進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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72話 本当の名前

ある所に薄幸で両親から認知されていない金髪の少女が居た。

使用人だった母親は、あわよくば領主の妻になれると思い領主に取り寄って捨てられた。

以降、領主の忘れ形見の少女はお荷物となり『無かった物』として母親から育児放棄された。

少女は、本を読んで外の世界に興味をもって母に接触したが拒絶された。

そして父となる男と再会したが、結果は母親を殺されて偽名を使って開拓地送りされた。

 

 

『自分は存在しちゃいけないけど、せめて誰かに感謝されて死にたい』

 

 

『クリスタ・レンズ』と名付けられた金髪の少女は誰かの役に立つ為に兵士になる事にした。

ウォール・マリア陥落を受けて、健康的な若者は兵士になるべきという世論の後押しがあった。

そのおかげで華奢でか弱い肉体の彼女でも兵士志望を怪しまれる事はなかった。

 

 

『貴様は何者だ!?』

『トロスト区北部の村出身、クリスタ・レンズです!』

『…貴様、まさか兵士になれるとでも思ってるのか!?お前は囮にすらなれん自殺志願者だ!!』

『うっ…』

『尻尾を巻いて開拓地に帰るがいい!不相応に兵士になるより豚の方が素質があるからな!』

 

 

キース教官の通過儀礼にも泣きながら耐えたか弱い少女。

正式に104期の南方訓練兵団に所属した彼女は、誰かの役に立とうとした。

お腹を空かせた女にパンをあげたり、男の子を応援してあげたりと『女神』を演じていた。

しかし、同期の中で3人に本質を見抜かれてしまった。

 

ユミル・ゲッティン、フローラ・エリクシア、メルダ・プリントは、彼女の本質を見抜いた。

 

 

『やっぱ、お前を放置できねぇよ!私が守ってみせる!』

 

 

ユミルは内地の教会で聴いた前評判通りの『女神様』を守って人間にするつもりだった。

自殺願望の持ち主の彼女を放置して自由に生きていくつもりはなかった!

前世は【女神】だったので女神として振舞う彼女が他人事じゃなかったのもあった。

 

 

『他者に迷惑を掛けるほどの献身的な態度と可愛い女神を演じている女…なんか嫌ね』

 

 

数多くの同期と友人になったフローラは、献身的過ぎる女神様の不気味さで避ける事にした。

訓練兵で唯一香水を自作できる彼女は、クリスタにとって最難関の攻略対象だった。

『誰からも愛されるクリスタ』になるには、フローラに認めてもらわないといけないからだ。

それと彼女の人気は香水の影響があると分析して、香水を求めていた。

結果的に甘い香りがするクリスタ専用の香水の作り方を教えてもらい、人気は上昇した。

 

 

『“良い子”ね…あたしと同じタイプか…!さっさと退場してもらわないとね』

 

 

良い子ぶって男子や教官から注目されていたメルダは、同類の匂いを感じ取った。

憲兵になるには最大の障害になると思い、陰湿ないじめと策略を駆使して排除しようとした。

一時は知力がコニーと同等、身体能力は低いおかげで挫折させるには容易である。

当のクリスタが破滅主義者というのもあって開拓地送り一歩手前まで追い詰めた。

 

 

『なるほど…あいつがクリスタを追い詰めてるのか!だったらこっちにも考えがあるぜ!』

 

 

ユミルが見逃すはずもなく遅刻を有耶無耶にした代わりにパシリにしたフローラを使って対抗。

彼女が成績上位陣と仲が良いのを利用して、クリスタの成績を底上げする事にした!

座学はアルミンやマルコ、実技はミカサやアニなどのトップ勢に指導させてもらう事に成功した。

更に成績上位の人物と友情や信頼を構築させて彼女が破滅しないようにした。

 

こうして彼女は成績上位になり、上位10位も夢じゃなくなる頃、クリスタに転機が訪れた。

 

 

「クリスタ…諦めろ」

「嫌だ!私は諦めない…」

 

 

ユミルは重荷を引き摺るクリスタに諦めさせた。

人類活動領域の最北端にあるユトピア区にほど近いアトラース山脈

104期訓練兵は体調不良を訴えたフローラ以外がこの地域で雪上訓練を行うことになった。

 

 

「ダズなら虫の息だ。評価欲しさで死にかけるなんて滑稽じゃないか」

「笑い事じゃないよ!」

 

 

クリスタは倒れたダズを防寒具で包んで紐で結び付けて引っ張っていた。

本来なら下山ルートを目指さないといけないのだが、坂道が急なので遠回りで移動していた。

ユミルは、改めて愛するクリスタが馬鹿だと思った。

 

 

「このまま毛虫の速度で移動していたら私達もやべぇぞ…朝までもたない」

「それでも見捨てられないよ」

「選択肢は2つだ。ダズを見捨てて2人は生き残るか、3人共凍え死ぬか」

 

 

雪が降りだして風が出てきた。

今はまだ方位を理解しているおかげで移動できているが、このままだと遭難する。

本来は複数の下山ルートを利用して装備を抱えて麓まで降りるだけであり競争ではない。

班で一致団結して装備を身につけたまま移動困難な場所の効率的な進軍を考える訓練であった。

 

 

「3つ目にする。私は麓にダズと共に辿り着いて先行したユミルも助かる…これでいいでしょ?」

「私が先に行って応援を呼べばいいのか」

「うん、そうして!早く行かないと危ないし…早く行ってよ」

 

 

クリスタは倒れたダズを最後まで引き摺って行くつもりだ。

最後まで諦めたくないし、何より自分の存在意義が失われるからだ。

 

 

「良いのかクリスタ?」

「何が?」

「良い子を演じているならまず私に相談しないのか?お前の案だと私しか助からんぞ」

「えっ…」

「死ぬほど良い子になりたいからって、他人を巻き添えにして殺しちゃ悪い子だろう?」

 

 

まずクリスタは、ユミルに倒れたダズに対して何も相談をしていなかった。

むしろ、ユミルがここに居る事自体がおかしかった。

そもそもユミルはクリスタの下山ルートを選択していなかったからだ。

 

 

「何が言いたいの?」

「最初からダズを助ける気はねぇだろうって話だ。少なくとも私に相談してこない時点でな!」

 

 

ユミルが心掛けたのは、クリスタを孤独にさせない事だった。

女神を演じているが組織では孤立していていつ消えてもおかしくない心理状態を見抜いた。

彼女の献身的な態度を悪用して下半身だけで生きている獣や女狐から護るのもあったが。

 

 

「そもそも私がダズを引っ張った方が速いと思うぜ?」

「何でそこまで私を気にするの?」

「内地の教会で、家から追い出された妾の子って話を聴いてさ。他人事じゃないと思ったのさ」

「…じゃあ、私を探しに訓練兵まできたの!?何の為に!?」

 

 

クリスタの人生は否定されるだけの人生だった。

父も母も領民の子供からも否定され続けた。

【良い子】として演じている時だけ皆から高評価されるだけの空しい人生だった。

それでも訓練兵団に入団してようやく居場所ができたような気がした。

 

 

「私と友達になりにきたの?」

「違うな…お前と私は違う!私は一度死んで生き返った!第二の人生を有意義に生きる為にな!」

「…何が言いたいの?」

「私は過去に『ユミル』という女神を演じて酷い目に遭った!」

「だから同じように女神を演じられるのは嫌なんだよ!」

「女神?」

「ああそうだ!与えられた役を演じて誰かが幸せになれると思って女神と演じたが裏切られた!」

「分かるか!?良い子でも奴らは平気で踏みにじって来るんだ!利用した挙句捨てて来るんだ!」

 

 

ユミルは、クリスタが自分と同じ轍を踏んでいるのを見てイライラした。

誰かの為に献身的に尽くしても、裏切られるのは一瞬だ!

利権の為、自己愛の為、嘘の為、性欲の為、見下す為に人は容易く裏切る。

ユミルは自由に生きてやると決意したのに女神だった時の癖で人生で迷う人を放置できなかった。

 

 

「私は生まれ持った不幸な運命なんて無いのを立証してみせる!!この呪われた名でな!」

「無理だよ…運命なんて変えられないよ」

「良いか!お前は努力して成績上位に近づいた!私と違って容易く運命を変える力があるんだ!」

 

 

クリスタは成績上位の同期たちの指導のおかげですくすくと立派な訓練兵に成長した。

この世の全てから否定された少女は、立派な兵士に慣れる素質があった。

彼女にはその気がないだけで本気になれば誰にも負けない女になると!

人生相談の経験豊富なユミルは感じ取っていた。

 

 

「無理だよ!ここから3人助かる方法だなんて…」

「あるさ!この真下に基地があるだろう?このミノムシ野郎を崖から落せば運が良ければ助かる」

「それじゃあ落ちて死ぬだけだよ!」

「こいつも助かるにはそれしかないんだ…私がうまい事やっておくからさ!先に行ってろ!」

 

 

ユミルに優しく突き飛ばされたクリスタは雪原を転がった。

それでも立ち上がった彼女は、慌ててユミルが居た場所に向かった。

 

 

『いない…この崖から本当にダズを落としたの?ユミルもどこに行ったの!?』

 

 

そこにはダズどころかユミルが居なかった。

足跡が無い以上、飛び降りたのは明白だったが暗いせいで崖の下まで見れなかった。

30m以上の崖から飛び降りたら、深く積もった雪は衝撃を抑えてくれるクッションにはならない。

自分のせいで二人を死なせたと思ったクリスタは急いで下山して基地の元まで走った。

 

 

「おっ!思ったより遅かったじゃないか…もしかして私を探していたのか?」

「ダズは!?」

「あいつなら寝室で泣きべそ掻いてたぜ。凍傷だったが切断は免れてホッとしたとこだ」

「良かった…」

「参加してない女がダズに厚着させたおかげで手足が捥げずに済んだってよ」

 

 

低体温症だったダズは、唯一訓練に参加してなかったフローラからもらった防寒具で命拾いした。

更にその寒がりの女は新聞紙を嫌がる彼の外套の内側に入れたのも功を奏した。

さすが気遣いできる女だと素直にユミルは感心している。

 

 

「ねぇユミル…ロープも無しにどうやってあんな崖からダズを降ろしたの?」

「うーん、お前ならいいか…」

 

 

少しだけ迷ったユミルは、クリスタの素朴の疑問に対して答えることにした。

 

 

「ただし約束だ!私がその秘密を明かした時、お前は元の名を名乗って生きろ!」

「…いつ教えてくれるの?」

「そうだな…自発的に自分の名前を話してくれる時かな」

 

 

-----

 

 

塔から飛び降りたユミルは巨人になった。

いつも一緒に居たクリスタすら知らない真実。

頭皮を嗅いだり、お嫁さん宣言したり、下心で近づいて来た男を牽制してきたユミル。

それが人を喰らう巨人となって暴れ回っていた。

 

 

「嘘だろう!?ユミルまで巨人になるなんて!?」

 

 

コニーはエレン以外にも巨人になれる人物が居ると知って驚いた。

昨日から碌に眠っていないせいで悪夢を見ているのだと思ってしまうほどだ。

 

 

「あ、あれは…!?」

 

 

ライナーとベルトルトは、その巨人に見覚えがあった。

ここに来る前にマルセルを喰った巨人にそっくりだった。

というよりそのものであり、ユミルが巨人化できる謎が一瞬で解けてしまった。

 

 

「お、おい!?」

 

 

ライナーはフローラがユミルに続いて塔から飛び降りるのを察した。

彼は言いたかった!

あいつは自分の同期を喰った無垢の巨人だと!

しかし彼の想いは頭進撃に届くことは無く塔から飛び降りてしまった。

 

 

「おいおいあいつ…ユミルを援護しに行く気か!?」

 

 

ライナーはただ巨人の首を刎ねる処刑人の女と顎の巨人を眺める事しかできない。

いや、それ以上に訊きたい事がいくらでもあった。

 

 

「うおっ!?」

「あっ…」

 

 

うなじを噛み千切られた巨人が塔に激突した衝撃で大きく揺れた。

真っ先に塔から上半身を出したクリスタは揺れで塔から空中に投げ出された。

一瞬、浮遊感があったが彼女はこれから落下死するのを覚悟した。

 

 

「うっ!?あ、ありがとうライナー…」

 

 

ライナーは反射神経でクリスタのブーツを掴んだ。

なんとか落下せずに済んだクリスタであったが更なる悲劇が襲った!

 

 

「痛い!痛い痛い!!ライナー!脚が…」

「おい、もう放して良いぞ!?聴いてるのか!?」

「クリスタが痛がってるよ!早く放してあげて!!」

 

 

あたふためくベルトルトはいつもの事として、コニーとミーナがクリスタを引き戻した。

それでもライナーは脚を掴むのを止めないどころか強く握ってしまった。

ユミルの存在がマルセルの仇だけではなく過去の自分の失態でもあって思わず力を入れていた。

コニーとミーナの呼びかけにより我に返ったライナーは手を放した。

 

 

「す、すまん…動転してた」

「ううん、ありがとう。助かった」

 

 

クリスタは初めてライナーに心の底から感謝したのを実感したが彼はそれどころじゃなかった。

 

 

「クリスタ…ユミルが巨人だって事、知ってたのか?」

「知らなかった…3年間も一緒に居たのに…あれがユミルなの!?」

 

 

ライナーの問いにクリスタは返答をする事はできなかった。

一緒のベットで同衾した時でもこんな秘密など教えてくれなかった。

 

 

「つまり、あいつはこの世界の謎の一端を知っていたという事か」

 

 

ユミルは壁外の産物である缶詰やマーレが使用している文字を読めた。

その時点で、壁外出身だと察したが顎の巨人の継承者だとは夢にも思わなかった。

冷静に考えれば、マルセルが巨人に喰われたら継承される為、人間に戻れるはずである。

もし、あの時に逃走しなければと思ったが後の祭りである。

 

 

『いや!もっと大切な事があった!』

 

 

ここでライナーはさらに重要な事を見逃したのに気付いて後悔した。

ユミルの事を考えていたせいでクリスタのスカートの中を覗くを忘れていた。

ミニスカート状態であり、塔から落ちそうになった時、ブーツをしっかり掴んでいた。

つまり合法的にクリスタのスカートを覗いて生パンを見れる絶好の機会であった。

二度と訪れない奇跡の瞬間に立ち会ったにも関わらず彼は見逃してしまった。

大体、マルセルのせいだが、もう一度、塔が揺れて同じ状況になって欲しいと願った!

 

 

「ああ、そうだね!正体を明かして兵団に貢献する事ができたはずだ」

 

 

またしても何も知らないベルトルトは相棒の発言を肯定した。

 

 

「エレンみたいに!でもそうしなかったのは…そうできなかったのかな」

 

 

しかしベルトルトは油断しなかった。

すかさず「エレン」と発言したのは、ライナーが正体をカミングアウトするかと思ったからだ。

「こいつも5年前にシガンシナ区を破った超大型巨人だ」などと発言されてないように釘を刺した。

何を考えているのか分からないせいで牽制する必要があった。

ライナーがクリスタの下着の事を考えているなんて夢にも思わなかったが。

 

 

「エレンは巨人になれるのは知らなかったけどユミルは知っている感じだったわね」

「あの暴れっぷりからそうだと思ったぜ…あいつはどっちなんだ?」

 

 

ミーナとコニーは、ユミルが人類の敵か味方か分からなくなった。

味方と思いたいが、今まで巨人の力を隠しているのは不自然過ぎた。

コニーに至っては、ユミルと喧嘩する機会が多いせいで判断に困った。

 

 

「どっちって…ユミルが私たちの敵だとでも言うの?」

「考えてみればどんな状況でも涼し気な顔をしてたからな。こんな力があれば当然だろうが…」

 

 

クリスタはユミルが人類の敵だとは思えなかった。

かつては誰かの為に…今でも自分達を守るために交戦しているユミルが敵のはずではない!

何か事情があって自分に報告できなかったと信じるしかなかった。

 

 

『…ダズをあの崖から無事に降ろせたのはこの力のはず!』

 

 

ユミルは歯に衣着せぬ辛辣な発言をするが、何かとお節介で優しかった。

ダズをミノムシと称していたのに冷静な判断を下して助けた時点で女神だった。

 

 

『ねぇユミル…ロープも無しにどうやってあんな崖からダズを降ろしたの?』

『うーん、お前ならいいか…』

『ただし約束だ!私がその秘密を明かした時、お前は元の名を名乗って生きろ!』

 

 

これが彼女の秘密であり、人類に敵対するリスクを知っていながら披露してくれた。

ならば、次は自分の本当の名を告げないといけない!

女神クリスタ・レンズはここで終わって!

ヒストリア・レイスと名乗ってユミルと一緒にクリスタは自由に生きるつもりだ!

 

 

「信煙弾を撃ったわ!これで誰か気付くといいけど…」

 

 

ミーナは親友からもらった黄色の信煙弾を上空に向かって撃ち上げた。

黄色の意味は、作戦成功か、非常事態の意味である。

細かな指示ができないのが難点だが、緊急時に撃つには最適な物であった。

願わくば、すぐに援軍が来ることを祈り、一同は塔の屋上で祈っていた

 

 

-----

 

 

『ライナー!!わたくしに何させる気なの!?』

 

 

巨人と交戦しているフローラはライナーの負の感情の“声”を聴いた。

女神の下着を見るのを諦めた彼は、フローラに確認してもらって同様の下着を購入してもらう。

そして彼女と同じ香水を下着に付着させて譲渡して欲しいという感情だった。

ぼそぼそと話しかけてくる声に本気で気持ち悪かった。

 

 

『あんたたちに恨みは…ありまくるわ!!』

 

 

怒りでパワーアップしたフローラは次々に巨人の首を刎ねていく。

ユミルも必死に巨人の弱点を潰していくが多勢に無勢だった。

 

 

「ユミル!後ろは、わたくしに任せて!!」

 

 

すぐにガスが切れるのを悟ったフローラはユミル巨人の首の後ろにアンカーを突き刺した。

逃げにくいので巨人に掴まれて捕食される可能性が高いがこうするしかできなかった。

ユミルの巨体の動きに翻弄されながらも必死に後方で応戦するフローラ!

 

 

「多い…」

 

 

指を切り、腕を抉り、目を折れた刃で投擲して傷付けて、首を刎ねても終わる気配がなかった。

それどころか戦闘能力が低いユミルの巨人が押されてしまい圧倒的に不利になった。

複数の巨人に足を引っ張られてユミルは塔から手を放して応戦し続けた。

 

 

「なっ!ユミルの奴、手を放しやがったぞ!?」

「まるで塔の損傷を気にしてるみたい…」

「……そうだよ!巨人の力を使えば1人で逃げられるのに私達を命懸けで守ろうとしてるから!」

 

 

コニーとミーナの感想を聴いてクリスタは確信した!

ユミルはあんな姿になってもユミルであり大切な人だと!

自分たちを守るために勝てない戦いをしているのだと!

フローラが頑なに無視されているが、彼女はそんな事など気にしてられなかった。

 

 

「おいまずいぞ…」

「おそらくフローラはガス切れが近いな!動きが鈍すぎる」

「いやいや!この短時間で6体の巨人の首を刎ねてるんだけど!?」

「あとその4倍の数を倒してくれないと無理だぞ!」

 

 

 

巨人化したユミルは複数の巨人に襲われて身動きが取れなくなった。

フローラは救助したいが、目の前に居る巨人6体に手古摺っていた。

同時に巨人を相手にできるのは3体までの彼女には荷が重かった。

 

 

「なんでよユミル!!」

 

 

クリスタは、ユミルが秘密を暴露したのに自分の本当の名を知らずに死ぬ気だと分かった。

女神を演じている自分を嫌がった癖に彼女は同じことをやろうとしていた。

頼みの綱のフローラは5体の巨人による同時攻撃を回避するので精一杯に感じられた。

 

 

「こんな所で死ぬなユミル!」

 

 

クリスタは必死に叫んだ!

塔から飛び降りる勢いでしゃがんでコニーが支えようとするのを気にせずに叫んだ!

その声は、ユミルの耳にもしっかり聴こえた!

 

 

 

「なに良い子ぶってるの!そんなに格好良く死にたいのか馬鹿!!」

「おいクリ…」

「性根が腐っているのに今更天国に行けると思ってるの!?このアホが!!私にあれだけあんな事言っておいて自分だけ勝ち逃げをするつもり!?お前こそ自分の為に生きろよ!!」

 

 

豹変したクリスタに1名を除いて誰もが驚いた。

ライナーは、彼女の意外な一面を見れて満足したと同時に罵倒して欲しかった。

妄想は更に研ぎ澄まされていき、無駄に彼の“声”で聴かされてフローラは無理やり追体験した。

 

 

「こんな塔を守って死ぬくらいなら…こんな塔なんてぶっ壊しちゃえ!!」

 

 

愛するクリスタの本音を聴いたユミルは塔の石壁を破壊し始めた。

寄ってくる巨人に石を投げつけて、大きく溝を作るように塔を解体していく。

 

 

「本気で壊しやがった!?」

「嫌ああああ!フローラ助けて!」

「やりやがった…」

「いいぞユミル!!」

 

 

ハイテンションになったクリスタは立ち上がって塔が倒れそうにも関わらずガッツポーズをした。

意外と活発的で今まで抑圧された感情が解放される様に自由になった。

さっきまで自由だった女が必死に巨人の足を削いで動けなくしてるのを考えると一番自由だ。

 

 

「うおっ!?」

 

 

目の前に巨人が出現してベルトルトは思わず右手を噛んで巨人化しようとした。

普通ならそんな事をしないがマルセルを喰った巨人にトラウマがあったからだ。

中身がユミルで味方だと知っても生存本能でやってしまいそうだった。

 

 

〈イキタカツカアレ〉

 

 

 

「生きたかったら掴まれ」と聞こえたライナーが真っ先に巨人の髪の毛を掴んだ。

それに続いてクリスタとミーナが続いてコニーも髪の毛を掴んでいった。

ここで助けてもらえると分かったベルトルトはようやく手を噛むのを止めて皆の行動に従った。

 

 

「い、いけえええええ!!」

 

 

巨人化したユミルの髪の毛にしがみ付く5名はただ塔が倒れてくれるのを祈った。

これで複数の巨人の足止めできれば充分と考えるほどである。

あくまで身動きが取れなくなれば、逃げ切る事は可能だからだ。

崩壊したウトガルド城の建物はヘニングの死体と共に複数の巨人を瓦礫の下に追いやった。

 

 

「まさか巨人を塔の下敷きにするとはな…」

「これで何とかなれば良いけど…」

「おいフラグを建てるのを止めろ!」

 

 

音を立てて崩壊した古城の音は遠く離れた地域にも聞こえたはずだ。

土埃のせいで中々息ができなくて苦しかった104期調査兵だが全員無事だった。

 

 

『これは…避難させた方が良いわね!』

 

 

援軍の音を感知したフローラは、同期達に安全地帯に誘導させるつもりだった。

ここは平原、巨人と追いかけっこで勝てるわけがない不利な場所だったからだ。

振動と共に巨人が立ち上がってくるのもあった。

 

 

「巨人が立ち上がってきたぞ!ブス!フローラ!早く止めを刺せよ!」

 

 

巨人が体勢を立ち直したのを見たコニーは、当然の様に発言した。

確かに無防備でどうしようもない状況だったが、彼女たちは当然、分かっていた。

 

 

『…んな事、分かってる!!』

『さすがにこの数は瞬殺できないわよ!!』

 

 

クリスタに背中を押されたユミルは必死に無垢の巨人のうなじを噛み付いた!

フローラの場合は、アンカー射出と双剣の構えのせいですぐに動けなかった。

 

 

「やべぇ…ユミルがやられる!」

 

 

コニーの指摘通り、ユミルは巨人の群れに抑えつけられて身体を喰われ始めた。

必死に抵抗しているが、これではすぐに喰われてしまう。

フローラもあの中に突っ込むのは危険と判断してどうする事も出来なかった。

 

 

「このままじゃユミルが巨人に喰われるな…」

「ああ、相当まずいよ!」

 

 

ユミルの巨体の部位を分散させて喰おうとしている巨人たち。

ベルトルトとライナーは彼女が巨人に捕食されるのを危惧した。

どちらかと言うと巨人に捕食された後を気にしていた。

もし、捕食されて引継ぎされれば、エルディア人が事実に気付いてしまうからだ。

 

 

「そんな…待ってよユミル!」

 

 

やっと本当の名前を告げられると思った矢先にユミルが喰われるとクリスタは判断した。

 

 

「まだ話したい事があるから…私の本当の名前、教えてないでしょ!」

 

 

同期の制止を振り切って、ユミルに近づいたクリスタ。

そんな彼女の想いを踏み躙って捕食するかのように瓦礫の影から巨人が出現した。

 

 

『やだ…まだ名前を伝えて無いのに…』

 

 

フローラが世界一美味しいお肉なら彼女は二番目に美味しいお肉である。

目の前にご馳走が生えたのを発見した巨人は泣いた女の子を掴もうとした。

 

 

「わ、私の名は…」

 

 

クリスタは最後まで自分の本当の名前をユミルに告げる事は出来ないのだろうか。

すると金髪の少女を捕食しようとした巨人のうなじを何者かが削いだ!

うなじを抉られた巨人は蒸気を噴き出して派手に倒れた。

 

 

「ミ、ミカサ…!?」

 

 

絶体絶命のピンチを救ったのは同期であるミカサ・アッカーマンであった。

104期訓練兵団を首席で卒業した最強の女。

巨人討伐数と友人の数と不死身さ以外ではあらゆる面でフローラを凌駕する存在である。

 

 

「クリスタ…みんな下がってて!後は私たちに任せて!!」

 

 

瓦礫の上に飛び乗ったミカサの遥か真上に立体機動を行なう調査兵たちが居た。

次々と巨人のうなじを削いで討伐していく頼もしさに全員が笑みを浮かべた。

 

 

「間に合った…」

 

 

ミーナの放った信煙弾とウトガルド城跡の崩壊でハンジ班が気付くことができた。

間一髪、先行したミカサが巨人のうなじを削いでクリスタは五体満足で生還できた。

 

 

「ああ、良かったわ!これで休める」

 

 

ここで一番嬉しかったのはフローラだった。

巨人化したユミルにぶら下がって巨人を滅多切りにしていた彼女の身体は限界だった。

文字通り、気のままに飛び回るユミルの動きに振り回された彼女は傍観する予定だった。

 

 

「後続は散開して周囲を警戒!他の兵員は巨人討伐と104期の救助へ向かえ!」

 

 

珍しくハンジ分隊長が分隊長らしい指示を出してるとフローラは思っていた。

現在戦闘を行なっているのは自分が所属している第四分隊。

全員、顔馴染みであり彼らの顔を見た瞬間、彼女の力が抜けた。

 

 

「おっ!フローラ…この厳しい状況下で君は本当によく持ち堪えてくれたよ」

「疲れました…あとはお願いします」

 

 

フローラはこれで休めると思い、適当に上官に挨拶して眠るつもりだった。

巨人と戦闘中に眠るわけにはいかないが、そう思うほど身体が限界だった。

 

 

「刃もガスも切れたんだね!ちゃーんと用意してあるよ!」

「…えっ?」

「ほら、ぼさっとしてないで君も装備を身に着けて交戦するんだよ!」

「待ってください!女型の巨人戦からぶっ通しで戦い続けて身体が…」

 

 

まさかの参戦指示にフローラは混乱した。

ハンジ分隊長からすれば、何でフローラが巨人との戦闘に消極的になってるのか分からない。

エレンと同じ巨人を駆逐する夢がある以上、その手助けをしただけであった。

 

 

「ぎゃああああ!フローラ!助けてくれ!!」

「喰われるぅううう!!」

「あなたたち助けにきたんじゃないの!?」

 

 

フローラは無意識に装備を変えていると、巨人に捕食されそうな調査兵が続出した。

さきほどまで新兵に気を取られたり、瓦礫を退けて立ち上がってきた巨人が脅威になってきた。

奇襲攻撃のタイミングを逃した瞬間、巨人に掴まれて同僚が喰われそうになった。

 

 

「あああ!!もう!!」

 

 

休めなくなったフローラは無防備な同期どころか同僚を助けに向かった。

それを見たハンジ分隊長は満足そうに頷いて彼女に同行した。

フローラの闘いはまだ続いていく…。

 

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