ただ暗い画面の中央に、スポットライトが灯った。
照らし出されたのは黒いマントを羽織った男で、フルフェイスの黒いヘルメットを被っている。
前世で見たことがある。一時期ネットミームに使われたアニメキャラのコスプレである。
黒のコスプレ男は、静かに語り始めた。
「キミがこれを見ている頃には、私は旅立っているだろう。そして人生で一度は言いたかった言葉ベスト5に入る台詞を言えて、私は今とても感動している」
わかる。
「改めて言い直そう。キミがこれを見ている時には、私はおそらくシュバルツバースへ侵入しているだろう。今までの経験上、北米でのクトゥルー出現から始まる悪魔召喚ミサイル群が発射されなかった場合、ほぼ確実に竜脈エネルギーがシュバルツバースへ流入するからだ。それを終息させるためには、誰かが侵入して内側から攻略する必要がある。そのための準備を今まで整えてきた。この世界線に生きる者たちを救うためには、この作戦は必ず成功させる必要がある」
コスプレ男はマントを(無意味に)バサリとひるがえして、それから重々しく告げる。
「私はシュバルツバースを終息させた後、そのまま次の周回へと旅立つつもりだ。シュバルツバースはその性質上、複数の可能性が同時に存在するいわば特異点と言える場所だ。旅立つためのエネルギー消費が少なくて済み、目標地点への移動がしやすい。そこが次の周回への出発地点として最適なのだ」
「私の名前はもう知っているだろう。掲示板では周回ニキと名乗っている。本名は葛葉倫太郎。かつては第十六代目葛葉ライドウと呼ばれた男だ」
「この映像は、私への質問があることを予想して神主の監修のもと記録したものだ。多少の編集はあるだろうが、内容についてはキミが知っても問題ない物ばかりだ。他の誰かに話すかどうかは、キミの判断に任せよう」
周回ニキが移動するとスポットライトが別な場所で灯る。そこにはティーカップが乗ったテーブルとイスが置いてある。
周回ニキはイスに座ると、ゆっくりと話し始めた。
「それでは順番に話すとしよう。まずは私の始まりである、一周目の話だ」
…………
私は、葛葉ライドウの家の分家に生まれた。
自分が転生者だと思い出したのは三歳のころで、その時から悪魔を見ることができていた。
五歳になるころには完全に覚醒していて、家族には天才だともてはやされていた。
だいたいの転生者なら『俺強え展開』だと調子に乗るだろう。実を言えば私もそうだった。
葛葉という名字からこの世界がメガテン世界だと予想できていて、しかも自分が未来のライドウ候補だと聞いて「俺主人公じゃん」と喜んだよ。
ちょうどその頃に、葛葉本家のお嬢様と引き合わされた。彼女の名前は葛葉まゆり。私の
自分は勝ち組だと一度は思ったが、ここがメガテン世界であると思い直して修行にうちこむことにした。ゲームと違って死んだらコンテニューはできない。序盤のガキにパトられないよう、真面目に取り組んだとも。
そのかいあって順調に強くなり、一五になる頃にライドウを襲名した。
葛葉家の中で私にかなう者はいなかったし、外にもいなかった。
多数の仲魔を使いこなし、いくつもの依頼をこなした。
数年後にまゆりと結婚し、子供も産まれた。
私は幸せだった。自分の人生が完璧だと思っていた。だが、それは思い違いだった。
あの日、北米でクトゥルーが召喚された。間をおかずに世界中に大陸間弾道ミサイルが発射され、悪魔が召喚された。核と悪魔が地上に満ちた。
不幸中の幸いか日本は守られたが、それを成したのは【カオス連合】を名乗る組織だった。
世界各地ではメシア教が天使を召喚して人類を粛正していて、それでも人類が生き残れていたのは日本に本拠地をおくカオス連合の技術供与があったからだった。
ゲーム知識があったせいで、私はカオス連合を警戒していた。
それ以前にも根願寺を経由していろいろな情報を得ていたが、頭カオスな連中の集まりだとして遠ざけていた。
私は一人で戦っていた。
世界には終末が近づき、日本にもまた終わりが近づいていた。だが私はライドウとしての勤めを果たそうとして必死にあらがっていた。
そんなある日、まゆりが死んだと言われた。
私が異界で悪魔と戦っている時に、葛葉本家が襲撃されたらしい。首謀者はメシア教過激派の天使どもで、まゆりと子供を使徒に変えるつもりだったらしい。
私はその天使どもを消滅させ、彼女たちの亡骸とともに家へと帰った。
最初は私も死のうと思った。世界はすでに終末を迎えていて、日本もどう見ても終わりだった。
だが、それをしようとする私の前に、一人の老人が現れた。
【魔人 時の翁】だと名乗るその老人は、私にあることを教えてきた。
港区にある建築中のまま放置されたホテルシーアーク。その最上階への入り方。
それを聞いた時、私は自分が何をすべきかを知った。
私は悪魔の巣窟となったシーアークを攻略し、全てのスワチカを集めた。
そして、私は二周目の世界へと旅立った。
…………
二周目の世界では、【カオス連合】を利用することにした。
まゆりを救うためには自分一人の力では足りない。だから都合の良い手足として使うつもりだった。
だがそうはならなかった。
カオス連合は私と同じ転生者の集まりであり、つまりはこの世界線での【終末アサイラム】だった。
盟主はやはり神主で、自分が未来からスワチカの力で戻ってきたと伝えると半信半疑ながら話を聞いてくれた。
私が知る限りの情報を伝えたり、ライドウの立場を使って彼らと協力したりもした。そのおかげで被害を減らすことができた。
転生者の被害を減らし、効率よく鍛えたことで過激派との戦いも順調に進んでいた。
そして運命の日が来た。
異界の討伐はカオス連合にまかせ、俺は葛葉家で守りを固めていた。
過激派の力を削いでいたので、襲撃に来る可能性は低かったが念のための対策だった。
そして、葛葉家が異界に飲み込まれた。
一周目の情報から日本の異界を効率的に封印していった。そのせいで消費せず蓄積していた竜脈のエネルギーが暴走し、葛葉家を含む一帯を異界に変えた。
蓄積されていたエネルギーは膨大で、異界の中は文字通りの地獄だった。
私はまゆりと引き離された。家の敷地内なら駆けつけられると思っていた、自分の油断を呪った。なんで私は彼女の側にいなかったのか。
私がようやくまゆりを見つけた時、彼女はすでに死んでいた。
私はその異界を消滅させると、ふたたびスワチカの力を使って過去へと跳んだ。
…………
三周目からは、似たようなことの繰り返しだった。
それまでの周回から得た経験を元にして、より効率的で安全な方法を探した。
小さな被害は黙認して、いくつかの異界は放置した。
過激派は事件を起こした後に対処することにした。
それでもまゆりは助けられなかった。
一つの死因から遠ざけるたびに、別な死因が彼女を襲った。
そのたびに私は過去へと戻った。
何度も何度もくり返し助けようとして、何度も何度も彼女の死を見た。
もはや私は彼女を殺すために過去へと戻っているのではないかという気になった。
だが、私は諦められなかった。
そんな周回の中で、一回だけ上手くいきそうになった時があった。
どんな行動が作用したのかわからないが、運命の日を過ぎても彼女が生きていた時があった。
私はそれを実感できず、夢の中にいるような日々を送っていた。
世界は終末を迎えていたが、まゆりと子供たちが生きていれば大した問題はなかった。だが、その幸せは長く続かなかった。
ある日、まゆりは起きてこなかった。調べてみれば眠り続ける人は世界中にいて、それが刻一刻と増えているようだった。
元気なのはメシア教徒ばかりで、自分たちが世界を管理する日が来たのだと喧伝していた。
転生者にも突如眠る者が出てきたことで、私はまた過去へ戻ることにした。
周回することへの忌避感は無く、すぐに戻れるよう準備していたことが役にたった。
私は諦めてはいなかった。こここそが、私にとって重要な世界線だからだ。
…………
私はその周回を再現する要素を探した。まゆりが運命の日を生き延びたのだ。そこが突破口であるのは間違いなかった。
ふたたび周回をくり返し試行錯誤を重ねることで、その周回を再現する方法を見つけることができた。
そこまでいけば、その後すべきことは、メシア教徒が言う世界の管理を阻止する方法を見つけるだけだ。
そうしてあらゆる手段を使って探した結果、北の大国で聖杯を降臨させる計画があることを突き止めた。
だからその対処法を探すために、私が直接現地へ向かうことにした。
●まゆり生存の条件
・メメントスの最奥へメシア教関係者を含めたパーティーが到達することで、日本にある○○の場所が判明。他に戦力割いている場合じゃねえ!となるので襲撃が無期限中止される。
・異界の一定数の討伐。残っているのが多すぎると悪魔だらけになって世紀末まっしぐら。
・竜脈エネルギーの調整。異界討伐しすぎるとデッカイ異界ができてしまうので、余剰分を竜脈を通してシュバルツバースへ流しました。
etcetc……
●本編()時空に周回ニキはいるか?
・いても問題ないと思う。ただし周回数はだいたい0~5以下。
・正直に全部話したとしても全部をまるっと信用できないだろうから、序盤の対策は遅れると思われる。
・周回を重ねるうちにショタオジ本人から「これを言えばすぐに信用するよ」的な秘密のワードを教えてもらい、次の周回から効率が上がる。