箒ちゃんに転生してみた。   作:王子の犬

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 大変ご無沙汰しております。肩慣らしのため中編を執筆してみました。楽しんで頂けましたら幸いです。

 ※完結まで下書きを終えております。加筆修正しながらの投稿となります。どうぞよろしくお願いいたします。

 クズ束さん【上】は全3話です。


篠ノ之束はクズである。【上】
篠ノ之束はクズである。【上】(1)


 私には妹がひとりいた。

 記憶のなかの(彼女)は幼子であり、(むすめ)として咲き誇る前の少女であった。しかし、(むすめ)になった妹を知らない。

 なぜなら、私は若くして命を落としたのである。腐り落ち、微生物に分解されるだけの肉塊と化した。身体を焼かれて灰と煙になった。事象を認識し、現世の(ことわり)を解する脳髄が失われた。

 故に、私は現世から切り離され、停止したのだ。

 

 

 

 

 私は(まぶた)を開いた。私の瞳は再び現世の事象を解するようになっており、強い明かりを眩しいと感じていた。

 何度も瞬きし、眼球を上下左右に動かす。次に、鼻から息を吸い、口から吐こうと試みたのである。

 しかし、息苦しさを覚え、何度も咳き込んでいた。口腔内に大量の異物が詰めこまれているに違いない。身体を横向け、異物を吐きだす。地面に唾液などの分泌物が落下し、胃酸の匂いが鼻を突いた。嘔吐(えず)きながら、もう一度吐瀉物(としゃぶつ)を見やる。山菜やキノコといった山の(さち)であった。

 口の周りや頬、顔面が汚れている。拭おうとして顔に手をやった。

 この時になって初めて、みずからの手のひらが幼児の大きさにまで縮んでいる事実に気づいたのであった。

 

 

 

 

 ()()()()()、篠ノ之束は人間のクズである。

 姉は、かつての私であった。私はかつて【篠ノ之束】という名で呼ばれていた。だが、姉はかつての私と比べるに値しない(はなは)だ救いようのないクズであった。

 この身が【篠ノ之箒】だと認識してからずっと、姉のようになってはいけないと、両親から事あるごとに言い聞かせられてきた。

 姉は卑劣で薄情なオポチュニズム(投機主義)の信徒である。とてつもなく金にだらしなく、方々から借財しては湯水のごとく浪費していったのだ。

 5歳になった私は、母に呼ばれて食卓へと向かった。父と母が先に来ており、ふたりは並んで座っていた。

 私はいつものように姉の隣に座った。正面から両親を見やったとき、ただならぬ雰囲気を感じ取った。声を発してはいけないような気がして、じっと様子を窺ったのだ。

 今、篠ノ之束という女が椅子に座っている。彼女は先日誕生日を迎え、15歳になったばかりであった。美男美女である両親に似て、姉もまた外見だけは非常に整っている。美少女と表現しても差し支えないであろう。

 ちょうど反抗期のまっただ中にあって、両親と面と向かって話をするのも怒りを覚える年頃だ。

 しかし、姉は違った。よろしくない薬をキメて気持ちよくなっているらしい。食卓のうえで手を組んで口元を隠し、あたかも不敵な雰囲気を漂わせているつもりでいる。真剣な話し合いの場にもかかわらず、姉はとてもだらしない顔つきであった。

 姉の向かいに隣り合って座っていた両親は、目の前のクズと食卓の上に広げられた大量の紙束を見比べている。姉とは対照的に虚ろな表情(かお)だ。

 

「これは何だ……」

 

 父の声が微かに震えている。

 

「テヘペロ♪」

「束ちゃん! 真面目に答えて!!」

 

 母が怒りを露わにした。

 しかし、姉は悪びれない面持ちで舌をペロッと出しながら、

 

「借用書?」

 

 と口にした。

 

「いくらあるんだ」父が身体の震えを抑えながら()いた。

「ざっとニッポンの一般歳出額くらいだったかな? 確か!」

 

 母が首をかしげる。

 

100兆円と少し?」姉が付け足す。

「ひゃくちょう…………だって??」混乱した父が何度も瞬きしている。

「お父さんは真面目に話しているの! 茶化さないで!」

 

 姉はニヤニヤ笑ってから私を一瞥した。

 

「ホントホント! お姉ちゃん嘘つかなーい。天地神明(てんちしんめい)箒ちゃんに誓って! 本気に決まってんじゃん!!」

 

 またしても舌をペロッと出し、眼を丸く見開いて(おど)けたピエロみたいな顔になった。

 

「どうしても欲しいものがあってぇ、手に入れるのにお金が必要でぇ、こっそり神社や土地とか抵当に入れても全然足んなくてぇ、処女と内臓を売ったくらいじゃ足んなくてぇ」

「束ちゃん!!」

 

 母が怒りのあまり食卓を叩いた。

 何がおかしかったのだろうか。姉がへへへ、と笑い、懐から黒い塊を取り出した。

 両親の視線が机に置いた塊へと吸い込まれるのを見計らって、キラキラとした瞳で私を一瞥する。

 

「そ、それは……」

 

 父がどうにかして擦れた声を絞り出した。

 姉は満面の笑みを浮かべ、もったいぶるようにゆっくりとした口調になる。

 

()()()()()()()()

 

 姉が再生ボタンを押す。明るいはずの食卓には不相応な、男女の(ひそ)やかで(みだ)らな旋律が流れ出した。

 

「へへへ……町長さんが20万円くれたんだよぉ。……ケチだねぇ」

「束ちゃん!! あなたって子は!!!」母が激しく叫ぶ。

 

 母は立ち上がって姉の元に向かい、怒りにまかせて姉の頬を()とうとした。

 しかし、姉は笑いながら母の平手を難なく避け、ボイスレコーダーを片手で弄んだ。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。束さんはまだ処女だよーん」

 

 姉がニタニタと笑って続ける。

 

「土地とか家とか売り飛ばしちゃったけどぉ……生活費には困んないよーん。町長さんが払ってくれるもーん。へへへ、もしも束さんがこれ持ってさ、泣きながらお巡りさんのところに駆け込んだら……町長さん、どうなっちゃうのかなぁ? クラス委員のリサちゃんが転校しちゃうかもだけど、町長さんが悪いんだもんねぇ! アハハハ!!」

 

 とまあ、聴くに堪えないほどのクズである。

 父が紙束の一部をつかみ取り、内容を一瞥して顔をしかめる。【(ドル)】や【(ユーロ)】【(ポンド)】といった記号が大量のゼロとともに並んでいた。

 

「とーぜん、ニッポンだけでまかなえなかったからぁ、いろんな国からお金を借りちゃったんだ♪ ごーけいで100兆! 恨むんなら吹っかけてきたルクーゼンブルクを恨んでね! おとーさん!! おかーさん!!」

「外国から……こんなこと……ひとりでは……誰かに(そそのか)されて」父の顔は真っ青だ。

 

 突然、姉が私を指差した。

 

箒ちゃんがこうやると上手くいくよって、教えてくれたんだよ。全部教えてもらったとおりにやっただけなんだもーん!! 束ちゃん様にそんなアタマがあるわけないじゃーん!!!

 

 他人の痛みや不幸を楽しんでいるかのような言動。

 間近で聞いた母の顔が強ばる。腹を痛めた我が子が発したとは到底信じられなかったのだ。

 私と姉を交互に見つめるうちに、涙ぐんで自分の顔を両手で覆う。

 

「まだ5歳の妹のせいにするなんて、……このクズ!! うううう、わぁああああああ……」と声を上げて泣き出してしまった。

 

 そんな母の姿に、姉は手を打ちたたいて笑った。

 父は無言で立ち上がった。背を向け、無言のまま奥へと姿を消してしまった。

 

「嘘なんてついてないのにねぇ、大人は頭がカチンコチンでやんなっちゃうよねー」

 

 この姉はいったい何を思って言っているのであろうか?

 

 

 




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※過激な内容が含まれていますが、全体を通じて「アンチ・ヘイト」タグは不要であると判断しております。
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