して扉を閉めて木材でつっかえ棒で抑えて固定させた。
もし、巨人に目撃されてなければ扉は破壊されないので一先ず安全になった。
「ライナー、染みるけど我慢して!」
「うっ!」
ゲルガーが見つけた酒を持ってきたクリスタは傷口を消毒するのに使った。
同期の中で106回も医務室送りされた女が居るのでこういう事に慣れている。
むしろ、傷口の消毒を香水に使用している油で代用してる疑惑があるフローラ。
それはともかく、ライナーは看病してくれるクリスタを見て痛みなど吹っ飛んだ。
思わず、肉体の再生をさせずに大人しく看病されるつもりだった。
「後は添え木と包帯…そうだ!」
クリスタは立ち上がってスカートを破って包帯代わりにした。
彼女の生の太ももを目撃してしまったライナーは一瞬で痛みが快楽に代わった。
オーガニズムが刺激されて股間が元気になったどころか、乙女っぽく顔を赤く染めた。
「こんな汚い布しか無くて…ごめん…」
「いや…助かる」
この瞬間、電撃が迸ってライナー・ブラウンの精神は、兵士モードと戦士モードが混同した。
今までは、二重人格が1つしか表に出て来なかったが、今後は両立して生きていく。
以前、ベルトルトは「多重人格の人を治療するにはどうするべきか」とフローラに質問した。
メンタルケアの達人である彼女ですら匙を投げたライナーの精神治療をクリスタが行なった。
ここで正常に戻ればいいのだが、問題なのは兵士と戦士の境目が有耶無耶になった。
『結婚しよ』
つまり、【始祖奪還】と同じくらいに【クリスタと結婚する】のが重要課題になった。
むしろ、『クリスタと結ばれて、いつかお父さんになる』のが最優先課題になった。
要するにライナーは、クリスタと結婚する為に戦士になったと勘違いをした。
元々英雄志望があった彼は、得意な作文力も手伝って気持ち悪い男だった。
肥大化した妄想は、陰湿な戦士候補生時代と充実した訓練兵時代が混ざった。
コニーを救った英雄は、クリスタを見返してそのまま恋愛に発展する事を期待した。
結論から言うと、この時に『気持ち悪い男』として精神が成熟して余生を引き摺る事になる。
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『ライナーの精神がおかしい…なにこれ』
フローラは聴力に優れているが、負の感情を“声”として聴ける能力もある。
そんな彼女の元に届いた“声”は絶望の感情が欠如したはずの彼女の精神を蝕む物であった。
『クリスタと結婚しておじいさんになったライナーが幼女の曾孫娘に求婚してる…』
超高速でクリスタと結婚したライナーの妄想がフローラに“声”として聴こえていた。
そして何故か彼の結婚式の仲介役が自分になっていた。
世界を救った大英雄のライナーとウルトラスーパー女神クリスタを仲介する自分。
『大英雄ライナー・ブラウン、永遠の愛を誓いますか?』
『はい、誓います!』
『大女神クリスタ・ブラウン、映連の愛を誓いますか?』
『はい、誓います!』
『それでは誓いの接吻を!』
フローラは結婚の仲介役として恥ずかしい言葉を話していた。
その後、糞みたいな生活が超高速で終わって曾孫に求婚してライナーが天に召された。
そんな負の感情を知ってしまい、今後、どうやって彼に接すればいいかフローラは迷った。
余談だが、結婚式には同期の戦士候補生と訓練兵が勢揃いして椅子に座って笑顔で祝福していた。
戦士と兵士時代を混同してしまったライナーは本当に気持ち悪い妄想していた。
「あっ、変異種…」
強力な巨人の証である褐色の肌は、月光を反射せず光を吸収しているようだった。
そんな不気味の存在でも、ライナーの気持ち悪さには勝てなかった。
負の感情を聴こえるせいで、フローラは無理やりライナーの妄想を追体験させられた。
それ以上に不気味な事などあるわけなかった!
「とりあえず殺す!!」
あまりの気持ち悪さに怒りに変わったフローラは、弱点部位を削いで巨人の首を刎ねた。
この時だけはリヴァイ兵士長の身体能力を凌駕しており、今後ここまで動ける事はないだろう。
怒りと鬱憤を晴らして賢者タイムを通り越して冷めてしまった彼女。
「なんか凄い動きをしたんだけど、何かあったの?」
「いえ、リーネさん…身体の酷使で頭が可笑しくなったようです…」
「私から見れば最初から可笑しいから大丈夫だよ」
「そんなひどい…」
駆け付けたリーネに内心を打ち明けようとしたが即否定されてフローラは落ち込んだ。
ライナーの気持ち悪さを熱く語っても困るのは分かっているがどうすればいいか分からない。
幸いにもサンドバッグになる巨人は、いくらでも居るが刃が足りなくなってきた。
「これであらかた大きなサイズの巨人は片付いたな!」
「この塔のおかげだね。こんな好条件で戦えるなんてめったに無いよ!」
「ああ、なんとか凌げそうだ」
塔にぶらさがったナナバとゲルガーは蒸気を噴き出す巨人の死骸を見てそう思った。
ここでの巨人討伐は30体を越えており、大量の勲章がもらえるだろう。
もちろん、勲章をもらうより家に帰りたいし、休みたい。
一時はどうなるかと思ったがフローラという最強の女のおかげで休めそうだ。
彼らは絶望的な状況は去っていないが笑みを溢す余裕はあった。
「ちょっと新兵の様子を見てくる!」
新兵が心配になったヘニングは2人に理由を告げて塔を登っていった。
リーネも同じ考えだったようで、入り口をフローラに任せて遅れて登り始めた。
これが彼らの命運を分けた。
「ん?何の音だ?」
ゲルガーが少しずつ大きくなる異音に気付いた。
その瞬間、大きな衝撃と共にどこからか飛んできた岩が馬小屋に激突した。
中に居た馬は全滅して巨人から逃げることはできなくなった。
「なっ!馬が!?」
「まただ!?何が…」
馬小屋に駆け寄ったゲルガーとナナバ。
そして塔の屋上に居るヘニングと、塔の真ん中で警戒しているリーネ。
フローラも何が起こったのか状況把握に努めていた。
「なにあれ…」
フローラが空を見上げると岩が飛んでいた。
それが塔の天辺に激突してそこに居た先輩2名が吹っ飛ばされた!
「リーネ!?」
「ヘニング!?」
「リーネさん!?ヘニングさん!?」
岩の激突を免れた3人は、2名の兵士の名を同時に叫んだ!
明らかに人為的な投石!
フローラは岩の跳んできた方向を知っていたのでそちらに向かって振り向いた。
「あいつは…!!」
50mの壁の上で両腕をあげている巨人が居た。
フローラはその巨人を知っている。
あの時、殺したと確信していたはずだった。
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ジーク・イェーガーは古城に明かりが見えて昼間の失態の腹いせで投石した。
わざわざ巨人化したのはこうしないと岩を投げられないからだ。
むしろキャッチボールしてた時が一番幸せだったのでストレス発散がこうなってしまった。
愉しかった思い出が人殺しや建物を破壊する技能を磨いたのは皮肉としか言いようがない。
『とりあえずこんなもんでいいかな…よし当たった!』
1発目の投石は外れたが、2発目の投石は見事、塔の屋上に命中した!
トム・クサヴァーさんとのキャッチボールの経験が活きたものだと言える。
腕は人間の時より長いし、バランスを取るのは難しいが慣れれば楽しいもんだ。
『あとは勝利の雄叫びをあげて帰ろうかな』
ジークは、ストレス発散の為に投石をした。
ついでに巨人を古城にけしかけて壁内人類に恐怖を叩き込むつもりだった。
だが、彼は失態を犯した。
『よし、一度深呼吸だ!』
あの場に自身を恐怖に叩き込んだフローラ・エリクシアが居た事。
そして2回目の投石で彼女が慕う先輩を殺害してしまった事。
フローラは獣の巨人の正体を知っている事。
そしてなにより、彼女の復讐リストに『獣の巨人』が加えられた事。
『2回だけで命中したんだ!きっと良い事があるぞ!』
ジーク・イェーガーは知らなかった!エルディアの悪魔があの場に居ることを…。
フローラ・エリクシアは知らなかった!髭もじゃを殺せておらず惨殺して欲しいと懇願した事に!
そして地獄の釜の蓋が開いた。
『クサヴァーさん見ててくれよ!俺は絶対に夢を叶えてみせる!!』
そして2人はそれぞれの想いを胸に再び戦場で邂逅する事となる。
『俺はエルディア人を苦しみから解放してみせる!』
【エルディアの悪魔】に勝てるはずもなくジーク・イェーガーは惨敗する事となる。
ジークは、初戦で死んだ方がマシなほどの尊厳破壊と苦痛を彼女から与えられる事となる。
例え生還しても、突発的な自殺衝動で毎日苦しめられて死ぬまで続く事となる。
『【エルディア人安楽死計画】を成功させてみせる!!』
身をもって彼は実感する事だろう。
『エルディア人は生まれてくるべきでなかった』という彼の価値感を地獄で実感する事に!
その日、ジーク・イェーガーが思い出せられた!
あの時されたのは、本当に拷問じゃなくて、ただの前座だったという事に!
絶望の感情を欠如している【エルディアの悪魔】に絶望させられる未来をジークは知らない。