転生したらメガテン世界だった orz   作:天坂クリオ

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夢の成れ果て

【母】と呼ばれた巨人の腹の中から、黒髪の青年が出てきた。

当然ながら全裸。夕闇で局所が隠れているから映像的に問題は無いと思いたい。

 

青年は自分の手足を不満そうな顔で確認している。知性は十分高そうだ。

青年の目が自身の下腹部へと向かう。そこには巨人の腹から伸びたへその緒が、青年の腹とつながっていた。

次の瞬間、大きく息を吸い込み喉に詰まっていた痰を吐き出した。

 

「がはっ、んんっ。あー、あー。私としたことがみっともない。だがこれで話しやすくなった」

 

遠くから光が投げかけられ、青年がそのまぶしさに目を細める。

 

巨人が倒れたことが捜査官たちにも分かったのだろう。彼らが用意した光を発する使い魔たちが寄ってこようとしていたので、近づかないように手で制した。

 

「話は通じるか?お前は何者だ?」

 

「話が通じないのはそっちだろう。いつもいつも我々の邪魔をする。こっちは正しき信仰のために行っているのだと言っても聞かず、我々が全ての元凶だと攻撃してくる。キミ達にはもううんざりだ」

 

「認識の相違だな。言葉が通じても理解し合えないタイプか。どっちが悪いかなんて話は無意味だからしないが、いちおう聞いておく。日本国憲法に従って、裁きを受けて罪を償う意思はあるか」

 

「世界はもうすぐ終わるのだ。人の定めた不完全な法は、もうすぐ何の意味も無くなる」

 

「だがまだ終わっていない。だから意味はある」

 

青年は聞こえよがしに、大きくため息をついた。

 

「終わりが来たら、もう遅いのだ。だからそれまでに、生き残るための準備をしなくてはならない。私が生き残ろうと努力しているのに、キミ達は必ずその邪魔をしてくる。何故だ。生きようとすることの何がいけない。幸せになろうとすることの何がいけないのだ」

 

「法律を守ってないからだ。そして、他人の命を奪い、他人の幸せを壊しているからだ。自分がそれをやられる覚悟がないのに、他人にそれをやろうとするな」

 

俺の言葉に、青年は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

 

「……。キミは、分かっていない。神の国にあっては人は家畜同然。しかしその外は悪魔の蔓延る地獄であり、そこで生きることは苦痛でしかない。そんな未来でどう生きればいいか分かっているか?分からないだろう。ただ私だけが、その答えを知っている」

 

「それってつまり全部が地獄じゃないか。やっぱり神の世なんてろくでもないな。そんな世界を実現させるわけにはいかないと改めて思うよ」

 

「……やはり異端者には話が通じないか。神の決めた未来は絶対なのだ。我らにはそれを覆す事などできない。ならせめて、人の未来を守るため私の力となってもらおう」

 

青年がこちらへ手のひらを向けてくる。

どんな攻撃でも対処する自信があったので身構えたが、身体から少し力が抜ける感覚がした。

「っ、これは【エナジードレイン】か?」

 

エナジードレインは敵からHPとMPを吸い取るスキルだが、レベルに差がなければ脅威ではない。

やっかいではあるが、普通に攻撃される方が痛い。

 

「ちっ、やはりこの程度か。まだまだ力が足りない」

 

『サマナー、これはもう戦闘開始だな?オレサマはやるぞ【メギド】!』

 

サマエルが万能属性の魔法を放つ。

耐性、無効、反射をされない万能属性魔法は相手の耐久力を測るだけならいい選択だ。

 

メギドの光が青年の間近で爆ぜる。

それが収まった跡に立っていた青年は、少し怪我をしているものの、大した痛手にはなっていないようだ。

なのに青年は、苦痛に顔をゆがめていた。

 

「痛い、痛いではないか。うう、野蛮な悪魔め。私が死んだらどうするのだ。【母】よ、早くこの痛みを癒やしてくれ」

 

青年が傷を庇いながら祈ると彼とつながったへその緒が脈打ち、傷が回復した。

 

「お前それ、その巨人からエネルギーを奪っているのか」

 

「【母】が【子】に栄養を分け与えるのは当然であろう?それに私が力を貸し与えたことで、【アブディエル】は上位の存在へと変わることができたのだ。貸したものに利子をつけて返してもらうのは当然だろう」

 

「力を貸した?いや、それよりも、その巨人がアブディエルだって?」

 

巨大なマネキンのような外見に、アブディエルの面影は残っていない。何がどうなったらここまで変質するんだ。

 

「どんな世界になっても生き残るためには、不老不死となるしかない。私はそう結論づけた。不老不死となれば死の恐怖から解放される。しかし人は不老不死にはなれない、なぜなら産まれ持った寿命があるからだ。ならば、人を超えた真人として産まれ直せばいい。そうだろう?」

 

「何を言ってるかさっぱり分からない」

 

「産まれ直すためには母胎が必要だ。幸い、我々の組織にはその(たぐ)いの知識が豊富にあった。そして失敗続きのマグネタイト(無駄飯)喰らいを使う許可は、思いの外すんなりと降りたよ」

 

暗くなったスタジアムの中で、明かりを持った使い魔たちが青年を照らしている。

警戒と監視のためなのだが、青年にとっては演者が浴びるスポットライトのように感じているのかもしれない。

 

サマエルが攻撃したがっているが、声を出さずにそれを宥める。

青年の正体が誰でどういうつもりなのか、自分からしゃべってくれるなら聞いておきたい。

 

「天使を進化の卵たる母胎へと変え、私が真人へと進化する。それに必要なエネルギーを集めるために【ベルの因子】計画を実行した。お前達が邪魔をしなければ、きっと今頃は完全な不老不死を得ていただろう」

 

「他人の命を奪ってまで、不老不死になりたかったのか」

 

「私は死ぬことが怖いのだ。今まで真面目にコツコツ築いてきた全てが、死んだらそれで終わってしまう。そのような未来など、受け入れられるはずがない!」

 

突如興奮した青年が腕を振ると、風圧で地面の砂が舞い上がった。

こいつ、さっきより強くなっていないか?

 

「私は、人として真面目に生きてきた。メシア教の敬虔な信徒として、ずっと組織に尽くしてきた。司祭として、何人もの人々を救ってきた。なのに死んだら全てが無駄になる。私の実績、私の財産。それらが全て無意味になるなんて、そんなの、あんまりではないか。今まで他人を助けてきたのだ。それを私に返してくれてもいいだろう?いや、返すのが当然だ!そうだ、全て私に返せ!」

 

青年が放った波動が、周囲からほんの少しずつエネルギーを奪っていく。こいつはそうやって、自分を強化しているのか。

このまま放っておいたらヤバそうだ。

 

「【ブレイブザッパー】」

 

「ひいっ」

 

首を落とすつもりで振るった刀が、青年の腕に阻まれる。

腕くらい切れると思ったが、深めの傷をつける程度で防がれてしまった。その傷も見ているうちにどんどん治っていく。

もしかして、最初から全力で攻撃するべきだったか?産まれたてだったらもっとダメージを与えられていただろう。

 

「ふ、ふははははは。なんだ、この程度か。これなら安心して進化を続けることができるな。私は誰にも傷つけられない、誰にも殺されない存在になるのだ」

 

まだ切り札が残っているが、発動には少し時間が必要だ。それに他にも不安要素がある。それでも今やらないと、手を付けられなくなる。

青年は勝利を確信しているのか、こちらに目もくれていなかった。

 

「我が名はヴェルドレ。【ベルの因子】を持つ最後の一人。【母】よ、世界よ。我に力を返し給え。そして私は真の人へと至るのだ!」

 

ヴェルドレから波動が放たれる。

それは世界を揺らし、エネルギーを奪うための力。

ヴェルドレの足下の巨人――【母】となったアブディエル――は急速に水分を失い、枯れ木のようにやせ細っていった。

 

近くにいると俺たちまで力を吸い尽くされそうだ。

合図をして大きく下がるが、ティンカー・ベルがその場に残った。

 

「なにしてるティンカー・ベル。はやくそこから離れるんだ!」

 

『……サマナー、アタシがやるべきことが見つかったよ。だってアタシも【ベルの因子】を持つ悪魔だから』

 

「ティンカー・ベル。お前、まさか」

 

『アタシは、子供に夢を与えるモノとして喚ばれた。捧げられた力が少なくて完全ではなかったけど、その願いはアタシの中に残っていた。これはアナタの願いだったんだね』

 

ティンカー・ベルの身体が震え、カランカランと澄んだ音が響き渡る。それとともに鱗粉のように光がこぼれ落ち、それがヴェルドレへと吸い込まれていく。

 

「おお、まだこんなにも【ベルの因子】が残っていたのか。これさえあれば、私は不老不死へと近づける。さあ、それを私にもっと寄越すのだ」

 

『うん、全部あげる。そして不安も恐れも無い、素敵な夢を見せてあげるから』

 

ベルの因子を吸い込んだヴェルドレの肉体に変化が起こった。青年だった肉体が、どんどん若返っていくのだ。

 

「ははは、すごいぞこれは。私は、ボクは、サイキョーになったんだ」

 

進化を止めようにも、切り札を使うための魔力はまだ溜まらない。不完全な状態で攻撃しても致命傷にはほど遠いだろう。

一撃で倒せなければすぐさま回復してしまう。あいつはそういうギミック持ちだ。

 

「ボクはムテキだ。なんでもできるぞ」

 

『そうだよ、だから安心して眠れるよ。夢の中なら、空だって飛べるんだから』

 

魔力を溜めながら見ている間もヴェルドレの変化は止まらない。少年になってもさらに幼く若返っていく。

 

『シュルル。なあおいサマナー、ちょっと様子がおかしくないか?』

 

「たしかに。プレッシャーが逆に小さくなっていっている。回収したエネルギーが全て進化に使われているのか?」

 

ヴェルドレは幼く小さくなっていく。それでも変化は止まらず、離れた場所にいる俺たちから見えないほどに小さくなってしまった。

それとともに力を吸収する波動も小さくなり、放たれる魔力がわずかにしか感じ取れなくなっている。

 

ティンカー・ベルが地面へと落ちた。

彼女の身体から出ているのはベルの因子であり、それは彼女の存在と深く結びついている。それを放出するということはつまり、彼女の存在を削り落とすということだ。

慎重に近づくと、身体の一部だった(ベル)がすっかり錆び付いてた。

 

「ティンカー・ベル、どういうことだ?お前はいったい何をしたんだ」

 

『私は子供の夢を叶える妖精。夢の世界でなら、どんな願いも叶えられるの。空だって飛べる』

 

さっきまでヴェルドレが立っていた場所には、幼子よりもさらに幼い胎児が眠っていた。

俺たちが見ている前で、こじ開けられていた巨人の腹がゆっくりと閉じられていく。

力を吸い取られた分だけ小さくなった巨人は、花が閉じるように胎児を包み込んでいく。

胎児が見えなくなると枯れ枝のような手足が腹だったものをしっかりと固定し、開かぬようにつなぎ止めた。

 

大きめのバランスボール大の種子のようになったそれは、わずかなぬくもりを発していた。

 

『おやすみなさい。いい夢を』

 

ティンカー・ベルはそう言うと目を閉じた。

 

◇◇◇

 

「それで、これがそのヴェルドレの成れの果てというわけじゃな」

 

戻ってきた小夜が言った。

 

ボロボロの神宮スタジアムを捜査官たちが歩き回っている。【母】の滅びの歌によって、広範囲が砂のような物質に変わってしまっていたので、その調査と安全確保も彼らの仕事だ。

 

他の人外ハンターも立ち入れないようにしているので、今ここにいるのは俺と小夜、そして神主の遠隔通信用のシキガミだけだった。

 

『いやあ、これはなかなか面倒そうだ。かつてメシア教の司祭であり、その立場を利用して天使を改造したあげく不老不死になろうとした男の成れの果て。しかもまだ生きていて、この先どう進化するかは分からない。やっかい事の匂いがプンプンしてくるね』

 

神主の楽しそうな気配がシキガミ越しに伝わってくる。

 

「笑い事じゃないと思うんですけど。今ここでバッサリ割っちゃうわけには行かないですよね」

 

『もう確保しちゃってるしね。しかも何処から伝わったのか、メシア教の穏健派から面会の予約が来ちゃってるんだよね。耳が早い上に手が早いからホントどうしよう。もう笑うしかないよ。ハハハ』

 

メシア教穏健派の代表の顔を思い出す。

天使のようにカワイイ顔でありながら、【天使】のように底知れない雰囲気を持つ少女だった。

どこまで本気か分からないが、神主のことを『運命の人』とか呼んでいたりする。

何も考えていなように見えて、何もかも見通しているような動きをする恐ろしい面もある。

 

要するに、政治力の低い俺では相手にならないだろうということだ。

 

「できるなら神主に全部お任せしたいです。こんな(やく)い物体、処分するにしても封印するにしてもかなり複雑な処置が必要ですよ。根願寺どころか葛葉家でも持てあましますよ」

 

『だよねー。ささっと処分しちゃいたいんだけど、そんな訳にはいかなくて。それを知ってるからか穏健派が引き取りの打診をしてきてるんだよね。しかも高額のお布施をちらつかせててさあ』

 

「お布施かあ」

 

建前が必要なのはどの世界でも同じである。

この厄い物体は様々な理由からメシア教にとって喉から手が出るほど欲しいものであり、文字通り手段を問わずあらゆる手を尽くしてくるだろう。

 

大破壊が目の前に迫っている現状、その対処に使えるリソースは無いに等しいし、そこまでして守っても利用する方法が見当たらない。つまり価値がない。

 

これはもう、素直に売り払う方がいいのではないだろうか。

 

『そうなんだよね。こっちでも契約書で厳重に縛りを重ねて、悪用できないようにして渡すのが一番だって結論になったよ。今はその契約書の作成に追われているところ。そこで君たちに、その物体の運搬を頼みたいんだ』

 

「ものがものだから、他人に任せるのは難しいですね」

 

『そうそう。どこか他の組織に渡ったらマズイことになるのは確実だから、どんな手を使っても良いから指定した場所に届けてね』

 

「簡単に言ってくれるなあ」

 

今現在の日本に他の組織の強力な霊能力者がいるとは思えないが、絶対にいないとも言いきれない。

過激派なら大天使を召喚するくらいのことはやってきそうだ。

なので手段を探したいのだが、俺にはとりあえず基本しか思い浮かばない。

 

「似た荷物を複数用意して、運び屋を俺たち以外にも複数用意して、どれが本当か目くらましして運ぶとかかなあ」

 

俺たちと、捜査官の一部と、あとは人外ハンターを雇うくらいか。

 

「そういえばお主よ。ちょうど先ほど優秀な運び屋と知り合うことができたのじゃが、声をかけてみてはどうかの?」

 

「運び屋?」

 

「うむ、池袋を本拠地としておって、先のケンカしておった者どもと知り合いらしい」

 

「優秀なら雇いたいが、でも悪魔と戦うかもしれないぞ」

 

「それなら心配はないと思うぞ。なにせあやつも悪魔じゃからの」

 

そう言って小夜が電話で呼び出したのは、首無しライダー……正しくはデュラハンの運び屋だった。

 

そうして複数ルートを使った結果、様々なトラブルがありながらもなんとか厄い物体を目的地に届けることができた。

 

そうして今回の一件は、なんとか無事(?)に終わることができたのだった。




・ヴェルドレ
若返った結果、擬似的な不老不死に至った。無敵だが無力。
最初はマナ→ゼロ→アブディエルというだけのDODネタだったが、ここまで膨らんで大きくなるとは思ってもいなかった。

・デュラハン
デビサバの絵師つながりで池袋が舞台の小説ネタを使ったけど、それならやっぱりこのキャラを出さないわけにはいかないと思った。反省はしていない。

・ティンカーベル
生きてる。ただしベルの因子を出し切り弱体化。

・【母】
「早すぎたんだ!腐ってやがる!!」と言わせたかった。だが言える人がいなかった。残念。
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