二日後、俺たちは裏東京に発生した悪魔の大部分を討伐し終え、残るは東京湾の大悪魔【邪龍ティアマト】だけとなった。
最終決戦の前ということで、見張りはほんのわずか。
俺も休むよう言われているのだが、ちょっと眠れそうもないので一人でキャンプの外を歩いていた。
裏世界でも夜は暗くなる。空の見えない林の中なので、照明の届かない場所は不気味なほど暗く感じる。
人が寄りつかないので静かに瞑想するのにちょうどいい。敵襲の心配をせずにこういうのができるのも、周辺の悪魔を狩り尽くしたからこそだった。
目を閉じるまでもなく真っ暗で、自分の呼吸と、揺れる木々のざわめきだけしか聞こえない。
ここは、『 』しか存在しない。
自分は存在せず、よって意識も存在しない。
何も無い。なにもない。
それは『空』であり、それは『全て』である。
ゼロと無限の区別はなく、1と10に塵ほどの違いも無い。
……こんな思考も無意味だ。
考えてはダメだ。頭を空にして、何も考えずに、ただ『空』にならなければ。
どのくらいの時間そうしていただろうか。こちらに近づいてくる足音が聞こえて振り返ると、葛葉がカンテラ型のライトを持ってきた。
「何をしてるの?」
「瞑想で、心を落ち着けてる。明日がボス戦だろ?だから緊張して眠れなくてさ」
「そうなんだ。わしも、伊吹と一緒に戦いたかった」
本当に残念そうに見えるあたり、俺も葛葉のことがかなり分かってきたのだろう。
明日は霊視ニキたちの露払いとして、ティアマト以外のラフムを受け持つサブパーティーも大量に投入される。その一人に俺も選ばれたのだが、葛葉は後方組の護衛役として居残りとされてしまったのだ。
「そうだな、俺も残念だよ。その代わり、俺が葛葉の分も頑張ってくるから。戦闘区域の外とはいえ、そっちにもラフムが寄っていく可能性があるんだ。気を抜いていい仕事じゃないぞ」
「わかってる。わかってるけど」
葛葉が手を差し伸べ、少し迷ってから俺の袖をキュッとつかむ。
それからじっとこちらを見てくるので、思わず息が止まりそうになった。
なにそれすごいカワイイんですけど。
可愛すぎて思わず抱きつきそうになったけど、いきなりそれやったらヤバいんじゃないか?
こんな状況で葛葉が覚悟してないわけないだろいやでも今はダメだろくぁwせdrftgyふじこlp
鋼の意思で内なる衝動を抑えつけ、なんとか葛葉の両肩を抑えるだけで食い止める。
細いし小さいし柔らかいし壊れそうだし俺がヤバい。
ぜんぜん食い止められてないが、それ以上進まないようになんとか足を踏ん張る。
「くずのは、さん」
「はぃ」
なんか声がうわずってる気がするが、余計なことを考えてはダメだ。マズいのだ。
「今はちょっとアレなんだ。明日がアレだし、アレだから。明日のアレが終わったら、大丈夫だから、そのときにアレするから、だから、その時に。それでいいかな?」
「はい、待ってます」
「じゃあ、そういうことで。また明日、がんばろう!」
葛葉を置いて、闇の中を全力で駆ける。興奮しすぎてこのままでは寝るどころではない。
ヘタレとか言うな。何かあって明日のボス戦に参加できなかったら、スレで何を言われるか分からないだろ。絶対に二度と立ち上がれなくなるくらいのボコボコに叩かれる。そして延々とイジられ続ける。間違いない。
夜に林の中を走ると、普通なら目の前にいきなり木が出てくることになる。
だがレベルが高くなれば反射速度もあがるし、なにより目で見えなくとも気配を察知することもできるようになる。だから避けるのは簡単だ。
そうやってしばらく走り続けることで、葛葉のせいで高まった心拍を走った結果の心拍に変える。
キャンプを何周かしたところで、やっと落ち着くことができた。
汗を拭きにお湯をもらいにいくと、見張りを交代して戻ってきたパンダ先輩がいた。
「お疲れ様です」
「おう、明日がボス戦だってのに、ずいぶん青春してたみたいだな」
「え゛っ、まさか見てたんですか」
「そりゃ、キャンプの周りをぐるぐる走り回ってたら、見張りが気づかないわけないだろ」
「ですよねー」
あっぶねえ。葛葉と話をしてるところを見られたかと思った。
「あと、女の子はちゃんとテントまで送ってあげるべきだぞ。悪魔に襲われる心配はないとはいえ、一人で置いていくのは『無い』ぞ」
「しっかり一部始終を見てんじゃねえですか!」
「いっしょに見張りしてた女性に送ってってもらったから安心しろよ。それと他には広めていないオレの気遣いにもな」
「ありがとうございますコンチクショウ」
「はっはっは、いいってことよ」
着ぐるみの上から腹パンするが、びくともしていない。
フィジカルとメンタルが両方高いやっかいなパンダだった。
◇◇◇
【異界攻略実況スレ】
48:名無しの実況者
ボス戦は順調に進行中。ラフムもサブパーティーで対処できてる。今のところ問題なし。
49:名無しの転生者
楽して攻略できるとか裏山だな。もれが参加した天城山攻略は大変だったのに
50:名無しの転生者
>>49 スレチなんで黙っててもらえます?
51:名無しの転生者
ボスはティアマトと大量のラフムか。経験値もマグネタイトもウハウハなんだろ?俺も参加しておけばよかったな。
52:名無しの転生者
俺も地方出張じゃなければ……
53:名無しの転生者
俺も式神が届いていれば……
54:名無しの転生者
今北産業
55:名無しの転生者
>>54
ボス攻略班がティアマトに特攻
霊視ニキたちがティアマトと、残りはラフムを引きつけつつ散開
以降そのまま変化なし
56:名無しの転生者
>>55 サンクス
霊視ニキなら大丈夫だろ。勝ったな、風呂入ってくる。
57:名無しの転生者
余計なフラグ建てるなw
だが霊視ニキなら心配いらんな。風呂食ってくる。
58:名無しの転生者
霊視ニキの他にも戦ってるのおるんだろ?なのにけっこう時間かかってない?
59:名無しの実況者
ティアマトは全回復するディアラハン持ちだからダメージ与えても回復されてる。
でも、回復キャンセルさせる方法みつけたみたいだから、こっからはどんどん削っていけると思われる。
60:名無しの転生者
>>59 ディアラハン持ちのボスとかクソすぎワロタ
61:名無しの転生者
モト劇場よりかマシやろ。
62:名無しの転生者
永眠コンボよりかマシ
63:名無しの転生者
くちさけマハムド……うっ、頭が……
64:名無しの転生者
>>61 ~ >>63 みんな通った道だから……
65:名無しの転生者
メガテン世界が現実になるとかホンマ世の中クソだな
66:名無しの転生者
>>65 それ何度も言われてることだから
67:名無しの転生者
こんな世界に転生させた神とかいるんなら、何度でもヌッコロしてやりたいんだが
68:名無しの転生者
>>67 その時は俺も協力するから、呼んでくれよな
68:名無しの転生者
>>67 ほんそれな
69:名無しの実況者
あっ
70:名無しの転生者
>>69 どうした?何かあったか?
71:名無しの実況者
葛葉フレンズが死んだ
72:名無しの転生者
>>71 は?
73:名無しの転生者
>>71 このひとでなし!
74:名無しの転生者
>>71 このひとでなし!
75:名無しの転生者
>>71 この人で無し!
76:名無しの転生者
は?ネタじゃないよな?詳細情報求む
77:名無しの転生者
おいおい、死ぬ要素なんてあったのかよ。聞いてないぞ
78:名無しの転生者
葛葉フレンズってそんな弱かったの?
79:名無しの転生者
>>78
・初期スキルがHPMP回復する【勝利の息吹】で継戦能力高かった
・最近レベルが高くなってたので、敵が多いと思われる異界だったので声をかけられた
・葛葉一族の一人が相棒(美少女)
・【邪神サマエル】(劣化分霊)を仲魔にしてる
死ぬ要素あるか?
80:名無しの実況者
ティアマト発狂→魔法スキルにより領域(泥の東京湾)全体に氷の波が発生→敵も味方も一時氷結→氷の波で死んだラフムが即補充される→ブフーラ・ムドオンの弾幕再開
ある意味デスコンボだったとは言っておく
81:名無しの転生者
>>80 味方もろとも全体氷結はヤバいな。でも死んだの葛葉フレンズだけなん?
82:名無しの実況者
>>81 葛葉フレンズは直前にバックアタックくらって囲まれた後衛を助けに行って、その後衛が逃げきるまで一人でタゲを引き受けてた。
同じような状況は何度かあって、今回も同じく大丈夫だったと思ったらボスの特殊行動が運悪く挟まった。デスコンボさえなければ乙ることはなかった。
サマエルも攻撃食らってたけど、明らかに葛葉フレンズが狙われてた。
味方がもっといれば攻撃がばらけただろうし、早めに復帰したヤツが回復アイテム使えたはず。
事実ほかは一応みんな生きてる。
マジでタイミングが最悪だった。
83:名無しの転生者
まま、リカーム持ちがおるやろ
最悪でも式神ボディ使ってTS転生させれば問題なかんべ
84:名無しの転生者
>>83 オレの出番だな?最高のボディを用意してやろう
85:名無しの転生者
>>84 そしたらフレンズは葛葉家に嫁ぐことになっちゃう!?
86:名無しの転生者
>>85 えっ、フレンズもうそこまで話進んでるん?なら彼女ちゃんのためにも両方つけてあげないと!
87:名無しの転生者
>>84 わたしは百合でもいっこうに構わん!!
88:名無しの実況者
>>84 ~ >>87 おまえらそんな話してる場合じゃ無いだろwwwいい加減にしろwww
いま葛葉フレンズの救出隊が、バフ大盛りで救出に向かったわ。もどってきたらリカームするから、TSの用意はせんでいいぞw
89:名無しの転生者
ちっ、惜しいものを無くしそこねたな
90:名無しの転生者
>>88 ティアマト戦でバフ盛ったら危なくないか?
91:名無しの実況者
>>90 ティアマトと直接戦ってなければ大丈夫。
救出隊はレベル的にバフ盛りしないと危ない。
92:名無しの転生者
ちなみに葛葉フレンズのパーティーメンバーってどんなんだったっけ?
93:名無しの実況者
>>92 JK葛葉とJD二人とその式神とラル教官+グフ
94:名無しの転生者
>>93 やっぱりフレンズはTSさせておくべきでは?
95:名無しの実況者
>>94 ひがみはやめとけw
というか、JK葛葉が半狂乱になってて見ててツラい。JDの説得がなければきっと一人で突っ込んでた。
救出隊は上記のパーティー+α。
少人数だけど、死体回収して戻ってくるだけなら問題ないと思われる。
96:名無しの転生者
>>95 葛葉フレンズ女の子泣かすなんて最低だな。死ねよ。あ、もう死んでるか。
97:名無しの転生者
まあデスコンボはメガテンあるあるだから仕方ないね
98:名無しの転生者
>>95 葛葉フレンズの方はわかったから、全体の戦況を聞きたい。
99:名無しの実況者
全体的には立て直しが終わったところ。霊視ニキたちは問題なく戦ってる。
ティアマトはあの全体攻撃に回復効果ついてたみたいで、また全快近くまで回復してる。
100:名無しの転生者
>>97 やっぱりティアマトはヤバかったな
オレは参加してなくてよかったかも
101:名無しの転生者
なんにせよ霊視ニキならなんとかしてくれるだろうから心配ないな
◇◇◇
【伊吹雄利】
暗い、暗い場所に立っていた。
体が冷える。体の芯から冷たくて、震えが止まらない。ものすごく眠くて、まぶたが自然と降りてくる。
こんな所で寝ている場合じゃない。
俺はさっきまでラフムと戦っていたはずだ。はやく戦場に戻らないと。でもここはどこだろう。
寒すぎて体が思ったように動かない。
不意に、背後に暖かい気配を感じた。
ほんのり光る何かが頭を越えて前方へゆっくりと飛んでいく。
その暖かい光を追いかけて前へ進む。
その光は、よく見れば鳥の姿をしていた。光に目が慣れるにつれ、それは三本足のカラスだと分かった。
もしかして、【霊鳥:ヤタガラス】だろうか。
その羽の片方が大きく傷ついているのを見て、子供の頃の記憶がよみがえった。
幼い頃に、獣に殺されたカラスの死骸を見つけて家の近所の神社に持ち込んだ。
いま思い出してみると、神主さんはよく子供の無茶を聞き入れてくれたものだ。
神社の目立たないところにカラスの死骸を埋めさせてもらい、そこで両手を合わせた。
成仏を祈るのならお寺の方がよかったのだろうけど、その時は神社の方がいいと思っていた。
このヤタガラスは、きっとあの時のカラスだ。なぜかそう確信した。
どのくらい時間が経っただろうか。ヤタガラスが羽ばたきながら降りてくる。
気づくと目の前には粗末な桟橋がある大きな川があり、色あせた小舟がつながれていた。
ヤタガラスが桟橋の杭にとまると、小舟から老人が降りてきた。
『やっと来たか、待っていたぞ。あの時とは見違えるようだな。これは期待できそうだ』
老人が意外にハリのある声で聞いてくる。
思い出した、俺は前にもここに来たことがある。
ここは賽の河原だ。死にかけた魂が来るところ。そしてこの川の向こうはあの世で、行ったらもう戻れない。
覚醒修行で河原で命がけの鬼ごっこを強制されたあの日、気がついたらここにいた。
そして、この老人に契約を持ちかけられた。
この老人は日本では
『どちらでもいい、ワシの役目は変わらん。それよりも契約の話だ。さあ、約束のものをもらおうか。嫌なら向こう岸へ渡ってもらうことになるが、どうするかね?』
老人が早くしろと急かしてくる。
この老人は、日本でもギリシャでも渡し賃を要求してくる。
一方メガテンでは、代金を支払うことで復活することができた。俺がこの老人と交わした契約も、それに近いものだった。
桟橋に止まったヤタガラスに腕を差し出すと、身軽に飛び乗ってくる。
このヤタガラスは、ずっと俺を助けてくれていた。
俺が覚醒するまでは陰ながら悪魔を遠ざけてくれていたし、覚醒してからはその能力を貸してくれていた。
【女神転生if~】に存在した強化システム【ガーディアン】。
悪魔が守護霊としてプレイヤーに取り憑き、ステータスやスキルを分け与えてくれる。
このヤタガラスは普通の烏の霊から進化したものなので、攻撃スキルを持っていなかった。でも【勝利の息吹】はあったから、そのおかげで俺はここまで強くなれた。
感謝をこめて頭をなでると、ヤタガラスは「気にするな」とでも言うように鳴いた。
次の瞬間、ヤタガラスの姿は消えて、手の中に暖かく光るコインが残った。
それを、待ちきれない様子の老人へと手渡す。
これが【ガーディアンシステム】の、ある意味で一番重要な部分。
プレイヤーが悪魔に殺されると、カロンによって
つまり俺は、これから新しい
『うんうん、徳と業によってよく磨かれている。お前を選んだワシの目に狂いはなかった。では、次のをくれてやろう』
老人がザルで川底をすくうと、砂利の中に錆びたコインがいくつも混じっていた。
『さあ、どれでも選ぶといい。お前が現世で徳を積んでいれば、それに見合ったものがおのずと選ばれるだろう』
俺は覚醒してから今まで、かなりの数の悪魔を倒してきた。
それが人を救うことにつながるのだと言えれば、十分に徳を積んだことになるはずだ。
大丈夫、きっと次もいい守護霊が憑いてくれるはずだ。
いま戦っているティアマトやラフムを相手しやすいとなお良いのだけれど。
なんて考えながらザルに手を伸ばしたら、川からポチャンと音が聞こえた。
目を上げると一枚のコインが飛んできたので、反射的にそれをつかむ。
手を広げてみると、そのコインから声が聞こえた。
『よいぞ、とてもよい。
コインから水が出てきた。その水はあっという間に俺を飲み込み、背後へ押し流していく。
水流の中にいる俺に、老人の声が届いた。
『ずいぶんやっかいな霊に気に入られたようだな。だが選び直しはできない。また現世でしっかりそいつを磨いて来るのだ』
『ふふふ、磨いてやるのは
まるでジェットコースターに乗っているかのような速度。泳ごうと
ティアマトはHPが削られるとなんとか回復しようとする仕様。
ディアラハン……タメが大きいので攻撃叩き込むチャンス。ひるみでキャンセル
母なる大地……HP4分の1をきると発動。領域全体に氷結貫通攻撃。ダメージの半分のHPを吸収。ラフムも含む。
母の権能……死んだラフムを再誕させる。自動発動。(この時MPが消費されるので、他の魔法を使おうとしているとMPが足りずにキャンセルされる。霊脈に直結してるので、ターン経過でMPは大回復している)