進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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75話 発覚

「くっ!!」

 

 

ミカサ・アッカーマンは鎧の巨人を見つめる事しかできなかった。

『鎧』と称されている事はあり、刃が全然通用しなかった。

何度もうなじを削ごうとしたが刃が折れて両腕が痺れる結果で終わった。

 

 

「エレン!殴り合ってもどうにならない!壁に寄るんだ!!」

 

 

アルミンの必死の呼びかけにエレンは答えずにただひたすら攻撃していた。

それはトロスト区奪還作戦のように理性を失っているように見えた。

 

 

「怒りで我を忘れたのか!?」

「まずいぞ!このままじゃ奴の思うつぼだ!!」

 

 

巨人同士の肉弾戦に人間は参戦できない。

ただひたすらに鎧の巨人の隙ができるのを待つしかできなかった。

 

 

『最大のチャンスを逃した!!あの時、2人の首を刎ねていれば!!』

 

 

ミカサは2人を殺せなかったのに後悔した。

せっかく不意打ちをしたというのに首を刎ねる事が出来なかった。

フローラが巨人の首を刎ねていたようにきちんと首を刎ねるべきであった。

 

 

『なんかおかしい…』

 

 

ミカサは、そこまで考えて何か引っかかっていた。

鎧の巨人は人類の仇であると同時にフローラの両親の仇である。

なのに、これほど騒動になっているにも関わらず、未だにフローラの姿が見えなかった。

 

 

『何で来ないの!?相手は鎧の巨人なのに!?』

 

 

ここでフローラが来てない事に彼女は驚愕した。

あれほど鎧の巨人を憎んでいたのに無視をしているからだ。

 

 

『あいつはまだ来ないか…都合が良いが不気味だな…!』

 

 

鎧の巨人もといライナー・ブラウンもフローラの事を気にしていた。

自身が彼女の両親の仇である事を知っている。

むしろ、何度も聴かされており、その度に故郷に帰るのを誓い合った仲である。

だからこそ裏切ったのにすぐさま襲撃してこない彼女が気になっていた。

 

 

『なんであいつ来ないんだ…』

『誰か起こして来いよ…』

『絶対、全員が思っているよな…』

 

 

この場に居る全員がフローラの動向を気にしていた。

いつもなら鎧の巨人に向かって突撃する頭進撃の癖にやけに大人しかった。

彼女らしくないムーブに全員が何をやらかすのか畏怖していた。

 

 

『最低の気分だ!!』

 

 

一方、本家頭進撃であるエレンは、ただひたすらライナーに向かって突撃した。

走馬灯のような記憶を思い出してしまい、思わず敵に向かって駆け出してしまった。

 

 

『相変わらず猛突猛進だな!動きが分かり易い!!

 

 

ライナーは殴り掛かってきたエレンを見て殴り返そうとした。

鎧の巨人である以上、その様なチンケな攻撃など通用しないどころか自滅するだけである。

しかし、エレンは彼の懐に潜り込んで首を勢いよく抱きしめて投げ出した!

 

 

『ぐおっ!?』

 

 

何が起こったか把握する前に地面に叩きつけられた鎧の巨人。

その隙を見逃さずに両脚で敵の首を引っ掻けて右腕を掴んで引き寄せた。

人体の構造上、首に過重の負担となり急所を痛めつける対人格闘術であった。

 

 

『くそ!そういえば対人格闘術2位だったなこいつ!!』

 

 

焦ったライナーは逃げ出そうとしたら、更に拘束を強められて右腕をもぎとられてしまった。

ここでようやく彼はエレンを敵として認識できた。

目の前に居るのは同期ではなく祖国が欲しがる能力でもなく自分を殺そうとする敵であると!

 

 

『馬鹿だなエレン!極め技で俺を倒せると思ったか!!』

 

 

鎧の巨人は蒸気を噴出させてエレンの巨人の拘束から脱出した。

巨人化の継続時間が短くなる欠点があるが、顔の装甲が破壊された以上、極め技は脅威であった。

 

 

『なるほど、あれはわざとか!意外と成長してるじゃねぇか!!』

 

 

エレンは壁を背にして付近には調査兵が守るように展開していた。

こちらの目的はエレンの奪取である事に気付かれたと同時に関節部を狙っていると分かった。

 

 

『なんならタックルはどうだ!?』

 

 

全身が硬質化した皮膚に覆われている鎧の巨人のタックルは、凄まじいパワーを持つ!

かつてウォール・ローゼの扉を破壊したその威力はエレンの巨体を壁に叩きつける威力があった。

 

 

『チッ、距離が狭すぎたか!じゃあこれならどうだ!!』

 

 

もう一度タックルをすればエレンは隙を見て拘束技を使って来るのは目に見えた。

だからライナーは【奥の手】を使った!

 

 

『そんなに腕が欲しいなら…いくらでもくれてやる!!』

 

 

エレンが殴ろうとした左腕を射出して彼の顔面に鉄拳を打ち込んだ!

音を置き去りにする速度で激突した左拳は巨人の頭蓋骨を紙細工の様に変形させ粉砕した!

圧倒的な破壊力は、巨人の脳髄や骨の欠片を辺りにばら撒いて地平線の彼方へと飛んでいった。

 

 

「エレンがやられた!?」

「総員突撃!!エレンを奪われるな!!」

 

 

音速の2倍で切り離された左手で巨人の脳が破壊されて操作不能に陥って動けないエレン。

それを見たハンジ・ゾエの号令で調査兵は次々と鎧の巨人のアンカーを突き刺した!

 

 

『じゃあ地獄に付き合ってもらうか!』

 

 

あえて調査兵の集団にアンカーを撃たせて近づいてきた時に鎧の巨人は前転した。

フローラからアンカーを変異種に撃ち込むと前転をすると聞いてこの発想が生まれた。

こうして、まんまと釣られた調査兵は地面に叩きつけられて動かなくなった。

 

 

「クソ!手ごわいな!!」

 

 

ハンジは、敵が想像以上に厄介だと分かった。

訓練兵団で学んでいるせいで、立体機動の弱点を熟知されていた。

そして鎧の巨人は関節部を自分の意志だけで切り離せるようである。

鎧で覆えない股や脇や膝裏を狙うとか言っている場合じゃなかった!

 

 

『どうせ死んでいるんだ、最後は有効活用させてもらうぜ!!』

 

 

鎧の巨人は再生した右手で身体に突き刺さったワイヤーを回収した。

そしてそれを武器にして生存している調査兵に目掛けてぶつけようと振り回した!

ワイヤーが引っ掛かった兵士は悲鳴をあげてあらぬ方向に跳んで行って壁の染みになった。

その影響により調査兵の一団は戦線離脱して壁にぶら下がって待機せざるを得なかった。

 

 

『牽制は、これで充分だろう!』

 

 

ベルトルトを回収する必要があったライナーは調査兵を追い払う事に成功した。

あとは咆哮をあげて合図を伝えるだけである。

ところが、順調に進んでいた作戦に支障が出る事態が発生した。

 

 

『信煙弾!?…あれはフローラ!?まずい!!』

 

 

緑色の煙が視界に映って発射元を見ると血塗れの女兵士が居た。

天真爛漫な笑みを浮かべているが、目が一切笑っておらず殺意剥き出しに見えた。

さきほどまで彼女に助けられていたライナーはようやく敵対していた巨人の気持ちになれた。

 

 

『何故来ない!?罠か!?それとも…ぐあああああ!?』

 

 

フローラに気を取られていたライナーはエレンの不意打ちを許した。

怒りのあまり巨人の限界を超えた彼は奇跡の復活をしてライナーを両腕と両脚で拘束された。

 

 

『まずい!!クソ!!こんな所で終わるわけにはいけねぇんだよ!!』

 

 

エレンのせいで身動きが取れなくなった以上、フローラに首を刎ねられる!

できるわけがないと思いつつ、自分が彼女の両親の仇である以上、やられる可能性があった。

そもそも首が音を立てており、エレンにへし折られるのも時間の問題であったが!

 

 

『ベルトルト!!…おい、何で合図を出してないのに落下してるんだ…』

 

 

 

仕方なくライナーは咆哮しようとすると、既に超大型巨人が落下していた。

本来は爆心地に近づけるつもりであったが、予想以上に蒸気を噴き出して原型を保てなくなった。

そんなことなど露知らぬ彼は、ただひたすら落下するのを待つしかなかった。

 

 

-----

 

 

ミカサは目覚めて起き上がった!

超大型巨人が壁から落下してきたのまでは覚えている。

そこから記憶が無かった。

 

 

「アルミン!エレンはどこ!?」

「駄目だよ!まだ怪我の度合いが分からないだろう!」

 

 

駆け寄ってきたアルミンを振り払って壁から見下ろした。

そこには大きなクレーターがあり、巨人が数体集まっているだけであった。

 

 

「エレン!?」

「エレンもユミルも奴らに連れて行かれたよ…」

「詳しく聴かせて!!」

 

 

アルミンから事の顛末を聴いて青ざめたミカサは疑問に思った事がある。

 

 

「だ、誰か追ってるの?」

「追ってない…あれから5時間、誰も追えなかったんだ…」

「なんで!?」

 

 

自分が気を失ってから5時間が経過したと彼から聞かされた。

なのに未だに追跡する部隊が送られていなかった。

彼女は詰め寄って理由を尋ねるしかできなかった。

 

 

「馬を壁外に運べないからだよ!リフトが来ない限りあっちに移す手段が無いんだ!!」

 

 

アルミンの言う事はもっともである。

巨人に追いつく唯一の手段は馬である。

ただし、ここは門から離れた壁。

積み荷や馬を降ろすリフトを取りに行ったが時間が掛かってしまった。

 

 

「ううっ!?」

「大丈夫かい!?もう少し安静にしていた方が…」

「精神的に追い詰められると頭痛になる癖があるだけ…心配しないで」

 

 

大切な人を失いそうなタイミングで頭痛がする。

まるで誰かに脳内を覗かれて思考が荒らされているようである。

それでもエレンを助ける為なら何でもやるつもりだった!

 

 

「ねぇアルミン、どうしてエレンは私たちから去っていくの?」

「そういえばそうだね。いつも単独で進撃していくんだ。僕らを置いて行って…」

 

 

ミカサは唯一の家族の傍に居たかっただけである。

訓練兵団に入団したのも調査兵になったのも全てそれだけであった。

 

 

「…私はただ傍に居るだけでいいのに!それだけなのに…」

 

 

エレンからもらった赤い色のマフラーを顔に包むようにミカサは巻いた。

大事な人からもらったそれは、先端がほつれてきていた。

大事に扱っていても、いつも身に着けているマフラーはボロボロになってきている。

それは、いつかエレンが自分の元から離れていくのを示唆している感じがした。

 

 

「よぉお前ら!野戦糧食を持ってきたんだ!一緒に食べようぜ!」

「ハンネスさん…」

「腹が減っては戦はできぬってな!まず腹を満たして今後を考えようじゃないか!」

 

 

三角座りをして静かに泣いていたミカサの前に恩人であるハンネスが現れた。

彼は、エレンを奪取された2人が精神的に追い詰められていると思い、夜戦糧食を持ってきた。

 

 

「でも!エレンが連れて行かれてから5時間も経っているの!」

「あいつが大人しくしているタマかよ!今頃暴れて抵抗してるぞ!」

「そうなの?」

「生け捕りにされた以上、あいつは最後まで足掻くぜ!いじめっ子を相手にするようにな!」

 

 

久しぶりに女々しく泣いていたミカサは彼の励ましによって食事がとれるまで精神が回復した。

そしてマフラーを解いて、一心不乱に糧食に噛みついた。

保存食なので乾燥していて正直まずかった。

それでも消費したカロリーを摂取できて食欲を満たす事で精神的に落ち着いてきた。

 

 

「そもそもあの悪ガキの面倒を世話するのは昔っからお前らの役目だろう?」

「1人で突撃するエレンを無視できず何度も止めに行ったりサポートしたり…腐れ縁って奴だ」

 

 

ハンネスは、ミカサ達を諭しながら5年以上の前の事を思い出していた。

喧嘩が弱いエレンがいじめっ子3人組と殴り合ってミカサが乱入してアルミンが制止する。

それをツマミにして同僚と酒を飲みながら笑っていた日常。

もう二度とその時代は戻ってくることは無い。

 

 

「あいつは、喧嘩が弱くて兵士やミカサに止められた時はボロボロだったな」

「うん、何度も負けて…それでも不屈の精神で立ち上がってきました」

「私は、エレンを守りたくて…ひたすらあいつらを蹴散らしていた」

「ホント、お前らは5年前から変わってねぇな!まあ、あの時が一番良かったがな…」

 

 

ミカサもアルミンの脳裏にも懐かしい光景が浮かんでいた。

もう戻れない日常だった光景を…。

 

 

「俺はな!あの日常が好きだ!まやかしの平和かもしれねぇがあれで充分だったよ」

「「ハンネスさん…」」

「あの何でもない日常を取り戻す為なら俺は何でもする!!」

 

 

シガンシナ区では、飲んだくれの役立たずの兵士だったハンネス・ルドマン。

壁工事や近所のおばさんに頼まれたおつかい、犬に散歩。

今となっては武装した兵士の仕事ではなかったが充実はしていた。

堕落していると言われても、兵士が兵士として働かない以上、平和という事である。

 

 

「お前ら3人が揃っていないと俺の日常は戻らねぇ!エレンを必ず奪還するぞ!!」

「「はい!!」」

 

 

ハンネスは、握り拳が震えるのも気にせず必ずエレンを奪還する事を誓った!

自分の実力不足でエレンの母、カルラを見捨ててしまった不甲斐ない男。

彼ができるのは、その身を犠牲にしてでも、3人組に戻す事だけである。

 

 

「ハンネスさん!フローラの所にも糧食をあげてください」

「ああ、もちろんだとも!!」

 

 

訓練兵団では、サシャに次ぐ食い意地があるフローラ。

やらかして飯を抜きにされたら地面を掘り返して野草や根っこを噛み付く女。

そのせいか、身長が180cmを越えている彼女は、自分たちの倍以上の糧食が必要であった。

ハンネスは、そう思って糧食を詰められるだけ詰めた麻袋を寝込んでいる彼女の元に置いた。

 

 

「良い食いっぷりだな!これならエレンを奪還できるぞ!!」

 

 

ミカサとアルミンは必死に腹を満たした!

これから起こる激戦に備える様に!!

 

 

「むっ!食べ物の匂い!?」

 

 

嗅覚も鋭いフローラは起き上がって発見した麻袋から糧食を取って食べ始めた。

怒りやストレス、疲労を誤魔化すかのように胃の中を満たしていった。

 

 

-----

 

 

エレン・イェーガーは目覚めた。

何故か両腕が捥がれていたが、目の前に居る2人を見れば大体原因が分かる。

ライナーとベルトルト、自分や同期を欺いて兵士ごっこをしていた糞野郎共だ!

隣に居るのは右腕と右脚を喪失して肉体が再生するまで待機しているユミル。

とりあえず状況を把握した彼はこいつらを殺す覚悟で右腕に噛み付こうとした!

 

 

「おいやめておけよ」

「何で邪魔をするんだ!」

「ここはウォール・マリアの巨大樹の森の中だ。巨人の領域って事を忘れるな」

 

 

 

ユミルに左手で制止されて代わりに彼女に噛みつこうとしたエレン。

しかし彼女の発言で冷静に辺りを見渡すと、真下には複数の巨人が集っていた。

少なくとも10体、そして敵は立体機動装置を身に着けている。

ライナーの物は自分が身に着けていた物であり、少しきつそうにしているのが分かる。

 

 

「闇雲に巨人化しても得策とは思えんだろう?」

「奴らも同じ事ができる上に樹の上に逃げられるって事か?」

「それもあるが、辺りに巨人だらけだ。夜になるまでどの道、動けやしないぜ」

 

 

エレンは身体が動くならさっさとライナーを殺害したかった。

しかし、自分より軽傷に見えるユミルの話を聴いて暴れるのは得策ではないと理解した。

煮えたぎる本能は「暴れろ!」と叫んでいるが、一度気を失ったせいか冷静な思考ができた。

 

 

 

「そういえば、あの城の巨人は夜なのに動いて居たな!こいつらは大丈夫なのか!?」

「それは私も思ってた事さ!おいライナー!大丈夫なんだろうな!?」

「巨人は夜に動けない。()()()()()()()()()()()()()()()はずだが?」

「そうだったな…」

 

 

ここでエレンはユミルが巨人に関して自分より詳しいのを知った。

むしろ、最近まで知らなかった自分とは違って、最初から知っているはずである。

目的どころか味方なのかも分からない。

ただ1つ分かるのは、クリスタと仲良くし過ぎて夫婦のように見えたくらいか。

 

 

『アルミンなら情報を集めるだろうな!俺も感情を噛み殺して情報収集しなくては!!』

 

 

できるなら今すぐにでも奴らを殺したい!

だが、もし殺してしまったら奴らの目的が分からない。

自分を生け捕りにしているのも、まどろこしいやり方で壁内に潜入しているのも分からなくなる。

敵がライナー、ベルトルト、アニだけでは無いのは確実である。

尖兵だけを殺しても解決できないと分かっているからこそ彼は必死に我慢した。

 

 

「エレンが目覚めた事だし話してくれよ!私たちをどうする気だ?」

「一緒に故郷に来てもらうとしか言いようがない」

「じゃあ、何で鎧の巨人のまま故郷とやらに向かわなかったんだ?」

「…お前の想像に任せる」

 

 

さっそくユミルがライナーに話しかけていた。

故郷は少なくともウォール・マリアの領域には無いのは分かる。

そうでなければわざわざシガンシナ区を襲撃しないからだ。

つまり、ライナーの故郷はウォール・マリアより外側にあるという事だ。

そして故郷という事は、少なくとも人類が存続しており、少なくとも国家クラスの集団が居る。

 

 

『わざわざ休憩してるって事は、奴らも巨人化で疲弊しきっているのか?』

 

 

さきほどの話を聴くまで巨人に囲まれたせいで巨大樹に逃げて来たと思っていた。

ところが、ユミルの話からその気になれば故郷に戻れたという事だ。

巨人化は長時間できないという事はエレンも実感していた。

ユミルが逃げないのも疲弊したまま巨人化すると、逆に弱体化するだけという可能性がある。

そうでなければユミルがクリスタから離れる事を許すわけがないし、抵抗するはずである。

 

 

『奴らはただの尖兵、そして巨人化能力者を生け捕りにする…一体何がしたいんだこいつら!』

 

 

得られた情報を必死に考えるが、情報が少なすぎて結論は出なかった。

だからもう少し、情報を得たいがなんて発言をするか分からない。

コミュニケーションの達人のあいつならなんて訊くのかだろうか。

同期であり同じ夢を掲げた同類の彼女の言動を必死に思い返していた。

 

 

「おい水は無いのか?このままじゃ干物になっちまうぜ」

「死活問題だがこの状況じゃ手に入れるのは無理だな」

「しょうがねぇな!暫く黙っている事にするよ」

 

 

ユミルから水を訊かれたライナーは彼女の意見を一蹴した。

自分だってウトガルド城で休んだ以降、水分を一切取っていない。

汗で全て飛んでいったのか未だに尿意すら感じられない。

 

 

「そういや、巨人が湧いたせいで昨日の午前中から碌に飲まず食わずで寝てねぇな…」

 

 

思い返せば、昨日から昼飯は抜きにされるわ、任務中のせいで碌に飯を食べていない。

巨人の襲撃に警戒して眠る事は出来なかった。

帰ったら表彰されて勲章を授与されてもおかしくないだろう。

 

 

「まぁ壁が破壊されてなかったし、ひとまず休ませてもらいたいもんだ。昇格の話はまだいい」

「…?ライナー?」

「それだけの働きをしたと思うぜ。兵士としてそれなりの評価と待遇があると良いんだが…」

 

 

落ちこぼれだった自分が兵士として一人前に任務を遂行した。

ポルコには馬鹿にされていたが、ようやくマルセルに恥じない活躍をできたと思う。

ここは楽園だ。必死に頑張れば評価されて馬鹿にされる事もなく功績があれば英雄になれる。

誰にも否定されずに自身の努力がそのまま評価される。

英雄志望で誰よりも評価を得たかったライナーからすれば文字通りここは楽園である。

 

 

「おいおいライナーさんよ。何を言ってるんだ?」

「そりゃあ、すぐに部隊長に昇格してもらうとは言ってないだろう」

 

 

ライナー・ブラウンはエルディア人を、世界を救う英雄になりたかった。

世界一の自慢の息子に成る為に彼は今まで頑張ってきた。

すぐに英雄になれるわけはないが、これを足掛かりにして調査兵団で出世したいずれ、憲兵に!

そして兵団のトップになって狂った常識を変えて巨人との確執を自分の代で終わらせる!

それが母親への恩返しであり、父親に認めてもらえる唯一の手段だと彼は信じていた。

 

 

「コニーを庇った時は死ぬかと思ったぞ!でもそのおかげでクリスタと仲良くなれた。」

 

 

コニーが死角から巨人に喰われそうになった時、ライナーは身を挺して庇った。

ベルトルトは混乱し、ライナーが喰われそうになったが結果が良ければ全て良し。

右腕を噛み砕かれる負傷だったが、そのおかげでクリスタに手当をされた。

甘い香りを堪能しながら彼女のスカートの切れ端が良く肌に馴染んだ。

そして彼女の太腿を見て覚醒したライナーは人助けをして彼女からの好感度を稼ぐ作戦を考えた。

 

 

「ありゃ、どう見てもクリスタは俺に気があるよな?ベルトルト!ユミル!お前らも思うよな?やっぱり彼女の好感度を稼ぐには人助けが一番良いって事が分かった。お前らも困っている事があったら早めに俺に相談してくれよ!」

「おい!てめぇふざけてるのか!?」

 

 

もちろん下心で動いているのはライナー自身が一番分かっている。

エレンに怒られて自分の状況を把握しようと試みたらすぐに異常が見つかった。

無意識にズボンのポケットからスカートの切れ端を取り出して匂いを嗅いでいるのを気付いた。

真面目な話をしていたエレンが激怒するのもしょうがないと彼は思った。

 

 

『確かにエレンの言う通り、ふざけてるな…』

 

 

でもいいじゃないか!思春期だしこうやってクリスタと交際する為に頑張っても良いだろう。

今はスカートを通して彼女を味わう事しかできないが、すぐに直接、肌を合わせるつもりだ!

女神であるクリスタにはライバルが多すぎるし、結婚まで辿り着けるには困難な道のりがある。

ライナーは、将来の嫁との結婚を妨害してくる障害を【愛のパワー】で乗り越えるつもりだ!

 

 

「何怒ってるんだよエレン!確かに下心ありきで動いてるけどさ!男なら分かるだろう!?」

「ふざけんじゃねぇーぞ!あんな事をしておいて何を言ってやがる!!」

「待てよエレン!ありゃあ普通じゃねぇよ」

 

 

怒鳴り散らそうとしていたエレンを止めたユミル。

元から可笑しいとは知っていたが、ここまで重症だったとは思わなかった。

だからこそ、さきほどから黙り込んでいる男に声をかけることにした。

 

 

「そうだろベルトルさん?いい加減、黙ってないで対応してやったらどうだ?」

 

 

話を振られたベルトルト・フーバーは分かっていた。

ライナーの精神が兵士と戦士に分裂していたことを。

こっそりフローラに相談したが、彼の実績を評価して元の人格に誘導するしかできなかった。

先日まではそれで何とかなったが、昨晩から完全に彼が壊れていた。

調査兵団の増援が合流したにも関わらず、無防備な同期を助ける為に突撃していく男。

それを見ていて初めて自分の怒りをぶつけるほどベルトルトは苛立っていた。

 

 

「おいベルトルト…どういう事だ?」

 

 

ライナーは話の意図が掴めずベルトルトに向き合った。

ここでようやく事実を告げる事にした。

 

 

「ライナー…君は兵士じゃないだろう。僕らは戦士なんだから…」

 

 

この時、ライナー・ブラウンは思い出した。

かつて世界が始祖ユミルの血を継ぐエルディア人に支配されていた恐怖を…。

あれほど罵っていた鳥籠に引き籠った悪魔の末裔共の尖兵になっていた屈辱を…。

 

 

「おかしいと思ったよ。壁を破壊した奴が命懸けでコニーを助けるなんてな」

「どういう事だ?」

「ライナーは矛盾した行動を自覚してなかったって事だ。おそらく精神的にやられてたな?」

 

 

ユミルは、ライナーの不可思議な行動についてようやく納得した。

フローラから自分が両親の仇であると知っているのに背中を押して応援していた。

それどころか積極的に兵士として活躍をして功績を稼ぎたい行動も分かる。

 

 

「本来は壁を破壊する戦士だったが、兵士として演じていくうちに自分を見失ったんだろう」

「罪の意識に耐え切れなくなったのか、いつしか心の均衡を保つ為に壁を守る兵士と逃避した」

「ベルトルさんの様子を見る限り、割と頻繁に話が噛み合わなくなったようだな?」

 

 

ベルトルトはユミルの推理に対して何も言えなかった。

 

 

-----

 

 

『ウォール・ローゼを破壊する』

 

 

5年も経ったのに進展がないのでウォール・ローゼを破壊する事にした。

ライナーの案に困惑した2人だったが代案が出せなかったのでやるしかなかった。

3年間一緒に過ごした同期が大勢死ぬと分かっていながらも決行した!

 

 

『ライナー…話と違うじゃないか!?』

『何を言ってやがる?邪魔になる巨人を討伐するんだ!』

 

 

ところが実行すると、ライナーは率先して巨人を討伐してマルコに巨人討伐の実績を稼がせた。

…かと思えば、秘密を知られたマルコを抹殺する為に得意な口論で押してアニをけしかけた。

なのに巨人がマルコの頭を齧っている時、戸惑った彼は激怒してその巨人を討伐した。

ベルトルトは、ただ彼の行動を監視して見守るしかできなかった。

 

 

-----

 

 

「無言は肯定と捉えていいか?」

「その通りだよユミル。ライナーは疲れすぎて頭がおかしくなったんだ」

 

 

それを聴いてエレンは一瞬、思考が停止した。

平和だった壁内を混乱に陥らせて大勢の人が死ぬ事になった元凶。

それが罪に悩んで兵士ごっこで精神を落ち着かせようとしていた。

 

 

「てめぇら!ふざけんなよ!!なんで被害者面してるんだよ!!」

 

 

超大型巨人が蹴破った扉の瓦礫がエレンの家に直撃して母が動けなくなった。

そして穴から入ってきた金髪の巨人に母は喰われた。

それを訓練兵時代の男部屋で話をしていた。

あの時は、衝撃的な話でショックを受けたのか返答は無かったが何のことは無い!

彼らは自分のした事を思い出して、必死に忘れようとしていたのだ!!

 

 

「ベルトルトのせいで俺の母ちゃんは死んだ!ライナーのせいでフローラの両親が死んだ!」

 

 

フローラの両親は鎧の巨人がマリアの壁を破った際に発生した瓦礫の下敷きになって死んだ。

そして彼女は大半の記憶を失い、鎧の巨人を含めた復讐と怒りに燃えた悪魔に転生した。

 

 

「なあ、どう思ったんだ?俺らの家族が死んだと知ってどう思ったんだ!答えろよ!!」

「…あの時は、気の毒に思ったよ」

「そうか、そうだよなーお前らは…」

 

 

ベルトルトの返答を聴いたエレンは心の奥深くに残っていた同期としての情が失われたのを感じた。

目の前に居るのは憎悪すべき敵であり、自分たちを騙っている外道共だ!

 

 

「お前らは兵士でも!戦士でもねぇよ!!ただの人殺しだ!大量殺人鬼だ!!」

「んな事分かってるんだよ!!お前にわざわざ教えてもらえなくてもな!!」

 

 

誰もが分かっていた。

戦士組が介入してこなかったら壁内は平和だったことを!

だが、既に住んでしまった事!ここでいくら口論しようが現実を変える事もできない!

ライナーは逆ギレをしたように言い返すしかなかった!

 

 

「だったら一丁前に人間らしく悩んでるんじゃねぇよ!!一生苦しんでいろよ!悪魔が!!」

「その人殺しに何を求めているんだ!?謝罪か?反省か?人殺しは悪いって説教したいのか!?」

 

 

エレンはライナーの返答を聴いて冷静になった。

これでは、母を守れなかったハンネスを責めていた頃と全然変わらない。

むしろ、あれから成長したからこそ無意味なのは実感している。

 

 

「そうだな…オレが間違っていたよ…甘すぎたんだ」

 

 

だから彼は選択する。

巨人を一匹残らず駆逐して自由を目指した少年に新たな目標が加わった。

 

 

「オレが頑張しかねぇよな…!お前らができるだけ苦しんで死ねるように努力するよ…」

 

 

彼は進み続ける。

自分の大事な人々を世界が傷付けるならその世界すら滅ぼしてやると誓った。

目の前の悪魔が無様に…いや、こいつらをけしかけてきた悪魔共を1匹残らず駆逐してやると!!

 

 

「勝手にしてくれ…僕らは使命に従うまでだ」

「お前は世界を知らねぇだけだ!だからそんな事を言えるんだ!井の中の蛙が!!」

「相手は、そんなちっぽけなもんじゃない。ガキの様な事を言っているようじゃ敵わねぇよ…」

 

 

現実を知る3人は、即座にエレンの言葉を否定して本気にする事は無かった。

巨人化できるからといって個人どころか、壁内人類を集めても絶対に勝ち目はないから否定した。

しかし、負け惜しみのように発言した彼は4年後に実現する事となる。

 

 

『戦え!戦え!!』

 

 

彼は最後まで進み続ける!

大事な人を守るために最後まで進撃する!

例え人類が滅びようとしても…。

 

 

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