進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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8章 破滅だと分かってても人は前進するが、更に地獄の釜の蓋が開くと後に発覚する時代
90話 人類活動領域の最北端ユトピア区


壁内人類を守護する駐屯兵団の兵力は約3万。

その兵団は大きく2つに分かれている。

南部を守護する部隊か、北部を守護する部隊かである。

だが、巨人が南部からやって来る関係上、主導権は南部の兵団。

【現人類領土北部最高責任者】であるメルセデス・ジークフリートは話題になる事は無い。

 

 

「ピクシスとは飲み仲間でな。あやつは奇人と見せかけて一番常識人じゃった」

「それは周りが極端過ぎて常識人にならざるを得なかったのでは?」

「ザックレーは良く注意してくれたまえ。昔から何を考えているか分からん奴じゃ」

「芸術しか考えていないと思うのですけどね…」

 

 

チェスの勝負をさせられているフローラは、早く終わらせたかった。

お偉いさんとの接待という名の拷問ほど面白くない物は無い。

正直、ピクシス司令と比べると遥かに弱く純粋勝負で2勝2敗だった。

勝たせるつもりが、真面目にやり過ぎて勝ってしまった。

 

 

「待った!」

「待ったなし!チェックメイト!」

「少し手心というものを…」

「本気で勝負しろと仰ったのは、ジークフリート司令じゃないですの」

 

 

キングとポーン2体しか残っていなかったが辛うじてフローラは勝てた。

人によって戦術は違うが、あえて彼女は駒を取らせて総崩れさせていた。

守りが異様に硬い以上、攻勢させるように操作するしかなかった。

 

 

「さすがにピクシス司令とチェスをやりあった奴は違うのう」

「1勝52敗、とてもじゃないですが勝ち目はありませんでしたわ」

「だが、戦場はチェスのように駒は動かない」

「巨人が規則に基づいて行動していたら、とっくの昔に人類は滅亡していますわ」

 

 

人類を守るのは、南部に展開している駐屯兵団である。

では、北部に展開している駐屯兵団は何を担当しているのか。

答えは、工業都市や鉱山、職人の警護などを担当している。

 

 

「…ユトピア区に来ると思うか?」

「間違いなく来ますね」

 

 

王都ミットラスより北部は、過酷な環境で人口が少ない代わりに資源が豊富だった。

西のクロルバ区を北上すると燃える水が豊富に取れる油田がある。

東のカラネス区の北上すると、鉱脈があり金属成分を吸って育った黒金竹が取れる。

人類活動領域の最北端であるユトピア区は、火山地帯の為、温泉と鉱石が豊富である。

それらの拠点であるのがユトピア区で、北部の駐屯兵団の本部が置かれていた。

 

 

「参ったのう。穏便に引退したかったのだが…」

「でもそのおかげで3つの兵団と王政府が1つになりましたわ」

 

 

壁内に存在する3つの兵団は、【総統局】によって統括され管理されている。

…というのは建前であり、実際は権力が拮抗しており、もはや機能していなかった。

 

例えば憲兵団は、内地を護る駐屯兵団第二師団の5000名を事実上、私兵として運用している。

かと思えば、有事における巨人戦では、調査兵団の団長が独断で憲兵団の部隊を動かせた。

もはや各兵団が好き勝手に動いているのが現状であり、巨人のおかげで団結しているに過ぎない。

 

 

「それを聴くと耳が痛いんですけどー」

「ああ、申し訳ありません」

 

 

黒髪のサイドテールが印象的なラナイ・マクロンは、不機嫌そうにフローラに不満を打ち明けた。

ラナイは、総統局に所属している駐屯兵であり、王政府の議会に出席できる権利を有している。

各兵団の指揮系統が有耶無耶なのは、こうやって総統局の構成員が各兵団に所属しているからだ。

つまり、総統局には派閥があり、ザックレー総統の息が掛かった兵士は一握りしかいない。

彼女は、その数少ないザックレー派の兵士である。

 

 

「シュツルムシリーズの開発を手伝ってあげたんだから…もう少し感謝したらどう?」

「あの時は助かりましたわ。色々とお礼を…」

「もっと感謝してくれてもいいよ!」

 

 

専用装備を身に着けたフローラは、カラネス区壁外で巨人を狩るパフォーマンスをした。

馬を買う金が欲しかったが、専用装備のせいで憲兵に目を付けられた。

なんやかんやあって、何故かその装備が正式に採用されて急遽生産しなくてはならなくなった。

そんな時にザックレー総統が助っ人として呼んだ内の1人であり、ありがたい存在だった。

何故なら工業都市やその守備隊に顔がきいてスムーズに話が進んだからだ。

 

 

「感謝してますので、こうやってチェスを代行してやっているのですけど…」

「誠意が足りないと思わない?」

 

 

フローラがジークフリート司令とチェスをしているのは、彼女に押し付けられたからだ。

お偉いさんとの接点ができるのはフローラに利点があるが、それでも厚かましい感じがする。

どうも彼女は、お偉いさんに取り入るより上官である隊長と密着して行動するのが好きそうだ。

 

 

「こうやってチェスをする事しか若い娘さんと仲良くできんくて…」

「あまりにも階級差がありますからね」

「だからと言って毎日の様に誘うのは止めて頂けませんか!」

 

 

ジークフリート司令は、ピクシスと違って白髪がしっかり残っている老齢な紳士である。

しかしピクシスとは違って優秀な女参謀が居ないどころか、部下は男しかいなかった。

故にラナイとチェスをするくらいしか女兵士と接点がなかった。

だから前から問題児と聴いているフローラと会話しながらチェスをするのを心底楽しんでいた。

 

 

「エルティアナ隊長とチェスをされるのがよろしいのでは?」

「ねぇ…隊長は忙しいのです!!」

 

 

思わずいつもの癖で発言したくなる単語を抑えてラナイは簡潔に提案を拒絶した。

「姉さま!」と呼んでしまいたくなる癖を治したいが、やはり無理であった。

 

 

「総統局が久しぶりに3つの兵団を指揮するのでチェスをする暇がありません!」

 

 

ラナイの上官であるエルティアナ隊長は、ユトピア区に展開する3兵団を管理する立場である。

最前線の指揮は、ユトピア区守備隊長だったりエルヴィン団長で任せられる。

しかしそのクラスでは、緊急時に別の兵団を動かすには限界がある。

とはいえ、ピクシス司令級の高官を前線に出すわけにも行かなかった。

王政府の後押しもあり、中央憲兵すら展開しているので総統局が担当するしかなかった。

ザックレー総統を激戦が予想されるユトピア区に招くわけにも行かず、彼女が受け持っている。

 

 

「もうじきピクシスが来るし、わしの出番は無い!」

 

 

ジークフリート司令とピクシス司令は同期であり、かつては切削琢磨しあったライバルである。

今では、僻地に飛ばされて腐敗した彼と違って、現役であるピクシスは最前線で頑張っている。

なので、彼はバックアップ体制を敷くだけで後は同期に投げていた。

そしてその愚痴を聞かされると察したフローラは逃げようとした。

 

 

「チェスの決着はつきましたので,、わたくしはこの辺で…」

「おっと!勝ち逃げはさせぬぞ!もう一度真剣勝負じゃ!!」

 

 

ここでラナイ・マクロンが自分にチェスの代行させた真意を知る事となった。

要するに彼は自分の気が済むまで離してくれないという事だ。

とりあえずフローラは彼女に助けを求めようとしたが、既にその場から逃走済みだった。

仕方なく司令官と向き合ってチェスの続きをする為に駒を置き直した。

ついでにお茶を出したら彼に褒められたがリヴァイ兵士長の時と違って全然嬉しくなかった。

 

 

-----

 

 

ウォール・ローゼ壁内で巨人が出現した騒動で内地に避難した住民は帰還させた。

避難民を養える食料が尽きてしまい、強制的に帰還させるしかなかったからだ。

前線から遠く離れて未だに平和な雰囲気が漂う王都ミットラスですら他人事では無い。

 

 

「下級国民がまた来たらどうしましょう」

「汚らわしい奴らめ!私たちの暮らしを脅かす気か!」

「憲兵団は何をしているの!?」

「ストヘス区の悲劇を忘れるな!絶対、あいつらはこの街を狙っている!」

 

 

内地であるウォール・シーナでは、貴族たちが様々な憶測で次々と噂を広げていた。

大体は自己保身からの下級な存在を見下す事で不安な気持ちを晴らすように雑談している。

ベルク新聞社の記者であるロイとピュレは、そんな彼らを満足させるネタを探していた。

 

 

「ロイさん!やはりユトピア区に調査兵団が何かを搬送させてから警備が厳重になったようです」

「そのネタで叩こうと思ったが、既に記事にされているんだ。もっと詳細に踏み込まんといかん」

 

 

何かが搬送された後、ユトピア区の警備が厳重になったので何かあったと分かった2人。

しかし、そんな事など他の新聞記者たちも調べあげており、ネタにしていた。

軍事機密の為、詳細が載せられていない以上、彼らは必死に情報を得ようと走り回っていた。

 

 

「やはり妙です。駐屯兵団第一師団精鋭部隊もユトピア区の警護についています」

「それなら指令書があるはずだ。憲兵団と違って、あのキッツ隊長が疎かにする訳がない」

 

 

ザックレー総統、ピクシス司令、エルヴィン団長、ドーク師団長。

各兵団と総統局のトップが王都に集結しているこの日に何か特ダネを見つけようと奮闘する2人。

そんな彼らの努力は報われることは無かった。

 

 

-----

 

 

「巨人の大群が北上していっただと?」

「はい、間違いありません!北東に向かったのをトロスト区の観測手4名が確認しております!」

 

 

早馬で駆けつけて来た伝令の報告を受けた調査兵団の団長であるエルヴィン・スミス。

彼が思い浮かべるのは、巨人の大群によるユトピア区強襲の悪夢。

あくまでもトロスト区は、超大型巨人に空けられた穴から巨人が侵入しただけである。

今回の場合は、巨人が意志疎通をして進軍しているという決定的な違いがある。

 

 

「事前に伝えていた例の巨人は目撃したか?」

「ハッ!装甲の様な物で覆われている巨人を目撃しております!」

「そうか…報告ありがとう。君は持ち場に戻ってくれ」

「ハッ!失礼しました!」

 

 

敬礼して頭を下げて退室していった伝令。

その後ろ姿を見届けたエルヴィンは溜息を吐いてから髪型を整えた。

そして、平常心を心掛ける様に早歩きで会議室に居るザックレー総統らと合流した。

調査兵団の団長が巨人に関する情報を報告する時に息が上がってるわけにはいかないからだ。

 

 

「エルヴィン君。何かあったのかね?」

「さきほど、伝令から巨人の大群が北上しているとの連絡がありました」

 

 

各兵団のトップとザックレー総統の顔が歪む。

最終決戦の日が近づいているのは明白である。

だが、この情報を一般に公開するわけにはいかなかった。

つい先日に壁内に巨人が出現した騒動が後を引いているからだ。

 

 

「狙いはユトピア区か?」

「厳密に言うと結晶で覆われたアニ・レオンハートの奪還が目的かと」

「来るとは思っていたが予想より早いな」

 

 

ザックレー総統とエルヴィン団長の会話で、壁内人類には時間が残されていないのを知る。

憲兵団のナイル・ドーク師団長は、再び街が大惨事になるのを知って拳が震えた。

内地であるストヘス区が半壊した事件ですら頭が痛いのに更に大惨事になると分かったからだ。

あれは、女型の巨人1体にもたらされた惨劇だった。

今回は、最低でも巨人化能力者が3名居ると判明しているので更に被害が出るのは予想できる。

 

 

「その中には、先の騒動の際にも姿を見せた鎧の巨人を確認したとの報告もあります」

「ふむ、3兵団の総力を結集させた緊急防衛戦を敷いたのは正解だったな」

 

 

ザックレー総統は最悪の事態を予測し、直属の部下2名をユトピア区に派遣している。

調査兵団、駐屯兵団、憲兵団の3つの指揮をできるのは総統局の構成員だけである。

 

 

「ユトピア区は歴史上、巨人の脅威に晒されたことは無く、他の地区と比べると守りが軟弱かと」

「あそこは工業都市であり、周囲には資源地帯が集中しているのう」

「そこが陥落すれば、間違いなく継戦能力が低下するでしょう」

 

 

エルヴィンとピクシス司令の会話が他人事のように話している様に聴こえる。

そう感じてしまうのは、ドーク師団長の故郷が近いのは無関係ではないだろう。

もちろん、同じ北部訓練兵団出身のエルヴィンがそんな事を知らないはずはない。

むしろ、分かっていてあえて発言している節がある。

調査兵団の夢を諦めてまで自分が守ろうとした妻マリーがその南部の街で暮らしているのだから。

 

 

「ユトピア区の陥落は何としても阻止しなければなりません」

 

 

だからナイルは、絶対に陥落を阻止するつもりで強く発言した。

もうじき3人目が生まれる妻を何としても守るために!

 

 

「ところでユトピア区で意識を失う者が相次いでいるようだな?」

「メルセデス司令の報告によると火山や炭鉱の毒ガスではなかった」

 

 

ザックレー総統が気になっているのは、ユトピア区の住民の体調不良である。

報告書によると、発見時には硬直して痙攣しており、すぐに意識を取り戻したという事である。

あそこは、火山や炭鉱から噴き出す毒ガスで倒れるのは日常茶飯事だった。

更に南部にあるアトラース山脈に遮られるせいで豪雪地域。

換気をせず暖房を焚き続けて意識を失ったり、死亡する事例など山ほどあった。

しかし季節外れであり、老若男女の軍民が場所を問わずに意識を失っていたのに疑問しかない。

 

 

「では何だ?」

「ユトピア区の憲兵団が調査したところ、全員、直前に料理店で食事をしておった」

「つまり料理店で出されていた料理に使われていた食材が原因だった…と?」

「料理人と給仕を敵性スパイとして投獄し尋問を行なったそうじゃが特定には至っていない」

「食中毒はありえんと思うが、毒だとしても復帰が早過ぎる」

「エルヴィンに同感じゃ。何かしら裏がある」

 

 

ピクシス司令は、報告書を疑っている。

もし料理人や給仕がスパイであるならば、こんなに容易く捕まるわけがない。

つまり、真犯人が別に居ると予想している。

料理は、パンをジャムを塗って充分、加熱した物であり食中毒の可能性は著しく低い。

食材の原産地を調べるべきか、もしくは何者かが店内に侵入したのを疑うべきである。

 

 

「これを受けて兵士の食事は、専用の食材と料理人によって管理しています」

「もちろん、兵士全員を守らせるように厳命しています」

 

 

憲兵団のナイルは、そう説明したが1人だけ守らなそうな奴を思い浮かべている。

ピクシスもエルヴィンもザックレーも内心では、絶対に守らない女を思い浮かべた。

それほどフローラ・エリクシアという女はどこかしらで食事をしている。

特にエルヴィンは、団長として心当たりが多すぎた。

 

 

「フローラは絶対に守らないと思うのだがどうかね?」

「訓練兵時代では、根っこを齧っていた野生児だぞ」

「あやつの情報は、とてもじゃないが世間に公開できんのう…」

「心当たりが…心当たりが多いな…!」

 

 

真剣な話題だったのに規則違反で外食に行くフローラの姿を4人は同時に思い浮かべた。

それも誘った調査兵や駐屯兵、もしかしたら憲兵どころか総統局の構成員と食事をしている。

そんな光景を思い浮かべてしまうほど、無駄に彼女は信用されている。

彼女が在籍している調査兵団の長は頭を抱えるしかない。

 

 

「エルヴィン、お前がしっかりとあいつを管理しておけよ」

「分かってるよナイル」

「それと『黒金竹栽培キット』のお礼も伝えてくれ」

「はっ?」

 

 

エルヴィンは、かつての同期の発言が一瞬、信じられなかった。

いきなり黒金竹栽培キットなんて話が出てくるのだから衝撃を受けるしかない。

これより衝撃的だったのは、調査兵団を諦めてマリーを守ると彼が言い出したくらいであろう。

冷静沈着で大切な物を犠牲にできるエルヴィンはキャラ崩壊しそうになった。

 

 

「実は盆栽にハマっているんだが、子供たちが手伝おうって言い出してな」

「いや、そんな事を聴いて無いんだが?」

「黒金竹ならそう簡単に壊れないとアドバイスをもらって頂いたんだが中々良い物でなー」

「ナイル、こっちに戻って来てくれ…」

 

 

まさかの伴侶のマリーと子供たちの惚気話が彼の口から始まるとは思うはずもない。

慌ててエルヴィンは、素敵なパパを演じている同期の右肩を掴んで揺らした。

すると、悲しそうな顔をして自分に向き合った。

 

 

「さっさと終わらせて家族に逢いたい…」

 

 

中央憲兵と腐敗した憲兵団に板挟みになっているナイル。

そんな彼を癒してくれるのは妻子だけである。

ウォール・シーナに暮らさせても良かったが、やはり平民である以上、内地は諦めた。

単身赴任で内地で執務を行なっているが1週間で2日は帰るようにしている。

 

 

「…どうやら異存はないようだな。引き続き警戒を続けよう」

「お待ちください!まだ報告したい事が…」

「それは書類に書いてあるのか?」

「もちろんです」

「では、執務室に戻って確認するとしよう。以上だ」

 

 

ザックレー総統もやる気が無くなってばっさりと会議を切り上げた。

部下が1名でも居れば厳格なドーク師団長として演じている彼。

家に帰れば、一緒になって遊んでいるパパに過ぎない。

別にそれは良いのだが、この場にその空気を持ち込まれても困る。

ばっさりと大雑把に切り上げてお開きとなった。

ベルク新聞社の記者2名が注目した会議がまさか惚気話で終わるとは予想できるわけなかった。

 

 

-----

 

 

「クション!」

「フローラ、最近クシャミが多くない?」

「うーん、風邪かしらね?」

「変な物喰ってるからじゃないの?」

「ミーナまでそんな事を言うの…」

 

 

フローラはやたらと自分が目を付けられているのを気にしている。

いつもの事であるが、やたらと心配されるのだ。

まるで自分が死地に行くみたいな感じがして嫌である。

鎧の巨人もといライナー・ブラウンをこの手にかけるまで死ぬ気など無い。

しかし、その目標が達成したらどうなるのか分からない。

燃え尽き症候群になるのかはその時にならないと分からないが何故か号泣する自信はある。

 

 

「フローラでも風邪を引くのか」

「…エルティアナ隊長!」

「誰?」

「総統局のお偉いさんよ!ここに居る3兵団をまとめあげている指揮官よ!」

 

 

緑色の外套を羽織ってフードを深く被っており、顔に包帯を巻いている憲兵の女性。

見るからに怪しいが、5年前にシガンシナ区で巨人と交戦して顔を負傷した経緯がある。

貴族出身のように見える部下のラナイと比べると実戦経験が豊富な将校に見える。

 

 

「活発そうな女兵士は同期なのか?」

「はい、同じく104期調査兵のミーナです!」

「ああ、畏まらなくて良いよ。憲兵ほど厳しく接する気はないからね」

 

 

ミーナは、エルヴィン団長より上の存在に失礼な事を言ってしまって硬直してしまった。

それを察したエルティアナは一言掛けて肩の力を抜かせた。

第一印象は厳しそうだが部下のラナイの「お姉さま」発言を看過してる時点で優しい女である。

 

 

「姉さま!姉さま!お姉さま!あだっ!?」

「こんな感じに度が酷いとお仕置きはするけどね」

 

 

部下であるラナイの抱き着き攻撃を受けた女隊長は無言で頭を軽く叩いた。

黒髪の女性は頭を両手で抑えて痛がっているが、過剰に見えるので気を惹こうといるのは分かる。

あんまりの光景に唖然とするしかないミーナだったが、1つだけ思った事がある。

そこの黒髪の女兵士みたいに堂々とフローラに抱き着いてみたいと!

実際やったら怒られそうでやりたくないが感化されたと言い訳したら許してくれるかもしれない。

 

 

「ミーナ、わたくしにあれをやらないでね」

「うっ」

 

 

負の感情を聴く事ができるフローラは親友の感情を知って先手を打って釘を刺した。

牽制されてしまった以上、ほとぼりが冷めるまで諦めるしかない。

 

 

「ところでわたくしに何か御用なのでしょうか?」

「外食とかしていないか訊いてみたくてね」

「滅相も無い!ちゃんと指定された食堂で食事を愉しんでおりますわ!」

 

 

報告書を読んだり総統から話を聴かされているエルティアナ。

絶対にフローラが約束を守らないと踏んで、念を押して規則を守っているか確認しに来た。

 

 

「本当に?」

「本当ですってば!」

「飲料水もちゃんと指定された水筒で飲んでいるよね?」

「あっ……」

 

 

返答を聴いて予想通りの結果で呆れるエルティアナ。

「だから言ったのに!」と発言したいがお偉いさんの前なので我慢しているミーナ。

過剰に痛がって隊長の気を惹こうとしたが、失敗して周囲に恥を晒したラナイ。

そして、長いお説教と罰則を覚悟して青ざめたフローラ。

 

 

「今度やったら晩飯抜きを1週間やらせるから覚悟しておきなさい」

「待ってください!そんな事をしたら餓死してしまいますわ!」

「規則を守り上官の命令に従う。そんな事も出来ない奴に晩飯を抜くだけで妥協したのに?」

「……ありがとうございます」

 

 

次回やらかしたら晩飯抜きという事は、今回は見逃してくれた。

しかし、次が無いと警告されてしまった以上、不要に動かない事を誓うフローラだった。

 

 

「ここだけの話、終わりが近い」

「そうですか…」

「せいぜい夜更かしせずにいつでも出撃できる態勢にしておきなさい」

「はい!分かりましたわ!」

 

 

絶対に守りそうもないフローラの返答に彼女は小言を入れようとしたが諦めた。

その代わりにエルティアナは、姿勢を曲げてミーナと呼ばれた少女に向けて顔を覗いた。

初々しい少女の顔が抜けきっていない女兵士であるが、彼女に任せれば大丈夫だろう。

 

 

「フローラが何かやらかさないか見張って欲しい。規則を破ったら報告して」

「フローラをちゃんと見張ります!」

「罰則は貴女に任せる。調査兵団の上官や食堂の連中には話を通しておくから安心して欲しい」

「大丈夫です!絶対にさせません!!」

 

 

フローラは、ミーナにとんでもない権限が付与されたのに衝撃を受けた。

【恐怖】という感情が欠如した彼女が初めてミーナに恐怖とやらの感情を感じた瞬間だった。

ミーナのドヤァ顔が更に絶対に見張るという感じがして憂鬱になった。

 

 

「私にも何か罰則を!」

「さっき与えたばかりじゃない」

「なんか物足りないです!」

 

 

立ち直ったラナイは、何故か上官による更なる罰則を求めた。

何がそんなに彼女を奮い立たせているのかは、フローラも上司も分からない。

でもミーナは何となくわかる気がした。

 

 

「じゃあ、別居で!ついでに転勤依頼も出しておくから」

「嫌あああああ!隊長!それだけは!」

 

 

同室なのか「別居」の一言で取り乱す彼女。

フローラは他人事のように『総統局って一癖どころか色々癖がある人物が多いわね』と思った。

そう思ったら『君が一番、可笑しいからね』というベルトルトのツッコミが聴こえた気がした。

何故か彼は、自分だけにはっきり意見を言うので発言しそうな言葉である。

それが気に食わずに彼女は頭を振って歪んだ思考を吹き飛ばした。

 

 

「せいぜい1日持つことを祈る」

「いくら期待していないからってそれはあんまりですわ!」

「普段の行動と態度でそう考えただけだ。周囲の態度を気にする前にまず自分を直せ」

「…仰る通りです」

 

 

こうしてエルティアナ隊長は、部下を引き摺るように去っていった。

それを遠くに見送った後、フローラは落ち込みながら兵舎に帰還しようとした。

 

 

「ねえ、さっきの隊長さんの声がアニにそっくりじゃなかった?」

「確かに性格と言い、発音と言いアニにそっくりだったわね」

 

 

アニ・レオンハートは、フローラとミーナにとって親友である。

だからこそ裏切られたと知ってショックを受けたがまだ諦めきれてなかった。

フローラは、あの毛むくじゃらの巨人のせいでアニが狂ったと思っている。

なので、今度こそあの巨人の継承者を惨殺に見えるほど徹底的に殺す予定である。

こうしてジーク・イェーガーはこの世に誕生して後悔する痛みを知る事となる。

 

 

「他にもそっくりな声が居るんだけどね」

「えっ?他に居た?」

 

 

ミーナは未だに親友が気付いていない事を知った。

いつも秘密にされて地団太を踏んでいる身としてはチャンスである。

 

 

「教えてあげーなーい!」

「じゃあ良いわ」

「待って!知りたくないの!?」

「別にそんな事を知っても何も変化しないし…」

 

 

ミーナの秘密大作戦は、親友が秘密を知ろうとしないせいで破綻した。

それでも頭を下げるまで意地でも教えないつもりだ!

何故なら…ミーナにとって大切な人の声なのだから…。

 

 

「…ってどこに行くつもりなの?」

「駐屯兵団第二師団の部隊長の所よ!」

「食べちゃ駄目って言われたじゃない!」

「逢って軽く話をするだけよ」

 

 

さっそく命令違反をしようとする親友を追いかけたミーナ。

駐屯兵団第二師団は、フローラも接点がほとんど無く初めて逢う勢力だった。

しかしその隊長は、調査兵団の第三分隊長の兄と分かったので気楽に会話するつもりだ。

振り落せない親友を連れてユトピア区に哨戒任務の報告をしに来た彼に逢いに行った。

これが後に調査兵団に打撃を与えるとは知らずに…。

 

 

 

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