進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~   作:Nera上等兵

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95話 3つ首の尻尾が生えた変異種

先祖が大虐殺をしていたと知ったら何をするべきなのだろうか。

謝罪、祈り、告発、懺悔、賠償、改竄、隠蔽、伝承、贖罪、自決。

あらゆる手段がある上で1人の男、“王”は最悪の一手を打ち続けた。

 

 

「これでよい。我々先祖の犯した大罪は消える事はない」

 

 

まず“王”は、自身の思考に反する親族をあらゆる手段を用いて抹殺をした。

次にしたのは、密かに反乱軍を支援し、王家の抑止力を放棄して内戦を悪化させた。

更に手回しで英雄と救世主を造り上げて、自身を【悪】とした。

 

 

「ならば我々は被害者の末裔によってこの美しい地上から滅ぼされるべきなのだ」

 

 

“王”の自己満足をする為だけに自国民だけで7桁も犠牲になった。

だが、それで彼は現状に満足する事は無かった。

 

 

「私は最後に残された楽園へと引き籠る。我々の犯した罪は償いきれないが罪は重ねる事はない」

 

 

“王”は、僅かな国民を引き連れて楽園という名の牢獄へと閉じこもった。

被害者が決起して自分たちは裁かれても仕方がないと自覚している。

ただ“王”は、自分の代で滅びる気は無かった。

あくまで自己満足をする為にあらゆる物を犠牲にしただけで我が身可愛さは人一倍あった。

 

 

「だから束の間の平和を保つために壁外に、そして壁の中に抑止力を封じ込めた」

 

 

被害者視点からみれば【平和への反逆者】である“王”であるが自身は聖人だと自覚している。

だが、子孫はその聖人の血を継ぐだけで滅ぶべき存在だと認識していた。

故に自分の子孫が【平和】への礎になるべきと、それまでの抑止力を【始祖】に作ってもらった。

 

 

「今後我々に干渉するのであれば壁に潜む幾千万の巨人によって滅ぼされるだろう」

 

 

エルディア人は滅びるべきであるが“王”は自分の世代で滅びる気は無かった。

始祖に頼めばすぐに滅ぼす事ができたかもしれないが、充実した余生を過ごしたかった。

もちろん、抑止力を行使させる気など毛頭なく完璧な対策をしておいた。

とはいえ何かしらの手段で子孫が【地鳴らし】を行使する可能性を“王”は警戒した。

 

 

「タイバー公、もし私の意志に背き【地鳴らし】が発生したらこれを使うとよい」

「……これは?」

「フリッツ102世が生み出した“アジ・ダハーカ”の片割れである脊髄液だ」

 

 

世界を滅ぼした実績がある巨人。

2万を超える巨人すら喰らい尽くした巨人。

始祖の巨人の力すら受け付けず、超大型の巨人の継承者2名の犠牲を払って何とか討伐した巨人。

そんな制御不能で世界を滅ぼす異形の巨人を自身の忠実な配下であったタイバー公に託した。

彼ならきっと、贖罪を拒む子孫を裁いてくれると信じて…。

 

 

-----

 

 

「穢れた一族め…意外とやるな」

「ささっと脊髄液を射出容器に注入しろ」

 

 

マーレの特殊部隊の隊員たちは、悪魔の末裔の奮闘に焦っていた。

一度、壁内に侵入して脊髄液を混入したガスをばら撒いた実績がある彼ら。

今回も料理店に使うお手拭きや洗剤に入れる容器に脊髄液を混ぜて壁内を混乱させた。

しかし、戦況が悪化しており、超大型巨人が討伐される危険性があった。

それを防ぐ為に車力の巨人に装備された荷台にあった脊髄液で戦況を打開しようとした。

 

 

「ん?こんな箱に入っていたか?」

「おい!早くしろ!」

「りょ、了解!」

 

 

もしもの時にと、持ち込んだ脊髄液が入った箱の中で1個だけ違うな…と男は気付いた。

しかし上官から急かされた結果、特に考える事も無く無駄に厳重な箱の拘束を解いた。

そして慣れた手つきで脊髄液を容器に移して専用銃に装填をした。

 

 

「いいか、撃ち込んだらすぐに物陰に隠れるんだ」

「分かってますよ」

 

 

男は特殊部隊に配属されてから半年しか経過していなかった。

従来なら誰かが追随して動作確認をしておくべきだが、今は緊急事態。

上官が彼を確認した時には、専用銃を構えた新兵の姿であり問題はなさそうだった。

 

 

「あいつを狙え」

「了解」

 

 

壁内は大混乱に陥っており、特に兵力が少ない中央部は指揮系統が乱れていた。

故に新兵が班から逸れて状況を確認するべき作戦本部に向かっていた。

それに狙いを付けた男は何の躊躇いも無く狙撃した。

 

 

「がっ!?」

 

 

地獄すら生温い訓練を修了した男は見事に標的に命中させた。

確認する手間も惜しい男は、すぐに物陰に隠れて次弾を装填しようとした。

 

 

「よし!」

 

 

部隊長は目標に命中したのを指差しで確認をした。

後は新兵を連れて別のポイントで巨人を出現させるつもりだった。

そこから5秒足らずで巨人化の爆風で即死するとは思うわけなかった。

 

 

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「クソッ……巨人などに負けてたまるもんか!」

「無理無理!何やってんの馬鹿マルロ!早く逃げようよ!?」

 

 

104期憲兵のマルロとヒッチは壁外の前線に居た。

本来は壁の外縁部の哨戒任務であったが投石のせいで離脱するしかなかった。

そして投石が止んで壁に戻ろうとしたら巨人と遭遇した。

 

 

「こんなの絶対勝ってこないって……誰か助けて……!」

 

 

馬無し、平地、巨人3体、新兵2名のみという死亡フラグ満載の状況であった。

2人とも巨人の討伐経験はあるが、お膳立てのおかげであって2人で巨人を倒す事など不可能。

手を伸ばしてきた巨人にアンカーを打ち込んで空中を舞うマルロに続いてヒッチも突っ込んだ。

それでも恐怖に耐え切れずに思わず本音を溢してしまった。

 

 

「まだ死ねるか!!」

 

 

憲兵団を変える覚悟があるマルロは、シュツルムメッサーを巨人のうなじに振り下ろした。

超硬質スチール製の刃は巨人のうなじを削ぐに特化した刃で斬るには向いてない。

しかし、憲兵団に先行配備された刃は巨人の肉を斬るのに特化していた。

故に熟練兵でなくてもしなる刃に振り回されずに直感でうなじを斬り取れた。

 

 

「まだだ!!」

 

 

それでもまだ2体の巨人を残している以上、彼は再度攻撃を試みた。

その移動先に巨人が口を開いて突っ込んでくるのを見てしまった。

 

 

「いやああああああああああ!?」

 

 

ヒッチの悲痛な叫び声が彼が詰んでいる実感を嫌でも感じさせた。

そう思っていたのだが、何故か巨人は倒れ込んで蒸気を噴き出しながら黒ずんでいく。

困惑する2人を狙おうとした最後の巨人も首が両断され頭が地面に転がっていく。

 

 

「ひいっ!?」

「おい!?何してるんだ!?」

「やだやだ!!だから来たくなかったのにいいいいい!!」

 

 

巨人をも上回る何かが居ると理解したヒッチは着地したマルロの後ろに隠れた。

 

 

「ヒッチにマルロ!良かった!生きていたのね!」

 

 

しかしその正体がフローラと判明した瞬間、ヒッチは恥ずかしそうにマルロから離れた。

異性として気になっていると彼女に告げていたので、羞恥心が勝ってしまったからだ。

 

 

「おい…巨人の首を刎ねたのか!?」

「削ぐ暇すらなかったから頭をぶっ飛ばしてあげたわ!」

「ホント、お前は規格外だな…」

 

 

赤い馬に乗馬し直したフローラは双剣を振り回して上機嫌に返答をする。

さきほどまで生死を賭けた戦場だったのに頭進撃が来ただけでこの有様である。

ライリーは双剣を振り回して暴れる自称主人の行動に嫌がって抵抗していた。

 

 

「ちょうどよかった!私たち、壁に戻りたいんだけど護衛してくれない?」

「わたくしも壁内に用があったから一緒に行きましょう!」

 

 

超大型巨人が出現したと直感で理解したフローラは2人を連れて壁へと向かって行く。

移動の障害になりそうな巨人は殲滅したが、それでも油断できなかった。

残る刃は、鎧の巨人用の刃セットと、強化刀身・2型の2本。

さきほどの交戦で刃の先端が折れており刃を換装する必要があった。

 

 

「そんなわけでライリー!ここでお留守番をしててね!」

 

 

いざ壁に着いた瞬間、フローラはライリーを壁外で乗り捨てた。

厳密にいうと正門を開門できず、リフトもないので放置するしかなかった。

そうとは知らず汗血馬のライリーは自分が見捨てられたと勘違いしてパニック状態に陥った。

仕方なくフローラは“彼女”が落ち着くまで毛を撫でてたりわざと噛まれたりした。

 

 

「行かないのか?」

「帰りたいんだけど壁内も巨人が居るし、フローラが来るまで待っといた方が安心だから…」

 

 

ここはウォール・マリア、支配者である巨人が闊歩する危険な領域だった。

そんな中でコントをやっているのかと思うほど馬鹿をやっている女と馬。

死を恐れて泣いていたヒッチは、精神が落ち着くまでコントを見るつもりだ。

 

 

「もう!こんな事をやっている場合じゃ…」

 

 

いつも以上に文字通りに食い下がって来るライリーの対応に苦戦しているフローラ。

今回は、そのおかげで命を救う事となった。

落ち着いた隙を見計らい彼女は、ライリーに持たせた刃6本とガスボンベ2個を鞘に装填した。

その直後、地面を揺らがすほどの地震と鼓膜が破れそうになるほどの爆音が到来した。

衝撃の凄まじさに人間、巨人問わずに転倒するほどの規模であった。

 

 

「ごほごほっ!!げほっ、な、なんだ!?」

 

 

衝撃が止んで少し経った後、砂と血塗れになったマルロは地面から起き上がった。

頭痛と耳鳴りを我慢しつつ状況を確認しようと見上げるとフローラが壁を登ろうとしていた。

 

 

「置いていくなよ!」

「わ、私も行く!」

 

 

マルロの声を聴いて立ち上がったヒッチも鼻血を気にせずに彼らの後に続いていった。

そして50mの壁の上でフローラ一行が目にしたのは、衝撃的な光景であった。

 

 

「嘘……なんて大きさなの!?」

 

 

座学をサボりがちだったヒッチですら超大型巨人という名は知っている。

人類を守る壁よりも高い身長で、シガンシナ区陥落の元凶。

そうだとしても目の前に居る巨大な化け物の事では無いと分かる。

巨人と言うよりは蜥蜴に近いようで全身が鱗で覆われている化け物ではない。

 

 

「……なにこれ」

 

 

フローラは超大型巨人とは遭遇済みだし、その正体も知っている。

ただ、それ以上のサイズの巨人は想定していなかった。

頭進撃であっても思考を一時的に停止するほどの緊急事態であった。

 

 

「笑った…?」

 

 

ヒッチやマルロは想像を絶する巨人を目撃して怯えているがフローラはそれどころではない。

またしても巨人が自分を見て笑ったのだ。

意志のないはずの巨人が誰かに操作されているように。

 

 

「ヒッチ!マルロ……ってもう伏せてるのね」

「こういうのは専門家の出番でしょ!」

「そりゃあ、そうですけど」

 

 

フローラが警告するまでもなく壁上固定砲の輸送に使うレールにしがみ付いて伏せる2人。

凡人なら固まって動けないので即座に対応できる彼らは腐っても軍人である。

 

 

「砲撃開始!!」

 

 

一方、壁内の砲兵部隊も爆発から立ち直っており集中砲撃を開始した。

だが、超大型巨人にすら有効打に程遠い以上、大したダメージを与える事はできない。

 

 

「なんでこんな化け物が!?」

「とにかくここで仕留めろ!!」

 

 

兵士の努力も空しく3つ首の変異種は6本の手と4本の膝を地に着きながら這い始めた。

ゆっくりとだが確実にウォール・ローゼに繋がる内扉へと進んで行く。

あまりの巨体のせいか、鱗に見える肌から熱風が噴出していた。

 

 

「野郎ぉ!内扉に向かってやがる!」

「こいつも能力者か!?」

 

 

とりあえず応戦はしているものの誰もが絶対に勝てるわけがないと実感している。

幸いにも動きは鈍く巨体が故に人間の存在に気付いていないようであった。

上手く誘導すれば、なんとかなる。

そんなユトピア区に集った守備兵たちの思惑はすぐに破綻する事となる。

 

 

「嘘だろう!?」

 

 

誰もが目を疑った。

3つ首の化け物は、ユトピア区に残った巨人を手で掴んで捕食し始めたのだ。

巨体過ぎて人類の脅威である巨人ですら奴からすれば、ただの【人】に過ぎないのだろう。

両手で掴んで頭から咀嚼していき残りの双頭も同じ事をやり始めた。

 

 

「巨人が巨人を食ってやがる…」

「奇行種なのか……?」

 

 

こっそりと変異種を追ってきた偵察兵たちは、ただ物陰から見ている事しかできない。

砲手も未知なる行為に魅入ってしまったのか砲撃は止んでいた。

その隙に超大型巨人はゆっくりと兵団支部の跡地に向かって行く。

これから何が起こるか分かっている様に。

 

 

『早くしないと世界を滅ぼした【アレ】が来る!!その前に…』

 

 

ベルトルトは逃げに徹した。

もしあの遅さで巨人を捕食するなら3日で2万の巨人など滅ぼせない。

伝承を知っているからこそ…それが来る前に逃げるしかなかった。

そうとも知らず1人の兵士は、あの化け物を狩る気満々である。

 

 

「兵長!巨人化の許可を!」

「駄目だ。まだやるべきではない」

「でも…!!」

「忘れたのか?まだ鎧の巨人が残っているんだ。その有り余る気力は温存しておけ」

 

 

エレンはすぐにでも巨人化してあの化け物を止めるつもりだった。

ところがリヴァイ兵長は、それを窘めてひとまず様子を見ていた。

自分ならあれを囮にして鎧の巨人を運用すると考えているからだ。

迂闊に動けば逆に戦況が悪化すると分かっているからこそ堪えている。

 

 

「どうも奴らの作戦じゃねぇな。出現するタイミングが可笑し過ぎる」

 

 

とはいえ、あまりの唐突な出来事にリヴァイは必死に敵の真意を探っていた。

敵の特殊部隊の隊員が盛大なミスで出現させたなど思いつくはずもなかった。

 

 

「兵長、あの巨人は熱量が凄まじいようで通り道は焼け野原のようでした」

「チッ!厄介だな。どうやってあいつに近づくべきか」

 

 

リヴァイ班の紅一点、ペトラの報告を聴いてどうやって討伐するかリヴァイは思案する。

普通の巨人ならうなじをさくっと削げば良いが、あれは変異種。

弱点部位を潰さない限り、うなじを狙って攻撃しても効果が無い。

更にその弱点部位が発見したとしても熱風のせいで近づけない。

 

 

「オルオ、単眼鏡はあるか?」

「はい、あります!!」

「ちょっと借りるぞ」

 

 

オルオから借りた単眼鏡で50mの壁の上から見下ろして巨人の弱点部位を探す人類最強の男。

だが、体表が鱗の様に覆われており、蒸気も出ているせいで探すのに一苦労しそうだった。

幸いにも巨人の捕食に夢中になって動きが鈍い好機の間に発見するつもりである。

 

 

「あれは…フローラか」

 

 

予想通りにエレン以上の死に急ぎ娘を発見して彼は呆れるしかなかった。

しかし、何かを発見したのか彼女は慌てて地下道に逃げ込んだのに注目した。

 

 

「何かあるのか?」

 

 

わざわざ装填済みのブレードを投げ捨ててまで逃げ出した女。

奴の性格上、少なくとも用も無く刃を捨てるのに違和感があった。

何事かとリヴァイは視界が狭くなる単眼鏡を覗くのを止めて変異種を観察した。

 

 

「背中に針を生やしてやがる…」

 

 

よく見ると全長200mを越える化け物の膨らんだ背中に山ほどの針が生えている。

人体ではありえない構造だが、針を構成している物質自体は見たことはある。

 

 

『あれは結晶体!?まずい!!』

 

 

硬質化自体は女型の巨人との交戦で存在自体は知っていた。

だが、この世界では身体の部位を守る盾だけでないのは身をもって知っている!

 

 

「総員壁外に退避!!急げ!!」

 

 

リヴァイの怒声を聞いてペトラとオルオは速やかに壁外へと飛び込んで行った。

続いて情報収集したハンジ分隊長とエルヴィン団長も壁外へと飛び降りた。

 

 

「死にたくねぇなら俺の指示に従って飛び降りろ!!」

 

 

リヴァイは今なお動けない駐屯兵の班員たちに激を飛ばして近くの兵を突き落とした。

そのままの勢いで彼自身の落下した兵を追うように50mの壁から落下した。

一方その頃、大きな的と化した超大型巨人を倒れ込んで蒸気を噴き出しながら塵になっていく。

そのままだとただの的だと分かっているベルトルトは巨人化を解いたのだ。

 

 

「もう来るのか!?」

 

 

巨人化を解いてヘトヘトなベルベルトの視線の先には大気を吸っている変異種が居た。

腹が地面に垂れてもなお大気を吸収しており、背中が剣山を作るように反っている。

おとぎ話に出てくる世界を滅ぼす技の1つを繰り出そうとしているのは直感で理解した。

幸いなのは、この状態になると動かなくなるがそんな事は些細な事だ。

 

 

「あああああああああああ!?」

 

 

慌てたベルトルトは、敵勢力が地下道を爆破して空いた大穴の中に飛び込んだ。

それと同時に息を止めた3つ首の変異種は、貯め込んだ大気を蒸気に変えて噴出した。

その勢いで背中に刺さっていた硬質化の針千本が音速を越えて天空へと駆けていく。

 

天から降り注ぐ物が世界を滅ぼす

 

“アジ・ダハーカ”を語るには避けられない。

鋼鉄よりも硬い背中から発生する幾千万の結晶で生成された針が一度天空に射出される。

放射上に飛んだ針は大洋をも超えて破片をばら撒きながら雹のように地上に落下する。

遥か後世で開発される『クラスター爆弾』の概念すら覆す大量殺戮兵器である。

 

 

「何をしたんだ…」

 

 

体高40mで全長が200mを越える化け物を討伐しようと駆けつけた駐屯兵の部隊は気付かない。

さきほど天空へと撃たれた針が空中分解して鋼鉄より硬い物質が音速を越えて落下する。

 

 

「背中に生えた針を放出したのか!?」

「何だそれ?」

「俺に訊くな!!俺だって分かんねぇんだよ!!」

 

 

女型の巨人の親指から生えた硬質化した爪、たった4本分でストヘス区が半壊した。

今回は質量も数も段違いで、わずか1本の針で王都ミットラスを全壊できる。

そんな事気付く事はできないし、気が付いた時点で手遅れであった。

 

天から降り注ぐ物が世界を滅ぼす

 

それは比喩でなく傍れた針千本が天空で分解して質量兵器として落下してくる。

握り拳ほどの大きさの結晶が10万個以上もゲリラ豪雨のように降り注ぐ。

更に厄介な事にその鋼鉄より硬い結晶が激突しても無傷の装甲が異形の巨人を守っている。

伊達に唯一【地鳴らし】に対抗できる異形の巨人と畏怖されない。

 

 

「総員退避いいいいい!さきほどの【針】が落下してくるぞおおお!!」

「に、逃げるってどこに!?」

「どこでもいい!とにかく屋外に居れば即死だあああ!うわああっあが!?」

 

 

ついにその脅威に気付いた士官が退避命令を出すも既に後の祭り。

天の川にある星々が流星群としてユトピア区に落下する隕石のように結晶が降り注ぐ!

天から降り注ぐ硬質化で生成された結晶は、ただひたすらに破壊を望んだ。

運が良かったのは、熱源で発生した上昇気流によって針の大半が遥か北東へと流れていった。

ユトピア区に降り注いだ結晶体は、全体の1%も満たない。

だが、ユトピア区の中心部にある物を全て滅ぼすには充分であった。

 

 

「ぎゃあああああがっ!!?」

「嫌あああああっ!?」

「助けてくれ!建物が崩れ…うぎゃあああああっ!?」

 

 

落下した結晶体が建物を貫通して地下道へと減り込む。

激突した衝撃で建物の土台が崩壊し宙に舞って避難した兵ごと地面に叩きつけられ潰れる。

大砲を100門掻き集めて一斉に砲撃してもこれほどの衝撃は出ないだろう。

人も建物も巨人ですらもまるで【死】が具現化したように平等に落下地点へと降り注ぐ。

散弾が散弾となり、一度地面に落下しても跳弾する破片でひとまず生き延びた生存者を襲う。

ただ1体、その惨劇を生み出した異形の巨人のみ自慢の装甲で全ての結晶体を弾き返した。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

何事も無かったように3つ首の異形の巨人は、この世に誕生したのを認識させるように咆哮した。

次にその巨人が向かったのは、ウォール・ローゼとユトピア区を繋ぐ内扉であった。

さきほどまで地上に居た兵は、肉塊どころか地面が崩れ去って崩落していた。

だが、壁上に居た者や壁に備え付けられた建物に居た者は無事であった。

 

 

「ま、待って…く、くるな!来るなああああああああああ!!」

 

 

上官であるエルティアナから内扉の指揮を譲渡された憲兵は必死に大声で叫んだ。

その声は、しっかりと巨人に届いており、更に事態を悪化させていると気付かずに。

右脚を結晶体で潰された憲兵は視界を防ぐように両手を前に出して必死に後退りした。

だがその行為は無意味だった。

 

 

「嫌だあああああ!!私はこんな辺鄙(へんぴ)な地で!志半ばで死ねぬのだああああ!!」

 

 

内扉に向かって行く3つの表情は笑みを浮かべていた。

人間の捕食本能しかないはずの巨人が人のように笑う。

そんな事、両腕を振り下ろそうとする巨人に怯えている憲兵は気付かない。

明らかにこの行為が人為的だとは気付くわけがない。

 

 

「うわああああああああああああああああああっ!?」

 

 

振り下ろされた両腕の衝撃で頑丈な内扉は瓦礫と共に壁外へ吹っ飛んだ。

それは、さきほどまで内扉の外で展開していた3個中隊に降り注いだ。

さきほどの結晶の雨でほぼ全員が負傷している状況下での泣きっ面に蜂である。

悲鳴すら出す事もできずに生まれた場所へと還っていく者が相次いだ。

 

 

「ぎぎ…ごほっ」

 

 

内扉の警備をしていた兵は即死か虫の息で地面に激突して動けなくなっていた。

肉片と例えた方が良いほど原型を留めていない兵士だった物。

それを発見した巨人は付近の瓦礫ごと両手で掴み上げて捕食を開始した。

器用に4本の腕で3つの頭に瓦礫や人だった物を口に詰めていく。

もし、ここの屍や肉塊を喰い尽くしたら南部にあるオルブト区を目指す事であろう。

遅かれ早かれこの巨人がここに留まっていられるのも時間の問題だった。

 

 

「くたばれ化け物が!!」

 

 

1人の兵士が大声で叫びながら壁上固定砲を3つ首で尻尾が生えた変異種に向かって砲撃した。

正門がある壁の上から放たれた砲弾は、反対側の内扉には届かなかった。

されどその砲撃の音は、静まり返ったユトピア区全体に響いた。

その音は、変異種にも届いており、3つの首が音がした方を向く。

 

 

「こ、ここ、これ以上は行かせん!!私の屍を越えてからに!しろ!!」

 

 

砲撃した兵士は、駐屯兵団第一師団精鋭部隊の部隊長、キッツ・ヴェールマン。

小鹿と称された臆病者は、世界を滅ぼした実績のある巨人に喧嘩を売った。

声自体は届かなかったとはいえ、そこに捕食できる存在が居ると理解させた。

 

 

「私はここだ!喰えるもんならいっ!?」

 

 

更に大声を出した瞬間、1つの頭から食べた瓦礫を噴き出して壁上固定砲に向かって飛ばした。

胃液と共に飛んでくる瓦礫をキッツ隊長は壁内に飛び降りて回避する。

回避できなかった壁上固定砲は瓦礫に激突して音を立てて壁外に落下していく。

 

 

「俺達はここだ!!」

 

 

あえて双剣同士を激突させて音を鳴らして気を惹こうとする兵士は後方から飛び出す。

ウォール・ローゼに南下させないように生存した兵士は何とか手を打とうとした。

そんな彼らの願いは叶ったのか変異種は南下する事は無かった。

 

 

「っていくら何でも早過ぎ…ぎゃあああああ!?」

 

 

刃を当てて音を鳴らした兵士を変異種は掴み上げて口内に放り投げて咀嚼した。

巨人の本能に基づいて救援に駆け付けた兵士を片っ端から捕まえて捕食を開始した。

 

 

「オルオ、ペトラやれるか?」

「はい兵長、私はまだ動けます!」

「大丈夫です!」

 

 

壁外に飛び降りた後、壁にぶら下がっていたリヴァイ班は黙ってそれを傍観するわかがなかった。

リヴァイは、自分が突き飛ばした兵士を抱えながら部下の状態を確認していた。

返答から特に問題ないと判断し、呆然としている兵士を地面に置いて壁を登った。

 

 

「兵長、オレも参加させてください」

「エレン、お前の相手は鎧の巨人だ。それまで力を温存しておけ」

 

 

上官から参戦を却下されたエレンは歯痒かった。

こうやって巨人化を制限されており、自分の力不足を嫌でも実感できるからだ。

 

 

「役割分担って奴だ。いつ、鎧の巨人が出現してもおかしくないからな?頼むぜ?」

「オルオさん、オレは…」

「お前しか鎧の巨人に有効打を与えられないんだ。その重要性を理解してるのか?」

「……はい」

 

 

オルオもエレンの気持ちはよく分かっている。

だが、まだ巨人化するタイミングではない。

いつの間にか消失している超大型巨人、そして未だに姿を見せない鎧の巨人。

不確定要素が多すぎて博打はできずに慎重に行くしかなかった。

 

 

「そんな暗い顔をするなって!すぐにお前の力が必要になるぅう!?」

「オルオ!戦闘前に舌を噛まないで!」

「ふははっ!!」

 

 

相変わらず舌を噛む老け顔を更に顰めるオルオ先輩の顔を見てエレンは落ち着いた。

自分は兵士だという事を思い出して精一杯責務を果たそうと考えた。

 

 

「精鋭班の被害報告を!!」

「5名軽傷!1名が右目を失明しました」

 

 

精鋭班のリコ班長の問いに対して部下が状況を報告する。

1名は気の毒ではあるが、さきほどの攻撃で誰も戦死していないのは奇跡であった。

獣の巨人を討伐する為に大半の兵が地下道に居たのが功を奏した。

 

 

「戦える者は私に続け!奴を討伐しなければ人類に未来は無い」

「おいおい、死に急ぐなよ。まずは巨人の動きを把握するべきだ」

 

 

死に急ぐ女班長を窘める様にイアン班長は右肩に手を当てて落ち着かせた。

 

 

「班同士の連携が必須って事だ。イアンや俺を無視するなよ」

 

 

ミタビ班長も同僚であるイアンに同意した。

それを聴いてさきほどの行動をリコは恥じながらも頼もしい仲間に囲まれて気力を回復させた。

 

 

「まずはあのでか物の動きを止めるべきだ」

「眼球を潰すだけでも骨が折れそうだがな」

「じゃあ尻尾を巻いて逃げ出すか?」

「あの巨人の尻尾を巻くだけで英雄になれるぞ」

 

 

イアンとミタビは軽口を叩きながら尻尾の生えた変異種を見る。

まるで蜥蜴のように感じられる姿から鎧の巨人のように装甲があると判断した。

まず視界を潰さない限り、有利に立てないと判断し、作戦を立案し始めた。

その同時期に手当を受けている憲兵が居る。

 

 

「おいおい!もうちょっと丁重に扱ってくれよ!負傷兵なんだぞ俺様は!?」

「こめかみに石が掠っただけでしょうに…ここまで包帯を巻く必要があるのですか?」

「ひでぇ!怪我人に対して辛辣過ぎる!お前らもそう思うよな!?」

 

 

対人立体機動部隊の隊長、ケニー・アッカーマンは副長のカーフェンに手当を受けている。

一見ミステリアスな女性と見せかけて心は意外と熱血な女であるが普段は辛辣である。

そんな彼女は、大した怪我では無いのに大げさに包帯で顔を隠そうとする上官に呆れていた。

 

 

「いいか?俺は表舞台に出るべき人間じゃねぇんだ!下水道を這う鼠を喰う猫…」

「はいはい、だから包帯で顔を隠してあの巨人を討伐したいんでしょ?」

「そうだとも!この俺様をコケにしておいて…」

「少し黙っててください」

「ひでぇ!フローラの方がまだ乙女心があるぞ」

 

 

ケニーは温泉が有名な工業都市であるユトピア区をめちゃくちゃにした巨人を討伐する気である。

部下からは呆れられたが、自分の夢を叶える為には、あの化け物を討伐しなければならない。

ここまで来てちゃぶ台をひっくり返されるのを傍観する気は無かった。

という事情は分かるが、暴れるせいで包帯がうまく巻けないのでカーフェンは叱責していた。

 

 

「お前ら、人目に付かずに攻撃する準備はできているよな?」

「狙撃兵くらいしか動員できませんが援護はできます」

 

 

対巨人用のライフル銃であるRF-01 クリーガーカスタム。

対巨人用の携帯型カノン砲、ハードカノンmk-2。

元は対人装備だったのを無理やり巨人用の装備にしたものである。

 

 

「おいおい!前よりチビになってるじゃねぇか。今度は数十倍の巨人が目標だっていうのに!」

「安定性を考えて軽量化しました。駄目だったら次回までに改良しておきます」

 

 

前者は銃身を短くして威力を抑える代わりに狙撃の安定性と移動に支障がないようにした。

後者は銃身から全身に与える衝撃を逃がす為にわざと銃身と短くし砲口も小さくした。

長らく進化が停滞していた通常の立体機動装置と違って発展途中の装備。

何が起こるか分からない以上、コストを度外視して安定性を狙っていた。

 

 

「そういう隊長も短剣を装備してるじゃないですか」

「あったりめぇよ!やっぱ俺様は短剣が似合ってる。…にがっ!?油塗ってやがる!?」

「なにやってるんですか」

 

 

ケニーは、士官用に先行生産された短剣型のブリッツメッサーの刃を舐めた。

通常のスナップブレードには防錆油が塗られていないが、今回は新品と言う事で油が塗ってある。

カッコつけて刃を舐めた結果、すぐにケニーは口内の違和感を感じて吐き出した。

唾を撒き散らして必死に油を吐き出している上官を見て「汚ぇな」と思う隊員たち。

それでも彼らは、鋼よりも!王政府よりも!ケニーに忠誠を誓っている。

 

 

「気を取り直して行くぞお前ら!あのでかい的で試験運用だあああああ!!」

「「「「ハッ!!」」」」

 

 

誰もが一丸となってユトピア区を崩壊させた巨人を討伐しようとしていた。

もっともその新装備のある意味発端となった元凶はまだ地下道を抜けられてなかった。

 

 

「やっと見つけたわ!」

 

 

フローラ・エリクシアは地下道に逃げたが瓦礫の下敷きになりそうで酷い目に遭っていた。

あくまで地上よりは安全なだけで、崩落すれば生き埋めにされる危険地帯には変わりがない。

何とか窮地を脱したものの瓦礫で地上に出れずに必死に地上に出るルートを模索していた。

そしてようやく穴から抜け出す事に成功し、お天道様が照らしてくれる地上へと出れた。

 

 

「あっ!フローラ」

「ミカサにジャン!無事だったのね」

「そういうお前は……出血してるが無事みたいだな」

「もう少しわたくしを労わってくれない?」

「訓練時代を思い出せばその程度の怪我なんていつもの事だろう?」

「そうですけど…」

 

 

フローラを出迎えたのは工業都市から廃業都市になったユトピア区の惨状。

そして刃を構えて巨人を狩る気があるミカサとそれを止めようとするジャンの姿であった。

 

 

「あいつを削いでやる!フローラも手伝って!!」

 

 

ミカサはエレンに危害を…否、大切な居場所を奪おうとする巨人を討伐する気だった。

それを見てジャンは愛しの女の子が死地に向かおうとするのを必死に止めていた。

だが、フローラの姿を見た瞬間、その気持ちは吹き飛んだ。

根拠は無いが、頭進撃娘が居ればミカサは生還できると信じてしまう不思議な感覚があった。

 

 

『クソ、情けないな…ここで男を魅せればみんなオレに惚れると思うんだがな…』

 

 

ジャン・キルシュタインは、自分の無力さに噛み締めた。

大好きな女の子が勝ち目が無さそうな巨人に向かって行って、自分は見送りしかできない。

必死に悩んだが、自分にできる事をしようと考えた。

 

 

『あの死に急ぎ野郎を守りに行くか』

 

 

指揮系統が崩壊した今、敵前逃亡しない限りは罰せられる事は無い。

ミカサの次にエレンの顔を思い浮かべたジャンは、エレンに悪態を突きに行こうと走り出した。

それは、プレッシャーに押し潰されそうなエレンの心を救う事になった。

 

 

『何でいつもわたくしの進む道はこんなに困難を極めた山道なのかしら?』

 

 

こうして、人類最強の部隊が結成された。

狙うは、最強の異形の巨人である“アジ・ダハーカ jr.”。

それはともかくフローラは強敵しか当たらない不運な人生を心の中で恨んだ。

 

 

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