本当に申し訳ない(金属男博士顔)
【シュバルツバース・エリダヌス】
自らの尾を喰らう蛇、【ウロボロス】が消滅していく。
無限を意味する大蛇はその再生能力を失い、人の手によって虚無へと還っていった。
その様子を二人の男が見送っていた。
一人は満身創痍。膝をついて肩で息をしている。装備しているデモニカスーツのエネルギーは残り少なく、仲魔のほとんどが死亡している。運良く生き残ったような有り様だった。
彼の名前は
しかし年齢はゲームの設定より若い16歳。少々老け顔ではあるが、精神面は年相応の若々しさを持っていた。
「はあ、はあ。どうですか、やってやりましたよ」
「ふっ、やるじゃあないか。正直、ウロボロスに挑むには少し早いと思っていたんだがな。私の予想を超えたことを褒めてやってもいいぞ」
そう言ったのは、特注の黒いデモニカスーツを着た男。かつては葛葉倫太郎と呼ばれていた【周回ニキ】その人である。
「悪役みたいな褒め方はやめて下さい。それよりも、自分との約束を覚えていますよね?ウロボロスを自分のチームだけで倒したら、このデモニカスーツの改良をしてくれるんですよね」
「もちろん、覚えているとも。この地点は多数の次元を繋ぐ中心地点であり、ウロボロスを倒したことでその封印が解放された。これで地上と連絡が取れるようになったはずだから、早速改良データを送ってもらえるようとりはかろう」
「よし。これでこのクソ重いスーツが少しはマシになる」
そう言うと仁也は仰向けに寝転がった。
常日頃から身体を鍛えていたが、彼が身につけているデモニカスーツは総重量が50kg以上ある。
これでも自衛隊に配られたモノを改良し軽量化されているのだが、それでもそんなものを装備してシュバルツバースの中を探索するのは、肉体だけでなく精神をも疲労させる。
そんな過酷な状況でも適応し、あまつさえ強力なボス敵であるウロボロスを倒したのはさすが主人公キャラだと言えるだろう。
周回ニキはウロボロスがドロップしたレアフォルマを回収する。
「この分なら、もうお前達だけでも大丈夫そうだな。焦る必要はない。少しずつ進んでいけば必ず攻略できる」
「な、何を言っているんですか教官。ここから一人で出れるわけないでしょう。それに教官がいなくなったら、フォルマを含めたリソースの収集効率がどれだけ落ちると思っているんですか。自分たちだけでは数週間と持ちませんよ」
「いや、君たちならきっとなんとかなる。それにこの場所はちょうどいいんだ。さっきも言ったが、複数の次元に繋がっているこの場所は次元を超越するためのエネルギーも少なくて済む。今までよりもずっと遠くの過去へ跳ぶことが可能なはずだ」
「教官、本気で言っているんですか?」
「もちろんだとも。だが、すぐには跳び立つつもりはない。本部への報告は必要だし、可能なら別れの挨拶もしておきたいからな。そのためにも先ずは、レッドスプライト号の到着を待とう」
「教官……」
無線でレッドスプライト号と連絡を取る周回ニキの背中を仁也が見つめる。
教官である彼には秘密があることは周知の事実であるが、詳しくは知らなかった。
仁也は自衛官志望であったが、自己鍛錬のために人外ハンター登録をした。
登録後の覚醒訓練の場で
少々強引に訓練用異界を連れ回され、気がつけばデモニカスーツを与えられて【シュバルツバース】などという巨大異界に連れてこられた。
常に怪しい言動をしている教官のことを、それでも仁也は信頼していた。
この人は自分をすごいところへ導いてくれる。そう思っていただけに、遠回しに別れを告げられて戸惑った。
(どうすれば引き留められるだろうか。いや、それはひょっとして自分のエゴではないのか?)
16歳の若者らしくアレコレ悩みながら頭を抱えていると、不意に周回ニキが振り返った。
仁也は自分が見られたのかと思ったが、そうじゃないと気づいて視線を追う。
するとウロボロスを倒したことでぽっかりと空いた空間に、黒い穴が発生しつつあることに気がついた。
「えっ、これ、何か起こるんですか?」
「只野、お前は後ろで待機しつつ仲魔の治療を行え」
言われたとおり周回ニキの背後で仲魔の治療を始める仁也。
その視線の先で黒い穴は確固とした形をとり、そしてそこから二人の男女を吐き出した。
周回ニキは、彼らがアサイラムの関係者だとすぐにわかった。なぜなら彼らが着ているスーツは、ライダー型とよばれるデモニカスーツだったからだ。
アサイラムの制作班はオリジナルのデザインをするよりも、前世にあったサブカルの再現を好む傾向がある。
男の方のは黒地に銀のメタリックなスーツだが、顔面に『デモニカ』の文字が堂々と入っていた。
一方の女の方は黒のスーツに白の外套を羽織ったようなデザインで、同じく顔に『デモニカ』の文字が入っている。
自己主張の激しいデザインだが、一発で所属が分かるだろう。
そんな男の方が進み出て、親しげな様子で声をかけた。
「周回ニキですよね?お久しぶりです、シュバルツバースの探索は順調なようですね」
「キミたちは新しい応援か?ずいぶん派手な登場だったが、ついに次元を超える技術でも見つかったのか」
周回ニキの質問に、男は背後にある黒い穴を親指で示した。
「いえ、ご覧の通り、裏道を通ってきました。本格的な追加部隊については本部に聞いて下さい。ところでこっちはどんな状況ですか?」
「つい先ほどウロボロスを倒したところだ。それで次元の封印が解けて、キミたちが通行できたような穴が空いた。区切りがついたので、私はこれから次の周回に旅立つところだよ。私の代わりにキミたちが参加してくれるなら、安心して行くことができる」
「えっ、せっかく会ったばかりなのに、もう行くんですか?シュバルツバース攻略は大丈夫なんですか?これから先ってまだ長いと思うんですけど」
「その心配はない。今までの調査によって、次のフォルナクスが最後だと判明している。シュバルツバースが発生してから成長しきる前に突入できたのが大きい。敵も予想よりも数段弱いし、彼らだけでもなんとかなると判断した」
周回ニキの言葉に、男はなるほどと頷いた。
「じゃあもうここを離れるつもりなんですね。引き継ぎとかも終わっているんですか?」
「必要最低限のことは、AIのアーサーに伝えてある。後はまあ、挨拶くらいなものだ」
周回ニキの言葉にうなずく男に、女が近寄り声をかける。そして卍型の物体を彼に手渡した。
「こっちが大丈夫なようで安心しました。では俺たちも必要なものは手に入ったんでおいとまします。ああ、ついでにアイテムをいくつか置いてくので、良ければ使ってください」
男はそう言いつつ、手に持った卍型の物体を振ってみせる。それを見た周回ニキはとっさに自分の荷物を探った。
「なっ、それは私のスワチカ!貴様いつの間に」
「そりゃあ、話している間にですよ。俺には頼りになる相方がいますので。それじゃあまた会う日まで」
そろえた二本の指をシュピッと掲げてから、正体不明の男女が次元の穴へと消えていく。
「待て、それがなければ過去に戻れなくなるんだぞ!くそっ。ヒトナリ、後は頼んだ!」
「はい!えっ、どういうことですか……」
仁也が言い終わる前に、周回ニキもまた彼らを追って次元の穴へ入っていった。
直後に穴は収縮し、何も無かったように消えてしまった。
立ち尽くす仁也の背後から、轟音とともに時空潜航型揚陸艦レッドスプライト号が突入してきた。
着陸したレッドスプライト号は桟橋を下ろし、そこから隊員達が駆け下りてくる。
彼らになんと説明したらいいのだろうかと、仁也は頭痛を感じ始めて頭をおさえた。
とりあえず確実に言えるのは『上位陣は変態ばっかりだぞ』という先輩の言葉が正しかったということだけだ。
◇◇◇
【過去への回廊】
ここは、アカラナ回廊と呼ばれる次元の裏道。過去と未来をつなぎ、幾重にも分岐する平行世界の隙間を縫うように走る回廊。
そういう場所だと前世と今世の知識によって気づいた周回ニキは、思わず舌打ちする。
この回廊を使えばスワチカを使わなくても過去に戻れるが、肉体的な問題が出てくる。
スワチカは『現在の自分』を『過去の自分』へと重ねる【強くてニューゲーム】だが、アカラナ回廊は『現在の自分』のまま過去へ行く【タイムトラベル】だ。
肉体が若返るわけではないし、『自分がもう一人いる』といったパラドクスを引き起こしかねない危険もはらんでいる。
(早くスワチカを取り返さなければ)
周回ニキは小さく呟く。
幸い、奪われたスワチカは5個中の1個だけだ。見つければすぐに取り返すことはできるだろう。
奪っていった相手の正体も予想がついている。だが彼らがなぜこんなことをしでかしたのか、周回ニキにはそれが分からなかった。
次元の寄せ集めであるアカラナ回廊は不安定であり、その構造も複雑怪奇なものとなる。
現世よりも根源に近い場所であり、その分ここに存在する悪魔も強力なものとなる。
現世のDPがそこまで高くないおかげでここの悪魔も強すぎるということはないが、それでも迷宮じみた構造もあって追跡には苦労する。
追跡する相手の目的が見えないために行き先を想像するのが難しいために、手段としては単純に相手が残した痕跡を追うことになる。
たまに存在する意識だけの思念体は話が通じないことが多く、通じたとしても目的の人物を知っているとは限らない。
それでも焦りは禁物だと自分をなだめながら、周回ニキは追跡を続けた。
それからしばらく先で、やっと彼らが残した重要な手がかりを見つけた。
それは次元に空いた黒い穴であり、ウロボロスのいた場所に空いたものと同じものだった。
この先がどうなっているのか分からないが、周回ニキには入らないという選択肢はない。
『奪われた過去を取り返す』それが周回ニキの生きてきた意味だからだ。
周回ニキは油断無く身構えながら次元の穴へと入る。
出てきたそこは寂れた地方都市のようであり、夜空には星が輝いていた。
「ここは……見覚えがある?」
街の様子よりも、星の並びに既視感を感じて空を見る。
周回ニキが視線を彷徨わせていると、遠くから腹に響く爆発音が聞こえてきた。
「あれはまるで……いや、ちがう。そのもの、なのか」
都市の一部に、火の手が上がっている。それは過去の光景の再現どころではなかった。
「だとすると……クリスティーヌ!」
過去、守ると誓った相手が消えた時、消えた場所。そうだと気づいた周回ニキは駆けだした。
・只野仁也
ヒトナリくん。ストレンジジャーニーの主人公。ゲーム時よりだいぶ若い。
メガテン主人公は基本的に選択肢しか発言しないから影が薄いよね。
・特注デモニカスーツ
時を駆けるライダーであるジ○ウとツ○ヨミ型。中の人は覚醒者なのでスーツのレベルアップシステムは排除し以上空間での生存性能を重視して作られている。その分かなり軽く動きやすくなっている。