進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

78 / 179
78話 因縁

「さあ、鎧の巨人!わたくしと踊ってくれない?」

 

 

フローラが鎧の巨人に向かって発言している時、ベルトルトは拳銃に弾を装填していた。

いつも通り空気扱いだったが奇襲するには最適である。

 

 

「さあ、始めましょうか!!」

 

 

そして双剣を構えたフローラが走り出した瞬間、ベルトルトは発砲した。

ところが、放たれた弾丸は刃に当たり金属音が響いた。

 

 

『外れた!?…違う!?弾かれた!?』

 

 

負の感情が読めるフローラに奇襲など通用しなかった。

ベルトルトの狙いが自分の顔だと分かったのでわざと無視していた。

そして駆け出した瞬間、顔を刃でガードして彼の元に切り込みにかかる。

 

 

『2人で踊ろうとか言ってた癖に最初から僕が狙いだったか!!』

 

 

ベルトルトは、銃を捨てて操作装置に鞘にある刃を挿入してロックさせて引き抜いた。

そしてフローラが突き出した刃を受け流して逸らす!

胴体をぶった斬る為に薙ぎ払いをするとフローラはしゃがんで双剣を突き上げた!

 

 

「危なっ!」

 

 

ベルトルトは、手首を捻って全身の体重をかけて双剣を叩きつけた!

双方とも全てが必殺の一撃、訓練兵時代とは違って手加減無しの殺し合い。

巨人の肉を削ぐためにしなやかに唸る刃は、刃を受け止めるほど大きく曲がった。

 

 

「酷いじゃないか…僕たちは仲間だったじゃないか」

()()()からでしょ?今は違う…でしょ!!」

 

 

彼女は刃を滑らせ護拳に見えるワイヤーを巻き取るレバーから伸びていたケーブルを切断した。

地味な嫌がらせだが、巨人が迫っている時にワイヤーを巻き取れなくする外道な行為だった。

 

 

「うっ!?」

 

 

ベルトルトは刃を振り払って追撃される可能性があるにも関わらず後退した。

フローラも追撃せずにそのままの位置で双剣を構えたまま待機する。

彼女の背後から飛び掛かってくる11m級の巨人。

それすら想定したように巨体の右肩にアンカーを撃ち込んで舞い上がるフローラ。

 

 

「ちょっと待ってよ!!」

「待ったなし!!」

 

 

ライリーという暴れ馬を乗る為に時折立体機動で乗馬を試みていたフローラ。

巨人に飛び乗ってベルトルトにけしかけるなど造作も無かった。

 

 

『ベルトルト!!』

 

 

鎧の巨人は、相棒を狙った巨人の顔面を強打し殴り倒した!

鉄塊より硬い物体が高速で激突し、頭部がうなじに肉や脊髄を巻き添えにして転げ落ちた。

蒸気を噴き出す巨人を見てライナーは相棒を救えて安堵する。

だが、何かを忘れているのに気付いていない。

 

 

「隙あり!!」

 

 

蒸気の中から飛び出してきたフローラは、鎧の巨人の眼球に刃を突き刺してロックを解除。

言葉に反応した彼が動いた瞬間、落下し後転して地面に左アンカーを突き刺して巻き取った!

 

 

「ううっ!?」

 

 

追撃をしようとしたら別の巨人が伸びたワイヤーを掴もうとしたのをフローラは発見した。

やむを得ず右アンカーを巨人の眼球に撃ち込んで気を逸らして残りのアンカーを外した。

同時にワイヤーを巻き取ると同時に“声”を聴いて敵の位置を把握。

巨人のうなじを削いで横たわった死骸の上に待機し蒸気で身を隠した。

 

 

『来たわね』

 

 

右アンカーを打ち込んで飛び上がってきたベルトルトはミスを犯す。

彼女はそのワイヤーを掴むと高熱で手が焼けるのを我慢して死骸から飛び降りた。

彼は狙撃する直前にワイヤーを引っ張られたせいでバランスを崩した。

おかげで手元が狂ってしまい、フローラの頬を弾丸が掠めるだけで終わった。

 

 

「痛っ!」

 

 

すぐさま、フローラはワイヤーを手放して落下してくるベルトルトに備えた。

案の定、ワイヤーが巻き取って着地する彼に向かって刃を投擲した。

投げた刃は弾かれたがその隙に2本の刃を換装し終えた。

すぐさま左手でスナップを利かせてグリップを逆手持ちにして突撃した。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

利き手ではない左手にあったブレードで振り下ろしてきた斬撃をガードしたベルトルト。

再び鍔迫り合いになった瞬間、双方のアンカーを射出したが逆手持ちの刃に弾かれた。

彼にとって誤算だったのは、敵が負の感情を読めるせいで奇襲が通用しなかった点だ。

 

 

「んぐっ!?ごふっ!!」

 

 

フローラはベルトルトの顔面に唾液を吹き付けて逆手持ちしたグリップの底部で腹を突いた。

痛みで怯んだ隙に足を絡めてバランスを崩させ逆手持ちの峰で刃を振り上げさせて反らした。

そのまま振り戻して片刃で胴体を斬り付けるつもりだったが右のガスボンベに激突して弾かれた。

更に一撃を加えようとしたがフローラは諦めてそのまま後退りして刃を構え直す。

 

 

『これでベルトルトは立体機動ができないわ』

 

 

彼の左手にある護拳に見えるレバーから伸びるケーブルを切断し、ワイヤーを巻き取れなくした。

更にさきほど、右側のガスボンベを損傷させて使い物にならなくした。

これで立体機動ができなくなったので巨人の前では、彼は囮にすらならないだろう。

落ちていた拳銃を回収したフローラは、ベルトルトの機動力と攻撃手段を削いで無力化させた。

 

 

『わたくしの狙いは鎧の巨人よ!!』

 

 

狙い自体は、鎧の巨人であるが覚醒したベルトルトを放置できなかった為、徹底的に追い詰めた。

更に追撃しても良かったが、同僚を爆死させたように巨人になる可能性があった為、諦めた。

 

 

『一体、何が起こった!?』

 

 

ライナーは、覚醒している双方が発した殺陣に威圧され介入できなかった。

腰巾着の相棒と、いつも事故で負傷していた女が殺意剥き出しで殺し合う光景は凄まじかった。

一撃が全て必殺で、しなやかに唸る刃が夕日の光を反射させて人生の黄昏を表している様である。

ただ、実戦経験はフローラが上回っているせいで相棒が押されているのは分かった。

 

 

『とりあえずあいつをぶっ飛ばす!!』

 

 

正直、2人の攻防に動体視力が追い付いていなかったが彼女が疲弊してると思って突撃した。

それがフローラの罠と知らずに。

 

 

『今行くぞ!ベルトルト!!ってお前!?』

 

 

フローラに向かって飛び出していった鎧の巨人を待っていたかのように無垢の巨人が飛びついた!

彼女がベルトルトから離れたのはフレンドリーファイアを恐れていたライナーを釣る為だった。

不意打ちされて身動きが取れない獲物を見逃す狩人などこの世には存在しない。

 

 

『なるほど装甲は再生しないのね!だったら!!』

 

 

フローラは向かって来た複数の巨人を足掛かりに鎧の巨人へと向かっていった。

刃どころか榴弾すら効かない装甲であるが、亀の甲羅と同じ外殻と気付いた。

装甲が取れても一向に再生する気配を感じなかったのでそう思っただけだ。

 

 

『邪魔だ!!退け!!』

 

 

鎧の巨人は得意の対人格闘術で巨人を持ち上げてフローラに投げつける。

 

 

「ライナー!こっちを巨人を投げないでくれ!立体機動装置が使えないんだ!!」

 

 

ベルトルトはフローラに操作装置とガスボンベを破壊されて立体機動できなくなった。

それだけでも壁外では詰んだのに巨人が近くに落下してきた。

基本的に巨人は近くに居る人間を優先的に襲うので…。

 

 

「うわああああああああああっ!!」

 

 

ベルトルトが巨人に追いかけられるのは必然であった。

徒歩で歩かれても全力疾走する人間より速いので捕食されるのは時間の問題である。

 

 

『しまった!!』

 

 

致命的なミスを失敗してから気付いた鎧の巨人は相棒を助けに走り出した。

 

 

「余所見をしないで!!」

 

 

わざわざ隙を見せた鎧の巨人の右膝の裏をフローラは削いだ。

装甲では覆われない弱点部位を削がれて巨人の動きが鈍くなった。

やむを得ず立ち止まったライナーは左ストレートでケリをつけるつもりだった。

空中で回避は諦めた彼女も負けじと回転斬りで攻撃を受け流すつもりであった。

 

 

『おいおい!鎧を斬りやがった!?』

 

 

巨人に噛まれて脆くなっていた装甲は回転斬りで削がれてそのまま指を切断した。

その勢いで手首を削いで離脱した彼女は刃が欠けた双剣で振り下ろすと奇跡が起こった。

鎧の巨人の装甲はブロックごとに分かれているが、隙間を狙われたせいか左手首が切断された。

巨人化の限界で弱体化したとはいえ鎧の巨人の左手を刃で斬り落とせた事にライナーは驚愕する。

 

 

「なんだ…もろいじゃないの…」

 

 

刃を節約していた彼女は、想像以上に装甲が脆いのに気付いた。

というより巨人化に限界があるようで硬質化した肌がポロポロと剥がれ始めていた。

そこからは彼女の独擅場であった。

 

 

『やべぇ!限界だ…』

 

 

短時間で2度も巨人化してよく保った方であった。

もはやただの無垢の巨人レベルに落ちた巨体に3桁の巨人を討伐した女は荷が重すぎた。

右肘まで切断されて身動きが取れなくなり肉体の再生が追い付かない。

弱点であるうなじに硬質化を集中しているせいで、他が更に脆くなる悪循環に陥った。

 

 

『ああ、ようやく夢が…』

 

 

うなじに集まっていた結晶体ですら維持できず全て剥がれ落ちたのを確認した女。

それは、とても愉しそうに嗤う悪魔のような顔であった。

いざ、巨人のうなじを削ごうとした時!

ベルトルトとライナーの脳内に電撃が迸る!

フローラも巨人の“声”が呻き声から怒りの“声”になって攻撃を躊躇った。

 

 

「何事!?」

 

 

フローラが連れて来た巨人たちは、凄まじい勢いでその場から去っていた。

厳密に言うと、一カ所に巨人の集合が場所がありそこに向かった様である。

 

 

『はあ!?この場に居る全ての巨人がたった1体の奇行種を襲ってるの!?』

 

 

“声”に耳を傾けると巨人の集合場所には人の“声”がしたが、ひとまず大丈夫そうだった。

とにかく何かしらの原因で巨人が奇行種に狙う事になったとフローラは理解して行動に移る。

鎧の巨人も足を引き摺りながら、巨人が集う場所へ向かっていく。

エレンとミカサ、そして顔馴染みとなっている2名の兵士が居る場所に。

 

 

-----

 

 

時を遡る事、5分前、フローラとベルトルトが本気で殺し合っている頃。

ミカサとエレンは家族の仇である巨人と遭遇した。

金髪で口角を上げる15m級の巨人は5年前と一切変わってなかった。

 

 

「エレン!!」

 

 

巨人の手が動いたのを見たミカサは身を挺してエレンに覆い被さるように庇った。

肋骨がやられて立体機動ができない上に恐怖で最後の家族を守る事しかできなかった。

巨人は、何事も無かったように捕食しようと、彼女に掴み掛かろうとしていた。

 

 

「させるかよ!!」

「ハンネスさん!?」

 

 

ハンネスは巨人の右手の親指を切断して手を刃で弾き飛ばした。

衝撃で右手が飛ばされて、巨人は掴み攻撃に失敗したがすぐに立ち直る。

 

 

「ははは!おいお前ら!ついに敵討ちができるぞ!」

 

 

ハンネスはその巨人を見て笑った。

5年前に立ち向かおうとして敵前逃亡する選択肢しか選ばせなかった存在がそこに居る。

恐怖に負けてエレンとミカサを抱えて逃げるしかできなかったのを彼はずっと後悔していた。

それが今、母ちゃんを殺された2人の眼前におり、ここでカルラの仇を討てるというのだ。

 

 

「お前らの母ちゃんの仇を!俺がぶっ殺す所を!ちゃんと見とけよ!!」

 

 

かつてエレンにハンネスは、こう告げた。

「いざとなったら兵士として戦う」と!

その結果がエレンの母親を見殺しにする結果となって、彼はそれを悔やまなかった日はない。

努力し続けた結果、トロスト区の一部隊の隊長にまでなったが心は決して晴れる事は無かった。

目の前の巨人を討伐するまでハンネスは、あの時の無力な存在なままである。

 

 

「逢いたかったぜ!今度は絶対逃げねぇぞ!!」

 

 

彼は刃を振るう!勝利だけを信じて!仇を討てると信じて!

 

 

 

「ミカサ!オレの手を縛ってる紐を斬ってくれ!早く!!」

「え?…うん」

「オレが!オレがあいつをやらなきゃいけねぇんだ!!」

 

 

両手を縛られて芋虫状態であったがエレンは足掻いた。

ボロボロになっているミカサに代わってあいつを必ず討伐すると!

過去と決別する意味でも絶対にあいつを倒すまで逃げる気など無かった!

 

 

-----

 

 

「エルヴィン団長!!」

「私は捨てて置け!それよりエレンを真っ先に保護して離脱させろ!」

 

 

右腕をベルトルトに斬り落とされたエルヴィンは、止血をしたものの意識がはっきりしなかった。

それでも必死に意識を保っていたら副官の声が聴こえてきたので彼にエレンの保護を訴えた。

自分の夢は大事であったが、人類が敗北するくらいなら命など投げ捨てるつもりである。

 

 

「ぐぎゃあ!?」

 

 

しかし、彼の視界に映ったのは巨人に頭から捕食される副官の姿だった。

優秀でハンジに次ぐ知将であった存在を失ったせいか気力を失ってエルヴィンは意識が途切れた。

 

 

「団長!?」

「衛生兵!!」

「巨人に喰われました!」

「畜生!なんとしても団長に生還してもらうぞ!!」

 

 

熟練兵や指揮官を戦死か負傷して戦力外にされた結果、指揮系統が崩れた。

まず真っ先に経験が浅い憲兵が巨人に喰われた。

次に同僚を守ろうとする調査兵が喰われて、逃げ回った駐屯兵も喰われた。

乱戦というより兵団が巨人に各個撃破されている状況であり、圧倒的に人類は不利だった。

 

 

『エルヴィン団長のせいで地獄になったな!これじゃあライナー案は無理だ!』

 

 

ユミルはヒストリアを壁外に逃がそうとしたが、計画は失敗で終わった。

ライナーはあそこでなんか遊んでるし、兵団の兵士は次々に戦死していた。

自分1人の力で彼女を守り切る自身がないので決断が遅れていた。

 

 

「ねぇユミル…自分が助かりたいって嘘だよね?」

 

 

ヒストリアは、コニーとの会話でユミルの矛盾点を発見した。

自分が王家の人間と証明する書物や証明書など無いのにそれを証明できるわけがない。

ましてや巨人をけしかけてきた勢力に口頭で告げても信用されるわけがない。

 

 

「私、また貴女に守られるの?」

 

 

ユミルはクリスタという少女を守るために色んな事をしてきた。

憲兵団に所属できるように成績を調整したり、いじめっ子を排除したりしてるのは知っていた。

ただ、守られるだけの…か弱い女だと思われるのは嫌であった。

だって、一人前の兵士になるまで必死に訓練してきた軍人であるからだ。

 

 

「ユミル!私たちは人の為に生きるのは止めよう!これから私たちは2人の為に生きよう!」

 

 

ヒストリアの目の前に巨人が1体出現した。

今までだったら人を喰らう得体が知れない化け物としか見えなかった。

 

 

「何だか不思議なんだけど、貴女と居ればどんな世界でも怖くないや!」

 

 

かつてミーナは、巨人に喰われそうになった時、精神的に病んで壊れていた時期があった。

でも彼女は親友のおかげで立ち直ってエレン奪還の立役者となった。

ヒストリアもユミルと一緒に生きられるならどこでも生きていけるつもりだ。

 

 

「私たちの夢の邪魔を…するな!!」

 

 

ヒストリアは巨人にアンカーを刺して飛び込んで、双剣で巨人のうなじを削いだ。

巨人はユミルの方に気が取られていたとはいえ、2体目の巨人討伐に成功した。

その達成感で着地を考えるのを忘れていたが巨人化したユミルがやさしく受け止めた。

ユミルは、破滅願望者だった少女が成長したのを目撃して絶対に生還させると誓った。

 

 

「ジャン!援護するぜ!!」

「頼む!!」

「ありがとうコニー!」

 

 

ジャンとアルミンは、駆けつけて来たコニーの援軍に感謝した。

巨人1体は討伐したもののもう1体追加されて動けなくなってしまったからだ。

平原で立体機動すると必然的に落馬するので討伐直後は機動力が無くなる。

そこを突け狙われた形であったので馬に乗った彼の雄姿は頼もしかった。

 

 

「練習の成果を見せてやる!!」

 

 

第57回壁外調査で自分の無力さを知ったコニーはフローラと特訓した。

訓練兵時代から壁外で任務を行なって誰よりも巨人と交戦してきた技術はここで活きる。

彼女に生き残る技能を教えてもらって身体が覚えるまで訓練した成果はしっかりと発揮された。

 

 

「おおっ!これがうなじを削ぐって奴か」

 

 

うなじを削ぐ行為は、彼にとって点数を稼ぐ絶好の機会であったが実戦では不安が残っていた。

動く物体での訓練は無かったがフローラとの練習で一人前となった彼には迷いはない。

コニーの身体能力自体はフローラを凌駕しているので巨人のうなじを容易く削ぐことができた。

 

 

「よしゃあ!!コニー!よくやってくれた!!」

「まだ来るよ!?しかも2体!!」

 

 

だがさすがに騒動になり過ぎて巨人が次々と戦場に集結してきていた。

鎧の巨人が投げて来た巨人以外とも交戦しなければならず、兵士は次々と追い詰められた。

 

 

「ぐおおおおっ!?」

 

 

一方、孤軍奮闘で巨人と交戦していたハンネスは巨人に胴体を掴まれた。

頭進撃やリヴァイ兵長のせいで感覚が麻痺しているが、巨人はチームで挑むものである。

もし喰われそうになってもカバーできるし、気を惹き付けて奇襲や援護ができる。

副官のフィルなどと共闘が断たれた彼は、痛みで動けないミカサを庇って捕まってしまった

 

 

「な、なんでだよ…」

 

 

エレンは必死に巨人になろうとしたができなかった。

母親の仇が目の前に居るが、兵士としての訓練を修了したので巨人を討伐できるはずだった。

しかし装備はライナーに没収されて、唯一の能力である巨人化も何故かできなかった。

女型の巨人戦でもそうだったが、何故巨人化できないのか分からなかった。

そうこうしているうちに掴まれた恩人が巨人の口元に近づいていた。

激痛に耐えているミカサは泣きながらそれを黙って見る事しかできなかった。

 

 

『俺は終わるのか!?カルラの仇討ちもできず、恩人に恩返しができないのか』

 

 

ハンネスは喰われそうになった時、エレンとミカサを見下ろす事しかできなかった。

もし、あの時、こいつと交戦していれば、彼らを救うことはできなかった。

今、できる事といえば、自分が喰われている間にエレン達が逃走を成功する事を願うだけだ。

 

 

「させない!!」

 

 

突如、ハンネスは女性の声が聴こえたと思うと衝撃を感じて落下した。

一瞬戸惑ったが、脱出できたので立体機動で巨人の背後に回った。

 

 

「ミーナ!?」

「エレン、ミカサ!私が乗ってきた馬で逃げて!!」

 

 

104期調査兵であり、エレンの同期だったミーナ・カロライナはハンネスを救出した。

それと同時に連れて来た馬で彼らを逃がすつもりだった。

 

 

「すまねぇ!この恩は絶対に返すぞ!」

「今返して!巨人を討伐するの!!」

「もちろんだとも!!」

 

 

ハンネスもミーナもここが死に場所と覚悟していた。

巨人が怖かったが、それ以上にエレンを失うのを恐れて必死に交戦するしかなかった。

その隙にミカサは立ち上がろうとしたが肋骨をやられているせいで動けなかった。

 

 

「エレン聞いて…伝えたいことがあるの」

 

 

ミカサは絶望で泣いて打ちひしがれるエレンの顔を見て話しかけた。

近寄ってきた別の巨人を見て自分の死期を悟り、せめて大切な人に感謝したかった。

 

 

「私と一緒に居てくれてありがとう。私に生き方を教えてくれてありがとう」

 

 

エレンを安心させる為に笑顔で彼女は話しかけた。

母親が泣く子供を安心させてあやす時に見せる笑みを無意識にやっていた。

すぐそこには、新手の巨人が来ている。

最後に想いを伝えて巨人に突撃して囮となってエレンを救うつもりだった。

 

 

「……私にマフラーを巻いてくれてありがとう…」

 

 

溢れる感情に耐え切れなくなったミカサは、涙を流してエレンに感謝した。

その泣き顔はエレンが見て来た中で一番可愛かった。

いつも無表情で訓練に励む彼女ではなく純粋な乙女としての感情が見えた。

追い詰められた極限の状態で唯一心が癒されるオアシスだった。

 

 

「そんなもん!何度も巻いてやる!これからもずっとオレは何度でも!」

 

 

エレンは誓った!

絶対に彼女を守って見せると!

 

 

「きゃああああ!!あがっ!?」

 

 

巨人のうなじを削ごうとしたミーナは失敗して軽く傷つけるしかできなかった。

そして横に飛び出した瞬間、彼女は叩き落とされて地面に激突した。

 

 

「おい!嬢ちゃん!?ぐおっ!?」

 

 

命の恩人が地面に落下したのを見てハンネスは動揺した。

そのせいでワイヤを掴まれた彼も同じように地面に叩きつけられた。

 

 

「オイ!!お前ええええええ!!」

 

 

エレンは両手を握りしめて叫んだ!

それは巨人に自分の存在を気付かせてぶっ殺す為に!

巨人も声に反応して彼の方に向き合った。

 

 

「ああああああああああああああ!!!」

 

 

エレンは手を伸ばしてきた巨人に向かって右手で殴りつけた。

それは無力であり、せいぜい数秒だけ時間を稼ぐ程度の攻撃だった。

その時、偶然にもエレンの脳裏に父親の言葉が響いた。

「いいか、母さんの仇は…お前が討つんだ!!」というグリシャの最後の言葉を!

その瞬間、奇跡が起きた。

 

 

「ああああああああ!!」

 

 

エレンの怒りに感化されたように近くに居た巨人が、エレンの母親の仇に喰らい付いた。

それだけではなく、ほぼすべての巨人が彼の怒りを共感したように喰らい付いた。

彼の怒りはライナーやベルトルトに届いたように脳内で電撃が迸った。

フローラは、突然巨人が通常種から奇行種に切り替わったのを実感し衝撃を受ける。

 

 

「何が起こった!?」

 

 

ハンネスは目の前の光景を信じる事ができなかった。

巨人が巨人を喰らい、自分たちが倒す事が出来なかった巨人があっさりとやられた。

本当は自分が喰われて死に際に夢でも見ているのではないかと錯覚するほどあり得ない光景。

 

 

「嬢ちゃん大丈夫か!?」

「痛い…痛いよ……」

 

 

肉の誓いのメンバーを守ろうとして覚醒したミーナは心が折れて泣いた。

フローラに教わった通り、巨人を討伐しようしたのに失敗して叩き落された。

また自分が巨人に喰われると思って絶望して泣くしかできなかった。

ハンネスは彼女を立たせて右腕を伸ばし肩をまわして一緒にそこから離れた。

 

 

「なんであいつが喰われているの…!?」

 

 

ミカサはエレンに抱っこされていたが未だに目の前の光景が信じられない。

彼らは、何故あの巨人が喰われているのか理解できなかった。

ただ言えるのは自分たちが助かったという事だけだ。

 

 

「帰るぞ!オレたちの居場所に!」

「……うん!」

 

 

エレンはミーナが連れて来た馬に向かったが、いざ辿り着いたら少しだけ脱力をした。

彼女は目印の為に馬のタテガミに2つのおさげが作ってあり、少しだけ同情した為だ。

 

 

『最悪だ…!よりによって【座標】が最悪の奴の手に渡っちまった!』

 

 

ベルトルトを乗せた鎧の巨人は、フローラの追撃を振り切ってエレンに向かって駆け出した!

さきほどの電撃を受けて本能で【座標】、つまり【始祖の巨人の力】を発動されたのを理解した。

 

 

『絶対に取り返さないと…!断言できる!エレン、お前だけはその力を所持しちゃいけねぇ!』

 

 

エレンは巨人を全て駆逐しようとしている。

だが、現実を知られたら壁外の人類を駆逐する事になるだろう。

【座標】の力を発動されれば、【地鳴らし】で世界が滅びる!

だからこそ、なんとしても彼から【座標】を奪還する必要があった。

 

 

「来るんじゃねぇ!てめぇらぶっ殺すぞ!!」

 

 

馬に乗ろうとしたエレンは鎧の巨人を見かけて自分を狙っていると分かった。

どうする事もできなかったが、ただ怒りを彼らに向かってぶつけただけだ。

無意味な行為であるが、そのせいで再び彼の中に眠っていた力が発動した!

 

 

『うっ!?』

 

 

再び巨人化能力者に電撃が迸り、哀れな巨人を喰らい尽くした全ての巨人に影響を及ばした。

エレンの怒りに扇動されたように巨人の大群が鎧の巨人に向かって走り出した!

 

 

『まずい!!このままだとベルトルトを守り切れねぇ!!』

 

 

フローラとの戦闘で立体機動装置が事実上、使用できなくなったベルトルト。

そんな彼に巨人を20体もぶつけられたら勝ち目などない。

そして厄介な事に鎧の巨人で居るのに限界が近づいており目の前が真っ赤に染まっていた。

 

 

「今だ!鎧の巨人を囮にして全力で離脱しろ!!」

 

 

エルヴィン団長が気を失った為、代わりに第三分隊の副長のディルクが号令を下した!

その命令を聞いて兵士一同が全力で戦線離脱を開始した!

それはユミルと一緒に居たクリスタも例外ではなかった。

 

 

『そうか、だからあいつらはエレンを必死に狙っていたのか』

 

 

ユミルは2度味わった感覚で、あれが始祖の巨人の力だと納得した。

逆に言えば、この力さえあれば大切なクリスタ…ヒストリアを守る事ができる。

 

 

『それなら壁内にも未来がある』

 

 

どういう理屈か分からんが、エレンが巨人を操って外敵を排除する事ができるのは見ての通りだ。

巨人化能力者が複数居ても無垢の巨人がその3倍居れば勝ち目が無いほど戦力差がある。

壁外の技術がどれだけ発達したのか分からないが、暫くはヒストリアが破滅することは無い。

 

 

「ユミル!どうしたの!?一緒に逃げようよ!!」

「おいブス!何やってんだ!?逃げるぞ!」

「ユミルはブスじゃない!」

「んな事どうでもいいだろう!?」

「どうでも良くない!!」

 

 

ユミルは悩んだ。

このまま帰ればきっと自分は歓迎されてヒストリアと一緒に居られるだろう。

だが、これはライナーたちの仲間から強奪した力。

その力を持ち逃げしたまま、無垢の少女として演じて暮らしていける事ができなかった。

 

 

「うわあああああああ!?」

 

 

ベルトルトの悲鳴を聴いてユミルは決断した!

奪った力をあるべき場所に返すべきだと!

ヒストリアは自分が居なくても生きていけると実感して、彼女は泣く泣く離れる事にした!

 

 

「早く帰ろうよ!私はもっとユミルの事を知りたい!ユミルの身体や過去を知りたいから!!」

「ゴエンア」

「え?」

 

 

ヒストリアは困惑した。

一緒に生きると誓ったお嫁さんが自分の告白を拒絶したような感じがしたから。

そしてそれを裏付けるようにユミルは自分の元から去るように走り出した。

 

 

「コニー!ユミルをおいかけて!!」

「駄目だ!本隊から逸れるわけにはいかねぇ!!」

「やだやだ!!ユミル!!なんで!?どうして!?」

 

 

ヒストリアは泣き叫ぶしかできなかった。

あれだけ自分にプロポーズしてきた癖に、いざ受け入れようとすると彼女は去ってしまった。

お嫁さんの自分より、人類の敵対している鎧の巨人に向かって走ってしまった。

一緒に暮らそうと誓ったのに裏切られた彼女は、ここで逃げ出したのを一生後悔する事になる。

 

 

「エレン、ミカサ!無事か!?」

「ハンネスさん!オレは…オレは……!」

「何泣いて居るんだよ…お前はよく頑張ったさ!」

 

 

結局、何もできなかったエレンは泣きながら馬を走らせる事しかできなかった。

第57回壁外調査の時みたいに自分のせいで大勢の人が命を落とした。

何もできない自分のせいで、次々と間接的に人を殺したのに心痛めて自決しそうなほどだった。

 

 

「お前のおかげで俺らは助かったんだ!男ならその事に自信満々で胸を張れよ!」

「ハンネスさん…でも!」

「巨人の大群がああなったのは、エレン、お前の中に眠っている力だと思うぞ」

 

 

泣いているエレンを見て父親が励ますようにハンネスは声をかけた。

昔から負けず嫌いで決して屈しない性格だったが、それ以上に泣き虫だったのを知っている。

 

 

「とりあえず、母親の仇討ちはできたんだ!主役のお前がそんな面する必要はねぇよ!」

「オレのせいでみんな、死んで…オレだけが…こんな役立たずの…」

「馬鹿野郎!死んでいった奴らの事を思うなら、それこそ前に進まなきゃならねぇ!」

 

 

エレンは、気を失ったミーナを乗せて馬を走らせているハンネスの顔を見る。

5年前より老けているが、とっても頼りになる兵士の顔であった。

酔っ払っていた時しか見たことがなかったせいで、無能とか役立たずとか思っていた。

しかし、そこに居るのは、経験豊富で親密に相談に乗ってくれる兵士である。

 

 

「…ありがとうハンネスさん」

「よし、決まりだな!今夜はエレン奪還祝いをするぞ!ミカサは…大丈夫か?」

「大丈夫です…」

「ミカサの怪我が完治した頃にやった方が良いか…アルミンも誘ってな…」

 

 

ハンネスは、エレンとミカサとアルミンが揃っていないと意味が無いを思っている。

いつもの三人組が揃って居なければ、彼の日常は戻ってこないからだ。

ミカサを無視してしまった事に恥じた彼は、周囲を警戒するように馬を走らせた。

 

 

「ユミル!一緒に生きるって約束したのに!」

 

 

コニーの馬に乗せられたヒストリアはユミルを恨んだ!

ユミルの行動に理解できず、自分の元から離れた事に怒るしかできなかった。

 

 

-----

 

 

「なんでよ…」

 

 

フローラは、鎧の巨人に群がっている巨人の大群を見て呟いた。

両親の仇が今、ここで死のうとしている。

このまま放置していれば、きっとライナーの後を追ってベルトルトも死ぬだろう。

 

 

「鎧の巨人はわたくしの獲物よ!!」

 

 

フローラは、今まで鎧の巨人を討伐する為に生きて来た。

この手で!鎧の巨人を殺さなければ意味が無い!

 

 

「わたくしの邪魔を…しないで!!」

 

 

怯えながら近づいて来たライリーに騎乗した彼女は、巨人の大群に向かって突撃した!

別に鎧の巨人を助けるつもりなどなかった。

 

 

「こいつら、全員討伐してやるわ!!」

 

 

巨人を掃討した後は、鎧の巨人を討伐する気満々であった。

既に身体は限界だったが、怒りと気力で乗り越えた彼女は悪魔を通り越して鬼神になった。

目の前の巨人をこの世から一掃するまで止まることは無い!

フローラの戦いはまだ続いていく!

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。