箒ちゃんに転生してみた。   作:王子の犬

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白く輝く騎士(3):電話会談

 

 我が姉こと篠ノ之束は、人の風上に置けぬクズである。

 クズに付ける薬なしと言うが、姉なる存在を知ってからというもの、そのことを実感しない日はなかった。

 ()れど、姉は、姉なりの凸凹(でこぼこ)に歪んだ良心に基づいて行動していたのである。

 先ほどまでの緊張した表情(かお)つきはどこへ行ったのやら、頭の中でヨロシクない薬が(うごめ)いているのであろうか。

 

「ちなみにぃ、今ボタンを押してるのは転売ヤーのみなさんでーす!」姉が懐から黒い袋を取り出し、私にも見えるように振った。

 

 轟音と爆発音、蚊の羽音のように不気味で耳障りなサイレンが鳴っている。

 東京湾にはいくつもの光芒が差し込み、遠目にあったはずの光は指呼の間をおいて【白く輝く騎士】に切り刻まれ、爆煙を上げて海上へと散った。

 

「国会でISコア公正取引法が成立したらぁ、転売ヤーのみなさんを過去に遡及して訴訟を起こす予定だったんだけどぉ、ボタンを押す人が足りない! って泣きつかれたから、布仏さんのお孫さんにアイディアを出してもらったんだよねー」

 

 シリアや中国、アメリカ、ロシアなどの国にロボット掃除機を置いた結果、人が足りなくなったのだ。

 前回も人手不足で闇サイトを通じて人集めしたのではあるが、今回は日程が厳しかった。

 そこで、インフィニット・ストラトス発表前に先んじて小型蓄電システムを実用化した姉は、モバイル・バッテリーの補償条項に陥穽(かんせい)を設けたのである。

 

「1番重要なことは最初に書いてあったのに……大人はバカだねぇ」

 

 ただし、見出しの真下に【英語】と【日本語】の併記(へいき)であった。

 郵送での返品や販売サイトを通じて返品した場合は条項の記述がない。

 窓口で返品した場合のみ、見出しの真下に罰則規定が記されていたのだ。

 しかも、布仏家に従う【暗部】職員が最初のまとめブログを作り、情報を拡散させた。

 まとめブログに記載された情報を信じて実践し、高額な副収入を簡単に稼いで有頂天となった人々は、祭りに乗り遅れるなと言わんばかりに殺到した。

 返品による利益を繰り返し享受したあと、【暗部】職員の訪問を受け、眠らされる。目を覚ましたときには訓練(ブート)キャンプの中である。

 【白く輝く騎士】が腕を振るった。

 荷電粒子砲の光芒が闇夜を切り裂き、200キロメートル先まで接近していた通常弾頭型トライデントⅡを爆破消滅させた。

 この時点で【白く輝く騎士】は通常弾頭以外が混ざっていることに気づいた。

 破片弾頭型と呼ばれる、数千本ものタングステンロッドを搭載したものや、半径500メートルを焼きつくす燃料気化弾頭も含まれていたのである。

 姉にも常時連絡が行っているはずなのだが、まったく気にする素振りを見せない。

 私が姉の肩に触れたところ、姉はこう言った。

 

「箒ちゃんが気にすることじゃないよーん」

 

 姉によれば、【核・生物・化学弾頭以外ならおっけー】というフランクなやりとりだったらしい。

 米中露首脳は弾道ミサイル型潜水艦、すなわち原子力潜水艦に未練があったらしく、条件付きで自沈を承諾していた。インフィニット・ストラトスをSLBMで撃破できたならば、原子力潜水艦を自沈させなくともよいというものだ。

 アメリカ合衆国はオハイオ級10隻を投入。

 ロシアは太平洋艦隊に属するデルタⅢ型や、ドック入りしたK-84エカテリンブルクを除く稼働可能なすべてのデルタⅣ型、ボレイ型は2隻を投入していた。

 中華人民共和国は1隻のみ存在する夏級原子力潜水艦(長征6号)に加え、進水して間もない長征10号を含む晋級原子力潜水艦3隻を参加させていた。

 結果として、400基超もの弾道ミサイルが東京湾に降り注ぐことになったのである。

 【白く輝く騎士】が荷電粒子砲を連写し、ミサイルを破壊していく。

 着信があったのか、姉が白い携帯端末を懐から一瞬取り出して画面を確かめた。

 姉の私物ではなく、布仏真に持たされ内線機能付き携帯端末であった。

 

「もっしもーし! 真さんですかぁ?

 え? 束さんに電話がかかってきてるんですかぁ?

 外国から? ふむふむ、合衆国大統領ですかぁ。英語は苦手なんだけどぉ……それでも良いんですねっ♪」

 

 姉が壁際まで退いた。

 

「お電話かわりましたー。はい、大統領さんですかー。私、束ちゃん様と言ぃーまーす」

 

 姉が舌足らずな英会話を披露する。

 本当にアメリカ合衆国大統領と電話会談しているのであろうか。私は暇つぶしのブラフだと疑った。

 

「さっそく本題ですか。

 ……え? 沈めたくない? 潜水艦? こーしょー?

 でもぉ、約束しましたよねぇ。あんなお金がかかるもの何隻も持ってても無駄なんですからぁ、早く沈めちゃったほうが処分費が掛からないし、その方が次の大統領選で票が稼げるんじゃないですかねぇ」

 

 今、トライデントⅡを射出しているオハイオ級は現役艦艇であった。彼女(オハイオ級)があたかも役目を終え、死の床についた老婆のように言い放った。

 確かに退役した原子力潜水艦を解体廃棄するには高額な費用がかかる。沈めてしまえばお金は掛からない。言わんとするところは理解できるし、私もかつて似たようなことを口にしたことがある。

 

「やだやだ言われてもぉ、大統領さんは大人ですよねぇ。

 一度決めたことを覆すんですかぁ? 合衆国大統領と・あ・ろ・う・お方が?」

 

 姉が携帯端末の画面に手を触れた。

 

『………………が………………』

 

 受話音声だけスピーカーに切り替わった。

 

『……………………ロシアと中国が沈めたら、我が国も沈める』

「だって!」

 通話を終える瞬間、【○○○!】などと早口でまくし立てるのが聞こえた。

 怒りのあまり、受話器を地面に投げつけているであろう合衆国大統領の姿が目に浮かぶ。

 続いて中国の国家主席からも電話がかかってきた。

 内容はやはり【原潜沈めるの、やめにしない? ぐぬぬぬぬ】というものであった。

 また、合衆国大統領と同じく【アメリカとロシアが沈めたら、我が国も沈める】とも言っていた。

 だが、中国語が話せない姉は、マンガとアニメで得たわずかな知識を元に国家主席に向けてこう(のたま)った。

 

昏君(フンチュン)!!!*1」ブツッ…………通話が切れた。

 

 5分後にかかってきたロシア大統領の電話会談も同じであった。【ヤンキーと中国ガー】

 黄海やベーリング海から放たれた弾道ミサイルが急角度で降下する。

 【白く輝く騎士】がシールド・ドローンを線状に並べ、落着(らくちゃく)せんとする弾道ミサイルに向けて荷電粒子砲を連射して爆散させた。

 

「しっかたないなぁ」

 

 姉は一瞬の間をついて、【白く輝く騎士】へショートメッセージを送った。

 

【自沈確認必須】

【パスポート持ってない】

【足を地面に付けなければおっけー。海は陸じゃなーい】

【そういうものか?】

【束さんやることなすことエアヘッド天才間違いない】

 

 などと、なんとも緊張感に欠ける内容であった。

 

 

*1
暗愚な君主。暗君。




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