転生したらメガテン世界だった orz   作:天坂クリオ

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周回ニキの結末

京都の一角にある葛葉本家。その一室に俺と小夜はいた。

向かいには小夜の母親であるクリスティーヌさんが、和服を着て座っていた。

 

「ごめんなさいね、正座は慣れていなくて。貴方たちも足を崩してくれていいからね」

 

「ありがとうございますお母様。でも大丈夫、私は慣れていますから」

 

小夜は他人行儀な返事をしている。

クリスティーヌさんの救出から一月ほど経っているが、クリスティーヌさんとの間がまだギクシャクしていた。

実の親子といえど、およそ20年という年月は溝が大きすぎるらしい。

小夜からすれば突然出てきた母親だし、クリスティーヌさんからすれば娘がいきなり大人になっていたという状況だ。

何より親子だというのに、二人の年齢の差はほとんど無くなっていた。

 

「それにしても、小夜さんってすごく若く見えますね。私も若く見えるとは言われてたけど、貴女はそれ以上よ」

 

「敬語は必要ありませんお母様。霊能者は能力に覚醒すると老化が遅くなるんです。特に私はお父様とお母様ともに優れた霊能力を持っていらしたので、娘の私もそれを受け継いでいるのです」

 

「そうなんですね。あ、ごめんなさいね、私ったらまだ慣れてなくて。そうよね、私たちは家族なんだし、もっと砕けてていいわよね。小夜さ……サーヤも普通に話してくれていいわよ」

 

「いえ、私はこれが普通なので」

 

「ぶふっ」

 

横で聞いていてつい吹き出してしまい、ジト目で睨まれた。

 

「いやさ、これから会う機会がたくさんあるだろ?どこかで絶対にバレるって。だったら今のうちから慣れてもらったほうがいいと思うけど」

 

「……」

 

小夜はこちらを恨めしそうに睨んでから、ため息をついた。

 

「それもそうじゃな。母上、これがわしの普段の口調じゃ。育てのお婆様と暮らすうちにこうなってしもうた。聞き取りにくかったら、遠慮なく言ってほしい」

 

恥ずかしそうに頬を染めて言う小夜に、クリスティーナさんは少し驚いたような顔をした後、勢い込んで言った。

 

「すごい、のじゃロリ口調って言うんでしょそれ。アニメで見たわ!本当にそういうしゃべり方する人がいたのね!!」

 

「母上!?」

 

「もうちょっと色々と言ってくれないかしら。そうね、あれよ、『たわけ』とか『なんとかなのじゃ~』とかお願いしたいわ」

 

「母上!???」

 

突如オタクと化した母親の姿に、小夜は珍しく慌てていた。

 

 

「ごめんなさい。本物が見られてつい興奮してしまって」

 

「いえその、喜んでもらえたなら良かった……のじゃ」

 

小夜が付け足した語尾に、笑いが漏れそうになるのを全力で耐える。

あれからしばらくクリスティーヌさんのリクエストが続き、小夜は戸惑いながらもそれに応えていた。

その様子はとても微笑ましく、記録しておけば良かったと全力で後悔中である。

 

だが今のやりとりで、だいぶ距離が近くなったようだ。膝と膝が近い位置で、二人であれこれと話をしている。

 

「……というわけで、軽子坂学園へ通うことになったのじゃ。そこで件の霊能力者とやらはすぐに見つかったのじゃが、それこそが雄利さんだったというわけでの」

 

「まあ、すごい偶然ね。聞く限りだと、転生者?ってそれなりにいたんでしょ?それなのに彼のいた所に行くなんて、運命みたいじゃない」

 

「あの、その件なんですけど実は……」

 

 

楽しそうに話しているが、訂正すべきことがあるので少し申し訳ないが口を挟ませてもらう。

 

「そもそも小夜が学園に来たのって、俺が霊能力に覚醒してから学園に戻ってくる前だったんです。だから本当は葛葉家が調査しようとしてた霊能力者って、俺じゃないらしいんです」

 

「むむ、それは本当か?あの日以前から半分覚醒していたと言っていたではないか」

 

「それもあるかもだけど、実は俺が覚醒する前から学校のすぐそばの神社に【アサイラム】の関係者がいたんだよ。神主の知り合いからの依頼で、とある神社の悪魔の世話をしてたんだ」

 

「へえ、つまり勘違いだってことなのね。でもそうなると、ますます運命みたく感じるわね」

 

クリスティーヌさんはもう何でも運命を感じてしまうようだ。

その時の霊能力者とは織雅さん……つまり周回ニキこと葛葉倫太郎さんが使っていた偽名である。

彼は偶然だと言っていたが、本当はこうなることを予測していたのではないかと邪推したくなってしまう。

 

「リンタローも運命かもしれないって言ってたわ」

 

「えっ?」

 

「突然話が飛んでごめんなさい。でもリンタローが言ってたの。私がこんな風に助かるなんて、まったく予測してなかったって。彼は自分以外が私を助けるだなんて思ってなかったみたい。そもそも雄利さんとサーヤのことも、彼にとって偶然だったんだって」

 

そういえば、ビデオレターでそんなことを言われた気がする。

周回ニキといえど周回で経験してないことは分からない。

小夜を葛葉家に預けてから、ほとんど周回してないみたいなニュアンスだったから、本当にたまたま俺と小夜が出会い、俺たちがクリスティーヌさんを助けたのだ。

 

つまりは、周回ニキは運命をつかみ取ったとも言えるのではないだろうか。

 

そんな風に話をしていたら、ドタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。

何事かと思う間もなく障子が勢いよく開かれて、話題の周回ニキこと倫太郎氏が入ってきた。

 

「げっ、しまった。すまない邪魔するつもりじゃなかったんだ……ってもうそこまで来てる!?仕方ない。頼む、俺をかくまってくれ!」

 

「リンタロー!?いったい何があったの?」

 

「まゆりに追われているんだ。俺は奥に隠れてるから、適当に誤魔化してくれ」

 

そう言って奥のふすまを開く倫太郎氏。だがそこには葛葉御前ことまゆりさんが、満面の笑顔で立っていた。

 

「げえっ、まゆり!」

 

「倫太郎くん、なんでまゆりから逃げるの?お話しましょう、ね?」

 

「わかってる、話すから、落ち着こう、な?話せばわかる」

 

「まゆりは落ち着いてますよ?倫太郎くんこそすっごい汗かいてるね。拭いてあげるからこっち来てね」

 

まゆりさんはこっちに手を振ってから、倫太郎氏を引きずってふすまの奥へと消えていった。

倫太郎氏の悲鳴が聞こえた気がしたが、たぶん気のせいだったろう。

 

「不潔なのじゃ」

 

小夜さん落ち着いて。

 

 

「申し訳ありませんでしたァ!」

 

周回ニキこと倫太郎さんが、まゆりさんに向けて土下座した。

俺と小夜はそれを後方から見ている。

 

どうして謝罪しているのかといえば、倫太郎さんが葛葉家から無断で離れ今まで帰って来なかった件についてで、なんで今さらなのかと言えば、今日になるまでまゆりさんに会っていなかったからである。

 

「リンタロー、さっきまで二人だけで話していたはずなのに、どうしてそこで謝らなかったの?」

 

「いやそれが、謝る前にその、別な話題を持ってこられてだな」

 

「別な話題?」

 

聞き返したクリスティーヌさんと同じく俺も首をかしげていると、まゆりさんが倫太郎さんの隣に移動して腕をからませた。

 

「まゆりも倫太郎くんと暮らすことにしたのです。というわけでクリスティーヌさん、これからよろしくお願いします」

 

「えー」

 

「は?」

 

突然の事に声を出して驚いたのは、俺と小夜だけだった。

当事者であるはずのクリスティーヌさんは、困ったような顔をしていた。だがそれはまゆりさんに対してではないようだ。

 

「リンタローはそれがイヤで逃げ回っていたの?てっきり話はついていると思っていたんだけど」

 

「お、俺は葛葉家から出て行ったんだぞ、しかも許嫁だったまゆりを放り出してだ」

 

「だから元に戻るだけなので問題ないのです」

 

「まゆりお前は黙ってろ。それといったん離れてくれ」

 

「だめです。そしたら倫太郎くんまた逃げるでしょ」

 

「逃げない。約束するから。今まで俺が約束を破ったことあるか?」

 

「お嫁さんにしてくれるって言ってた」

 

「あー、それとこれとは違ってだな」

 

「おなじですー」

 

なんだこの痴話げんか。俺たちもう帰っていいですか?

 

「ハイハイふたりとも、落ち着いて。イチャつくのは後にして話を進めましょう」

 

クリスティーヌさんの仕切りでまゆりさんが元の位置に戻る。

それから改めて話を始めた。

 

「お小夜さんたちは知らないと思うから、順番に話すね。まず葛葉家は、倫太郎くんの家出を許すことにしました」

 

「家出て」

 

倫太郎さんのツッコミを、クリスティーヌさんが目で制する。

 

「ただ何も言わずに突然出て行った人を無条件で受け入れるわけにもいきません。そこで、条件をつけることになりました。これは罰も兼ねていると思って問題ありません」

 

当然だろう。歴史ある霊能力者の家を自称しているのだから、離反者を簡単に許すわけがない。特に倫太郎さんは十六代目葛葉ライドウの地位にいたのだ。

きっと本来こなすはずだった大量の仕事を押しつけられるとか、そういう罰に落ち着くと思っていたのだが。

 

「その条件ですが……」

 

まゆりさんが言葉を句切り、タメをつくる。倫太郎さんとクリスティーヌさんは、態度がどこか変だった。

 

「倫太郎くんはまゆりとも結婚して、子供を作ってもらいます」

 

「……?」

 

罰?罰とはなんぞや?(哲学)

 

いつの間にか別な話になったのかなと思ったが、どうやら繋がっているらしい。

頭に疑問符を浮かべていると、クリスティーヌさんが咳払いをした。

 

「んんっ。詳しい説明は私がします。まず私はリンタローと話し合って葛葉家に来ました。リンタローは葛葉家に事情を話して謝るべきだからです。もしも許されなければ今までどおりフリーのデビルサマナーとして活動すればいいとも思っていました」

 

倫太郎さんはまゆりさんとクリスティーヌさんの二人を助けるための自由が必要だったから、葛葉家を出ていた。

その二人が助かったのだから自由に行動する理由がなくなり、事情を話して勝手な行動を謝罪するのは間違ってないだろう。

俺と小夜もその話し合いを聞いていたし、葛葉家との仲介役をしたのも俺だ。ここまでは知っているから問題ない。

その時に弁護もしておいたし、本家の人たちに無茶な罰を与えないように頼んでもおいた。

もちろんまゆりさんにもちゃんと連絡をしてあったのだが。

 

「まゆりはそれを聞いて、なんとかしなければと思いました。倫太郎くんがネコにされたら大変だからです。それでみんなをこう(・・)説得しました。『悪いのは倫太郎くんを繋ぎ止めておけなかったわたくしです。なので責任をとって御前の地位から引退します。そして今後の葛葉家のために、優秀な子供をいっぱい産みます』と」

 

御前の地位からの引退という重大な発表があった気がしたが、後半のインパクトが強くて霞んでいる。

 

「もちろん引退はしても葛葉の結界の維持とか仕事は続けます。葛葉家の最高位を別な人に譲るというだけです。葛葉家を盛り立てるためにも、今後の戦力は必要不可欠なのです。そこのところを力一杯説明しました。そうして頑張った結果、倫太郎くんを葛葉家の一員と認めて、クリスティーヌさんも迎え入れることを決定させたのでした」

 

ぱちぱちぱち、と自分で手を叩きながら口でも言っているまゆりさん。

『決定させた』と言っている辺り、引退すると言っても発言権は落ちてない気がする。

 

クリスティーヌさんは小さく息を吐いてから、「そういうことになりました」と背筋を伸ばした。

 

「私はリンタローが家に帰れるならそうした方がいいと思う。まゆりとも仲良くしたいと思っているし、葛葉家が私を受け入れてくれるというのなら、とても有難く思います。だから、リンタロー。あとはアナタ次第なのよ」

 

やっとこれで最初に戻ってきたのか。

倫太郎さんは大きくため息をついてから顔を上げた。

 

「まゆり。お前は本当に、俺を許してくれるのか?」

 

「うん、倫太郎くんはまゆりをずっと助けようとしてくれていたんでしょ?ならお礼を言うのはまゆりの方なのです」

 

「クリスティーヌ。キミはそれで本当にいいのか?」

 

「まゆりさんが心を許せるのはアナタだけなのよ。それに私にはサーヤがいるわ」

 

小夜はその言葉に頷いていた。

倫太郎さんは、どうやら諦めがついたらしい。

まゆりさんに向けて再び頭を下げた。

 

「まゆり、今まですまなかった。これから、よろしく頼む」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

どうやらこれで一件落着したようだった。

 

 

「あ、お小夜さんも急いだ方がいいよ。雄利さんの跡継ぎがまだだからって、分家の人たちがお妾さんを送り込もうとしてたから」

 

ちょっ、こっちにも飛び火するのやめてください。

 

「えっ、はい。承知致しました」

 

承知したの!?何を?とは聞けないが、俺も頑張ろうと心の中で固く誓った。




・処罰について
回転説教する歴代の意思のエネルギー源も大部分が御前様(まゆり)だと思うので、生きている人たちがを説得できるなまゆりさんの意見がほぼ通ります。

・地位を譲る
次の当主は葛葉キョウジさんに決まったもよう。
アサイラムと根願寺との協力も含めて頑張ってほしいですね。どうか過労で死なないで。

・妾候補
四天王家(ライドウ家含む)からそれぞれ一人ずつ出そうとか画策しているもよう。
果たして逃げ切れるだろうか。

【ご挨拶】
これで一応本作品は完結となります。
長い間のお付き合いありがとうございました。
もしかしたら他のキャラの後日談などを付け足すかもしれません。
時間と気分が向いたなら、もしかしたら。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。


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