転生したらメガテン世界だった orz   作:天坂クリオ

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ちょっと短めです。
ストックが尽きたので、また書き溜めします。


葛葉小夜の憂鬱

【葛葉屋敷】

 

光の入らない座敷の中を、四隅に置かれた燭台がゆらゆらと照らしている。

座敷の中には六つの鏡台が、等間隔に二列、向かい合っている。

ふすまが開いて入ってきたのは、黒い和服姿の葛葉小夜だった。小夜は礼儀正しくふすまを閉めると、そのまま背筋を伸ばして座った。

閉じた座敷のどこからか風が吹き込んだように、燭台の火がゆらめいた。

小夜は両手をついて頭を下げる。

 

闇を映すだけだった鏡台に、人の姿が現れた。それぞれ色の違う、上品な着物を身につけた女たちが、一つの鏡に一人ずつ。

頭を下げたままの小夜には当然その顔は見えない。

そして最後に、座敷の奥の部屋へと続くふすまが、両側に開かれた。

奥まで光は届かず、何も見通せない。だが、鏡の中の女たちも小夜と同じように奥の部屋へと頭をさげ、それから正面へ向き直った。

 

『みなみな様おそろいになられましたようで。それでは、お小夜さんの報告会を始めましょう』

 

小夜に一番近い鏡台の中、薄黄の着物の女が言った。

 

『報告書、読ませていただきましたわ。とても面白い内容でした。霊感持ちだった子供(・・)がたった3日の修行で覚醒したとか、とてもとっぴ(・・・)で良かったですわ。わたくし、続きがとても気になりました』

 

『そうですわね、お小夜さんは想像力が豊かなのでしょう。物書きの才能もおありのようですね』

 

『そうそう、それにその子供が言った内容も荒唐無稽で、わたくしにはとても思いつかないお話でした。世界の終末が近いだなんて、とても恐ろしくて口に出せません』

 

『まったくもってその通りですわ』

 

『わたくしもそう思います』

 

鏡の中の女たちが口々に語る声だけが、暗い座敷の中に響く。

小夜は最初からずっと頭を下げたまま動いていなかった。なぜなら彼女には、発言するどころか顔を上げることすら許されていないからだ。

小夜の報告会だと銘打たれているが、実際はすでに提出された報告書について女たちが好き勝手に話すだけの場でしかない。

頭の上でいくつもの言葉が飛び交うなかで、小夜はじっとしているだけだった。

 

しばらくして、座敷の左奥の鏡に映った、濃紺の和服の女が手を叩いた。

 

『みなさま、お話が脱線していますわよ。報告会の続きをしませんこと?お小夜さんも学生の身分でお忙しいでしょうし、ね?』

 

その言葉で座敷は一瞬の静けさを取り戻す。

では、と話し始めたのは、やはり薄黄の着物の女だった。

 

『一番新しい報告書によれば、お小夜さんは件の子供に葛葉の秘術を漏らしたようですね。これは葛葉の一族としての自覚の足りない、勝手な行動だとは思いませんこと?』

 

『そうねえ、そうかもしれませんねえ』

 

『あら、教えたのはほんのさわり(・・・)程度のものみたいですわよ。そこまで目くじらを立てるほどではないと思いますわ』

 

『そうよね。お小夜さんでも、そのくらい分かりますよね?』

 

『ですが秘術をみだりに広められては、葛葉の品位というものに傷が付きかねません』

 

『ただの無知な子供なら、理解できない内容でしょう。それにあの程度で満足する子供であれば、とてもかわいいものだと思いませんか?』

 

『わたくしもそう思います。あれではほんの基本の基本、秘術などと大げさな物言いです』

 

『ですが件の子供には仲間がいるようではありませんか。あの、存続が怪しい神社の小せがれが率いているとか。もしもそこに流れたらと考えたらわたくし心配で……』

 

『落ち着きなさい。葛葉の女として見苦しいですよ。あの程度の呪法が流れても、葛葉としては何の痛痒もありません。むしろ、あれを件の子供が使えるようになった時の方が面白いと思いませんか?』

 

『あれを?平民の子供が?まさか、ありえませんわ』

 

『そうですわ。霊能力に目覚めたばかりの子供が、葛葉の呪法を使えるようになるわけありませんよ』

 

『いえいえ、ありえないと思うからこそ期待してしまうのです。そうなればきっと楽しいと』

 

『面白がっていい事ではございません。わたくしは、お小夜さんの越権行為は目に余るものがあると……』

 

『ですが……』

 

『ですが……』

 

女たちの話は止まらない。

話が行きつ戻りつしながら、結論らしい結論がでないまま迷走していく。

 

話の中で小夜を貶める言葉がいくつも出てくる。庇う言葉の端々にも、小夜を軽んじるニュアンスが混じる。

しかし小夜は何も言わない。相変わらず頭を下げたまま、ただじっとしているだけだった。

 

『……やはり色恋にうつつを抜かしているようではダメよね。お小夜さんもまだお若いのだから、道を誤らないよう気をつけなさい』

 

『その通りです。色恋のために己の任務を投げ出すなんて愚かなことですわ。なんと言ってもあなたの父親は……』

 

女の声を遮るように、ぱちり、と音がした。

それは扇子を閉じた時に鳴る音だと、その場の誰もが理解する。大きな音ではなかったが、あれこれ言い合う女たちが一斉に口をつぐんだ。

 

開かれた座敷の奥の部屋。燭台の光が届かない闇の中に、何者かの気配があった。

 

鏡の中の女たちは居住まいを正す。

小夜もまたわずかに緊張しながら、何が起こるのか耳を澄ませた。

 

『お小夜さん、頭を上げなさい』

 

それは若い女の声だった。それは妖艶な響きを秘めていた。それはその場の誰よりも力を持つ者の声だった。

声の持ち主は、葛葉御前と呼ばれている。葛葉一族前当主の一人娘であり、今の当主に次いで(時として当主よりも)発言権の高い女だった。

葛葉本殿の奥で暮らしていて、その顔を直接見た者の数は少ない。本殿での会合でも御簾の奥で静かに話を聞いていることが多かった。

 

小夜だけでなく、その場の女たちもまさか声を聞くことになるとは思っていなかった。

張り詰めた空気の中で、小夜が今宵初めて言葉を発する。

 

「はい」

 

小さく、だが芯のある返答をしながら正面を見た。

 

『お仕事、ご苦労様。突然の遠方への長期任務になってしまったけれど、体調にお変わりない?なら結構。報告書を読ませていただきましたが、葛葉の者としてしっかり頑張っているようですね』

 

「ありがたきお言葉です」

 

御前の声音は優しいもので、小夜は肩の力をわずかに抜いた。

 

『このごろ世の中が慌ただしくなってきていて皆さんピリピリしていらっしゃいますでしょう?せっかくお話できる機会ですもの、もっと和やかにしましょう。ね?』

 

御前の言葉に小夜がうなずく前に、薄黄の着物の女が言葉を挟んだ。

 

『ですが御前様。お小夜さんの行動はあまりにも軽率だとわたくしは思いますわ。きっと実績を得たいのでしょうが、平民の子供に秘術を教えるなんてとんでもありません。色恋に目を曇らせたに違いありませんわ』

 

薄黄の女の熱弁に、しかし誰も賛同しない。

周囲との温度の違いに女が気付いたところで、再びぱちりと扇が鳴った。

 

『わたくしは、和やかにしましょうと言いましたが、あなたはそれに異論がありますの?』

 

『ひっ、いえっ、あのっ……ありません』

 

女が鏡の中で頭を下げる。

御前はそれ以上追求せずに話を再開した。

 

『呪法の伝授の話が出ましたが、あの程度なら件の神社でも扱っているでしょう。騒ぐことではありません。それに、任務中の判断する権利はお小夜さんのものです。難しい問題についてはちゃんと稟議を上げているようですし、大丈夫ですよ。ね?』

 

「はい」

 

『というわけで、これからも今までと変わらず任務に励んでくださいな。皆さんもそれでよろしいですね?』

 

御前の言葉に、女たちはそれぞれ同意を示す。

話し合いが平和に終わりそうだと小さく息を吐いた小夜に、御前が声をかけた。

 

『ところでお小夜さん。それとは別に聞きたいことがあります』

 

「はい、なにかありますでしょうか」

 

『これはとても重要なことなんですが、その少年。イケメンですか?』

 

「えっ、イケメン?」

 

質問の意味を受け取れずに戸惑うが、人柄について聞かれたのだろうと見当をつけて答えを返す。

 

「彼はその、好感が持てる人物ではあります。私たちに敵意はなく、むしろ子供のような興味を持って接してくる、素直な人だと思います」

 

『なるほどなるほど。これからに期待、ということですね。ならばお小夜さん、その少年のことを、しっかりと見定めなさい。そしてあなたが良いと思ったなら、本家に招くことを許します』

 

『御前様、それは……』

 

薄黄の着物の女が言いかけるが、すぐに口をつぐんだ。

 

『お小夜さん、わかりましたか?』

 

「はい、その通りにいたします」

 

小夜が頭を下げると、御前は満足そうに笑った。

 

 

報告会が終わり、座敷を整えた小夜がふすまを開く。それを待ち構えていたかのように、老婆が廊下に立っていた。

 

「無事に終わったようじゃな。意地の悪いヤツラに、余計なことを言われんかったか?」

 

「大丈夫」

 

「そうか。ならよかったわい。窮屈な格好で肩が凝ったじゃろ。お茶を用意してあるから、ゆっくり話を聞かせてくれ」

 

「うん。おばあちゃん、ありがとう」

 

老婆は小夜の言葉に満足そうにうなずきながら、先に立って歩き出した。

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