進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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73話 正体

「いける!」

「あんたは攻撃しなくていい!!」

 

 

エレン・イェーガーはユミルの巨体を齧る巨人に向かってアンカーを射出した!

人類の希望である彼の軽率な行動にハンジ・ゾエは焦ったが頭進撃を止めることはできなかった。

 

 

「死ね!」

 

 

巨人に不意打ちをして見事にうなじを削いだエレン!

訓練では何度も成功してきたが実際に巨人を討伐する快感をようやく味わう事ができた。

 

 

「やった!!討伐数1!」

 

 

なにより巨人を始めて公式記録として討伐できたのが嬉しかった。

巨人体ではトロスト区で巨人を20体ほど葬ったが公式記録で残るわけがなかった。

ようやく訓練の成果を果たせた彼は、嬉しさのあまり着地の事を考えられず、地面に衝突した。

 

 

「馬鹿野郎!下がれ!」

「痛たた…はい、すみません…」

 

 

先輩からの叱責でエレンは申し訳なさそうに頭を下げた。

「巨人を1匹残らず駆逐してやる」と決意したのに討伐実績0は情けなくて悔しかった。

謝りながらもこの調子で頑張っていけばライバルのフローラを越えると思っていた。

 

 

「えっ…」

 

 

顔をあげたエレンは見てしまった。

同じ夢を掲げた同志であり同期でありライバルであるフローラ。

そんな彼女は、続けざまに巨人の首を刎ねて巨人を討伐していく姿を見てしまった。

巨人のうなじを削ぐのではなく、首ごとぶっ飛ばすという豪快過ぎる攻撃。

自分は叱責されたのに同じように討伐した彼女には歓声があがっていることに。

巨人を初めて討伐して満足していた自分が馬鹿らしくみえるように。

 

 

『負けられねぇ…!』

 

 

エレンは考え直した!

1人では彼女の記録は越えられないと!

 

 

『みんなの力でフローラを越えてみせる!』

 

 

さきほどまでオルオの討伐実績の自慢で感化されていたエレンは決意した!

リヴァイ班や先輩たちと協力して巨人を討伐していく事に!

 

 

『痛いわ…』

 

 

一方その頃、フローラは巨人の討伐による疲労で限界だった。

首を刎ねるのは刃が欠けていてもできるので刃の消費は抑えられる。

その代わりに腕への負担が異常に掛かってしまって両腕から血が滴れ落ちていた。

巨人の首を刎ねるのはそれだけの衝撃が両腕に負荷をかけてしまうと同意義である。

先人が思いついて、あえてやらなかった理由だった。

 

 

「すごいよフローラ!一体どこでその技能を磨いたんだ!?」

「ハンジ分隊長、磨いたのでなく刃が枯渇したせいでやらざるを得なかったんです!」

 

 

ハンジは直属の部下が巨人の首を刎ねるのを見てリヴァイを越えたと実感した。

しかし、彼女の興味を惹く技能は産廃、つまり戦闘教義には加える必要が無いものだ。

ただ、こういった失敗の積み重ねが新たな技術確立と成功に繋がっていく。

巨人を討伐する手段が『うなじを削ぐ』から『うなじを破壊する』に発想が変化した。

これは後に【地獄の処刑人】という対巨人兵器に繋がっていく事となる。

 

 

「フローラ鬼つええ!このまま巨人を1匹残らず討伐しようぜ!」

「なんで救出しに来た貴方が他人事なの!?」

「だって俺らが1体の巨人を狩る時間で、お前は複数の巨人を討伐できるし…」

 

 

新兵を助けに来た兵士が逆に新兵に助けられてしまった時に思わず発言してしまった言葉。

それがフローラの耳に届いて彼女は抗議したが完全にスルーされる結果で終わった。

もっとも誰もフローラを新兵と認識しておらず【人類最強の女】として認識されていた。

その結果、彼女の巨人討伐がただのショーになってしまった。

 

 

『もうやりたくないのにいいいいい!!』

 

 

かつて専用馬を入手する資金作りでカラネス区壁外で単独巨人討伐ショーをやった。

その結果、成功して半日も掛けずに大金を入手した経験がある彼女。

奇しくもその影響が今にも響いており調査兵もハンジもフローラが活躍するのを期待していた。

要するにこの惨状を招いたのは、フローラの自業自得だった。

 

 

「なんでこっちに来るんだ!!」

 

 

ライナー・ブラウンは飛び掛かってくる8m級の巨人から逃げ回っていた。

ただし、あらゆる面で向こうの方が勝っており彼が捕まるのも時間の問題だった。

その前に巨体に衝突して肉塊になるのが早いかもしれない。

 

 

「こっちだ!!」

 

 

アルミンが巨人に向かって怒鳴り声をぶつけた。

目の前の獲物に夢中だった巨人であったが一瞬、彼の方に気を逸らした。

その瞬間、閃光弾を撃ち込んで巨人の視界を一時的に封じた。

 

 

「アルミン!?」

「ライナー、ここは僕に任せてくれ!!」

 

 

ライナーは非力だったアルミンの成長に驚きながら彼に任せて逃亡した。

ただでさえ負傷した身のうえ、寝不足で頭が一切まわっていないのもあった。

 

 

「無事か!?」

「いや、無事じゃない…クリスタに診てもらわないと…」

「馬鹿な事言ってないで早く城壁の影に隠れるんだ!!」

 

 

頼れる兄貴分だったライナーが夢か現実か区別がついてない様にふらついていた。

このままでは巨人に捕食されると思ったベルトルトが彼の手を握り、必死に逃げた。

 

 

「うわああああ!」

 

 

ライナーを無事に逃がす事に成功したアルミンも逃げ回った。

当初は、自分が囮になって先輩2名に巨人を狩ってもらうつもりだった。

ところが先輩方は新手の巨人と交戦してしまったので孤立無援の状態で逃げ回る羽目になった。

 

 

「ぐっ!…よし!」

「モブリット副長!?あ、ありがとうございます!」

「調査兵団の未来を担う新人を喰わせるわけにはいかないからね」

 

 

モブリットはアルミンが掴まれる寸前、間一髪にうなじを削ぐのに成功した。

参謀タイプの彼は、アルミンを高く評価しており、こっそりついてきていたのが功を奏した。

 

 

「うおおおっ!?喰われる!早く助けを!」

「いい加減にしろ!!アニや僕に散々迷惑をかけやがって!!せめて喰われる前に自害しろ!!」

 

 

せっかく隠れていたのにコニーを狙う巨人を見つけて突撃していったライナー。

頼れる兄貴分と兵士ごっこを楽しんでいた彼は巨人に掴まれて捕食されそうになっていた。

あまりの馬鹿さ加減に苛立ったベルトルトは初めて彼に強い口調で叱責した。

 

 

「ライナーを!放せ!!下衆野郎が!!」

 

 

妄想癖が激しくて戦士組に迷惑をかけているライナーであったが救いの手は差し伸べられた!

散々気持ち悪い妄想を聴かれたフローラだったが彼を見捨てるほど薄情ではない。

 

 

「わりぃ助かったぜ…ホントお前は頼れる仲間だよ」

「疲れている上に負傷者なんだから大人しくしなさいよ!」

「ああ、ベルトルトにも怒られたよ」

「クリスタと仲良くなりたいなら大人しく負傷兵として振舞った方が良いわよ?」

「確かにこういう事には怒りそうだもんな」

 

 

視界が霞んでいるフローラは、最後の力を振り絞って巨人のうなじを削いだ。

手を離されて落下するライナーを抱き込んだ彼女はアンカーを刺した死骸を利用して着地した。

以前、こうやって彼から助けられた彼女はようやくあの時の恩返しができた瞬間だった。

 

 

「ライナー…今度やったら絶交するぞ!!」

「さすがにやり過ぎた…すまん」

 

 

ウトガルド城でまともに寝たのはフローラだけで他は全く眠れなかった。

その為、疲労と寝不足と空腹で判断力が鈍ったベルトルトは相棒に暴言を吐くほど苛立っていた。

温和な性格で協調性しかない彼には相応しくない険しい顔を見た頭兵士は素直に反省した。

 

 

「まあ、その英雄志望さもライナーの良い所だからね…なんとも言えないわ」

「ああ、仲間が黙ってやられる所を見てられない…これ以上失いたくないんだ!」

「そんなライナーにプレゼントをあげるわ」

「なんだこれ」

 

 

理性と本能の狭間で苦しんでい兄貴分を見かねたフローラは役に立つアイテムをプレゼントした。

トロスト区の技術4班が開発した手投げ式の閃光弾と音響弾である。

 

 

「手投げ式の閃光弾と音響弾よ!ここの安全ピンを抜くと5秒後に炸裂するからうまく使って!」

「いいのか?」

「少なくとも生身で巨人から仲間を助けるよりマシでしょ?」

「ありがとうな!」

 

 

ウトガルド城から妄想を聴かされたせいでフローラはライナーが気になっていた。

男子だからそういった妄想はしてもおかしくないかと我慢していた。

それでも命の恩人であるライナーが巨人に喰われるのが耐えられなかった。

 

 

「フローラ、ライナーに気を配り過ぎだよ…」

「ベルトルトがそんな事言うなんて、よっぽど馬鹿をやらかしたようね」

「分かってるなら本気で止めて欲しいよ!!」

「それがライナーの良さであるんだからどうしようもないわ」

 

 

ベルトルトの懇願を軽くあしらって肩を竦めてフローラはそれどころじゃなかった。

今までの経験上、絶対これで終わるとは思えないからだ。

新たな変異種か、それとも巨人の大群が別の場所に出現するのかは分からない。

ただ、ここの巨人を掃討して終わりなどという楽観視などできるはずはなかった。

 

 

-----

 

 

「何やってきたんですか?」

「ストレス発散の為に石投げを…」

「ついに頭脳まで【頭うんうん】になったんですね」

「ぐおっ…痛いよ!心が痛い!!」

 

 

昨日、散々な目に遭ったジーク・イェーガーはストレス発散で岩を投げてきた。

島の悪魔を巨人化させて動きと生態を観察する実験自体は成功していた。

ところがあの悪魔のせいで死にかけるわ、ピークに嫌われるわ、良い事とは無かった。

マーレ兵すら自分を汚物のように見てくるせいで彼は精神的にすり減っていた。

だから先日まで居た古城に岩を投げて満足して帰ってきたらこの有様だった。

 

 

「作戦が成功しましたので早く【悪魔の島】から脱出しませんか!」

「ああ、そうだ!こんな魔境に居たくねぇ!」

 

 

マーレ兵たちは壁内の異様な雰囲気に押されていた。

300匹以上のエルディア人を巨人にしたのに巨人化した以外では1体も目撃していない。

つまり既に討伐されたかそれに近い状況だと分かった。

獣の巨人が返り討ちに遭ったという情報が無ければ考えもしなかった。

 

 

「そういえばこの作戦の意図って何でしたっけ?」

「まずは俺の脊髄液が島内のエルディア人にも通用するか、また操れるかが目的だった」

「【うんこ漏らし】には聴いて無いんですけど?」

「一応、現場責任者だからそれくらい話させてくれよ」

 

 

ジーク率いる特殊部隊がパラディ島に来たのは島内のエルディア人の調査及び実験だった。

5年前に潜入した戦士4人組の連絡が途絶えており、痺れを切らしたマーレ上層部に送り込まれた。

とはいえ、広大な壁内から潜入している戦士を探しだすのは不可能である。

 

 

「始祖の巨人の継承者が手強いのでしょう。ここは陽動作戦をしてみては如何でしょうか?」

「…何が言いたいのだ?」

「今後のマーレの更なる発展の成果を得られる実験を兼ねた威力偵察というのはどうでしょうか」

「ふむ、さすがに保護しているエルディア人では人体実験できんな…マガト、貴公に一任しよう」

「ありがとうございます」

 

 

そこでマガト隊長は、ジークの脊髄液が島内の悪魔に通用するか試験を兼ねた潜入調査にした。

頭マーレである軍上層部には、今後のマーレに発展に不可欠な実験と嘘をついて納得させた。

そうしなければ、島内に潜入させた戦士組の家族が【楽園送り】される危険性があったからだ。

『成果がなければ即座に用済み』、それがエルディア人を使役するマーレ軍の上層部の思考だ。

 

 

「今までと比べて遥かに危険な任務だが頼めるか?」

「もちろんです。必ず成果を持ち帰ってみせます!」

「頼んだぞ!ただでさえ『成果』を欲しているのだ。成果を得られずに帰還はできないからな」

「大丈夫です!やりきってみせます!」

 

 

マガト隊長は、特殊部隊4名とピークを編入したジーク班を結成し、パラディ島に潜入させた。

敵対国家の想像を上回る技術発展により対巨人兵器が次々に産声をあげている。

例え戦士組と再会できなくとも、実験結果を得られれば軍上層部を満足させられると考えていた。

時には冷酷なマガト隊長でも4名の戦士の家族を楽園送りにさせるつもりは断固として無かった。

幸いにも特殊部隊の発言は、軍上層部にも信頼されているので証人としてはうってつけであった。

 

 

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『マガト隊長は正しかった…冗談抜きでやべぇ民族だった。そりゃあ全世界から迫害されるわ…』

 

 

あの時、軽い気持ちで作戦を承諾したジークは、【エルディアの悪魔】に分からされた。

自分たちが迫害される理由、そしてこの世に存在しちゃいけない理由を!

とはいえ、実験結果が出た以上、一度船に帰還して指示を請うつもりだった。

 

 

「私は島内の悪魔が巨人になる実験しか知らされてませんが他にあったのですか?」

「そうだ、むしろそっちの方が重要だったからな」

「勿体ぶらないで早く教えてくださいよ!うんこ漏らしの戦士長」

「ああ、簡潔に説明するぞ」

 

 

大便と小便で汚されたピークは、一生ジークを許さない。

それが分かっているからこそ、ジークは彼女の発言の訂正を求めなかった。

 

 

「ピークちゃん、【異形の巨人】って知ってるかい?」

「エルディア帝国から使役されている強力な無垢の巨人の事ですよね」

「うん、間違っていないが、実はそいつらは特別な脊髄液で作られた人為的な巨人なんだ」

 

 

本人たちが知る余地はなかったが、壁内人類に【変異種】と呼ばれている巨人。

それは壁外では【異形の巨人】と恐れられる強力な巨人である。

無垢の巨人とは違って、特殊能力を所持しており、初手でうなじを狙っても倒せない強敵である。

 

 

「何が言いたいんです?」

「【異形の巨人】はな…俺らの脊髄液、つまり複数の巨人継承者の脊髄液で誕生したものなんだ」

「そういえば、定期的に抜かれましたね」

「もちろん、そのまま使っても無垢の巨人にしかならないが、ある条件で奴らが生まれるんだ」

 

 

かつて存在したエルディア帝国から使役されていた異形の巨人。

しかし、とある理由のせいで無垢の巨人と比較すると圧倒的に作られなかった。

 

 

「例えば顎の巨人が居るよな!その脊髄液に少量の俺の脊髄液を加えてある事をすると誕生する」

「そういえば、顎の巨人みたいな異形の巨人が居ましたね」

 

 

ピークは、数週間前に顎の巨人そっくりの異形の巨人を目撃した。

褐色の肌に全身に刺青が入ったような風貌を忘れられるわけがなかった。

 

 

「話を戻すが、その顎型の異形の巨人は、複数の脊髄液によって誕生する事は分かるよね」

「そこまでは分かります」

「つまり弱点が本体のうなじと、もう一カ所に点在してるってわけだ」

 

 

変異種は、通常種と違ってうなじだけを攻撃しても効果がほとんどない。

理由は、本体がうなじだけではなく複数に点在しているからだ。

異形の巨人を討伐するには弱点部位を潰してからうなじを攻撃しなければならない。

何故ならどっちも巨人を構成している本体だからだ。

 

 

「じゃあ、あの弱点部位は…」

「撃ち込まれた脊髄液を含んでいる器官ってことだ」

「でもそれだと何でうなじは初手で狙えないんですか?」

「分かり易く言えば、うなじを守る為の封印みたいなもんだね」

 

 

全身を張り巡らすように存在する刺青の様な筋は、サブの脊髄液の効果を出させる血管である。

そのおかげで含まれている巨人の脊髄液の効果を発揮できる。

それと同時に本体の脊髄液を守る結界の役割を果たしている。

厳密に言うと初手でうなじを狙えるが、うなじに付近に血管の様な物を塞がないと倒せない。

血栓のようなもので他の脊髄液の力をうなじに届かせないようにすれば倒せる。

でもそこまでするくらいなら、弱点部位を潰してうなじを損傷させる方が楽という物だ。

 

 

「ピークちゃんが見たタイプだと【顎】を基礎にして【戦鎚】と【女型】で構成されている感じ」

「それだとどうなるんですか?」

「弱点部位が2カ所、そして爪を自在に硬質化させて、仲間を呼ぶ性質を持ち合わせた巨人だ」

 

 

カラネス区の壁内に侵入してきた変異種は、顎タイプの異形の巨人だった。

戦鎚の能力で硬質化した鋭利な爪で駐屯兵をこの世から一掃させた化け物である。

また同類を呼び寄せる能力で集団で行動できる知性を有したような行動をしてきた。

 

 

「ただ問題なのはね!複数の脊髄液のせいで凶暴過ぎるんだよ!」

「うんこ漏らしの脊髄液ならコントロールできるじゃないんですか?」

「だからそれを兼ねてこの島で実験を行なったんだ」

 

 

始祖の巨人の継承者が居ないマーレどころかエルディア帝国ですらほとんど使役されなかった。

理由は複数の脊髄液のせいでフリッツ王家の意志さえも無視する事が多々あったせいである。

自由に動かせないどころか反乱してくる兵士など、どれだけ優秀であっても損でしかない。

 

 

「結果はどうでした?」

「最初の内は言う事を聴いたんだが、如何せん、凶暴過ぎて見送る事しかできなかったよ」

「では実験は失敗では?」

「中々厳しい事を言うよねピークちゃん…」

 

 

他の能力者と違って、ジークの脊髄液をエルディア人に投与しただけでは巨人にならない。

確固たる意志を持った彼の咆哮で初めて巨人となる事ができる。

その巨人は、主である彼の支配下であり、月明かりがあれば夜でも進軍できる代物だった。

先代までの獣の巨人継承者にはない能力の為、ジークは【驚異の子】と呼ばれた。

 

 

「いっそ、【獣】を基礎にして異形の巨人を作れば良いんじゃないですか?」

「実は、それは過去に何度もやってきたのだが…できたのが蛇や半魚くらいしかできなかった」

「つまり獣の巨人は役立たずって事ですね!」

「おいピーク!いくら何でも戦士長に失礼じゃないのか!?」

「そうだぞ!これほどマーレに忠誠を誓っている戦士は居ないぞ!」

「はい、言い過ぎました」

 

 

さすがに煽り過ぎたピークに激怒したマーレ兵たちが叱責した。

今やジークの存在なしではマーレという国家が成り立たないほどの重要人物である。

確かに排泄物を漏らした事は、彼らも色々考えたがそれ以上に偉そうにしてる彼女に腹が立った。

彼らからの評価が下がれば『戦士候補生』に喰われる危険性がある彼女は我慢するしかなかった。

 

 

「今回の件でだいぶデータが取れた。いずれ言う事を聞く異形の巨人も夢ではないだろう」

「はい、実験結果では戦士長の話に従う素振りを見せてました!これならいけますよ」

「ククク、敵対国が巨人に蹂躙される光景が浮かぶぜ」

「ふーん」

 

 

ピークからすれば半信半疑のことである。

始祖の巨人を有したエルディア帝国ですらまともに運用していなかった異形の巨人。

いくら時代と研究が進んだからと言ってそんな好都合などあるわけがないと思っていた。

 

 

「良いんですか?“アジ・ダハーカ”の伝説のように異形の巨人が暴れても?」

「それだよピークちゃん!壁内でわざわざやったのはそれが理由だよ!」

「はぁ?」

「ここなら異形の巨人が暴走しても全世界に損害は被らないからな」

 

 

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かつてエルディア帝国では、“アジ・ダハーカ”と呼ばれる異形の巨人が居た。

フリッツ102世が始祖の巨人を除く8つの脊髄液を使用して作られた巨人だった。

 

きっかけは、エルディア帝国が属国や敵対国などの50か国以上に増税を課したせいだった。

強大な力があった故の傲慢さが各国を団結させてエルディア帝国に反旗を翻してしまった。

さすがに全世界を相手にはできなかった帝国は、彼の指示の元で最強の脊髄液を2つ作った。

それは圧倒的な強さで連合国を次々に滅ぼして当時の人と動物の1/3を殺戮したほどであった。

 

 

『陛下、アジ・ダハーカが操作不能です!帝都に向かってきます!!』

『馬鹿な…始祖の巨人の操作を受け付けないはずが…』

 

 

ところが生み出した【殺戮兵器】は敵国を全て滅ぼした後、エルディア帝国に牙を剥いた。

フリッツ王は【座標】の力で必死に操作しようと試みたが無意味だった。

8つの脊髄液の影響のせいか【始祖】に近い異形の巨人はフリッツ王すら歯向かった!

 

()()()()()()()()()()()()ではあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それは動く者全てを捕食対象にしており、巨人さえも対象としているほど凶暴な化け物だった。

たった3日で、2万の無垢の巨人で構成された軍団が滅ぼされた。

 

 

『ファリードゥーン・ブラウン!クルサースパ・イェーガー!諸君らの健闘を祈る!』

 

 

時間稼ぎに成功したフリッツ王は、最高戦力の2名に異形の巨人討伐を命じた。

当時の鎧の巨人と超大型巨人の継承者は従者たちと共にアジ・ダハーカに戦いを挑んだ!

ファリードゥーンは、超大型巨人の大爆発で攻撃したが奴を大怪我させる事しかできなかった。

体高40m、全長200m以上の3つ首で尻尾が生えた異形の巨人を仕留めきれるわけがなかった。

結果として戦闘を開始して3代目の超大型巨人の爆発でようやく討伐できたほどの怪物とされる。

 

 

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「まあさすがに伝説なので本当なわけがないと思うが…」

「いや、残念ながら事実だ!」

「頭うんうんにしては、中々メルヘンチックな事を言いますね」

「ついでにその脊髄液が今、ピークちゃんが持ってる木箱に保管されているぞ」

 

 

マーレ兵は、速やかにピークから離れた。

厳重に梱包された木箱を怪しんだ彼女は違和感があった。

だが真実を知って青ざめて震えながら小さな木箱を静かに地面に置いた。

 

 

「な、なんでこんな物を持ち込んだのですか!?」

「それが唯一、【地鳴らし】に対抗できて始祖の巨人の操作を受け付けない巨人だからさ!」

 

 

かつては栄華を誇ったエルディア帝国は『巨人大戦』という内戦で疲弊して自滅した。

その隙を突かれて世界から報復されたエルディア人は世界最大の難民となった。

そして同族の大半を置き去りにしてパラディ島に退いたフリッツ145世は抑止力を作った。

世界を踏みつぶせる幾千万の超大型巨人を抑止力として以降100年以上、鎖国してしまった。

しかし、マーレの英雄へ―ロスは、同志のタイバー家からそれに対抗できる兵器を授かった。

かつての破壊者である“アジ・ダハーカ”と同格の異形の巨人が作れる脊髄液を入手した。

 

 

「まさか…これをここで使うおつもりですか!?」

 

 

ピークの一言によってジークを除く全員が身体を硬直させ固唾を呑んで彼の返答を待った。

 

 

「…んなわけないじゃん!あくまで『地鳴らし』された時に報復で使う奴だよ」

 

 

全員が安堵して汗を拭きとって帰り支度を始めた。

壁内人類を護っている50mの壁が海外を滅ぼす超大型巨人で作られているのを知ってるからだ。

 

 

「そういえば“アジ・ダハーカ”を討伐したエルディア人の苗字にイェーガーが居ますよね」

「ああ、それは先祖が伝説にあやかって付けたものだ。特に血筋には関係ないぞ」

「ふーん」

「ブラウン家は王家の武家しか名乗るのを許されなかったから英雄の血を引いてるじゃないかな」

「ライナー如きが?冗談は顔だけにしてくださいよ頭うんうん!」

「ひでぇホントひでぇ!俺、泣いちゃうよ」

 

 

ピークの辛辣な一言にジークは心が折れそうになった。

まあ、エルディアの悪魔と相手をするより大分マシであるが。

 

 

「どうぞご勝手に」

「うえーん!ピークちゃんが俺を虐めるううううううう!」

「うるさい!」

「はい…」

 

 

ジークは素に戻って帰り支度を始めた。

研究成果と実験結果をマガト隊長に報告する為に。

 

 

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『あれ?』

 

 

フローラは何事もなく巨人を一掃できてしまったのに困惑したがすぐにそれを忘れた。

クリスタがユミルに「ヒストリア」の名前を告げていたのを聴いていたがどうでもよかった。

そして移動することになって、ライリーに騎乗してたリーネさんを先輩たちに託した。

 

 

『移動はライリーに任せて寝ましょう…』

 

 

疲労困憊どころか()()()()になったフローラはライリーに騎乗して走らせたまま寝た。

第四分隊と同期たちは、馬を走らせながら寝る彼女に驚きながらも無視をして壁に向かった。

もはや寝たまま馬を走らせる程度ではツッコまれなくなっていた。

 

 

「おいおい、まだ寝てるぞ…」

「誰か起こせよ…」

「なんか、この馬怖いんだよな…」

 

 

元々、どこかにある壁の穴を塞ぎに来た第四分隊は、壁に到着した後、立体機動で登っていった。

もちろん、寝ているフローラは置き去りにされたが、さすがにこれ以上無視はできなかった。

だが、ライリーに睨まれている兵士たちはどうする事もできなかった。

通常の1.5倍もありそうな好戦的な馬に睨まれては経験豊富な猛者も手が出せない。

大声で起こそうとしているが、フローラは起きる素振りすらなかった。

 

 

「俺達は5年前に壁を破壊して攻撃を始めた。俺が鎧の巨人で、こいつが超大型巨人って奴だ」

「……はぁ!?」

 

 

同期であるライナー・ブラウンの発言でフローラは目を覚ました。

50mの壁の上で小声で会話していたが彼女は異常な聴覚で聴き取った。

突然、目覚めた彼女に兵士たちはおろかライリーすらも驚いた。

 

 

「寝不足で頭が可笑しくなったのね…しばいてこないと!」

 

 

寝坊助のフローラはアンカーを壁に突き刺して慣れた手つきで壁に登った。

「最後に登ったのはトロスト区防衛戦以来ね」くらいの懐かしい思い出が溢れていた。

友軍から砲撃されたがそれ以上にピクシス司令や参謀のグスタフさんと仲良くなれた。

だからこそ、壁に登る事自体は良い事だと思って能天気に登っていった。

とりあえず『両親の仇』の名でボケるライナーを軽く平手打ちして正気に戻させる算段である。

 

 

「えっ…」

 

 

そこで彼女が目にしたのは、ミカサがライナーの右腕と首を切り裂いた瞬間だった。

更にミカサは流れる様に隣に居たベルトルトの首に斬り付けて止めを刺そうとしていた。

 

 

ミカサ!!なにやってるのよおおお!?

 

 

それを目撃しながらフローラは操作装置で鞘からブレードを装着。

凶行に走ったミカサを止めるべく双剣を構えて彼女の元に突撃した。

他の連中も同じ考えだったのか駆けつけてきたように感じた。

ミカサが「エレン、逃げて!」と叫んで、アルミンは「エレン!!逃げろ!」と叫んでいた。

まるでライナーたちが人類の敵のような状況な感じがしてフローラは夢を見てると思った。

 

 

「痛っ!?」

 

 

頬をつねると痛みがあったので現実である。

 

つまりミカサはライナーとベルトルトを殺害しようとしたのは事実である。

ミカサやアルミンが、エレンに逃亡を呼び掛けているのも事実である。

首を斬られたはずのライナーがミカサを蹴っ飛ばしたのも事実である。

そして怪我をした2人が巨人が傷を修復させるように蒸気を噴き出してるのも事実である。

 

 

「ええっと…つまり!」

 

 

以上の事からミカサの行動が正しくて、ライナーたちは巨人化能力者であると結論付けた。

その瞬間、フローラは爆風で吹っ飛ばされた。

それどころか付近にあった物や近寄ってきた兵士たちも吹っ飛ばした。

 

 

「…あああっ!?やっぱり!!」

 

 

ウトガルド城跡の巨人掃討戦があっさりしていた理由が分かった。

やはり運命というのは碌でもない物で世界は残酷なのを改めて思い知ったフローラ。

あまりにも戦場で生き残ってきたので誰よりも早く体勢を立て直した。

 

 

『…そう』

 

 

そこで彼女が目にしたのは、上半身を具現化させた超大型巨人と鎧の巨人だった。

シガンシナ区出身なら全員が答えられる名前の巨人である。

そんな壁内人類の仇ともいえるコンビがライナーとベルトルトが居た場所に出現した。

フローラは他人事のように思考をして目の前の衝撃的事実を緩和させようとした。

 

 

『そうか、そうなのね…』

 

 

壁内人類の敵ともいえる2体の巨人が勢揃いした。

いつかは討伐したいと思っていた存在が目の前に居た。

フローラは笑うしかできなかった。

 

 

『もう…ライナーもベルトルトも人類の敵って最初から示してくれれば良かったのに…』

 

 

人類の仇と共に生活を送っていてさきほどまで仲良く話していたというのだ。

自分の命の恩人とも言える2人が人類の敵でしたなんて分かるはずが無かった。

特にライナーに至っては、気持ち悪い童貞丸出しの負の感情を音読された。

あれでどうやって鎧の巨人と結び付けろと言うのだ。

 

 

『あー疲れたわ…』

 

 

とりあえず言いたい事はたくさんあったがフローラが思った事は1つだけだ。

 

 

殺す!

 

 

たったそれだけ。

鎧の巨人がエレンを掴んで壁外へ降りて行ったが彼女からすれば些細な出来事だった。

どの道ここで皆殺しにするのだから。

せめて同期として苦痛なく葬ってあげるのが優しさか。

フローラには分からなかった。

 

ただ言えるのは、商人の令嬢を【エルディアの悪魔】に転生させた存在がそこにいるだけ。

そして悪魔が『ライナーには苦痛よりも絶望を味わせよ』と甘く囁いた。

それと同時に額から双肩から腕から胴体から股間から脚から血が滴れ落ちた。

過剰な興奮によって古傷が開いて【瀝血(れきけつ)】のフローラという異名通りの血塗れの悪魔になった。

 

悪魔は刃を振るう!悪魔は嗤う!悪魔は恐怖の感情を喰らう!悪魔は決意した!

まずはベルトルト・フーバーを殺すと!

これでライナーブラウンに恐怖の感情を教えてあげようと…!

エルディアの悪魔は、蒸気を噴き出す超大型巨人に向かって嗤いながら双剣を構えて突撃した!

 

 

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