進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
敵味方から【驚異の子】と畏怖されるジーク・イェーガー。
そんな彼は悪魔と揶揄される事があったが、本物のエルディアの悪魔には勝てなかった。
一方的に暴力と悪意と殺意に晒されて失禁して大便を漏らすどころか、腸が腹から零れている頃。
「妙だ…」
「気のせいじゃないのか。ベルトルト、お前は考え過ぎなんだよ」
同胞、アニ・レオンハート奪還に向けてユトピア区壁内に侵入している者たちが居る。
ライナー・ブラウンとベルトルト・フーバーは、ただ彼女を助けたい一心でここまで来ている。
ユトピア区の地下道を利用して彼女が保管されているとされる場所まで侵入していた。
「…守備隊の戦力が手薄過ぎる」
「一応道中には見張りが居たからそれで充分だと思ったんだろう。今は緊急時だしな」
「だといいけど…」
ベルトルト・フーバーが懸念したのは仕方がないだろう。
地上の通りは警備が万全だったので、地下道を利用した結果、敵と遭遇しなかった。
厳密には敵兵は居たものの、壁内に沸いた巨人に対応するべく部隊が移動していただけだ。
そして交戦する事も無くあっさりと兵団支部の建物の地下まで来ていた。
「よしここだ。この程度なら解錠できる…ベルトルト、後方を見張っててくれ」
「分かった」
工業地帯のユトピア区は迷路のように地下道が張り巡らされている。
無計画に地下街を作ろうとした王都やストヘス区と違って計算ずくで建築されていた。
雪解け水を工業用水に使用したり、豪雪地域の為、暖房用のパイプが張り巡らされている。
故に増築が難しく兵団支部の地下は、無理やり地下道の施設と繋げた形となっていた。
「よし、空いた。準備は良いかベルトルト?」
「……いいよ」
警告マークが描かれた札が取り付けられている鉄格子のフェンスを開いていく2人。
彼らの脳内では、ここを選定する思い出が走馬灯のように流れていた。
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今日までの潜入捜査で手に入れた地図を角灯で照らして必死にルート選定をしていた。
藁にも縋る気持ちで与太話も取り入れてアニの居場所を必死に導き出した。
結局、噂通り、兵団支部の建物の地下に安置されているのが一番、信憑性があった。
『お前ら、落ち着けよ。明らかに罠だぞ?そんな機密情報が一般兵が噂される事ないだろう!』
ジークからすれば、2人が立案したアニ奪還作戦に疑問に思っていた。
緘口令が敷かれているはずなのに情報が一般兵から洩れている。
一昔前であったら時代遅れの連中だと思っていたが【エルディアの悪魔】に分からされた男。
先見の明で絶対碌な事が起こらないと警告したが彼らは受け入れなかった。
「……誰も居ないな」
ライナー・ブラウンは、アニが安置されているとされる部屋にゆっくりと侵入した。
二丁の拳銃を構えたベルトルトも後方を確認しながら彼の後を追う。
入室して目に入ったのは、僅かばかりに角灯で照らされているパイプや空調設備。
調べた通り、元は地下道の施設を兵団支部の地下室にしたようであった。
無理やり建築したのか、鉄杭に上から木板を打ち付けられた螺旋階段がある。
「出口は二カ所だけだね」
「ベルトルト、出口を抑えておけ。俺は辺りを詮索する」
そしてライナーは、暗闇の中で僅かに見える布で覆われた物体を発見した。
彼は呼吸を整えてから罠が無い事を確認するとその布を引っぺがした。
『『アニ!!』』
そこには、固定ベルトで拘束されている大きな結晶体があった。
同じ戦士であり、同期であるアニ・レオンハートは結晶の中に閉じ込められていた。
硬質化のせいか、身体の機能は完全に停止しているのか微動もしない。
生きているのか死んでいるのか。
判断はできないが、少なくとも彼らは前者を信じている!
「クソ!拷問されたようには見えんが、よっぽど追い詰められたみたいだな」
ライナーはすぐにアニの結晶体から拘束しているベルトを外そうとした。
しかし、それは相棒に止められる事となった。
「やっぱり何か可笑しいよ。何で見張りが1人も居ないんだ?」
「地上の巨人に気を取られているからか」
「違う…何か音がする……これは」
ベルトルトが退路を確保しようと侵入してきた出口に向かおうとした瞬間!
突然、石壁が落下し地下から侵入してきた出口を封鎖された。
それと同時に地上に出る出口も石壁で封鎖されて完全な密室になった。
ベルトルトはすぐに地上に向かおうと階段を登ったが手遅れだった。
「隔壁を全て降ろしました!」
「ガスを放て!!」
地下室に巨人化能力者が侵入したのを確認した駐屯兵は隔壁を降ろした。
ベルトルトの危惧した通り、敵を一網打尽にする罠であった。
彼の予想と違ったのは、有毒ガスで巨人化能力者を仕留めるという事である。
『エレン・イェーガーの例を見れば他の能力者も身体的には大差ないだろう』
総指揮官のエルティアナは、巨人化能力者について分析をしていた。
結論から言うと、巨人化能力以外は通常の人間と違わないと事を見つけた。
怪我すれば出血するし、食事も睡眠も必要とし、何より限界がある。
そこで彼女がやったのは、火山から発せられる有毒ガスで仕留めるという事だ。
『しかし、兵団支部の地下にガスを流すなど上層部が知れば何と言われるか…』
『別に良いじゃない。真っ向勝負に挑んで巨人化で吹き飛ばれるくらいなら』
ユトピア区でアニが巨人化した時の余波で拘束を狙った調査兵が壊滅した。
つまり、巨人化能力者はいつ爆発しても可笑しくない爆弾という事だ。
ならば、迂闊に巨人化できない地下に誘導してガスで仕留める作戦を彼女は選定した。
ここに勤務する駐屯兵からすれば、今後職場で中毒死する可能性がある事を懸念している。
『元々、火山に近いせいで地下道が頻繁に封鎖されているのだろう?別に良いじゃない』
人類活動領域最北端のユトピア区では、温泉が名物である。
それと同時に地殻からガスが漏れ出す事が多く中毒死する者が後を断たない。
特に冬場は密室の暖房による中毒死を相まって死者が異様に多かった。
エルティアナからすれば、使えない建物などいつでも放棄すれば良いという考えである。
「畜生!嵌められた!!ここじゃ巨人化できん!!うっ!?」
「ライナーまず、地図を確認…!ライナー?」
ライナーが巨人化すれば天井にある建物全体が崩落して最悪、生き埋めとなる。
超大型巨人なら脱出できるがそれだとアニが瓦礫の下敷きとなる。
巨人化の特性上、誰かを抱き抱えてできる事ではないし、だからといって放置はできない。
更に最悪な事にライナーはガスのせいで呼吸できなくなって倒れ込んだ。
『人間とは何とも脆い。気が付いた時にはお陀仏ってわけ』
『ですが、その戦術だと二度と地下道が使用できなくなります!』
『勝手に奴らが巨人化して通気口を開けてくれるよ。そこまで危惧する事は無い』
『では何故!?』
エルティアナは元からこの計画で巨人化能力者を仕留められると思っていない。
むしろ、狙いは巨人化してもらうという点であった。
エレンの件で壁の外でうろつく巨人と違って巨人化には限界があると判明した。
特に超大型巨人の活動時間は過去の例から長く無いと分かっている。
『奴らを巨人化させて活動時間を削れば、こっちにも勝機はある』
守備兵が恐れているのは、ユトピア区の正門と内扉が同時に破られる事である。
巨人化能力者に多大な損害を払って勝利しても、巨人が侵入されては意味が無い。
そこでユトピア区の中央部にある兵団支部の建物にアニを安置。
そこから奪還しようと動く巨人化能力者に巨人化してもらおうという算段だ。
『貴公らはこう思っているのだろう?逃げられはしないかと…』
部下達が不服なのは彼女自身が分かっていた。
敗北条件は、ウォール・ローゼに巨人が侵入される以外にもある。
アニを奪還されて壁外に逃亡を図られれば、本作戦は水の泡となる。
だから彼女は手を打った。
後は、彼らがどう動くかで作戦が変わる事となる。
彼女にとって誤算だったのは、思ったより彼らの中毒症状が進んでいたという事だった。
『ラ、ライナー…』
ベルトルトは意識が朦朧として倒れ込んだ相棒を見落とした。
隔壁が落ちて来た瞬間、地上の出口を目指して螺旋階段を駆け上がった彼はまだ動けた。
だが、拘束しているベルトを外そうとしたライナーは上に逃げるのが遅れて中毒で倒れた。
ライナーは首元を抑え込んで苦しむ事すらできずにただ痙攣するしかできない。
放置すれば死に至るどころかベルトルトも中毒で動けなくなるだろう。
『ど、どうすれば…』
気を失ったライナーは超大型巨人の爆風には耐え切れないだろう。
だからといって中途半端で巨人化すれば瓦礫で生き埋めになる。
『何か手は…』
エルティアナは既に兵団支部の建物を警護している守備兵を事実上捨て駒にしていた。
さすがに事情を説明してガスを投入したら避難する算段という事になっている。
それを達成する前に巨人化で避難できる前に守備兵が肉片になると予想していた。
現実は、巨人化能力者の身体能力を高く見積もり過ぎており、経験が浅いただの新兵でしかない。
『そういえば…』
ライナーを救出したいが、近づけば同じように倒れるのを危惧しているベルトルト。
彼は必死に解決策を模索している時に頭が吹っ飛んだ女の事を思い出した。
第57回壁外調査の後、ライナーやジャン、コニー、アルミンで訓練を頼み込んだ時の事を!
『これならいけるか』
まずベルトルトは、壁に左アンカーを打ち込んでしっかりと固定させた。
すぐに転落防止用の柵の隙間から右アンカーをライナーに定めた。
そして躊躇いも無く彼の肉体に向けてアンカーを射出した。
『よし、いけた』
感触を感じた瞬間、両手を手すりに掴んでワイヤーを巻き取った。
通常は、巨人に撃ち込む特性上、兵士は突っ込んでいくが今回は固定されている。
では、どうなるかというとライナーがこっちに向かって飛んでくるという事となった。
逆転の発想で、兵士が突撃するのではなくアンカーを突き刺した物を手元に持ってきた。
「ぐおっ!!」
ライナーが激突して思わず彼は意識を飛びそうになるが必死に耐えてみせた。
力任せで彼を担いで右アンカーを外して柵の内側に放り込んだ。
『これですぐには死なない』
フローラ・エリクシアという女は、昔からやたらとアンカーを打ち込み直す。
そのせいで、いつも負傷していて医務室送りされるのが日常茶飯事だった。
いつもアンカーで負傷する彼女の言い分は、「マスターすれば何でもできる」という事だった。
『おかえりライナー…』
最初は「何をやっているんだこの女」とベルトルトは思っていたが、面白い事に気付いた。
自分も含めて全員がアンカーを打ち込むのは、【巨人に討伐する事に必要な手段】と考えていた。
ところが、フローラだけは【移動の方向転換をする為の手段】と考えている。
『さて、どうしよう』
いろんな好条件のおかげで彼はガスに満ちたライナーを階段まで連れ戻す事が出来た。
もし、螺旋階段の真下にライナーが倒れていたら。
もし、吹き抜けがなく柵ではなく壁の階段だったら。
もし、第57回壁外調査の後にフローラとアンカーを打ち込む訓練をしていなかったら。
様々な好条件で一時的にライナーを安全地帯に移動させる事が出来た。
『アニの結晶体に賭けるか…』
危機的状況は大して変わっておらず、すぐにベルトルトの居る場所にもガスが来るだろう。
密室であり、降ろされた隔壁は巨人化以外で破壊できそうもない。
ところがライナーは気を失っている為、鎧の巨人で爆風を防ぐことはできない。
ではどうするのか。
ベルトルトが導き出したのはアニの結晶でライナーの盾にする事であった。
「ごめんライナー…」
せっかく救出した相棒を地上に降ろす為に抱えて立体機動に移った。
圧倒的な重量オーバーにも立体機動装置は見事に耐えてみせた。
これも無茶な機動で立体機動装置を破壊するフローラのおかげで強度が改善されたおかげだった。
ベルトルトはアニの結晶体の後ろにライナーを放り投げて、彼女の正面に移動した。
さきほど、ライナーが激突したおかげで負傷したのですぐにでも巨人化できる状況である。
『僕はみんなと故郷に帰るんだ!!』
彼は3人で故郷に帰るのを諦めずに覚悟を決めて巨人化した。
それと同時にユトピア区の兵団支部の建物付近が全て吹っ飛んだ。
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突如発生した閃光、広がるキノコ雲、全てを吹き飛ばす爆風。
苦痛に満ちた悲鳴すらも爆音は飲み込んで行き、ユトピア区壁内は大きく揺れた。
爆心地から逃げきれなかった兵は生きた証すら残さずこの世から抹消された。
こうなるように仕向けたとはいえ、エルティアナはその惨状を見て笑うしかなかった。
「報告!!兵団支部付近で大爆発です!!」
「予想以上に時間が懸かった。意外と無事に脱出できた兵が良そうね」
「は?」
部下からの報告を聴いても、特に慌てる事がなかったエルティアナ総隊長。
報告を他人事のように軽く聞き流して兵を適当に扱っているのを告げる女に困惑する部下。
爆発が止んだと同時に超大型巨人が出現した。
人類の敵、巨人の代表格、頭マーレの象徴、破壊の神、ただのでかい的。
超大型巨人には様々な異名があるがここでは、人類の敵以外になかった。
「超大型巨人がこちらを目指して進んできております!!」
「想定通り、内扉を破壊するつもりか…あの時とは逆ね」
情報通り、超大型巨人はゆっくりと、だが確かに前進して内扉へと向かって来る。
ウォール・ローゼとユトピア区の境を繋ぐ重要な扉。
シガンシナ区の内扉の責任者であったエルティアナには感慨深い事である。
845年、忌々しい鎧の巨人のせいで彼女の人生はそこで終わったと言っても過言ではない。
「すぐに部隊を展開させます!」
「…やらなくていい。私たちはそのまま傍観せよ」
「ですが!!」
「命令に従え」
「……ハッ!」
しかし、エルティアナは壁内を防衛している主力部隊を動かさなかった。
元から捨て駒であった部隊を除けば、大半の戦力は壁の縁に寄せて展開させている。
1万と言う兵力を満遍なく展開させなかったのは訳がある。
そうとも知らずに呑気に超大型巨人は、内扉へと進んで行く。
「超大型巨人の姿を捕捉!!」
「良し!撃ち込んでやれ!!」
それを待っていたのは、地下道を通じて展開済みであった工兵達である。
巨大樹の森やストヘス区で使用された『対特定目標拘束兵器』。
その改良版から矢じりが放たれて超大型巨人の両足首を貫いた!
それだけなら巨人が動くだけで蜘蛛の糸が切れるように振り払われるだけで終わるだろう。
「もっと撃ち込んでやれ!!」
超大型巨人にとって不運だったのは、壁内人類が手加減しなかったことだ。
実は、王政府は技術発展を妨げて文明レベルを130年以上前より劣化させていた。
その為、少しでも巨人を殲滅できそうな兵器ができる度に難癖を付けて潰して隠蔽してきた。
そもそも壁内人類の頂点である王家は、外部からの干渉を受け入れる気であった。
「まだこの世代で滅びるわけにはいかんのだ!!」
ところが王政府の上層部は、自分の世代で滅びるつもりは毛頭なかった。
緩やかな自滅、エルディア帝国の罪を償う王の思考には、王政を担う貴族は内心で嗤っていた。
145代フリッツ王もとい、初代レイス王の計画に貴族たちは賛同したが願望まで継承していない。
そのせいか、自分たちが滅びると知った彼らは、一時的に技術レベルの上限を引き上げた。
「撃て撃て!巨人化には制限時間がある!それまで時間を稼げ!!」
中央憲兵及び駐屯兵団第一師団精鋭部隊の砲兵班が砲撃を開始した!
女型の巨人の顔面を槍だらけにした『鉄杭射出装置』が超大型巨人の膝裏に猛威を振るう!
それと同時に鎧の巨人の装甲すらも貫きそうな迫撃砲の砲撃の雨を受ける羽目になった!
「いけます!いけますよ!!超大型巨人の野郎!身動き取れないどころか跪いています!!」
「中央憲兵め…!やはり兵器を隠し持っていたか」
「えっ…隊長殿?」
「…何でもない。引き続き鎧の巨人の動向に警戒せよ」
「ハッ!!」
中央憲兵の監視の元、隠し持っていた巨人を吹っ飛ばす迫撃砲を提供した。
砲兵の経験があるエルティアナは、どう見ても従来の迫撃砲ではないと感じている。
王政府の脅威となる兵器は、巨人用であっても火力制限があった。
「最新鋭の迫撃砲にしては、やけに古臭いな。実際そうなのだけど」
故に爆発音や精度、威力ですぐに【最新鋭】という名の【骨董品】を持ち出してきたのはすぐに分かった。
手軽に設置できる迫撃砲など厳しく制限されており、たった2種しか存在しないのを知っている!
訓練用と主要都市防衛用の砲しか存在しないからだ!
「姉さま!!壁内に沸いた巨人の半数を討伐しました!!」
「野砲、迫撃砲の間接支援の許可を下す!速やかに巨人を掃討しなさい!」
「イエス、姉さま!!」
「そこは、イエス・マムでいいのよ…そして身体を触らない!!」
「えー」
「えーじゃないの!!」
エルティアナの妹分のラナイ・マクロンは嬉しそうに私情で身体に手を触れながら返答をする。
それを見て彼女は、真剣に物事を考えていた自分が馬鹿らしくなってきた。
一番、そう感じるのはフローラのやらかしの尻拭いをしている時だ。
それでも忠実に任務をこなす部下には違いないので叱るだけで終わった。
『なんだ!?やたらと手強いぞ!?』
一方、超大型巨人を動かすベルトルト・フーバーは壁内人類の実力を甘く見ていた。
その結果、跪くどころか左腕を集中砲撃で飛ばされてうつ伏せに倒れる有様。
そんな無様で無防備のうなじを見逃すわけもなく砲兵たちは既に砲口を調整してきていた。
照準調整をしており、すぐにうなじに砲撃される事になるだろう。
『この……!!』
ベルトルトは蒸気を噴き出して元凶を全て吹っ飛ばすことにした。
両足を拘束していた『対特定目標拘束兵器』の矢じりを全て吹っ飛ばした。
しかしそれは、超大型巨人の活動時間を著しく短縮する諸刃の剣である。
「超大型巨人が蒸気を噴き出し始めました!!砲撃も通用しません!」
「ならば当分、動かないか。地下爆破の信煙弾の合図を出しなさい」
兵力の大半を地下道や地上から壁の縁に寄せていた一番の要因。
それは、蟻の巣のように張り巡らせた地下道を利用して爆破するからだ。
砲兵には予め爆破ポイントを伝達しており、巻き込まれる可能性を減らしている。
「お待ちください!2個班が超大型巨人と交戦しております」
「私は、待機と厳命した。それを守れぬ者など構ってられない」
血気盛んで士気がある兵士なのだろうか。
自己判断で超大型巨人と交戦している若き兵士達。
実に勇敢で、仲間思いで、人間として立派な志をもつ兵士。
だが、ここでは蛮勇でしかなく、哀れな彼らは無情にも味方に爆散させられる羽目になった。
「……爆破成功しました。足元を崩された超大型巨人は前のめりに倒れました」
「展開していた兵はどうした?」
「全滅しました。少なくとも動く気配はありません」
「そう…彼らは壁外の前線に送っておくべきだった」
単眼鏡で爆破の瞬間を目撃した総責任者は、ただ彼らの冥福を祈るしかなかった。
それと同時にどこかに潜伏している鎧の巨人に警戒している。
もしかしたら女型の巨人の能力者を抱えて逃亡しているのかもしれない。
「どちらへ?」
「異様に静かになった正門へと向かう。ラナイも来なさい」
「はい!お姉さま!!」
現在判明している人類に敵対的な巨人化能力者は4名。
1名は捕らえており、もう1名はそこで転倒している。
そして残りは壁外に居る獣の巨人と、行方不明の鎧の巨人。
だが、ユミルという少女など不確定要素の存在の他にまだスパイがいる可能性がある。
悲観主義者なエルティアナは、正門をスパイに開門されるのを危惧して向かう事にした。
負傷兵を壁内で治療したい
兵站の装備を前線に送りたい
伝令を送りたい
もっともらしい建前でスパイに動かれるほど苛立たしい事は無い。
特に憲兵に扮して行動されれば、同格以上の存在が無ければ無理難題が通る危うさがある。
「お待ちください!ここは貴女が責任者です!何かあったらどう動けばいいのですか!?」
「この場における開門の責任者はこの私。ならばそこに向かうべきだと思わないか?」
「仰る通りです!」
「内扉の責任者は貴公に命じる。私の許可無く内扉を開けるのを一切、禁じる。良いな?」
「ハッ!!」
ピクシス司令が最高司令官であるならば、エルティアナは最高指揮官である。
常に変動する戦況を読み取り、王政の望む【勝利】の2文字を達成しなければならない。
人情で敵性スパイを手助けさせないように殺人をしてでも止めてみせる。
それが3つの兵団の上に居る自分の役割と彼女は自負している。
「よろしかったんですか?野心しかないあいつに任せちゃうなんて…」
「あれは、出世して椅子に踏ん反り返っている方が無害だからあれで良いのよ」
ザックレー総統は、総統局でも異質の存在で、彼の配下は一握りしかいない。
エルティアナの部下の大半は、スパイか、野心家か、経歴が欲しい貴族しかいなかった。
だからこそ、その中で建前上とはいえ、トップであるザックレー総統の異質さが目立つ。
そんな彼に忠誠を誓っている彼女もまた、孤児出身の異質の存在である。
さきほどの部下とのやり取りも総統や自分を失脚させようとする【敵】との攻防であった。
『ああ、鬱陶しい。だから総統局の人間を極力避けていたのに』
彼女も権力闘争に巻き込まれており、人類滅亡の危機にも関わらず足の引っ張りをする。
そんな醜い人間の性を嫌でも思い知っており、その点、巨人の相手は楽とも言えた。
「姉さま!光が視え「伏せろ!!」ま!?」
ラナイが光を目撃した瞬間、尊敬するエルティアナに地面へと身体を押し付けられた。
超大型巨人とは比べ物にならない爆発が直後に襲った。
『ん?ライナーじゃないな?』
超大型巨人は新たな爆発の規模からして鎧の巨人が出現した可能性を排除した。
マーレの特殊部隊によって新手の巨人を出現させたと思うほど爆発の規模が可笑しかった。
そのおかげで、攻撃が止んだので何とか罠から立ち直った超大型巨人は爆発した方向を向いた。
『嘘だろう…!?何を考えているんだ!?』
超大型巨人もといベルトルトは、その巨人を目撃して絶望した。
超大型巨人の身長は約60m、それは遠望まで見下ろせると言う事だ。
そんな巨人の視界ですら遮る巨大な化け物がそこに居た。
おとぎ話であり、エルディア帝国の大罪の一つとされる伝承に出てくる化け物。
体高40m、全長200mを越える6本腕で、3つ首で尻尾が生えた褐色の化け物がそこに居た。
“アジ・ダハーカ”
それはエルディア帝国で【暴君】と名を馳せるフリッツ102世が生み出した【異形の巨人】
その化け物は、対エルディア帝国の連合国を滅ぼしたどころか、人類の3割以上が死んだ。
それどころかエルディア帝国の領土すら半壊させて2万の巨人軍団を滅ぼした。
『やばいやばいやばい!ライナーとアニを探して逃げないと!!』
【九つの巨人】のうちの1つ、【戦鎚の巨人】を継承するタイバー家。
マーレの英雄であるヘーロスと共にエルディア帝国に反旗を翻した救世主。
そんなタイバー家は、密かにフリッツ145世から脊髄液を託された。
曰く、世界を滅ぼす事が出来る【地鳴らし】に唯一対抗できる抑止力であり手段であると。
この地に潜入する直前、上官であるマガト隊長に知らされた衝撃的な事実。
その禁じ手の虐殺兵器が戦場に降臨したと知った超大型巨人は逃げに徹した。
「……なにこれ」
マルロとヒッチを引き連れて50mの壁の上に来たフローラはその巨人を見て唖然とした。
超大型巨人が出たと思ってユトピア区壁内に戻ってきたら更にヤバい巨人が居た。
そしてなにより不気味な光景を彼女は目撃する。
「笑った…?」
ケルベロスを彷彿させる3つ頭の巨人が獲物を探すように辺りを見渡し始めた。
顔を見上げており、まるで壁の上にいる人間を探しているようであった。
その内、フローラを姿を目撃した瞬間、一瞬だけであったが同時に3つの表情が笑った。
まるでフローラ・エリクシアという女が