進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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81話 人類の希望であるエレン・イェーガーの価値

3つの50mの壁は、人類の活動領域を巨人から守るように囲んでいる。

そして円状の壁には、東西南北の4カ所に突出している城壁都市が存在する。

それは人に反応する巨人を惹き付けて防衛をしやすくする為に設置された。

しかし、壁の外側に突出しているせいで補給が断たれると即座に飢えると同意義である。

 

 

「巨人が出現してから4日目、未だに巨人が壁内で発見されておりません」

「うむ、ウォール・シーナの兵力も総動員しているが、特に問題があったとは聴いて無いな」

 

 

駐屯兵団第一師団精鋭班の兵舎でキッツ・ヴェールマンは部下のリコからの報告を聴いていた。

現在、ウォール・ローゼ内の住民は、ウォール・シーナの旧地下都市に避難している。

壁が突破された際の模擬訓練通りに避難させたが様々な問題が発生した。

一番大きいのが、想定された通り、人類の半数を喰わせる食料の備蓄は1週間が限界だった。

 

 

「兵団上層部は、安全が確認次第、避難民を順々にウォール・ローゼに送還せよとご命令です」

「何故、巨人が発生したのか!その原因が分からぬ以上、再び巨人が出現するのだがな」

「それと問題なのは、現在トロスト区及びクロルバ区の補給が途絶えております」

「そんなもの分かっている」

 

 

ウォール・ローゼのトロスト区からクロルバ区の間で巨人が出現した。

つまり、そこから巨人が壁内に侵入してきたと結論付けられる。

そのせいで、商人や兵団の輸送団が怖気づいてローゼ南西部の補給が期待できなかった。

 

 

「対策はできているのか?」

「リーブス商会とマルレーン商会のおかげで、なんとか我々は飢えずに済んでます」

「速やかに巨人が出現した原因を特定したいものだ」

 

 

キッツは、民間人が怯えて暮らしているのに心を痛めており、速やかに安全を確保したかった。

ウォール・シーナではローゼどころかシーナの住民の半数も養えない。

いっそトロスト区で義勇兵を募って壁内の捜索をさせようか考えるほど追い詰められていた。

 

 

「隊長!第18回壁内巨人捜索部隊の報告をしに参りました」

「イアン、簡潔に問おう。巨人もしくは、穴を発見したか?」

「いえ、双方とも発見できておりません!!」

 

 

イアン班長の報告を聴いてキッツは予想通りの内容でため息を吐いた。

何としても数日以内に壁内が安全だと宣言しなければならない。

だからといって、今は安全だからと言ってそれが続くとも限らない。

今度、巨人が出現したら避難民の人口を養えなくなると同時に兵団の発言力が信用されなくなる。

 

 

「しかし、今回の調査で奇妙な点がありました」

「よし言ってみろ。些細な事でも重要な手がかりになるかもしれんからな」

「ローゼ南部にある巨人に破壊された複数の村で馬が残されているのを発見しました」

「ん?」

 

 

キッツは、今の報告を聴いて違和感を覚えた。

リコも巨人に襲撃されたのに馬が村に残っているのに疑問を感じた。

 

 

「馬が?」

「はい、詳細に調査すると家屋が内側から破壊されてました。いえ、考えたくないのですが…」

「つまりなんだ。巨人の正体は村人で、巨人化して壁内人類を襲撃したとでも言うのか?」

「……あくまで私の仮説に過ぎません。しかし、さきほどの情報は確かです!」

 

 

この場に居る誰もが否定できなかった。

何故なら巨人化できる人間は最低でも4人居た。

つまり壁内人類が巨人化しても可笑しくないという事である。

 

 

「しかし、その村々では血が1滴も見つかりませんでした」

「血痕?」

「エレン・イェーガーの例では、自傷行為をすると巨人化できます。それが無いとすると…」

「自傷行為で巨人化したのではないという事か!」

 

 

僅か数か月で状況が大きく変わった。

100年以上、壁内が平和に保たれていたのが、もはやどこも危険地帯となっている。

シーナに避難している住民の中に巨人化できる能力者が潜伏している可能性もある。

イアンの報告を聴いたキッツは更に頭を痛めるしかできなかった。

 

 

「隊長!ご提案があります!」

「どうしたリコ?」

「エレン・イェーガーと接触し、情報を共有をした方が良いと提言します」

 

 

キッツは、エレンを異端と判断して排除しようとした。

結果的に壁内人類の味方と判明したが、未だに得体が知れない存在。

いつ暴走しても可笑しくないので未だに彼と接触するのを恐れていた。

 

 

「幸い、エレン・イェーガーはこのトロスト区で待機しております!面会されては?」

「……私はこれから街の哨戒任務を行く。代行はイアン、貴公に託す!」

「ハッ!」

「隊長、私もお供します」

 

 

キッツは隊長代行をイアンに移行し、リコと共にトロスト区の哨戒任務に出た。

街は復興したとはいえ、未だに瓦礫が転がっており、人々の表情は暗い。

希望に満ちていた活気ある街は、巨人によって奪われて更に失う可能性があった。

 

 

「隊長!あそこで子供たちが遊んでおります!」

「まだ、この地に子供が残っていたのか…」

「我々の努力で治安が向上した影響ですね」

「そうか……まだ希望はあるか」

 

 

トロスト区は人口の3割を喪失し、3割程度の人口しか戻ってこなかった。

治安も悪化し続けていたが駐屯兵団や商人たちのおかげで立ち直れた。

今では、こうやって子供たちが外で遊べるまで治安が改善したのを目の当たりにしたキッツ。

特に意識したことは無かったが、次世代には刃を取ってもらいたくないと感じた。

 

 

「ふん!親御さんは何をやっているのだ!子供だけで遊ばせるなど!!」

「近くに駐屯兵4名が見張ってます。おそらく彼らに任せているのかと…」

「我々は子供の御守り役ではないのだぞ!全く、壁内に巨人が出現したというのに暢気な事だ…」

 

 

かつてキッツは幼少期から兵士になって人類を守るという夢があった。

その夢自体は叶ったが、実際はいつ人類が滅んでも可笑しくない現実に蝕まれた。

彼らには刃を持たせない様に努力するつもりである。

憧憬(しょうけい)の眼差しを向ける子供たちに彼は手を振って、早歩きでその場から離脱した。

 

 

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「ねえ、ミーナ。いつになったらわたくしの手を放してくれるの?」

「フローラが私から逃げなくなったら!」

 

 

同期であるミーナに目を付けられたフローラは何とか振り切ろうと考えていた。

騙して逃げ出しても良いが、さすがに親友相手にそんな事をしたくないのが本音だった。

 

 

「よおフローラ!女の子とデートか?」

「クラースさん、冗談でも言って良い事と悪い事がありますわよ」

「誰?この人?」

「調査兵団の第三分隊所属のクラースさん、手が器用で工兵経験がある人よ」

「ふーん…」

 

 

ミーナは親友と親し気に話しかけてきた男を見た。

第一分隊のゲルガー先輩と同じリーゼント頭で油の匂いがして嫌になった。

 

 

「ディルク団長代行は、お元気ですか?」

「マレーネに酒を強請られて兵団と板挟みになってるぞ」

「それは残念ですわね。そういえば、壁内の警備任務があるかと思いましたのに何もないですね」

「新兵なら駆り出すべきなのだが、色々あったせいで、あえて任務を指名してないってわけだ」

「わたくしの休暇届は、いつ受理されるのですか?」

「状況を考えてみろよ。まだ壁内に巨人が居るかもしれないって言うのに何でお前はー」

 

 

段々、フローラと親しげに話している兵士に嫉妬した。

誰とも仲良くなれる親友であるが、それだけ自分と過ごす時間は減るからだ。

ここだけ見ても調査兵団の団長代行と知り合いの兵士と世間話で自分抜きで盛り上がっていた。

 

 

「フローラ!早く行こうよ!」

「おっと彼女を怒らせてしまったようだな!」

「用があるならすぐに行きますけど…」

「残念ながら現時点では、お前を徴用するほどの事態にはなってないぞ」

 

 

フローラは大義名分で親友から離れられるチャンスを逃してしまった。

クラースと別れた以上、どうやってミーナを満足させられるか必死に考えていた。

 

 

「あそこに居るのエレンじゃない?」

「本当ね。オルオさんとペトラさんが居るとはいえ、こんな無防備で歩き回るなんて」

「誰?」

「エレンを守っている調査兵団の選りすぐりの護衛集団よ」

 

 

ミーナはまた置いて行かれた感じがした。

そもそも入団したばかりの新兵がそこまで先輩方と仲良くなっている事自体が可笑しい事である。

彼女からすれば、どんどんフローラが遠くに行ってしまう感じがして苛立ちがあった。

 

 

「いつまで気を病んでいるんだ。俺様を見習って堂々と歩けば良いんだ」

「オルオさん、オレは兵団の一員なのに任務の度に何もできなくて…」

「ちょっと力がある新兵如きが調査兵団の中核を担えるわけないだろう」

 

 

オルオからすれば、新兵如きが自分を越えられるとは思っていない。

何故なら自分は特別であるうえに努力してここまで這い上がってきたからだ。

さすがに兵長やミケ分隊長には実力は及ばないと思っているが、三番手なのは間違いない。

悩み過ぎなエレンには、天才ながらも実績を地道に積み上げていく自分を見習って欲しかった。

 

 

「とっくにフローラに追い抜かれた奴が何か言ってるわね」

「あいつは例外だ!なんだよ巨人の首を刎ねて討伐するって!あり得ないだろう!?」

「天才で実力者のオルオが真似できないこと無いと思うけど?」

「腕を痛める非効率なやり方などやらん主義でな!兵長の技を次世代に伝えるのが俺の役目だ」

「素直に認めればいいのにね…」

 

 

そんなオルオが仮想敵にしているのがエレンと同じ新兵のフローラだ。

公式記録が()()()存在しないが訓練兵時代から壁外任務を行なっていたので思う事はある。

いわば、質が悪い事に非公式にせざるを得ないほど巨人を討伐している化け物だった。

リヴァイ班で奴に対抗しようと何度も告げたが、自分だけでは太刀打ちできないという事だ。

もし勝てるのであれば、「俺の戦績のサポートにできるようになれ」と発言するからだ。

 

 

「エレン!ペトラさん!オルオさん!!」

 

 

そんな事を考えているとヤバい奴が来た。

リヴァイ兵長が人類最強の男であるならば、あいつは人類最強の女である。

兵長が短期決戦で巨人を全滅させるなら、あれは長期戦に持ち込めば同数の巨人を狩れる化け物。

それでも臆さないオルオは見栄を張って彼女の前に出た。

 

 

「フローラ!なんで俺様を最後に呼んだ!?そこは先輩を気遣って真っ先に呼ぶべきだろうが!」

「すみません、見つけた順でお呼びさせて頂きましたので、こうなりましたわ」

「次回からは気を付けろ!」

「申し訳ございませんでした!」

 

 

調子に乗っているフローラを先輩を敬うように躾けて満足してドヤァ顔になったオルオ。

それを見てミーナとペトラが彼を不快な視線を向けているのに気付く事はなかった。

 

 

「フローラ…お前は良いよなー」

「えっ?」

「オレは兵長たちに守られてばかりで巨人化も制限されてる……お前みたいに戦いたいのに!」

 

 

エレン・イェーガーという男は、親友で同志のフローラ・エリクシアという女に嫉妬していた。

自分と違って多少の無理ができる上に自由に街を移動できるし、何より巨人と気軽に交戦できる。

生存競争において男は、他のライバルを出し抜く為に名声と功績と実績を求める性がある。

ライバルとして認めた女が活躍しているのを指を咥えているほど、悔しい事は無かった。

 

 

「わたくしたちは、壁内人類を守る為の消耗品だからね。エレンと違って酷使されるのよ」

「オレは巨人を討伐しようとしただけで怒られるのに!お前は褒められるのは羨ましいよ!」

「良いじゃない。壁内人類が貴方を認めているって事だから。使い捨ての駒よりマシな扱いよ」

「オレが無力のせいで、先輩方が大勢死んじまった。みんな、オレを過大評価し過ぎなんだよ…」

 

 

エレンは未だに自分の無力さのせいで、調査兵団の兵士を死なせた事に後悔していた。

過去の経験と実績から『巨人化できる』という力をあるだけの凡人だとエレンは自覚している。

もし立場が逆転していたならば、大勢の兵士が生還し、身の丈が合う自分も活躍できたはずだ。

だからこそ、特別な力が無いのにリヴァイ班と互角以上の実績と実力があるフローラに嫉妬した。

 

 

「……なあ、フローラ。オレは……どうすればいいと思う?」

「まずは巨人化の能力を使いこなすのが先ね」

「お前もオルオさんとペトラさんと同じ事を言うのか?」

「エレン、貴方は切り札なのよ!カードを切った時に動けなかったら意味ないでしょ…」

 

 

フローラも含めて全員に同じことを言われているがエレンは納得できなかった。

巨人化できてもあっさりやられて拉致される事がここ最近で2回もあったからだ。

立体機動の訓練が活きておらず、ただ制限をされた毎日を送るのはもう嫌であった!

 

 

「じゃあ、逆にオレは何ができるんだよ!!」

「巨人化した時の爆発で大量の巨人を吹っ飛ばせるじゃない」

「えっ!?」

 

 

ペトラやオルオがエレンを諫めようとした瞬間、フローラから爆弾発言が飛び出した。

言い出しっぺのエレンも彼女が一体何を言っているのかと戸惑うほど衝撃な一言だった。

 

 

「ストヘス区で女型の巨人が巨人化する際に爆発して死傷者が出たのは分かるわよね?」

「ああ、そのせいで…能力者を捕縛する兵士がみんな死んじまったな」

 

 

ストヘス区でアニ・レオンハートを捕縛しようとして突撃した民間人に扮した兵士は全滅した。

エレンたちはミカサのおかげで地下室に逃げ込んだおかげで助かっただけである。

フローラに至っては、逃げるのが遅れて一回、気を失うほどの爆発であった。

 

 

「じゃあ、同じようにエレンが巨人化しただけで巨人の大群を吹っ飛ばせるじゃない」

「…うまくいくものなのか?」

「ウトガルド城で同期を守っていた先輩たちは、巨人の数の暴力で喰われてしまったわ」

「つまり、そうなりそうな時に巨人化するだけで先輩方は助かるのか?」

「あくまで仮説だけど、エレンが能力を使いこなせれば起死回生の一手になりそうじゃない?」

 

 

巨人化による爆発を想定していなかったエレンは考え直した。

良く考えてみれば、自分が巨人化した時にフローラを吹っ飛ばした記憶がある。

あの時は、壁外で初めて巨人化した時で、右手だけ巨大化して、リヴァイ班に警戒されていた。

でも、そのおかげで爆発が小規模であり幸いにも死人は出なかった。

コントロールできなければ、いつ、あの悲劇が起こるか分からない。

爆発しても可笑しくない爆弾を制限するのは当たり前であり、ようやく自分の立場を理解できた。

 

 

「そうだよな…とにかくやってみるしかねぇよな!ハンジたちさんにも協力してもらうよ」

「おいおい、俺様の言う事を従っていれば、ゴールはすぐそこにあるんだがなー」

「こいつ、直属の後輩ができたのが初めてで無理に先輩面してるだけだから無視して良いわよ」

「ペトラ、いくら俺の女房面したいからと言って、さすがに辛辣な言葉過ぎないか?」

「偉そうな男は嫌われるって忠告してるだけなんだけど…」

 

 

エレンもペトラもオルオですら発言する単語を選んでいた。

理由は、フローラが連れて来た新兵のせいであった。

 

 

「えーっと、エレン!私、応援してるから!!頑張って巨人化をコントロールしてよ!」

「ありがとうミーナ」

 

 

アニ・レオンハートの正体が女型の巨人とは公式発表がされていない。

その彼女と親友であったミーナにそれまで情報を伏せるように釘が刺されていた。

口が悪いオルオも実は、単語を選んで発言しており気遣いができる男である。

 

 

「結果を出さなきゃいけねぇ…!死んでいった人の命を無駄にしない為にも!」

 

 

エレンの精神が向上心に繋がったのは良いが、代わりに自分を追い詰めていた。

ミーナと本人を除く全員がこのままでは成長するどころか悪化すると分かっている。

フローラにミーナの精神状況を知らされたエレンは、話の話題を変える事にした。

 

 

「ところで、フローラ!ミーナ!お前たちにはオレはどう見えるんだ?」

「何って同期でしょ?一緒に3年間訓練してきて兵士になって巨人の全滅を夢見るエレンでしょ」

「私は、肉の誓いで同志として、一緒に巨人を滅ぼして奪還する仲間よ!一緒に頑張ろう!」

「ありがとうな、オレを化け物と思わないのはお前らくらいだ」

 

 

巨人化できる人類のうち、唯一人類の味方であるのがエレンである。

ユミルは不明であるがライナーに同行した時点で、壁内人類を想っていないのは明白である。

そのせいか、再び調査兵や駐屯兵からも疑いの目を向けられるようになっていた。

同期の言葉を聴いて、104期兵は全員同じ気持ちだと思い、彼は少しだけ安心できる事ができた。

 

 

「ところで皆様はどこに向かわれようとしていたのですか?」

「装備の補充に来たのよ。壁内は安全じゃないからいくつあっても過剰じゃないから」

「俺様が居れば、負けはしないが万能じゃないからな。仕方なくここに来たって事だ」

「とりあえず、フローラたちも装備の点検を忘れないで。いつ駆り出されても可笑しくないから」

「はい、心に留めておきますわ。先輩方もお気をつけて!」

 

 

フローラは、先輩たちの話を聴いて例の補給基地の事を思い出していた。

王政幹部を脅迫して、補給拠点を壁内の数カ所に作る計画を無理やり承認させていた。

しかし、想像以上に巨人が壁内に侵入してきたので、更に重要になっていると実感している。

ウトガルド城で交戦していたゲルガーとナナバの敗因は、刃とガスが切れたせいであった。

気遣いが優しくて分かり易いペトラの忠告を深く心に留めてその場を後にした。

 

 

「待ってよフローラ」

 

 

あっさりエレンと別れた親友に困惑しながらもミーナは必死にその後ろ姿を追いかけた。

自分が知らない世界で道標になってくれる存在から離れたくない様に手を握り締めて同行した。

 

 

「ねぇ!どこに行くの!?」

「馬小屋からライリーを連れ出して壁内を走らせるの!」

「巨人が出るかもしれないんだよ!?」

「むしろ、幸運じゃない。出ないせいで出現した場所が特定できてないんだから」

 

 

フローラはライリーをウォール・ローゼ内で走らせるつもりである。

長時間走らせないという事を聞かない暴れ馬なので日課になっている。

幸いにも時間指定など無いので思い付きで行動できた。

…というのは建前でミーナとそろそろ別れたいのが大きかった。

 

 

「私も付いて行く!」

「ミーナの配備された馬はそこまでスタミナ無いでしょ?」

「だって、2人居る分、装備も2つあるから安心できるでしょ!」

「それもそうね!」

 

 

ウトガルド城で死なせた先輩たち。

もし、もう少し頑張っておけば彼らは生き残れたのかもしれない。

後悔しても遅いが反省して次に活かせる事はできる。

ミーナの提言を聴いてフローラは素直に納得して同行させる事にした。

1人分のガスボンベと刃で足りるとは限らないからだ。

 

 

「でも、装備が切れる前にここに報告するのが優先だからね?」

「フローラなら巨人を1匹残らず駆逐するんじゃないの!?」

「巨人の侵入ルートを特定したいから優先事項は、あくまで報告よ」

 

 

さすがに頭進撃でも壁内に巨人が出現したのは何か原因があると思っている。

思いつくのは、殺したつもりで見逃してしまった髭もじゃ野郎である。

あいつの叫び声で巨人をけしかけられた記憶があるので巨人を操ってるのは間違いない。

次、見かけたら脳を真っ先に潰して思考できないようにするつもりだ!

もし、それで情報を引き出せなくても持ち物からある程度推測できると思っている。

 

 

「なんか怖い顔をしてるけど…何かあったの?」

「人類の仇である巨人を逃しちゃってね。今度は二度と逃がさないと思っていたの」

「ライナーやベルトルトが人類の敵だったもんね。アニにも伝えてあげないといけないね」

 

 

ミーナは、新しく親友になったヒッチと共に4人でドーナツを食べる約束をしている。

美味しそうにドーナツを頬張っていたアニが同期が人類の敵だったらどう思うのか。

少なくともライナーやベルトルトを嫌っているがさすがに傷つくかもしれない。

その時は、いつも慰められていた自分が慰める番だと感じていた。

 

 

『そのアニがストヘス区を半壊させた元凶なんだけどね…』

 

 

フローラは親友にどうやって事実を告げようか迷っている。

日々、精神が悲観的になって悪化を続けており、鬱病になっているのを感じている。

こうやって会話しながら手を握っているのも、彼女に存在意義を見出している。

ようやく立ち直ってきた時に特大の爆弾をぶつけたくないのが本音である。

 

 

「わずか2か月ほどで4人も巨人化能力者が出たのよ。もしかしたらまだ居るかもね」

「信じたくないけど、ヒストリアにぞっこんだったライナーが能力者だったもんね」

「だから想像してない人物が巨人化能力者かもしれないわ」

「ストヘス区を半壊させた女型の巨人の正体もそれかも…絶対に許してはいけないわ!」

 

 

ミーナの何気ない一言で事実を告げるタイミングを計るフローラ。

いっそのこと、2人で馬を駆けている時に次げた方が良いと感じた。

絶望はするが、少なくとも危険地帯なので自分に付いて来てくれるから。

 

 

「待ちたまえ!今、『ヒストリア』と言ったか!?」

「えっ?ヒス…「ミーナ!!」んぐっ!?」

 

 

ミーナの何気ない一言を聴いたニック司祭が血相を変えて飛び出してきた。

負の感情の“声”を聴いたフローラは相方を黙らせたが時遅し、バレてしまった。

 

 

「ヒストリアと言ったな?」

「いえ、ヒストリックな出来事が起き過ぎて色々大変だと思ってましたの」

「そこの兵士からヒストリアと聞こえたのだが!?それに口を塞いでいるのではないか!」

「気のせいですよ。重要な機密を漏らしちゃう子なのでちょっと罰を与えただけです」

 

 

ニック司祭は、壁教の支部長と同格である主任司祭である。

フローラは、彼の負の感情を知って、クリスタの本名がバレるのがまずいと知った。

 

 

「では、何故黙らせている?」

「エレン・イェーガーが人類の味方という事実を揺るがす情報をカミングアウトしたせいですわ」

「情報?」

「ええ、エレンと仲が良い人物が敵という事が判明しまして…彼の価値が揺らいでいて…」

 

 

ヒストリアの名前が広がるのは双方ともデメリットしかないと分かったので必死に誤魔化した。

幸いにも親友が重要機密を漏らしていたのでちょうど大義はあった。

 

 

「そうか、私も特別兵法会議に参加したが、あいつは未だに人類の味方だと信じられん」

「ええ、善良な王政民や兵団の常識を揺るがす存在なので壁外に隔離する声が根強いです」

「その通りだ!速やかに壁外に隔離しなければならん!ここは神聖な壁の領域なのだ!」

「ただでさえ、彼の存在価値が危ういのにこの子が不利な情報を漏らして困っているんですわ」

「んーー!!んんんん!!んぐ!?」

 

 

ニック司祭の追及を適当にあしらって足掻くミーナを軽く小突いて全力でフローラは誤魔化した。

彼は怪しんだが、巨人化能力者の名前が聴こえたのもあってとりあえず追及を弱めた。

もし、壁内人類に巨人化能力者が複数居ると、ここに居る住民に知られたくなかった。

教団の上層部からトロスト区に事実上左遷させられた彼は、住民の混乱を避けたかったからだ。

 

 

「ミーナ、兵士として秘密にしないといけない事があるわ」

「んんんー!!」

「反省したなら一緒に居てあげるわ。反省しないならちょっと隔離生活になるわよ」

「とりあえず、ヒストリアと自称した少女は居ないのだな?」

「あら、わたくしたちの知り合いにそのような少女が居るのですか?」

 

 

今度は、ニック司祭が失言したのをフローラは見逃さずに追及した。

彼はすぐに自分の発言した意味を理解して引き下がった。

 

 

「そのような名前の少女を発見したら王政府に報告した方がよろしいのでしょうか?」

「いや、結構だ!居ないならそれでいい!!」

「ならいいのですけどね」

 

 

フローラは彼の反応で緘口令を敷く事は確定した。

真っ先にやるべきなのは、目の前で涙目になっている親友に対してだが!

 

 

「ニック司祭、トロスト区の正門付近は治安が悪いです。あそこは避けた方が良いかと」

「ああ、私もそう思っていた。忠告を素直に受け取っておくぞ」

「行くわよミーナ。今度は口を閉じて馬小屋に向かいましょう」

「んー…」

 

 

ニック司祭と別れたフローラ一行は、馬小屋に向かった足を進めた。

さきほどは人気が少ないのもあって助かったが、もし情報が洩れると厄介である。

第58回壁外調査を巡って王政幹部とヒストリアが意味深に会話していた時があった。

おそらく彼らの言葉を深読みすれば、名前がバレれば彼らから消させるのは明白である。

 

 

「良い?クリスタは自分が狙われないように偽名を使ってきたの。だから気軽に言っちゃ駄目よ」

「良いけど、小突く必要はあったの?」

「人は痛みを身をもって味わないと成長しないから…勉強代と思って我慢しなさい」

「はーい」

 

 

今度は不機嫌になったミーナの扱いにフローラは困りつつあった。

初めて親友になった片割れだからこそ、距離感というのは掴めない。

 

 

「あの人、知り合いなの?」

「まあね」

「いくら何でも知り合いが多くない?」

「確かに顔と名前を覚えるのが大変になってるわね」

「記憶力が良くて羨ましい!」

 

 

ミーナはフローラの人脈の凄さより記憶力と誰とも仲良くなれる能力に嫉妬した。

親友としてずっと一緒に居て欲しいのにその人物の数だけ自分に割かれる時間が少ないからだ。

 

 

「今度はキッツ隊長が居るわね」

「誰?」

「駐屯兵団の精鋭部隊の隊長よ!」

 

 

今度は、駐屯兵団の精鋭の隊長と知り合いなのが発覚した。

さきほどエレンを護衛していた人たちの名前すら覚えてないミーナは苛立ちを隠せなかった。

 

 

「そこの調査兵!哨戒任務を我々に押し付けて良い生活を送ってるな?」

「役割分担です。2個小隊に満たない規模の兵員で広大な壁内の哨戒はできません」

「では、いざとなったら巨人と交戦するのか?もちろん貴様を除いてだが…」

「もちろんです!壁内の住民を守る気持ちは兵団全員が思っている事なのですから」

 

 

図体がでかい分、高圧的で偉そうな男。

ミーナから見ればそう思うしかなかった。

何故親友が嬉しそうに会話できるのか分からないほど相性が悪い上官であった。

 

 

「もちろん、それは知っている。だが奴らはエレン・イェーガーを重視している感じがしてな」

「トロスト区の正門に空いた穴を塞げたのは彼だけです。扱いはさすがに違います」

「…私は未だにあいつが人類の味方なのか信じられん。ましてや他の能力者を知ればだ…!」

 

 

キッツ隊長は、エレン・イェーガーがスパイという疑惑を払拭できなかった。

他の巨人化能力者は、人類に打撃を与えているのでむしろ、エレンが異端に見えた。

リコ班長の報告で理性が無いまま味方に攻撃を加えたという事実が更に疑惑を深めた。

人類の味方の振りをして、巨人共に壁内人類の情報を送っていると推理が頭に残っていた。

 

 

「ピクシス司令も認めておりますわ」

「司令のお考えには理解しがたい…!あんな得体のしれない物を信じ切るなど…!」

 

 

キッツは、あらゆる事態を想定して手を打っている。

門が再び破られても良いように幾度の策を巡らせてもなお、安心できない臆病者である。

エレンが100%人類の味方だと判明しない限り、気を許す事はできなかった。

 

 

「隊長…司令の立案した奪還作戦に参加した者は、最後はエレンを信じて戦い抜きました」

「リコ、分かっておる。だからこそ作戦は成功したのだからな」

「もちろん、不安定な彼の力に頼り続けるのは私も心配です」

 

 

フローラは、彼らが抱いているエレン像を否定できなかった。

未だに暴走するかもしれない強力過ぎる力。

さきほどエレンが悩んでいたように誰もが人類の味方だと証明できる物はない。

 

 

「失礼ながらも、兵士であるならば、上に従うべきだと存じ上げます」

「ほう?一兵卒ですらない新兵の貴様に私が説教されるとはな?」

「我々、104期南方訓練兵団もエレンを信じて奪還作戦に参戦し18名が帰還しませんでした」

「うむ、貴様らよりベテランの駐屯兵団ですら役立たずで、最終的にはエレン頼りだったからな」

「彼らは最後は、後悔していたでしょう。ただ、エレンが居なかったら無駄死にでした」

 

 

フローラは、無力さ故に大切な友人を救う為に100名以上の同期を見捨てて来た。

個人の実力では、どうしようもなく今ですら同時に相手にできる巨人の数は3体まで。

一斉に襲われれば、成す術もなく巨人の胃袋に収まってしまう肉でしかない。

 

 

「イェーガー自身は、その事についてどう思っている?」

「彼は、今まで犠牲になった兵の事を想い、悩み、望まぬ力で苦しんでおります」

「…口だけならいくらでも言えるだろう」

「直接、彼を否定した隊長殿に直接面会して頂ければ、彼は前へと進む事が出来ます」

 

 

フローラは、駐屯兵団でも一目置かれている精鋭部隊をエレンの味方にしたかった。

調査兵団と104期の連中では、エレンを王政から守れないからだ。

とにかく頼れる味方が居なければ、彼はずっと自分について悩み続けて前に進めない。

一度、エレンを拒絶したキッツ隊長が味方になるほど頼もしいことは無い。

【小鹿】という異名があるほど、危機に関して敏感な彼が味方なのは説得力が段違いだからだ。

 

 

「トロスト区の水門で隊長殿が言及した事が先日、事実となりました」

「『巨人が人に化けて人類を欺いていた』という事か?」

「はい、仰る通りです!その素晴らしい洞察力と経験で、今度こそ彼の正体を見抜けるはずです」

「お世辞は要らん…私はただ、人類の事を想って行動しただけだ」

 

 

とにかくキッツ隊長が味方ではないと、エレンの後ろ盾がおらず王政から守れなかった。

一応、憲兵団の保守派も建前では、エレンを解体すると言っているが、味方に近い。

ただ、この壁内の政治の中心は、貴族で構成された王政の議会である。

少しでも彼らを牽制するのは、頼れる仲間が欲しかった。

 

 

「つまりフローラは、隊長にエレンと面会して欲しいという事か?」

「リコ班長、ご明察通りです!客観的に判断できるようになったからこそ面会して頂きたいです」

「ほ、本当にやるつもりなのか……?」

 

 

元からリコ班長もキッツ隊長をエレン・イェーガーと面会させたかった。

だからフローラの助け舟を借りて、わざと彼女の意見で行かせようとした。

副官である以上、理由もなしに上官の行動を無理やり変えるなどできないからだ。

 

 

「…そこまで言うなら面会してやろう。ただし、私は印象で判断するからな!」

「では、スケジュールの空いている日に面会させます。指定日は独断でよろしいでしょうか?」

「構わん。エレン・イェーガーの都合も考えてやらんといかんからな」

「キッツ隊長、お心遣い感謝いたします!」

 

 

キッツも褒められて悪い気がしなかったので、面会日の決定は副官とフローラに任せた。

寛大な態度に見せかけて、副官を立たせて有利にし、代行できる能力の育成させる魂胆もある。

次世代の精鋭部隊の隊長の育成を考えているので、上に立つ者の道を示す必要があった。

彼は、後に駐屯兵団第一師団精鋭部隊の隊長となる女の成長を楽しみにしていた。

 

 

『全く口を挟めなかった…フローラ、いつも…こんなやり取りしてるの?』

 

 

ミーナは、フローラとリコ班長と呼ばれた女兵士のやり取りを見ている事しかできなかった。

親友がコミュニケーション力に秀でていて、メンタルケアの達人なのは知っていた。

まさかここまで交渉術が凄くて、上官とやり取りできるとは思わなかった。

 

 

『王政幹部である大総統と内務大臣を脅迫して誘導させるより楽だわ』

 

 

壁内人類の支配者である2人を脅迫してまで交渉していたフローラからすれば楽だった。

自分の抹殺命令を下してきた存在と面を合わせて交渉する事自体が間違っているのは確かである。

少なくとも味方である彼らと交渉するのは、巨人を相手にするより断然に楽としか表現できない。

 

 

『ミーナの機嫌を取るより断然楽ね!これで少しはわたくしを見直してくれると良いけど…』

 

 

キッツ隊長をエレンと面会させるより、ミーナに許してもらう方が難易度が高かった。

一見、可笑しいようでミーナが居なければ、フローラの女子力はあっという間に喪失する。

だからこそ、フローラは親友を見捨てないし、見捨てられない。

彼女が居なければ、人の皮が剥がれて【エルディアの悪魔】しか残らないからだ!

 

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