異界攻略を終え治療のために【アサイラム】の病院へ運ばれた俺は、そのまま隔離入院させられていた。
「理由はもちろん、【伊吹童子】との縁を薄くして魔人にならないようにするためさ。本霊の方は神主がやってくれてるらしいけど、こちらでもできる限りのことはしておきたいからね」
病人のような顔色をした医者が言うには、肉体的な傷の治りは常人よりかなり早くなっているらしい。それがまさに魔人になりかけていた証拠であり、しばらくは悪魔との戦闘も厳禁だと言われてしまった。
「そしてこれが最も重要なことだけど、しばらくは名字で呼ばれちゃダメだよ。分かっているとは思うけど、『名前』は最も原始的な魔術の一つだ。キミは名字で呼ばれるだけで、かの鬼に近づきやすくなっている。えっ、邪龍?まあ、どっちでも同じ事だよ。だからここにいる間はキミは【葛葉フレンズ】だし、そう呼ぶから。いいね?葛葉フレンズ」
「わかりました。ちなみに、退院した後は普通に呼ばれて大丈夫ですか?」
「そこまで時間が経てば問題ないよ。本霊の方には神主が話をつけてくれてる。学校が再開する頃になれば、普通に過ごして大丈夫さ」
それを聞けて安心した。
さすがに学校でまで【葛葉フレンズ】と呼ばれるわけにはいかないだろう。
その他の細かな検査結果を聞いてから病室に戻ると、ベッド横のテーブルに手紙が置いてあった。
開くと中から、小型の通信用式神が出てきた。
『やあ葛葉フレンズ、調子はどうかな?』
「神主さんお疲れ様です。色々とご面倒をおかけして申し訳ありません」
『仕方ないさ。さすがの僕でもガーディアンが乗っ取ろうとしてくるとは予想できなかったからね。本霊の方はアマ公にもしっかりと頼んでおいたから、もう向こうから浸食してくることはないはずだ。今はドクターの言うことを聞いておくようにね』
マンガの一反木綿のような紙人形が、神社で忙しく働いているはずの神主の声を届けてくる。
『前置きはこのくらいにして、本題に入ろう。まず、キミの【黒札】への昇格が決まった。封筒に入っているから確認してみてくれ』
神主の言うとおり封筒を確かめると、黒いカードが入っていた。
「俺がもう黒札をもらっていいんですか?まだレベル30になってませんよ」
『僕としては、【黒札】は転生者のみんなに渡したいくらいなんだ。でも非転生者も組織に組み込む事を考えると、優遇しすぎるのはマズいって言われてね。対外的にはレベルも査定基準に入れてるんだ。でも基準のひとつだから、やる夫くんみたいに貢献度が高ければレベルが全然足りなくても黒札を渡している場合もあるよ』
たしかに色白の貧弱ペルソナ使いの幹部がいたなあ。
直接話をしてはいないが、周囲の人たちが「前線は自分たちががんばるから、やる夫さんは事務作業に徹して欲しい」って力説してたっけ。
『続いてだけど、キミの七星村正は本格的に鍛え直すことになったから。負担をかけすぎたみたいで、修復のために素材とマッカが必要になったけど、異界討伐の報酬から引いておくから』
「え”っ、マジですか」
七星村正は俺の大事なメインウェポンだから修復は最優先にするべきだけど、報酬が減るのはちょっと痛い。
「別な素材で代用とかできないですかね?俺の血とか髪の毛とかも素材にできたりは……」
『もちろん診断に使ったキミの血も、有効的に活用させてもらうよ。その上で足りない部分をマッカで補う感じかな。そのぶん性能は高くなることは保証するって、ムラマサが張り切ってたよ』
ムラマサさんがそう言うなら、間違いなく強くなって戻ってくるだろう。
仕方ないから、この先の出費が少なくなることを祈っておこう。
『おっと、もうこんな時間か。僕からの連絡は以上だ。これから大変だと思うけど、頑張ってね』
通信用の式神は小さく折りたたまれていき、小指の先ほどになったところで燃えて消えた。
「ついに俺も【黒札】か。思ったよりも早かったな」
報酬が減るのは痛かったが、それも七星村正の強化のためと思えば諦めもつく。
それより、【黒札】がもらえたことがすごくうれしい。
組織の中で評価された証でもあるし、買えるアイテムが増えたり、割引をしてもらえたりと特典がものすごく大きい。
ベッドの上で黒札を眺めていたら、病室の扉が開いた。
「よう、お見舞いにきたぞ。オレがいなくて退屈だったろ」
「パンダ先輩?お見舞いに来てくれたんですか」
「それはついでだな。今日は重要な相談があって来たんだ。まあ、座れよ」
「座れもなにも俺のベッドなんですけどね」
とりあえずベッドの上であぐらをかく。
パンダ先輩はベッド横の引き出し式テーブルを出すと、そこにノートパソコンを置いた。
「それでは第一回、葛葉フレンズのデート対策会議を始めます。はい拍手ー」
『ガヤお:パチパチパチパチ
その太:88888888
モブノブ:ドンドンパフパフ』
ノートパソコンの画面では、何人ものコメントが下から上へと流れていた。
「えっ、何ですかコレは」
「いま言っただろ、葛葉フレンズのデートプランについてみんなで話そうってことになったんだ。オレたちの声は向こうに届いてる。いわゆるネットラジオ配信だな」
「いきなり何を言ってるんですか。ワケわからないんですけど」
「まあ耳を貸しなさい若人よ」
パンダ先輩が肩を組んで耳に口を寄せてきた。
「お前、異界討伐の最後で味方に大技ブッパしてきたろ。もちろん分かってる。悪魔に乗っ取られかけてて、お前の意思じゃなかった。それはみんな百も承知だ。だが、『仕方ないね』で済む話でもないことはわかるだろ?」
パンダ先輩の言うとおり、俺は伊吹童子に乗っ取られかけた時に、ラフムの群れを倒すための大技に味方を巻き込んでいた。
迷惑をかけたのだから謝るべきだと分かっていたのだが、急な入院でそのタイミングを逃がしていたとも思っていた。
「そうですね。はい、その節はすいませんでした。後でみなさんに【宝玉メロン】でも贈ろうかと考えてたんですけど」
「異界討伐の参加者全員分はさすがに金がかかりすぎるだろ。かといって攻撃に巻き込んだ人だけだと不公平だと言うヤツが出てきて角が立つ。だから今回の会議は、その代替案というわけだ」
「それは有り難いんですけど、結局みんな俺をからかいたいだけなのでは?」
「当然だろ。ちなみに、あの件で一番キレてるのはモードレッドだからな?お前の大技でトドメを取られたから、一発ぶん殴るって言って霊視ニキに止められてたからな」
レベル30超え(たぶん40以上ある)の式神にぶん殴られるなんて、冗談じゃない。またカロンに会うことになってしまう。
ここは無駄な抵抗をせずに、道化になるしかないだろう。
「すいませんでした。みなさんご協力よろしくお願いします」
『がやお:まかせろまかせろー バリバリバリー
霊視:うちの式神が五月蠅いから早く始めてくれ
その太:今回は霊視ニキも参戦か。婚約者持ちだから貴重な意見が聞けそう
モブノブ:霊視ニキまだ結婚しとらんかったんか
霊視:俺の話は別でやれ。ここは葛葉フレンズの話をする枠だ』
うやむやにもなってくれなさそうだ。
「じゃあ司会はオレことパンダがやっていくぞ。まずは現状の確認からだ。というわけで葛葉フレンズ。いま葛葉ちゃんとどこまで行ってんの?」
「いきなり直接すぎやしませんかね。とりあえず、異界攻略の時に『後で告るから』的な予告をしてます」
「ほほう、具体的には?」
「具体的も何もありませんよ。あの時はボス戦前だったし、詳しい話とかしてる場合じゃなかったし」
「つまりデートプランも何も考えていなかったと。みんな聞いたよな。これどう思う?」
『がやお:ダメだな
モブノブ:0点
その太:告るならシチュエーションとか雰囲気が大事だってばっちゃが言ってた』
「ほら、みんなこう言ってるぞ。やっぱり告るならデートして雰囲気を作ってからがいいんだ」
「ぐっ」
恋愛弱者なので、何も言い返せない。
前世での青春とか遙か昔すぎて何も思い出せない。ただ、若さと勢いだけで突っ走って手ひどい失敗をした覚えだけはある。
そうか、あの経験がおぼろ気ながら残っているせいで、今もビビっているのかもしれない。
「デート、必要ですか」
「もちろんだな。オレの経験からすると、飯でも菓子でもいいから物を食ってからの方が成功しやすい」
『がやお:パンダが人間の恋愛を語れるのかよ
モブノブ:さすが中身イケメンの恋愛強者パンダさんだ
霊視:デートプランについてはオレもパンダの意見を参考にさせてもらった
がやお:パンダもしかして有能か?』
「まあな。オレのブログに必勝デートプラン書いてあるから、オマエラもしっかり読んで勉強しとけよ」
『その太:必要になったら読みにいきます
がやお:俺たちにそれが必要になる時が来ると?
モブノブ:その前に女子に好かれるにはどうしたらいいですかね?』
「女子に好かれたいなら、まずは風呂入って身だしなみ整えろ。服装についてはファッション雑誌を参考にしろ。少なくとも上から下まで真似しておけば、逃げずに話を聞いてくれる割合が増えるはずだ。後はオマエラ次第だな」
『がやお:顔はどうやってもマネできないけどなw
モブノブ:声をかける段階でつまづいてるんだよなあ
その太:シュートしないと一生ゴールできないんだぞ』
「オマエラの話は置いといて、今は葛葉フレンズの話だ。まずはスペックから説明してもらおうか」
「お互い高二のクラスメイトですね。葛葉は小柄で銀髪のハーフっぽい感じ。ただ葛葉家なんで、ガチガチの旧霊能系一族です。華道茶道とかお稽古事は一通りやってたらしいです。外国語を話せるわけじゃないし、運動は得意じゃないみたいです」
「えーと『誕生日は?』だってよ」
「葛葉は冬生まれらしいです。俺は……いらない?そうですか」
そういう対応されると思ってた。
パンダ先輩も当然のごとくスルーして進めていく。
「それじゃあ本題に入るけど、今まで一回もデートしてないわけじゃないだろ。それを元にして、何か案を出せるんじゃないか?」
一緒に事件を解決したのはデートに入るだろうか。入らないだろうなあ。
でも話をする中で、興味を引きそうな話題がいくつかあったのは覚えている。
「飯ですかね。普段が和食ばっかりらしくて、パスタとかクレープだとかそういうのをいつか食べてみたいって言ってました」
「ふんふん、それで?」
「えっ?あとは……服ですかね。普通の女の子が着るような普段着が少ないみたいな事も言ってました」
「なるほどオシャレと食事か。それだけでも悪くないが、他に何かあってもいいな。みんなの意見はどうだ?」
『がやお:やっぱデートといえば映画だな。恋愛もの観せときゃいいだろ
その太:プールとか海とか?でも今は時期じゃないか
モブノブ:今はゲーセンデートもありでしょ
がやお:そういえば霊視ニキはどんなデートしたんだよ
霊視:異界でレベリングを手伝ったな
その太:それはデートと言えるのか?
モブノブ:霊視ニキも俺らの仲間だからしかたないね
がやお:はー、つっかえ
霊視:(♯^〆^)ビキビキ』
「好みのジャンルが分かっているなら映画はアリだな。葛葉ちゃんはそこんとこどうなの?」
「映画は食いつき悪かったですね。クラシックコンサートの方がまだ興味ありそうでした。女子同士の会話を近くで聞いてた感じですけど」
「まあ、いちおう候補に入れておこうか。共通の話題を作るのは重要だからな。他には……『いっしょに運動するとかどうでしょう』か」
「葛葉は運動得意じゃないって言ってましたね。でも、街中を歩くだけでも楽しそうでしたね。うーん、神社巡りとか提案してみようかなあ」
「それは別な機会にやってくれ、オレたちがつまらないからな。それよりももっとデートらしいデートを企画すべきだろ。今はそういう話をしているんだからな」
そういやこの人たちは、俺を
あまりにもヤバい提案してきたら、テキトーに誤魔化して乗り切った方がいいかもしれない。
「他にアイデアはあるか?オマエラもっと妄想力を高めていこうぜ」
『モブノブ:遊園地とかどうでしょう
その太:そうだTDLに行こう!
がやお:ジェットコースターとお化け屋敷は外せないな』
「遊園地はダメですね。近くを通るだけでイヤな顔してました。たぶん何かあると思うんで、デートには一番向かないでしょう」
『モブノブ:Oh、マジかあ
がやお:遊園地がダメとか家庭に問題あるんじゃね
その太:一番の安牌が無くなったか』
「その理由とか掘り下げなかったのか?付き合うならいずれちゃんと聞いておいた方がいいぞ」
「あいつ、両親いないみたいなんですよ。お婆さんと暮らしてるらしいんですけど、たぶん普通の家族みたいなのに憧れがあるんじゃないですかね」
「そりゃあ聞きづらいな。でもそこら辺をしっかり受け止めてやるのも大事だからな。茶化さずにしっかり聞いてやれよ。マジで」
「了解です」
パンダ先輩が真剣なトーンで
急に重い話をされたら、笑って誤魔化す自信がある。パンダ先輩に言われてなかったら、絶対にそうしていただろう。
さらっと終わるならいいんだけど、ずっと重い空気が続くのに耐えられるメンタルを持ってない。
「よし、じゃあ話を戻して、他の案を検討しよう」
『その太:異議無し
モブノブ:せやな』
その後もいろいろな意見が出た。
自分一人ではここまで思いつかなかった。というか、告白前にデートして雰囲気を作るってことすら考えていなかった。
半分以上がノリとはいえ、面白いことが大好きなヤツらがいてくれて有り難いと思えた。
「だいたいこんなもんだろ。今まで出た意見から考えてみた結果、葛葉フレンズ向けのデートコースは……」
『その太:どんなのになるんだろうなあ。自分じゃないのにドキドキする
がやお:ドコドコドコドコ(ドラムロール)
モブノブ:スリザリンはイヤだスリザリンはイヤだ』
「ジュネスゴールデンモール巡り!これで間違いない!!」
パンダが力強く宣言した。
「ジュネスゴールデンモール巡り?」
「そうだ。ジュネスゴールデンモールはジュネスデパートが中心になった集合商業施設で、敷地面積は25万m²もある。ここでなら大体のものは揃うし、何より一日かけても回りきるのが難しい。映画館はもちろんのこと、ゲーセンや運動場もあってデートにももってこいだ。カフェやお菓子の店が各地にあるし、中心には大きなフードコートもある。ここなら好きな所を選べるし、次のデートの予定も立てられる。まさに活動的な学生向けのデートスポットと言えるだろうな」
「説得力のある案が出てきましたね。マジすごいです。いいですね」
「だろう?」
パンダ先輩のどや顔も、これなら当然のこととして受け入れることができる。
「だいたいの流れはこうだ。まず歩きながらウィンドウショッピングして、フードコードで昼飯。その後に話題が無ければ映画で時間を稼ぐ。話が続くんならカフェで盛り上がってもいいな。んで、その後に食べ歩きしながら夕日の見える屋上に行ってそこで告白。以上」
「かなりざっくりですね。細かい部分はどうしたらいいんですか?」
「そこら辺はお前が自分で考えるんだよ。まあ今はリスナーがいるから、話し合って決めてもいいだろう。でもきっちり決めすぎるとフレキシブルな対応ができなくなるから気をつけろ。何が起こってもおかしくないと思っておいた方がいいぞ」
『その太:デート中に悪魔が乱入してくるとか?
モブノブ:悪魔が乱入したら華麗に倒して『さすオレ』を実現できるのでは?
がやお:妄想乙』
「野良のガイア教徒か過激派メシア教徒が来る可能性もあるな。それくらいのトラブルはあってもおかしくないと思っておけよ」
『霊視:いまメシア教って言ったか?
その太:メシア教ぜったいに●すマンは座っててもろて』
デートプランとか考えたことなかったから、こういうのはマジ助かるな。
歴戦のパンダ先輩の立ててくれたプランなのだから、信頼性は高いだろう。
「そうすると、話を続ける自信がないから映画を決めときたいですね。今って何か面白いのやってます?」
『モブノブ:ヒーローズ戦記
がやお:とりあえず恋愛ものにしときゃいいだろ
その太:キリングシャークトルネードクラッシュ
モブノブ:サメだ!サメがいるぞ!!
がやお:サメ増えすぎだろいい加減にしろ』
「これ参考になります?」
「やめといた方がいいと思うぞ」
そんなこんながありつつも、デートプランは組み上がっていった。