転生したらメガテン世界だった orz   作:天坂クリオ

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葛葉御前の話

 

「みなさま、楽にしてくださいませ」

 

葛葉御前様が言った。

黒髪のおっとりとした顔立ちの女性で、二十代くらいに見える。

葛葉家のトップだと聞いていたのでかなり年上だと思っていたのだが、早いうちから覚醒してるならショタオジ(かんぬし)と同じく若く見えてもおかしくない。

 

だが何より一番気になったのが、その服だ。

青を中心とした豪華な和服を幾重にも重ねたそれは、前世でも有名だったFGOの玉藻の前の三臨を連想させる。

そしてその下に着ている白の襦袢が、【シキガミ】のような気がしてならない。

 

俺たちが【終末アサイラム】を名乗る前、神主が初期から制作していた、美的センス0の一反木綿がごとき式神。

一度そうだとそう思ってしまうと、気配もそんな気がしてくる。

 

御前様も【転生者】だった?いや、神主はそんなことを言っていない。それに、御前様は強くなさそうだ。レベルはかなり低いだろう。

でもそれならどうして式神を持っているのだろうか。

 

そこまで考えたところで、横から小夜ちゃんにつつかれる。

御前様の話をスルーして思考に没頭していたが、小夜ちゃん以外には気づかれていないようだった。あぶない危ない。

小声でお礼を言って、御前様の話に意識を戻した。

 

「……彼は見事にみなさまが課した試練を突破しました。これをもって葛葉家に入るに足ると、彼自ら示しました。みなさま、それでよろしいね?」

 

「はい、我ら葛葉四天王家一同、異論はございません」

 

代表らしき女性が頭を下げ、居並んだ人たちがそれに続く。

御前様はそれへ鷹揚にうなずいてから、俺の前に来た。

 

「雄利さん、葛葉家は貴方様を歓迎いたします。どうかこれから末永くよろしくお願いしますね」

 

「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いしまし、します」

 

最後で噛みそうになった。意外と緊張しているのかもしれない。

御前様は美人だし、なんというか、迫力があるのだ。

その胸元から意識して視線をそらす。隣からの視線が痛い。

 

「さて、めでたい席での長話は嫌われてしまいますね。そろそろ乾杯でもいたしましょう」

 

「はいはーい、御前様。オレ、かんぱいってやりたい」

 

直哉少年が手を上げて、母親が後ろから慌てて止めている。

それを見た御前様はニッコリ笑った。

 

「いいですよ。では直哉さん、元気よくお願いしますね」

 

「よっしゃあ!じゃあいきまーす。かつとしくんの葛葉入りと第十七代目葛葉ライドウの誕生を祝って、かんぱーい!」

 

「「「乾杯!」」」

 

全員がコップや杯を掲げて言う。

俺も合わせてコップを掲げて、小夜ちゃんのコップに軽くぶつけてから口をつける。

 

……うん?俺の葛葉入り?第十七代目葛葉ライドウ??

 

周囲からは「めでたいめでたい」「これでライドウの家は安泰だ」などの声が聞こえてくる。

そういえば御前様からは「末永くよろしく」とか言われていたし、これってもしかして、葛葉家公認での婚約というか婿入り決定させられてしまったのでは?

俺としては今日は小夜ちゃんとのお付き合いを認めてもらうだけのつもりだったのだが。

悪いわけではないのだが、まさかこんなに簡単に話が進むとは思っていなかった。

 

コップを持ったまま固まっていると、小夜ちゃんに横からつつかれた。

顔を向けると、幸せそうな笑顔で言われた。

 

「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」

 

「……はい、コンゴトモヨロシク」

 

そんな風に言われて、断れるわけないじゃろがい!!

 

 

…………

 

 

歓迎会というより、もはや宴のようになった。

 

展開の早さについていけずに流されるまま時間をすごしているうちに、いつの間にか外は夜になっていた。

 

トイレに行きたくなったので一人で外に出る。

女中さんに案内してもらい、スッキリ済ませてから廊下に出ると違和感がした。

 

宴会場からそう遠くなかったはずなのに、音が届いてこない。

気配をさぐりながら部屋の前まで戻るが、やはり障子の向こうは静かなままだ。

 

警戒しながら障子を開くと、中は何もない静かな座敷が広がっていて、その奥に御前様が一人だけ立っていた。

 

「お待ちしておりました、雄利さん。驚かせたみたいでごめんなさいね。貴方と二人きりでお話をしたいと思ったので、別の部屋にご案内いたしました。奥のふすまからすぐに戻れるので、少しだけよろしいかしら?」

 

御前様は穏やかな顔で座っているだけで、特に何かを企んでいるようには見えなかった。

ここまで歓迎しておいて俺に何かしようとするとは思えないので、うなずいて部屋の中に入る。

 

御前様は俺の頭からつま先まで見てから、ため息をついた。

 

「その服を見ると、彼のことを思い出します。お小夜さんから聞いていますよね、先代のライドウである、倫太郎さんのこと」

 

「はい。天才と呼ばれるくらい強かったのに、20年くらい前に突然いなくなったと聞いています。そして、子供だった小夜ちゃんを預けに一度だけ帰ってきたとも」

 

「そうです。彼がどうして消えたのか、私には教えてくれませんでした。最初は葛葉家に愛想を尽かしたのかとも思いましたが、それは違うようでした」

 

ここに来るまでのやりとりで、お世辞でもいい人ばかりとは言えない集まりだとは分かっていた。それは御前様も理解しているのだろう。

 

先代のライドウはほぼ確実に転生者だろう。ならばいずれ来る【大破壊】に備えるために行動したのだと考えられるが、別に葛葉家から出る必要はない気がする。

 

実際に、俺が葛葉家に婿入りすることを神主は拒否しないどころか簡単に認めていた。というか俺本人に黙ってコトを進めていた可能性すらある。

理由はたぶんその方が面白いからだろう。

 

だから先代ライドウはきっと別な理由で家を出る必要があったに違いない。

 

「御前様は、先代ライドウと面識があったんですか?」

 

「ええ、そうです。彼は私の幼なじみであり、そして許嫁(いいなずけ)でもありました」

 

「許嫁っていうとつまり、婚約者ってことですか?」

 

「そうです。分家の分家に突然現れた高い霊能力を持つ男児を、本家の格を上げるために使う。双方の親はそう考えていたようですが、私も彼も、そんなことは関係無しに親しくなりました。彼は他の誰より大人びていて、物知りで、頼もしかったです」

 

御前様が懐かしそうに語っている。この人は本当に先代ライドウを好きだったのだろう。

 

「そうだ、もしかしてその服って……」

 

「そうです。彼が紹介してくれた呉服屋であつらえました。伝統の服を新しいデザインで表現するって、最近になって特に評判が上がっているんですよ」

 

くるりと回って見せてくる御前様は、まるで少女のように喜んでいる。

服屋業界にも転生者がいるのか。

それはいいことなんだけど、俺が言っているのはそこじゃない。

 

「とてもキレイな服だと思います。ですが、俺が言っているのはその、内側に着ている白い服の方です」

 

「こちらですか?ええ、その通り彼から贈られたものです。もしかして、コレが何か知っていらっしゃるのですか?」

 

御前様が着ている白襦袢が動き、角隠しのような兜を形作る。しかしすぐに元の襦袢に戻った。

やっぱりあれは、神主製の式神だ。

 

「それは俺たちの【終末アサイラム】で作られている式神です。それを御前様に渡したということはつまり……」

 

「……倫太郎さんはそこ(・・)にいる、ということでしょうね」

 

御前様はどこかほっとしたような表情をした。

 

「俺たちはハンドルネーム……いわゆるあだ名(・・・)のようなものを使って交流しています。だから本名を知っている相手は少ないんです。たとえ倫太郎さんに会っていたとしても、顔を知らないとそうとは分かりません」

 

「昔の写真でよければ持ってますよ。見ますか?」

 

御前様は懐から、布の包みを取り出した。その中には手帳が入っていて、間に挟んであった一枚の写真を見せてきた。

 

「えっ、これってもしかして」

 

写真に写っていたのは少女のころの御前様で、その隣には若く背の高い男がいた。

ノリノリでジョジョ立ち(ポージング)しているせいで男の顔は半分ほど隠れているが、その顔には見覚えがあった。

 

「知っている人でしたか?」

 

「はい、何度か会っていて……。え、でもあの時は何も……」

 

信じられないという想いのせいで、思考がまとまらない。

これが本当なら、なんであの時にあんな態度を取っていたのだろうか。

考え込みそうになったところで、御前様が見ていることに気づいた。

 

「失礼しました。この人に会ったことがあります。今すぐにでも連絡を……あ、向こうからばっかりだ。なら掲示板を使うしかないか」

 

「いえ、その必要はありません。彼が必要だと思えば、向こうから連絡してくるでしょうから。そうでないなら、それは余計なことなんでしょう」

 

「でも、会いたくないんですか?」

 

「もちろん会いたいですよ。でも、いいんです。その代わりに教えてください。彼は元気でしたか?」

 

聞かれて、最後に会った時のことを思い出す。はっきり見てはいないが、最初にあった時と変わってないなと思った記憶がある。

 

「疲れたような顔のせいで老けて見えてたけれど、すごく頑張っていました。たぶん、やらなくてはいけないことを頑張っていたんだと思います」

 

自分の楽しみを優先しがちな【俺たち】の中でも少し変わった人だと思っていたが、この写真が本当だとするなら、今までの話が色々と意味が変わってくる。

 

「この、先代ライドウは何か言ってましたか?なんというか、目的とか決意みたいなことととか」

 

「そうですね。……そういえば彼が葛葉家を出て行く前に、一言だけ言ってくれました。私を必ず助ける(・・・・・・・)と。それがどういう意味かは分かりません。ですが、この服をくれた時も同じことを言ってくれました」

 

目的は、葛葉御前を助けること?

もしも俺の予想通りなら、先代ライドウ(・・・・・・)周回ニキ(・・・・)であるのなら、この言葉は重い意味を持つことになる。

 

でもあの人(・・・)だったなら、あの時の態度が俺には理解しがたい。

 

「分かりませんが分かりました。とりあえずこの件は俺が調べます。俺も本人に聞きたいことができましたから。何か分かったら御前様にも連絡します」

 

「そうですね。でしたらクダギツネを使ってください。すでに持っていますよね?」

 

「はい、こいつです」

 

黒銀のクダギツネを喚び出して、御前様に見せる。

クダギツネは大人しく、御前様のされるがままなでられていた。

 

「かわいいですね。ところでこの子の名前は考えてありますか?」

 

「毛並みからギンコと名付けました」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

メガテンといえばギンコだと思って名付けたのだが、もしかしてすでにギンコさんいたのか?

ああそうだ、ソウルハッカーズでは葛葉一族のお目付役としてマダム銀子がいたんだった。

 

「まずかったですかね?」

 

「いえ、大丈夫だと思いますよ。たぶん」

 

そういう御前様の目はいくぶん泳いでいた。




・葛葉御前
本名【葛葉まゆり】
葛葉本家が一族の衰退を防ぐため、霊的資質の高い者どうしの子供を選択していった結果生まれた、ある意味人工的な能力者。ランクはR上位~SR下位。
血が濃くなった影響で体が弱く、めったに外出しない。
その能力は主に結界の維持や礼装の作成などに使われている。

・クダギツネ
黒銀のギンコ。
小夜の方は茶金なのでコガネと名付けた。

・マダム銀子
cv杉田
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