引きこもったおかげでかなり回復したので投稿します。
安ちん一行は時間をかけて地下一階へと戻ってきていた。
一度通ってきた道なので、効率厨の気がある安ちんが宝箱探しのために隅々まで歩き回る必要がなかったのも大きい。
あとは改札階へ戻るだけのはずだったが、先頭を歩いていた安ちんは何かを聞き取り立ち止まった。
「お兄さま、どうしたのです?」
「……聞こえる」
「私にはわかりませんが、何が聞こえたのです?」
「助けを求める、少女の声が!」
安ちんは進路を90度変えて、脇道へと入っていく。
「待ってくださいましお兄さま。
「マップだと、少し先で行き止まりになってます」
「でもこっちから聞こえてくるんだ」
つき進んでいく安ちんを姫とプリヤは追いかける。
プリヤの言葉の通りその先は行き止まりだったが、安ちんはその壁を睨み付けた。
「やっぱり、この壁の向こうから声が聞こえる。きっとこの先には隠し通路があるんだ」
だが彼らは車を持ってはいない。
さすがに車がなければ、いかに壊れやすい壁だとしても壊すのは難しいだろう。ただしそれは普通ならばの話だ。
「こんな程度の壁など、幼女を助けるためならば、障害になりはしない!うおおお、いくぞ【猪悟能】」
ペルソナを発動させるとペルソナ使いの身体能力は常人の数倍は高くなる。
しかも転生者であり、なおかつ
「【突撃】!」
背後に出現した巨漢のイノシシ男のペルソナごと勢いよく突っ込むと、壁がまるで発泡スチロールでできていたかのようにはじけ飛んだ。
「あらまあ、さすがお兄さまですわ」
姫による賞賛の声を背後に聞いて、安ちんはマッスルポーズを取った。
隠し通路の奥には、空間がねじれて先が見えなくなった黒い渦があった。
ペルソナ使いであっても最初は不気味に感じる光景だが、安ちんは納得した顔でそれを見ていた。
「お兄さま、これは何ですか?」
「そっか、初見だとびっくりするよね。簡単に説明すると、イベントボスのいる部屋につながるゲートだお。やっぱりこの先から声が聞こえてくる。姫ちゃん、プリヤ。中に行くけど準備はいいかい?」
「いつでも大丈夫です。マスターさん」
「わ、私も大丈夫ですわ」
「よしそれじゃあ、のりこめー^^」
安ちんが最初に飛び込み、二人がそれに続いた。
イベントボスの部屋は普通ならメメントスの通路に似た空間が広がっているはずだったが、そうなってはいなかった。
まるで大きな病室のような内装だが、中央にある大きな物体のせいで窮屈に感じられる。
それはいくつもの装置が集まって作られた台座だった。
規則的な音を出す多数の生命維持装置と、その他いくつものモニターと装置。それらにつながる何本ものコードが、床と壁を覆い尽くしている。
そしてその上には一見すると医療用のベッドのように見えるものがあり、そこに幼い少女が張り付けになっていた。
少女は白いワンピースのような服を着ていたが、その下の肌も白かった。少女は少し痩せていて、目の下に薄いクマがあり、瞳に生気の輝きはなかった。
そして驚くべきことに、その少女の髪はもの凄く長かった。
金色の美しい髪が、薄暗い部屋の中でまるで光を放っているように感じられる。それがおよそ3mの位置にある少女の頭部から、地面に届きそうな位置にまで垂れている。
その光景を見た三人はそれぞれ小さく感嘆の声を上げ、それが聞こえたのか少女が反応を示した。
「ぁ」
息を吐いただけのような音だったが、それを聞いた安ちんは何を言いたいのか理解できたようで、はっきりと力強く答えを返した。
「そうだ、もれたちは、君を、助けに来た」
「は……」
少女はまた息を吐き、そしてかすかに微笑んだ。
そして次の瞬間、少女の髪が大きく動いた。
まるで一匹のヘビのように鎌首をもたげると、今度は幾本にも分かれてそれぞれの先端に刃を作り出した。
「ムッ、
「【ラクカジャ】です!」
プリヤの補助を受けた安ちんに、髪の刃が殺到する。
多数は外れたが、幾本かは服を切り裂き皮膚へと届く。
ペルソナ使いとして鍛えた体に刺さることはなかったが無傷とはいかず、幾本もの血の筋ができていた。
「ひゅー、死ぬかと思ったお。プリヤちゃんナイス!」
「私のお兄さまにいきなり何をなさいますの!【
姫が放った炎が髪の刃を焼いていく。
燃えたのは表面の数本だけのようで、数は減ったがまだまだ残っている。
金髪はまたひとまとまりに戻ると、今度はドリルのようにねじれながら安ちんへと狙いをつけた。
「おっ、これは危なそうだお」
防御姿勢を取った安ちんに、金髪のドリルが襲いかかる。
武器にしている農業用フォークで受け止めたが、威力を殺しきれずに後ろに飛ばされた。
「回復します【ディア】」
「いててー。このままだとヤバそうだお」
言いながらコンビニおにぎりを取り出して食べる。
体力特化型である安ちんでもHPの回復がギリギリということは、彼らの平均レベルより上の相手だということだ。
姫の【
金髪の攻撃ですぐに倒されることはないが、それは安ちんの防御とプリヤの回復とでなんとか釣り合っているからだ。
強力な攻撃は防御しなければならないし、通常の攻撃も何ターンも回復なしに食らうことはできない。
プリヤの
「どうすれば……。ん?」
同じような動きを3ターンほどくり返したところで、金髪の動きが変わる。
今度は細かく分かれた数本がうねうねと気持ちの悪い動きをし始める。するとその髪たちから「チ、チ、チ、チ、チ、チ」と小さな音が発せられた。
「ムッ。二人とも、念のため防御して」
「はい、マスターさん」
「っ、わかりました」
体力の低い二人を庇うようにして待ち構える。
金髪たちが青く光ったように見えた次の瞬間、バチバチという音とともに電撃が部屋全体に放たれた。
「……っ、傷は浅いです。おそらく【マハジオンガ】相当だと思われます」
「~~、お肌が、ピリピリします」
安ちんはともかく、姫とプリヤにとっては痛手になるダメージだった。しかし安ちんは笑って言った。
「逆にこれはチャンスだお。姫ちゃんは攻撃アップのスキルを使って、プリヤは回復」
「了解です。ペルソナ!」
「はい、お兄さまがそう言うなら……【焔色の接吻】!」
プリヤの【
そして一方の姫の手元には、消えない炎が作られていた。
「そしてもれが使うのは、【
農業用フォークが金色の髪の壁に穴を空ける。髪の毛で出来ているために穴はすぐに埋まるが、しかし【鎧通し】は当たった対象の防御力を下げる技だ。
メメントスという認知世界では特に『そういうものだ』という共通認識が広まってさえいれば、『そういうもの』として効果が発揮される。
まぶしいくらいの金色だった髪は何度も火にあぶられ、傷ついたことで輝きが鈍っている。
そこに『防御力が下がる』という概念を打ち込まれたことで、金色の髪は見た目以上に弱っていた。
「よし、今だ!合体技で一気にたたみかけるお!」
「了解です。準備を始めます」
「続けていくお。姫ちゃんキメちゃって!」
「任せてくださいまし。これこそ私とお兄さまの
炎の嵐が金髪の塊を焼いていく。
その威力は髪だけに留まらず、設置されていた大きな装置までも溶かし変形させていた。
炎が収まった時、髪のほとんどは燃えカスになっていた。髪の持ち主である少女はフレームが歪んだ装置に今だ張り付けになっている。
装置の大切な部分が壊れたのか、致命的な音が鳴って装置がグラつく。
それとともに少女を張り付けにしていた金具が壊れて、それごと少女が落下した。
「おっと、危ないお」
見た目からは想像が出来ないほどの機敏さで駆けつけた安ちんが少女を抱き止める。
少女の髪は最初の5分の1以下になっていたが、それでもロングヘアと呼べる長さは残っていた。
受け止めた少女は信じられないほど痩せていて軽く、顔色も良くない。
しかし安ちんの顔を見ると、安心したように微笑んだ。
「ぁ…………ぅ」
「うん、どういたしまして」
安ちんがうなずくと、少女の姿が薄くなり、まるで最初から存在していなかったかのように消えた。
◇
渋谷駅の地下入り口前は、コスプレ会場かと思えるほど個性的な格好をした人が集まっていた。
一般の人たちは『立ち入り禁止』テープの外側から、何かのイベントかと興味深そうに見ている。
そんな中に安ちんたちが出きたのをアサイラムの職員が見つけて声をかけてきた。
「君たちはメメントスの探索帰りだよね、全員無事かな?おかしな事は無かったかい?」
「みんな無事ですお。おかしな事は……ちょっと強いイベントボスと戦ったくらいかな?」
「イベントボス?」
首をかしげる職員に、隠し通路の先で起こった戦闘の内容を話していく。
「一階層で?隠し通路とは、まだ誰も見つけてないのは偶然かそれとも別な条件が?まあいいか。病室みたいだったって言ってたけど、どこの病院とかは分かったりする?」
それは無茶な質問だった。
東京にはいくつも病院があり、まして今日来たばかりの地方民が把握しているはずもない。
しかし、安ちんは普通ではなかった。
「新宿衛生病院ってベッドに書いてありましたお」
「新宿衛生病院だって!?」
姫とプリヤは確認の視線を向けられるが、元一般人の少女とシキガミは曖昧に首をかしげることしかできない。
「あと名前も書いてあったお。メリッサ・ベルって読むんだと思うお。外国の子ってお人形さんみたいでカワイイよな」
安ちんはその時のことを思い出す。まるで写真を撮ったかのように、一瞬一瞬を鮮明に脳内に浮かべることができる。
女の子のいた空間、その弱々しくも若々しい肉体。そして服のシワの一つ一つが脳に刻まれている。
それは今までの人生で培われた特殊能力。
安ちんは女の子が関係すると能力が上昇する
それを知らない職員は半信半疑ながら書き取ると、情報伝達のために走って行った。
「さすがお兄さま。あの異様な空間においてなお、冷静に周囲を観察していらっしゃったのですね」
「ぜんぜん大したことじゃないお」
謙遜しているわけではない。本人は誰でもできることだと思っていた。自分はその能力の使い方が他人と違うだけだと。
「それより休憩しようか、姫ちゃんも疲れてるだろ。向こうで飲み物もらえるみたいだお」
姫とプリヤの背中を押しながら配布用のテントへ向かった。
◇◇◇
安ちんたちが休憩している間に情報がまとめられ、東京中のアサイラム職員と人外ハンターに共有される。
俺と小夜はその情報を渋谷の地下鉄構内で受け取った。
「新宿衛生病院?なら向こうにいた方が近かったか。いや、結果論だな。うわ、マップでも確かにつながってるし」
地下工事組合から提供された地下のマップは通路が複雑にからみあっていたが、目的地がはっきりしていれば読み解くことは可能だった。
誰がどういう意図で作ったのか分からないが、病院の地下と一般の通路でしっかりとつながっている。
「その【メメントス】とやらは
「設定的には渋谷の地下だけだと思うけど……。人間の共有無意識の空間だとしたら、距離とか関係ないのかな?そういえば、全然別の場所にいるはずの人間のシャドウも現れてたな」
ゲーム中では、ネット越しに予告を受けた対象のシャドウがメメントスに現れた。
つまり条件さえ満たせれば、どこにいたってメメントスに現れるのだろう。
「たぶんだけど、俺たちが探していることが向こうに伝わったから出現したんだろう。自分が悪いことをしている認識があったのか、それとも助けて欲しかったのかもしれない」
「メメントスとは、とても奇妙な異界なんじゃのう」
説明が面倒くさいのでそういうことにしておく。
渋谷の地下にあった暴走COMPの大半はすでに破壊し終えていた。
時刻はすでに夕方を過ぎているが、大停電は起きていない。おそらくだが、メメントスに出たというイベントボスを倒したことで回避できたのだろう。
俺は停電を回避できなかった時の次善の策として、人外ハンターに協力を呼びかけて、あらかじめ地下に設置された暴走COMPを破壊してもらっていた。
喚び出されている悪魔のレベルが思ったよりも低かったので、葛葉一族や現地のハンターたちでも対応できている。
ちらほら強い個体も見つかっているようだが、そっちは俺を含めた高レベルハンターが対応することで被害は抑えられていた。
「でも暴走COMPは囮で、本命はメメントスの中にあったってことか?ちょっと回りくどい気がするなあ」
「ぶつぶつボヤいとらんでしっかりするのじゃ。悪魔の気配が近いぞ」
小夜に言われて気を引き締める。
この先にいるのが、報告を受けた強い悪魔とやらの最後の一体だった。
「やっぱりそこまで強そうじゃないな」
「それでもレベル20はあるじゃろ。一般ハンターにとっては十分に脅威になるわ」
「そうだったな。じゃあさっくりと倒しておくか」
仲魔を呼び出し、万全な準備を整えてから強い悪魔とやらの前に立った。
・タワーインフェルノ
ペルソナ2罪に登場する合体魔法
水撃系・地変系・火炎系の順番で発動。敵一体に火炎属性の大ダメージ。
・メリッサ・ベル
見た目はグラブルのハーヴィン。
髪の毛がオートで攻撃と防御をしていた。
・安ちんは紳士
数少ない接触の機会を最大限に生かすために瞬間記憶能力(幼女限定)が強化されたらしい。