進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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87話 エレンとキッツ隊長の再会

「申し訳ありません。オレなんかの為に護衛してくれるなんて…」

「ああ、全くだ。まあ!兵長以外じゃ俺しか頼りになる奴はいないからな!しょうがないよな!」

「エレン、大丈夫よ。後輩に頼りにされているって、こいつ昨晩に喜びの舞を踊ってたから」

「ペトラ!余計の事を言うんじゃねえ!!」

 

 

エレン・イェーガーは、訳があってトロスト区に来ていた。

さすがに個人で行動する事ができず事前に先輩方に頭を下げて同行してもらっていた。

誰かに頼りにされるのが嬉しいオルオは、照れを隠そうとしたが、ペトラに台無しにされた。

そんな彼女も頼りにされるのが嬉しくて、ついエレンとオルオの手を繋いで歩いていた。

そのせいか、彼らは、ペトラに引き摺られるように歩いている感じがした。

 

 

「しかし、キッツ・ヴェールマンか」

「ご存じなんですか?」

「部下の面倒見は良いんだが、厳しいから新兵には不評なんだよな」

「彼の用心深い性格と試練を乗り越えた兵士は、一人前の兵士としてやっていけると噂ね」

 

 

エレンはトロスト区の内扉の水門付近でキッツに抹殺されそうになった。

彼は疑心暗鬼で不確かな情報に惑わされず、人類の為なら不要なリスクを抹殺する性格だった。

おかげでエレンは殺されそうになったが、ライナーやアニの事を考えれば仕方がない気がした。

 

 

「少なくとも長年の彼の忠誠心と活動は、王政の議会からも高く評価されるの」

「味方に付けられるなら、これ以上、頼もしい事はないぞ?しっかりやれよ!」

「はい!!」

 

 

先輩方からキッツ隊長の話を聴いて、エレンは気を引き締めた。

調査兵団だけでは、活動できないのは明白であり味方が1人でも欲しかった。

現在、エレンの居場所は104期の同期と、リヴァイ班しかない。

それだけでは、あまりにも王政を味方にするのは不利であった。

色々弄られがちだが、キッツ隊長と直接対面できる機会を作ってくれたフローラに感謝した。

 

 

「見ろよ…あそこにいるの。巨人化できるエレン・イェーガーだぞ」

「なんで兵団本部の建物に居るんだよ…」

「うわっ…化け物がこっちを見た」

「やめなよ。あいつが怒って巨人化したらどうするのさ」

 

 

兵団本部の建物の中を歩くと、駐屯兵のグループがエレンを恐れて静かにひそひそ話をしていた。

というより排除できない腫れ物の扱いであり、眉をひそめて影口をしていた。

 

 

「おいお前ら!エレンの悪口を言ったな!」

「やべ、やっぱ聴こえていたか」

「もうやめなさいよ。オルオ…」

 

 

当然、自慢の後輩を馬鹿にされて苛立ったオルオは、睨みながら彼らに突っ掛かった。

駐屯兵団の一般兵からすれば、調査兵団は異常集団としか思われてなかった。

その為、オルオがエレンの味方をしていて思わず、彼らは口を滑らせた。

 

 

「なんだよ?ああ、化け物のお友達はお友達か」

「所詮、無駄死にしかできない税金泥棒だもんな。お似合いのお友達ごっこだな」

「な、なんですって!?」

「…ペトラ!?手を出すな!!」

「無能な調査兵団が私たちに喧嘩を売るとか、やっぱりこいつらはゴミ集団ね」

 

 

そこで激怒したのはペトラ・ラルであった。

オルオですら軽く突っ掛かったらさっさとエレンを連れて離脱するつもりだった。

しかし、怒りで我を忘れたペトラは、駐屯兵を殴り掛かろうとしてオルオに羽交い締めされた。

誰とでも優しく接する彼女は、大切な存在を侮辱されるとオルオ以上に感化される癖があった。

 

 

「何をしている?」

「「「「キッツ隊長!?」」」」

 

 

誰もが引けなくなってヒートアップしそうな時に助け舟が来た。

通り掛かったキッツ隊長に話しかけた彼らは、震えあがって真っ青な顔で無意識に敬礼した。

 

 

「お前たち…!私が根拠のない事で他者を貶めるのは大っ嫌いと知ってての発言か?」

「いえ、滅相もありません!ただ税金泥棒の調査兵団を…」

「貴様らは市民と違って、調査兵団の功績を知りながら、わざわざ私の前で侮辱したのだな?」

「その…!」

 

 

駐屯兵団第一師団精鋭部隊のキッツ・ヴェールマン隊長には様々な権限がある。

ピクシス司令に【小鹿】と評価されたり、柔軟性に欠け臆病で小物と評価されがちである。

しかし、実際には彼の一言で、駐屯兵団の兵士を即座に処刑できる権限があった。

トロスト区奪還作戦を聴いて敵前逃亡した兵士を1人残らず、処刑できる権限だった。

幸いにもピクシス司令の勅令で、混乱は避けられたが、市民や王政は彼を熱狂的に支持している。

 

 

「ミタビ!こいつらの名前を控えて置け!管理を放棄した上官を含めて、徹底的に問い詰める!」

「了解しました!」

「待ってください!私は…」

「言い訳無用!こっちに来てもらおうか!」

 

 

黙々と任務をこなす彼らに集団は言い訳をしようとしたが、更に罪状が増える結果となった。

鬼となったミタビ班長によって、誹謗中傷の発言をした一団は、近くにある部屋に連行された。

エレンたちは、即座に裁きを判断して実行したキッツ隊長の言動を聴いてるしかできなかった。

 

 

「すまないな。未だに調査兵団を見下している兵が居るのは我々の落ち度だ」

「リコ班長、そこまで頭を下げなくても。俺達も功績を示せずに狼藉をしそうになったので…」

「そんなことは無い。調査兵団のおかげで、南部の住民が内地に避難できたのだからな」

「我々の無理難題な作戦でも迅速に行動できる駐屯兵団には、頭が上がりません」

 

 

キッツ隊長に追随していたリコ班長が頭を下げるのを見て、オルオは慌てて彼女に話しかけた。

見栄を張りがちで口は悪いが、面倒見が良くて冷静な判断を下せる彼も素直に謝罪できた。

エルヴィン団長の独断で壁上に馬を走らせて現場に駆け付ける作戦を彼らは受け入れてくれた。

そのおかげで、迅速に兵が移動できて鎧の巨人からエレンを奪還できた事を知っていたからだ。

意外にも頭を下げるのは、ペトラよりも行動が早い男である。

 

 

「フローラ、助かったぞ。お前の聴力が無かったら公平に裁く事はできなかった」

「いえ、キッツ隊長がわたくしの話を信じてくれて行動してくださったおかげですわ」

「ふん!私は認めた者の提言は、無駄足になろうとも聞き入れるようにしているだけだ」

 

 

壁内に出現した巨人についてフローラと情報交換をしていたキッツ隊長。

ところが急に彼女が「調査兵団が侮辱されている」と聞かされて現場に急行した。

そこでは、駐屯兵団の一団が侮辱しており、一歩遅かったら両成敗せざるを得ない状況だった。

彼は、現状を見て嘆くと共に緩み切った規律をもう一度、末端の兵まで教育するつもりである。

フローラは、会話を打ち切って自分の話を聴いてくれたキッツ隊長に感謝するしかなかった。

 

 

「ホークマンは、エレン・イェーガーの護衛を第2応接室に案内したまえ」

「ハッ!では、護衛の方々をご案内させて頂きます」

「頼む」

「よろしくお願いします」

 

 

残されたのは、エレンとフローラ、そしてキッツ隊長とリコ班長だけであった。

彼らは、予定時間より早かったが、キッツの執務室に案内されて入室をした。

 

 

「エレン・イェーガー、フローラ・エリクシア。着席したまえ」

「「ハッ!失礼致します!!」」

 

 

エレンがキッツ隊長と向き合うのは、トロスト区の水門の以来である。

『人類の味方』と発言しても彼には、信じてもらえず自分の存在自体を否定した人物だった。

そのせいか、緊張してしまい、指示されてもすぐさま座る事が出来なかった。

フローラが座ったのを確認して慌てて座ると、彼女が膝を離さず足を揃えているのに驚いた。

 

 

『お前、珍しく乙女みたいな事してるな…』

 

 

当初、フローラはお嬢様キャラを演じていたがすぐに破綻した。

そしたら開き直ったのか、ぶっ飛んだ性格になったので、エレンは女として意識しなくなった。

だからこそ、乙女みたいな仕草を目撃して驚いたと同時に緊張が吹き飛んだ。

とにかく真面目そうなリコ班長や頑固なキッツ隊長が居るので、彼女と居ると安心した。

時折、不安になって、動悸や叫びたくなる発作になりそうな時には、ありがたい存在である。

 

 

「イェーガー…まだ、わ、私は、貴様の事を信用していないぞ!」

 

 

キッツも得体が知れないエレンに関しては、未だに距離感を掴めてなかった。

一応、フローラやリコと打ち合わせをしたものの上手く彼と会話ができなかった。

そのおかげで、エレンも少しは落ち着く事が出来た。

 

 

「聞けイェーガー…トロスト区の件の成功を受けて、調査兵団は、あんたの力を前提にしている」

「だが、その力の不安定さは、直接目撃した私が良く知っている」

「あんたは、この状況をどう思っている?」

 

 

リコ・ブレツェンスカは、未だに隊長が悩んでいると察して先手を打った。

あくまでも隊長をエレンと引き合わせる提言したのは自分でありフローラはそれに乗っただけだ。

エレンの本音と信念を引き出して、彼の評価を決めようとしていた。

 

 

「オレ自身も、この力を制御できるようにならなければいけないと思っています」

「けど今は、上官の命令無しに巨人化は禁じられているんです」

 

 

エレン・イェーガーは、自身の力が不安定だと自覚している。

ならば、練習あるのみであるが、中々その機会に恵まれず、ここまで引き摺っていた。

それだけなら良いが、調査兵団は自分の能力が使いこなせている前提で作戦を立案している。

 

 

「力が不安定なのは、よくわかってます」

「それでも、みんなの期待に応える為にこの力を使うしか…いえ、使ってみせます!」

「不安定な力を使うだと……ふざけんな!」

「意気込みだけでは、解決する問題ではないだろう。暴走した時、巨体を制御できないんだぞ」

 

 

当然、キッツはそのような状況で不安定な【力】など使用してもらいたくなかった!

リコもいつ、暴走しても可笑しくない【力】を切り札にする調査兵団が信じられなかった。

今までの行動で、人類の味方だと分かっているが、その力を容認するかと問われると別である。

エレンは予想通りの返答が来て反論できずに俯くしかなかった。

 

 

「ですが、エレンの力がなければ、人類は勝てません。お二方も実感しているはずです」

 

 

フローラは、苦しんでいるエレンの心情を察して、上手く話を誘導しようとした。

これは打ち合わせと違うが、下手すると関係が悪化すると分かったので、流れを変えようとした。

 

 

「…確かに調査兵団の働きだけでは、人類の領土を拡大するまで途方もない時間が掛かるだろう」

「その間にウォール・ローゼが突破されたらお終いですね」

 

 

そもそも人類が巨人に勝利したのは、トロスト区奪還作戦が初めてであった。

前から人類は、巨人を討伐できていたが、その度に人命と税金を壁外に投げ捨て来た。

その奪還作戦も人類が所有している財産をマイナスからゼロに近づけただけで、損失ではある。

このままでは、いつか巨人に押し切られて人類が滅びるのは、目に見えていた。

 

 

「それに駐屯兵団精鋭班の方々の死を無駄にしない為にもオレがやらなきゃいけないんです」

 

 

トロスト区奪還作戦だけで多くの死者が出た。

囮になって巨人を惹きつける為に戦死した駐屯兵や同期たち。

エレンを守る為に参戦した精鋭班では、犠牲者4名、重傷者2名、軽傷者5名。

更に彼らを援護する為にグリード・ホルツマン班長を含む4名。

門に空いた穴を岩で塞ぐだけであの損害、壁外奪還作戦は、何十倍の死者が出るのは明白である。

エレンは彼らの犠牲を無駄にしない為にも前に進撃するしかなかった。

 

 

「……私たちも同じ気持ちだよ。犠牲者の意志を継ぐならば、前に進まないとね」

「イェーガー、貴様の考えはわかった。だが、それはどうやって証明する気だ?」

 

 

エレン・イェーガーの反応は、キッツやリコは既に分かっていた。

何故ならフローラと何度も今日の為に交渉しており、彼の事をよく聴いていたからだ。

実際にエレンの目や言動、そして覚悟を確認して、信用するべきか決めるつもりだった。

それと同時にどうやって、それを証明するか気にしていた。

本題は、むしろそこにあったと言っても過言ではない。

 

 

「それを証明するには、駐屯兵団のご協力が必須となりますわ」

「何故だ?」

「王政がエレンを管理するとなっており、今は調査兵団で一時的に身柄を預かっている形です」

「確かに特別兵法会議で第57回壁外調査の結果で判断しようとして、あの結果になったな」

 

 

エレンは、特別兵法会議で、エルヴィン団長の提言で一時的に調査兵団に身柄を預けられた。

だが、第57回壁外調査の結果で、エレンが人類に対して有意義性を示す事が出来なかった。

そのせいで、王都に召喚されて再び審議を掛けられる事になったが、今度は勝ち目が無かった。

そこで、エルヴィン団長は、女型の巨人の能力者を捕縛する為に召喚命令を利用した。

結果は更に失敗したが、壁内に巨人が湧いたおかげで、何とか有耶無耶にしている状況である。

 

 

「このままでは、エレンは王都ミットラスで一方的に裁かれてしまい、活動できなくなりますわ」

「一応、憲兵団の保守派も味方になるのではないか?あの件は建前だと思っていたが?」

「王政は、何としてもエレンを裁いて排除したいようで、王政派の審判員を揃えて来てます」

「つまり、このままではエレンが処罰されて、彼らの犠牲が無駄になるのか」

「リコ班長、仰る通りです。このままでは、人類の勝利へ導く可能性の1つが失います」

 

 

商人の令嬢であったフローラは、交渉術に優れている。

エレンを信用するか、しないかの問題ではなく、そもそもエレンに選択肢が残されていない事。

彼らは『証明』を求めているが、証明する機会など一切与えられていない事。

調査兵団や憲兵団の保守派だけでは、エレンを王政から守り切れないと短時間で発言した。

 

 

『なんか良く分からないが、空気が変わったな…』

 

 

エレンは戦術眼はあるが、頭脳戦は苦手であった。

なので、上官との交渉などできず、自分の感想や意見を言うしかできなかった。

アルミンという完全上位互換がいるので、すぐに自分に素質が無いと気付いてしまったのもある。

ただ、そんな彼でも、キッツ隊長やリコ班長の考えが変化したと感じた。

 

 

「やはり、私はイェーガーの力を信用する事はできん!」

「そうですよね…」

「だが、貴様が味方であると信頼はしてやる!」

「えっ?」

 

 

キッツは、エレンが巨人化能力をコントロールできてない実績や言動で信用していない。

しかし彼も譲歩して、人柄や現状を踏まえて不安定であると分かりつつも信頼する事にした。

彼によるエレンの評価は、得体のしれない化け物から、不安定な力を持つ味方と定義した。

それが最大限の譲歩であるが、エレンという人間性を評価したのは大きな前進である。

 

 

「隊長?」

「前から思っていたのだ。守るだけでは、いずれ巨人に人類が負けてしまうと…」

 

 

キッツは、人類を守るために兵士になったが、防戦を強いられる現実に不満がある。

専守防衛とは聞こえが良いが、要するに人類の領土を死守するだけで終わっていた。

王政府は、壁外に興味を持つ事を禁じており、その制限を課せられて壁を守るしかなかった。

その点、調査兵団が壁外に遠征する点については評価していた。

その過程で優秀な人材を捨て駒にして、税金と希望を投げ捨てていくのが嫌いであっただけだ。

 

 

「エレン・イェーガー!もし貴様が追い詰められたら私が味方になってやろう」

「ありがとうございます!」

「だが、調査兵団を過信するな!あいつらは定期的に優秀な人材を見殺しにするからな」

 

 

キッツは、調査兵団の戦闘記録や遠征記録を確認して思った事があった。

それは、優秀な人材を使い捨てにしている現状だった。

未知の領域を夢見て壁外に出ていく異常な思考の集団であるのは知っていた。

だが、いくらなんでも殺し過ぎた。

 

 

「私が今、恐れている事が分かるか?」

「いえ、分かりません」

「私はな!イェーガーやエリクシアが調査兵団に所属したせいで犠牲になるのを恐れている!」

 

 

キッツは、いずれ精鋭部隊の隊長をリコにしようと考えていた。

もちろん、イアンやミタビも候補として育成しているが、変革も必要だと思っていた。

それは、エレンやフローラといった巨人を討伐しようとする者である。

 

 

「私は、いずれ調査兵団から貴様らを引き抜こうと考えている」

「調査兵団はあくまでも、未知なる領域を求めて遠征する兵団。巨人自体を殲滅する気はない」

「そこで、巨人討伐専用の部隊を作り上げて、経験を積ませた後、貴公らに参加してもらいたい」

 

 

リコも同意見である。

調査兵団に彼らを預けていくと、結果として死なせると考えてしまった。

 

 

『何故か知らんが、調査兵団には預けると碌な事が起きん気がする!』

 

 

キッツは、そうなる前に彼らを精鋭部隊で経験を積ませてから班長にするつもりである。

何故か知らないが、調査兵団に預けておくと、エレン・イェーガーを死なせる気がしたからだ。

それは酷使とか事故ではなく意見や目的の違いで、仲違いした末に殺されるという予感があった。

 

 

「いきなり仰られても…」

「心に留めておくだけでいい。…話は終わりだ。退室していいぞ」

「は、はい、失礼しました」

 

 

困惑したエレンだったが、退室の許可が出たので慌てて立ち上がって頭を下げた。

そして、逃げる様にドアノブを掴んで再び、頭を下げると逃げる様に彼は去っていた。

 

 

「イェーガーの話を聴いて、少しはあいつを信じる気になったよ。あんたのおかげだ」

「エレンを信じてくれるだけでいいですわ」

「そうだな。私にもハンジという仲の良い同期が居たよ」

 

 

フローラは、彼女の発言の仕方や負の感情から何かあると察した。

とはいえ、まだやる事が残っているので詮索するつもりはなかった。

 

 

「とにかく、フローラには世話になった。……働きは認めてやっても良いぞ」

「ハッ!」

「ところで、例のユトピア区防衛はどうなっているのだ?」

「今の所、ユトピア区の住民の大半は他の地区に待機させてます」

「問題はそこではないのだがな…」

 

 

キッツは、大勢の犠牲者が出たトロスト区防衛戦ですら霞むユトピア区の防衛戦を気にしていた。

巨人化能力者共の仲間をその地域に囮として置く以上、激戦が予想されたからだ。

民間人を避難させているとはいえ、彼は未だに調査兵団のやり方が気に食わなかった。

目的の為にストヘス区の民間人を犠牲させた彼らを許してはいなかった。

 

 

「さっき話したことは、本心だ。このまま調査兵団に留めると貴様らを失う気がしてな」

「新兵であるわたくしたちには、ありがたいお言葉だったと思います」

「…良いか?死ぬなよ?どうも嫌な予感がする」

「大丈夫です。目標が達成するまで死ぬ気はありませんから」

 

 

フローラも退室する為に立ち上がって頭を下げた。

そして彼女が退室したのを見届けた彼は溜息をついた。

 

 

「…よく我慢しましたね」

「ああ、エレンは検討するとして、あいつは引き抜いておきたかった」

「私もです。何か胸騒ぎがしてしょうがない」

 

 

彼らは、フローラ・エリクシアという存在が大きくなりつつあった。

冷静に考えれば、たかが1人の兵士に向ける感情ではない。

しかし、ここで無理やり編入しないと二度と駐屯兵団に所属させられない予感がしていた。

だが、規律を重んじているので、私情でやる事ができずにただ、彼女が変化をするのを待った。

それが唯一、自分たちの元に来てくれると信じて、見送るしかできなかった。

 

 

-----

 

 

「よお!久しぶりだな!」

「グリズリー班長、お久しぶりですね」

「一応、文通ではやり取りしていたが、やっぱり対面するのが一番だな」

 

 

フローラは、ストヘス区の女型の巨人戦から制式装備しか使っていなかった。

刃や大砲が通じない鎧の巨人を討伐するのは、更なる装備の改良が必要だった。

なので、キッツ隊長と別れた後、技巧科の技術4班の元に向かった。

 

 

「ブリッツシリーズを改良したヤークトシリーズはどうだ?」

「スペックは良いのですけど、鎧の巨人を討伐するには力不足ですわね」

「そうだよな。さすがに砲撃すら弾く装甲相手じゃこいつはきついな」

 

 

ヤークトシリーズは、フローラが愛用した装備の上位互換であり目立つ様に青色に統一された。

しかし、仮想敵が鎧の巨人になったせいで、不運な装備になってしまった。

 

ヤークトメッサーは、彼女の戦闘データを元に巨人の肉を斬るに特化した短剣である

ヤークトシャイダーは、多くの技術班で並行して素材を調べて最適な素材である

ヤークトハーケンは、アンカーの強度を更に高めてガスの容量を高めた物である

 

 

「それでは、打ち合わせ通りに新型装備を拝見したいのですけど…」

「よし、まずこれから紹介するぞ!」

 

 

グリズリー班長が手に取ったのは、通常のスナップブレードの2倍がありそうな刃である。

フローラは装備を観察していると、明らかに量産できる装備じゃないと見抜けた。

何故なら、使い捨ての刃であるはずなのに、豪華な模様があったからだ。

近くにある鞘や装置は、金色と赤色の模様であり、まるで炎をイメージした感じがした。

 

 

「これは『ヒートソード』というものだ」

「つまり、炎を放出する刃なのですか?」

「ああ、その通りだ!毛むくじゃらの巨人に火が効果があるって聞いてな!作ってみたんだ」

「ですけど、刀身が長すぎて扱えませんわよ」

 

 

フローラは、立体機動するには刀身が長すぎて扱えないと思った。

更に火を出すなら尚更、短時間しかできないし、火傷する未来しか見えなかった。

 

 

「そこで小型に改良したのが、ヒートソードジュニアだ!」

「刀身は短くなりましたけど、単純に燃料のスペースを減らしましたわね?」

「痛い所を突くなよ!これでも頑張って作ったんだぞ」

 

 

ヒートソードジュニアは、特製の装備で刃に炎を纏わせて斬撃と共に肉を焼き斬る事ができる

ヒートアクセルジュニアは、替え刃が4本しかなく完全に短期決戦用である

ヒートマシーナリージュニアは、ヤークトハーケンの上位互換だが、値段は跳ね上がった

 

 

「相当、生産性を度外視したみたいですけど、生産コストはどれくらいですか?」

「1個大隊を半年養えるお値段だぞ」

「わたくしを破産させる気ですか?」

「分割払いで良いぞ」

 

 

フローラは、事前に炎を出せる刃の情報を入手してテストするつもりだった。

偶然にもキッツ隊長と面会する為にトロスト区に来ていたので、ついでにここに来る予定にした。

百聞は一見に如かずとはいうが、実際、触ってみないと効果が分からない。

訓練兵団時代に使った訓練所を借りる事が出来たのでそこで試すつもりだった。

 

 

「それと、鎧の装甲を貫通する刃も作ったぞ」

「例の硬質化の爪を分析したものなんですか?」

「いや、頑張ってその爪を超硬質スチールと組み合わせて作った刃だ」

「合成ですか…」

 

 

カラネス区に侵入してきた6m級の変異種の伸ばしてきた爪で作られた刃である。

今思えば、ユミルの巨人にそっくりな感じがするが特に気にしなかった。

感心があるのは、鎧の装甲を貫通して肉を斬れる刃であった。

 

 

「こいつは、『三式刀身改二』と命名した」

「つまり、制式配備されている一式鞘や強化鞘と互換があるのですか?」

「もちろんだとも!まあ、4本しか製造できなかったがな」

「実質2本ですか」

 

 

人類最強の矛は、巨人が生み出した結晶で造り上げた。

鍛冶職人どころか、500人以上の協力者の手によって作られた物である。

他の刃は、コストを無視すれば量産できるに対してこれは、再現できる刃ではない。

最初にして最後の刃であり、試験として利用された双剣を考えれば、2本しか存在していない。

 

 

「どうだ?」

「巨人が生み出した結晶で武器が作れるのですね」

「俺たちも驚いたさ!でもよ!巨人を狩るなら巨人が生み出した物質が手っ取り早いだろう?」

「確かにそうですわね」

 

 

対人立体機動部隊の散弾銃の弾は、ストヘス区で回収した巨人の結晶体の欠片が入っていた。

威力は、巨人にも通用しているのを彼女は確認しているので、この刃も信用した。

 

 

「どれを選ぶんだ?」

「どれも実際使用してみないと分かりませんわ」

「だよな!よし、俺たちも訓練所に行くぞ!!」

 

 

グリズリー班長率いる技術班は、すぐさま支度をした。

ヒートソードは、動作テスト済みだが、実戦ではどうなるか分からない。

高熱の刃が鞘に装填されたガスボンベを熱して爆発させる可能性があった。

だが、あくまで仮定でありどうなるかは誰もが分からなかった。

必然的にフローラで人体実験するような感じになってしまったのを全員が反省した。

 

 

「大丈夫ですわ!わたくしは訓練兵時代に106回も医務室に送られた経験があります!」

「毎回、思うけどよく生きてるな…」

「ですので、安心して観察しててくださいね!」

 

 

フローラ・エリクシアは訓練兵時代、医務室の常連であった。

おかげで彼らは、経験豊富になって本を出したりトロスト区戦での治療がスムーズにできた。

奇しくも炎を纏った刃だという事で、フローラは彼らにスタンバイしてもらう事にした。

訓練所にある湖の畔でやるとはいえ、念のために医療班をお願いして待機してもらった。

 

 

「本当に大丈夫なのか?ヒートソードジュニアは動作テストしてないんだぞ…」

「技術班がそんな事言ったら、わたくしでも心配になってしまいますわよ!」

「すまんな…だが、何か嫌な予感がするんだよな」

 

 

グリズリー班長は、嫌な予感がしていた。

再設計して何度も素材を変えて軽量化と刀身を短縮しようとした。

だが、何か忘れている気がした。

 

 

「行きますわよ!」

「あ、ああ!」

 

 

テストする気満々の彼女を見て、彼はどうにかなるだろうと結論付けて出発した。

根拠もなく安全だろうという意識ほど危険な物はない。

刃を短縮した分、刃に纏う火の調整を忘れているのに気付く事はなかった。

こうして、フローラ・エリクシアは106回の医務室送りを更新する事となる。

 

 

『今度こそ、鎧の巨人を討伐してやるわ!!』

 

 

そうとも知らないフローラは、ヒートジュニアシリーズを身に着けて訓練所に向かっていた。

リスクをちゃんと確認しなかったせいで、酷い目に遭う事を知らずに地獄に向かって進撃した。

 

 

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