進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
「信じてください!ユミルは私たちを助ける為に巨人になったんです!」
「大丈夫、フローラから聞いたよ!安心してくれ!解剖なんてさせないよ!」
クリスタ・レンズもとい、ヒストリア・レイスは、ユミルの丁重な処遇を求めて頭を下げていた。
ハンジからすれば、仲間を助ける為に奮闘したユミルを罰するつもりはなかった。
寵臣のフローラから一通り聞いてるので、どちらかというと王政にどう対応するかが課題だった。
幸いにもユミルが巨人と知っているのは、調査兵団の兵士のみなので緘口令を敷いて隠蔽できる。
エレンの扱いからして碌でもない未来が待っているので、情報統制させる事を考えていた。
「ユミルは我々人類にとって味方です!」
「同衾した事もある私からすれば彼女は見た目よりずっと単純です」
それより『同衾』やら『一緒に入浴』など異様に仲の良さをアピールしているのが気になった。
ユミルとやらの潔白を客観的に証明するつもりが、恋人なのをアピールしている感じだった。
「大丈夫だ、彼女の持つ情報は我々人類の宝だからね。友好的な関係を築いていく予定だよ」
「ありがとうございます…えーっと」
「ハンジ・ゾエだ。ハンジ分隊長って呼んでくれればいいよ」
だがヒストリア・レイスと名乗った少女には警戒するしかなかった。
レイスと言えば、真っ先に貴族であるレイス家が彷彿する。
しかし、そんな高貴な令嬢が偽名を使って訓練兵団に入団できるわけがない。
つまり【忌み子】である可能性があり、この名前を秘匿しないと厄介な事になるのは明白だった。
「ところで君の苗字のレイスってあの貴族の?」
「……はいそうです」
「…そう、よろしくねヒストリア。でも友人と私以外には口外しない方が良いと思うんだ」
「…はい」
事情が分かった以上、瀕死のユミルをトロスト区…ではなくカラネス区に輸送しなけばならない。
原因は、トロスト区における調査兵団の印象が悪過ぎて危険地帯と化していた。
門が使えないと分かると、あっさりカラネス区に拠点を移転した兵団を許すわけがなかった。
逆にカラネス区では調査兵団は英雄扱いなので活動しやすいのがある。
「ニファ!ユミルの様子はどうだい?」
「昏睡状態が続いてますが、右の手足の出血が止まり蒸気を噴き出して再生を開始しています」
「やっぱり巨人化能力者は、人間形態でも巨人の性質があるってことか」
ユミルと呼ばれた少女は、巨人と同じ様に蒸気を噴き出して欠損した内臓と手足を修復していた。
この世の理である質量保存の法則と等価交換を無視した異様な存在である。
「とりあえずカラネス区まで運んでまともな医療を受けさせないとね…丁重な輸送を任せたよ」
「「「ハッ!」」」
医学の知識を齧っているニファに一任してハンジは当初の目的の壁の穴について考えていた。
未だに壁に穴が見つかっていない点についてだ。
では、巨人は壁を乗り越えてきたのか。
あり得るかもしれないが、それを証明する証拠はない。
『まだまだ巨人は奥深いね』と違和感を覚えながら気分転換に歩く事しかできなかった。
「骨折でもしたのか?」
「巨人に腕を噛み砕かれたんだ」
「お前の事だから誰かを守る為にやったんだろ?」
「まあな…だがあの時は、いや何度も死ぬかと思ったぜ」
エレンに心配されたライナーは本音をぶちまけた。
もしクリスタが手当をしてくれなかったら、エレンの様に巨人になって暴れたかった。
それだけ睡眠不足と疲労で頭が朦朧としていた。
「巨人に喰われるのって本当に唐突なんだなアルミン」
「えっ?」
「どんだけ注意深く行動しても1発のミスでお陀仏だ。…このままだと早死にしちまうな」
「…まあ、みんなと行動するだけで違うと思うよ」
「だよなー」
ライナーに名指しされたアルミンは驚いたが彼の言いたいことは分かった。
もし、トロスト区防衛戦で自発的に動けたら誰かを救えたのか。
フローラがミーナを救った様に同期や住民を救えたのか。
少なくともアルミンの悲鳴のおかげで現場に急行できたとフローラは言っていたが…。
ただ自分が言えるのは、仲間が居るだけで違うという事くらいしかなかった。
「自分で選んだが【兵士】っていうのは身体より心が削られるみたいだ」
「もうそうなってるよ」
「ベルトルトはいいよなー兵士として割り切れて…俺は兵士の道がこんな困難だと思わなかった」
ベルトルトは、兵士として悩んでいるライナーに一言を申したかった。
「お前は兵士じゃなくて戦士」だと!
ただし兵士モードである以上、下手に突くと爆発しかねない不発弾を見守るしかできない。
「ここで巨人を止めないと2人の故郷が遠のくからな」
何気ないエレンの一言で彼らは目覚めた。
良く考えれば、故郷に帰れる。
だって、座標とみられるエレンに顎の巨人継承者と思われるユミルが居るのだから。
「そうだよ…!ライナー故郷に帰ろうよ!」
「あーそうだな!俺達、もう帰れるんだな!あと一歩まで来たんだ!」
「おいおい何言ってんだ?まだ壁の穴を塞ぐ任務が残ってるぞ」
さきほどまで兵士の責務って言っていたライナーが故郷を口にしていた。
エレンからすれば、悩み過ぎて気が狂ったのかと思った。
何故なら彼らの故郷は、ウォール・マリアの南東の山奥の村だ。
このまま故郷に直行したら巨人に喰われるだけでしかない。
「おい大変だ!!」
エレンがツッコミを入れる前にハンジ分隊長が駐屯兵たちを伴って合流した。
その中には彼の顔馴染みであるハンネスさんも居てこれ以上の追及を避けた。
「ハンネスさん!?」
「エレン!?まあいい!とにかく伝えたい事があるんだ!」
「何かあったんですか!?」
「壁に穴が見当たらないんだ!!」
「「「「えっ?」」」」
壁破壊箇所を特定する任務に就いていたハンネスが放った一言。
これには穴を塞ぎに来たエレンもアルミンも戦士組の2名も困惑するしかなかった。
むしろ【壁は破壊できない】のを知っている戦士組だったが次の一言で凍りついた。
「その代わり地下を掘り進んできた巨人が出現したんだ!そのせいで駐屯兵が何名も戦死した!」
「なん…だと!?」
「そんな馬鹿な…」
ライナーもベルトルトも地下を掘り進める巨人など知らなかった。
カラネス区に出現した顎の巨人に似た異形の巨人も把握してなかった。
彼らが知っているのは、フローラの話で褐色の巨人は手強い存在だとしか知らない。
5年前に戦士が4名も欠員した影響で、生み出された異形の巨人なのだから知るわけが無かった。
「それでどうなったんですか!?」
「駐屯兵団第一師団が討伐した!だからその巨人については安心していい」
「つまり壁に穴がないのに巨人が出現したのは…」
「ああ、地下から来た可能性があるってことだ」
アルミンの質問にハンネスはとりあえず巨人は討伐された事を告げるしかできなかった。
ハンネス率いる部隊は、クロルバ区の兵とかちあって引き返してきた。
つまりトロスト区からクロルバ区の間の壁には異常はない。
だとすると、地下を掘り進めた巨人が一番怪しかった。
「まさか、ついに地下を掘る巨人が出現するとは…」
「ですが、壁に近いほど巨人が見えない理由にはなります」
「でも第一分隊の連中は南から来たって言ってたんだ」
「複数の穴でも空けられたんですかね?」
「人海戦術で調査するしかないね」
ハンジとモブリットは今後の作戦を考えていた。
エレンの力を使って壁の穴を塞ぎに来たが、問題だったのは壁ではなく地面であった。
壁付近に巨人が居ない以上、ウォール・ローゼ内の中央部に穴がある可能性が高い。
あくまで推測でしかないが、無視できない以上、部隊をどう編成するか打ち合わせをしていた。
『ジーク戦士長が居たんだから多分、その影響だと思うけどなんでこんな事を…』
『あれから5年経っても進展が無いせいで最終警告でもしてきたのか…』
ライナーとベルトルトは、ウトガルド城で顔馴染みの巨人を見つけた。
最初は、自分たちを粛正に来たのかと焦ったがそうではなさそうだ。
だが、戦士長が壁内に潜入してきたという事は、残された期限が短いのは間違いないだろう。
「とにかく気を抜くなよエレン!俺達は先に戻るぞ」
「ハンネスさんも気を付けて!」
「ああ」
エレンは壁から降りるハンネス隊長を見送って空を眺めた。
相変わらず昨日と変わらない水色の空。
雲の動きは意外と速度があるという発見もあったが、それ以外は特に変わらなかった。
5年前から変わらないはずなのに巨人が日進月歩で巨人が変化している。
「エレン、話があるんだがちょっといいか?」
「ああ、いいぞ」
神妙な面持ちで語りかけて来たライナー。
それを見てエレンは何かあったのかと察して快く彼の発言を待った。
「俺達は5年前に壁を破壊して攻撃を始めた。俺が鎧の巨人で、こいつが超大型巨人って奴だ」
「何を言ってるんだよ…」
「ラ、ライナー何を言っているんだ!?」
ライナーの唐突なカミングアウトにエレンとベルトルトが困惑するしかなかった。
エレンからすればそんな事実が唐突に明かされるなんて想定外だった。
ベルトルトから見れば、ライナーはついに壊れたのだと思った。
「俺達の目的は、壁内人類に消えてもらう事だったが、もうその必要はない」
「エレン、お前が一緒に来てくれれば、俺達はこれ以上、壁を破壊する必要が無いんだ」
ライナーは、エレンに分かるように説明した。
自分たちの正体は超大型巨人と鎧の巨人の継承者だという事を!
そして事情があって壁を破壊して巨人を侵入させる必要があったという事を!
エレンが座標の可能性があるので一緒に同行してくれれば、これ以上手を汚さずに済むと!
なにより事情を説明すればエレンが納得して同行してくれると思っていた。
「どうしたんだ急に?」
「ああそうだ、急の話になって済まんが俺達と来て欲しいんだ」
「今から?どこに行くんだよ!?」
「ここだと人が多いしな…3人で移動してる時に話すつもりだ」
さすがにマーレの事を調査兵団の先輩たちに話せないと実感しているライナー。
妥協して3人で故郷に向かう道中で全てを話すつもりだった。
不信感はあるし、なによりエレンが本国で利用される事情を説明しておいた方が良い。
彼の今までの経験からそれが一番だと信じていた。
「で?どうだエレン!悪い話じゃないだろう?ひとまず壁内の危機が去るんだからな」
「うーん、どうだろうな」
「早く決断してくれ!早くしないと戦士長が去っちまうからな…」
優柔不断なのはしょうがないと思うが早く決めて欲しかった。
全てを話せばエレンが納得してくれるとは思わないが勢いで承諾してもらうつもりだった。
「おいライナー、お前疲れているんだよ」
「お前こそ何を言ってるんだ?俺は本気だぞ」
「ベルトルトもそう思うよな?フローラにメンタルケアしてもらった方が良いよな?」
「あ、ああそうだ!ライナーは疲れているんだ!」
事情を打ち明けたのに信じてくれなくてがっかりした。
せっかくあとちょっとで故郷に帰れるというのに。
エレンは疲労による戯言だと思い、ベルトルトも適当に流すつもりのようだ。
とりあえずライナーは、あとでベルトルトに説教するつもりだった。
しかし、彼らは気付かない。
その後ろでライナーの発言でミカサが瞠目して鞘からブレードを取り出した事に…。
「大体さ、人類を殺しまくった【鎧の巨人】が何でそんな相談を俺にするんだ?」
「そんな事を言われても『はい行きます』なんて頷くわけがないだろう」
エレンの返答を聴いてライナーは硬直した。
ようやく自分が馬鹿な事をやらかした事に気付いた。
エレンもライナーに疑いが掛かっているのは知っているが唐突過ぎて信じられなかった。
なんならサシャが清楚貞淑の女となって貴族に嫁ぐ与太話の方が納得できるくらいだ。
「ああ、そうだよな、何をやってるんだ俺は…本当におかしくなっちまった」
「早くいくぞ」
「長居し過ぎたんだな…こんな馬鹿たちに3年間も居たら感化されるか」
ライナー・ブラウンは戦士である。
だが壁内では、兵士として振舞わなければならない。
だから兵士ごっこをして…兵士として同期を救い巨人を討伐しようとした。
エルディア人を救って世界の英雄を志望した少年は、悪魔の島で悪魔の尖兵になっていた。
「俺達は一切知らなかったんだ。もし知っていればこんな半端な野郎にはならなかった」
「…どうした?」
「何が正しいのか分からん…ただ自分の選択や結果に対して戦士として最後まで真っ当する!」
ライナーは右腕に巻かれていたスカートの切れ端を解いてポケットに仕舞った。
そして巨人に噛まれた右腕を蒸気を噴出させて全力で再生させた。
エレンはただ呆然と兄貴分の怪我が完治するのを見届けるしかできなかった。
「ライナー…やるんだな!今ここで!」
「ああ、勝負はここで決める!これで最後…」
ライナーが頷いたのを確認したベルトルトは、自分の覚悟を彼に伝える事はできなかった。
ミカサが不意打ちで斬り掛かってきたからだ。
咄嗟にライナーは両腕でガードしたが右腕が切断されてそのまま首を斬られた。
すかさずベルトルトの首を斬り付けたが傷が浅かった。
「ぐあっ!?」
「ああっ!?」
首を負傷した2人は息苦しそうに倒れ込んで必死に流血を手で抑えた。
庇うように出現したミカサの行動に信じられない様に見るエレン。
騒動で何が起こったのか把握した調査兵団の兵士たち。
「エレン、逃げて!…ぐっ!」
ベルトルトに止めを刺そうとしたミカサを吹っ飛ばしたライナー。
もはや誤魔化しがきかない以上、やるしかなかった。
意図してなかったとはいえ、自傷済みであり、いつでも巨人化になる事ができた!
「はあっ…」
エレンは理解できなかった。
いや、理解しようとしなかった。
あれほどエルミハ区でライナーとベルトルトが巨人化能力者と警鈴を鳴らされていた。
彼は「ベルトルトはともかくライナーは違う」と全力で否定した。
爆風でぶっ飛ばされて落下してもなお、彼らを信じていた。
「ぐっ!?」
そしてエレンは何かに掴まれた。
それは鎧の巨人だった。
実物は見たことが無かったが鎧っぽいので多分そうなのだろう。
ウォール・マリアの陥落の原因にしてフローラの両親を間接的に殺害した元凶。
『ライナー…ベルトルト…このっ…!』
思い浮かぶのは男子部屋で彼らと雑談していた光景だった。
不安ながらも輝かしい未来を同期として熱く語っていた。
巨人から故郷を取り戻す話で盛り上がっていた!
だからこそ許すわけにはいかない!!
「裏切り者があああああああああああああっ!!!」
エレンを掴んでいた鎧の巨人の左手は破壊された。
手を噛んだエレンが確固たる意志をもって巨人化したからだ!
怒りに任せて彼は鎧の巨人の顔面を殴り付けた!!
それは今までの培った友情の決別であるように!
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超大型巨人もとい、ベルトルト・フーバーは吹っ切れた。
だが辛うじて残された理性で巨人化の爆発をできるだけ上空に飛ばすようにした。
超大型巨人の爆発は辺り一面を焼け野原にする威力があった。
だからこそ威力を抑える為にコントロールして上半身だけ出現させた。
『久々にやったから感覚が狂ってるな…』
エレンを殺さないようにするのもあったがもう1つ理由があった。
勢いで壁を破壊して中に埋まっている超大型巨人を目覚めさせないようにする為だ。
むしろ、こっちの方が重要だった。
上半身だけなので3分くらいなら保てるオリジナルと違って奴らはいくらでも動ける。
フリッツ145世の生み出した巨人の大群に壁外人類が対抗する手段などない。
『目標は2つ!それ以外はどうでもいい』
悟りを開いたベルトルトは左腕を振り下ろして壁上に居る兵士の一団に向けて手を叩きつけた。
壁を破壊しない程度に手加減したが、兵士の一団は急いで離脱した。
もっとも彼は殺すつもりはなかったが。
『ユミルを回収、ついでに立体機動装置を回収するか』
狙いは同僚だったマルセルを喰ったユミルと立体機動装置だ。
もちろん立体機動装置が落ちているわけがなく、兵士から回収するつもりだ。
無垢の巨人は味方ではないので対抗手段がないときついからだ。
エレンやユミルも脅威だが数の暴力の方が恐ろしい。
目標を確保したのを確認して巨人の口内に仕舞った。
「総員、戦闘用意!!超大型巨人を仕留めよ!!」
ハンジ分隊長が大声で叫んでいるが想定内だ。
最初から殺すつもりなどなかった。
「人類の仇そのものだ!!一斉に掛かれ!!」
わざわざ攻撃してくるタイミングを逐一報告してくれた。
皮肉にも人類の仇である悪魔の末裔がこんな事を告げてくれた。
「遅い」など「図体がでかいだけ」などわざわざ嫌われる様に罵倒してくれた。
ようやくここでベルトルトは吹っ切れて躊躇いもなく殺す事を決意できた。
『みんな単純過ぎるんだよ…』
超大型巨人の攻撃を回避した兵士一同は、巨人のうなじにアンカーを突き刺していた。
うなじを削ぐつもりであるが、知性の無い巨人のような扱いである。
『僕がそんな弱点を放置するわけがないだろう』
体内にある空気を肉体から噴出させた。
大量の熱せられた蒸気が体外に噴出して調査兵を一掃した。
いや、蒸気にたまらずにアンカーを外して逃走した。
「ぎゃあああ!?」
ライナーに向かう兵士を腕でぶっ飛ばすつもりだったが上手くいかなかった。
一名の兵士を叩き落す事に成功したくらいか。
見下ろせば、エレンに対してライナーが有利に見えるがまだ分からない。
数の暴力ほど厄介な事はないからだ。
『着替えるか…』
上半身だけを出現させているとはいえ超大型巨人は燃費が悪い。
蒸気を噴き出して体積を削っているせいで寿命が短い。
消滅する前に立体機動を身に付けようと付着した筋肉の筋を解こうとした。
その瞬間、壁の上を歩く1名の兵士が見えた。
それは血塗れだった。
『なんだあいつ!?…まさか!』
小さいせいで顔は良く見えないが大体察する事が出来た。
蒸気を噴き出した巨人に向かってくるなど1人しか居ない。
フローラ・エリクシア…同期でありながら巨人の首を刎ねる処刑人。
その殺意を向けられてベルトルトは熱さとは別の汗を掻いた。
『死ね!!』
彼女との思い出が大切だからこそ即死して欲しかった。
一番仲が良かったからこそ死んでもらわないと双方とも引き摺るからだ。
ベルトルトはさっさと終わらせるために両手を彼女の元に叩きつけた!
『まだだ!!』
叩きつけただけでは死なないと思い、腕を薙ぎ払ったり瓦礫を拾って辺りに投げつけた。
ついでに鎧の巨人に襲撃しようとしている兵士一団に向かって瓦礫を投げつけた。
当たりはしなかったが、こちらを警戒したようなので援護自体は成功した。
『これで死ぬと思えないんだけどな…』
そう思って再び壁上を見下ろすと血塗れの兵士が歩いていた。
何事も無かったように笑いながら歩いていた。
それを見てベルトルトは恐怖しか感じられなかった。
身体から蒸気を噴き出すのを忘れて何度も右手を叩きつけようとした。
ところがうまく右腕がうごかなかった。
『やばい!やばい!!』
右肘の関節部にスナップブレードが3本突き刺さっていた。
そのせいで曲げることができずに上手く動かせなかった。
異常事態になったと悟った彼はパニックに陥った。
『これで終わりにするわ!』
負の感情を聴いたフローラは、右肘に右アンカーを射出して壁から飛び降りた。
振り子の様に一旦落ちてから上に登った瞬間、左アンカーを撃ち込んだ。
そして右アンカーを外して両方のワイヤーを巻き取る。
図体がでかいだけの超大型巨人のうなじが見えた瞬間、再び右アンカーを撃ち込んだ。
「おりゃああ!!」
ガスを噴出させて双剣を構えて突撃してうなじを斬り付けた!
ここで失敗したのは削ぐのでなく首を刎ねるつもりで斬り掛かってしまった。
そのせいでうなじに切り込みを入れただけで終わってしまった。
しかし、フローラはそれで満足して離脱した。
『ぎゃあああああああああああ!!』
うなじを攻撃された感覚を実感したベルトルトは蒸気を噴出させた!
そして自身のうなじ以外の肉を外して飛び出した。
柔軟で伸びる肉のおかげで口内に辿り着いた彼は慌てて装備を装着した。
このまま巨人体でいるとフローラにぶっ殺されると思ったからだ!
幸いにも訓練したおかげで兵士から装置を外して見に付けるまで時間は掛からなかった。
『離脱の準備をしないと!!』
ユミルを抱き寄せた彼はひとまず元の場所に待機した。
崩れる巨人の体内の中で一番安全な場所に待機していつでも脱出できるように準備をした。
うなじは左手で覆っているが、いつ彼女に破壊されてもおかしくない!
フローラの実力を知っているからこそ油断しなかった。
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「次は鎧の巨人ね」
フローラは壁外の領域に出て鎧の巨人を見ていた。
あれほど殺したかった両親の仇。
しかし実際にこうして見ると、手が届くせいか、そこまで殺そうとは思わなかった。
エレンがライナーに向かって負の感情を爆発させているのもある。
『お前ら本当に糞野郎だよ!多分、人類史上こんな虐殺をしたのはいねぇよ』
『ライナー、お前は存在しちゃいけねぇ奴だ!一体その頭で何を考えていたんだ』
『本当に気持ち悪いよ!正義感溢れた面構えを見るだけで吐き気がする!!』
『このでけぇ害虫が!!オレが今から駆逐してやる!!』
こんなエレンの感情をぶつけられたら彼に任せるしかない。
言いたい事を全て言われたような感じがして冷めてしまったのもある。
『とりあえずライナーの気を逸らさせますか』
フローラは信煙弾を鎧の巨人に向かって撃ち込んだ。
音を立てて緑色の煙を吐き出しながら飛んでいく弾。
その煙はライナーを気を惹いた。
『信煙弾!?…あれはフローラ!?まずい!!』
ライナーはフローラが自分を殺意剥き出しで狙って来ているのを思い出した。
エレンだけで精一杯なのに彼女まで相手にしていたら確実に敗北する。
巨人の首を刎ねまくる味方の頃は頼もしかったが、敵にまわれば脅威でしかなかった。
『何故来ない!?罠か!?それとも…ぐあああああ!?』
あれほど鎧の巨人を恨んでおり討伐するのが夢だと何度も発言してたのに来る気配が無い。
何かあるのかとライナーが警戒していたが、エレンを意識するのを忘れて不意打ちをされた。
巨人自体にはダメージは無いものの関節技を決められたので動けなくなった。
『まずい!!クソ!!こんな所で終わるわけにはいけねぇんだよ!!』
エレンの巨人による関節技に必死に抵抗する鎧の巨人。
それを見届けたフローラは軽蔑した目で鎧の巨人を見つめていた。
『こんなものでいいでしょ…問題なのは!』
むしろ、フローラからすれば脅威なのは鎧の巨人ではなかった。
彼女が警戒しているのは巨人の群れの方だった。
『なんか動きがおかしいわ…』
騒動のせいか、付近に居た巨人の群れがここに向かって来ていた。
問題なのは、急に切り替わった点である。
何故か騒動の中心であるエレン達ではなく、壁の近くに居る自分を狙う様に進撃してきた。
まるで鎧の巨人に復讐を果たす事をさせないように。
『先にベルトルトを仕留めますか』
フローラは、先に超大型巨人を仕留める為に壁に登った。
そうしないと勢い余ってエレンまで殺害しそうになるほど手が震えていたからだ。
「あれ?」
ところが壁上に着地した瞬間、超大型巨人が倒れ込んだ。
それは質量兵器となって鎧の巨人に向かって落下した。
「うっ!?」
壁外で交戦している味方を全て見捨てたフローラは1人だけローゼ側に飛び降りた。
その瞬間、超大型巨人が蒸気を噴き出して爆発した!
「ああああっ!!やっぱり仕留めておくべきだったああああ!!」
爆発が収まるまで彼女はぶら下がっている事しかできなかった。
そして、衝撃が収まった瞬間、再び壁を登って爆心地を見下ろした。
そこには大きなクレータができており、中央部に鎧の巨人と巨人の残骸が転がっていた。
「逃がさないわよ!!」
さきほどの一撃でエレンがやられたと察した頭進撃は熱風に耐えながら壁を飛び降りた。
そして鎧の巨人に向かって走っていると異変が起こった。
「ライナー!!ここだあああ!!」
超大型巨人の残骸からユミルを抱えたベルトルトが飛び出してきた。
そして彼はフローラと鉢合わせをした。
「や、やあフローラぁ!元気そうだね!」
「ベルトルトも女の子を抱えるなんて大胆な事をするわね!」
男は青ざめて女を抱き抱えながら後退りをした。
女は唇を舌で舐め回して双剣を構えた!
「ライナー助けてええええ!!」
「首をよこしなさい!!」
片や巨人化能力で疲弊している上に長身の女性を抱き抱えているベルトルト。
此方、復讐と怒りに燃えている首狩りの処刑人のフローラ。
どちらが有利か分かりきったことだ。
『しまったベルトルト!!』
ようやくライナーはフローラの狙いがベルトルトと気付いた。
巨人のうなじを喰らい付いてエレンを回収するのに気を取られて相棒から目を放した。
その結果が、ケルベロスが泣いて謝るくらいの鬼神に追われているベルトルトの姿であった。
そして逃げ惑う彼に更なる不幸が舞い降りた。
「巨人だああああ!?」
前門の虎、後門の狼ならぬ、前門の巨人、後門の鬼神。
涎を垂らしながら四足歩行で突撃してくる巨人を筆頭に4体の奇行種が彼を狙っていた。
交戦するには、ユミルを放さなくてはならないし、巨人化の疲労でまず戦えない。
そして動きを止めた瞬間、フローラに首を刎ねられる。
だからと言って、そのまま直進すれば70km/h以上で突っ込んでくる巨人と激突する。
ベルトルトは人生が詰んだのを感じ取った。
「うおおおおおお!!」
彼はユミルを盾にしてフローラに向かって突撃するしかできなかった。
いわゆる【肉の盾】であるが、巨人化能力者である以上、効果は薄かった。
「ベルトルト!!ユミルを放せえええええ!!」
「はい…」
鬼気迫るフローラに怒鳴り声で怒られたベルトルトは素直にユミルを放した。
発言した本人も人質を放すとは思わず、そのまま巨人と交戦した。
意識を失っているユミルは、巨人から逃げる術がないからだ。
『意外とうまくいったな…』
改めて投げ捨てたユミルを抱き抱えたベルトルト。
フローラに巨人の群れをぶつける作戦がうまく行ってしまい困惑した。
そして恐る恐る交戦している彼女の様子を確認する為に振り返った。
「ひいいいいい!!」
彼は鎧の巨人に向かって一目散に走りだした。
そこには、巨人の首を刎ねまくる悪魔が居た。
あの短時間で2体の巨人を討伐しており、すぐに自分の番が巡ってくるのは明白だったからだ。
「ライナー!」
駆け寄ってくる鎧の巨人を見て安堵した彼はアンカーを撃ち込んで巨体に飛び乗った。
用が済んだ以上、長居は無用だった。
「もういいよ!故郷に向かって進撃しよう!!」
ライナーは走り出した。
明るい明日に向かって走り出した。
壁内で暮らしてきた過去を切り捨てて逃げ出すように全速力で駆けた。
『チッ!こんな時に巨人の群れか!?』
6体の巨人が地平線の彼方から出現した。
巨人化能力が切れそうな時に最悪のタイミングで出現した。
1体ならともかく最悪ユミルを囮にしてでも逃げの一手をしようかと彼らは思った。
『なんだ?俺達を無視しやがった…』
しかし、出現した巨人は奇行種のようで気絶した調査兵に向かっていくようだった。
まるで鎧の巨人を守るように無垢の巨人達は走り去っていった。
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「全部、奇行種ね…」
巨人の呻き声は2種類ある。
悲しい“声”と楽しそうな“声”である。
前者は通常種で後者は奇行種である。
「しょうがないわね…」
その気になればベルトルトの首を刎ねられたフローラはあえて見逃した。
鎧の巨人と交戦できるのも嬉しいが、同僚を喰らう奇行種を無視できなかった。
「救助を急げ!!」
「早く引き揚げろ!!」
熟練兵ほど超大型巨人の爆発に巻き込まれてしまった。
よって救助を行うのは経験が浅い調査兵たちである。
乙女の様に腕を振って走ってきた巨人の首を刎ねたフローラは溜息を吐くしかできなかった。
「フローラ!手を貸してくれ!!」
「分かったわ!!」
彼女ができるのはただ1つ。
負傷した同僚を襲おうとした巨人の首を刎ねる事だった。
両親の仇を逃がした怒りもあって3分足らずで付近の巨人が全滅した。
実際どんな感じに討伐したのか彼女ですら良く分かっていなかった。
「大丈夫!?」
「アルミン、鎧の巨人を逃がしちゃった…あとちょっとだったのに……!」
「大丈夫だ!あの調子だと遠くには逃げられないよ!」
「だと良いけどね…」
アルミンはフローラの顔が亡者のように見えた。
両親の仇であり人類の仇でもある鎧の巨人討伐を夢見ていた彼女。
それがまんまと逃げ果せてしまった心境を察して励ました。
「腕も脚も腰も痛くなってきちゃった…あのまま戦闘しても返り討ちだったかもね」
「ずっと戦い通したみたいだからね!しょうがないよ!」
「だから眠るわ…そこで寝ているミカサには悪いけど…」
フローラは寝込んでいるミカサを見て眉を顰めた。
エレンの処遇を巡った特別兵法会議の晩に彼女と約束したのを思い出したからだ。
【死んでもエレンを守ってみせる】という約束だった。
結果は、またしてもエレンを守ることはできなかった。
「ごめんなさいミカサ…今度はしっかり命がある限り守ってみせるから」
悪夢でも見ているのか苦しむミカサを見た彼女は倒れ込んだ。
アルミンの呼び声が遠のくのに気付いて、ようやく自分が限界だったのを知った。
エレンを奪還して鎧の巨人を討伐するのを誓ってフローラは瞼を閉じて意識は闇に呑まれた。