箒ちゃんに転生してみた。   作:王子の犬

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白く輝く騎士(5):VS アメリカ太平洋艦隊

 

 

「はぁ……そちらの言い分がわかりましたぁ。代理人との交渉を反故(ほご)にしたいってことですね?

 これがチャイナリスクなんですねぇ……束さん勉強になっちゃいました。

 …………ということで♪

 自治区と人工島においたロボット掃除機を一斉に起動しちゃいました♪

 環境美化にごきょーりょくお願いしまーす!!」

『啊啊啊啊啊啊!!!!!!』

 

 お手洗いから戻ったら男の悲鳴が聞こえた。

 何事かと思ったら、姉の端末からであった。

 ニュースでは米中露の最高指導者たちが日本国へ哀悼のメッセージを送っている。

 日本国首相が被害地域への早急な対応を行う旨を発表し、遺憾の念を表明した。

 だが、腹の底では来るべき改憲への弾みがつき、専守防衛の殻を脱ぎ捨てる日も近いと、笑いが止まらないのだろう。もちろん、そこはおくびにも出さぬのが政治家であった。

 世界中が悪質な茶番劇に付き合わされている真っ最中である。

 クズの口車に乗せられてミサイルを発射してしまった最高指導者たちは、躍起になって原子力潜水艦の延命に努めた。なかったことにしつつ戦力は温存したいという魂胆であったのだ。

 米中露首脳の思惑をよそに、姉は軍事力とその背景にさほど興味がない。

 元々学校の科目として政治情勢を暗記していただけであった。

 興味がないからこそ、いっそ原子力などという非効率な動力機関を断捨離した方がよい、無駄なモノにお金を払う意味はないのだという良心があった。

 インフィニット・ストラトスという便利な最先端技術から目を逸らし、古い機関にしがみつく行為を、殊更愚かしいものだと考えていたのである。

 

「ねぇねぇ箒ちゃん、あれってさぁ」

 

 お手洗から戻ってきた篝火ヒカルノが、ハンカチで手を拭きながら話しかけてきた。

 

「どうやら現実みたいですよ」

「だよねぇ……でさ、明日どうしよっかなーって」

 

 ヒカルノは自らの携帯端末を開いてみせた。

 明日は国会議事堂見学の予定であったが難しいようだ。

 

「日光なんかどうでしょうか。いかにも修学旅行感がありますよ」日光東照宮の上に弾道ミサイルが飛ばないよう配慮してあった。

「鬼怒川温泉も近いね。ありがとう」

 

 前回の篠ノ之束は中学の修学旅行には行かなかった。

 クラスメイトたちと時間を共有することが愚かしく無駄であると、あの頃は思っていたからであった。

 明日になればちーちゃんセンセ(織斑千冬)が合流するはず。

 私は時計に視線をやった。

 【21時】ちょうど。スカイツリー終業の時間だが、まだ外に出られる感じではなかった。

 

「もっしもーし! 大統領さんですかぁ、頭冷えましたかぁ?

 あのぉ、パクパクしか聞こえないんだけどぉ、きちんと言葉にしてもらわないと束ちゃん様わっかんないっでーす!」

 

 姉は、片手で自分の携帯端末を操り、大手動画投稿サイトを開いた。

 【白く輝く騎士】に随伴するドローンが撮影映像をライブ配信するアカウントへ飛び、画面いっぱいに最大化する。

 

「マッハ20って、さっき言ったじゃないですか!

 ハワイまで20分以内だから20分後に電話してくれって言ったんだよーん!!

 ウソだと思ってた?

 束ちゃん様は何時だって本気だよーん!!!」

 

 浮上したオハイオ級原子力潜水艦の1隻、そして彼女たちを守護する艦隊群(淑女たち)が映っている。

 大小含め50隻以上の水上艦艇が集結し、互いに連携し、すべての砲塔が【白く輝く騎士】に向けられている。一触即発の異様な緊張感に包まれていた。

 国際VHF(マリンバンド)から所属を誰何(すいか)する問いかけがしきりに発せられている。

 通知欄に【英語わからない】というショートメッセージが出現した。

 

「あのぉ大統領さんが自沈するように言ってくれたらぁ、こんなやりとりしなくともぉ済むんですよぉ。

 今すぐ沈めって言ってあげてくれませんかぁ?

 向こうもめーれー待ってると思うんですよぉ。

 え、それだけはできないって?

 さっきから言ってることがめちゃくちゃですよ、頭だいじょーぶ?

 副大統領さんと代わってくれませんか。

 大統領さんがストレスで発狂したからあなたが大統領ですって言って差し上げまーす」

 

 姉が合衆国大統領と繋がった携帯端末を耳から離した。

 意味不明な怒鳴り声が聞こえた。

 姉は、大きなため息を漏らしてから私を見やった。

 

「ふわぁっ……」

 

 眠気を感じ、私があくびをしたところであった。

 

「そうですかぁ、大統領さんはさっきの映像を見ても信じられないと仰るんですね?

 今、ハワイは深夜ですよねぇ、みなさん眠いと思うですよぉ。

 早く眠りにつかせてあげたほうがいいんじゃないですかねぇ」

 

 姉が片手でショートメッセージを送った。

 

 【全船舶へ探照灯照射】

 【?】

 

 ライブ配信ではサーチライトが艦隊群を捉えるところであった。

 

「大統領さん、今、光が当たったのわかりました?

 船って穴が空いたらブクブクーって沈んじゃいまーす。

 たいほーで威嚇してもインフィニット・ストラトスには意味ないでーす。

 今、この瞬間、既存の防空兵器は無駄になりましたー。

 今すぐ捨てたほーが安く付きますよ、ホントホント束さんうそつかなーい!!!

 そんなわけないって?

 未確認飛行物体を撃ち落としても文句言うんじゃないって?

 おやおや今どきユーエフオーですか。

 好きですよねぇ、お国柄だと思いますけどぉ、やっぱり病院行った方が良いと思いますよ、仕事のストレスで頭がくるくるぱーになっちゃってますねぇ。

 クスクスクス」

 

 姉が膝を叩いて笑った。

 人差し指て頭を小突いてクルクル回して手を開く。携帯端末へ再び口を近づけ、

 

「インフィニット・ストラトスに発砲したら沈んでもらいまーす!!」と言い放った。

 

 【撃ってきた】

 

 ショートメッセージとライブ配信の映像が明るくなったのは同時である。

 どうやら姉のひと言は大きな誤解を生んだようであった。

 

 

 

 

………………5分後………………

 

 

 

「大統領さん♪」

 

 姉がライブ配信を一瞥する。

 5分前まで防空火器から盛大に火箭(かせん)を撃ち上げていた合衆国海軍艦艇が1隻を除いてすべて沈黙している。

 【白く輝く騎士】が胸の前に差し伸べて手から、金属片がパラパラと海上へ落ちて沈んでいった。

 

「ねぇ、大統領さん♪ 返事がありませんよー生きてますかー」

 

 フレームレートの粗いアニメーションのように、【パ】と画面から【白く輝く騎士】が消え、3秒後には同じ姿勢で金属塊を掴んで宙に浮いていた。

 海面付近に待機したドローンの映像からスクリューだと判明したのである。

 

「あーあ、大統領さん♪

 浮かんでるだけのお船になっちゃいましたねぇ。

 潜水艦といっしょに沈めちゃいましょー♪」

 

 海軍艦艇というものは、静止状態から瞬時にマッハ20に移行する物体を想定して建造されてはいなかったのだ。 

 【白く輝く騎士】は瞬時にマッハ20まで加速し、瞬時に方向転換した。発砲中の艦艇の艦尾へ回りこみ、スクリューを()ぎ取った。

 これ見よがしにスクリューの残骸を掲げ、海に捨てるという行為を繰り返した。

 出撃していた水上戦力が戦闘不能となり、事実上の壊滅である。

 また深さ200メートル付近に潜航していたオハイオ級の一隻は、直上から水中速力600ノット(時速約1100km)で突っ込んできた【白く輝く騎士】に驚愕し、諦観の念とともに浮上した。

 また、既に浮上していたオハイオ級の背後に回り込んだところで、合衆国大統領が自沈命令を発したのである。

 

「次は中国さんですね」

 

 姉は素早く携帯端末に入力した。

 ショートメッセージを発して【白く輝く騎士】への指示を出す。

 ライブ配信のなかで、画面中央の【白く輝く騎士】がカメラに向けて指差した。

 顔にあたる部分へズームアップ。

 

 【発光信号:ニイイチンスラ(儞已經死了)*1

 

 すべてのドローンを量子化し、瞬時にマッハ20へ移行。

 流れゆく闇夜の星々。

 目的地は遼東半島最大の軍港【旅順】、日露戦争の舞台としても知られている。

 25分以内で到着する見込みであった。

 

 

 

*1
お前はもう死んでいる




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