20時45分。
【白く輝く騎士】の手首が高速で回転し、大韓民国が不法占拠する竹島から飛来した玄武2Cを切り裂いた。
合計2341発の弾道ミサイルが海の藻屑となり、東京湾岸は破裂した断片と爆発の衝撃で甚大な被害を被ったが、事前に強制避難していたことで今のところ人的被害はなかった。
また、発射したものの東京湾に到達できなかった弾道ミサイルも相当数に上った。
日本海側およびベーリング海側から発射された弾道ミサイルは、切り離したブースター落下により家屋約500余棟が倒壊、800棟以上が半壊した。
集合住宅は100余棟が倒壊、200棟以上が半壊したとの報告が上がっている。
また小学校のプールや公民館などの公共の施設、砂防ダムなどにもブースター落下被害の報告があった。
被害の全容が判明するまでさらに多くの日数に要するであろう。
憶測が飛び交うなか、おそらく誰もが奇妙に思うはずだ。【人的被害ゼロ】であること、住民の強制避難が行われていたという事実。なぜ弾道ミサイルが東京湾に集中したのかを。
私は全弾撃ち終えたことを知っていた。
しかし、周囲はそうでなく不安げな表情が見える。
唯一姉だけが、しきりに掛かってくる電話にうんざりした様子であった。
「また電話かぁ……今日は落ち着きがないなぁ」
【アメリカ合衆国大統領】【ロシア大統領】【中華人民共和国国家主席】の文字が通知欄に並んでいる。
「もう箒ちゃんが話しちゃいなよ。私よりも箒ちゃんのほうがいろいろ知ってるんだし」
と言いつつ、姉は自分の携帯端末を触ってはメールボックスを確かめている。
「そろそろ返事が来てもおかしくないのにぃ……ううう」
「お姉ちゃん、出よっか?」私は気を利かせて申し出た。
姉は通話ボタンを押して、本当に携帯端末を私へ預けた。
「はい、もしもし。お電話かわりました。しのののです」
私が5歳児らしく舌足らずな口調で電話に出た。
通話中の相手はアメリカ合衆国大統領であった。
私は、前回の人生で身につけた語学力を披露する。
「はい、そうですか。乗員を退避させる猶予が欲しいということですね?
3日!? おかしいですね。
可能な限り早く乗員を退去させると海軍作戦部長が申していたと議事録に記載があります。
え? 中国とロシアが退去していないのに、アメリカだけが退去を始めるのはおかしいと……屁理屈だとはおもいませんか?」
御託を並べて自沈させないつもりなのだ。
私では平行線になると思い、携帯端末を姉に返して通話を代わってもらった。
「大統領さんですかぁ? お電話かわってしまいましたねぇ。
今ですねぇ、とっても立て込んでいましてぇ。
ニューヨークとワシントンにあるロボット掃除機の切替スイッチを押したところなんですよ。…………」
姉が携帯端末から耳を離して顔をしかめた。
どうやら別の意味に受け取られたようだ。
「そちらにインフィニット・ストラトスを向かわせましたよ。
自沈したかきちんと見て貰おうと思って。
では、もう5日ほど必要だなって?
アッハッハッハ!!
大統領さんは可笑しいことを仰いますねぇ、これがアメリカンジョークってやつですね。
アッハッハッハ!! おっかしい!!!」
姉が膝を叩いて大笑いを始める。
みんなが一斉に振り向いたが、姉だと分かってすぐに顔を元に戻した。
「さっきまでモニターに映っていた【白く輝く騎士】は特別速く動けるように作ってありましてぇ、じゅんこー速度でもマッハ20出るんだよーん!!!」
『バカなことを言うな!!!』
「箒ちゃんの言うとおりにしたんだもんねっ!
計画中のすべての極超音速兵器よりも余裕しゃくしゃく速く動かなければいけないよって箒ちゃんが言ってたから、そのとーりにしたんだもんっ!!!」
合衆国大統領が怒りを露わにするのはわからないでもないことだ。
元篠ノ之束であった私ですら、姉と話をしていると小馬鹿にされているような気分に陥るのだ。
前回の篠ノ之束は、最初のインフィニット・ストラトス【白騎士】でマッハ20を達成できなかった。
しかし、私の頭の中には10年分の研究成果と数多のIS開発者の汗と涙の結晶が詰まっていた。
【白く輝く騎士】の推進器は今から10年後、第4世代と呼ばれるISの設計を一部先取りしたのである。
特に小型な第1世代向けにダウンサイジングしたのは、残念ながら目の前のクズ姉であった。
「はぁ……やだやだ、おじさんは頭が硬くてイヤんなっちゃうねぇ、そういうおじさんはローガイって言うんですよぉ?
今すぐ20歳年下の副大統領さんに職務を代わってあげたらどうですかぁ?
大統領さんと話しても時間のムダなんでぇ」
『小娘が!!!』
大音量のあまり私のところまで聞こえた。
「1回切りまーす。頭を冷やして20分後にまた電話くださーい」
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