買い物をしているうちに、時間は昼を過ぎていた。
「フードコートは人がいっぱいだな。空いてる席を探すのは苦労しそうだ。食事だけなら他の店に行くって手もあるし、テイクアウトできるものを買って外で食べることもできるけど、どうする?」
「わし、アレを食べたいのじゃが、持ち出してもよいのじゃろうか?」
葛葉が指さしたのは、テイクアウトの王道である【ビッグバンバーガー】だった。
「全然問題ないぞ。じゃあアレ買って、中央広場のベンチにでも行こうか」
「うむ、そうしよう」
レジ前の列に並んでいる間に、何を食べようか話す。
レベルが上がって運動量が増えたからか胃袋が大きくなっているので、コメットバーガーくらい余裕で食べられてしまう。
普段から食事量はバレているので、このくらいは今更だ。
ちなみに葛葉は、普通のバーガーセットだった。
バーガーの入った紙袋をかかえて中央広場へ向かおうとすると、中央出口のすぐ外に人だかりができていた。
何かと思って近づくと、子供たちが応援する声が聞こえた。
「「「グレートフェザーロボ、がんばえー!」」」
『おう、まかせな!』
中央広場では、グレートフェザーロボの頭をかぶったフルアーマーのモードレッドが悪魔と戦っていた。
相手は木の葉の体にしめ縄をまとった姿の【国津神 ヒトコトヌシ】である。
『こ、これはヒトコトで言えば「ヤバイ」のである!』
『せっかく顕現したんだ。もうちょっと気合いを見せてくれよ。なあ!』
モードレッドが圧倒的に優勢だ。
あれではどっちが悪役だか分からない。それにしても本物の悪魔を使うなんて、ジュネスが企画したイベントだろうか。
周囲を見るとスタッフの腕章をつけた人たちがそこら中にいて、一般人にまぎれて怪しい動きをしている人に声をかけている。
野良ガイア教団が悪いことをしようとして、それを鎮圧がてら突発のショーに仕立て上げたってとこだろう。
「のう、アレはどこかで見たことある気がするのじゃが」
「そうだな。でも俺たちが手を出す必要はなさそうだ。ここで食事は無理そうだから、他へ行こう」
そんなわけでさらに歩き、モールから離れたところにある公園に来た。
人は少なくなったが、ここでなら落ち着いて食事ができそうだ。
ベンチに並んで座り、バーガーを取り出す。
「いただきます」
「いただきます」
食べようと包みを開いたところ、葛葉がバーガー相手に両手を合わせたのであわてて俺もそれにならう。
あらためてバーガーにかぶりつくと、ジューシーな肉汁が口いっぱいにひろがった。
口の中の肉を噛みながら葛葉を見れば、少しずつ味わいながら食べている。
ちょうど目が合ったので、お互いに少し笑ってしまった。
「食べ方、変だったかのう」
「いや、いいと思うよ。気楽に自由に食べられるのがバーガーのいいところだ」
正直に言えば、すごくいい。ちょっとずつ食べるところが特にかわいい。
バーガーの食べ方ですら上品だ。
それに比べて自分は……などと一瞬考えてしまい、慌てて首を振って弱気を飛ばす。
今からヘタレているわけにはいかない。
バーガーを食べ終え、そのままとりとめのない話をする。
変に意識をしてしまったせいで、ぎこちなくなっているのが自覚できてしまう。そのせいで会話が思ったほど弾まない。
朝は大丈夫だったのに、なぜだろう。話題のペース配分を間違えたのだろうか。
告白のタイミングについて、パンダ先輩の話ではもうちょっと時間が経ってからみたいなことを言っていた。でもこのままの時間が経過して、雰囲気が悪くなったりしないだろうか。
いっそ今すぐ告るべきか?
昼食後の気だるい雰囲気を装いつつ、内心でこの後の予定を流れをシミュレートする。
今すぐいくべきなのか、それとももう少し雰囲気を作るべきなのか、それが問題だ。
とりあえず話をつなぐためにテキトーな話題を探していると、葛葉の方から声をかけてきた。
「ちょっと話をしてよいか?」
「ん、なんだい?」
「ずっと前から、言いたかったことがあるんじゃが……」
改まって切り出されると、つい身構えてしまう。
俺ってば、なにかマズい事をしていなかっただろうか。明らかな失敗はないと思うが、自分では当然と思っていた事でも彼女にとっては眉をしかめるような事だったかもしれない。
いきなりバツを突きつけられることはないと思うけれど。
動揺をとりつくろいながら待っていると、葛葉は数秒ためらった後に言った。
「わしは、お主に謝らなければならない。すまなんだ」
「えっ、何が?」
いったい何を謝られたんだろうか。
「そもそもわしがお主に近づいたのは、お主を疑っておったからからなのじゃ。本家からの指令もあったのはその通りじゃ。でも、わしは信じておらなんだ。霊能力のない家系に産まれたものが、いきなり力に目覚めたなどとうてい起こることではない。そう思っていたのじゃ」
まあそれは、俺が前世持ちというある意味チートのような存在だったから起こりえたことだ。普通はあり得ないのだから、葛葉の考えは間違っていない。
「それにお主が今のように強くなるとも思っておらなんだ。葛葉家の優秀な者たちさえ、今のお主には及ばぬだろう。そしてわしも、お主のおかげでここまで強くなれてしまった」
葛葉の手の中で、バーガーの包み紙が凍り付く。それが端から細かく砕け、砂のように崩れた。
その塵を紙袋にまとめつつ、葛葉は言葉を続ける。
「謝ることはもうひとつある。お主の所属する【アサイラム】の長である神主、阿頼耶ハオ。彼のことを調べる役目もわしにはあった」
「神主を?」
あの人は転生者であり、【俺たち】の中でも最強の能力を持っている人外レベルの化け物だ。
でも転生者のことを知らない人は、それ以上の不気味なものを感じているのかもしれない。
「あの神主の家系もまた、霊能者としてはごく普通の能力しか持たなかったと聞く。そんな家から規格外の力を持つ者が現れた。お主と同じように」
産まれた順番としては神主の方が何年も早いんだけどね。あの人は少年のような見た目だが、実際は三十路のショタオジなんだよなあ。
「そしてそれと同じような事例が葛葉家にもあったのだと、御前様が教えてくださった」
「同じような事例が?」
それはつまり、葛葉家にも転生者がいたということだろうか。
「そう、霊能者の家系に突如産まれた天才。それがわしの父親、第十六代目【葛葉ライドウ】じゃ」
ファッ!?なんだって???
「小夜ちゃんの父親が
葛葉ライドウと言えば、メガテンシリーズの中のデビルサマナーシリーズで主役を張った名前だ。
ゲームでは十四代目だったが、大正時代の話なので今は十六代目でもおかしくない。いや、代はもうちょっと進んでるべきなのか?なにか理由があるのかもしれないが、俺には分からない。
「ライドウの名を知っておるのだな。そうじゃ。かつて大日本帝国と呼ばれていたこの国の守護を担っていた葛葉ライドウ。その名を継いだのはわしの父じゃった。じゃがある日、父は葛葉家から姿を消した。理由はわからぬ。そして16年前のある日に突然現れ、赤子だったわしを預けてまたいなくなったらしい。わしは父のことを知りたかった。父と似た出自を持つ神主、そしてお主。その秘密を知るために、お主に近づいたのじゃ」
話を聞く限り、彼女の父親が転生者なのは間違いないだろう。それがどうして葛葉家から出て行ったのか、その理由はわからないが。
「それなら俺から、神主に聞いてみるよ。あの人ならその辺のことにも詳しいと思うし」
転生者のくだりは理解してもらうのは難しいかもしれないが、出奔の理由や今どこにいるかなどは、転生者の互助会の面がある【アサイラム】には情報が入ってきているはずだ。何より【葛葉ライドウ】というビッグネームが関係しているなら、メガテニストたちも積極的に協力してくれるだろう。
「うむ、ありがとう。でもそれは、もうよいのじゃ。お主とお主たちを疑って調べ回るのは
、お互いの信頼を損なうことになる。わしの父とお主たちはきっと関係ない。そもそも、神主の力は最初から葛葉家を超えていたのじゃ。わしの父一人を隠す意味など、どこにもなかったことが知れたしのう」
葛葉はベンチに両手をついて頭を下げてきた。
「疑ってすまなかった。お主も、お主の組織にも、失礼なことをした」
「いいって、頭を上げてくれよ。葛葉の、小夜ちゃんの考えも当然だ。それに、もしかしたら本当に小夜ちゃんのお父さんが【アサイラム】にいるかもしれないし」
「じゃが、それは……」
「ぜんぜん悪いことじゃないって。親のことを知りたいって思うのは当然だよ。どこにいるか調べるくらい簡単だよ。あっ……」
「何か?」
「いや、俺たちはそれぞれ偽名というかハンドルネームを使っているから、本名を隠してたら分からないなって。個人情報だからセキュリティーレベルも高いだろうし。神主から本人へメッセージを送ってもらうことくらいできるかな?」
「それを言うなら、【ライドウ】も代々継承してきた名じゃ。本名は別にある」
「そっか、そのライドウじゃない名前は教えてもらえるかな?」
「むろんじゃ。父の名は、【倫太郎】。葛葉倫太郎じゃ」
その名前に、やはり俺は心当たりがなかった。
後で掲示板を使って情報を集めることにしよう。
…………
公園でしばらく過ごした後、俺たちはゴールデンモールに戻ることにした。
そこまで距離があるわけではないが、すぐ近くでもない。
川のほとりにオシャレな屋根の
近くにはファンシーな石像があり、川を眺められる景色の良い場所である。
その石像が遊んでいる子供のゾウだったからか、プレゼントを選んだ時のことを思い出してしまった。
選んだものはゾウのマークの【歓喜の寝具】ではないが、スレ民の意見はどれを選んでも同じようなものだったろう。
プレゼントの内容どころか、渡し方にも注文をつけてきていたのだから。
これ以上時間を引き延ばしても辛いだけだし、ちょうど人気がなくなった今がチャンスかもしれない。
急に立ち止まったことを不思議に思ったのか、葛葉が声をかけてきた。
「どうしたのじゃ?」
「小夜ちゃん、その、俺もいい加減に覚悟を決めようと思って」
東屋のイスに荷物を置き、そこからプレゼントを取り出す。
それはあえて外しやすいようにラッピングされていた、小さな箱だった。
「あの時は言えなかったけど、今はもう言える。俺はまだ学生だし、偉そうなことは言えないけど、今のこの想いは本当だから、その……」
考えてきた台詞が吹き飛んだ!俺は何を言おうとしていた?
葛葉は俺の言葉を待っていてくれている。
というか、スレ民の無茶振りが悪いのだ。それぞれプレゼントに応じて言う内容を安価してあるとかバカだろう。しかもそれを買った後に言うとか鬼畜すぎて草も生えない。
仕舞いには店員も「いずれ言うことなら、いつ言っても同じでしょう。それとも他に相手がいるんですか?」とか煽って来やがって。いねえよ、バカ!
「俺には、お前しかいない。だからその、受け取ってくれ!」
プレゼントの箱を開け、中身を見せる。
それはシンプルなデザインながら神々しさを感じさせる【ノルニルリング】だった。
「わしで、よいのか?」
葛葉の声が、心なしか震えているような気がする。
「お前以外に、渡す相手なんていない。その、学生だから色々とまだ早いから、いま言われても困るかもしれないけど」
「困ってなどおらぬ。信じられなくて、現実を受け止めきれてないだけじゃ」
「じゃあ、いいってことだよな?」
動かない葛葉の左手をいささか強引にとり、薬指に指輪をはめる。
スレ民ども!安価はこれで果たしたぞ!
これ見られてたら川に飛び込んででも逃げるんだが?
怒りで恥ずかしさをなんとか誤魔化す。
葛葉の目に、うっすらと涙がにじんでいる。それはカワイイというより、綺麗な芸術品のように見える。
見つめていると、葛葉が俺の胸に飛び込んできた。
「すまぬ、今は、顔を見られたくない。しばしこのままでいさせてくれぬか?」
「もちろんだ」
涙声で鼻をすすっている音も聞こえるが、些細なことだ。葛葉の手が、俺の服を強くにぎりしめている。
俺も力を入れすぎないよう気をつけながら、葛葉を抱きしめた。
…………