進撃の巨人2~名もなき兵士という名の悪魔~ 作:Nera上等兵
「こいつは巨人というより
人類最強の男、リヴァイ兵士長は、図体がでかいだけではない3つ首の巨人を見てそう感じた。
全身が鱗で覆われて尻尾が生えており、うつ伏せの姿勢から
だからどうしたと彼自身でも感じていたが、その思考が功を奏した。
「クソが!」
変異種は両手で地面を固定して踏ん張って身体を急旋回させた。
そのせいで振り回された尻尾が瓦礫を吹っ吹っ飛ばしてリヴァイの居る場所に飛んでいく。
立体機動をしたくても瓦礫の山にアンカーを突き刺すのを躊躇うせいで走るしかなかった。
想像より機敏な巨人のようですぐに体勢を立ち直し、兵士が居る場所に飛び掛かった。
「チッ!」
今度は彼は立ち止まって障害物になりそうな瓦礫にしがみ付く!
その直後に大きな衝撃と共に瓦礫や硬質化で生成された結晶体、肉片が周囲に飛び散っていく。
体表から噴き出す熱風により加熱された物体が吸い込まれるように地面に激突する!
その後、悲鳴と表現できない断末魔の叫びが壁内に響かせており、嫌でも死が実感できる。
「兵長ご無事ですか!?」
遅れて駆けつけて来たペトラの問いに頷いたリヴァイであったが、逆に言えばそれしかできない。
まず巨人の体表を埋め尽くしている鱗にアンカーが刺さらないと分かってしまったからだ。
そうでなかれば、結晶体のゲリラ豪雨の直撃を受けても平然としていない。
更に接近するだけで巨人が発する高熱に炙られており、すぐに自分が全身火傷で死ぬのが分かる。
『このままじゃ近づくだけで丸焦げだ。何か手はねぇか!?』
リヴァイは周囲を見渡すと所々で水が噴出しているのを発見した。
地上どころか地下道を貫通した結晶が水道管をぶち抜いてそこから水が漏れているのだろう。
潔癖症の彼からしたら不本意ではあるが、きたねぇ水浴びをしてでも熱から身を守る必要がある。
「兵長!俺に行かせてください!弱点部位を特定してみせます!!」
「オルオ、班だという事を忘れるな。単独で突出した行動は許さん。特に未知なる化け物にはな」
「申し訳ありません」
「まずそこのきたねぇ水で熱から身を守る!気付かれねぇうちに行くぞ」
「「ハッ!」」
今のやり取りで巨人に気付かれたか冷や汗ものであったが、幸いにも気付いて無さそうだった。
ただ、リヴァイは変異種の動きが可笑しいのに気付いている。
思い出したかのように人間を捕食しているようで、無垢の巨人を演じている感覚がしたのだ。
悪い予感だけは的中する彼ではあるが、すぐにその考えを放棄して部下と共に水源に向かった。
「あーあ、何で俺には優しい部下はいねぇんだよ」
ケニー・アッカーマンは部下から水を掛けられて全身が水浸しである。
絞れば2Lくらいの水が出るのではないかと錯覚するくらいだ。
もちろんあのクソでけぇ化け物が発する熱から身を守る意図があると分かっている。
とはいえ、無言で真正面から水をぶっかけられるのは嫌に決まっている!
「ヒュー!ベイビーにしては成長がはえぇな!パパもママもいねぇのに独り立ちしていやがる」
ケニーが見たのは、巨人が握り締めた兵士を地面に何度か叩きつけてから食事をする光景だった。
そこから少しばかり視線を逸らすと成長したリヴァイと部下らしき2名の兵士が見えた。
さきほど思わず悪態を付いたのは、その賢明で忠実そうな部下が羨ましいと思ったのもある。
『バレたか!!』
ケニーはアンカーを瓦礫に打ち込んでその場から飛び跳ねたと同時にワイヤーを巻き取る!
身体を捻り目の前から突っ込んでくる10本の硬質化の爪を回避した。
最低でも1kmの距離があると思ったが、あまりの巨体のせいで遠近感覚が狂っていたのだろう。
むしろ彼は発見されてから3秒足らずで両手の爪が自身の居た場所に到達したのを注目した。
『普通の巨人の行動じゃねぇぞ!?中に誰か居るのか!?いやそれよりも…爪攻撃か』
肉に齧りつく為、そして爪を伸ばしてきた両手、残りの両手は自重を支えるのに精一杯な感じだ。
思ったより隙が無くて近寄れないのを情報分析で更に判明しただけで終わった。
不意打ちをして憲兵の喉を短剣で掻っ切ってきた彼からすればどうしようもない巨人である。
だからといって自身の夢を諦めておらず、その夢を砕こうとする巨人を討伐する気満々であった。
『あの嬢ちゃんは、まず弱点部位を削ぐ必要があると言ってたな』
フローラ・エリクシアを王政府の命令で抹殺しようとしたらいつの間にか友達になっていた。
今考えても何で暗殺者と標的が仲良くしているのか彼にも分からない。
ただ、肝心な時に頼れるのと話をしていておもしれぇ女というのは大きい。
その頭フローラ100%によるとどっかに白いの弱点部位があるはずだ。
「まあ、そうなるよな……こっちに来るんじゃねぇ!!」
などと呑気に考えていたら体高40m、尻尾も含めれば全長280m越えの化け物が向かってきた。
さっき存在をバレている以上、襲撃されるのは当然ではあるが彼からすれば理不尽だった。
だが、それは好機を狙っていた暗殺者だった男には好都合である。
幸いにも援護してくれそうな連中が居たのだ。
ケニーを狙って駆け出した3つ首の巨人は後方で鳴り響く音響弾に足を止める。
「速やかにこの巨人を討伐せよ!ここで逃がせば人類は滅びるぞ!!」
イアン班長の魂の叫びが負傷したり怯えていた兵の原動力となる。
これ以上の悲劇を止める為に蟻のように彼らは一丸となり巨人を襲撃していく。
無謀にもアンカーを突き刺し飛び掛かろうとした兵士。
だがゲリラ豪雨のように天空から落下する結晶体を無傷で耐えた鱗はそれを阻む。
「クソッ!弾かれた!!」
「狙うのは関節部分だ!鱗を狙っても意味がねぇぞ!!」
少しでも足を止めれば、体表から噴き出している熱風に焼き尽くされる。
近づくだけで引火性がある物質が発火をし始めて業火のように辺りを焼き尽くす。
それでも彼らは、何とか討伐しようと立体機動で飛び掛かる。
「まず1つ!!」
1人が首にアンカを突き刺すのに成功して立体機動で滑空する。
目標は、うなじ部にある縦1m横10cm、どの巨人でも共通の弱点である。
逆に言えば全長200m越えの巨人であってもそれは変わらない。
「弾かれた!?外れだああああがっ」
とりあえず双剣で削ごうとしたが刃が弾かれて失敗を悟る兵士。
実際は、弱点部位を何とかしないとうなじへの攻撃が有効にならないのを知らない。
座学で習っていないから仕方が無いと言えるがここでは命取りとなった。
「畜生!やられた!!」
「そんな事言ってる場合じゃねぇ!逃げろおおおお!!ぎゃあああああああ!!」
変異種は、アンカーを突き刺すと前転や後転をする癖がある。
そのせいで体高40m、全長200mが当たり判定となって付近を転げ回った。
接近した勇敢な兵は全滅し、遅れた後続班や指揮官の士気の低下をさせる結果となった。
「これじゃあ近づけない!モブリット!何か手はないか!?」
「やはり砲兵に支援砲撃してもらうしか…!!」
「そんな事をしたら壁を突破をされるぞ!!やはり精鋭班に賭けるしか…」
ハンジ分隊長は、何とか巨人の動きだけでも止めたいが案が浮かばなかった。
副官のモブリットの案はもっともだが、あまりにも巨体過ぎて壁を突破される危険性がある。
「いっその事、正門に誘導してウォール・マリアに向かわせては?」
「駄目だ!ここで討伐しなければ更に犠牲が増える!!何か手は…」
寵臣のニファの案も先延ばしの上に逃がせば更に厄介になりそうである。
だからといって放置すれば、あの結晶の雨が再び降り注ぐ可能性に危惧している。
「とにかく眼球を潰して視覚を奪うしかない!」
「すぐに兵達に伝達してきます」
「頼むぞケイジ!」
足止めすら不可能である以上、せめて視覚を奪うしかできない。
ただ、眼球は何かの物質で覆われており、刃で突き刺すのが難しそうだった。
「お待ちください!我々の刃では突き刺すのは難しいのでは?」
「確かにそのままだと突き刺すのは無理だろうね」
超硬質スチール製の刃。
それだけなら刺さりそうだが、うなじを抉るのみに突出した特殊な刃で刺すのに向いていない。
アーベルの危惧は、巨人研究の先頭を走るハンジだからこそ分かっている。
それこそフローラが身に着けていた短剣型刃ではないと効果がなさそうだった。
「ならば刃を折って鋭利にして突き刺せばいいじゃないか!」
「確かに!すぐに情報伝達をしてきます!」
「私も行きます!」
直属の部下であるケイジとアーベルを見送るハンジ。
ニファの心配そうな視線に気づいて声をかけた。
「大丈夫だよ!調査兵団だけなら負け続きだけどここにはみんなが居る。きっと勝てるよ!」
無理やり作り笑いして励ましているハンジであったが、すぐに笑みが消える事となる。
何故なら再び背中から硬質化で生成された針が生え始めたからだ。
「オルオ!ペトラ!急いで眼球を潰すぞ!!」
「「はい!」」
同時刻に同じ光景を目撃したリヴァイは、すぐに行動に移した。
しかし、それを嘲笑うように巨人は尻尾を振り回してくる!
動きが予想できない上に巻き込まれた瓦礫や砂埃が彼らを襲いかねない。
『近寄れねぇ……』
スリーマンセルで接近していくリヴァイ班であるが、瓦礫を利用して接近するしかない。
巨人にアンカーを突き刺した末路を知っているし、そもそも刺せる場所が極小である。
おかげで班の機動力が生かせなかった。
「兵長!フローラが結晶体にアンカーを突き刺して行きました!」
「チッ!その手があったか!」
一方、頭進撃は背中に生えた結晶の針にアンカーを突き刺して宙を舞っていた。
実は彼女が結晶にアンカーを突き刺すのは初めてでは無かった。
ストヘス区の女型の巨人戦で親指から生えた【爪】にアンカーを刺した経験がある。
『まるで結晶の森ね』
1本で全長10mはありそうな結晶の針。
その中は意外と熱風は吹き荒れておらず、火傷をする事も無く掻い潜っていた。
針の射出は貯め込んだ大気を装甲の蓋のような弁を開ける特性のせいかもしれなかった。
詳しい事情など分かるわけでないが、視界から隠れるのにも好都合であった。
『あぶなっ!?』
しかし針が生えて来たという事は、そこはいつ串刺しにされても可笑しくない場所である。
空間認識能力や立体機動術だけではなく一瞬の皮膚の変化を見逃さない観察眼も必要だった。
現に自分の後方に居た兵は事故死したか、一旦退くなりして全滅している。
『さて、弱点部位はどこかしら?』
フローラの目的は弱点部位を捜索する事である。
普段の変異種は裸であるので、刺青を追って行けばすぐに弱点となる器官が発見できた。
この巨人は蜥蜴のように全身が鱗で覆われているので刺青が全く見えなかった。
ただでさえ蒸気のせいで見づらいのにカモフラージュされているので発見するのが困難過ぎた。
『何か関連性は無い……?』
闇雲に捜索しても発見できないと理解したフローラは結晶にぶらさがって思考に耽る。
今までの戦闘経験を超高速で回想して、何かヒントを得ろうとする。
30秒以上経過しても何も思いつかずに溜息を吐きそうになった時、戦況が動いた。
「命中しました!」
「次弾装填を急げ!!」
「いつでも撤退できるように準備しな。もしかしたら今ので気付かれたかもしれない」
駐屯兵団の砲手による砲撃で気が取られた隙に対巨人ライフル銃で眼球を撃ち抜いた。
だが、歓喜するにはまだ早く、残り5つの眼球を潰さなくてはならない。
副長のカーフェンは、決して油断せずに崩れ掛けた建物から顔を出して警戒していた。
「まだ気付かれてませんか?」
「今のところは…目撃者が居ないと良いのだけどね」
対人立体機動部隊の辛い所は、他の兵団に存在がバレるのも厳禁な点だ。
元々調査兵団に対抗する為に成立したので、兵器や組織の存在を伏せる必要がある。
それにも拘わらず王政が前線に投入した所を見ると完全に焦っているのが分かる。
「弱点部位は判明したの?」
「それらしき物は発見しました…ただ」
「ただ?」
彼女は部下の口もごりに気になった。
明らかに狙いにくい所にあるのは明白である。
「歯茎にあるんです!あんなピンポイントで狙えませんよ!!」
慌ててカーフェンが単眼鏡で巨人の口を覗くと時折見える歯茎がその器官だと判明した。
巨人の口内は完全に盲点であると同時に接近しないと狙えないのが問題である。
ブレードを装備した兵や砲兵がピンポイントで口内の歯茎を狙うのは難しい。
だからといって自分たちが動けば、王政に逆らう事となる。
『あの王政府なら反逆しても…いやダメか』
別に王政府自体はどうでも良いがそれだと上官であるケニーの夢が叶わない。
どうしようもない自分達を導いてくれた彼の為を考えるとできなかった。
「グランツ!弱点部位が3つの口内にある歯茎だと伝えろ!」
「了解!」
この中でスキンヘッドでゴーグルを付けたグランツのみが通常の兵服を羽織っている。
ケニーと自分たちの連絡要員にしていたとはいえ彼しか伝達する事ができない。
いつ、あの結晶を天空に撃ち込まれても可笑しくない状況下で彼に頼るしかない。
「事前に情報があればこうならなかったんだけどね」
「カーフェン…」
「カノン砲班と狙撃班でこっちに惹きつけるからその隙に伝達して」
「分かりました」
グランツが近くにあった穴から地下道を通じて移動を確認した一同。
安全地帯に行ったと実感できた頃に集中攻撃を仕掛けた!
「やっぱり遠すぎます!全然効いていない!」
「足元を狙え!地下道を崩壊させて足場を崩せ!!」
最初は鱗の装甲で全ての狙撃や砲撃を防いでいる巨人。
それでも執拗に狙われればどんなに鈍感でも違和感に気付かれる。
巨人の顔が全て自分達の方に向いた瞬間、一同は地下道に逃げ込んだ。
部隊長であり測定手であったカーフェンが穴に飛び込んだ瞬間、巨人が突っ込んできた!
「もおおおお!!」
それは結晶体にぶら下がっていたフローラに吐き気を催し傷だらけにするのに充分だった。
彼女は全身を結晶にぶつけてこめかみから血を垂らして頭が冷えた感じがした。
下手に動けば、背中から放り出されて不利になるのは嫌でも分かる。
『“声”が聴こえる…これはケニーさんの部隊ね』
負の感情を“声”として聴こえるフローラは嫌でも絶望的な感情を周りから教えられた。
恐怖という感情が欠如しているので、気分が重くなるだけで済んでいる。
それでもすぐに死体になる兵士の感情やネガティブ思考を聞かされれば判断力が鈍る。
そんな中で彼らの“声”はどうやって口内の歯茎を狙うべきかというものであった。
「歯茎!?そんな所にあるの!?」
巨人に好かれているのか下手すれば調査兵団の巨人討伐総数に並びかねないフローラ。
そんなに巨人と交戦してきた彼女でさえ、弱点が歯茎にあるとは予想できなかった。
『あっ無理ねこれ…』
彼らの話を統括するとそれぞれ歯茎の上下に弱点部位が存在する。
つまり巨人の歯茎を狙う為、最低でも6名の兵力が欲しいという事だ。
火炎瓶、手榴弾があればいいが、口内に近づける練度の兵など限られている。
しかも巨人のうなじは3カ所あるのでそれを狙う3名の兵士も欲しかった。
『リヴァイ兵長とわたくしとミカサなら口内を……でもそれだとうなじを狙える人が…』
双頭の巨人を相手にしたときは、弱点部位を潰したと同時に2人がうなじを削いだ。
その時は、異様に肉体の再生能力が高くて、そうするしか倒せないと判断した。
『と言う事は、歯茎6ケ所を一斉に潰したと同時にうなじ3カ所を攻撃する必要が…』
ここでフローラが9人になるように分裂すればできたかもしれないが彼女はただの人間。
自分の身体能力はコニー未満の人間だとフローラ本人が理解している。
そんなご都合主義が存在しない以上、8名の兵士を集めてくるしかない。
『後方から兵士長とミカサ、前方にはケニーさん』
まず3名はクリアした。
残り5名の兵士を探さなければならない。
『時間が無いわ!!』
とにかく情報伝達を急ぐ必要がある。
フローラは黄色の信煙弾が装填された専用銃を取り出した。
『誰でも良いから来て!!』
音を立て信煙弾が天空へと撃ち込まれた。
弾は黄色の煙を吐き出しながら円弧を描いて地面に落下した。
その煙を見た変異種は信煙弾が落ちていったところに向かって行く。
ここでフローラは選択肢を間違えたと後悔した。
『しまった!?こうなるのは……』
意識が飛びそうになり歯を噛み締めて意識を保とうとする。
巨体の割りには機敏な動きをする巨人は正門付近に辿り着いた。
「やばい!正門が破られるぞ!!」
指揮系統が崩れ去った以上、班長クラスに判断が任された。
彼らは正門が破られればシガンシナ区陥落の再来と考えた。
その結果、動ける兵を正門に向かって突撃させた!
「フローラ!?」
「無事か!?」
「ごほっ!!おええっ!!……へ、兵士ぃ長ぉ?ミカサァ!?」
心配する2人に対して口内から吐瀉物を溢してから心配するフローラ。
「良かった無事ね!」
「オイオイ…そんなわけねぇだろう」
「動いて息をすればフローラは無事です」
「なんだそれは…意味が分からん」
息をして動いている時点でミカサはフローラが無事だと判断して安堵した。
そんな彼女を見て困惑したのはリヴァイである。
頭から血を流して喘いで吐瀉した女に向かって掛ける声ではない。
どんだけ普段から死にかけたのかと困惑する暇はないが一瞬だけ硬直はした。
「兵長、すみません!遅れました!!」
「よく舌を噛まなかったわね」
「うる…むぐっ「静かにしろ」むぅん」
巨人の動きに振り回されたもののペトラとオルオが合流した。
これで残り3名居れば小数点以下切り捨てであるが勝機はある。
「何があった?」
「弱点部位を発見しました。それぞれ巨人の歯茎、6カ所です」
情報提供を求めたリヴァイに対してフローラは予想外の事を口にした。
リヴァイ、フローラ、オルオ、ペトラ、ミカサの5名。
全員が口内に狙いに行けば、うなじを削ぐメンバーが居ない。
だからといって兵力を割り振れば、弱点部位を全て潰しきれない。
「さてどうする?このままだと全滅するが…」
「俺たちが弱点部位を潰す!フローラとミカサは巨人のうなじを削げ」
仕方なくリヴァイは部下達と共に歯茎を潰す作戦にした。
自分が選別して任命した部下を信じるしかない。
選択肢を間違え続けた彼は、自分と同等の活躍を部下に強いるしかなかった。
「待ってください。一斉に弱点部位を潰したと同時に全てのうなじを削ぐ必要があります」
「なんでてめぇがそんな事知っているんだ?」
「似たような2つ頭の変異種と交戦したからですわ」
「お前…」
そんな情報など彼女以外は知らなかった。
フローラは自身の巨人討伐数を過小に報告しているせいで整合性も糞も無かった。
下手すれば845年に討伐した巨人でフローラから譲ってもらった件が山ほどある。
そう実感しても可笑しくないほど、新兵のはずの彼女は巨人と交戦し過ぎていた。
「何かおかしい…」
「どうしたペトラ?」
この中で唯一ちゃんとした女性であるペトラ・ラルは異常を感じ取った。
すぐに残った彼らも嫌でも感じ取る事になる。
「巨人が大気を吸い始めました!」
「もうやるしかねぇ!!」
ずっしりと地面に伏せた変異種は、再び3つの頭が口を開けて大気を吸い込み始めた。
わざわざ弱点部位を晒してくれて攻撃しやすくなった。
だが、それは一歩間違えれば巨人の体内に吸い込まれてお陀仏となるという事でもある。
「おいペトラ」
「何よ?」
「絶対に生き残ろうぜ」
「…いいわ。あんたもしっかり生き残ってよ」
「俺様が死ぬわけねぇだろう」
死期を悟ったペトラとオルオは最後の確認をし合った。
口では死ぬなと言ってるし本心だが生き残れるとは思っていない。
ただ、ペトラには父が、オルオは弟たちや親を守るために腹を括った。
「フローラ!向こうから騎兵が3つ来た」
「……あれは!精鋭班の班長たち!」
ミカサの一言でフローラは下を見下ろすと騎兵が3名、こちらに向かってきた。
駐屯兵団第一師団精鋭部隊のイアン、リコ、ミタビ班長であった。
「おい!なんかあったのか!?」
「ミタビさん!弱点部位を発見しました。それぞれの巨人の歯茎です!」
「何だと!?」
時間が無い以上、居場所をバラしてでも大声でミタビ班長に情報を知らせた。
その声に反応したのか、巨人は3名の騎兵がいる方向に向かって腕を払う!
「ついて…ねぇな…っと!」
「よいしょ!」
「うおっ!?」
3名の騎手は鞍から飛び出して立体機動に移った。
少し反応に遅れたミタビ班長に腕が掠りそうになる。
幸運な事に熱風のおかげで彼は上方に押し出されて辛うじて生き残った。
「何だこれは?人類最強部隊の結成か?」
「イアン班長、冗談を言っている場合じゃありませんわ…」
「こうでもしないと緊張がほぐれねぇだろう?」
「まあ、確かに…」
さきほどまでは緊張感で押し潰されそうだったのに呆れた“声”になった。
それだけでフローラは、イアン班長に感謝しきれない。
何故ならあの空気で生還できた兵は自分の記憶の中で居なかったからだ。
「お前ら急ぐぞ!いつ針を射出されてもおかしくねぇ!」
「でもこれで8人。あと1人は?」
何とか8人揃ったが、あと1人不足している。
時間が無いと分かっててもミカサは疑問を投げかけた。
「大丈夫よ。最後の1人はわたくしの知り合いがやってくれるわ」
フローラの根拠のない言葉。
昔からこんな感じだけど何故か信じたくなる。
それは親友と言うより背中を預けられる仲のおかげなのか。
「分かった。フローラを信じる」
ミカサはフローラを信じるしかなかった。
「囮は誰が行く?」
ミタビ班長の一言で1人を除いて全員が同じ人物を見た。
当然、囮役に無言で任命された人物はたまったものではない。
「なんでわたくし!?」
「お前が一番生き残りそうだから」
「分かりましたわ!リヴァイ兵士長とミカサはうなじを攻撃してください」
「残る1つはどうする気だ?」
それを答えようすると背後からフローラの肩が叩かれて『手投げ式の音響弾』を手渡された。
全員、その人物に面識は無かったが彼女はケニーだと気付く事が出来た。
「そいつは?」
「わたくしに立体機動術とか色々教えてくれた師匠ですわ!」
「……ああ」
「兵長と黒髪の女性と共にうなじの攻撃をお願いします」
「分かった」
フローラと謎の人物を除く兵士は、誰もが疑問に思った。
特にリヴァイは、何か懐かしい雰囲気を感じられた。
だが既に巨体の腹は膨れており、いつ針を射出しても可笑しくなかった。
彼は、頭に巻かれた包帯を取って確認したい気持ちを抑えて気持ちを切り替えた。
「ミタビとイアン、私はフローラと歯茎を潰す!」
「じゃあ俺はペトラか」
時間が無い。
最低限の確認をしてジェスチャーで情報伝達をした。
「では、行きます!!」
覚悟を決めたフローラはアンカーを外して巨人の視界に飛び降りて行った。
呑気に大気を吸っている巨人に注目されて気を逸らす重要な役割。
片手で安全ピンを取り6つの目を注目させた。
「はーい!!注目!!」
そして音響弾を地面に向かって投げつけた。
一瞬だけ全ての目がそれに向けられるがすぐに落下するフローラを見る。
獲物を獲ろうと両手を動かした瞬間、音響弾が鳴り響いた。
通常なら巨体には支障が無いが大気を吸入している影響か。
逆に変異種は大気を吐き出して見悶えていた。
「うぐっ」
音響弾によって全身が揺れて目が霞んだがフローラは近づいて来た歯茎にアンカーを打ち込む。
同時に5人の兵士が飛び込んできて唇にアンカーを突き出した。
最初で最後のチャンス!
壁内の最精鋭部隊が巨人の歯茎に向かって行った。
「うぅぁあああぁぁああ!!そこぉおおお!!」
フローラは何も考えなかった。
下の歯茎を削ぐ事以外は。
上はリコ班長がやってくれると信じて双剣を構えた。
「うぐっ!?」
誰かの踏み台にされた感覚が一瞬だけした。
その時、時が止まったように静かになった。
ゆったりとした時間の流れを感じられる。
何が起こったか分からないが、彼女がやるべきことは1つ!
「はぁ!!」
双剣が肉を斬りつけしなやかに曲がり白色の肉を削いでいく。
その時、発砲音がしたが彼女は気付くことは無かった。
それより何度も味わってきた肉を削ぐ感覚ではあるが、それで終わりではない。
アンカーを外して補助スイッチを触り、刃のロックを外して捨てた。
「うぐっ!」
身体を捻り頭を地に向けて空が真下に見える光景。
フローラは、そこへはばたく為に今度は唇の裏にアンカーを打ち込んだ。
『合図だ!!』
リヴァイとミカサとケニーは、それぞれ任されたうなじを削ぐ!
常人ではGに耐え切れない姿勢で何度も身体を捻りながら、双剣を構える!
狙うは、うなじの肉!
目紛るしい視界の変化に対応しながら相方同士のタイミングを合わせた。
「終わりだ!!」
「これで仕留める!!」
「おおおぉらああぁよっと!!」
同時にうなじの肉を削いで脱出していく3人。
かつて世界をどん底に落とした化け物の片割れは、その本領できずに倒れ込んだ。
力尽きて倒れ込む巨体の衝撃によって付近にあった物は全て宙に舞う。
「針にアンカーを打ち込んで脱出しろ!」
リヴァイのアドバイスを聴くまでも無く全員が針にアンカーを打ち込んだ。
結晶体の結合が外れ始めて鱗のように剥がれ落ちて来る。
それでもあのまま着地すれば巻き込まれるのは明白なので利用するしかない。
『やったわ』
オルオ先輩やイアン班長、リヴァイ兵士長やミカサ、ケニーさんがどうなったか分からない。
それでもフローラは意識が飛びかけながらも巨人を討伐したという事は分かった。
身体を酷使し過ぎて、もはや気力のみで支えていたが、何とか尻尾方面に逃げて行った。
最後は、張りぼてのように1枚の壁しかない障害物にアンカーを突き刺して力尽きた。
「やったか!?」
「おいやめろ!!」
ユトピア区の壁内に居た兵士の誰かがそう叫んだ。
復活フラグの呪文が聴こえたので誰かがそれを咎めた。
そんな声を意識が薄れたフローラに届いた…感じがした。
「ハァハァハァ……ごほごほっ!……これで…終わり?」
全ての地域に平等に死をもたらす幾千万の結晶体の脅威は終わった。
足場は崩れ去った消えゆく巨人の死骸と結晶体と瓦礫の山。
何も知らない第三者から見れば人類は負けたと錯覚しても可笑しくない。
内扉は破壊されたものの正門はまだ壊されていない。
総力戦となったが壁内人類は勝利したと言えるだろう。
『本当に?』
壁内、壁外含めて100体以上の巨人。
超大型巨人もけむくじゃらの巨人もさきほどの3つ首の化け物。
人類を滅ぼそうとする者を全て撃破した。
誰もがそう思っていたが、ごく少数のみはそう思ってはいない。
「まだ終わりじゃない。鎧の巨人が残っている」と誰かが囁いた。
その時、フローラの意識は完全に回復して辺りを見渡すが…。
それをやった人物を特定する事はできなかった。
巨人が討伐できた事に喜ぶ声、泣き啜る声、生き残った事を感謝する声。
その中で異質な声が聴こえた気がした。
「今のうちに逃げるぞ」…とよく知っている人物の声が聴こえた。
その瞬間、震え始めた両手で操作装置を握り締めた。
アンカーを外して着地して双剣を構えて直して声の下方向である正門へと走る。
「正門はミカサたちが行ったのね。わたくしも急がないと…」
気を失いかけていたのは僅かな間と思ったが距離からして意外と経過していたようだ。
音を阻む障害物が無くなったせいか聴力の良いフローラにエレンの声が聴こえて来た。
リヴァイ班の生還を喜ぶエレンの表情を思い浮かべるだけで口角が吊り上がってしまう。
でもまだ鎧の巨人がいるせいで一悶着あると分かっているのですぐ憂鬱になった。
「呑気そうでいいわね…」
ケニー隊長は旨い事、逃げられたのか。
破壊された内扉方面にいるようである。
おそらく王政府に伏せられている兵器を回収しているのだろう。
「やりたくねぇ」とか「いっそ爆破しちまうか」とかいう愚痴が聴こえて来た。
その声は、負の感情を“声”にして脳内に届けているのか。
走りながら余計な事を考えてしまうフローラの前に人影が見えた。
「どこに行くんだフローラ?」
「リコ班長、鎧の巨人の能力者の声がしましたので現場に急行する所ですわ!」
リコ班長に呼び止められたフローラは、行き先を簡潔に伝えた。
すぐにでも止めないと油断しきったこの状況では逃げられるのが明白だった。
できればリコ班長にも協力を要請したかった。
「そうか、わたしは班を編成し直して壁内を警戒するよ」
「そうですか…」
「オイオイ、フローラらしくないな」
「ミタビ班長、それにイアン班長も…」
リコ班長と違って2人は血塗れだった。
理由はどうあれ彼らにも壮絶な事があった事は疲れ切った顔に浮かんでいた。
そのせいで救援を要請できる状況ではないと分かってしまって落ち込むフローラ。
「ここは俺達が絶対に死守する!お前はやるべきことをやれ!」
「イアンの言う通りだ。お前がいつも通りじゃないとこっちも拍子抜けするんだよ」
「それは酷くないかミタビ?」
「じゃあ、このフローラの顔はいつもの奴か?」
「そりゃあ違うが…」
ボロボロの2人に励まされた所を見ると相当顔が酷かったのだろう。
恥ずかしくなって緑色の外套のフードを深く被ってしまったフローラ。
そんな乙女らしい姿にツボに入ったのか大笑いをする2人。
「もう!笑わないでくださいよ!!」
「すまんすまん!乙女っぽくてつい…!」
「酷い!!」
この場に居る全員は疲れ切ったがそれでも彼らは信頼している。
きっと彼女が生きて帰ってくることを。
「お前たち!フローラを引き留めて遊んでるんじゃない!」
「おっと鬼隊長のお出ましだ」
「頑張れよフローラ」
「はい!!」
気力で立っているミタビとイアンはそれをバラさないように取り繕っていた。
そして手を振っていた頭進撃娘が全速力で走り出した瞬間、倒れ込んだ。
「ミタビ、イアン。負傷者は大人しくしてくれ」
「しょうがねぇだろう。先輩がこんな格好悪い姿を見せられないだろう?」
「ミタビの言う通りだ。これは男のプライドって奴だ」
トロスト区奪還作戦のように力尽きて動けない2人。
そんな彼らを介抱するように残らざるを得なかったリコ・ブレツェンスカ。
「実はフローラと一緒に行きたかったんだろう?」
「俺らは大丈夫だからついてやれよ」
「あの子は大切だけど、同僚は見捨てられんさ」
リコ班長は、このままフローラを行かせると二度と帰ってこない予感がしていた。
その悪い予感は的中してしまい、後にリコは彼女に同行しなかったのを後悔する事となる。
さきほどのやり取りが、リコとフローラ・エリクシアとの最後の会話だった。
そしてこれが駐屯兵団第一師団精鋭部隊とフローラとの今生の別れとなってしまった。