転生したらメガテン世界だった orz   作:天坂クリオ

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Q、すぐに強くなるにはどうすればいいの? A、強くなるまで地獄を見ればいいよ!

数日後。俺は織雅さんが運転する車で、富士山へと向かっていた。正確には富士山にあるらしい修行場。そこで修行をすれば、俺も霊能力者として【覚醒】できるらしかった。

 

真面目に学生生活を楽しんでいると、部活や友人とのつきあいがあるので長期休み以外でのフリーな休日は意外と少ない。

だが世界の危機とそれを生き抜く方法の話を聞いたなら、平凡な一市民のまま過ごす選択肢はなかった。

なので数少ない連休を『オフ会』の名目で費やすことに、何のためらいもない。

 

「織雅さん、本当にそこで修行すれば、俺も魔法とかスキルを使えるようになるんですよね?あと悪魔の使役とかできるようになるんですよね?楽しみだなあ」

 

「ははは、伊吹くん落ち着きなさい。建前がもう跡形もなくなってるよ。今向かっているのは日本最高の神社で、神主は真性の能力者かつ転生者だ。彼の修行を耐え抜けば、キミも【覚醒】できるのは間違いないよ」

 

「マジですか。ファンタジーな事ができるようになるなんて、思ってもなかったなあ」

 

楽しみすぎて昨夜はなかなか寝付けなかった。

友人たちから色々と聞かれたが、曖昧にはぐらかした。本当の事を言ったって、信じてもらえるわけがない。

 

織雅さんの話を聞いて自分も件の転生者専用掲示板を覗いてみたが、信じられない内容の話が色々と並んでいた。

修行が無茶苦茶辛いとか、すぐに覚醒できるわけじゃないとか。それに覚醒できたとしてもまとも(・・・)なスキルが手に入るか分からないなど、悪い情報も結構あった。でも式神が使えるようになるのは確実らしい。

 

期待と不安半分でドキドキワクワクしながら、外に見える富士山をながめていた。

 

そして数時間のドライブと本格的な山歩きを経て、目的地へとたどり着いた。

 

「さあ着いたよ。ここが我らが総本山、阿頼耶(アラヤ)神社だ」

 

掲示板で最高の場所だと噂されていた神社は、シロウトの俺でも納得できるほど荘厳な気配が満ちた場所だった。

先ほどまで遭難したのではないかと思えるくらいの森の中を歩いていたら、突然視界が開けて立派な鳥居と社殿が現れたのだ。

目立つはずなのに気付かなかったのは、やはりここにも結界が張ってあったかららしい。

 

境内には白袴の神社関係者だけでなく、俺のような登山客めいた格好の人もけっこういた。

 

「あの人たちも修行のために来たんだよ。覚醒までの時間は人それぞれだから、毎週来る人もいるんだ」

 

それぞれの服装で、幾つかのタイプに分かれるらしい。

白袴の人はすでに覚醒して、ここで働いているのだとか。

登山客風の人たちが通いで、俺のようにカジュアルな服装の人が初回なのだとか。

ボロボロの修験服を着ている目が据わった人たちは、長期の泊まり込みで修行しているらしい。そこまでやっても覚醒できていないために、精神もすさんでいるから話しかけない方がいいと言われた。

 

「本当に才能と運によるから、あきらめて頑張るしかないよ。伊吹くんは半分は覚醒してるみたいだし、あの人たちほど苦労することはないと思うけど」

 

「だといいんですけどね」

 

自分の服装を見直して、ひょっとしてお気楽すぎたのではないかと背中を冷や汗が伝う。

 

「ここにいるのって、みんな転生者なんですよね」

 

「そうだよ。キミもあのスレを見ただろう?そもそも転生者限定だし、ここに入るには案内が必要だからね。それぞれが転生者だって確信がある人しか連れて来れないんだ。キミの話はもう神主に話してあるから、後で挨拶しておきなよ。って、噂をすれば、現れたね」

 

織雅さんの視線の先には、白袴を着こなした青年がいた。

眩しいほどの気配を放っていて、この場の誰よりもすごいことが見ただけでわかる。

 

「あの見た目で30越えてるっていうんだから詐欺だよね。わたしも覚醒するのがあと数年早ければなあ」

 

「覚醒すれば肉体も活性化するから、ピーク時の自分に近づけるんですよね?織雅さんも覚醒してるなら、少しずつ若返るんじゃないんですか」

 

「肉体が活性化しても、堕落した精神まで活性化するとは限らないのさ。一度ついた贅肉を落とすのは、並大抵の努力じゃ無理なんだよ」

 

「へー、そうなんですか」

 

イマイチ分からないが、そういうものなんだろう。

神主に挨拶しようと思ったら、他の参加者たちが集合して列を作り始めた。

 

「挨拶が始まるから行ってきな。ここから先は、キミ次第だ。わたしは普段は社務所の方にいるから、何かあったら声をかけてくれていいから。じゃあ、頑張って」

 

手を振る織雅さんにお礼を言って、列の後ろに並ぶ。

俺の人生の第一歩が、ついにここから始まるのだ。

 

◇◇◇

 

残念、きみのじんせいは、ここでおわってしまった!

 

そんなふざけたモノローグが頭に浮かんだ。

 

断る!死んでたまるか!

深い水底から水面を目指すように意識を覚醒させていく。

呼吸するために必死で泳ぎ、光の中へと浮かび上がる。

 

「かはっ!はあーっ、ひゅー」

 

深呼吸して、自分が生きていることを確認する。重い瞼をゆっくり開くと、神主の顔が目の前にあった。

 

「おめでとう。たった三日で覚醒できるとは、なかなか早かったね」

 

河原で気絶していたところ、経過を見るために巡回していた神主に発見された。

どうやら無事(?)に目的は達成できたらしい。

 

「死ぬかと思いました」

 

声が擦れている。

自分の言葉で、吹っ飛んでいた記憶が蘇ってきた。

 

修行はまさに地獄だった。

よくあるイメージの滝行ですら、死にかけるまでやらされた。というか気付いたら救護班に蘇生されていた。

いま思い返せば、夜闇の中で一人で延々と座禅をするのが、一番楽だった気がする。

そうして精神的にも肉体的にも何度も死にかけ、それでやっと覚醒できたらしい。

 

最後は神主が用意した式神と命がけの鬼ごっこをやらされ、最終的には賽の河原の手前まで行ったようだった。

 

いちおう救護班が常に待機していたとはいえ、『死んでも文句は言わない』という同意書が脅しじゃなかったことを実感した三日間だった。

 

「【半覚醒】していると、危機感が違うんだろうね。やっぱり悪魔の存在を感じ取れる方が、それに順応しやすくなるのかな。他の人でも試してみようかなあ」

 

神主は新たな拷問方法の検討をしているみたいだが、コメントする余力は残っていない。

新たな地獄が発生した気がするが、残念ながら俺に止めることはできそうもなかった。

これから修行にやってくる新人たちは頑張ってほしい。俺もやったんだからな。

 

何度も死にかけて精神が研ぎ澄まされたのか、明け方の空に残った月がとてもキレイに見えた。

 

「意識は残ってる?大丈夫そうかな?さっそくで悪いけど、キミのステータスを覗かせてもらうから動かないでね」

 

神主がこちらの目の奥をのぞき込んでくる。元気だったら距離を取りたかったが、今はもうどうにでもしてくれという心境だった。

 

「ほほう、これはこれは面白いスキルを発現したみたいだね。キミが手に入れたスキルは……おや、寝ているのかい?おーい。待ちに待ったスキルの発表だぞ」

 

「うい、きいてやす」

 

「言葉になってないよ。まあ二徹して走り回ったらこうなるか。休憩所に運んでおくから、今は安心して休んでいいよ。お疲れ様」

 

「んえ」

 

何を言おうとしたか思い出せないほど、あっという間に眠りに落ちていった。

 

【第n回】覚醒修行スレ【地獄へようこそ】

 

……

 

298:名無しの新人転生者

俺も覚醒しました。何度死ぬかと思ったか。

 

301:名無しの転生者

>>298

おめ。

 

302:名無しの転生者

>>298

おめでとう。やるじゃないか。

 

303:名無しの転生者

>>298 おめでとう。

今回もそこそこ覚醒できたみたいだな。

このペースで覚醒者が増えてくれればいいんだが。

 

305:名無しの転生者

>>303 脱落者の方が多いからすぐに頭打ちになるぞ。

 

306:名無しの転生者

そんなことより俺は新人たちがどんなスキルを使えるようになったのか気になるんだが。

 

307:名無しの転生者

そうそう。データ収集に協力しろください。

 

310:名無しの転生者

オレは【ジオ】だったぞ。攻撃魔法って当たりの部類だよな?

 

311:名無しの転生者

>>310 超当たりだよ!うらやましいからオレにくれよ!

 

313:名無しの転生者 >>310

>>311 だが断る

 

314:名無しの転生者

自分は【トラエスト】だった。これって逃走用の魔法だったっけ?

なんの役に立つんだよ!

 

315:名無しの転生者

>>314 異界に迷い込んでも一瞬で脱出できるじゃないか。けっこう当たりだと思うぞ。

 

316:名無しの転生者

>>314 救出とか逃走用で需要はあるぞ。異界ダンジョンに挑戦する時には同行して欲しい。

 

317:名無しの転生者 >>314

>>315

>>316

アリアドネの糸扱いじゃないですかー。やだー!

 

318:名無しの転生者

>>318 リスに気をつけろよ

 

320:名無しの新人転生者

みなさん魔法使えるようになったみたいでうらやましい。ちなみに俺は【勝利の息吹】でした。

 

321:名無しの転生者

>>320 おお、それって戦闘勝利時に全回復するやつだろ。大当たりじゃないか。裏山。

 

323:名無しの転生者

>>321 それは【勝利の雄叫び】だ。【息吹】とは別物だぞ。新人が覚えたのは『戦闘勝利時にHPとMPがわずかに回復する』方だ。

 

325:名無しの転生者

>>323 なんだけっこう微妙な効果だな。

>>314 >>320 覚醒ガチャハズレ組へようこそ!歓迎するぞ新人!

 

326:名無しの転生者 >>314

>>325 自分、レスキュー隊として活躍することに決めたんで一緒にしないでもらえます?

 

327:名無しの新人転生者

やっぱり微妙でしたか。くそう、俺も魔法使いたかったな。

 

328:名無しの転生者

>>326 急に前向きになっててワロタw

>>327 元気出せよ。おれもナカーマだ。

 

◇◇◇

 

というわけで【勝利の息吹】が使えるようになった。

戦闘勝利時に少量回復とか言われても、戦闘が楽になるわけじゃないからあまりうれしくない。

せめて敵に少しでもダメージを与えられるスキルがほしかった。

しかもこのスキルは悪魔を倒さないと発動しないため、修行によって発生した筋肉痛や疲労は回復しなかった。

おかげで、連休明けの一日目は休まざるをえなかった。

 

しかしあれだけ死にかけながらも一日で全回復したのは、覚醒した影響なのだろうか。

覚醒したはいいものの、強くなるには修行をするか悪魔を倒す必要がある。

悪魔を倒すにはやっぱり攻撃スキルが欲しい。それが無理なら戦闘用の式神があればいいのだが、需要に対して生産がぜんぜん足りていないらしく、俺がもらえるまでにはそこそこ時間がかかるらしい。

 

しばらくは日常を過ごしながら、自主的なトレーニングをするしかなさそうだ。

 

ため息をつきながら、学校へ向かう。

それにしても滅亡のカウントダウンが始まっていると言われても信じられないくらい、世界は平和だ。

ニュースでは大小様々な事件が報道されているが、悪魔が絡んでいるとは思えないものばかりだ。

もしかしたら俺は騙されたのだと思いそうになるが、現実に俺は厳しい修行を耐え抜いて覚醒したのは間違いない。だって普段から(なんとなく嫌だな)って思っていた街角に、不気味な思念体がいるのが見えているから。

 

メガテンで見たような悪魔はまだ見ていないが、見える世界が変わったことは間違いなかった。

 

「おっ伊吹じゃん。おはよう。急病はもう大丈夫なのか?」

 

通学路の途中で、クラスメイトと会った。

 

「山本か。おはよう。疲れは抜けてるけど、気分的にダルいかな」

 

「連休で遊び過ぎて風邪引くとか馬鹿だろ。皆勤賞逃して残念だな。だがそんなお前に、テンション上がること教えてやるよ。実はな、すっごいかわいい転校生が来たんだよ。あれヤバイよ、芸能人とかそんなんじゃねえ。まさに天女様ってやつだよ。オレたちとは住む世界が違うお嬢様なんだよ」

 

「ふーん」

 

「あっ、おまっ。反応鈍すぎだろ」

 

たしかに平凡な世界では驚きのニュースだろうけど、あいにく俺は能力に覚醒するというそれ以上の体験をしてきたのだ。

今さらかわいい転校生程度で揺らぐ俺ではない。

 

「伊吹も見たら絶対ビビるからな。ってオイ、あれ見て見ろ」

 

山本が必死に指さす学園の校門前に、黒塗りの車が止まった。

通学中の生徒たちが見守る前で、運転手が回り込んできてドアを開ける。

そこから出てきたのは、明らかに普通ではない雰囲気の少女だった。

 

輝くような銀色のショートヘア。雪のように白い肌。そして宝石のような青い瞳。

 

周囲と同じ平凡な黒のブレザーを着ていてもなお輝くような雰囲気をまとった美少女だ。山本が騒ぐのもわかる。

 

「あれだよあれ。あれが転校生のクズノハさんだよ。なあおい、あんなかわいい子がオレたちのクラスに入って来たんだぞ。信じられないだろ」

 

山本がテンション爆上がりしているが、俺は別なところに引っかかった。

 

「今なんて言った?【くずのは】って、そう言ったのか?」

 

「そうだよクズノハさんだよ。昨日は女子に囲まれてろくに話もできなかったから、今日こそ声をかけてやるぞ」

 

クズノハ、漢字で書くと【葛葉】。

それはメガテンシリーズと世界観を同じくするRPG、デビルサマナーシリーズの主人公とその家系を示す言葉だ。

デビルサマナーとして由緒ある家系であり、【葛葉ライドウ】を襲名した者が国の霊的守護を担っている。

 

つまり彼女もまた、霊能力者である可能性があるということだ。

 

「早く行こうぜ。急げば昇降口で追いつける」

 

山本が横から肩を叩いてくる。

まるでその声が届いたかのように、話題の葛葉がこちらを向いた。

 

100mは距離が離れていたし、間に他の学生たちが何人もいる。

それなのにクズノハは、俺のことを真っ直ぐに見つめてきた。その視線は鋭く、矢で射貫いてくるようだった。

 

「おいおい、クズノハさんがこっち見てるよ。オレに気付いてくれたのかな。前にも後ろにもクラスメイトっていないじゃん?なあおい、あれってオレを見てるよな」

 

「……ああ、そうかもな」

 

話しているうちに、クズノハは視線を逸らして行ってしまった。

このタイミングでなんで、葛葉の名を持つ者が現れたのか。俺には分からないが嫌な予感がする。

俺は山本に急かされながら、その背中を追いかけた。

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