確認してたはずなのに、なんで気づかなかったんだorz
新宿御苑の事件の処理を警察に任せ、俺たちは車に戻ってきた。
そして次に向かう場所について相談しているのだが、残念ながら行き止まりにぶつかっていた。
ラプラスメールによる二つの予言のうち、『新宿御苑で殺人事件が起きる』の方は阻止することができた。
次はもう一つの『夕方に大規模停電が起こる』の方の対処をしたいのだが、それについての情報が少なすぎるのだ。
「どこで、誰が、どうやって。その内のどれか一つでも分かればとっかかりになるんだけど、情報がさっぱり集まらないな」
「そもそも我らがどうにかできるものなのかが問題じゃろ。山手線の外であったり、変電所の故障であったりしたら手が出せぬぞ」
「たぶんその心配は無いと思う。ラプラスメールの内容には個人差があって、本人の余命みたいな重要なものが多い。だからこの大規模停電についても、俺たちが食い止められるもののはずだ」
「今から夕方までという時間区分で考えると、渋滞していますし北は護国寺・南は天現寺あたりが限界ですね。西は皇居まで行くことはできないでしょう」
運転手の伊地知さんのコメントにうなずく。
「たどり着いただけで時間切れになると考えると、もっと場所は絞れそうだな。他に同じメールが届いた人はどんな感じだろうか」
「む、先ほどの死亡予告についてじゃが、『寿命が延びた』という者が急に増えたようじゃ。ほぼ護国寺関連のようじゃが、これは関わる人が多かったということかの?」
「そうだろうね。避難所だろうから、優先的に解決に動いたみたいだ」
一般のスレには『池袋のギャングチームがタッグを組んだ!』とか『首無しライダー強すぎだろ!』とか興奮気味なレスが並んでいる。
『自販機ぶん投げてるヤツいるけど人間なのか?』
『↑通常運転です』
とかあるので、レベルの高い人も参加したことがうかがえる。
そんな風にスレッドをいくつか見ていると、伊地知さんが声をかけてきた。
「ええとそれで結局、次はどこへ向かえばいいんでしょう?」
「ええ、それが本題でした。普通に行けるところは人外ハンターたちが見回りを終えているようなので、一般人が入れない場所の可能性が高いです。だからやっぱり、入るのに許可が必要な場所だと思います」
それと念のため、アサイラムに山手線の外で可能性がありそうな場所を見てもらっている。
メガテン関連だったら大型の自動車工場とかが考えられるけど、そこは山手線の外側だ。俺たちが手出しできる範囲を超えている。
直接見つけられないなら、消去法で探していくしかない。
そう考えていたら、小夜が携帯端末の画面を見せてきた。
「のう、お前様。この【死亡予告改変スレ】に時々出てくる【メメントス】とはどこにあるんじゃろうか。地図で探しても出てこぬのじゃが」
「あー、メメントスはペルソナ使いしか行けない場所なんだよ。渋谷の地下鉄から入れる別世界みたいな場所で……」
説明している途中で気づいて、俺も【死亡予告改変スレ】を開く。
まだ変わらない人のリストを見ていくと、その内訳はペルソナ使いが半数以上で死亡予想時刻は夕方以降だ。
そしてその死亡者のほとんどに、停電予告のメールが届いている。
「渋谷だ。メメントスは認知世界だから、現実世界に直接影響を与えることはできない。でもそこから出れば地下鉄だし、何より鉄道は電気を使って動いている。きっと地下鉄に原因があるんだ」
「地下じゃと?」
「暴走COMPも人気のない場所に置かれているだろ。地下鉄の路線内なら人の目はほとんどないはずだ」
「なるほど。特に今は緊急事態のため電車の運行はされていないので、特に人目が少なくなっているでしょう」
点と点が一本につながった気がする。
そうとわかれば、急いで対策を整えなければ。
「地下鉄内の捜索ができるように、根願寺に話をつける。小夜は葛葉の人たちに、先にシキガミで捜索するよう頼んでおいて」
「わかった」
「渋谷駅まですぐにお連れします」
伊地知さんが車を動かす。
悪魔の出現による混乱のせいで道路はかなり混雑している。
今から渋谷駅に向かってどのくらい猶予があるか分からない。せめて到着してからすぐに行動できるよう、準備を済ませておかなければ。
◇◇◇
【メメントス】
「せっかく東京に来れたと思ったのに、聖地アキバに行けないとかテンション下がるお」
メメントス入り口となる認知世界の改札前で、青年が肩を落としていた。体型は普通であるが猫背気味で、チェックのシャツにジーパン。そしてメガネと指ぬきグローブというオタクファッション全開である。
その隣で和風デザインの服の少女が寄り添うように、いや、寄りかかるようにして腕をつかんでいる。
「ここがメメントスですか。マヨナカテレビと違って霧は無いみたいですが、不気味なのは同じですね」
「やっぱりメガネは無くてもモーマンタイみたいだお。メガネ装備バージョンはマヨナカテレビで見れるから、プリヤちゃんはメガネ無しでいこうか」
「ちょっと
「ごめんごめん。姫ちゃんはメガネあってもなくてもどっちでもカワイイから……」
「まあ、そんな。急に褒められたら困ってしまいます」
照れたようにくねくねする少女と、それを見て鼻の下を伸ばしている青年。その二人の後ろで魔法少女姿のシキガミが無感情な顔で立っている。
彼らは沖奈市在住のペルソナ使い、【猪悟能】の安ちんと【清姫】の姫(スレでは清子)。そしてペルソナ使い型のシキガミ【プリヤ】だった。
彼らは転生者専用スレで東京で協力者を募集していると知った安ちんが『ペルソナ使いでもおK?』と聞いたことにより、『メメントスはいつでも協力者を募集しています。今なら送迎代をこっちで持ちますよ』との返答を受けてやってきたのだった。
「『トラフーリ』って言ってましたっけ?沖奈から東京まで一瞬で来れるなんて、転送魔法ってすごいんですね」
「たぶん輸送課の人がすごいんだと思うお。普通はもっと近距離しか無理なはず」
彼らを送ったペルソナ使いは、『次の仕事があるから』と慌ただしく飛んでいってしまった。緊急事態である数日間だけの出張なので、後日また送り返してもらうことになっている。
「ところで急な話だったけど、姫ちゃんのパパママはよく外泊を許してくれたね。お友達の家に泊まることにしたんだろうけど、確認されたりしなかったの?」
「いえ、お兄さまと旅行に行ってくるって正直に伝えましたわ」
「え”っ」
安ちんの背に冷たい汗が流れる。
「ママは快く送り出してくれましたよ。それとパパが、帰ったら家に連れてきてねって言ってました。きっと具体的な式の日取りのことを相談したいんでしょうね。パパは気が早いから」
「OH……」
安ちんはため息のような言葉しか出なかった。
姫の両親はとても善良な一般市民(に見える)だ。一人娘が知り合いの男と外泊するとか、普通は簡単に認められないだろう。
安ちんは普通の人間のフリが完璧にできている(と思っている)ので、○歳も年下の少女に手を出すことはないと思われているのだろうと結論づける。
しかし少女は清姫のペルソナを発現している。ご両親が了承してしまったら、それを理由に同じ部屋のベッドに入って来かねない。
そのせいで間違いがあったなら、法律を理由にしたとしても、「責任を取ってくれないんですの?」と丸焼きにされかねない。
ゆえに(理性を強く持たねば)と決意を新たにする。
「それじゃあ今日は初日だし、浅い階層で慣らしをしよう。マヨナカテレビとは勝手が違うだろうしね」
「はい♥」
「了解しましたマスターさん」
二人と一体が改札をくぐる。
今日のメメントスは普段よりも不穏な気配が強まっていたが、今まで来たことが無い彼らにはその違いは分からなかった。
◇
メメントスは東京中の人々の共有無意識が作り出した認知世界である。深くなればなるほど根本の感情に近いドロドロとした情念によって強力なシャドウが湧くが、浅い場所なら理性という
そのはずなのだが、安ちんたちが思っていたよりも少しだけシャドウは強かった。
「ここのシャドウは、マヨナカテレビと違ってペルソナに近い姿をしていますね」
「その方がデータ容量を節約できるゲフンゲフン。やっぱり東京は人が多いから、人が想像できる姿になりやすいんだと思うお」
「さすがお兄さま、博識ですね」
「それほどでもない」
少女に褒められ、自慢げに謙遜する安ちん。だが得意げに胸を張りながらも、微妙な違和感に内心で首をかしげていた。
転生者として戦ってきた安ちんはともかく、ペルソナ使いとして目覚めたばかりの姫と新戦力のプリヤはまだペルソナ使いとしてのレベルが低い。
なのでレベル上げのためにも浅い階層で経験値稼ぎをしようとしたのだが、思った以上にギリギリだった。
高レベルかつ体力タイプのペルソナを持つ安ちんが壁役をしているので被害はほとんど出ていないが、姫とプリヤだけだとピンチになりかねない。
聞いていた話と違うので予定を変えるべきか、それとも効率が良いからもっと続けるべきか。悩みつつもなかなか結論を出せずにいた。
(まあすでに二人とも2レベルも上がっているし、もう少し粘ってもいいよな?)
普通に考えられれば、同じ転生者でない姫とプリヤが短時間で2レベルも上がっているということで敵の強さが分かるはずだ。
だが初めての東京であることと美味しい狩り場だという認識が、煩悩に弱い【猪悟能】のペルソナを持つ安ちんの判断を狂わせていた。
数十分後、安ちんの背中には冷や汗が流れていた。
(ここ、どこだお?ゲームと違って歩きだから、どれだけ進んだか分かりにくくて迷ったかもしれないお)
メメントスが出てきたペルソナ5では車で走り回っていたが、現実にはそんなものはない。少なくとも自分で持ち込まない限りは。
そのため徒歩で進んでいたが、ペルソナに覚醒したせいで身体能力が上昇しているために思った以上に奥に進んでしまったようだった。
「ごめんなさいお兄さま、ちょっと疲れてきちゃいました」
「もれもそろそろ終わりにしようかと思っていたお。たぶんそろそろ中間地点があるだろうから、そこからいったん外へ出ようか」
そう提案したが、シキガミであるプリヤが首を横に振った。
「残念ですがマスターさん、まだ中間地点まで二階層分あるようです」
「ええ、これだけ進んでまだ先があるだって?やっぱり移動手段が欲しいお。仕方ないから、とりあえずここで少しだけ休憩しよ」
回復用の霊薬ジュースを配ってから、COMPで掲示板を覗いてみる。
メメントスでの移動手段などを調べようとスレッドを開いてみると、新しく立てられたばかりのスレッドが目に入った。
【メメントス】地下鉄に強力な悪魔が潜んでいる可能性あり【特に注意】
「ブブー!?」
「お兄さま大丈夫ですか!?」
思わず霊薬ジュースを吹き出した安ちんに、姫がハンカチを差し出した。
「もれは大丈夫。だけど姫ちゃんとプリヤは早く脱出した方がいいかもしれないお」
「そんな!私はお兄さまといつまでも一緒です!!」
「ああ、うん。もちろんもれも一緒に出るお」
言葉選びが間違ったかなと安ちんは汗を拭う。
「問題は進むか戻るか、どっちの方がいいのかだけど……」
エレベーターを利用して帰って行き来できる中間地点は、5階層ごとに1つある。
今いるのは3階層の終盤で、距離的には先へ進んだほうが近い。だが、この先の敵が強くなる可能性を考えると、戻った方が安全だろう。
「今までで通ってきた道の方が安定してるだろうし、上へ戻ろう。それに経験値稼ぎにもなるだろうし」
「はい、お兄さまがそう言うなら」
「分かりましたマスターさん」
そうして、来た道を戻ることになった。
・安ちん
ペルソナが猪悟能だからって別に太ってはいないが、煩悩には非常に弱い。
東京に行けばアキバに行けるんじゃね?と参加した。だが非常事態のため電車は止まっている。当然だよな?
・姫
掲示板では清子と仮称された少女。お兄さま大好き。
プリヤについては「人形が好きって、男の人っていつまでも子供なんだから」と自分を納得させた。
・プリヤ
まだ自我は芽生えていないので、設定された行動しかできない。
安ちんは「お兄ちゃん」と呼ばせたかったが、姫ちゃんのプレッシャーに負けて「マスターさん」に妥協した。