進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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71話 ユミルの覚悟

「今度は死に様を見届けてやるわ!首を刎ねて!心臓を潰して!脳を叩き潰して焼き殺す!!」

 

 

獣の巨人による投石が馬小屋に命中し、中に居た馬が全滅して巨人から逃げる術を失った。

二度目の投石は塔の屋上に命中し、ヘニングとリーネが吹っ飛ばされた!

おそろくあの高さから落下すれば即死の方がマシと言えるだろう。

先輩たちが自分のミスのせいで死なせたと分かった以上、今度は徹底的に潰すつもりだった。

首を刎ねて心臓を潰し、脳を叩き潰して火炎瓶で徹底的に焼いて死に様を見届けてやるつもりだ!

 

 

「何事だ!?」

 

 

104期調査兵たちは、ライナーの手当てで中に居たおかげで難を逃れた。

我慢強くて頼りがいがある事に定評あるライナーが真っ先に階段を駆け上った。

 

 

「待ってよライナー!こういう時は、中で待機してないと!」

「馬鹿野郎!俺が行く!おれのせいで怪我をしたんだからな!!」

 

 

続いて相棒の動きが読めなくて苦労してるベルトルト。

自分のせいで怪我をさせてしまい、自己嫌悪に陥っているコニーが塔の屋上に出た。

 

 

「何があった!?石壁が壊れていて…咆哮?」

 

 

ライナーは屋上の一部が破壊されており、何かが激突したのが分かった。

ただ煙の匂いがせず、砲撃で破壊されたわけでないのがすぐに気付いた。

そして注意深く破壊箇所を見ている時に咆哮した方を見た瞬間、固まった。

 

 

「ライナー!…どうしたんだ?」

「ベルトルト…あれを見ろ」

 

 

何故か能天気に突っ立っている相棒を見てベルトルトは異常を察した。

顔が強張っており、身体が震えていたからだ。

そして話しかけてみると、何かが発見した様なので彼の視線を追っていて固まった。

 

 

「おいどうしたんだ2人とも!?らしくないぞ…」

 

 

先行した2人が固まっているのにコニーは疑問に思った。

巨人の大群でも発見したのかと思い、恐る恐る彼らの視線の方へ顔を向けた。

 

 

「なんだありゃ!?毛だらけで気持ち悪い巨人だな…獣っぽい巨人で気味が悪いぜ」

「ああそうだ、あれは『獣の巨人』だ」

「ん?知ってるのか?」

「ま、まあな…」

 

 

コニーは彼らの反応から獣の巨人とやらを知っているようだ。

ウォール・マリアの南東の山奥の村出身だそうだから避難した時に見たのだろうか。

フローラが鎧の巨人を恨んでいる様に彼らも獣の巨人と因縁があるのは分かる。

真っ青な顔をして巨人を凝視したまま固まっているからだ。

特にライナーは、巨人と遭遇しても冷静な対応をしたのにあそこまで青ざめるなら何かある。

 

 

「ゲルガー!!」

「分かってる!!」

 

 

悲痛な想いを胸に抱いてナナバとゲルガーは、ヘニングの遺体を塔の屋上に持ってきた。

新兵を心配して屋上で警戒していたのが仇となって岩が激突した衝撃で落下、地面に激突した。

左胸が潰れており、上半身が原型を留めていない事から衝撃の凄まじさが一目で分かる。

即死した彼の死体を持ってきたのは、巨人に喰わせたくなかったからだ。

 

 

「うぉ!巨人が多数接近!さっきより多いぞ!?」

「巨人が作戦行動をでもしているかのようなタイミングだね…」

 

 

コニーの報告を聴いてナナバは半ば諦めた様に迫ってくる巨人を見下ろした。

刃は使い果たし、ガスは切れかかっていて戦力は減った。

まだ夜が明けてないので信煙弾は効果が無く友軍が来るのも期待できない。

さきほどヘニングを抱えて登ってきたのを見られたせいで巨人に居場所がバレていた。

 

 

「おいナナバ、諦めてるだろう?」

「じゃあ、策はあるのか?」

「そんなもんねぇーよ」

「だと思ったよ…」

 

 

人間というのは絶望的な状況に追い込まれると笑ってしまう。

生存本能が危機的状況から脱出させる為の起爆剤なのかは分からない。

ただ恐怖で怯えたのは自分だけじゃないと分かり、2人は危機的状況なのに安心してしまった。

 

 

「いくか!」

「ああ!」

 

 

彼らは、新兵を守るために迫ってくる巨人の群れに突っ込んでいった。

補給と休息があれば、きっとこの規模の巨人でも倒す事ができたかもしれない。

何とかなるという過信と妄想に縛られた2人は限界が近づいていたのに気付かなかった。

 

 

「リーネさん!」

「ふ、ふろ…逃げ…。私を捨てて…」

 

 

比較的軽傷だったリーネであったが、左脚を瓦礫で押し潰されて動けなくなっていた。

心配して駆け寄るフローラの後ろから巨人の群れを見てしまった。

もう助からないと思った彼女は、せめて新兵だけでも逃がすつもりで声を溢した。

 

 

『結局、50体以上の巨人と戦う羽目になったわ…』

 

 

伏兵のように巨人の大群が居るのは知っていたがあえてフローラは報告しなかった。

あまりにも絶望的な状況で、同僚や同期が自害しかねないからだ。

 

 

「なんとかしないと…!」

 

 

フローラは何とかして巨人の群れを塔から引き離す為に誘導したかったが馬が居ない。

さきほどの投石で馬小屋が崩壊して中に居た馬が全滅した。

巨人から逃げきれる唯一の移動手段が馬である以上、詰んだ。

 

 

「お願いがある…楽にしてくれ…」

 

 

彼女ができるのは、全身を打って瓦礫に圧し掛かられて動けないリーネに止めを刺す事だった。

このままでは痛みを伴って喰われるので、その前に安楽死させてあげるという物だ。

状況を察したリーネは自分の遺体を巨人に注目されているうちに姿を隠せと言った。

フローラという戦力をここで失うのは人類の損失だからだ。

 

 

「…ちょっと取り込み中だから後にして…!?」

 

 

フローラは近寄ってきて外套のフードに噛みついて来たライリーを追い払おうとした。

緊急事態なのに空気を読まずに身動きを取れなくする相棒を威嚇しようとした。

ここで気付いた。

ライリーは馬小屋に入らずに外で駆けまわっていたので助かった事に。

そして“彼女”は巨人を恐れているので自分に早く狩って欲しいと促している事に。

 

 

「分かったわよ…ちょっと退いてて…」

 

 

フローラがスナップブレードを構えると、ライリーは噛むのを止めて離れた。

変な棒で地上の覇者のように振舞っている大きな物体を倒してくれるのを知ってるからだ。

しかしライリーの思惑は外れて、フローラは倒れ込んでいるリーネに近寄った。

 

 

「そうだ…早く」

「ごめんなさい…」

 

 

ブレードを振りかぶったフローラは、リーネの左脚を斬り落とした!

彼女がそれを望んでいないと知っていても憧れの先輩をここで死なせる気は無かった。

 

 

「ぎゃああああああああ!!!」

「ライリー!!」

 

 

まさかの奇行にライリーは動く事ができなかった。

その隙にフローラは、鞍に備え付けられた紐を取って痛みに悶える先輩に駆け寄った。

これは女型の巨人戦で両腕を喪失したエルドの止血する物がなかったという教訓で用意した。

 

 

「ああああああっ!!」

「止血します!!」

 

 

フローラは医務室にお世話になった時、彼らから色々教わった。

106回もお世話になってるので診るのが面倒だったというのもある。

自力でなんとかしろと言わんばかりに応急措置を学んだ知識と経験がここで活きた!

 

 

「な、なんで…」

「ああもう!黙ってて!」

 

 

止血が完了した瞬間、先輩の鞘と立体機動装置を外して身軽にした。

リーネが何をされているのか把握する前に空を舞った。

 

 

「痛い!いたあああああああ!!」

「巨人に喰われるよりマシです!!我慢してください!!」

 

 

無理やりライリーに乗せて予備の紐で彼女を固定したフローラはライリーに合図を出した。

そんなに走るのが好きなら最後まで走ってもらうまでだ。

本当は先輩を塔の屋上に避難させたかったが、仲間を呼ぶ暇も移動する暇も無かった。

事情を察したライリーが走り出した瞬間、巨人がフローラを掴み掛かった!

 

 

「邪魔!!」

 

 

回転斬りで掴み攻撃を受け流した彼女は巨人の股間にアンカーを撃ってワイヤーを巻き取った。

勢いよく加速して股を潜ったり抜けた瞬間、アンカーを外してそのまま離脱した。

数体の巨人がライリーを追っていたが、追い付かれる事はないだろう。

それより、先輩たちが心配だった。

 

 

「次から次へと…」

 

 

壁内に出現した巨人が全てここに集結したかのような地獄絵図。

かつてトロスト区で20体以上の巨人に追いかけられた事があるがそれと同じ状況だった。

むしろ、巨人の体当たりだけで塔が倒れそうなほど脆い建築物なので圧倒的に最悪な状況である。

それでも彼女は恐怖などなかった。

あったのは怒りだけだ!

 

 

「そこまでわたくしを殺したいの!?」

 

 

目の前に飛び入り参加してきた6m級の巨人の首を刎ねた!

スナップブレードの先端が折れたが彼女は気にせずに近くに居た巨人の首を刎ねた!

怒りと疲労で判断がおかしくなっており、うなじを削ぐどころか巨人の首を斬り落としていた。

骨でブレードが欠けても気にせずに巨人の首を抉り取り!刃をへし折りまくった。

刃が根元まで折れてようやく巨人の目に向かって投擲し、新たな刃に装填した。

 

 

「ライナー!…フローラがやばい事をしてる…」

「またなんか覚醒したな…」

 

 

ベルトルトは、フローラの異常さを目撃した。

さきほどまでクリスタとの結婚生活の妄想をしていたライナーもフローラの行動にドン引きした。

 

 

「…今度、あいつを怒らせたら首を刎ねられそうだな…」

 

 

巨人の弱点は、うなじにある縦1m、横10cmの範囲である。

そこは斬るのではなく肉を削ぐ必要がある。

何故なら切断しただけでは、傷を再生する上に異様に皮膚が硬いからだ。

サシャが斧で3m級の巨人のうなじを攻撃しても効果が無いのはその為である。

しなやかなスナップブレードの刃は、わざと折れる事により柄や手の衝撃を和らげる役目がある。

 

 

「わたくしの前に立ち塞がるなら薙ぎ払うまでよ!!さっさと死になさい!」

 

 

一方、フローラは折れた刃のまま、うなじの肉を斬り骨を断った!

鎧の巨人を討伐し、獣の巨人の能力者を惨殺するまで彼女は死ぬ気など無かった!

その想いが彼女に力を与えて、巨人の首を容易く刎ねてしまった!

以前から首を両断することがあった彼女。

アニとの戦闘、獣の巨人、寝不足、パシリ、なによりライナーの気持ち悪さでイライラしていた。

更に専用装備だったブリッツメッサーが短剣型なのもあって巨人の肉を斬るのに慣れていた。

それに怒りが組み合わさった結果、【空飛ぶギロチンの刃】として巨人の首を刎ねまくった!

 

 

「見ろよゲルガー…フローラが巨人の首を刎ねまくってるぞ」

「こんな事なら…あいつに刃とガスをあげとくべきだったな…」

 

 

巨人との連戦が続いた彼らは立体機動などの疲労の蓄積で気力が落ちていた。

更にフローラと違って予備のガスボンベを所持しておらず、ガス切れが近かった。

ゲルガーに至っては、刃をへし折る豪快な戦い方のせいでブレードを使い切った。

ナナバも2本しかブレードが残っておらず、塔にアンカーを突き刺して待機するしかなかった。

 

 

「限界…」

 

 

フローラも疲労困憊で巨人の首を10体ほど刎ねてきて塔に戻ってきた。

さきほどの交戦で巨人を減らしてきたが未だに30体近くの巨人が残っていた。

さすがに勝てないと分かって、逃げ出してきたが先輩たちの姿を見て敗北を悟った。

 

 

「もう塔がもたないなぁ…」

「充分頑張ったが、これで終わりだね…」

「俺達5名で巨人何体討伐したんだろうな…」

「さあ?少なくとも勲章を売るだけで孫まで働かせずに養っていけるんじゃないか?」

「ハハハ、その金で酒を飲みたいぜ…」

 

 

やれることはやった。

残ったのは疲労感と絶望感だけだった。

最後まで足掻いた結果、救いようがない未来に辿り着いてナナバもゲルガーも笑うしかなかった。

 

 

「だらけている俺にしちゃよくやったと思ってる…すまねぇお前ら…新兵たちの事を頼んだぞ…」

 

 

戦闘で頭を打ったゲルガーは脳震盪による操作ミスでアンカーを外してしまい落下した。

薄れていく意識の中で自分の絶望的な未来を悟ってどうでもよくなった。

 

 

「ゲルガー!!」

 

 

ナナバは相棒を掴んだ巨人のうなじを削ぐと同時に最後に残っていたブレードが折れた。

巨人の手から離されたゲルガーは塔に空いた穴の奥にあった木箱に激突し動けなくなった。

絶望的な状況だったが、ナナバは急いで彼を助けに行こうとした瞬間、複数の巨人と目が合った。

 

 

「ナナバさん!!」

 

 

慌てたフローラは、巨人の群れに突っ込もうとしたが新手の巨人に発見された。

勢いよく伸ばされた手を見て彼女は少ないガスを噴出して回転斬りをして巨人の指を切断!

疲労で意識が飛びかけたので、一目散に塔にアンカーを撃ち込んで屋上に向かって逃走した!

 

 

「退いて!!」

 

 

勢いよく屋上に飛び出してきた兵士に慄く104期調査兵たちは傍観するしかできなかった。

受け身をせずに仰向けに倒れ込んだ兵士の顔を覗くと脂汗を搔いたフローラだった。

 

 

「フローラ!?」

 

 

親友が死にかけているのを見たミーナは血相を変えて彼女の元に駆け寄った。

あれほど親友は運動していたのに過呼吸どころか虫の息だったせいで完全にパニックになった。

 

 

「ミーナ、寝かせて…」

「駄目!!寝ちゃ駄目!!」

 

 

瞼を閉じればそのまま死んでしまいそうでミーナは必死に親友の意識を保とうとした。

フローラからすれば、女型の巨人戦から交戦し続けたせいで限界なので休ませてほしかった。

そんな事など露知らずに彼女は必死に親友の身体を揺すり頬を叩いた!

トロスト区の門でやった『肉の誓い』を達成するまでこれ以上、死んで欲しくなかったのはある。

それ以上に無力の自分のせいで親友が死んでしまうのは繊細なミーナの心では耐え切れなかった。

 

 

「朝に…この信煙弾を…あとは頼んだわよ…」

「やだ!!ウォール・マリアを奪還して肉を食べる誓いをしたじゃない!」

「お願い…寝かせて…揺らさないで…」

 

 

休むだけなのに親友に止めを刺されそうになっているフローラ。

せめて信煙弾だけでも渡そうとしたが、逆効果になってしまった。

 

 

「おい大丈夫か!?」

 

 

ライナーの確認に対してフローラは双剣を改めて構えて…すぐに力尽きた。

ミーナに抱き着かれてしまい胴体を圧迫されて気を失った。

それでも最後の力を振り絞って親友を斬らない様にブレードを石床に降ろした。

 

 

「フローラ!!?嘘でしょ!?」

「大丈夫だ!疲労で気を失っただけだ!」

「こいつの事だ、3時間もあればすぐに復帰するさ!」

「放して!!」

「ミーナが離れるんだ!」

 

 

ライナーとコニーが泣き叫ぶミーナを引き離して説得した。

冗談抜きでフローラを殺害しようとしているように身体を揺すっているのを見逃せなかった。

 

 

「良かった…無事で…」

 

 

クリスタは同期が助かって思わず膝を石床に付けて安堵した。

だが、状況は悪化を辿っていた。

 

 

「誰だよ!酒を全部飲みやがったのは!?…ぐはっ!?」

 

 

辛うじて息があったゲルガーは自身が見つけた酒の瓶を見つけた。

喰われる前に呑もうとコルクを取って瓶を口に近づけたが1滴しか無かった。

それも唇を濡らすだけで終わり、酔うどころか味すら分からなかった。

最初に見つけた時は中身があったので誰かが飲んだのは確定である。

絶望した彼は巨人に掴まれても酒を飲んだ犯人に激怒したが頭に瓦礫が衝突して気を失った。

 

 

「お父さん!!ごめんなさいごめんなさい!もうしません!やだあああああがあああああ!?」

 

 

右太腿を噛み千切られたナナバは最後に父の顔を思い出して巨人に謝罪していた。

そんな戯言など気にせずに巨人は胴体を噛み千切って下半身を地面に落とした。

その半身ですら他の巨人が群がって噛み千切って咀嚼していた。

それに比べればゲルガーは頭を強打して気を失った分、苦痛を味わずに戦死できたともいえる。

 

 

「この…!!」

「よせクリスタ!もう塔がもたないぞ!」

「だって…私たちの代わりにゲルガーさんが…ナナバさんが…」

「彼らの死を無駄にするわけにはいかないんだ…堪えてくれ!」

 

 

クリスタは近くにあった瓦礫を巨人に向かって投げつけたがユミルは必死に制止した。

建前上は彼女を落下させないようにしたが、囮のおかげでひとまず自分たちが安全になった。

現に巨人が新たな獲物を探して周囲をうろついているので、発見されるのを防ぐ為でもあった。

 

 

「クソ!」

 

 

どうにもできないという八方塞がりの状況に無意識に拳を床に叩きつけたコニー。

ライナーやベルトルトも同じ気持ちである。

こんな所で喰われるつもりは無いが、恩人たちがこうして無残に喰われるのはきつかった。

 

 

「それにしても…良く眠れるな…」

 

 

そんな絶望的な状況下で寝ているフローラ。

疲労困憊だったとはいえ、信煙弾を託して刃を地面に降ろした瞬間、寝息を立ててしまった。

泣きじゃくるミーナから受け取ったライナーは、黄色のラインの信煙弾を眺めて溜息を吐いた。

これを使えば緊急事態を近隣に知らせることができるがまだ夜中、撃てるわけがなかった。

フローラが知らないはずはないので、朝になるまでよろしくという意味合いで渡したのだろう。

 

 

「塔が崩れてただ喰われるのを待つしかないのか…」

「最終兵器のフローラが目覚めるのが先か、塔が崩れるのが先か」

「もう少しフローラの事を心配しない?なんでみんな、そんな薄情なの?」

 

 

ベルトルトは嘆いている同期たちの会話を聴いていると誰もフローラについて触れてなかった。

ミーナは仰向けで倒れているフローラに添い寝しており物理的に触れている。

それ以外は、フローラが復帰してくれるまで待機している異様な雰囲気に違和感があった。

 

 

「何言ってんだベルトルさん。フローラだからだよ」

「ああ、どんなに怪我をしてもすぐに復帰するからなこいつ」

 

 

コニーは、訓練兵時代に何度も事故でフローラが死にかけているのを目撃していた。

それでも翌日には復帰しており不死身さを知っていた。

もしかしたら、塔が崩れる前にフローラが復帰するのを待った。

いつの間にかこの場に居る同期の大半がその考えだと察したベルトルトは何とも言えなかった。

 

 

------

 

 

馬のライリーは散々の1日だった。

人見知りの“彼女”の鞍に乗せられたのはミケ分隊長、サシャ、カヤ、そして負傷した女兵士。

普段だったら振り落して全力で蹴り飛ばすのだが緊急事態なので必死に異物感を堪えていた。

いつも以上に頑張った事を褒めて欲しいのに自称主人面した女は現れなかった。

さすがに死んではいないと確信しているが、巨人がいつまで経っても居るのに腹立たしかった。

 

 

「痛い…よ」

 

 

リーネ・ハウスドルフは唯一、104期調査兵以外で古城防衛戦で生き延びた兵士である。

左脚の膝から下は切断されてしまって無いはずの部位が痛んで馬の振動で苦しんでいた。

残った意識は、一足先に戦線離脱してしまった事による自分の無力さを恥じていた。

まだ、同僚達が交戦しているのに自分だけ敵前逃亡しているようで泣いて呻くしかできなかった。

既に同僚は全滅しているとは知らずにただ巨人への恨みと痛みを積もらせただけだった。

 

 

「私も…私も戦いたい!何か武器があればいいのに」

 

 

クリスタ・レンズは巨人と交戦する気満々だった。

守られるだけの存在では居たくない彼女。

あれほど頼りがいがあった先輩達が喰われて塔は崩壊寸前、このままでは犬死するだけだ。

 

 

「そうしたら一緒に戦って死ねるのに…」

「クリスタ…まだそんな事を言ってるのかよ」

 

 

以前からクリスタが死にたがっているのをユミルは気付いていた。

自分の存在を否定されたくなくて【女神】として印象に残そうとしている少女。

かつて女神の様に讃えられていたユミルからすれば反吐が出る話である。

 

 

「彼らの死を利用するな!お前の自殺行為を口実になる為に上官たちは死んだんじゃねぇよ!」

「だって…だって…!」

「お前は、コニーや上官と違って『本気で死にたくない』と思ってないだろう?」

「えっ…」

「いつも、どうやって死んだら皆から褒めてもらえるか考えているだろう!?」

 

 

冗談じゃなかった!

女神として演じて人々を救ったつもりで生活してきた彼女は迫害して一度人生を終えた。

誰かの為に女神を演じることなど人生を破滅する事と身をもって体験をしている。

こんなに素敵な自分のお嫁さんになる予定のクリスタに同じ轍を踏ませるわけにはいかなかった。

ユミルは本気でクリスタを諭すように彼女の顔をまじまじと見た。

一同も心配そうにクリスタの方を見ていた。

 

 

「ち、違うよ…私はただ皆を救う為に…!」

「だってよ!おいフローラ!まだ交戦する気はないのか!?」

「もう少しだけ休ませてよ!」

「駄目だ!これ以上放置したらクリスタが自殺願望で暴走しちまうからな!」

 

 

そもそもクリスタより遥かに強い存在が居て復帰していた。

メンタルケアの達人と揶揄されるフローラは、数時間の睡眠で完全復活した。

それどころかヘニングと呼ばれた兵士の鞘からブレードを抜き取っており交戦する気満々だった。

もちろん、疲労は残っているが起床した直後に缶詰の中身を喰わせたら元通りになった。

 

 

「フローラが死んだら、その時に考えような」

「ゴメン…」

「分かってくれるのならそれでいい」

「ちょっと待ちなさい!縁起が悪い事を言わないでよ!!」

 

 

フローラからすればクリスタを守るために自分が特攻する役目になっていた。

クリスタとの違いは自殺願望の有無であるが、傍から見れば自殺にしか見えない。

1体の巨人に30人の人命が失われるというのに、塔の周りに30体近く居た。

刃は6本、ガスの残量は半分ほどであり、どう足掻いても巨人の群れに負ける装備だった。

 

 

「最後に日を拝めるとはなぁ…」

 

 

コニーは、死刑執行の当日の朝を迎えた気分だった。

何故か、恐怖などなくてこのまま終わるのかという穏やかな心境だった。

 

 

 

「コニー、短剣を貸してくれ」

「ん?まあいいけどよ…何に使うんだ?」

「何って、これで戦う為だよ…ありがとな」

 

 

犬猿の仲であるユミルに短剣を渡したコニーは異常に気付いた。

いつもなら弄ってくる癖に今回は素直に感謝して坊主頭を優しく撫でてくれたからだ。

そもそも武装したフローラが交戦するのであって、ユミルは戦う必要はない。

もう少し、日が上に登ったら信煙弾を上空に撃ち出して友軍に場所を知らせるだけでいい。

 

 

「ユミル…何をする気だ?」

「さぁな、自分でも分からん!…ただ自分のやりたい事をしたいだけさ」

 

 

 

ライナーの質問にユミルは自分の考えを述べた。

ユミルこそ自分がこれからする事を考えて憂鬱になっており歩きまわるしかできなかった。

今なら何とか誤魔化せるが、秘密というのはいつかバレてしまう。

少なくともクリスタは生存が確定するので正体を隠しきれないと分かってしまった。

 

 

「クリスタ、お前の人生に口を出す権利などないと思ってる…だからこれは願望なんだけどさ」

「ユミル?」

 

 

 

クリスタはユミルの様子がおかしくなっているのは分かった。

自分の代わりに自殺をするのかと思ったが巨人と交戦すると言い出した。

なので自殺ではないが、ただ事の騒ぎになるなとは予測を立てた。

少なくともさきほどの立場からすれば、今度はユミルが追い詰められている様だった。

しかし、フローラが動かないのを見ると自殺はする気がないと分かる。

ではここから何をするのかは、想像しようがない。

 

 

「お前…胸張って生きろよ」

「えっ…」

 

 

ユミルは、ようやく愛するクリスタに告げたかった単語を述べることができた。

ついでにもう少しだけ自分のお嫁さんのミニスカート姿に癒されたいが時間が無い。

さきほどの会話で複数の巨人に勘付かれて、塔を登ろうとしてきたからだ。

 

 

「ユミル!?待って!?」

 

 

クリスタの制止を振り払ってユミルは塔から飛び降りた。

金髪の少女が塔から手を伸ばしているが、ユミルはその手が届かない先に居る。

それは、彼女たちの不穏な未来を暗示されるかのような状況だった。

 

 

『チッ!』

 

 

予めフローラから巨人の数を聴いていたが実際に塔から飛び降りたユミル。

落下する彼女の視線には口を開けたり手を伸ばしながら塔を破壊している巨人たちの姿だった。

 

 

「おりゃ!」

 

 

生まれ変わったら自分の為に生きる事を願ったユミル。

今回は、クリスタが本来の彼女に成る為に代わりに自分が自己犠牲をする事だった。

結局、他人の為に動いているな…と実感して自嘲しながら彼女は短剣で掌を切った!

落下しているせいで痛みと共に自身の生暖かい返り血が顔に浴びたが気にする事はなかった。

 

 

『私は!私のお嫁さんを守る!!邪魔するなあああああ!!』

 

 

もっと大切なものがあったからだ。

ユミルが確固たる意志と肉体が自傷された事実により巨人化のトリガーが発動!

雷の閃光らしき光が迸りながら衝撃でユミルの首から骨が出現した。

それはユミルを基礎として自身の身長の何倍以上のサイズとなり骨格が構成された。

すぐに大量の肉の筋が新たな骨格の大半の覆って筋肉とし、血肉を造り上げた。

同時に眼球と牙が生成された後、表皮と根深い毛が生えて人体と化した。

腕を広げると鋭利な牙が生えた6m級の巨人となり、下に居た無垢の巨人に襲撃した。

 

 

「あああ!!どいつもこいつも!!」

 

 

フローラは「好き勝手に行動するな」…と言いたい所だった。

だが、それは普段の彼女の振舞いで特大のブーメランになるので口を噤んだ。

 

 

『行くしかないわ!』

 

 

ユミルが塔から飛び降りた瞬間、アニが巨人化する時と同じ閃光と爆風が発生した。

つまり…そういう事だ。

同期たちの思考が停止して動けなくなっている時、フローラは双剣を構えて走り出した。

巨人のうなじを噛み付いて暴れまくるユミルを援護する為に。

 

 

「お、おい!?」

 

 

クリスタのスカートの切れ端で右腕を固定されているライナーの制止を振り切る頭進撃!

同期たちが動けない以上、自分がなんとかするしかなかった。

先陣を切ったユミルに続いて、フローラは塔から飛び降りた。

6m級の巨人になったユミルと一緒に30体ほどの巨人を駆逐する為に!

 

 

 

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