進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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76話 追跡

「嘘だろう!?壁の上を馬で駆けるなんて…」

「あれは…エルヴィン団長だ!!まさかトロスト区から来たのか!?」

 

 

壁の上を待機していた調査兵の一団にエルヴィン団長が駆けつけた。

憲兵団、駐屯兵団などを含めた80名程度の手勢であったが、居ないよりマシである。

予備の馬を連れてきているので、リフトで壁外に降ろすだけで済むので時間短縮になった。

 

 

「クリスタ、君には残って欲しかったんだけど…」

「それは無理!“私のユミル”が攫われたのにここで待つ事なんてできない!」

 

 

クリスタはユミルを必ず奪還するつもりだった。

鬱陶しくて適当にあしらっていた過去の自分に腸が煮え返るほど苛立っていた。

今ならユミルのプロポーズを受け入れるつもりの彼女にライナーが付け入る隙など無かった。

 

 

「そうだぞ、俺だってベルトルトやライナーに直接逢うまで帰る気はないぜ!」

 

 

コニー・スプリンガーは、ウトガルド城でライナーに助けてもらった。

ベルトルトはともかく頼もしい兄貴分が人類の敵など聴かされても信じられるわけが無かった。

巨人が2体出現した時に、真っ先に2人を心配していたのに元凶が彼らなど分かるわけがない。

実は、誰に操られているというのに賭けたかったほどだ。

 

 

「エルヴィン団長!間に合ったのですね!」

「ああ、事情は分かっている。我々はどこに向かえば良いか見当はあるのか?」

「ハッ!ハンジ分隊長によると、南東にある小規模の巨大樹の森に目標が居るとの事です!」

「よし、さっそく馬と人員を壁外に降ろすとしよう!」

 

 

エルヴィンは目的地が判明した瞬間、速やかに兵員を壁外に降ろす命令を下した。

もうじき日が暮れるので、時間が惜しいのもあったが、ハンジを信頼しているのもあった。

そこで賭けが外れれば、人類は滅亡するが少なくとも時間切れだけは阻止したかった。

 

 

「お待ちください!憲兵団の連中も降ろすのですか!?」

「1人でも兵員が必要だからな!責任は私が取る!速やかにリフトの準備を!」

「ハッ!」

 

 

ここに連れてきたのは、下手すれば新兵の能力ですら劣る憲兵や駐屯兵である。

精鋭部隊などは壁内の守備で忙しい為、まともな戦力を引き抜く事はできなかった。

それに連れて来た馬も巨人に怯える普通の品種であり、圧倒的に不利なのは間違いない。

 

 

「エルヴィン…」

「ハンジ、ここは私に任せてしっかりと療養してくれ」

「あいつらは巨人化の力があっても巨人に襲われるようだ。巨人は奴らの味方じゃない…」

「貴重な情報だ、さっそく活用させてもらう」

 

 

エルヴィンは、鎧の巨人や超大型巨人ですら巨人に襲撃されるのを知った。

過去のデータでは、トロスト区戦のエレンの巨人体に巨人が群がっていたと知っていた。

得た情報を元に思考した結果、巨人は巨人化能力者の味方ではないと結論付けた。

 

 

『使えるな』

 

 

さすがにこの戦力ではエレンを奪還できない。

ならばウォール・マリアに生息する勢力の力を借りるまでだ!

 

 

「離れて!!」

 

 

一方その頃、ライリーに挨拶して壁を登ろうとしたフローラ。

置き去りにされるのを察したのかライリーはフローラを襲撃した。

それだけだったら逃げ切れるはずだが、ミーナも置いて行こうとしたせいで妨害された。

 

 

「ミーナ!ライリー!いい加減にして!!」

「私も行く!!肉の誓いの同志を見捨てられないわ!!」

 

 

右腕をライリーに噛まれてミーナに抱き着かれたフローラは身動きが取れなくなった。

さすがに甘噛み程度ではあるが、少しでも動こうとすると大怪我をするのは間違いないだろう。

 

 

「フローラ!何をしている!早く来い!!」

「こいつらのせいで動けないんです!!」

「リフトを降ろすからこっちに来い!!」

「何で助けてくださらないの!?」

「その馬が怖いに決まっているだろうが!!」

 

 

調査兵団の馬とは対極的な存在であるライリー。

赤い体毛で気性が荒く最低でも5時間走らせないと機嫌を損ねる人見知りの馬。

調査兵が騎乗していたフローラを起こせなかった原因そのものだった。

そんな馬など関わりたくない兵士達は素直にリフトを降ろした。

 

 

「私も兵士!絶対に同志を奪還してみせるわ!」

「その割には最低限の刃以外はわたくしに渡したわね?」

「だって重いもん…」

 

 

さきほどの戦闘で使用した刃はミーナから受け取ったフローラ。

彼女の言い分も分かったが、問題なのはライフル銃を持ち出しているという事。

おそらく壁上に置いてきた憲兵の装備から持ち出してきたものだろう。

親友として叱るべきか迷ったが狙撃能力で助けられた以上、追及できなかった。

 

 

「エルヴィン団長!フローラが地上に降りました!」

「やけに遅いな?」

「壁内で発生した巨人と交戦した場所全てに参戦したとの噂です」

「あり得るな…」

 

 

王政幹部を相手にするより厄介な存在であるフローラ。

兵団幹部やザックレー総統と仲良しで巨人相手ではまず負けない頼もしい女である。

それ以上にトラブルメーカーでありエルヴィンの頭痛の種の主な原因である。

副官の話を真面目に受け止めてしまうほどヤバい奴であった。

 

 

「タイムリミットは夜までだ!それまでに人類の希望であるエレンを奪還する!心臓を捧げよ!」

「「「「ハッ!」」」」

 

 

それでも団長らしく号令を下した。

エレン奪還作戦の開始である。

勝利条件は、文字通りエレンを奪還してウォール・ローゼ内に帰還させる事。

エレンさえ帰還できるならエルヴィンはこの場に居る兵士を全滅させるのを厭わない覚悟だった!

 

 

「進めーっ!!」

「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」

 

 

エルヴィンが先頭となってエレン奪還部隊は目的地である巨大樹の森を目指して進軍を開始した。

集団で馬を走るのを見たライリーは対抗心を燃やして団長の馬を抜いて突撃していった。

その動きに振り回されながらもフローラは、さっそく発見した巨人に向けて殺意をぶつけた!!

 

 

-----

 

 

「なあ、ユミル?」

「何だ糞ゴリラ、私を口説くのはクリスタだけと決まっているんだが?」

「お前は、あの世界に先があると思うか?」

 

 

ライナーはユミルを説得するつもりだ。

マルセルを喰った無垢の巨人がユミルならば、重要な情報を握っている可能性がある。

いくら巨人の継承者の記憶を引き継げるとはいえ、限界があるから直接聞く方が良いからだ。

 

 

「ねぇな!少なくともお前ら【戦士】が派遣される時点で束の間の安息ってわけだ」

「そこまで分かっているならお前次第でこっちに来る事ができるはずだ!」

「冗談は妄想の中だけでやってろ!私はお前を信用できない」

「いいや信用できる!お前の目的はクリスタを守る事だろう?」

 

 

図星を指されたユミルは硬直した。

クリスタが本名を名乗りだしたせいで、彼女の身が王政に狙われるようになった。

例え本人は隠しても同期の会話を隠密に聴かれてバレる可能性がある。

既にクリスタという少女の居場所は、壁内には無かった。

だからといって、壁外に連れて行っても良い事などない。

 

 

「それだけは、信頼し合えるはずだ!クリスタは可愛いし守りたくなる気持ちは同じだ!」

「そうかもな…」

「おいユミル、ライナー…何を言っているんだ?『さる』って何だ?『ごりら』って何だ!?」

「さあな、昔の記憶から咄嗟に出た名前だ」

 

 

エレンはユミルと人類の敵だけ会話が成り立っていて疎外されているのを実感していた。

『さる』のような巨人、『糞ごりら』など暗号文としか読めず、気になっていた。

 

 

「正直に言うが、俺達に付いて来てもお前の身は保証されないだろう…」

「だろうな!ああ、なんて可哀そうなんだろう私はー!せっかく巨人から人に戻ったというのに」

「ただクリスタは俺らが守ってやれる。彼女1人くらいなら保護できる!!」

「気持ち悪い奴がクリスタの騎士になろうって訳か?ふん、バカバカしいよ!」

「この壁内の平和もお前の寿命は短い。お前が【任期】で死んだら誰がクリスタを守るんだ?」

「ぐっ!!」

 

 

無垢の巨人だったユミルは幸運にも戦士を喰って第二の人生を手にした。

しかし、その人生は13年と短い。

既に5年以上消費してしまったので余命は持って7年ということだ。

 

 

「自分の僅かな寿命を取るか、クリスタの未来か。選ぶのはお前だ」

「チッ、相変わらず嫌な奴だ…少しだけ考えさせてくれ」

「ユミル!?お前!!何を言ってやがるのか分かってるのか!?」

「あまりうるさいとあいつらに寝返ってもいいだぞ?」

「ぐっ!!」

 

 

エレンを黙らせたユミルは考えていた。

壁内は平和と見せかけていつ滅びてもおかしくない状況だった。

今は巨人という防壁があるおかげで攻めてこないが、いつ滅びてもおかしくない。

その前にクリスタが王政に消されるのが早いだろう。

ただでさえ不貞の子で、偽名を使って暮らすなら生存は許可する程度の扱いだった。

だったら、ベルトルトにクリスタを任せた方が彼女が長生きできる可能性が遥かにある。

 

 

「良いのかライナー?あいつはマルセルを喰ったんだぞ?」

「その通りだ、だがあいつは自分より大切な存在ができちまった。クリスタという女神がな」

「…君は戦士なのか?」

「ああ、俺は戦士だ。クリスタが可愛い以外にも理由はあるから安心しろ」

「理由?」

 

 

ベルトルトは再びライナーが兵士モードになったと勘違いした。

何故ならユミルを味方に入れるのは脅威であるしかなかった。

いつ裏切るか分からない存在など信頼できるわけがない。

 

 

「俺は昔からクリスタの事が好きで彼女の様子を観察していたんだ」

「やっぱり兵士じゃない?頭大丈夫?」

「良いから聞け!そしたらクリスタを監視する存在に気付いたんだ。そこでアニに調査させた」

「ああ、可哀そうに…」

「そしたら王政の大総統や内務大臣の側近と面識がある壁教の高官の貴族だった」

 

 

酷使されるほどアニで調査させたライナーはクリスタが王政に狙われているのを突き止めた。

だからこそ結婚して彼女を守って見せると誓った。

その影響でアニは、精神がすり減って話し相手のミーナとの会話で癒しを求めてしまった。

そんな事など露知らぬライナーは、クリスタが王政が注目する重要人物だと相棒に説明した。

 

 

「もし、エレンが座標じゃなかったら、その時はクリスタが居れば捜査が楽になるはずだ」

「貴族の隠し子であって、そこまで重要じゃないと思うけど?」

「正直、フリッツ王が座標を継いでいるとは思えん。行政幹部が気にしてる彼女が重要だ」

「そりゃあ、そうだね」

 

 

ベルトルトとライナーは、フリッツ王の正体が王政幹部に操られたボケた爺さんだと知っている。

芋を吐き出せる為とはいえ王を殴ったフローラからそう告げられたからだ。

アニだけで情報収集をさせるのはまずいと気付いた2人はある作戦を行なった。

コミュニケーションの化け物であるフローラから王政の情報を事細かく報告してもらう事だ。

 

 

『ライナー、アニの機嫌が悪いよ…』

『しょうがねぇ…フローラに手紙を渡してもらうか』

 

 

リーダー面して口でパワハラをするゴリラ、それに追随して半ばストーカーと化した腰巾着。

もし、海外に父親を置いて来ていなかったら即刻、敵に寝返るほどアニからの印象は最悪だった。

ベルトルトもライナーの精神分裂に耐え切れず、直接話しかけるのがトラウマになった時がある。

そのせいで、フローラを利用しないとすら戦士同士が情報共有できない時期があった。

 

 

「…あれだけ世話になったフローラを裏切っちゃったね」

「お前なんてまだ良いだろう?俺なんて両親の仇だぞ…」

 

 

そして色々相談して仲良くなった彼女を戦士組は裏切る事になった。

ただ裏切るのではなく自身の中では一番の親友を裏切る形となってしまった。

 

 

「今度、来るとしたら座標をもってクリスタとアニを回収して終わりにするぞ」

「そして二度とここには来ない」

「それで仕事は終わりだ」

 

 

エルディア人である彼らからすればここは理想郷である。

血で差別される事もなく実績や成績がそのまま評価される。

巨人に怯えているせいか一致団結しており隣人への仲間意識が高い。

ここに居るだけでマーレへの忠誠心は瓦解して消滅してしまう。

比喩で『楽園』と呼ばれていたが、実際、彼らからすればここは楽園である。

 

 

「ただ故郷に帰ったらアニに告白しろよ」

「な、何で知ってるんだ!?」

「あんなにガン見していたら誰だって気付くさ」

 

 

ベルトルトはアニに告白する為に努力をしてきた。

彼女と仲が良いフローラのアドバイスで自分磨きをしていた。

そもそも第57回壁外調査が終わった時からずっとアニと再会したかった。

労わりの言葉も色々考えてきて、彼女の好物である甘いお菓子も用意するつもりだった。

 

 

「すぐに彼女と再会して想いを伝えるさ!」

「先の短い殺人鬼同士、仲良くやっていこうぜ」

 

 

しかし彼らは気付かない。

ライナーの想いがクリスタに届かない様にベルトルトの想いもアニには届かない。

根本的に相性が悪いのもあったが、当の本人が硬質化で結晶に閉じ籠ってしまった。

昨日の昼前に女型の巨人が調査兵団に敗北したという情報を聴かされていない彼ら。

絶対にありえない未来を!叶わない夢を希望に熱く語っていった。

 

 

『ユミルさえ味方だったら逃げられたのに!!』

 

 

蚊帳の外に置かれたエレンは悲しそうな顔をして座るしかできなかった。

一応、重要人物のはずなのに話しかけても全員にスルーされていた。

逃げようとすれば、ユミルの妨害の可能性が捨てきれなかった。

こんな時には小便を建前にして逃げるのが良いが、残念ながら尿意は無かった。

 

 

「ん?あれは…信煙弾か!?」

「嘘だろう!?あんな短時間で馬と兵員を用意できるわけが…」

「エルヴィン団長だろう!あいつくらいしかこんな事をする奴はいねぇ!」

「調査兵団か…所属していた組織に追われるなんてね…」

「良いから出発だ!」

 

 

遠くから信煙弾の煙を見た2人はすぐさま移動の準備をした。

何故場所を特定されたか分からないが、エルヴィン団長ならやるという確信がある。

 

 

「何だよ!?まだ夜になってないぞ!?」

「気が変わった!すぐに出発するぞ!抵抗はするなよ?」

「…乱暴な真似はよしてくれ…こんな状態で抵抗できるわけないだろう!?」

 

 

エレンは虎視眈々とライナーを出し抜く事を考えていた。

1人でも殺害すればユミルが味方になると思った彼は、彼を殺害する為に演技した。

ライナー目線からすれば、慣れない事をやっているせいでバレバレであったが。

 

 

「死ね!!ぐがっ!?」

「慣れねぇ事してるんじゃねぇよ!バレバレなんだよお前は…」

 

 

エレンのパンチを回避したライナーはカウンターでハイキックを繰り出した。

顎を強打して巨大樹の幹に後頭部を激突したエレンは気を失った。

うなじさえ無事であれば多少の頭への攻撃もセーフなのが巨人化の能力者の特権である。

遠慮なくエレンをKOしたライナーは紐を使って背負って固定するつもりだった。

 

 

「やっぱ、あんな単純じゃ負けるわな…」

「ユミルも行くよ」

「なあ、私を恨んでいるのか?」

「分からないよ…君だって人を喰うつもりはなかったはずだ。一体何年彷徨っていたんだ?」

「60年ぐらいだな。終わってみれば、あれは悪夢に居た感じだったよ」

「そうか」

 

 

ユミルが楽園送りされたのは60年前である。

実際に数えたわけではないが、壁の歴史を考えるとそんなもんだと思った。

ユミル様と讃えられた女神が元凶なのに人を喰らい、生き返ってしまった。

しかし、悪夢を見ずに済んだことに彼女は死んだ戦士に感謝した。

 

 

「ん?煙!?調査兵団が来たのか!?」

「ああそうだ!だから一緒に来てくれ!!」

「駄目だ!!クリスタがすぐそこまで来ている!連れ去るなら今だぞ!」

「ああん!?何故分かる!?」

「あいつは、絶対私を助けに来るはずだ!あいつは馬鹿で度の越えたお人好しだ!」

 

 

ユミルの直感があの集団の中にクリスタが居ると告げた。

実際、彼女が参加しているが、それ自体は問題ない。

むしろ助けてもらえれば自分は殺されないで済むからだ。

 

 

「あの集団を相手にして保護が成功するわけねぇだろう!またの機会にしろ!!」

「それは私が戦士に喰われた後だろう!?信用できねぇ!!」

 

 

問題なのは、ここはウォール・マリアであり巨人の領域である。

フローラとかいう例外を除けば、あの部隊は決死隊に近い存在であった。

調査兵団が過去に5桁以上の人員の命を投げ捨てる狂気の集団というのは知っている。

あの中に居れば、すぐにクリスタが巨人の餌になるのは確実だった。

 

 

「今じゃなきゃやだ!このままじゃ二度とあいつに逢えなくなる!!」

「無理だよ!僕らだけでも逃げきれるか分からない状況なんだ!」

「良し、決めた!お前らが今、クリスタを連れて行かないならここで戦って妨害する」

 

 

ユミルにとってはクリスタは自身の前世の存在みたいなものである。

無理に良い子になって女神を演じている少女。

みんなが喜んでくれるからという動機で身の破滅が待っている地獄に行こうとしている。

先人の轍を踏ませたくない彼女は、少女を必ず助けると決めた!

自分の第二の人生は、クリスタを守ると決めた以上、保護しないなら敵対するしかない。

 

 

「お前のわがままでクリスタの未来を奪うつもりか!?」

「そうだよ!未来を奪ってでも私はあいつと逢いたいんだ!!」

 

 

ライナーは焦った。

顎の巨人を巨大樹の森で相手にするのは不利であると知っている。

マルセルとの共同訓練で厄介さは良く知っていた!

相手は素人なので負けはしないが、調査兵団から逃げきれる自信が無い。

巨人化できるのは持って10分くらい。

それまでに巨人に注意しつつ調査兵を殲滅できる自信などなかった。

 

 

「落ち着いてよ!」

「私は本気だぞ!女神ごっこなんて前世で捨てた!私は糞みたいな人間に転生したんだよぉ!」

「おいよせ!!…やめろぉ!!やめろおおおお!!」

 

 

ベルトルトとライナーはユミルを必死に制止しようとした。

だが彼女はそれで止まるほど良い子ではなかった。

 

 

-----

 

 

「エルヴィン団長!巨大樹の森で発光!巨人化した際の光だと思われます!」

「間に合ったか!総員散開!エレンを見つけ出し奪還せよ!!」

 

 

副官からの報告を聴いたエルヴィンは覚悟を決めた。

この場に居る兵士の半数以上をここで使い潰す事を!

 

 

「敵は巨人化したと思われるが!戦闘は目的ではない!!なにより奪還だけを優先せよ!!」

 

 

あとは、優秀な部下たちが巨大樹の森を囲むように展開するだろう。

彼らを信じてエルヴィンは引き連れて来た憲兵や駐屯兵を率いて作戦に移った。

 

 

「フィル!馬を一カ所にまとめておけ!俺たちは索敵を行なう!!」

「ハンネス隊長!了解しました!!」

 

 

ハンネスは副官に馬を任せて巨大樹の森に侵入した。

自分の命を変えてもエレンを奪還する為に!!

 

 

「お前ら!俺たちも森に行くぞ!!」

「なんでジャンが指示するんだよ!?」

「うるせぇコニー!黙ってついてこいよ」

「それが人に指示する態度かよ!!」

 

 

104期調査兵で構成された部隊は、ハンネス隊長の後を追って巨大樹の森に侵入した。

第57回壁外調査では侵入しなかったが改めて入ると不気味としか言いようが無かった。

あり得ないほど大きな幹、いつ巨人が飛び出してきてもおかしくない環境。

 

 

「フローラ!本当にここにユミルが居るの!?」

「『私を助けてくれ』って言う“声”が聴こえたんだからしょうがないじゃない!」

 

 

立体機動で駆けるフローラにクリスタは質問した。

もちろん彼女の聴覚は信じている。

むしろ、ライナーとかいう奴に大切なユミルが痛めつけられていないか心配だった。

それを打ち消す為に何度も、念入りに彼女の居場所をフローラに確認していた。

 

 

「すぐそこにいるわ!」

「どこよ!?」

「目の前!!もうすぐ接触するわ!」

 

 

そして104期調査兵は巨人化したユミルと合流した。

何故か1人で枝にぶら下がって佇んでおり逃げて来たというより待っている感じであった。

 

 

『は?逃げて来た割りには身体に傷が無いわね!?』

 

 

フローラはさきほどまで助けを呼んでいたがユミルが負傷した様子が無くて訝しんだ。

すぐにその予想が当たる事となった。

 

 

「おいブス!エレンはどこに居るんだ!?」

「ライナーたちを警戒しているみたいだ!」

「でもおかしくねぇか、こいつ誰かを探している感じだぞ?」

 

 

同期がユミルに向かって話しかけるが彼女から何も反応は帰って来なかった。

フローラはその時点で、ユミルがじぶんたちと敵対していると見抜いた。

 

 

「ユミル!!良かった!心配したんだよ!!」

 

 

ヒストリア・レイスは、大切なユミルを見つけて一安心した。

何の疑いを抱かずに高所から飛び降りて振り子のように彼女の元に飛んでいった。

 

 

「えっ?」

 

 

ヒストリアはユミルと逢いたかった。

ユミルもヒストリアと逢いたかった。

ただそれだけなのにユミルの巨人は口を大きく開いて飛び込んできた獲物を待った。

突然の裏切り行為に彼女は逃げるのを忘れて口を開いた巨人に向かってしまった。

そしてユミルは口内に大事なお嫁さんをしまい込んで口を閉じて逃げ出した。

 

 

「あいつ、クリスタを喰いやがった!?」

「ぼさっとするな!あいつを追うぞ!!」

「速い!!最初からこうするつもりだったのか!?」

 

 

コニー、ジャン、アルミンは必死にユミルを追いかけるが追いつける速度ではなかった。

突然の裏切り行為と同期が巨人に喰われたショックで出遅れたのが大きかった。

 

 

「フローラ!!クリスタが!!クリスタが喰われた!!」

「分かってるわよ!すぐに追いかけるわ!!」

 

 

付近の巨人を掃討していたフローラも出遅れた。

必死に情報を知らせるミーナを伴って、敵対したユミルを追いかけた。

 

 

「ユミルが何で!?」

「俺はあいつが味方だと限らないって思ってたよ!」

 

 

戸惑うミカサを元気づけようとジャンは発言するが華麗にスルーされた。

ミカサの好感度が低すぎてジャンの発言は雑音と感じていたようだ。

 

 

 

「ユミルはライナーに協力する気なんだ!僕らはおびき寄せられていたんだ!」

 

 

しかしアルミンはジャンの発言を聴いて意見を肯定した。

ジャンからすればアルミンの肯定など要らなかった。

ただミカサに振り向いてもらいたかっただけである。

 

 

「もう限界だ!エレンだけでも連れて行くぞ!!」

「ライナー!ユミルが来たぞ!!」

「よし、出発だ!こんな場所なんておさらばだ!!」

 

 

ライナーはブレードで切り込みを入れた傷で巨人化した。

爆風と発光で調査兵に気付かれてしまったが、もはやそんな些細な事など構っていられない。

鎧の巨人の背中に巨人化したユミルが抱き着いてベルトルトも彼の肩に乗った。

 

 

「あっ…エレンが連れて行かれる!!」

 

 

その瞬間をミカサが見てしまった。

大事なエレンがおとぎ話のヒロインの様に攫われていく様子を発見してしまった。

鎧の巨人の肩に乗っているベルトルトに背負われているエレンが遠い場所に行ってしまう。

 

 

「思考も動きも止めるな!馬を使って追跡するぞ!!」

「はい!!」

 

 

ハンネスも追いついて呆然と枝に佇むミカサに喝を入れた。

ミカサも彼の言葉を受けてショックから立ち直って捕食者の目になった。

同期達もその声が届いてフィルが率いている馬の群れに飛んでいった。

 

 

「わたくしも馬を呼ばないと!!きゃああああああ!!?」

 

 

地面に降り立ったフローラも指笛でライリーを呼ぼうとした。

しかし後ろから激しい鼻息を耳に当てられて珍しく女々しい声をあげて振り返った。

 

 

「ライリー!何をするのよおおお!!」

 

 

自分を置き去りにして他の馬に浮気しようとしたフローラにライリーは罰を与えた。

聴覚に優れているせいか耳が敏感なのでこうやって鼻息を与えると悲鳴をあげるのを知っていた。

ついでに呼ばれる前に待機してみせて自分が役立つ事をアピールしたかったのもある。

先に見つけられるとインパクトが薄れると馬でも感じていた。

ちなみにそれを横で見たミーナは、満面の笑みを浮かべて親友の弱点を発見して喜んだ。

 

 

-----

 

 

「団長!巨人から巨大樹の森から出てきました!」

「あれは…!」

 

 

エルヴィン・スミスは、15m級の巨人の肩にエレンが居るのを発見した。

ここで奴らを逃がせば、人類は敗北するしかない。

 

 

 

「各班、巨人を連れたままで良い!私に続け!」

「エルヴィン!俺たちを囮にするつもりか!?」

「この悪魔が!!」

「君たちはよく戦っている!これが最後のチャンスだ!」

 

 

エルヴィンは口とは裏腹に憲兵や駐屯兵を囮にした。

調査兵団の未来を担う104期調査兵を一纏めにしたのもその為である。

本来は新兵たちに護衛をつけたかったが、フローラが居るのであえてやらなかった。

そのおかげで憲兵や駐屯兵は予想より戦死せずに済みそうである。

 

 

「【鎧の巨人】がエレンを連れて逃亡する気だ!絶対に逃すな!!」

 

 

エルヴィンは馬を走らせて、駐屯兵や憲兵はそれに続いていくしかできない。

元々巨人との戦いをする気ではなかった彼らは、壁外のベテランについていくしかできなかった。

 

 

「ぎゃあああああ!!」

「またやられたか」

 

 

調査兵団の団長の作戦に背いたり敵前逃亡した兵士は巨人の腹に収まった。

何度も壁外調査を生き抜いてきた猛者は伊達じゃなかった。

 

 

「追い付ける速度だ!!」

「間に合うぞ!!」

「これが終われば俺達は憲兵になれるんだ!!」

 

 

参加した駐屯兵の一部は既に壁外任務が終わった感覚であった。

目標条件がエレンの奪還であり交戦しなくても結果さえ良ければ功績になる。

それは駐屯兵から憲兵になる為には重要な戦績である。

 

 

『今度こそ躊躇いなく殺してやる!!』

 

 

ミカサは、自分が不意打ちで2人を殺せなかったことを引き摺っていた。

巨人化する前に殺せば、こうなることは無かった。

もし奴らが死んで有罪になっても、エルヴィン団長なら庇ってくれるはずであった。

だからこそ、彼女はベルトルトとライナーを殺そうと双剣を構えた。

 

 

 

「殺す!!邪魔するならユミルも例外じゃない!どんな手を使っても肉を削いでやる!」

 

 

ミカサは叫んだ!

自分はエレンを引き離す存在を殺してやると!

例え大切な同期であろうと、惨殺してやると!

自分がそうするから周りもそうする様に同調圧力をする想いもあった。

 

 

『これ以上、家族を死なせない!』

 

 

ミカサは唯一の家族を奪還する為に馬を走らせた。

ジャンは、愛されている死に急ぎ野郎に嫉妬して馬を走らせた。

コニーは未だにライナーとベルトルトの裏切りが信じられずに馬を走らせた。

それに続く104期調査兵、そしてエルヴィン団長率いる部隊が鎧の巨人を追跡していた。

 

 

「ああ鬱陶しいわね!!」

「ごめん…」

「良いのよ!悪いのは、こいつらなんだから!」

 

 

一方、頭進撃は巨大樹の森から出れずに立ち塞がる巨人の首を刎ねまくった。

何故か執拗にミーナを狙って来るせいで彼女はうまく動けなくなった。

そして5体の巨人を討伐して、ようやく森から脱出する事ができた。

 

 

「もしかして置いて行かれちゃった!?」

「すぐそこに団長を追っている巨人の群れが見えるわ!そこに突っ込むわよ!」

「近道しないの!?」

「行き先の方向が読めない以上、それは無理よ!!」

 

 

案の定、鎧の巨人に置いて行かれたがエルヴィン団長のおかげでどこに行ったのか一目でわかる。

フローラは目の前に居る巨人の群れに向かって突撃した。

ミーナも親友を信じて突撃するしかできなかった。

ここは、巨人の領域。

部隊から逸れて彷徨うのは自殺行為になってしまう過酷な環境だからだ!

 

 

 

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