進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
巨人に追い詰められた人類は、大きく2つに分けられる。
物資を生産する【生産者】か、壁内の安全を守る【兵士】か。
実際は、下民を搾取する貴族や商人が居るものの大体、こんなものである。
「だからって兵士は、お化粧もお洒落もできないってきついと思うの!」
「開拓地の女性も同じでしょう。余裕が無いんだからそんなもんよ」
ミーナ・カロライナは、トロスト区出身の104期調査兵で期待の新人である。
様々な困難にぶつかって泣く時もあるが、元気いっぱいに話す思春期の乙女であった。
そんな彼女は、必死に親友であるフローラに語りかけたが、完全に無視されていた。
「女の子はね!手入れをしないと男よりも老けやすいのよ!」
「手入れをしていて、死んだら意味ないでしょう」
「でも!ここに所属した同期だけでもお洒落をさせたいと思わない?」
「思わないわよ…それより邪魔しないでくれない?」
フローラは、王政から許可された補給拠点についての書類を書いていた。
諸事情により秘密裏になってしまったので、仕方なく情報伝達の為の書類を書くしかなかった。
限られた兵士しか使用できないのは、悲しい事だが、王政の議会を動かせただけ進歩していた。
「なにこれ!?遺書を書いてるの!?」
「なんでこんな物が必要なの!?死んだあとなんて書くなんてフローラらしくない!」
「中央第一憲兵団?駐屯兵団第一師団精鋭部隊?なんで有名どころ宛に書いてるの!?」
そしたら部屋を掃除する為に入室してきたミーナによって介入されてしまった。
あまりにも邪魔だったので、真面目に嘘をついた挙句、適当に受け流す事にした。
その結果、前に参考にしていたファッション雑誌の話題となり今に至る。
「そもそも、兵士がお洒落をする余裕なんて無いわよ!飲酒するより可笑しいわよ!」
「そういった密かな愉しみが人生を分けるかもしれないのよ!?」
「女の子が全員、お洒落に気を遣う乙女だと思ったら大違いよ!」
「フローラみたいに?」
「そうよ!」
最近、女として扱われていないフローラは力説している親友の話に耳を貸せなかった。
そんな事をするくらいなら訓練をした方がいくらかマシである。
訓練しても巨人に勝てるとは限らないが、少なくとも訓練不足で死ぬことは無い。
「ミカサがお嬢様ファッションになったり、カジュアル系のヒストリアを見たくない?」
「確かに気になるけど…」
フローラは、お嬢様ファッションのミカサに近寄ったジャンが無視される光景を思い浮かべた。
確かにふわふわとしたドレスを着込んでいるミカサは気になる。
だからといって、無理やり着させれば、ファッションハラスメントになるのは間違いないだろう。
エレンに言われて髪を切ったとはいえ、ミカサも赤の他人から指図されるのは嫌いのはずである。
「でしょ!だから一回みんなでお洒落をしてみない?」
「まさか…先輩たちにもやる気なの?」
「104期調査兵だけだよ。さすがに上官に強要できないし…」
「その気遣いをわたくしたちにも向けてくれると良いのだけど…」
ミーナが目を付けているのは、同期である104期調査兵である。
ミカサ、サシャ、ヒストリア、フローラ、そして自分。
たった5名ならそこまで大胆ではないし、密かに盛り上がれると思っていた。
「ねえ、みんなを呼んでお洒落をしてみない?」
「うーん、まあいいわね」
やたらと気遣われるようになったフローラはイメージチェンジを目指していた。
性格は、すぐに変えられるものではないのだから見た目を変えてみるかと考えていた。
なので、ミーナにそう告げられると参加したくなってしまった。
「さあフローラも来て!貴女が居ないとお洒落をするお金が無いから!」
「さっそく金蔓扱いとか…どうにか印象を変えないとね」
こうしてミーナに引っ張られて同期の女性にお洒落について話しかけた。
彼女自身は成功するとは思わなかったが、何故か上手く行ってしまった。
「私も参加する!」
「嘘でしょ!?」
「だよねー」
ミカサ・アッカーマンは、エレンの視線をどうにか乙女として認識してもらいたかった。
自分への好意があるのは知っているが、異性としてどう認識されているのかさっぱり分からない。
ミーナに女として認めてもらえる様に訓練をすると言われてあっさりとお洒落を承諾した。
「お肉が喰えるなら何でもいいですよ!」
性欲が食欲に置き換わっている様なサシャ・ブラウスもお洒落をするつもりだ。
やはり乙女らしくと両親から言われてきたが、どんな物か理解できなかった。
そんな時にミーナにお肉をあげるからお洒落をしないかと言われて即座に承諾した。
「フローラがお洒落に参加するなら見逃さないわけにはいかないよね!」
「お願い!そんな事言わずに断って!」
ヒストリア・レイスも可愛いだの女神だの言われてきたが、あまり褒め言葉ではなかった。
演じている少女の方が評価されていると感じており、本名を明かしてから顕著であった。
なので、同期がお洒落をすると知って、さっそく参加した。
『どうやって逃げようかしら…』
なお、費用は全てフローラが負担する上に彼女自身はお洒落に乗り気じゃなかった。
どうにか逃げようとするがミカサが敵に回っている以上、逃走は絶望的であった。
ファッションデザイナー脳になっているミーナを説得しようとしたが全て失敗に終わっている。
「それじゃあ、エルミハ区に向かおう!」
ミーナに誘導されて一同は、トロスト区の北部に位置する内地であるエルミハ区を目指した。
そして一同は、彼女によって服を選ばれて試着する事となった。
最初は、104期南方訓練兵団の首席であるミカサがターゲットだった。
『まあ、ミカサは元から可愛いから何を着ても似合うわよね』
フローラは他人事の様に親友に振り回されているミカサを眺めていた。
ところが試着室から出て来た彼女を見て衝撃を受けた。
「…か、可愛い!お嬢様みたいよ!!」
ファッションには興味は無いが流行は追っていたフローラ。
そんな彼女から見ても、一目惚れしそうな恰好であった。
「そんなに似合ってる?」
「素敵ですね!これならお嬢様に見えますよ!」
「うん、令嬢みたいだね」
サシャもヒストリアもミカサのファッションに満足していた。
自分たちもこんな感じに変われると思い、興奮しており、ミカサは照れ臭くなっていた。
「そんなに可愛いの?」
ミカサが疑問に思うのも仕方なかった。
まだ化粧してないのに露骨なお世辞に感じてしまうほど同期が褒めていたからだ。
「うん、ミカサはこれで決まりね!」
ミーナは、ミカサを名家の令嬢に見えるようなコンセプトで衣服を選んだ。
黒髪の東洋人とは対極に位置する白いのワンピースで、清楚感と純真な乙女にした。
白色のタイツと水色のパンプスが彼女の引き締まった軍人の肉体を乙女に見せかける事に成功。
スカートは膝丈までにして、男共の視線を集めると同時に麦わら帽子で、身近な存在に見せた。
まるで、名家の令嬢がお忍びで、領民の祭りに参加しにきたような姿であった。
「ところでミカサ!マフラーはどうしたの?」
「洗濯して部屋に干してる最中」
「えー」
「そもそもこの格好じゃ似合わないし…」
ミカサの言う通り、赤いマフラーは、この服装には似合わなかった。
しかし、フローラはトレードマークのマフラーが無いのに不満だった。
エレンとミカサがくっつくなら何でもする気である彼女は、絆の証が無い事が苦痛である。
とはいえ、この格好でエレンとやり取りするのを想像するだけで胸がときめくのも事実。
本人の気が変わる前にさっさとお会計を済まそうとした。
「すみません!お会計はいくらですか?」
「鋼貨120枚だよ!」
「ひぎっ!」
内地に住む一般の4人家族の消費するパンの120日分である。
一見すると安いように感じるが、満足にパンを食える人など全体の1割未満。
下手すれば生涯年収になりかねない大金であった。
「お会計お願いします。支払いは小切手で…」
「……確かに本物だね!すぐに領収書を書くから待ってておくれ!」
それでも新たな自分を見つけて喜んでいるミカサを見て、フローラは素直に支払った。
払えない額ではないが、新型装備のせいで出費が激しく貯金を崩す形となった。
「次はサシャね!」
「どんな感じになるのか楽しみです!」
次はサシャが着替える番であった。
何故か全員のスリーサイズを把握しているミーナ。
「兵士辞めて、ファッションデザイナーになったらどう?」と告げたくなる才能が眠っていた。
全ては、フローラの部屋でファッション雑誌を見たせいであるが、人生とは分からない物である。
「皆さん!着替えが終わりました!」
そんな哲学をフローラは考えていたら、サシャの服が決定した様である。
さきほどもそうであったが、既に何を着させるか決まっているようですぐに決まっていた。
どんな感じになったのかとフローラ一行が確認すると衝撃的な光景であった。
「嘘でしょ!?」
サシャは膝丈までのスカートにヘッドドレスを身に着けた侍女の格好をしていた。
機能性を重視した正式な制服とは違って、所謂萌えに特化した服装である。
だが、中身は芋女でもフローラと違って正統派の美女である彼女には似合っていた。
芋を盗み食いをする未来しか見えない侍女さんだが、可愛いは正義である。
ミカサが清楚で大人しそうなイメージがしたが、サシャは可愛さに全振りである。
「主人に出す料理につまみ食いしそうな恰好ね」
「ミカサ!ひどいですよ!私を何だと思ってるんですか!」
「「「「芋女」」」」
「みんなまで!?」
キース教官の目の前で蒸かした芋を堂々と食べていた女。
訓練兵団に配属されて兵服に袖を通した初日にやらかした。
そのインパクトは誰もが忘れることは無いだろう。
「私は狩人なんですよ!強いんですよ!弓と矢があれば何でも射抜けるんですよ!」
「じゃあ、恋のキューピットになってよ」
「いやさすがにそこまでは無理です……そんな目をしても乗りませんよ!」
ミーナの冗談に本気になったサシャは更に墓穴を掘ってしまった。
果たして彼女の底知れぬ胃袋を満足させる伴侶は居るのだろうか。
自分も似たような存在と気付かないフローラは他人事のように感じていた。
「この侍女さん、料理する前につまみ食いしそうね」
「味見をしたいだけだと思います」
「料理当番の時、全部平らげた実績から言っているんだけど…」
サシャ・ブラウスという女は食欲旺盛だ。
なんなら料理担当で料理が完成したら平らげてしまうくらいに。
ヒストリアのツッコミに彼女は狼狽えるしかなかった。
ちなみにフローラは主食である根っこを勝手に入れようとして叱責された。
その為、この2人は調理場から出禁処分となった。
「このお会計は?」
「鋼貨140枚となります」
「まだ、まだ大丈夫…これくらいなら払えるわ」
どこにそんな金額が掛かっているのか…疑問であるが職人が凝って製造していると納得した。
良く見れば、こんなコンセプトの服装などマニアックな貴族以外に売れるわけがない。
逆に言えば、ミーナが予め調べ上げて予約していたとも読める。
それでもサシャの可愛らしさにメロメロになったフローラは豪快に支払った。
「次は私の番ね!新たな自分を探してくる!」
「頑張ってね!」
次はヒストリアの番である。
最初から男子人気1位である彼女ならどんな姿でも殿方の心を鷲掴みする事だろう。
しかし、可愛さで挑むとサシャと被るのだがどうするつもりなのか。
ミーナ女史の答えはすぐに出た。
「どう!?これが新しい私!」
「まさかのスポーティ!?いや、似合ってるけど予想外だったわ!」
出てきたのは世にも珍しいスポーティファッションに身を包んだヒストリアであった。
この時代では、女性は男性を立たせる裏の役目というものである。
なので、お淑やかさと可愛い以外のファッションですら流行になっていない。
なのにそれ以上に異端であるスポーティファッションが出て来て驚くしかない。
「もしかして似合わなかったの?」
「そんな事は無いわ!本来の性格に一致してるわ!」
小柄なヒストリアは非力なイメージが強かった。
しかし、靴にズボン、そして薄着のシャツから活発的な少女に変貌した。
侍女服で可愛さをアピールするサシャに対して、ヒストリアは新たな一面を見せた。
「とっても活発的で自分を主張する女の子って感じ!」
ミーナは腰に手を当ててドヤァ顔でコンセプトを発表した。
しかし、ミカサもフローラもサシャもヒストリアに夢中になっており無視された。
なので、彼女は少しだけ悲しくなった。
「不安なんだけど、この格好はどう思う?」
「とっても似合ってる」
「ミカサの言う通りですよ!もっと自信を持ちましょう」
「そう?私が守られるだけの存在じゃなくなるなら良いけど…」
兵士である以上、一般的な成人男性より遥かに強いがこれならか弱く見られる事無いだろう。
ライナーがこの場に居れば、「一緒に訓練しよう」と意味深な発言をすると思われる。
それほど、活発で明るいその姿は、女神パワーも合わさって太陽のイメージとなった。
「眩しいわ!服装だけでイメージが変わるとは思わなかったわ!」
「だから言ったでしょ!服装を変えるだけでここまで変わるって!」
第一印象は、視覚が9割で占められており、それほど見た目は重要である。
しかし、女性の服装は全て似たような物であり、悪く言えば個性が無かった。
そのせいで、身だしなみや顔で選ぶ男性が多く、女性は苦労する時代だった。
女が主役の時代はまだ先だが、これは時代の最先端の先にあると感じるものである。
「それでお値段は?」
「金貨5枚となります」
「ですよねー」
特注品で売れる要素が皆無であるファッションは、高額であった。
調査兵団の馬が金貨6枚と考えると、たかが服装ではあるが、とんでもない金額である。
これより高額なのは、見栄を張る貴婦人たちのドレスくらいだろう。
しかし、新たな自分を見つけたヒストリアを否定する事はできず、フローラは泣く泣く支払った。
「次はフローラの番よ!」
「絶対、ヒッチに影響を受けてるわよね?」
「当然よ!友人のおかげで色々勉強したんだから!」
「ああ、なんて事なの…」
思い返せば、ストヘス区で出会ったヒッチのお買い物に付き合ったのが運の尽きだった。
そこから女子力やら掃除やら口煩くなった。
明らかに彼女の影響を受けているのは明白であり、何としても対策をしなければならなかった。
「ふふふ、親友を着せ替えるのは愉しいね」
「着せ替え人形になっている身にもなってよ…」
フローラは、ライナーに匹敵するほどの長身であるので私服は中々見つからなかった。
更に彼女自身、年齢を重ねていくうちに乙女らしさが皆無になりつつあった。
そのせいでパジャマが男物という有様で、ミーナが居なければ乙女では居られなくなっただろう。
だからといって、好き勝手に弄られるのは違うと反論したいところである。
「じゃじゃん!」
「ジャンに興味があるの?」
「違う!こうやって服装を紹介したかったの!」
地味にミーナはジャンに脈無しと言ったような物だが、本人は気付いていなかった。
愛の反対は無関心とは良く言ったものであるが、その愛は恋人に向けて欲しい。
そんなフローラの願いも空しく無理やり彼女に着させられた。
「少し太った?」
「せめて筋肉が付いた…って言って欲しいのだけど…というか何で知ってるの?」
「秘密!」
何故かミーナはフローラのスリーサイズを知っており、困惑するしかない。
しかしフローラは長身であるので、中々サイズが合う服装が無いと思われた。
「意外と着れたわね…」
「前もって特注しておいたの」
「やだ、こういう時だけ行動が早いのね…」
フローラは淡い紫色のミニスカートと膝丈の黒色の靴下を着用した。
これは王都で流行っているファッションであり、従来の女性観を変える服装である。
「王都の若者は、本当にこの格好で男を誘惑してるのかしら?」
「とっても魅力的だと思うよ!特に肉を食いこんでいる靴下が魅力ポイント!」
令嬢たる者、脚はなるべく見せない様にロングスカートを履く風習の対極に位置する。
背徳感があると同時に眠っていた商人の令嬢魂がフローラの中で目覚めそうになっていた。
「……やっぱり着せ替え人形じゃない?」
興味津々で親友に色々着せられるフローラは、そんな魂などすぐに眠らせた。
どうやらミニスカートと靴下を先に考えており、他は複数の案があったようだ。
そして選ばれたのは、できるだけ肌を見せない恰好である。
「せっかくのミニスカートなのにこれで良いの?」
「傷だらけの肌を見せるのは、痛々しさしか見えないからこれで良いの」
長袖の淡い緑色のトップスにベレー帽、地味な感じに見えて逆に目立つ格好だった。
色を地味にしたところで異端な格好は誤魔化せないし、なによりスカートを履くのが苦手だった。
下着を見せない様に立ち振る舞いをしなくてはならず、動き辛い恰好である。
もちろん、ミーナはそれをさせる為にわざわざこの服装を選んでいた。
「大丈夫そう?」
「お化粧がまだね!」
「もうよろしくてよ!お披露目会と行きますわ!」
どこに持ち歩いていたのかミーナは化粧道具を取り出したが、無視をした。
一見すると非情に見えるが、そもそも他の3人はすぐに出てきたので当然の反応だった。
人を待たせているのに自分だけ呑気にお化粧するなんてもってのほかである!
「お待たせ!」
「フローラ、1人で着替えられなかったの?」
「ミカサ、酷くない!?」
容姿より先に1人で着替えられなかったのかミカサに心配される有様。
普通に考えれば、兵士が装備を身に着けるより遥かに簡単な事である。
なのに時間が掛かっただけで第一印象がそれだったのだからよっぽど女子力が皆無であろう。
少なくとも辛うじて残っていたフローラの乙女心に重傷を負わせた。
「どう?わたくしの姿」
「フローラには娼婦は向いてないと思うよ!」
「なんでこうなるの!?」
ヒストリアから強烈な一撃をお見舞いされて泣きそうになるフローラ。
ミーナもさすがにこの反応は予想外らしく困った顔で親友を見つめた。
「黙ってないで反論してよ!」と叫びたかったが、店に迷惑を掛けるので黙って佇むしかない。
「似合ってますよ!さて、お買い物が済んだことだし、お肉を食べに行きましょう!」
「まだお会計が終わってないわよ!?」
サシャは、フローラの服よりお肉が大事だった。
さきほどまでは、友人たちを褒めていたのに今はお肉で頭が一杯だった。
ベルトルト曰く「何で君は同期から好かれているのに扱いは雑なの?」というありがたいお言葉。
それを存分に噛み締めながら、フローラは会計をしようとした。
「今度からは一括でお支払いされても…」
「さすがにこれ以上は破産しますので当分、様子を見ます」
「お会計は、鋼貨70枚となります」
お会計を済んだので次はミーナの番だと思ったら既に着替えていてお会計待ちだった。
ミーナは成績上位の女子たちが美少女だらけという事もあり地味な女の子だった。
しかし、そこに居たのは、フローラと似たような服装なのに可愛らしい美少女。
ミーナはパンプス、フローラは兵士が着用する膝丈のブーツしか差がないのにこの有様。
あまりの女子力の差に愕然としたが、それでも親友が楽しそうだったのでお会計をした。
「ミーナ、可愛い」
「フローラったらそればっかりね」
私服も地味だったが、化粧と服装でだいぶ改善された。
生まれてくる時代を間違えたような少女。
もし平和な世の中だったらファッションデザイナーとしてデビューしていただろう。
だからこそ、絶対に巨人を1匹残らず駆逐してやると改めて誓ったフローラ。
「お肉を食べたら今度はお化粧の練習をしようね」
「エレンからの印象を変えたい。その話に乗る」
「やめてミカサ!わたくしが実験台にされるわ!」
お肉を求めて彷徨うサシャに率いられた104期の女調査兵。
「次回は、ユミルも連れて行くの」というヒストリアの妄言で財布は更に薄くなりそうだ。
「おいそこの嬢ちゃん!俺たちと遊びに行かないか?」
店を出てエルミハ区の繁華街を歩いていると、屈強な男たちに声を掛けられた。
ジロジロと見つめてきており、下半身で生きてきたのは間違いないだろう。
「大変ね…」
「あんたの事を言ってるんだよ!」
「わたくし!?」
名家の令嬢がお忍び姿になっているしか見えないミカサ。
機能性よりお洒落に全振りしているようなフリルが付いた侍女服で可愛いサシャ。
元気で明るくて運動神経抜群そうで笑顔でライナーが成仏されそうなヒストリア。
ミニスカートと膝丈の靴下で殿方の視線が釘付けになるミーナ。
それを無視して暴漢らが狙ったのはフローラだった。
『こいつならやらしてくれそうだ』
『ちょろそうだし、うまくやれる』
『取り巻きが厄介そうだが、なんとかなるだろう』
単純に馬鹿そうに見えたのがフローラだったので目を付けられただけだった。
普通なら無視をするか撃退するのがセオリーだろう。
「面白そうね!わたくしも参加するわ!」
「「「「フローラ!?」」」」
とりあえず逃げたかった彼女からすれば、彼らは助け舟を出してくれた優しい集団である。
もちろん、貞操の危機であるのは負の感情を知る能力があるので分かり切っている。
だが、巨人や王政府の刺客、商売敵などを相手にしてきたのでそう考えれば楽である。
「よし!じゃあ俺達と…」
しかし、彼らはフローラに絡んだことを後悔する事となる。
人類最強の女と言っても過言ではないミカサ。
弓なら百発百中、慣れない銃でも成績3位の狩人であるサシャ。
一見可愛いだけの美少女に見えるが、対人格闘術で10位内に居るヒストリア。
突出した技能は無いが怒ると手が付けられなくなるミーナ。
そんな彼女たちの逆鱗に触れてしまった。
「いてぇ…」
「女怖い…」
「助けて…」
釣れたカモを引き留める仲間に業を燃やして飛び交った男6人組。
10秒足らずで返り討ちにあって瀕死となった。
「フローラ!怪しい男に付いて行くな…って何度も言ってるでしょ!」
「分かってるわよ!」
「分かってない!!全然反省してない!!」
「ミカサ!分かってるってば!」
襲い掛かって来た男のポケットから違法薬物コデロインが発見された。
なのでヒストリアとサシャは憲兵団に通報した。
その間、ミカサとミーナにお説教されてしまったフローラ。
早く憲兵が来る事を祈るしかなかった。
「では、お肉を食べましょう!」
「待って!さっき食べたよね!?」
「迷惑掛けたんだからそれくらい良いでしょう!」
お肉を奢らされたどころか、何件も周る羽目になってしまった。
このせいでフローラの貯金がほぼ無くなった。
一応、投資用の資金はまだ残っているが、手を付けずに済むならありがたいくらいである。
104期の女調査兵たちはガールズトークで盛り上がった。
「エルヴィン団長って昔、想いの人が居たんだって」
「でも、調査兵団の道を選んだそうよ」
「大変ですよね。覚悟を決めて自分から別れるなんて…」
「酷い言われようね!憲兵団のドーク師団長に託したのよ!!」
独自の情報網を持っているフローラだが、ゴシップ話はあまりしない。
なので、それを聴き出そうと彼女たちはあれやこれやと話題を振った。
エルヴィン団長が話題になった時は、さすがにフローラはフォローを入れた。
どんどん変な方向に流れていく話を戻すのも彼女の仕事である。
「お化粧って奥深いんですね」
「今度、フローラで実験してみようよ!」
「賛成!」
「まあ、フローラなら…」
「なんでこうなるの!?」
さきほどの件もあり強く出れないのを分かっていて彼女たちは弄りまわした。
そして着替え直してカラネス区に帰還した頃には日が暮れていた。
まるでこれから先は闇しかないように。
「暗くなっちゃったね」
「明日の10時から出発ですからね!寝坊しないようにしましょう」
愉しい一時を終えてサシャの一言で、フローラたちは身を引き締めた。
何故なら翌日から本拠地のカラネス区を出発してユトピア区に向かうからだ。
「ここに帰って来れるのかな…」
「ミーナ、大丈夫よ。またみんなと楽しく雑談できるから…」
ミーナ・カロライナは、翌日に結晶に包まれたアニを目撃する事となる。
それだけでも落ち込むのに新天地のユトピア区では長期任務となる。
ライナーたちが攻め込んでくる可能性が高いからだ。
そのせいで、通行許可証があるフローラですら当分、戻って来れない。
「忘れ物が無いか。ちゃんと確認しておきましょう」
「でも…」
「兵士である以上、責務は果たさないとね!」
ヒストリアとミカサとサシャと別れてもなお、ミーナは落ち込んだままである。
もう二度と今日みたいな日常が戻ってこない気がして怖かった。
親友からの励ましの声も何故か今日だけは他人事に聴こえた。
「ねぇフローラ」
「どうしたの?」
「トーマスみたいに死なないでね…」
フローラとミーナとトーマスは親友だった。
共に励まし合って一週間に1回、報告会をして情報を交換しながら切磋琢磨で訓練した仲である。
もはや家族より仲が良いと言っても過言でないトーマス・ワグナーの死はあまりにも大きかった。
「ミーナも約束してくれたら、その約束を守るわ」
「分かった。一緒に生き延びようね!」
「カラネス区に帰ってきたらみんなを集めてパーティをしましょう!」
「よし、同期全員集めてくる!もちろんユミルもね!」
「えっ……そうね!」
フローラは破産を覚悟しつつミーナと生き延びてカラネス区でパーティを開催する約束をした。
ユトピア区で全てを終わらせて、みんなで楽しんで気力を養う!
そして次は、シガンシナ区に向かって穴を塞いで巨人を掃討する!
そんな夢や希望、未来を2人で確認し合いながら約束をした!
だが、世界は残酷である。
「今日はフローラの部屋で寝て良い?」
「いいけど…寝ている時に部屋を漁るのが目的でしょ?」
「だって、部屋の片づけをしたいじゃない」
彼女たちの待ち受けている未来は残酷であった。