進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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91話 終わりの始まり

「この厳戒態勢はいつまで続くんだ…」

 

 

104期調査兵のコニー・スプリンガーはユトピア区の中央通りを警備している。

何とも暇な任務であり欠伸が出そうでしょうがない。

巨人の大群が北上してきたと報告を受けて厳戒態勢を敷かれているので必死に我慢していた。

それでも民間人はこのユトピア区には居ないのだから少しだけ休んでも良いじゃないか。

悪魔が「少しサボってもバレないだろう」と耳元で囁いて甘い誘惑に乗りそうになっていた。

 

 

「駄目ですよコニー!ちゃんと警備しなきゃ!」

「だってよ!医師や看護婦、武具や装備を作る職人以外は全員軍人なんだぞ…」

「確かに最後まで残っていた兵士ご用達の酒場も閉まりましたけど…」

「だからさ…ちょっとだけ筋トレしてもバレないだろう」

 

 

サシャ・ブラウスは、コニーを咎めようとしたが自分もお腹が空いて仕方が無かった。

食べ物の匂いがするとお腹が空くが定められた時間帯でしか食えないと分かると更にお腹が空く。

 

 

「病院の門の後方だ、こっそり隠れて筋トレやってもバレないだろう」

「もう知りませんよ!連帯責任で飯抜きにされるのは嫌ですからね!」

「フローラみたいに根っこを齧っていればいいんじゃん」

「巻き込む前提ですか!?」

 

 

サシャとコニー、馬鹿と呼ばれた兵士が高学歴の医師が居る病院を守るという不可思議な光景。

もし、ジャンが見たら思わず吹き出してしまうほど間抜けな感じがした。

そんな事に気付くことも無く2人は何事も無く時間が過ぎてくれるのを祈っている。

 

 

「おいお前たち!」

「はい!なんでしょうか!!」

 

 

いきなり兵士に呼びかけられてサシャは元気に返答をした。

コニーはサボろうとしていた時に不意打ちを喰らったので無言でサシャの後ろに隠れた。

 

 

「壁外で哨戒していた調査兵団の部隊が巨人の大群を発見した!速やかに迎撃の準備をせよ!」

「「ハッ!」」

 

 

ついに決戦の日が来てしまった。

夜間に巨人は動かないという事で日が出てるうちに侵攻してくると考えていた。

実際は夜間でも動ける巨人が居たが、やはり常識に縛られがちである。

そして現在、できれば永遠に到来して欲しくなかった運命の日。

地獄はすぐそこにあった。

 

 

「よ、よかったですね…これで暇じゃなくなり…ま、ますよ」

「ああ、やっぱ、平和が一番だった…ぜ」

 

 

コニーもサシャも緊張しながら事前にやった訓練通りにユトピア区正門に向かった。

その門から先は巨人の領域、3秒の判断ミスで命取りになる過酷な環境。

彼らは壁外で巨人を迎撃する事となっている。

 

 

-----

 

 

「エルヴィン、どうした?クソでも我慢しているような面だな……」

「少し気になっている事があってな…。リヴァイは今回の襲撃をどう思う?」

「やけにおせぇと思った。トロスト区で観測されてから4日経ったせいか」

 

 

ユトピア区正門の壁上で待機しているリヴァイはエルヴィン団長の異変に気付いた。

いつもの彼らしいと言ったら何だが、何か疑っている感じがした。

 

 

「おかげでこのユトピア区に1万名を超える兵力が展開できている」

「それだ。何故ここまで戦力が集中するように仕向けたのだろうか」

「そりゃあ、こっそりトロスト区を奇襲するとかじゃないのか?」

 

 

リヴァイが恐れているのが戦力が手薄になっているトロスト区への奇襲攻撃である。

駐屯兵団第一師団精鋭部隊がこのユトピア区で展開している以上、襲撃されたら敗北必須だ。

 

 

「いや、私はそうではないと思っている」

「ほう?じゃあ何があるんだ」

「壁内に巨人が出現すると予測を立てた」

「馬鹿な…」

 

 

エルヴィンは少しづつ以前、壁内に出現した巨人の正体を掴みつつあった。

だが、明確な証拠がない上に常識的に考えると信じられないので明言していないだけである。

壁内人類が巨人になって同胞を喰ったなどと言えば、真っ先に精神病院行きは確定している。

しかし、否定できる根拠がない上に何か違和感を抱いていた。

 

 

「この場に居る大半は壁外の旧市街地で巨人を食い止める気満々だが…」

「もちろん、正門も内扉も厳重な厳戒態勢を敷いている。ただ何かあると思う」

 

 

ここまで証拠も無しに疑うのは、長年彼と接してきたリヴァイですら初めての出来事だった。

だがやる事は決まっているし、今更変える事はできない。

ただ、彼の忠告を耳に入れていざとなったら壁内に戻れるように気を配るだけだ。

 

 

「エルヴィン、見ろよ。あそこに居る奴らがこの旧市街地…いや最終防衛戦を死守するそうだ」

「5年前では信じられない出来事だな」

 

 

ユトピア区正門の上から見下ろすと広大な世界が映っている。

以前は人類の領域だったのに1回のミスでユトピア区まで人類の活動領域は狭まってしまった。

そしてその領域をこれ以上縮小しないように3兵団が共同で戦線を敷いている。

なんとも泣ける話ではあるが、それはこの決戦で勝利しなければ意味は無い。

勝者だけが歴史を記す事ができて敗者は消えていく事しかできないのだから。

 

 

「へ、兵長!巨人の先鋒を確認できました!」

「そうか、何体押し寄せて来た?」

「16体です!ま、間違いありません」

「ああ、分かった」

 

 

訓練兵団を卒業していない105期の訓練兵すらも動員している。

なんともあんまりな扱いだが、見張りと装備のメンテナンスくらいはできる。

兵士を志願した以上、動員されるのは仕方が無かった。

リヴァイも単眼鏡で覗くとおそらく巨人と交戦するまでに30分は無いだろうと分かった。

 

 

「オイお前!」

「な、なんでしょうか!?」

「死ぬなよ!必ず生き残れ!」

「はい!!」

 

 

若い奴らが実力不足で無様に死んでいくほど嫌な物は無い。

少なくともリヴァイは新兵どころか修了していない訓練兵を最前線に投入する気など毛頭ない。

次世代を担う若者が1人でも生き残れるように彼は心の中で安全を祈っていた。

それを察したエルヴィンは、今できる事を必死に考えて最悪の事態に備えて策を練っている。

 

 

-----

 

 

「あれ?装備を変えたの?」

「えぇ、鎧の巨人に通用する刃の為に特注で用意したの」

 

 

一昨日に装備を更新したフローラ・エリクシアはミーナの質問に返答をした。

彼女が装備しているのは、特注装備となってしまった専用の鞘と立体機動装置である。

名は、強化鞘・2型改フローラモデル、強化装置・2型改フローラモデルである。

 

 

「ヤークトシリーズだったらお揃いだったのに…」

「ごめんなさいミーナ…」

 

 

ミーナが身に着けているブリッツシリーズは、量産されているシュツルムシリーズの新型装備。

それは以前、予備であったブリッツシリーズをミーナがもらい受けた物である。

小柄で非力な彼女に軽量化して飛び回れるこの装備は合っていた。

フローラも最新モデルであるヤークトシリーズを受け取ったが、今回は身に付けなかった。

 

 

「やっぱりその専用の刃の為なの?」

「そうよ。この2本の刃は鎧の巨人の装甲すら貫く刃。もう1式は燃える刃、他は強化刀身ね!」

 

 

カラネス区で暴れていた6m級の巨人の爪を混ぜて作った『三式刀身改二』2本。

ヒートソードジュニアの上位互換であるフレイムソードジュニアの2本。

そして残りは、調査兵団の精鋭が愛用している強化刀身・2型の6本。

 

 

「第57回壁外調査みたいにライリーに持たせれば良かったんじゃないの?」

「あっちは予備の鞘とボンベを持たしているわ」

 

 

更にこの壁外に待機しているライリーにはガスボンベ6本と刀身6本を持たせてある。

その関係で、短剣型の装備であるヤークトシリーズは技術4班に返却する事にした。

機密情報の塊である以上、管理できないなら彼らの元に返すしか道が無かった。

そしてこの装備は後に別の人物が使用する事となる。

 

 

「本当は『手投げ式』の閃光弾とか入手したかったんだけどね…」

「え?何か言った?」

「何でもないわ」

 

 

フローラはその時、手投げ式の閃光弾と音響弾を入手しようとしたが、あいにく品切れだった。

誰が買ったのかと尋ねると意外にもキッツ隊長が購入しており、憲兵にも売れていた。

東防衛線で使用した手投げ式シリーズが精鋭部隊の隊長に高く評価されたのは嬉しい。

ただ、立体機動しながら投擲できる閃光弾が無いのはきついものがある。

 

 

「作戦はなんだったっけ?」

「先遣部隊は、最終防衛戦である旧市街地の死守よ」

「でもなんで個別に招集しているの?合流に間に合わないのに…」

「気付かれない様に部隊を移動させているみたいね」

 

 

壁内にまだ巨人勢力のスパイが居るのは捨てきれない可能性である。

ましてや、このユトピア区だけで総兵力の3割以上が展開している。

4年前にウォール・マリア奪還作戦という名の口減らし以降で最大規模の作戦。

さぞかしエルティアナ隊長とピクシス司令には大きなプレッシャーが圧し掛かっているだろう。

 

 

「ここで敗北したら…」

「ミーナ、わたくしたちは絶対に勝てるわ。そんな事言わないで」

 

 

ちなみにジークフリート司令は、南部にある内地のオルブト区で部隊を指揮している。

もしユトピア区が陥落したら農民や若者に持たせた竹槍で突撃するという無謀な作戦。

しかし、ここまでしないと気が済まないのが偉そうに後方で踏ん反り返っている貴族共だ。

内地に避難民が押し寄せるのを防ぐ為に最低限のイエスマン以外は全て切り捨てるつもりである。

このせいでザックレー総統は、芸術を完成させる事を強く誓った。

 

 

「ちょっと巨人の様子を見て来るわ」

 

 

フローラは適当に壁を登ってアルミンから頂いた単眼鏡で覗いて索敵をした。

そこにはあの毛むくじゃらの巨人をリーダーとする15体の巨人。

まだ他にも100体近くの巨人が居るのを特殊能力で把握している為、驚きは無かった。

ただ気になったのは、『見事に引っ掛かったな』という“声”か。

 

 

『嫌な予感がするわ』

 

 

人数が多いせいで負の感情の“声”が煩いほど聴こえている。

そのせいでユトピア区にライナーやベルトルトが侵入しているか不明だった。

長期間の積雪に耐えられるように独自に地下道が存在するせいで隠れられると発見が難しい。

それはユトピア区壁内の守備隊の仕事であるから…と彼女は気にせずに壁から降りて着地した。

巻き取る時のアンカーはしっかりと気を遣っており、以前の様に脚にぶつけずに済んだ。

 

 

「フローラ!敵の数はどうだ?まあ聞くまでもねぇか…」

 

 

ジャン・キルシュタインは敵戦力を訊きたかったが、フローラの顔からかなり多数だと察した。

それを見たコニー・スプリンガーは俯いて地面と向き合った。

 

 

「私たち、本当に最前線で戦うんですか!?」

 

 

サシャ・ブラウスは今からでも逃げ出したい。

3m級の巨人ですらあそこまで苦戦した挙句、自身で倒す事はできなかった。

1体ですら脅威なのに編成して侵攻しているのだから絶望感しかない。

 

 

「あんな数にどうやって勝つって言うんだよ……」

 

 

コニーは心が折れていた。

避難したはずの家族が未だに行方不明なのもあったが何より巨人が怖かった。

この世界で怖い物は、死よりも巨人と揶揄されるほど恐ろしい物である。

トロスト区防衛戦の時によく漏らさなかったと自慢できると今なら思う。

 

 

「いた!?……何だよ。やる気満々かよ」

 

 

フローラは俯いていたコニーの坊主頭を軽く叩いて喝を入れた。

既に鞘から強化刀身を抜いており自信満々で巨人を狩るつもりだった。

それを見て彼は、いつも通りの彼女に安心して何とか立ち直れた。

 

 

「やるしかないよ!ここを突破されたら人類は…」

「アルミンの言う通り!絶対にここで殲滅する!」

 

 

アルミンとミカサは既に覚悟を決めていた。

なんというか他の同期と比べて様々な困難にぶつかってきた影響もある。

ただ言えるのは、みんなが協力すれば勝てるという根拠のない自信で成り立っている。

 

 

「フローラ!あいつらを全部ぶっ倒してユミルを奪還しよう!」

「ヒストリアが一番やる気だな…」

 

 

ヒストリアにとってはここがユミルを奪還できる最後のチャンスだと思っている。

自分から離れていった事を身をもって後悔させる為にも巨人なんて怖くなかった。

ジャンは。やたらと好戦的になったクリスタを見て、どう対応するか迷っている。

男らしく戦いたいが。フローラとかいう完全上位互換に任せた方が良いからだ。

彼は全てが終わったら妻を娶って内地で優雅に暮らす夢はまだ諦めていない。

 

 

「フローラ…」

 

 

何故かミーナは自分がこの場に居ていけない人間だと悟っている。

未だに自分が死人で悪夢の中を彷徨っているイメージが消えていない。

こうして息をして生きているのに何かが怖かった。

 

 

「注もおおおおおおく!!」

 

 

ピクシス司令の怒声のより、3つの兵団の兵士全員が彼の方を見た。

ザックレー総統代行のエルティアナ隊長は、「なにやってんだこのハゲ!」の感情である。

最高司令官が前線に出ないように奮闘したのにハゲが独断で前線で出ているのだからたまらない。

ピクシス司令からすれば決死の覚悟を兵士に見せたかった様だが彼女視線では余計な真似だった。

 

 

「これより我々は、巨人との決戦に臨む!」

 

 

ピクシス司令が演説するのはトロスト区奪還作戦以来の2か月半振りである。

しかし前回とは大きく違う点がある。

 

 

「ウォール・ローゼの陥落は!すなわち、人類の滅亡を意味する!ならば我々がやる事は1つ!」

 

 

前回はトロスト区の内扉がある壁の上で演説をしていたが、今回は地上に降りて演説をしている。

すぐそこに巨人の群れが迫っているにも関わらず兵士に向き合っていた。

その為、巨人の群れに背を向けて彼は演説をしていた。

 

 

「最後の一瞬まで抗い!人類の……愛する未来を守る事である!!」

 

 

この決戦が壁内人類の運命の分水嶺である事は誰が見ても明白だった。

兵力1万という前代未聞の動員、巨人側も100体を越える大群!

総力戦であることは誰も否定できやしない!

この日、人類は思い出した。

今からやるのは戦闘ではなく絶滅戦争だと!

 

 

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

 

その場にいた全員が心臓を捧げた!

この場にいる全員の意志は1つとなり、巨人へと挑んでいく!

個人が赤の他人と意志を1つにして群れとなり巨人に群がる蟻となる!

圧倒的な地上の覇者に群がり幾千万の犠牲を払って壁内人類は存続してきた!

死者の意志を継ぎ!例えば誰かが倒れても最後まで戦いを挑んでいく!

心臓を捧げた数だけ生者に課せられた夢と責任は膨れ上がる!

滅びを待つくらいなら滅びの元凶に挑んでいくマインドコントロールがあった。

 

 

『茶番ね』

 

 

フローラは同時にピクシス司令を聴いてそう思った。

マインドコントロールが得意の彼女だからこそ兵士を特攻させると感じた。

 

 

「エルヴィン!」

「ああ、ついに決戦が始まったな!」

 

 

壁外にある旧市街地を最終防衛戦として死守する先鋒部隊。

ユトピア区正門を死守する砲兵と先遣班で構成された前衛部。

ユトピア区壁内の兵団本部で巨人を待ち構える中衛部。

医師やわずかに残った技師や職人、退役軍人を加えた前線を支援をする後衛部。

そしてウォール・ローゼの内扉を死守する最後の砦である。

総兵力は1万、壁内人類が所有する兵力の3割が動員された過去最大規模の防衛戦となる!

さすがにリヴァイ兵士長ですらも、そう簡単に破られない布陣だと信じていた。

 

 

『しかし時間を掛ければ完璧に布陣されると分かったはずだ』

 

 

エルヴィンは、巨人の長と見られている獣の巨人がこんな正直に侵攻するとは思っていない。

フローラの報告だとズボンを履いただけの髭もじゃの変態野郎という評価は知っている。

それは置いておいて一方的に獣の巨人を追い詰めた兵士が居るのに稚拙な戦術で攻める訳がない。

何か策があると思っている。

 

 

『何かあるな。少なくともフローラと直接戦闘しないはずだ』

 

 

そしてエルヴィン団長の不安は的中する事となった。

 

 

-----

 

 

『いやー参っちゃうね!ここまで予想通りの布陣をされるとは』

 

 

獣の巨人もといジーク・イェーガーは壁内人類の布陣を見て嘲笑した。

抱いた感情は、やはり例外を除いて壁内人類は大した事がないという見下す感情である。

 

 

『まだあいつら、俺達が正直に交戦すると思っていやがる!』

 

 

遠くから兵士の一団が敬礼したように見えたので特攻みたいな事をさせると考えた。

壁内に引き籠ってから全く成長しておらず、愚者は歴史を繰り返そうとしていた。

どうしようもない現実に彼は思わず歯茎を剥き出しにして愚行に激怒している。

 

 

『あーやっぱり悪魔の島だ。ここまで精神が狂わせられるとは思っていなかった』

 

 

壁内に侵入した戦士のライナーやベルトルトが洗脳されかけたという言葉を一蹴した。

しかし、ここまで一致団結させられると数年間暮らしただけでああなるのは分かる。

だが、エルディア復権派とかいうお遊びグループに参加していた両親を思い出してしまう。

 

 

『あそこに親父によって狂わされた弟が居るのか』

 

 

そしてなにより戦士2名の話から父親のグリシャ・イェーガーが生きていたのに驚いた。

自分のせいで楽園送りになったが調べるとその楽園送りは失敗していたと知った。

糞ったれの親父がマーレ兵を戦艦ごと殲滅できるとは思っていなかったがようやく理解した。

 

 

『おそらくマーレで行方不明になっている【進撃の巨人】の継承者になって生き延びたな』

 

 

グリシャは何かしらの手段で【進撃】を引き継いでマーレの追手を滅ぼしたと悟った。

そして【任期】が近づいて息子であるエレン・イェーガーに自身を喰わせたのだろう。

そう推測すると、親父のせいで腹違いの弟の人生が振り回されている。

そんな現実を知ってしまい、どうにか救ってあげられないかと考えてしまう。

 

 

『エレン・イェーガーか!逢えると良いんだけどねー』

 

 

できれば逢いに行って顔を見たいが彼の脳裏に浮かぶのは【エルディアの悪魔】の女である。

彼女に一方的にボコられて、泣き叫んで全裸で逃亡した挙句、排泄物を垂れ流させられた黒歴史。

なんとしても部下のピークちゃんからの評価を返上したい。

そんな考えに支配されて複雑な思いで自身の脊髄液を加えて誕生させた巨人を率いている。

 

 

〈さて、始めますか!〉

 

 

今回の目的は、戦士のアニ・レオンハートの奪還である。

なので壁内人類と全面戦争する気はない。

いくら王家が滅びを受諾しても兵士まで徹底している訳が無い。

少なくともウォール・マリアが陥落しても壁内人類を存続している時点で滅びは認めていない。

哀れな悪魔の末裔ではあるが、だからといって手心を加えるほどジークは優しくない。

 

 

『ライナー、ベルトルト…頼んだぞ』

 

 

巨人を率いていた獣の巨人は立ち止まって両腕を真上にして深呼吸をした。

その光景は巨人がする行動ではなく壁内人類は固唾を吞んで行動を見守った。

 

 

〈ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!〉

 

 

獣の巨人の叫びがユトピア区に展開している壁内人類全員に届ける大声で叫んだ。

圧倒的な肺活量の上に獣であるゴリラの特性も加わって音響弾を越える音量で響き渡った。

その瞬間、壁内や壁外問わずに眩しい閃光が迸った!

 

 

-----

 

 

ユトピア区の第一病院を警備している兵士は安心していた。

壁内とはいえ前線から離れているので、すぐさま自分たちに危害が及ぶとは思えなかった。

 

 

「ユリアン、お前…前線じゃないからって安心していないか?」

「だってそうだろう?壁外の旧市街地に展開している部隊から見れば欲望の環境だ」

 

 

駐屯兵団第一師団の北部担当のパスカルとユリアンは最前線に出れずに済んだ。

なので通常任務と同じように病院を警護し、人類の勝利を壁内で祈るしかできなかった。

 

 

「おい…病院が光ってないか!?」

「なんだ…化学反応で光ったのか!?」

 

 

突然、病院の窓が光ったと思ったら稲妻が壁内で発生した様な爆音が鳴り響き!

気付けば彼らは瓦礫と共に宙を舞っていた。

ジークの叫び声で前もって脊髄液を飲ませた被験者が巨人化!

ストヘス区でアニが巨人化したように閃光と共に巨人化の爆風で病院を吹っ飛ばした!

 

 

「…あ……っが!」

 

 

ユリアンは即死し、病院の建物から離れていたパスカルも巻き込まれて爆風で吹っ飛ばされた。

彼が最後に見たのは、壁内で巨人の大群が出現した状況でそれを実感する前に落下し潰れた。

そして生の足掻きの様に痙攣して動かなくなった肉塊を巨人が踏み潰した!

 

 

「エルヴィン!!」

 

 

同時刻、壁上からエルヴィンを突き落としたリヴァイは彼を抱えて立体機動に移っていた。

毛むくじゃらの巨人が咆哮した瞬間、安全を祈った105期訓練兵の身体が光った!

その瞬間、リヴァイはエルヴィンを突き落として自身も落下して逃走した!

すぐさま爆音と爆風が響いたが、辛うじて大切な者を掴んだ彼は壁にぶら下がった。

 

 

「ぐっ……なにがあった!?」

「最悪の展開だ…兵士が巨人化した!」

 

 

異常事態に対して迅速に行動して戦えると自負しているリヴァイ。

そんな彼でもさきほどまで会話していた訓練兵が巨人化するなど夢にも思っていなかった。

 

 

『クソが!いつからだ!訓練兵はあの料理店など利用していなかったはずだ!』

 

 

ザックレー総統を含む兵団上層部は、意識を失った者だけを警戒していた。

現実は、症状に個人差があり巨人化のトリガーを持った者を見逃している。

その結果、医師35名、看護婦200名の他に兵士700名以上がその爆風で跡形も無く絶命した。

 

 

「巨人だああああああああああ!!」

「エルティアナ隊長!人間が巨人になりました!!」

「壁内で巨人が出現!数は…30体以上!指示をください!!」

「なんてこと!絶対に壁内で掃討!一体たりともローゼの侵入を許すな!!」

 

 

壁内人類が巨人化するという予測はエルヴィンだけではなく兵団上層部も推測していた。

壁内の巨人騒動の後、いくつかの村が無人化しており行方不明になっていた。

そして巨人の足跡がそこを中心に広がっているので、推測自体はしていた。

ここで最悪なのは、王政府の上層部はそれを知っていながらも黙秘を貫いていた。

そのせいで、最悪な形となって人間が巨人になる証拠を発見する羽目となった!

 

 

「人間が巨人に……あの毛むくじゃらが!!」

 

 

旧市街地に展開していた兵士が巨人になったのを目撃したフローラは激怒した!

それと同時に獣の巨人の継承者に止めを刺さなかったのを後悔した!

ガソリンを含んだ火炎瓶を投げつけて満足するべきではなかった!

心臓を潰し!首を刎ねて!脳を潰してから焼くべきだった!

後悔しても過去には戻れないが未来は選択できる!!

 

 

「巨人だあああああ!!逃げろおおおおお!!」

「嘘だ!人間が巨人化するなんて!!」

 

 

負傷した兵士が阿鼻叫喚で叫んでいる中で冷静になった兵士が居た。

104期調査兵のコニーである。

 

 

『に、人間が巨人化するのか…!?じゃあ!オレの家を潰して寝転んでいたあの巨人は…』

 

 

彼の故郷のラガコ村は巨人によって徹底的に破壊されていた。

何故か血痕が残されておらず、先輩方から馬で逃げたと知らされて安心していた。

ところが、家族どころか村人全員が行方知らずになっており、不満は徐々に増していた。

そして、本日答え合わせとなった。

自分の家で寝転んでいた巨人は、自分の母親だと気付いてしまった!

 

 

『だからあの時、ライナーは否定したのか!』

 

 

村の終わりを感じさせる夕暮れの時、巨人が自分の母だと思っていた。

そんな時、ライナーはやけにそれを否定していた。

頭は良くないが回転は速いコニーは、ユミルも馬鹿にしていたようで必死に否定していた。

良く考えれば、巨人化に否定的だったのは、巨人化能力者だけだと思い出してしまった。

 

 

「コニー!何をしているの!死にたいの!?」

 

 

コニーに飛び掛かった元駐屯兵の巨人のうなじを削いだフローラは彼を罵倒した!

最終防衛線である旧市街地に爆風と共に巨人が6体出現した!

爆風で陣形が乱れて所に巨人に強襲されたせいで総崩れとなった。

 

 

『それだけじゃない…ユトピア区壁内に巨人が出現したみたいね…』

 

 

フローラは以前から巨人の“声”を呻き声として聴けるのに疑問があった。

負の感情を“声”として聴けるのは人間のみで動物には通用しなかった。

なのに何故か巨人の呻き声を聴けるのか仮説を立てていたが、今回で解決した。

巨人の正体は、人間であり呻き声をあげているのは苦しんでいるのだと…。

残念ながら人数が多いせいで絶望の感情で巨人の数は把握できなかった。

 

 

「フローラ!巨人が旧市街地に侵入してきた!急いで迎撃するぞ!!」

 

 

ジャンの一言でスナップブレードを構え直した彼女はコニーを一瞥した。

ショックを受けて立ち直れていない彼を察して声をかけた。

 

 

「コニー!今やるべき事は分かってるでしょ!兵士なら守りたい物の為に最善を尽くしなさい!」

「…そうだよな!まずはこいつらを全部討伐しないといけないよな!」

「そうよ!ここで生き残れなければ真相は不明のままよ!」

 

 

皮肉にもその時に発言したライナーと同じ言葉でコニーは立ち直る事が出来た。

母親が生存している可能性が浮上してそれを確認する為にも生き残る想いが強いのもあった。

【守りたい物】と曖昧にしたのは、コニーは母親が巨人化したと考えているのもある。

だから生き残ってラガコ村で確認するまで死ぬな!…と言うしかなかった。

 

 

「来るぞ!!」

 

 

ジャンの警告を受けてフローラは双剣を全速力で駆けてくる巨人に向けて構えた。

旧市街地に出現した6体の巨人のせいで陣形が崩壊して総崩れとなってしまった。

さきほどまで同胞だった巨人を全て討伐した頃には、15体の巨人が旧市街地に侵入してきた。

 

 

「ようやく訓練の成果を果たせそうね!」

「だってよジャン?」

「全くお前らと来たら……まだ死ぬわけにはいかねぇな!」

 

 

フローラとコニーは、口を開いて走ってきている巨人を討伐する気満々である。

それを見たジャンは呆れてしまったが恐怖は何故か吹き飛んでいた。

彼はマルコの遺灰によって調査兵団に加入する事を覚悟したので後悔はしていない。

だが、未だに内地で妻を娶って優雅に暮らす夢は諦めていない!

何としても生き残る気持ちがジャンという青年を精神的に成長させていた。

 

 

「お前ら行くぞ!!」

 

 

ジャンの一言によって104期調査兵たちは先陣を切った奇行種と交戦を開始した!

後に【ユトピア区最終決戦】と呼ばれる戦争は、火蓋を切ったばかりだ。

この戦争は壁内勢力を大きく変化させる事となる。

そして勝っても負けても地獄への道しかないと知らずに彼らは必死に生き残ろうとした…。

 

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