進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
『惨殺してやる!!』
頭に思い浮かんだのはその一言だけであった。
本能か、第六感か、悪魔の
両親の仇である鎧の巨人ですら、そこまで殺し方には拘らなかった。
それと同時にここであの糞野郎と逢えた事をフローラは祈ってすら居ない神に感謝していた。
「投石による被害は甚大だ!精鋭班!獣の巨人の討伐に向かえ!」
駐屯兵団第一師団精鋭部隊のキッツ隊長の指示に誰もが同調した。
だが、【投石】と言う音速を越えている散弾を前に前進などできやしなかった。
岩の破片が地面に激突した衝撃で馬がパニックになり使いものにはならない。
それどころか、旧市街地が少しずつ破壊されており、身を守る障害物が無くなっていった。
「おいフローラ!なんとか投石を止められないのか!?」
「無理に決まってるでしょ!一旦下がって遠回りであいつを殺処分するしかないわ!」
「…殺処分?」
リヴァイ兵士長も精鋭班も投石のせいで獣の巨人に突撃する事ができない。
ジャン・キルシュタインは、建物を盾にしているフローラに状況の打開をお願いした。
返答は想定通りだったが、【殺処分】という単語に引っ掛かった。
女型の巨人や鎧の巨人など正体が判明してもフローラは、能力者をそこまで貶めていなかった。
そんな彼女が何故か獣の巨人に関しては、存在する事自体が罪のような感覚を彼に印象付けた。
「報告します!四足歩行の巨人が岩を運送しております!」
「だからどうした!?」
「いえ、巨人らしくない動きなので巨人化能力者だと思われます!」
「……そうか。まだ人類に敵対する巨人化能力者が居たか!!」
キッツ隊長は、部下の報告により遠くに居る四足歩行の巨人も能力者と理解した。
それだけだったら状況打開の鍵にはならない。
問題なのは、異様にその巨人が動けているという事だ。
投石する獣の巨人であるが、意外にもそこまで機動力が無いように思えた。
エレンの報告書に目を通している彼は、体力の消耗を避けて行動していると考えた。
『つまり、移動して投石はしてこないという事だ…!!』
固定砲台と化している獣の巨人であるが、ある一点を見落としていた。
この地は、豪雪地域の為、排水機能が充実していると同時に地下道が発展している事に!
つまり地下から部隊を展開させれば奇襲攻撃が可能であった。
さすがにユトピア区の壁内ほど地下道は充実していないが、それでも兵を移動させる事はできる。
「駐屯兵団第三師団は信煙弾を撃ちあげて分散して突撃せよ!」
「キッツ隊長!?」
「その隙に我が精鋭班が獣の巨人を叩く!できるだけ惹きつけよ!」
意訳すると「囮になって死んでくれ」という命令を受けた駐屯兵団第三師団。
トロスト区を除く3つの突出した城壁都市を守護する兵士たちに衝撃が奔った。
それでも獣の巨人という化け物を討伐できると断言できる勇気ある兵士など居ない。
時間を稼げば、勝手に巨人を討伐してくれるなどありがたいものはないだろう。
「俺がいくぞ!意見に賛同する者はついてこい!!」
「「「「ハッ!」」」」
この場に居る兵士は全員、壁内人類の為に心臓を捧げた身!
駐屯兵団第三師団の師団長であるパウル・エッテルが突撃を開始した。
彼を慕う部下達も賛同して分散しながら突撃を開始した。
しかし彼らは二度とユトピア区に生きて帰る事はなかった。
「ぐぎゃあああ!?」
「げぇごぁ!!?」
通常、人として発する事はない声がすぐに置いて行かれた者たちに聴こえてきた。
建物から出た瞬間、勇ましい彼らは投石の餌食となってしまった。
それでも、確信的な勝利を祈って後続部隊は突撃を開始した!
これには投石している獣の巨人も困惑した。
『えっ?マジで特攻するの?何考えてるんだあの馬鹿共!?』
お国の為に戦って死ねと言わんばかりに無謀にも突っ込んでくる特攻兵。
前衛が壊滅したというのに士気は衰えるどころかむしろ増していた。
そのせいか、独善的な思考を持つリーダーに他者に犠牲を強いる戦法が嫌いなジーク。
ムキになってしまい、第二波としてけしかけた巨人ごと投石で敵兵力を壊滅させた。
『ああ、すごいわね……あらゆる感情で自分が上書きされそうよ』
地上が大惨事になっている間、フローラはライリーを地下道で走らせていた。
誘導灯どころか松明も無しに暗闇の道を全速力で駆け抜けていく。
怨嗟、後悔、憤怒、憎悪、絶望、あらゆる負の感情が“声”として聴こえてくる。
その中で【獣の巨人】の能力者の声を聴き取って口角を釣り上げながら走らせた。
「ふふふ、やっと殺せるわ…今度は死に様を見届けなくてわね…」
ライリーは自称主人が激怒しているのに気付いていた。
いつもならフローラをわがままで困らせる馬も冷酷な悪魔と化した女には順応である。
「音が聴こえるわ…風の音が…出口はすぐそこに…」
地下道に進んだ精鋭班は、獣の巨人に奇襲攻撃する事ができなかった。
まず、目標の位置が分からないというのもあったが、地下道を馬で走らせるのが無理だった。
なにより問題点があった。
「リコ班長!暗すぎて前進できません!」
「仕方がない…速度を落とす!」
前方が暗すぎて馬を走らせる兵士は慎重に移動するしかなかった。
松明などで照らせばすぐに中毒になるし、角灯では一部しか見えない。
いくら精鋭兵といえども暗闇の中で馬を走らせる蛮勇さはなかった。
『突撃!!』
一方、頭進撃に真っ暗な地下道など関係なかった。
ウォール・ローゼ壁内で明かり無しで馬を走らせていた馬鹿女。
微かな空気の振動と風の音を聴き取って最適なルートを割り出していた。
馬は夜目が利くがそれ以上に聴覚と触覚で地下道を把握している。
皮肉にも常人では自殺行為に見える経験が彼女の力となっていた。
『……ふふふ!』
地下道を抜け出したフローラが見たもの。
それは、獣の巨人が駐屯兵をいたぶっている場面であった。
相変わらずニャンコとワンコを汚いおっさんで人体錬成したような巨体。
まだその辺に居る奇行種の巨人の方が可愛げがあるというものだ。
この光景を目撃したフローラの怒りのボルテージは限界突破した!
〈ハハッ!やっぱ、こいつらは馬鹿だ。悪魔と言われているがこんなもんだ〉
ジーク・イェーガーが不運だったのは、トラウマを刺激されて思考が鈍ったことだ。
そのせいか、圧倒的な力で駐屯兵をいたぶって気を晴らしていた。
「愉しそうね?」
〈もちろんだとも!俺の尊厳を踏み躙った報いさ!〉
「無力な赤の他人をいたぶって鬱憤を晴らしているのですか?」
〈ピークちゃん!これは必要な犠牲なんだよ!だって…!?〉
過去にフローラが口先三寸でジークのトラウマを見事に踏み抜いた。
今回は、ジークが地雷原でステップダンスをやって見事に地雷を全て踏み抜いた。
「そうですか!じゃあ、わたくしも彼の無念を貴方で晴らしても良いですよね…!!」
絶望のまま、死んでいった名も知らぬ駐屯兵。
それはとても悲しい事ではあるが、彼が作ってくれた時間に感謝した。
そして双剣を構えて心臓を捧げた彼の冥福を祈ると同時に獣の巨人に刃を向けた!
〈げぇ!!〉
「あの時ほどわたくしは優しくないわよ?覚悟なさい!」
ジークは前回にあったトラウマを刺激されると同時にライリーは全速力で逃げ出した!
決して“彼女”は振り向かなかった。
そうでもしないとフローラを乗せる事自体が恐怖になりかねないからだ。
「絶望を知って死になさい!」
そう告げた死刑執行人は、フレイムソードジュニアを構えた。
まだ着火する気は無いのでジークから見ればただの双剣しか見えなかった。
〈お前が死ね!!〉
獣の巨人としてもここに来た以上、悪魔と交戦する覚悟はあった。
だからこそ、馬鹿女が奇襲の利点を潰して喋り出したので速攻で攻撃した。
〈ははは、どうだ!?〉
うなじを硬質化でガードして両手で地面を叩きつけた巨人は油断していなかった。
両手を地面に叩きつけた後、わざと横になって転がり回った。
これならワイヤーを撃ち込む隙は無いし、なにより回避しようがない。
傍から見れば駄々をこねている子供の様に見えるが、防御では有効である。
『さて、どうなった!?』
思う存分、転がり回った獣の巨人は満足して立ち上がると一面が廃墟と化していた。
平原の佇む小屋は巨体で粉砕されて草原は潰されて臼のようになぎ倒されていた。
『なんだ、意外と呆気ないな…』
獣の巨人は必死に悪魔の死体を探すが見つかることは無かった。
代わりに悪魔が乗っていた赤い体毛の馬を見つけた。
ジークはあの馬に全力で蹴られた事があり、復讐対象の1つである。
〈あいつもあの世に送ってやるか!……ん?〉
ジークはそう思って、投石しようと準備に取り掛かったが違和感を覚えた。
巨人体の口から黒煙が噴出していたからだ。
そして何事かと確認しようとした瞬間、爆発音とともに彼の脳内が揺れた。
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『ふふふ!』
あえてフローラは獣の巨人に話しかけて自身の存在を気付かせた。
奇襲の利点を潰していたが、短期決戦で獣の巨人を討伐できるとは思っていなかった。
だから今回は巨人の中で大暴れをした!
『逆転の発想…何か嫌だけど…』
獣の巨人は口を開けたまま、両手で潰そうとした瞬間、彼女は口内に飛び込んだ。
かつては世界一美味しいお肉と自称した女は、ある意味本来の目的を達成したともいえる。
人体だったらすぐに噛まれて御臨床する羽目となるが、獣の巨人は特殊な口腔であった。
全て鋭利な歯で構成されており、丸呑みを想定しているのか噛み締めるという機能が無い。
そのせいか、お肉を効率よく飲む為に大きな空洞があるので、彼女は生き残る事が出来た。
『巨人の口内ってこんなに臭いのね』
アンカーのおかげで歯にぶら下がっているフローラは、口内の匂いで顔を顰めた。
そしてジークが喋る度に全身が揺れて吐き気を必死に我慢する羽目となった。
『気持ち悪い…』
更に獣の巨人が地面に転がったせいで全身がフラフラになっていた。
幸いにもこれ以上に酷い事故など何度もやらかしたので特に問題は無かった。
『今がチャンスね!!』
だからといって時間を無駄にするわけにはいかず着火装置に点火した。
その瞬間、低温で発火する赤熱結晶が激しく燃え上がり刃を炎で包んでいく。
それは巨人を断罪する業火のようであった。
『汚物は消毒しなきゃ!!』
頻繁に動く舌に…そして噛まれないように注意しながら歯茎を焼く!
唾液で燃えにくいとはいえ、人肉である以上、当て続ければ勝手に引火した。
『ああ、熱い!もっと焼かないと!!』
引火するガスを使用している為、前回の様にいつ火達磨になっても可笑しくなかった。
それでも彼女はガソリンが入った火炎瓶を手に取って奥歯に投擲して外へ飛び降りた。
歯に激突した瓶が割れて元々高温だった口内で気化したガソリンは爆発した。
「…さすがに中からの攻撃は弱いのね」
顎より下は人体の構造上、視覚外である。
故に獣の巨人はお肉が口腔から逃げたのに気付かないし把握できるわけが無かった。
ジークは爆発の衝撃で何が起こったのか把握できていない。
爆発の衝撃でうなじの硬質化が解かれているのを発見したフローラは笑みを浮かべた。
「その刃はあげるわ」
燃え上がる刃をうなじに突き刺して彼女は颯爽と離脱した。
乾いた毛が燃え上がり突き破った肉は更に加熱していく。
仰向けに倒れ込む獣の巨人に巻き込まれないように着地した彼女は刃を換装した。
すると獣の巨人が動こうと何か足掻いていたが微動しかしなかった。
『ぎゃあああああ!?燃えてるううううう!?』
ジークは気が付いたら本体が居る空間が燃えていた。
さすがに自身の肉体を丸焼きされたら死ぬしかない。
脱出するにも仰向けで身動きが取れないのに気付いた。
『…駄目だぁ!?』
巨体を動かそうとするが、巨人の脳を損傷したのか体勢を変える事ができなかった。
そのせいで、巨人化を解除するしか火から逃げる手段がなかった。
自身に繋がっている肉の筋を切り離して脱出を図るジーク。
すぐに空間が潰れて彼は巨人の肉や骨で潰されそうになった。
『俺は…まだ死ねないんだあああああ!!』
イェーガー家特有のド根性と必死な足掻きで空洞を這いずりながら出口を目指した。
彼にとって幸いだったのは、巨人の骨が意外と頑丈で自身を守ってくれた事だ。
「うおおおおおおおっ!」
しかし、彼にとって不運な事もあった。
「またお逢いましたね!」
「…えっ!?」
脱出した地点にフローラが臨戦状態で待機していたからだ。
呆気にとられる彼に向かって悪魔は哀れな糞野郎に双剣を顔面に叩きつけた。
「ぎゃああああああごほっ!?」
1本の刃はジークの前頭骨を粉砕し、もう片方は右目の眼球を潰した!
条件反射で両手で顔を覆ったせいで動きが止まり下半身が巨体に押し潰された。
内臓を圧迫され吐血しようとするが舌を噛んで逆流して胃の中に戻っていった。
「これで終わりよ!!」
首を刎ねて心臓を潰して脳を粉砕する!
前回で討ち取り損なったせいでこうなった以上、フローラは即座に彼を殺すつもりだった。
『こいつを殺したところで、心臓を捧げた同胞は報われない』とどこかで思っている。
ただ殺せば、これ以上の犠牲者を出さずに済むのでもう一度、双剣を構え直した!
『本当に良いの?』
「えっ?」
誰かが耳元で囁いた。
少なくとも男ではない。
怒りによる幻聴?第六感?神託?自分の内なる想い?
フローラには理解できなかった。
ただ【悪魔】が耳元で囁いた。
「簡単に死なせたら死んでいった者達の心臓を捧げた価値に釣り合わない」と!
「…外した!?」
「ごぼっ!?」
怒りで判断力が鈍ったのか、ひげもじゃの能力者の左腕を両断した!
もう一度構え直そうとするが、それ以上に感情が爆発しそうで過呼吸で苦しくなった。
気を晴らそうとするが鼓動は高まっており、戦場であるにも関わらず私情を優先した。
そして気が付いたら男の口内に左手を突っ込んでおり、舌を引っ張っていた。
『何をしているの…』
頭ではさっさと殺すべきだと思っているのに身体が勝手に動いていた。
生物が無意識に呼吸しているようにフローラは彼の舌を刃で切り取って近くの草原に投げ捨てた。
その時にさきほどまで生きていた駐屯兵の死体を見つけた。
『痛いいいいい!!死にたくないいいいい!!やだあああああ!!』
駐屯兵から発せられた絶望の感情は、しっかりとフローラに届いていた。
そのせいだろうか。
犠牲者の苦しみの分だけこの糞野郎に負債を返済してもらおうと思考してしまったのは…。
「弾は…装填済みね」
近くにあったライフル銃の状況を確認した悪魔は、哀れな男を見る。
残された右手で窒息しないように舌を必死に抑えていた。
獣の巨人体は大半が塵と化しており彼を抑えつける物は何もない。
顔から蒸気を噴き出しており、必死に肉体を再生しようとしているのは分かる。
ここでフローラは1つ疑問に思った。
『異物を体内に入れたまま肉体が再生したらどうなるの?』
疑問に思ったら、とりあえず試して見るのが彼女の性分である。
邪魔になりそうな刃を彼の脇腹に刺して操作装置を自分の脇のホルスターに仕舞った。
まるで吸い込まれる様に駐屯兵の死体に近寄った彼女は物色を始めた。
弾倉から数発、小道具を手に取って逃げようと足掻く弱者に向かう。
「おりゃ!」
「ぐぼ!?」
動き回っているとはいえ固定されていれば目を閉じても当たるというものだ。
発砲音と共に見事に巨人化能力者の腹に散弾を撃ち込む事に成功した。
獣の巨人の能力者のせいで気分が悪いフローラは更に銃身に弾を込めた。
「痛いの?わたくしたちはもっと痛かったわよ?」
次は異臭を放っている男の股間に銃口を向けた。
残された左目からは涙と共に「やめて欲しい」という意志が読み取れた。
しかし、負の感情を感知できるフローラにとってはどうでもいい足掻きだった。
発砲音と共に股間に散弾が撃ち込まれて粗末な物が悲惨な事になった。
男女と共に急所である股間に大打撃を受けたジークは気を失ったようで動かなくなった。
この一撃が後にとんでもない後遺症を残す事になるが、フローラは思った事がある。
「なんで…寝てるのよ!!」
悪夢ですら生温い現実から逃亡する男にフローラは感情を爆発させた。
ライフル銃を地面に置いて突き刺した刃を換装し直して構える!
巨人が近くに居ないのを改めて確認した彼女はジークの腹に向かって刃を振り下ろした!
高熱の血と内臓が彼女の身体を汚したが眉を微動させずに何度も振り下ろす!
「ぐごっ!ほごっ!おぎっ!いぎっ!」
「まだ寝ないでよ。安息の眠りはまだ先に!して!ちょうだい!」
刃を叩きつける初撃は無防備な腹に大きな傷跡を残した!
第二撃目は、肋骨を粉砕し折れた骨が内臓に突き刺さった!
第三撃目は、傷口を広げて肉体の再生能力を追い付かなく様にした。
第四撃目は、あまりの衝撃のせいで、広がった傷口から小腸が零れ落ちて来た。
「熱っ!?」
戦利品の小腸を左手で掴もうとしたが熱くて手を放すフローラ。
それが更に火に油を注いだのか、今度は両手で腸を掴んで我慢して引っ張った!
さすがにこんな事をされれば起きないわけがなくジークは現実に戻って来た。
『痛いいいいいい!!』
そして視界に入ったのは、安らかな笑みを浮かべて自分の腸を引っ張っている悪魔だった。
夢だと思いたくても、感触で夢でないのを無駄に頑丈な肉体が脳に知らせて来る。
この時、ジークはこの世に誕生したのを本気で後悔した。
これは後に自身が思い浮かべた【エルディア人安楽死計画】に大きな影響を与えた。
「まだよ!ゲルガーさんやナナバさんが味わった苦しみはこんなものじゃないわ!」
弾力があるように見えて意外と硬い感触に驚きながら腸を引き千切ってみせた。
そしてフローラは、傷口から排泄物を溢す腸をジークに噛ませた。
痛みと絶望で動けない彼はただ自身の腸を熱さを唇と舌で感じる羽目になった。
温もりと言えない高熱を腸を彼は強く顎を強打されて嚙みきった。
「~~~~!!」
「はいプレゼント!」
彼はまだ死ぬことはできなかった。
巨人化能力者である以上、脳を損傷しない限り死に事は無い。
そんな事を見越してか、再生中の右目の眼窩にライフル銃を突き刺された。
「これはさっき投石で潰された兵士たちの分よ!」
フローラは喋りながら発砲したせいで銃口がズレてしまい散弾が脳に届く事は無かった。
だが、それは急所を外しただけでジークを更に苦しめる事になった。
『なんでこんな事をしているのかしら…』
フローラ自身、やりすぎたと思っている。
さっさとこいつを殺してユトピア区壁内に湧いた巨人を掃討するべきである。
まだ鎧の巨人や超大型巨人が残っているのだから。
何度も殺そうとしているのに重傷者を無駄に苦痛を与えているだけだ。
これではこいつと同類でどうしようもないじゃないかと…思っても無意識にやっていた。
「もっと!股間を切り取って眼窩に埋め込んで…」と悪魔が耳元で囁いている。
フローラは自身の身体が自分でコントロールできなくなっていた。
幸いにもまだ味方にこの行為を発見されていないが、時間の問題だった。
地下道の入り口付近に精鋭班の“声”が聴こえてきている。
獣の巨人が倒れて15分も経過していないが長い悪夢を見て来た気がした。
「ねえ、少しだけ特別な力があるって思いあがった糞野郎さん。兵士をいたぶるのは愉しかった?実際にわたくしもやってみてるけど空しいだけよ?でもあなたに苦痛を与えるほどに死んでいった兵士が報われている気がするの!あなたがどういう人生だったのか知らないけどねぇ、こうやってわたくしに一方的に蹂躙される人生だったのよ!」
さっさと殺せばいいのにフローラは未だにどんどん彼を苦しめる方法が頭に浮かんだ。
誰の入れ知恵か、知識か、経験か、憎悪が愛情に転換する様に純真無垢な笑みを浮かべている。
「次は五感を1つずつ潰していくわ!最初は視力を奪ったから次は聴覚を奪うわ。やめて欲しい?でもあなたは地面に転げ回っていた兵士の命乞いを聴かなかったじゃない。なのに何でわたくしがそれを守らないといけないわけ?」
彼の負の感情を読める彼女は、悪魔のように拷問されている理由を告げた。
未だにジークは右手で斬られて短くなった舌を喉の奥に落ちないように抑えている。
あえてフローラはその行動を見逃していた。
それは優しさではなく窒息したら意識を失って思う存分、苦痛を味わう事ができないからだ。
「~~~~!」
「ほら!人の言葉を聴かない耳を刈りとったわ!次は鼻ですよ。あなたは口呼吸で充分でしょう。こんなに臭いのに何もしない糞野郎!」
哀れなひげもじゃ野郎の鼻を何度も蹴りつけ再び刃を操作装置に取り付けて斬りつけた!
無残に潰された鼻を見ても彼女が感じている乾きは収まる事は無かった。
段々、芸術作品を造り上げていると錯覚するほど念入りに能力者を虐めていた。
『これが【芸術】?ありえないわ!』
寂しくなったミカサがエレンに抱き着く方がよっぽど芸術である。
絵画に残して後世に伝えてもいい。
ジャンは嫉妬するが芸術というのはそういうものだと思っている。
それでもやたらと悪魔が自分に指図してきた。
我が道を行くフローラにとってとてつもない苦痛を与えている悪魔にも怒りを向けた。
そしてようやく気付いた。
『自分が自分に囁いて居るの!?』
甘い言葉で更なる惨状をもたらすように囁いてくる声の正体が自分である事に!
復讐に囚われ過ぎて精神が分裂している感覚だった。
不俱戴天のライナー・ブラウンと同じような精神状況となっている。
それは、彼女にとって精神的苦痛を味わせた!
「なんで手を休めてるの?」と自分が囁いてくる。
「煩い!黙れ!」と反論したいが既に髭もじゃの頭蓋骨を無意識に割っていた。
これ以上苦しませずに殺すべきと脳を枝で弄る拷問をするべきと対立している。
『『邪魔しないで!!』』
ついに彼女は自分と喧嘩している有様だった。
更に味方は屍の山を築いており、悲惨な惨状が更に悪化を辿っている。
刻一刻と戦死者が増えていくのに自分は自身の精神と戦う羽目になった。
そのせいなのか。
新たな巨人化能力者の接近に気付かなかった。
『戦士長!?』
女の声がしたと思った瞬間、無意識にその場から離れた。
瞬く間に背中に荷台を乗せている四足歩行の巨人が彼を咥えて去っていく。
そんな事などさせるわけはなくアンカーを首に打ち込んで彼女はワイヤーを巻き取った!
加速して双剣を構えて首を刎ねようとしたが、ジークの返り血で手元が滑った!
「あああああああああああ!?」
フローラは後悔した。
四足歩行の巨人の右目を潰し右耳を抉り取るしかできなかった。
ならば、うなじを削ごうとしたが返り血のせいで手元が滑って操作を誤った。
両方ともアンカーを外してしまい、再度打ち込もうとしたが更にミスを犯した。
アンカーの打ち込む角度調整を忘れて巨体にアンカーを打ち込めなかったからだ。
このままでは、あの髭もじゃを取り逃がしてしまうだろう。
「ライリー!!」
フローラは相棒を呼びつけようとしたが…すぐには来なかった。
なんか主人が激怒していて自分が出る幕じゃないな…と離れていた。
そのせいで、名を呼ばれてもライリーはすぐに反応できなかった。
元々調査兵団の馬と対極的な性格である汗血馬の“彼女”は臆病である。
凄惨な行為を生き生きとする主人が怖すぎて呼ばれても寄るのを躊躇わさせた。
「フローラ大丈夫か!?それに獣の巨人は!?」
「能力者を巨体から引き摺り降ろしましたが…逃げられました!!」
「血塗れだが何があったんだ!?」
「能力者に致命傷を与えた時の返り血です!早く四足歩行の巨人を追ってください!」
リコ班長に話しかけられたフローラはただ正直に白状するしかなかった。
ただ、さきほどの蛮行に関しては黙るしかなかった。
顔馴染みの精鋭班の兵士の馬を強奪して追おうとする事を考えるほど余裕がなかった。
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『思ったより強い!!』
ピーク・フィンガーは糞野郎を咥えて必死に逃亡するしかなかった。
背後からの奇襲したのに即座に右目を潰されるとは思わなかった。
相当敵が動揺していたのか、すぐに追ってこなかったのが幸いだった。
「っ!」
ジーク・イェーガーの身体は限界だ。
無垢の巨人と違って肉体再生能力は限度がある。
すぐに手当てして…もしかしたら助かる可能性が否定できないほどの惨状だった。
『やはり悪魔の末裔…油断できない相手!』
元々車力の巨人は持久性特化であり、戦闘向きではない巨人である。
砲兵を乗せていればまた違ったのだろうが、さっきの結果だと悪化すると思った。
それほど、敵の落ち度が無かったら2人とも殺されていた。
『壁内から爆発…このタイミングで!?』
超大型巨人が出現したのを確認した車力の巨人。
しかし、早急な治療を施さないと戦士長が死ぬせいで戦線離脱するしかなかった。
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「このタイミングで!?」
ライリーに騎乗したフローラは精鋭班と共に四足歩行の巨人を追撃しようとした。
その瞬間、ユトピア区壁内で爆発音と閃光が発生して瓦礫が宙を舞ったのを目撃した。
あの中には兵士だった物も含まれているのは間違いない。
「フローラ!一度ユトピア区壁内に戻るぞ!!」
トロスト区奪還作戦から知り合いであるホークマン先輩からそう告げれた。
現状を考えれば、追撃を諦めて帰還するべきである。
ただあの四足歩行の巨人が「戦士長」と言ってたので糞野郎が大物なのは間違いない。
ここで追撃して討ち取れば、今後投石どころか、巨人の侵攻が無くなる可能性がある。
『でもあそこには…』
壁内に居る兵士たちからの負の感情で、出現したのは超大型巨人で間違いない。
更に鎧の巨人がどこかに潜んでいる。
シガンシナ区のように正門と内扉を破壊される可能性がある。
それは想定内だが、更に壁内には無数の巨人が居る。
『あれは単独でも勝てる自信はあるけど…』
精鋭班に先行して帰還してもらい自分は追撃で掃討後、帰還する。
普段の彼女だったらそう判断したのだろうが、今回は違った。
「分かりました!一度ユトピア区壁内に帰還しますわ!!」
フローラは…あの獣の巨人の能力者と逢うのを拒否した。
あいつと逢う度に精神が狂わされるので一旦、気持ちを切り替える事にした。
戦術的勝利をしてもウォール・ローゼが突破されるという戦略的敗北はできない。
そう心に言い聞かせて彼女は正門に向けてライリーを走らせた。
「なんか…あったみたいだな」
「そりゃあ、あの獣の巨人を逃がせば落ち込むだろう」
「それにしてもあの子らしくないね…」
精鋭班はフローラがあっさり追撃を諦めたのに驚愕したがすぐに並走した。
もう投石の脅威が無い以上、壁外に居る部隊の全滅は免れた。
駐屯兵団第一師団精鋭部隊は、それを防ぐ為にここに来ている。
獣の巨人が脅威ではなくなった以上、引き続き巨人の掃討を担当する。
『復讐に囚われて身を亡ぼすとは言うけど…』
獣の巨人が連れて来た巨人の大群は投石に大半が巻き込まれていた。
そのおかげで何とか全員が無事に帰路に着く事ができた。
地下道ではなく地上なのは、壁内と地下道が繋がっていないからだ。
『もう…わたくしは限界みたいね…』
復讐鬼は、現実を知り少しずつ悪魔によって精神が蝕まれている。
今はいつものフローラで保っているが、いつ破綻してもおかしくない。
この辺りからフローラ・エリクシアは【死】という安らぎを渇望する事になった。